兄貴の宝物庫 コメディ

頼れる兄貴肌の極道、竜士。 圧倒的な迫力と腕っ節で、敵味方問わず恐れられる彼だが…… 兄貴の部屋は、可愛いぬいぐるみで埋め尽くされていた! さらに彼は、極道を辞め、堅気になる決心を固める。 舎弟のテツは、竜士を引きとめるべく説得を試みるが……?
白石 謙悟 6 0 0 06/05
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第一稿

『兄貴の宝物庫』

登場人物

竜士(リュウジ)……敵味方問わず恐れられる極道の兄貴

テツ ……竜士の舎弟

組長 ……竜士、テツの所属する組の組 ...続きを読む
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『兄貴の宝物庫』

登場人物

竜士(リュウジ)……敵味方問わず恐れられる極道の兄貴

テツ ……竜士の舎弟

組長 ……竜士、テツの所属する組の組長



   明転
   舞台は竜士の自宅
   竜士とテツが向かい合って座っている
   部屋にはなぜか可愛いぬいぐるみや人形が所狭しと並べられている

テツ 「どういうことッスか、兄貴!」
竜士 「何度も言わせんな、テツ。俺は堅気になって、お天道さんに顔向けできる
    ような人生を歩むんだ」
テツ 「何、腑抜けたこと言ってんスか!組長の右腕とまで言われる兄貴が組抜け
    ちまったら、お先真っ暗ッスよ!」
竜士 「すまねぇ、だが、俺の意志は変わらねぇ」
テツ 「兄貴……!」
竜士 「俺はよう、極道にゃあ向いてねぇんだ」
テツ 「今更、何言ってんスか!そんなことないッスよ!」
竜士 「最近もな、考えちまうんだよ。こんな血で血を洗うような毎日、不毛だっ
    てな……」
テツ 「それが極道のさだめってやつッスよ!」
竜士 「俺ァ、これでも昔っから小心者でよう……。血が駄目なんだ」
テツ 「何でこの道入ったんスか!?」
竜士 「むさ苦しい舎弟の世話に明け暮れ、抗争続きで夜も眠れねぇ毎日……」
テツ 「むさ苦しい舎弟って、俺のことッスか!?」
竜士 「軽く鬱入りかけたよ……。そんな時、俺を救ってくれたのが……」

   ぬいぐるみの山の方へ移動する竜士

竜士 「こいつらだ」
テツ 「……今まであえてつっこまなかったッスけど、何なんスか、それ……」
竜士 「(一番上のぬいぐるみを取る)リラックマだ」
テツ 「名前を聞いてんじゃねぇッスよ!何でそんなもん集めてんのかって
    聞いてるんス!」
竜士 「そんなもんとは何だ、てめぇ!(テツの胸倉を掴む)」
テツ 「ひぃぃ!す、すんません!」
竜士 「(離す)俺のトメ吉を馬鹿にすると、タダじゃおかねぇぜ」
テツ 「トメ吉!?」
竜士 「ああ。こいつら全員、俺の大切な家族だ」
テツ 「兄貴!お願いだから目を覚ましてくだせぇ!どうしちまったんだ、
    アンタ!」
竜士 「どうもこうもねぇよ。俺はただ、こいつらに救われた。それだけだ」
テツ 「いや、全然わかんねぇッス!何があったんスか!?」
竜士 「俺がむさ苦しい舎弟と抗争で鬱になりかけていた時……うちに
    吾朗が遊びに来てよぉ」
テツ 「誰ッスか、吾朗って」
竜士 「近所のおばちゃんの息子だ。今年で7歳になる」
テツ 「7歳……!?7歳のガキんちょが、普通に……!?」
竜士 「吾朗には2つ下の妹がいてな。そいつが、ぬいぐるみを集めててよう」
テツ 「…………」
竜士 「落ち込んでた俺に……てめぇの大切なぬいぐるみ、譲ってくれたんだ
    ぜ……。健気じゃねぇか……。認めたくねぇけどよ……目から汗が
    出て来やがった。丸くなったもんだぜ、俺も……」
テツ 「なり過ぎッスよ!ただの近所の気の良いお兄ちゃんじゃねぇッスか!」
竜士 「いいんだ、これでいい……。このまま、近所の気の良いお兄ちゃんに
    なるのも……」
テツ 「ま、待ってくだせぇ!今、兄貴が組抜けちまったら、大変なことになります!
    わかるでしょ!?」
竜士 「買被り過ぎだぜ、テツよぉ……」
テツ 「そんなことないッス!兄貴は、俺の……いや、若ぇもん全員の憧れなんス!
    兄貴がいなくなっちまったら、組全体の士気に関わります!」
竜士 「テツ……」
テツ 「(土下座)頼むから、やめないでくだせぇ!今日の、これは……見なかった
    ことにしやすから!」
竜士 「……顔、上げろ。男が簡単に頭なんか下げんじゃねぇよ」
テツ 「俺ァ、自分が惚れた相手にゃ、頭の一つくらい下げます!
    この通りッス、兄貴!」

   土下座するテツを見つめる竜士

竜士 「おめぇの気持ちはよくわかった」
テツ 「兄貴!」
竜士 「確かに、若ぇもんに責任押し付けて逃げんのは仁義に欠けるな。
    悪ィ、目ェ覚めたぜ」
テツ 「じゃあ、残ってくれるんスね!」
竜士 「仕方ねぇけどよ……てめぇらが一人前になるまでは面倒見てやるよ」
テツ 「兄貴……!良かった、兄貴が極道の顔に戻ってる!
    これで一安心だ……」

   チャイムが鳴る

テツ 「……兄貴、気を付けてくだせぇ。最近、派手なドンパチやりました
    からね。他の組の奴が、御礼参りに来たのかも……」
竜士 「ああ、わかってる。返り討ちにしてやらぁ」

   慎重にドアの前まで移動する竜士
   ドアを開ける

竜士 「(満面の笑顔)おぉ、何だ、吾朗じゃねぇか!よく来たなぁ。
    ん?おぉう、春美も一緒に来たのか!おばちゃん元気か?
    この間貰った煮物、美味かったって言っといてくれ、うん。
    おぉ、上がってけ上がってけ!WiiでもPS3でも好きなだけ
    やってけ!」

   振り返る竜士
   テツが大きく腕で×印を作っている

竜士 「……あぁ〜、悪ィ。今日は客が来てんだった。忘れてた。ちょっと
    大事な話してんだよな。ごめんな、またいつでも来いよ。
    おばちゃんにもよろしく言っといてくれ。おう、またな!」

   子ども2人を笑顔で見送る竜士
   その様子をげんなりした表情で見ているテツ

テツ 「めっちゃ慕われてますね……」
竜士 「ん?あぁ、可愛い奴らだよ、ホント……」
テツ 「何か、複雑ッス。ものすごく」
竜士 「俺、堅気になったら、体育教師とかになりてぇな」
テツ 「あぁもう、想像できちゃうのが嫌だ!しっかりしてください、兄貴!
    昔の兄貴はもっとこう……泣く子も黙る修羅のような人でした!」
竜士 「パン屋とかも、いいな……」
テツ 「聞いてますか!?」
竜士 「あ?何だ?」
テツ 「いえ、もう何でもないッス!今日のことは全て忘れますから!」
竜士 「何言ってんだ、お前?別に忘れねぇでいいよ。これがありのままの俺
    なんだからな」
テツ 「あああ!何も聞こえねぇッスよ!俺の中の兄貴は、敵からも味方からも
    恐れられるマジやべぇ存在なんですから!」
竜士 「あぁっ、トメ吉!おめぇ、腕のところほつれてんじゃねぇか!」
テツ 「兄貴ィィィ!」
竜士 「テツ!おめぇ、裁縫とかできねぇのか!?」
テツ 「できませんよ、そんなもん!」
竜士 「裁縫道具は!」
テツ 「持ってるわけねぇでしょ!」
竜士 「この役立たずがぁぁぁ!」
テツ 「理不尽ーーー!」

   テツの胸倉を掴む竜士
   玄関のチャイムが鳴る

竜士 「チッ。おい、出て来いテツ。俺はトメ吉が心配だ」
テツ 「お、俺ですか!?わ、わかりやしたよ……」

   恐る恐るドアを開けるテツ
   組長が登場

テツ 「く、組長ォ!?どうしてここに……」
組長 「おう、テツか。竜士の奴はいるか?」
テツ 「あ〜……いるにはいるんスけど……」
組長 「邪魔するぜ」
テツ 「あっ、く、組長……!」
竜士 「親父……」
組長 「(部屋を見渡す)おい、竜士……てめぇ、何だこの有様は」
テツ 「組長、これには、深ぁい訳がありやして……」
竜士 「親父、頼みがある」
組長 「何だ?」
竜士 「近いうちに橋本組とでけぇドンパチがあるはずだ。それが済んだら、堅気
    として生きることを許してくれ」
テツ 「あ、兄貴!」
組長 「……今更、堅気になろうってのか?どういう風の吹き回しだ」
竜士 「勝手な言い分だってことはわかってる。けどな、俺は変わりてぇんだ」
組長 「変わりたいだぁ?」
竜士 「ああ。(ぬいぐるみを指す)こいつらみてぇに、人を笑顔にさせるような
    人間になりてぇ」
組長 「おめぇ、んな面して何抜かしてやがる!」
竜士 「面は関係ねぇだろ!」
組長 「竜士……おめぇ、少しばかり無責任じゃねぇか?組への恩を仇で返そうっての
    かよ」
テツ 「そ、そうッスよ!俺達、組にはすげぇ世話んなってるじゃねぇッスか!」
竜士 「確かに、組にも親父にも返しきれねぇ程の恩があるのもわかってる。
    タダじゃ抜けねぇよ。落とし前はつけるさ(懐に手を入れる)」
テツ 「ま、まさか兄貴……!(痛そうに自分の指を切り落とすジェスチャー)」
竜士 「(可愛らしいケータイストラップを取り出し)これで勘弁してくれ……」
組長 「何だこりゃあ」
竜士 「今の俺にとっちゃあ、こいつを失うことは……体の一部を失うのと同じくらい
    の苦痛だ……!」
テツ 「(言葉にならない様子)…………」

   ケータイストラップを受け取り、懐へしまう組長

組長 「一体何がお前をそうさせちまったんだ?竜士よ」
竜士 「(ぬいぐるみを指す)こいつらだ」
組長 「ずっと気になってたんだがよ、何なんだ、こりゃあ」
竜士 「こいつらを見てると、俺ァ、心から気が休まるんだ。こんなこと、今まで
    なかった。それで、考えたんだ。俺が今やってることは、何なのかってよ」
組長 「それが、関係あんのか?」
竜士 「俺がやってることは、誰かを不幸にしかしねぇ。誰も笑えねぇんだ」
テツ 「兄貴……」
組長 「それが極道ってもんだろうが!腑抜けたこと言ってんじゃねぇ!」
竜士 「親父……すまん。何を言われようと、俺の意志は変わらねぇ」
組長 「竜士……本気なんだな」
竜士 「ああ」
組長 「…………」

   無言で竜士に近づく組長
   竜士を庇うように、テツが立ちふさがる

竜士 「テツ……?」
テツ 「兄貴……。あんたは馬鹿だ。大馬鹿野郎だよ。こんなチャチなもんに
    惑わされやがって……」
竜士 「んだとコラァ!?」
テツ 「俺、本当は知ってたんスよ!」
竜士 「!?」
テツ 「兄貴さ、いつも辛そうな顔してんだもん。ドンパチやるときとか、喧嘩して
    相手殴る時とか」
竜士 「…………」
テツ 「心を鬼にしてたつもりでしょうけど、俺ァ気付いてました。だけど、いつも
    見なかったことにしてました」
竜士 「テツ、お前」
テツ 「だって、俺ん中の兄貴は、マジやべぇ存在なんですから。だから、認めたく
    なかったんス。認めちまったら、兄貴がどっか行っちまいそうで……。
    けど……」
竜士 「?」
テツ 「俺、やっぱ兄貴が大好きなんス!俺が……俺が、間違ってました!」
竜す 「…………!」
テツ 「男が簡単に頭下げちゃいけねぇんでしょ!?兄貴のそんな情けねぇ姿、見た
    くねぇ!最後までカッコいい兄貴のままで、夢に向かってください!」
竜士 「テツ……お前って奴は!」
テツ 「兄貴ィィィ!」

   抱き合う2人
   蚊帳の外の組長

組長 「えぇい、離れろ、むさ苦しい!」

   離れる2人

組長 「茶番は済んだな。それで、どうすんだ、竜士?」
竜士 「さっき言った通りだ。堅気になって、お天道さんに顔向けできるような
    人間になる」
テツ 「兄貴!俺も……俺も、お供します!」

   強い眼差しで組長を見る2人

組長 「……ったく、馬鹿どもが……。もう一度聞くぞ、本気なんだな?」
竜士・テツ 「おうッ!」

   緊迫した空気が流れる

組長 「……いいよ」

   バランスを崩す竜士とテツ

テツ 「あれぇ!?い、いいんスか!?」
組長 「それがよぉ、最近、橋本組の頭と仲良くなっちまってな。何だよ、あいつ
    話せばわかる奴じゃねぇか」
竜士 「杯を交わした……ってことか?」
組長 「ま、そういうこった。橋本組も加わって、正直うちは向かうところ敵なし
    ってわけよ。だから、うん、まぁ、いいよ」
テツ 「軽ッ!」
竜士 「(ぬいぐるみに向かい)トメ吉!与作!喜太郎!やったな!俺、精一杯
    頑張ってまともな人間になるからな!」
テツ 「あれ、兄貴、俺は?」
組長 「ところで竜士よ、おめぇ、堅気になって何するつもりだ?」
竜士 「体育教師かパン屋で悩んでる」
組長 「おめぇのパンなんざ誰も食わねぇよ。やめとけ」
竜士 「そんなもん、やってみなきゃわかんねぇだろうが!」
組長 「無理無理」
テツ 「兄貴、心配いらねぇッスよ!俺、こう見えて料理には自信ありますから!」
竜士 「テツ、てめぇぇぇ!俺の家族を踏んでんじゃねぇぇぇ!」

   テツにヘッドロックをかける竜士

テツ 「死ぬ!兄貴、絞まってます、マジで!」

   玄関のチャイムが鳴る
   静かになる3人

組長 「おい、客だぞ」
テツ 「もう身構えなくても平気ッスよね!」
竜士 「おう。ちょっと出てくらぁ」

   ドアを開ける竜士

竜士 「おぉっ、吾朗に春美じゃねぇか!あぁ、もう終わったからよ、大丈夫だ。
    よしよし、上がって……」

   竜士を突き飛ばす組長

竜士 「ぐほっ!?」
組長 「…………」
竜士 「お、親父。そいつらは、吾朗と春美っつって、近所の……」
組長 「(満面の笑み)はぁい、おじいちゃんじゃよ〜。ん?あぁ、このお兄ちゃん
    とは知り合いでなぁ。ほっほっほ、いやぁ、隠してたわけじゃないんじゃ
    よう」

   組長の突然の変わり身に唖然とする竜士とテツ

組長 「およよ、春美や、機嫌を直してくれんかのぅ。あ、そうじゃ、ええもんが
    あるぞい」

   懐から竜士のケータイストラップを取り出す組長

組長 「ほぅら、可愛いじゃろう?おじいちゃんからのプレゼントじゃぁ。
    ほっほっほっほ」

   竜士へサムズアップを送る組長
   顔を見合わせる竜士とテツ

竜士・テツ「……えええええ!?」

                           完

    

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