イイヒト、ワルイヒト 舞台

“僕は学生時代、人を殺した事があります。 今は社会に出て、社会人として働いています。 今もあの事件を知る人たちは僕をこう言います。 「人の皮を被った悪魔だ」 僕があの事件の犯人だと知らない人たちはこう言います。 「彼は人格者だ」” 印象の違いで自分の生き方も、他人に求める物も変わってくる。 自分を善人に見せたいから誰かを必要以上に悪人に仕立て上げる。 奥深く、薄汚く眠っている人間の本能のままでの他人の見方を描いた物語。
金子賢太朗 16 0 0 05/23
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第一稿

小野塚清二…24歳。14歳の頃、空き地で知り合った少年、鎌田俊一を殺害。少年院での生活や精神病棟での隔離生活を経て、現在は金属工場に勤務している。殺人で快楽を得ていたが、これがやが ...続きを読む
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小野塚清二…24歳。14歳の頃、空き地で知り合った少年、鎌田俊一を殺害。少年院での生活や精神病棟での隔離生活を経て、現在は金属工場に勤務している。殺人で快楽を得ていたが、これがやがて社会への復讐を目的にしたものに変わる。

陣間優子…23歳。小野塚と同じ金属工場に勤める。優しさを見せる小野塚に惚れ、やがて二人は恋仲に。名前の通り優しさの塊であり、それが仇となって痛い目に遭う事が多い。

仲条正幸…24歳。小野塚と同じ金属工場に勤める。シスコンで妹の莉桜の事が命よりも大事だと思っており、莉桜の言う事ならなんでも聞いてしまう。

仲条莉桜…22歳。小野塚と同じ金属工場に勤める。兄の正幸から溺愛されているので彼をいいように扱っている。優子と同じく小野塚に惚れており、優子の事を邪魔に思っている。

津元直樹…20歳。小野塚と同じ金属工場に勤める。先輩の小野塚を慕っている。女好きで隙あらば手に入れようとしているが、彼女の鮎美がいる。あまり賢くない。

沢島敏夫…55歳。小野塚達の勤める金属工場の工場長。居場所のない人たちを積極的に雇って面倒を見ている。従業員を家族だと思っており、性格はおおらか。

鎌田俊一…当時12歳。小野塚の近所に住んでいた小学生。小野塚の好奇心により惨殺されてしまう。人懐っこく、話しかけてきた小野塚に対しても友達の様に接した。

鎌田咲子…45歳。俊一の母。息子の俊一が殺されてから10年経った今でも傷は癒えず、精神が壊れてしまっている。その後、人形を俊一に見立てて肌身離さず持っている。

鎌田宗一…47歳。俊一の父。俊一が殺され、妻は壊され、マスコミからある事ない事を晒された経験があり、家庭は崩壊寸前。小野塚には今でも強い怨みを抱いている。

田村明子…31歳。嘗て保護観察と言う名目で小野塚と同居していた法務省の女性。今でも小野塚を気にかけており、個人的に連絡を取っている。面倒見が良い。

明津淳樹…33歳。「 実話ブッキー」という雑誌の記者。「 面白そうだから」という理由で小野塚が起こした事件のその後を追いかけ始める。礼儀がなっておらず、誰に対しても不躾な取材を行う。

小野塚智志…53歳。小野塚の父。児童殺人の犯人が自分の息子だと知っている人間やマスコミから非難を浴び、そのせいで妻が自殺してしまう。現在は藁にもすがる思いで神父の元に通い詰めている。

陣間鮎美…19歳。優子の妹。両親がおらず、優子に面倒を見てもらいながら生きてきた。それ故に優子に対して何かをしてもらって当たり前と言う考えが捨てられずに傍若無人に振る舞う。

神父…人間は“善”で形成されていると謳っており、どんな悪人も憎まない。変わり者であり、優子を未来のシスターだと信じて彼女をしつこく勧誘する。実は小野塚に殺された子供の兄。

               ※
M0、FO
 明転
 小野塚が紙に何かを書いている
 紙に書いてる内容を声に出して復唱している

小野塚「 さあゲームの始まりです。愚鈍な警察諸君。ボクを止めてみたまえ。ボクは殺しが愉快でたまらない。人の死が見たくて見たくてしょうがない。汚い野菜共には死の制裁を。積年の大怨に流血の裁きを」

 小野塚、書いた文章をじっと見つめ、その紙で紙飛行機を作って飛ばす
 紙飛行機が落ちると俊一が出てきて紙飛行機を拾う
 その姿を見た小野塚は手袋をして俊一に近づく

俊一「 はい」

 俊一は紙飛行機を小野塚に渡そうとする
 小野塚は受け取ると見せかけて俊一の首を絞める
 首を絞めた瞬間に笑い声のSE

 現代に戻る
 小野塚は家でバラエティ番組を見ている
 ドアが開き、法務省の田村が買い物袋を持って入ってくる

田村「 ただいま」
小野塚「 お帰りなさい」
田村「 ごめんね、遅くなっちゃって。お腹空いたでしょ?ご飯すぐ作るから」
小野塚「 どうしたんですか?いつも遅い時は買ってきたもので済ますのに」
田村「 私があなたとここで食べる最後の晩御飯だもん。とびっきりのご馳走作るわよ」
小野塚「 ご馳走ですか」
田村「 ちょっと時間かかるけど、待った甲斐があったって思える物作るからね」

 田村、ジャケットを脱ぎ料理の用意をする

小野塚「 田村さん」
田村「 なに?」
小野塚「 田村さんは、怖くなかったんですか?僕と一緒に過ごすのが」
田村「 …そうね……私は、小野塚くんと過ごしたこの期間で色んな発見ができたわ。私の知らない世界を知れたというか…貴重な時間だったと思ってる。正直ね、最初は怖かったわよ。でも一緒に過ごしてくうちに私はあなたに対して偏見を抱きすぎてたんだなって思うわ。あなたは道を踏み外してしまったけど、それ以外は普通の男の子なのよね」
小野塚「 …普通の男の子、ですか」
田村「 …気に障ったなら、ごめんなさい」
小野塚「 いえ、そういうわけではないんですよ。田村さんから見た僕は、普通なんだなって思っただけです。田村さんは優しいですね。お仕事なのに、ちゃんと僕を同居人として扱ってくれるんだから」
田村「 短い期間でも家族みたいなものだし、私からすればルームシェアしてるみたいで新鮮な感覚だったわ。家よりも居心地がよかったかも。時々仕事だって事を忘れる時があったもん」
小野塚「 普段は実家なんでしたっけ?」
田村「 そう。大人になってから親と一緒に住むのはなかなかめんどくさいのよ」
小野塚「 その話、詳しく聞きたいですね」
田村「 いいわよ。でもその前に、ご飯作るわね」

 Mイン。場転
 田村ははけ、小野塚は作業服に着替える
 津元が出てくる。
 朝の風景

津元「 てな感じでね、笑えるくらい当たんなくて結局昨日8万負けたんすよー」
小野塚「 金なら貸さないぞ」
津元「 さすがに俺もそこまで堕ちてないっすよー今日終わったらリベンジに行くんすけど小野塚さんも行きましょうよ」
小野塚「 だから俺はそういうのやらないんだって」
津元「 いいじゃないすか、俺がやり方教えますよ」

 正幸と莉桜が来る

莉桜「 おはようございまーす」
津元「 おはざーす」
小野塚「 今日も兄妹仲良く出勤か」
正幸「 文句あんのかコラ」
莉桜「 兄貴に言ってやってくださいよ。この間カップルに間違われたんですよ」
正幸「 え?ダメなの!?」
莉桜「 だって兄妹じゃん」
正幸「 いやそうだけど!でもカップルに間違われるくらい仲睦まじいって事だからそれいい事じゃん!」
莉桜「 いや普通にハズいから」
正幸「 照れんなよ」
莉桜「 ポジティブか!」
津元「 本当仲いいっすよねー…羨ましいっすわ」
正幸「 おい津元、てめえ莉桜に手出したらぶっ殺すからな」
津元「 いや、そんな事しないっすよ!絶対しないから安心してくださいよ!」
正幸「 てめえもだよ小野塚。わかってんだろうな」
莉桜「 兄貴やめてよ」
正幸「 ごめんな、怖かったよな」

 正幸、莉桜の頭をなでるが莉桜はものすごく嫌そうな顔をしている

津元「 飼い慣らされてる…」

 工場長の沢島と新人の優子が来る

沢島「 おはよう!」
全員「 おはようございます!」
沢島「 さ、朝礼を始めるぞ。えーこの度、我が沢島貴金属工場に新しい仲間が加わることになった!陣間優子さんだ!」
優子「 陣間優子です、宜しくお願いします」

 全員、各々のトーンで「 お願いします」という

沢島「 陣間さんは工場での勤務は初めてという事なので、皆でしっかりサポートしてくれ!」
全員「 はい!」
沢島「 さ、ではラジオ体操を始めよう!」

 場転
 ボックス等々が動いていく
 動かす人間と仕事をする人間で都度別れていきながら工場での一日を場転中に表 していく
 優子は小野塚と津元に仕事を教わりながら不慣れながらも業務を進めていく

 夕方

沢島「 では皆、今日も一日お疲れ様でした!」
全員「 お疲れ様でした!」

 各々、帰り支度をする
 津元が優子に話しかける

津元「 今日はお疲れ様!どう?少し慣れて来た?」
小野塚「 今日が初日なんだから慣れるわけないだろ」
優子「 すみません、わからない事だらけで…」
津元「 最初はそんなもんだよ。それに俺に比べりゃまだマシだよ。俺なんて初日に機械止めちゃって正幸さんにすげぇ怒られたもん」
小野塚「 あの時お前この世の終わりみたいな顔してたもんな」
津元「 いやマジでビビりましたね。工場長が励ましてくれなかったら俺辞めてましたよ」
優子「 正幸さんって、ずっと妹さんの傍にいた人ですか?」
津元「 そうそう!あんな怖そうな顔してシスコンなんだもん、ウケるよな!」

 正幸が出てくる

正幸「 なんか言ったか」
津元「 何も言ってません!」
正幸「 そうか空耳か」
小野塚「 シスコン髭野郎」
正幸「 あぁ!?」
莉桜「 兄貴やめてよ」
正幸「 ごめんな、怖かったよな」

 正幸、はける

優子「 皆さん仲いいんですね」
小野塚「 そうかな?」
津元「 これだけバカなやり取りできるって事はそうかもしれないっすよ。俺、この工場居心地いいっすもん」
優子「 なんか羨ましいです。私、こういう風に気軽に話せる人って周りにいないから…」
津元「 そうなの?かわいいから彼氏とかいそうだけど」
優子「 そんな!彼氏なんていないですよ」
津元「 またまたーそんなウソついちゃって」
小野塚「 その辺にしとけ津元」

 沢島が来る

沢島「 なんだ皆まだいたのか。もう閉めるから早く帰りなさい」
津元「 あ、はーい!」

 皆、バタバタと出て行く
 沢島が最終確認をして工場を閉めようとすると小野塚が戻ってくる

小野塚「 あ、工場長すいません」
沢島「 うわ!びっくりした」
小野塚「 スマホ忘れちゃって」
沢島「 え?早めに頼むよ」

 小野塚がスマホを見つけると莉桜が入ってくる

莉桜「 あ、よかった!まだ開いてた…あ」

 莉桜が小野塚に気付く

沢島「 なんだ君もか」
小野塚「 あれ、シスコン野郎と帰ったんじゃなかったの?」
莉桜「 いや、その、忘れ物しちゃって…」
沢島「 2人とも早く探して!私この後家族で外食なんだから!」
小野塚「 ほら、早く探しなよ」
莉桜「 …どこに置いたか忘れたので一緒に探してくれませんか?」
小野塚「 え?いいけど」

 莉桜、小野塚に接近

莉桜「 お願いしますね」
小野塚「 あ、ああ」
沢島「 いや、あの、閉めないと、家族で、ご飯…」

 沢島がうにゃうにゃ言い始めると場転

 外
 神父が何かを探している
 優子が出てくる

優子「 あの、よかったら私も手伝いましょうか?」
神父「 あ、すみません…この辺に落としちゃって」
優子「 何をですか?」
神父「 白血球」
優子「 え、何探してるんですか」
神父「 …おぉ~…」
優子「 …なんですか」
神父「 あなたのツッコミは優しさが溢れていますね」
優子「 …はい?」
神父「 その証拠に、ツッコむ際に少々迷いが生じましたね。きっとあなたは混じりっ気のない立派な人間なのかと存じます」
優子「 …?」
神父「 それに、ツッコミだけではございません。探し物をしている私に対して協力する姿勢も見せてくれました。私の教えがなくとも、あなたなら立派に人生を全うできるでしょう。そうだ、私と一緒に悪の心に苛まされてる者たちを救ってくれませんか?あなたならきっとできるはずです」
優子「 いや、その、遠慮しておきます」
神父「 あなたの協力が必要なのです!あ、ちなみに見てもらったらわかる通り私は神父です。なのであなたは修道女、つまりシスターになるわけです」
優子「 いや、私やるなんて言ってないので…」
神父「 なんでですか!いいじゃないですかー!」

 神父が駄々をこねていると小野塚と莉桜が来る

小野塚「 あれ?陣間さん?」
優子「 あ、小野塚さん助けて下さい。変な人がいて」
神父「 変じゃないもん!私は人々を救う正義の神父で…え?」

 神父、小野塚を見て固まる

小野塚「 あの…なにか?」
神父「 …いつか、あなたの事もお救いしますからね。大丈夫。あなたにもきっとまだ、人の心は残っているはずです」

 神父、祈りをささげてはける

莉桜「 …え、なにあいつ気持ち悪」
優子「 あの、ありがとうございました」
小野塚「 いや、俺何もしてないけど」
優子「 でも、助かりました。何かお礼させてください」
小野塚「 いや、いいよ」
優子「 でも…何かしないと私の気が済まなくて」
小野塚「 だからいいって、そんなの気に」
莉桜「 小野塚さんがいいって言ってんだからさ、しつこいんだよあんた」
優子「 …すみませんでした。失礼します」

 優子、はける

小野塚「 そんな言い方しなくても…」
莉桜「 いいんですよ、これくらい言ってやんないと」
小野塚「 …そういうもんなのかな」
莉桜「 それより、早くお店入りましょ」
小野塚「 本当にいいのか?あいつにバレたらめんどくさくなるぞ」
莉桜「 女の店員に友達のフリしてもらうんで大丈夫ですよ」
小野塚「 そう」
莉桜「 多分この辺なんですけど…」

 莉桜、スマホで店の場所を調べる

莉桜「 えーと…あ、ここですね」

 小野塚、莉桜、はける

 場転、優子の家
 鮎美がスマホをいじりながら出てくる
 ドアの開く音がして優子が帰ってくる

優子「 ただいま」
鮎美「 あ、お姉ちゃんお帰りー!待ってたよー」
優子「 ごめんね、今ご飯作るからね」
鮎美「 ご飯いらないからお金ちょうだいよ」
優子「 え?」
鮎美「 彼氏が3万盗まれたみたいで困ってるから助けてあげたくて」
優子「 でも…この間バイト代入ったって言ってたじゃない」
鮎美「 使っちゃってもうないんだよ」
優子「 そんな…私も余裕があるわけじゃないから我慢してほしいな…」
鮎美「 はぁ?彼氏の事見捨てろって言うの?本当お姉ちゃん冷たいよね。だから友達できないんだよ」
優子「 …」
鮎美「 かわいい妹が困ってるのに、がっかりだよ」

 優子、財布から3万を出す

優子「 …今月はこれで最後にしてね」

 鮎美、3万を乱暴に受け取る

鮎美「 あるなら最初から出してよね」

 鮎美、はけようとする

優子「 鮎美、ご飯は?」
鮎美「 いらないってさっき言ったじゃん。彼氏と食べてくるから」

 鮎美、はける
 優子にサス、独白

優子「 私は時々、自分が生きている意味を自分に問う。だけどその答えはここ数年で見失ってしまった。唯一人の身内にさえも萎縮して、安らぎの場所はどこにもない。亡くなった親の代わりに妹を育てる事が私の役目であったのだが、年月が過ぎ去っていく中で妹は変わっていってしまった。妹はどこで世界を見る目が変わったのだろう。妹には世界が何色に見えるのだろう。今の私は、何色にも見えない」

 もう一つサスがつく

小野塚「 ボクがわざわざ世間の注目を集めたのは、今までも、そしてこれからも透明な存在であり続けるボクを、せめてあなた達の空想の中でだけでも実在の人間として認めて頂きたいのである。それと同時に、透明な存在であるボクを造り出した義務教育と、義務教育を生み出した社会への復讐も忘れてはいない。だが単に復讐するだけなら、今まで背負っていた重荷を下ろすだけで、何も得ることができない」

 優子が振り向くとそこにいたのは小野塚
 優子は小野塚に助けを求めるような目で見るが小野塚は優子の方に目線が行ってな
 い

智志「 清二」

 智志の声でサスが戻る
 回想、小野塚が逮捕される1か月前
 小野塚の父、智志がいる
 優子ははける
 智志はどこかよそよそしい

智志「 その…親子同士で話をしようじゃないか、母さんお茶持って来てくれ」
母( 袖声)「 ごめんなさい、洗い物するから自分で持って行ってください」
智志「 なんだそうか、しょうがないなぁ」

 智志、一度はけて湯呑を二つ持ってくる

智志「 ほれ」

 智志、小野塚にお茶を出した後に自分のお茶を飲む

小野塚「 …」
智志「 …あのな、誤解しないでほしいんだが、父さんも母さんもお前を責めるつもりはないんだぞ。ただその…何故、同級生の子を殴ってしまったんだ?」
小野塚「 …この前虎川台で通り魔事件があったでしょ?あの犯人が俺なんじゃないかって言ってきたから」
智志「 …その子も、冗談で言ったんじゃないかな」
小野塚「 冗談でも言っていい事と悪い事があるでしょ。俺にはどうしても許せなかったんだ」
智志「 それにしたって、なにも歯が折れるまで殴る事は…」
小野塚「 …そうだね」
智志「 まぁ、学校を休んでる間に気持ちをリフレッシュしてくれればいいんだがな、ははっ」
小野塚「 …」
智志「 何も学べるのは学校だけではないからな。勉学は学べても人生を学ぶまでにはいかないから、この休みの間に色々な世界を見ていくといいさ。そうだ、明日バイクで遠出するか。後ろ乗せてやるから…」
小野塚「 …ねぇ、父さん」
智志「 …なんだ?」
小野塚「 父さんは、俺の事をどこまで理解してるの?」
智志「 …どこまでって?」
小野塚「 俺がなんでこういう手段に出たのか、ちゃんと考えて俺に説教してるの?」
智志「 …」
小野塚「 …そっか、もういいや」

 小野塚にサス

小野塚「 最初に僕が生き物の死について意識を持ったのは中学に入ってからでした。元々僕は動物が好きで、その生態について調べていくうちに「 結局死んだらすべて同じ」なのだと気付いたのです。では、その最期はどんな顔をするのだろう、その興味でいっぱいになりました。まず、僕は近所の野良猫を殺しました。猫はまだ死にたくないと言う気持ちでいっぱいだったのでしょう、悔しさをにじませた表情でした。もう1匹野良猫を探して殺しました。この猫は足を怪我して大分弱っていたので、死ねてよかったと安堵しているように感じました。僕はそれから、暇を見つけては猫や雀など、野生の生き物を殺す事を繰り返しました」

 辺りが薄明りになる
 一人の少女が出てくる

小野塚「 ある日、僕は一人の少女を見つけました」

 回想

小野塚「 あの、この辺りに手を洗える場所はないかな」
少女「 あ、えっと…ここを右に曲がったら公園があって、そこにトイレがあるのでそこで手を洗えると思います」
小野塚「 方向音痴なんだ。よかったら案内してくれないかな」
少女「 え?はい…」

 少女、公園に案内する

少女「 ここです」
小野塚「 ありがとう。お礼を言いたいからこっちを向いてくれるかな?」
少女「 え?」

 少女が振り向くと小野塚はハンマーで少女を殴る
急所に命中し、少女はそのまま倒れる

小野塚「 それは、衝動的にやってきたものでした。その子を見つけた瞬間、何も知らないあどけない少女の最期を見たいと思いました。一発ハンマーで殴ると彼女の頭の大事な部分に当たったのでしょう、倒れたままピクリとも動きませんでした。…初めて人間を殺した瞬間でした。興奮のあまり僕はすぐにその場を離れ、家に帰って射精をしました。出しても出しても、性的興奮は治まりませんでした。人の死を想いながら命の源たる精子を放出する事で、人間の神秘を感じました」

 私服姿の神父が出てくる

神父「 結衣…」
小野塚「 命を終える瞬間彼らは、彼女らは何を考えるのか…僕の興味を、趣味を、理解してくれる人が一人でもいれば、今僕は違う感情を持ってここにいたのかもしれません」

 場転
 ハローワーク
 宗一がため息をついて椅子に座る
 少しして明津が隣に座る

明津「 どうですか?いいお仕事見つかりましたか?」
宗一「 え?」
明津「 あぁ、すいません。何か浮かない顔をしていたのでお話聞いてすっきりしてもらえればいいなぁなんて」
宗一「 はぁ…」
明津「 僕も転職しようと思ってここ来たんですけど、まぁ雇用形態に納得いかないものばっかで…辛いなぁ本当」
宗一「 まだお若いんですから、きっといいお仕事見つかりますよ」
明津「 そうですかね、ありがとうございます。で?そちらはどうですか?」
宗一「 いやぁ…この歳で新しく雇ってくれる所なんかなかなかないですね…」
明津「 今のお仕事は何されてるんですか?」
宗一「 実は、長い事社会には出ていなかったんです」
明津「 ほう、それはまたなぜ?」
宗一「 妻が病気しましてね、仕事を辞めて付き添っていたんですよ」
明津「 へぇ…実に興味深いですねぇ」
宗一「 え?」
明津「 僕は独身なので、そうやって傍にいれる人間がいないのですごいなぁと思ったんですよ」
宗一「 …そうですかね」
明津「 でも、こうしてお仕事を探しているという事は、もう奥さんはよくなったんですか?」
宗一「 ええ。だいぶ良くなってきました。…お互いに辛い思いをしてきましたが、ここからようやく前を向いて生きていけます」
明津「 それはよかったですね。家族の為に頑張るなんて素敵じゃないですか。僕も早く結婚して、息子とキャッチボールとかしたりしたいなぁ」
宗一「 …そうですか」
明津「 ん?どうしたんですか?」
宗一「 いえ、なんでも…すみません、妻が待ってるので帰りますね」

 宗一、立ち去る

明津「 …」

明津、宗一の後を追いかける

 場転

 鎌田家
 咲子がボロボロになった人形を俊一だと思ってあやしている
 部屋は荒れている

咲子「 俊一…あなたはかわいいわね…私の天使…私の全てよ……え?どうしたの?……おやつ食べたいの?いいわよ。俊一の大好きなバターロールがあるから一緒に食べましょう」

 咲子、一度はけてバターロールを持ってくる

咲子「 はい、めしあがれ」

 咲子、人形の口元にバターロールを押し込む
 バターロールはぐしゃぐしゃになる

咲子「 美味しい?…そう、よかったわ。今度はお父さんとも一緒に食べようね。さぁ、もっと食べていいのよ」

 宗一が帰ってくる

宗一「 ただいま…え?」
咲子「 あ、お帰りなさい。俊一、お父さん帰って来たわよ。ほら、「 お帰り」って」

 咲子、宗一に人形を見せる

宗一「 …お前、何やってるんだ」
咲子「 お父さん帰ってきて嬉しいのね」
宗一「 何やってんだよ」
咲子「 え?…あら、そう。俊一がお父さんと遊びたいって。お父さん、俊一と遊んであげて。私ご飯作るから」
宗一「 何やってんだよ!!」

 宗一、咲子から人形を奪い、叩きつける

咲子「 ああぁあぁぁぁ!!」
宗一「 こんな人形もう捨てちまえ!!」
咲子「 ひどい事しないで!!俊一が何をしたって言うの!!」
宗一「 咲子…俊一は死んだんだぞ!それは俊一じゃない!!」
咲子「 何言ってんのよ!!あなたおかしいわよ!!どう見ても俊一じゃない!!私達の大事な息子なのよ!!」
宗一「 違う…お前、約束しただろ…もう俊一の事は…」

 咲子、少しの時間をかけてゆっくり我に返る

咲子「 …嫌よ…俊一の事を忘れるなんて嫌よ…私達のたった一人の息子なのよ…」
宗一「 …」
咲子「 …何かの間違いよね…」
宗一「 え?」
咲子「 ほら、警察なんてあてにならないんだし、きっと俊一はどこかで迷子になってるのよ。…大変、早く俊一を探しに行かなきゃ…今頃寂しい思いしてるわよ…俊一…!」

咲子、慌ててはける

宗一「 咲子!!」

 宗一、怒りと悲しみに体を震わせる

宗一「 チクショウ!!!!!!!」

 宗一、人形を痛めつける

宗一「 殺してやる!!あの男…絶対殺してやる!!俺の家族をこんな…こんなにしやがって!!」

 宗一、人形を痛めつけるが段々と力が弱まってくる
 宗一はいつしか涙を流していた
 明津が入ってくる

明津「 いいんですか、奥さん追いかけなくて」
宗一「 !あんた、なんで」
明津「 あんたをつけてたから」
宗一「 勝手に入って来るな、警察呼ぶぞ!」
明津「 それは困りますなぁ、お互いに」
宗一「 …どういう事だ」
明津「 何のためにずっとあんたを張ってたと思ってんだよ鎌田さん」
宗一「 …なんで名前を知ってるんだ」
明津「 それくらい知ってて当然でしょ。ジャーナリストなめないでくださいよ」
宗一「 ジャーナリスト?」
明津「 あ、そういや自己紹介してませんでしたね」

 明津、名刺を渡す

明津「 私「 実話ブッキー」って雑誌の記者をしている明津と申します」
宗一「 …記者がうちに何の用だ」
明津「 今ね、10年前に起こった「 児童連続殺人事件」について特集組みたくて、色々追いかけてるんですよ。鎌田さんとこの子供も殺されたんですもんね?俊一くんって言いましたっけ?その時の心境とか聞かせてもらえたらいいなぁなんて思ってまして」
宗一「 …そんなもの答えるわけないだろ」
明津「 うちは「 実話」を売りにしてるものですからね、捏造するわけにはいかんのですよ。近年はマスコミに対する世間からの風当たりも強いので我々も悔しい思いしてるんでねぇ。ここらで一発かましてやりたいんですよ。当事者の生の声をいただけたら俺もハッピーであなたも少しは胸の内がスカッとするんじゃないですか?」
宗一「 そんな事で苦しみが晴れるならとっくにやってる。俺達はお前らマスコミからも散々いい様にやられたんだ。人権を踏みにじるような報道でどれだけ名誉を傷つけられたと思ってる。俺達は被害者なんだぞ!!」
明津「 その気持ちはわかりますよ」
宗一「 わかってるなら帰ってくれ。お前に話す事なんか何もない」
明津「 …あんた、犯人を殺したいほど憎いでしょ?」
宗一「 早く帰れ」

 宗一、明津を帰そうとする

明津「 ギャラの代わりと言っちゃあれですけど、話してくれたら犯人の居場所を教えてもいいんですけどねぇ」
宗一「 …!」
明津「 これでも俺結構仕事出来る方なんすよ?犯人の住んでる場所も職場も全部把握してるんですから」

 明津、宗一に写真を見せる
 宗一、写真を食い入るように見る

明津「 詳しい場所、教えてもいいんですよ?あんたが取材に応じてくれればね」
宗一「 …何から話せばいい」

明津、ニヤッとする

明津「 それじゃあいきなりなんですけど、俊一くんが殺害された日の事をお聞かせ願えますかね」

 回想
 明津はける
 俊一が出てくる

俊一「 遊びに行ってくるねー!」
宗一「 こんな朝早くからか?どこに行くんだ」
俊一「 えんとつ山だよ」
宗一「 えんとつ山なんて何も遊べるところが無いだろ、何しに行くんだ」
俊一「 最近中学生の友達が出来てね、亀がえんとつ山の池にいるっていうからそのお兄ちゃんと見に行くんだよ」
宗一「 中学生?どこで知り合ったんだ」
俊一「 公園で遊んでたら声かけてきて、それからずっと毎日学校終わりに遊んでるんだ」
宗一「 お前、知らない人と遊ぶのは危ないからやめろって言っただろ」
俊一「 でも、もう知ってる人だから平気だもん!」
宗一「 いや、そういう問題じゃなくてな。この間この辺りに住む女の子が殴り殺されたってニュースでもやってたし、お前が心配なんだよ」
俊一「 僕は平気だよ!いざとなったらお兄ちゃんに助けてもらうから!」

 咲子が来る

咲子「 私もあなたと同じ事言ったんだけど、ずっとこの調子でね…」
俊一「 じゃ、行ってきまーす!」

 俊一、はける

宗一「 あ、おい!…はぁ」
咲子「 俊一、お友達が出来てよっぽど嬉しいみたいね」
宗一「 ああ。あんなに嬉しそうな顔が出来たんだな、あいつ…」
咲子「 うん。私達も嬉しいけど、でも、やっぱり心配よね…その中学生の子が優しいといいんだけど…」
宗一「 考えててもしょうがないさ。俊一が嬉しそうなら、それでいいのかもな…」
咲子「 …そうね。あの子が笑ってれば、ね」

 咲子と宗一がはけ、小野塚と俊一が入ってくる

俊一「 お兄ちゃんは、どうして僕と遊んでくれるの?」
小野塚「 …愚問だな」
俊一「 え?」
小野塚「 君は亀が好きだろう。亀はゆっくりのんびり生きている。その亀を好む君はとてもおおらかだ。そんな君に興味を持ったから、君と一緒にいたいんだ」
俊一「 なんかよくわかんないな。でも、僕と遊んでくれるならなんでもいいや」
小野塚「 そう、遊ぶのに理由なんていらない。楽しければそれでいいんだ」
俊一「 そうだね。僕、お兄ちゃんといるのはとても楽しいよ」
小野塚「 ありがとう」
俊一「 でもお兄ちゃん、えんとつ山に亀がいるなんて聞いた事ないよ。本当にこんな所にいるの?」
小野塚「 ああいるさ。世にも珍しい亀がね。すぐに会えるよ」
俊一「 本当!?楽しみだなぁ」
小野塚「 この小屋にその亀がいる。君は外で待っててくれないか?」
俊一「 え?どうして?」
小野塚「 遠目でも先に姿を見つけたら感激できなくなるだろう?だから目を瞑って外で待っててくれ」
俊一「 わかった!楽しみだなぁ」

 俊一、はける
 小野塚が紙に何かを書き始める
 紙に書いてる内容を声に出して復唱している

小野塚「 さあゲームの始まりです。愚鈍な警察諸君。ボクを止めてみたまえ。ボクは殺しが愉快でたまらない。人の死が見たくて見たくてしょうがない。汚い野菜共には死の制裁を。積年の大怨に流血の裁きを」

 小野塚、書いた文章をじっと見つめ、その紙で紙飛行機を作って飛ばす
 紙飛行機が落ちると俊一が出てくる

俊一「 お兄ちゃんまだー?」
 俊一の姿を見た小野塚は手袋をして俊一に近づく
 俊一は紙飛行機を拾う

俊一「 はい」

 俊一は紙飛行機を小野塚に渡そうとする
 小野塚は受け取ると見せかけて俊一の首を絞める
 なかなか死なず、小野塚は力に限界を感じ一度離す
 俊一は離れるも既に瀕死状態
 小野塚はなかなか死なない苛立ちから大声を上げる
 
小野塚「 あああああああ!!!」

 小野塚は俊一を殴ったり蹴ったり暴行を加える
 小屋のテーブルに俊一を押さえつけ、力任せに俊一の首を絞める
 俊一は一連の暴行で既に息が無い
 小野塚は息を切らしている

 現代と過去の交錯場面
 宗一と明津が出てくる
 二人は小野塚と俊一の方を見ている
 小野塚は息を整え次第はける

明津「 俊一くんが見つかったのは確かそれから3日後でしたね。中学校の門に首だけ置いてあったんでしたよね」
宗一「 …」
明津「 死体とは対面されたんですか?」
宗一「 …ああ」
明津「 俊一くんの死体の状態はどうなってたんですかね?」
宗一「 無数の暴行の跡が…死斑に紛れてもはっくりわかるくらいの痣がたくさんあったんだ…」
明津「 俊一くんの最期の顔、どんな顔してましたか?」
宗一「 …」
明津「 すみませんねぇ、辛いでしょうけどお答え願いますか?じゃないと犯人の居場所教えませんよ」
宗一「 …恐怖と悔しさを滲ませた顔をしてたよ…」
明津「 腐乱しててもそれはわかるんですね」

 宗一、明津を睨む

明津「 おっとすいません、つい口が」
宗一「 …もうここまで話せば充分だろ。早く居場所を教えるんだ」
明津「 いえ、まだその後の事を聞けてませんから」
宗一「 貴様…」
明津「 全部話してさぁ、ぶり返した憎悪を犯人にぶつけちゃえばいいんだよ。感謝してくださいよ。あんたの復讐に一役買ってるんすからね」

 場転、宗一と明津ははける
 工場、朝の風景

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