#13 グランマ! 日常

えー。古今東西。嫁と姑なんてぇものは 「仲が悪い」と。こう相場が決まっているものでございまして 江戸の時分も、残念ながらその辺りは変わりがなかったようでございます 本日もまぁ、そんなお話を一席。えー(本編は落語と一切関係ございません)
竹田行人 11 0 0 04/11
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第一稿

「グランマ!」


登場人物
伊豆冴子(63)宝屋食堂店主
伊豆今日子(30)マンガ家
西岡笑美(18)高校生   


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「グランマ!」


登場人物
伊豆冴子(63)宝屋食堂店主
伊豆今日子(30)マンガ家
西岡笑美(18)高校生   


========================================


○宝屋食堂・外(朝)
   「宝屋食堂」の暖簾が出ている。
   女子高生、暖簾の前で立ち止まり、スマートフォン画面を確認する。

○同・中(朝)
   店内はテーブル席四つとカウンター。
   伊豆冴子(63)、カウンターの中で寸胴鍋をかき混ぜている。
   女子高生、入ってくる。
冴子「いらっしゃい」
女子高生「あの。ここ。こちら。伊豆今日子先生のお宅ですよね? マンガ家の」
   女子高生、鞄からコミックを取り出す。
   コミックのタイトルは「グランマ!」。
女子高生「あの。私の。入院してて。グランマ! 先生のマンガの大ファンの友だちが。それで。サイン。お土産に」
冴子「マンガってのは日本語を壊すね」
   冴子、顎で店の隅のテーブルを示す。
   伊豆今日子(30)、隅のテーブルで鼻毛を抜いている。
   今日子の手に傷痕。
女子高生「え。と。その」
   今日子、鼻毛を飛ばす。
女子高生「帰ります」
   女子高生、出ていく。
   今日子、カウンターに歩み寄る。
今日子「あれ。お義母さん。今だれか」
   冴子、寸胴鍋をかき混ぜている。
今日子「なにか手伝えること」
冴子「邪魔だよ。上でラクガキでもしてな」
今日子「あー。はい」
   今日子、歩いていく。
   冴子、今日子の背中を見送る。
     ×  ×  ×
   店内は満席。
   冴子、カウンターで調理をしている。
   客・三沢、入ってきて、カウンターに座る。
冴子「いらっしゃい。いつものでいいね」
三沢「うん。あれ。今日ボンは。二代目はいないの」
冴子「料理教室の先生。修業時代の師匠に頼まれちまってね。行ってるよ」
三沢「で。一人で。かー。冴子さん元気だね」
冴子「盆と正月以外店閉めたことないのが自慢だからね」
三沢「知ってるょ。あー。今日子ちゃんは」
冴子「あん?」
三沢「娘がサインもらって来いって。最近だんだん人気出てきたよ。特に最新作」
冴子「あたしはその辺さっぱりだから」
三沢「またまた。ここだって今日子ちゃんの家だから来てる客絶対いるよ。ボン。いい嫁もらったね」
冴子「バカなこと言うんじゃないよ。ここは味だよ。まったく。家事もしないし店も手伝わない。あんなのただの居候だよ」
三沢「さすが姑。いいね。よ! くそばばぁ!」
冴子「くそばばぁたぁまたずいぶんだね」
三沢「あ。今日子ちゃん。前はお店に出てたよね。マンガって大変なんだね。ま。その分お金にもなるんだろうけど」
冴子「は。お金ってのはね。額に汗して戴いて、それで初めて価値があるんだよ。なのにあの嫁ときたらてんで。はい。親子丼」
三沢「お。きたきた。で。サイン」
   冴子、寸胴鍋を洗い始める。

○同・今日子の仕事場
   今日子、ネームを描きながら、首に巻いたタオルで額の汗を拭う。
   大きな物音。
三沢の声「冴子さん!」
   今日子、立ち上がる。

○同・店内
   今日子、カウンター奥の階段を駆け下りてくる。
今日子「お義母さん!」
   冴子、腰を押さえて倒れている。
今日子「救急車呼んで!」
三沢「あ。ああ」
   三沢、スマートフォンを取り出す。
今日子「すみませんねみなさん。どうぞどうぞ。食べててください」
   今日子、注文がまだの客に気付く。
今日子「あ。お客さん何にします?」
客「え? でも」
今日子「大丈夫ですよ。私作りますから」
冴子「今日子」
今日子「味は保証します。元従業員なんで」
客「あー。じゃあ。親子丼一つ」
冴子「今日子!」
今日子「盆と正月以外休んだことがない。それが宝屋食堂の自慢じゃないですか」
冴子「いいんだよそんなことは! それよりあんた。手」
今日子「その気遣い。ムカつきます」
   今日子、冴子に右手の傷跡を見せる。
今日子「同じ屋根の下、気付かない方が難しいです」
   今日子と冴子、目を見合わせる。
冴子「客減らしたら承知しないよ」
今日子「はい」
   今日子、カウンターに向かい、一つ息をつく。

○府中総合病院・外観(夕)
   「府中総合病院」の看板。

○同・病室・中(夕)
   ベッドが六床の病室。
   冴子、ベッドで横になっている。
   隣のベッドから押し殺した笑い声が聞こえる。
   西岡笑美(17)、冴子の隣のベッドで「グランマ!」を読んでいる。
冴子「おもしろいかい? それ」
笑美「あ。うるさかったですか」
冴子「いや。おもしろいかい? それ」
笑美「あー。はい。舞台になってる食堂の雰囲気がすごく良くて。特に女将さん」
冴子「そうかい」
笑美「なんか熱いんですよね。作者が額に汗して描いてる姿が目に浮かぶっていうか」
冴子「同じ屋根の下、気付かない方が難しい」
笑美「え」
冴子「いや」
   冴子、微笑む。

○同・病室・中(夜)
   今日子、バッグを手に入ってくる。
今日子「お義母さん。着替え持って」
   ベッドは空。
笑美「おばあさんなら下の売店に。伊豆先生!」
今日子「え」
笑美「伊豆今日子先生ですよね? あの。グランマ! の」
今日子「ええ。まぁ」
笑美「え。え。え。じゃあ。じゃあ。あのおばあさんが、くそばばぁのモデル」
今日子「内緒にしてね」
笑美「すごい! あの! 私、西岡笑美って言います。先生の大ファンです! ずっと応援してます」
   笑美、「グランマ!」を取り出す。
   今日子、「グランマ!」を見つめる。

○同・病室・外(夜)
   冴子、病室のドアに手をかける。
今日子の声「連載。少し休もうと思ってる」
   冴子、ドアにかけた手を離す。

○同・病室・中(夜)
   今日子、笑美のベッド脇にあるイスに座っている。
今日子「連載獲れるようになっても、お店とマンガと両方やってた。食べれないとき支えてくれたし。お店好きだし」
笑美「そうだったんですか」
今日子「それでも連載に穴を開けたことがないのが自慢だった」
笑美「グランマ! のゴールド亭もそうですよね。盆と正月以外って」
今日子「うん。でも、5年くらい前かな。お店に嫌がらせのお客さんが来て。暴れて。私。手ケガして連載に穴開けた」
   今日子、手を見る。
今日子「お義母さん私を店に出さなくなった」
   今日子、「グランマ!」を手に取る。
今日子「それからお義母さん、お客さんに私の愚痴をいっぱい言いだした。あることないこと。もう典型的な嫁いびりの姑」
笑美「そんな。先生なんにも悪くないのに」
今日子「ああ。そうじゃなくて。そうやって私を守ってくれてる」
笑美「守る。ですか」
今日子「誰かが自分より怒ってるのを見ると、なんだかスッとするの。わかる?」
   笑美、首を傾げる。
今日子「そういうの、あるんだ。実際それから嫌がらせ、無くなったから」
笑美「なんか、フクザツですね」
今日子「そう。フクザツなの」
   今日子、右手を見る。
今日子「でも今日。久しぶりに娘になれた」
   今日子、微笑む。
今日子「私。宝屋食堂の。伊豆冴子の。娘なんだよね」
   冴子の咳払いの声。

○同・病室・外(夜)
   冴子、目頭を拭い、病室に入っていく。
冴子の声「邪魔するよ」
笑美の声「あ。くそばばぁだ」
冴子の声「なんだって? あんたの漫画の影響だね? これだからマンガってのは」
今日子の声「すみません」
   病室から笑い声が漏れる。

〈おわり〉

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