花屋の憂鬱 コメディ

恋に目覚めて仕事が全く身に入らない椿。 とりあえず仕事してほしい松田。 花屋でアルバイトをする2人の店員の物語。
白石 謙悟 12 2 0 06/04
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第一稿

『花屋の憂鬱』

登場人物

椿…花屋でアルバイトをしている。自称、「花屋の椿」
松田…椿と同じ花屋でアルバイトをしている後輩

明転
花屋でアルバ ...続きを読む
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『花屋の憂鬱』

登場人物

椿…花屋でアルバイトをしている。自称、「花屋の椿」
松田…椿と同じ花屋でアルバイトをしている後輩

明転
花屋でアルバイトをしている男性二人。
椿が下手で一心不乱に花占いをしている。後ろで見ている松田

椿「好き…嫌い…好き…嫌い…」
松田「………」
椿「好き…嫌い…」
松「先輩、先輩」
椿「好き…嫌い…好き!!…あぁー!やっぱり俺は彼女のことをぉぉ!!」
松「最後おかしかったですよね、明らかに。茎のところ折ったでしょ」
椿「あああ…俺はどうすれば…」
松「先輩、いい加減に売り物の花使って花占いするのやめてください」
椿「おお、松田。聞いてくれ。俺の高鳴るハートビートの理由を」
松「もう何回も聞きましたよ。ってか、僕の話聞いてました?」
椿「ああ、売り物で花占いするなってだろ?いいんだよ、俺は特別なんだ。
  何年この店で働いてると思ってる。『花屋の椿』って呼ばれる程だ」
松「そういう問題じゃないですよ。店長に見つかったら何て言われるか」
椿「うるせええ!!今、俺はそれどころじゃないんだよ、ボケ!!」
松「…また例のあの人のことですか」
椿「そうだ、よくわかったな」
松「丸わかりですよ。それで今時花占いって…しかも男が」
椿「悪いかよ!ふん、何とでも言うがいいさ。俺の花占いは百発百中。
  やはり…俺は彼女のことを愛しているようだ。そして…彼女も然り」
松「強引だなぁ。どこからそんな根拠が」
椿「恋は盲目だな…。今の俺は、花屋の仕事が全く身に入らない」
松「いや、仕事してくださいよ。さっきから俺一人でやってるんですから」
椿「なぁ、松田…。俺はどうすればいいんだろう?
  どうすればこの高鳴る胸の鼓動を押さえられる?」
松「聞いちゃいねぇ…。アレですよね。先輩が一目惚れしたっていうその女性は、
  毎週水曜日のお昼頃にこの花屋を訪れてはあんたに天使と見紛うような
  笑顔を振りまいてくれるんでしたよね。
  俺、先輩とはこの時間でしかシフト被らないからその人のことは見たことない
  ですけど…」
椿「そうそう、そんなんだよ!もう水曜日が楽しみの何のって…。
  お前、よく覚えてるな。ま、まさか!お前もあの人のことを…!?」
松「何十回と聞きましたからね。嫌でも覚えましたよ」
椿「お花好きという理由で毎週ここに来ているらしいが…
  他に理由があると見ている」
松「何ですか?」
椿「俺に会いに来てるんだよ」
松「寝言は寝て言ってください」
椿「ひどいな、お前!!」
松「いいから、仕事してくださいよ」
椿「ふん、どうせお前は彼女いるんだろ!リア充め!爆発しろ!!」
松「あーもー、うるさいなぁ。関係ないでしょ」
椿「ほら、はぐらかしたー。やっぱりいるんだー。
  チューとかしたんだー」
松「小学生かッ!!」
椿「何、それとももっといけないことを…」
松「店長―、椿さん、サボってまーす」
椿「わああ!ちょ、やめろって!」
松「だったら真面目にやってください」
椿「わかったよ…やるって」

お客さんが来る。対応する松田

松「あ、いらっしゃいませ。どうぞ、ご自由にご覧になってください」

花占いを始める椿

椿「好き…嫌い…好き…」
松「いい加減にしろおおお!!(椿をどつく)」
椿「嫌い…ああ!!お前、嫌いで折れたぞ!嫌いで折れた!!
  どうしてくれるんだ!!」
松「お客さん来てるのに花占いしないでください!
  あっ、はい、すみません…。この人、ちょっと頭おかしいんで」
椿「おい、松田。俺の頭はおかしくない。
  正常にあの人のことばかり想っている」
松「ちょっと黙っててください」
椿「はい」
松「あっ、ありがとうございましたー。またのご来店を」
椿「………」
松「少しは接客してくださいよ…。若干、さっきのお客さん、先輩の方
  見て引いてましたよ」
椿「今の俺はあの人以外に接客するつもりはない」
松「何でクビにならないんだ、この人…」
椿「お前は後輩だろう。先輩の分まで働いて楽をさせてやるってのが筋じゃないのか」
松「古いですよ、そんな考え方は。いいから、ちゃんと働いてください。
  店番2人しかいないんですから」
椿「好き…嫌い…」
松「だから!花占いをやめろおおお!!」

花を奪い取る松田

椿「ああっ、返せよう!僕のお花!」
松「気持ち悪いです。…もう、そんなに好きだったら、さっさと告白しちゃえば
  いいじゃないですか」
椿「こ、告…!?いや、まだ早い。早まるな。彼女をオトす算段は立てている」
松「意外に策士なんですね。そういえば、その人の名前は?」
椿「ふんっ!お前なんかに彼女の情報を渡してなるものか!誰が敵か味方かわからない
  このご時世、彼女に関する外見的・内面的・その他諸々の特徴はミジンコたりとも
  お前に教えてやらん!!」
松「あー、そうですか。いいですよ、別に興味ないし」
椿「元気かなー、花子さん」
松「言ってるし」
椿「あの艶やかな長い黒髪。見る者全てを癒す笑顔。この店の花を全部集めたとしても
  彼女の美しさには及ばないな」
松「花子さんって言うんですか。トイレに住んでそうな名前ですね」
椿「失敬だぞ、貴様ァ!!…花好きなんだから、花子さんに決まってる」
松「あんたが勝手につけたのかよ!」
椿「『花屋の椿』の名にかけて、必ず彼女を幸せにしてみせる」
松「いい迷惑ですね」
椿「やかましいわ!」
松「それで、オトす算段って、具体的にどういう感じなんですか?」
椿「よくぞ聞いてくれた。細部に渡って説明してやろう」
松「いえ、別にいいですけど…」
椿「花言葉だよ」
松「花言葉?」
椿「お前、バラの花言葉を知っているか」
松「え、知りません」
椿「『あなたを愛しています』……だ」
松「へぇ…。…それで?」
椿「そういうことだ」
松「どういうこと!?」
椿「花言葉に乗せて、俺の気持ちを華麗に伝えるんだよ!
  どうだ、ロマンティックだろう!」
松「回りくどいなぁ。っていうか、ただのキザ野郎じゃないですか」
椿「お花好きの花子さんなら、きっと一発で気付いてくれるはずさ。俺の気持ちに」
松「だから、どこからくるんですか、その根拠のない自信は…」
椿「俺達の間にはもはや余計な言葉はいらない。真紅に燃えるバラが、
  全てを語ってくれる」
松「はいはい、上手くいくといいですね」

お客さんが来る。対応する松田

松「あ、いらっしゃいませー。どうぞ、ご自由に…」
椿「あああああッ!!!」
松「うおお!?何だよ!?あ、すみません!この人、ちょっと頭おかしいんで…」
椿「バラが…バラの花が…ない!」
松「え?ああ、丁度品切れみたいですね。あ、ありがとうございましたー。
  …ちょっと、またお客さんドン引きでしたよ!さっきからお客さん、まともに
  見てくれてませんよ」
椿「なんということだ…」
松「また入荷するまで待てばいいじゃないですか」
椿「俺は今週アタックするつもりなんだ!それまでに入荷しなかったらどうする!」
松「入荷してから告白すればいいじゃないですか」
椿「何が起こるかわからんだろうが!女心と秋の空っていうだろ」
松「別にあんたは想われてないだろ!っていうか、さっさと告白しないからでしょ。
  自業自得だ」
椿「ど、どうしよう、松田君!!」
松「え〜…。だから、普通に告白すれば…」
椿「お前…違うだろ」
松「え?」
椿「さっきから、簡単に告白しろ告白しろと連呼しているが…、その行為がどれ程
  重いことか、わかった上で言っているのか?」
松「何で俺、説教されてんの…?」
椿「これで全てが…今までの全てが決まるんだ。俺の作戦は完璧のはずだが、
  万が一ということもある。それを考えると、軽々しく実行していいものではない!
  俺と彼女の運命が決まるんだ。やはり、ここは作戦を練り直して…」
松「いいじゃないですか」
椿「何?」
松「好きな人に、好きって伝えるのは当然のことでしょう。何も悪いことじゃない」
椿「し、しかし…」
松「先輩、ヒヤシンスの花言葉を知ってますか」
椿「何だっけ…」
松「勝負、ですよ」
椿「勝負…」
松「そうです、勝負です。先輩も男だったら、逃げずに勝負しましょうよ。
  算段だの作戦だのはもうやめて、自分の気持ちに素直になればいいじゃないですか」
椿「松田…」
松「そういうもんじゃないですか?恋愛ってのは」
椿「松田…お前…。気持ち悪いな」
松「あんたにだけは言われたくねぇよ!!人がせっかくいいこと言ったのに、何ですか
  その言い草!?」
椿「(松田の真似をして)ヒヤシンスの花言葉を知ってますか…」
松「あんたもバラの花言葉がどうとか言ってたじゃねーか!すげぇムカつく!!」
椿「まぁまぁ、落ち着け。ありがとな、松田」
松「え…」
椿「お前のおかげで勇気が持てたよ。もう俺はバラには頼らない。
  自分自身の言葉を花子さんに伝える」
松「そうですか…。まったく、最初からそうしてくださいよ」
椿「迷惑かけたな!」
松「よし、じゃあ、解決したところでちゃんと働きましょうね。これ以上お客さん
  ビビらせてたら店長に殺されますよ、俺達」
椿「松田、頼みがある!」
松「今度はなんですか!?」
椿「告白の練習相手になってくれ!」
松「はぁ!?嫌ですよ!」
椿「いいじゃないか、減るもんじゃないし。ほら、シミュレーションは大事だろ?
  いきなりは緊張するんだよ!な、頼む!」
松「何で俺なんですか!他の人とやってくださいよ!」
椿「いないからお前に頼んでるんだろうが!お前以外の友達は、ここのお花達しか
  いないんだよ!」
松「寂しい人だな…。わかりました、やりますよ。やればいいんでしょ」
椿「そうこなくては。じゃあ、俺が花子さん役やるから」
松「逆だろ!!意味わかんねぇ!」
椿「(女っぽい口調で)こんにちは、椿君。今日もいい天気ね」
松「…こんにちは、花子さん。あの、俺、あなたに伝えたいことがあるんです」
椿「馬鹿野郎!!(松田をどつく)」
松「痛ぇ!?どうしろっていうんですか!?」
椿「早過ぎるよ!もっとこう…世間話とか絡ませつつ、アウトローに攻めていけ!」
松「実際やるのはあんたですからね?」
椿「よし、次はお前が花子さん役だ。いくぞ!」
松「……ごきげんよう、椿君(棒読み)」
椿「結婚してください」
松「いやいやいや、あり得ないでしょ。ギャグですか?ギャグでやってるんですか?」
椿「頭の中真っ白になって、最後の言葉しか出なかった…」
松「プロポーズするつもりかよ!早過ぎるでしょ!」
椿「先手必勝」
松「言ってること滅茶苦茶だ、この人…」
椿「いける。いける気がしてきた。春風が俺を後押ししてくれている。
  花達も俺を応援してくれているぞ!!」
松「何をもっていけると思ってるんですか…。まぁいいや、この際だから
  俺も応援しますよ」
椿「松田…。お前、実はいい奴だな」
椿「仕事に支障をきたしますからね、このままじゃ。…ん?」

店長が呼んでいる。それに気付く椿と松田

松「…店長、呼んでますね…。なんだろ」
椿「お前行ってこい」
松「え、僕ですか?じゃあ、店番任せますよ」
椿「任せておけ」
松「限りなく不安だ。真面目にやってくださいよ」
椿「大丈夫だ。俺は真面目に花子さんのことを愛している」
松「聞いてねーよ。やべ、じゃあ行ってきます!」

松田がハケる

椿「さて、と。次はどの花で占いをしようか…」

花を探している椿。そこへお客さんがやってくる

椿「ん、客か…。いらっしゃーせー…。ん…?あ、あなたは!?」

動揺しまくる椿

椿「は、花子さん!?なぜ今日、ここに…。いつも水曜日に来てくださってるのに…。
  い、いや、丁度いいです!私は、あなたに伝えたいことがあります。
  あの、実は!私は、あなたのことが…!」

松田が戻ってくる

松「あれ?ユリコじゃん!何、花買いに来たの?」
椿「!?」
松「ああ、先輩。こいつ、俺の彼女のユリコです」
椿「……………はい?」

暗転

―完―

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