人物
仙崎拓斗 (17)高校生
(21)作業員
神田亜香里 (17)高校生
(21)OL
坂田典子 (30)亜香里の上司
戸田義明 (47)仙崎の同僚
○白鷹湖
山々に囲まれた中に大きな湖がある。
湖を見渡せる高台がある。高台にある大きな岩に座ってぼんやりと湖面を眺める神田亜香里(17)
仙崎拓斗(17)が亜香里の前に走ってやって来る。
仙崎「神田さん、俺と付き合ってくれよ」
表情を変えない亜香里。
仙崎「なあ、頼むよ」
呆れたような亜香里。
亜香里「ねえ、もう何回目?もう、いい加減諦めたら?」
仙崎「嫌だ。絶対諦めない」
亜香里「しつこい男」
仙崎「粘り強いのは俺の良い所だからな」
亜香里「あっそ。ねえ、あなた野球部なんだって?」
仙崎「おう。エースで四番」
亜香里「あそこ」
亜香里、100mくらい先の湖面に鳥の頭のような形の隆起している岩を指さす。
仙崎「ん?鷹岩か?」
亜香里「そう、ここから石投げてあの岩に当てれる?」
仙崎「こんな遠くから?流石に俺でもまず届かないかも」
亜香里「届いたら付き合ってあげる」
ニヤリと笑う亜香里。
仙崎「え・・・よし!当ててやるさ」
足元の石を掴み振りかぶって投げる仙崎。
仙崎の投げた石は岩の10m程度手前に落ちる。
仙崎「くそ、すぐ当ててやる」
× × ×
汗だくになり肩で息をしている仙崎。
仙崎の周りの小石が無くなっている。
仙崎「くそー届かねえ。いや、明日には絶対届く。明日まで待ってくれ」
亜香里「ホント、しつこい男。しつこい男は女の子に嫌われるよ」
亜香里、立ち上がって仙崎の前に立つ。
亜香里「でも、私は好きだけどね」
仙崎「え」
笑顔の亜香里。
亜香里「いいよ。付き合ってあげる」
仙崎「え、ウソだろ?」
亜香里「信じないなら良いわよ。一生、投げてなさい」
亜香里、立ち去る。
仙崎、亜香里の後を慌てて追う。
仙崎「ちょっと待ってくれよ」
○教室(夕方)
誰もいない教室で並んで勉強する。仙崎と亜香里。
ウトウトと眠そうな仙崎。その様子に気づいた亜香里がペンで仙崎の手を指す。
ビックリして起きる仙崎とその様子を見て笑う亜香里。
○工事現場
汗だくでコンクリートの基礎をコンクリートハンマーで砕く仙崎拓斗(21)。
○公園
ベンチに座り並んで弁当を食べる作業着姿の仙崎と事務服姿の亜香里(21)。
○白鷹湖
仙崎、向かい合う亜香里の前に赤い宝石箱を差し出している。
大きく頷く亜香里。
嬉しそうに亜香里を抱きしめる仙崎。
○光陽ビル・オフィス
PC入力をしている亜香里。
向かいのデスクから亜香里の様子を伺う坂田典子(30)
典子「神田さん、昨日のメディオルファーマさんからの依頼の件なんだけど」
亜香里「あ、忘れてました!申し訳ありません。今からすぐやって、今日中には何とか仕上げます」
典子「え、今朝私の机に提出されてたわよ。その手直しの話なんだけど」
亜香里「え、提出されてる?私が?」
典子「あなたにしか頼んでないのに他に誰が提出するのよ」
不思議そうな典子。
典子「ちょっと疲れてるんじゃない?」
亜香里「だ、大丈夫です」
動揺している亜香里。
○小野田総合病院・玄関
俯いて病院を出る亜香里。
病院前のバス停のベンチに呆然と座る亜香里。
○白鷹湖(朝)
眠そうに湖のほとりに来る仙崎。
仙崎の携帯が鳴る。
仙崎「もしもし亜香里。朝っぱらからなんだよ急に呼び出して」
不思議そうな仙崎。
仙崎「え、何言ってんだよ!今、どこにいるんだよ」
亜香里の声「・・・鷹岩」
仙崎「え」
仙崎が湖面の岩の方を見ると手漕ぎボートに乗った亜香里が手を挙げている。
亜香里の声「私達終わりにしたいの。あなたとはもう一緒にいたくない」
仙崎「は?意味わかんねえよ。ふざけんなよ」
湖に足を踏み入れる仙崎。
亜香里の声「来ないで」
ポケットから赤い宝石箱を取り出し何かを入れている亜香里。
亜香里の声「さようなら」
亜香里、宝石箱を岩の脇に落とす。
仙崎「おい、亜香里」
ボートを漕いで離れていく亜香里。
○工事現場・プレハブの事務所内
パイプ椅子に座る仙崎と戸田義明(47)
戸田「で、その元婚約者の姉ちゃん探すために姉ちゃんの親戚のいる県の現場を転々としてんのか」
仙崎「はい。両親を早くに亡くして親戚も少ない子だから何とか見つかるかなって」
戸田「スゲーな兄ちゃん。見つかると良いな」
仙崎「はい、ありがとうございます」
○駅前広場
駅前広場にあるベンチに腰掛け改札口から出てくる乗客を見ている仙崎。
改札口から亜香里が出てくる。
一瞬、固まるも慌てて亜香里を追いかける仙崎。
仙崎「おい、亜香里」
振り返る亜香里。
亜香里「失礼ですが、どちら様ですか?」
仙崎「何言ってんだよ。俺だよ」
怪訝な顔で立ち去ろうとする亜香里。
仙崎「おい、亜香里」
亜香里の腕を掴む仙崎。
仙崎、亜香里の左薬指に指輪があるのに気づく。
仙崎「え、これ俺があげた」
亜香里、仙崎の手を振りほどく。
亜香里「しつこい!急ぐんで」
走り去る亜香里。
○白鷹湖
作業着姿でコンクリートハンマー等の機材を持った仙崎が湖面に立っている。
仙崎「おー寒い。よし、行くか」
凍り付いた湖面の上をゆっくり歩きだす仙崎。
仙崎、湖面に出た岩の横でゴーグルをつけハンマーで湖面の氷を削り出す。
湖面にできた穴に網を入れて探る仙崎。
網の中に汚れた赤い宝石箱が入っている。
仙崎が宝石箱を開けると中にはビニール袋に入ったSDカード。
○歩道
息を切らして走っている仙崎。
亜香里の声「やっぱり、私が捨てた宝石箱を拾ったのね。どんだけしつこいのよ。まあ、そんな所が好きなんだけどね」
○駅前広場
息を切らしながら改札口を見る仙崎。
亜香里の声「急にいなくなってごめんなさい。実は私の脳には腫瘍があるみたいなの。手術するしか助かる道は無いらしいんだけど、難しい手術になるし、記憶障害が残る可能性が高いみたい。だから手術後の私はもう今までの私じゃないと思う。あなたの事は大好きよ。だから、あなたに私の病気で辛い思いをさせたくないの。私の事は忘れて幸せになって下さい」
改札口を出てくる亜香里を見つけ追いかける仙崎。
仙崎「あの、亜香里さん」
亜香里「また、あなた?何?」
仙崎「友達になって下さい。お願いします」
亜香里「は?急に何言ってるの」
仙崎「お願いします。今日がダメならまた明日、出直します」
亜香里「しつこい男は女の子に嫌われるよ」
溜息をつき空を見上げる亜香里。
亜香里「でも、私は好きだけどね」
笑顔の亜香里。
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