延命 ドラマ

一人暮らしの老人、竹下はある日アパートのゴミ捨て場で映画の脚本を見つける。隣人の映画監督  吉川が捨てたものだった。資金不足のため、撮影が中断していると知った竹下は資金を提供し、その代わりにラストをハッピーエンドにしてほしいと言う。それには事情があった。
吉田浩二 19 0 0 05/07
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第一稿

「延命」

竹下 茂(80) 無職。年金暮らし

吉川 良太(40)映画監督

医者

看護師

撮影スタッフ1

撮影スタッフ2






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「延命」

竹下 茂(80) 無職。年金暮らし

吉川 良太(40)映画監督

医者

看護師

撮影スタッフ1

撮影スタッフ2







〇草野荘外観(朝)
   老朽化した木造2階建てアパート。

〇同・ゴミ捨て場
   竹下 茂(80)がゴミ袋を持って
くる。台本が捨ててあるのに気付く。
   「向かい合うとき」というタイトル。
   「吉川」と名前が書いてある。

〇竹下の家・外の廊下(夜)
汚れた作業着を着た吉川 良太(40)が煙草を吸っている。
   竹下が出てくる。
竹下「こんばんは」
吉川「あっ、どうも」
竹下「これ、あんたの?」
   と、台本を見せる。
吉川「ええ」
竹下「捨ててあったんだが」
吉川「はあ」
竹下「もしかして俳優?」
吉川「いえ、監督です」
竹下「へえ、俺は昔、俳優をやってたんだ。
 久しぶりに家で飲まない?」
吉川「家ですか」
竹下「俺の奢りだ。入ってくれ」
吉川「その前に風呂入ってきていいですか。
 汗だくなんで」

〇竹下の家の中(夜)
   部屋の奥に仏壇があり、中年女性と若
   い男の遺影が置いてある。
   壁に古い映画スターのポスターが、何
   枚か貼ってある。
   猫が窓際で寝ている。
ちゃぶ台を挟んで竹下と吉川が座って
   いる。ちゃぶ台の上には鬼殺しや、カ
   ルパス、さきいかなどのおつまみ。
竹下「やってくれ」
吉川「鬼殺しですか。久々だな」
竹下「俺も若いのと飲むのは、久々だよ」
   と、笑う。
竹下「あの台本、あんたが書いたの」
吉川「ええ」
竹下「面白かったよ。特にあの、息子がバイ
 ク事故にあって、一命を取り留めるシーン」
吉川「ああ、そこがピークなんです」
竹下「やっぱそうか」
吉川「その手前で、資金がなくなりまして」
竹下「ほう」
吉川「制作は中止です」
竹下「‥‥‥」
吉川「竹下さんも映画出てたんですか」
竹下「ああ。戦争と人間とかね」
吉川「戦争と人間?」
竹下「知らないか。大ヒットしたんだけど。
 ゴジラ対ヘドラも出たよ」
吉川「あっ、それは知ってる。何の役?」
竹下「群衆の一人だけど」
吉川「エキストラか」
   と、呟く。
   ×   ×   ×
   ちゃぶ台の上はゴミがいっぱい溜って
   いる。
   竹下と吉川は酔っぱらって顔が真っ赤
   になっている。
吉川「あれ息子さん?ずいぶんイケメンです
 ね」
竹下「あいつも俳優だ。俺はずっと反対して
 たんだが」
×   ×   ×
   (フラッシュ)
   棺桶に横たわる息子の遺体にすがりつ
   き泣き叫んでいる竹下の妻。
   竹下はその近くで呆然と立っている。
   ×   ×   ×
   竹下は涙ぐんでいる。
吉川「どうしました?」
竹下「無理しすぎたんだな。朝帰りに事故っ
 てさ」
吉川「すみません。嫌なこと思い出させて」
竹下「いいよ、別に」
吉川「竹下さんは俳優は?」
竹下「食ってけなくてさ。運送屋に転職した
 んだ」
吉川「それで息子さんにも反対を?」
竹下「普通に勉強して、固い仕事をしろって
 な」
吉川「俺も逃げたことあるけど」
竹下「……逃げた?」
吉川「逃げたうえに、息子さんの夢を潰した」
竹下「おいおい。どうした」
吉川「ただの負け犬じゃない」
竹下「なんだと!失礼なこと言うな!」
吉川「気の毒だよな」
   吉川は吐きそうになり口を押える。
竹下「おい。ここで吐くなよ。吐くなら便所
 に行け」
吉川「くそっ。鬼殺しのせいだ‥‥‥失礼し
 ます」
   吉川はふらふらと出て行く。

〇病院外観

〇同・問診室
   竹下が医者と向き合って座り、レント
ゲン写真を見ている。
医者「肺全体に広がってますね。思ったより
 急だなあ」
竹下「‥‥‥あとどのくらい生きられます?」
医者「うーん。1年は無理かと」
竹下「そうですか」 
医者「延命措置をすれば、もっと延ばせます
 が」 

〇竹下の家の中
   ちゃぶ台の上に延命治療の同意書が置
   かれている。竹下はそれを破り捨て仏
   壇に向かう。
竹下「俺ももうすぐそっちに行く」
   猫がすり寄って来る。
竹下「どうしようかな、おまえは」

〇草野荘外観(朝)

〇同・吉川の家・玄関前
   ガラの悪い男が立っている。
男「吉川。いるんだろ、吉川!」
   と、ドアを叩いている。
   隣のドアから竹下が顔を出す。
竹下「静かにしてくんない」
男「この部屋の男、どこ行ったか知ってる
 か?」
竹下「さあね」
   男は舌打ちする。
男「ここで待たせてもらうわ」
竹下「いくら借りてんの」
男「あんたに言う必要ねーだろ」
竹下「俺からよく言って聞かせるから、少し
 待ってもらえる?」
男「あ?あんた親戚?」
   吉川が現れる。が、慌てて逃げる。
男「吉川!てめえ!」
   男は追いかけて行く。

〇竹下の家・外の廊下(夜)
   吉川が煙草を吸っている。
   片足にギブスをしている。
   袋を提げた竹下が来る。
竹下「あれ?足は」
吉川「この前は生意気言ってごめんなさい」
竹下「いいよ。それより足は?」
吉川「工事現場でやっちゃって」
竹下「‥‥‥。ちょっと話がある。いいかな」

〇竹下の部屋の中(夜)
   竹下と吉川が向かい合って座っている。
竹下「これを受け取ってほしい」
   と袋を差し出す。
   吉川は袋の中を見る。
吉川「200万?なんすかこれ?」
竹下「借金があるんだろ」
吉川「‥‥‥」
竹下「映画の撮影にも使って欲しいんだ」
吉川「いや、こんなの受け取れませんよ」
竹下「映画を完成させて欲しいんだ」
吉川「……なんで?」
竹下「息子はバイク事故で死んだ。後を追う
 ように妻は自殺した。何をしようがもうや
 り直せないんだ」
吉川「‥‥‥」
竹下「父親は、家族とよく向き合って理解に
 努めるべきだ。この映画のメッセージだ
 ろ?」
吉川「‥‥‥」
竹下「この通りだ」
   と頭を下げる。
竹下「その足じゃ、仕事もできないだろ」
   吉川は溜息を吐く。
吉川「わかりました。使わせてもらいます」
竹下「よかった。その代わり、俺が死んだら
 遺影と猫は預かってもらえないか。遺影は
 棺桶に」
吉川「はい」
竹下「あと、あさましいようだが」
吉川「はい?」
竹下「映画が完成したら、俺の名もクレジッ
 トに入れてほしい。竹下茂って。大きく頼
 む」
吉川「(笑って)わかりました」
竹下「最後に一つ。タバコはほどほどにな。
 俺みたいになるぞ」
   と笑う。

〇撮影現場(夜)
   家の中。夫婦がテーブルを挟んで向か
   い合っている。お互い真剣な表情。
   吉川が、近くに立っている。
吉川「夫婦が初めて相手を理解しようとする
 場面だ。そのつもりで演じて」

〇病院外観

〇同・病室
   やせ細った竹下がベッドに寝ている。
   吉川が来る。
竹下「吉川君」
吉川「お陰様で」
竹下「猫には餌はやってくれた?」
吉川「はい」
竹下「撮影は順調かい」
吉川「ええ」
竹下「ラストシーンだけど、変えられるかな」
吉川「え?」
竹下「ハッピーエンドにしてもらいたいんだ」
吉川「は?なんです。いきなり」
竹下「頼むよ」
吉川「俺の一存じゃ……。みんなにも相談し
 ないと」

〇撮影現場
   吉川が数人のスタッフと一緒に立って
   いる。
スタッフ1「爺さんのわがままでしょ。無理
 っすよ」
スタッフ2「台本通り、いきましょ」
吉川「なんとかならないかな」
 
〇病院外観(夜)

〇同・病室
   やせ細った竹下がベッドに寝ている。
竹下「和也‥‥‥ごめんな‥‥‥ごめんな」
   と呟いている。
   吉川と医者が来る。
竹下「和也?和也か?」
吉川「吉川ですよ」
竹下「あ、ああ。どうした」
吉川「申し訳ありません。資金がまた」
竹下「‥‥‥」
吉川「しばらく撮影は延期します」
竹下「あといくらくらい必要だ?」
吉川「30万はいかないかと」
竹下「30万?」
吉川「ええ」
竹下「‥‥‥。吉川君、俺の養子にならない
 か?」
吉川「え?」
竹下「年金があるんだ。先生、延命措置をす
 れば何か月かもちますよね?」
医者「数カ月はもちますけど。いいんです
 か?」
竹下「なんとかあと3カ月、生きさせてくだ
 さい」
吉川「なんでそんな」
竹下「お金を出す代わりに、俺の言う通りに
 ラストを変えて欲しい」
吉川「‥‥‥」
竹下「俺への供養だと思って」

〇同・病室(日替わり)
   医者や看護師が竹下を囲み、チューブ
   を挿入している。
看護師「痛かったら言って下さいね」
   竹下はうなづく。

〇試写室
   吉川や鈴木などがパイプ椅子に座り映
   画を見ている。
   エンドクレジットの最後に「撮影協力
   竹下 茂」と表示されている。
   試写室の電気がつく。
スタッフ1「(吉川に)やりましたね」
吉川「やったな」
   吉川はガッツポーズをする。

〇病室(夜)
   数々のチューブに繋がれ、骨と皮だけ
   になった竹下が寝ている。
   吉川が横に立って、手を握っている。
吉川「映画は完成しました。あなたにぜひ見
 てもらいたかった」
竹下「ラストは‥‥‥」
吉川「言う通りにしましたよ」
   竹下は薄目を開けて微笑んでいる。

〇竹下の幻想
   食卓について談笑している竹下と息子。
   妻が料理を持ってくる。
   
〇病室(夜)
   竹下が涙を流している。
竹下「和也‥‥‥紀子‥‥‥」
   吉川は横に立って、竹下の手を握って
   いる。

〇竹下の幻想
   映画のラストシーン。エンドクレジッ
   トが流れている。食卓を囲んで談笑す
   る竹下の家族。

〇墓場(朝)
   山間にある墓場。立派な墓が並んでい
   る。

〇同・墓場の奥
   奥の端に小さな墓があり、竹下家と表
   示されている。
   猫を抱いた、黒いスーツを着た吉川が、
   墓の前にDVDをそっと置き、手を合
   わせる。

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