フェスティバろうぜ! 学園

フェスティバ・る【ふぇすてぃば・る】  [動詞]祭を楽しみ、祭に浮かれ、祭を愛でる様子。「今日はー・ろうぜ」
マヤマ 山本 37 0 0 03/24
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第一稿

<登場人物>
藤岡 一輝(17)昨年のミスコン王者
倉田 舞(17)バンドのメンバー
荒木 基宏(18)バンドのリーダー
村上 加奈(17)バンドのメンバー、生徒会役員
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<登場人物>
藤岡 一輝(17)昨年のミスコン王者
倉田 舞(17)バンドのメンバー
荒木 基宏(18)バンドのリーダー
村上 加奈(17)バンドのメンバー、生徒会役員
高杉 元気(16)バンドのメンバー
桐山 泉(16)漫才コンビ、野球部マネージャー
渡部 湊(16)漫才コンビ、写真部員
佐藤 伸治(18)引退した野球部員
井上 塁(17)野球部員
瀬戸 平太(16)野球部員
速水 大輔(18)元野球部員
半田 彩芽(17)藤岡のクラスメイト
岡崎 沙織(18)生徒会長
宮内 剛史(16)生徒会役員
倉田 紫音(19)卒業生、舞の姉、アイドル
福士 司(17)藤岡のクラスメイト
石川 透(17)写真部員
土門 麗(16)お化け屋敷のメイク担当
望月 亮(17)不良
小田切 拓郎(16)アイドルオタク
須賀 義隆(18)バカップルの男
賀集 双葉(18)バカップルの女
水嶋 幸(18)生徒会直属の探偵、わらしべ屋店主
菅田 朋子(33)来場客
菅田 直也(8)朋子の息子
椿 英典(17)他校の生徒、泉の恋人
細川 智恵(40)教師
佐々木 真(33)教師、朋子の元カレ



<本編>
○風祭高校・校門
   「風祭祭」と書かれた看板がある。
   門の前には既に多くの人。皆、今か今かと待っている様子。その前に、マイクを持って現れる福士司(17)
福士「フェスティバってるか~い?」

○同・二階廊下
   窓から外を眺める藤岡一輝(17)。制服姿。中性的な顔立ち。
藤岡「……くだらない」
   そこに現れる福士。
福士「え? 『フェスティバる』って言葉の意味がわからないって?」

○同・二年二組・中
   喫茶店風の室内。
   引き出しやレジを漁る倉田舞(17)と半田彩芽(17)。紫色のクラスTシャツを着ている彩芽。
舞「どこにもない……どうする?」
彩芽「死にたい……」
   そこに現れる福士。
福士「『フェスティバる』。それは祭りを楽しむ事」

○同・生徒会室・中
   数名の生徒達の前に並んで立つ岡崎沙織(18)と宮内剛史(16)。宮内は眼鏡をかけている。
沙織「ミスコンの説明会は以上です」
宮内「何か質問はありますか?」
   そこに現れる福士。
福士「『フェスティバる』。それは祭りに浮かれる事」

○同・体育館
   野球部員達が応援用ダンスの練習をしている。全員坊主頭。その中にいる井上塁(17)。
井上「アイツ、またサボりか……」
   そこに現れる福士。
福士「『フェスティバる』。それは祭りを愛おしむ事」

○同・一年一組・前
   「お化け屋敷」と書かれた看板。
   漫才の練習をする桐山泉(16)と渡部湊(16)。阪神タイガースの帽子やハッピを着ている泉。
泉「『JFKの再来やな』言うたら、何て答えた思います?」
湊「『あ~、アメリカの元大統領』」
泉&湊「ってそれジョン・F・ケネディや」
   そこに現れる福士。
福士「さぁ、若者よ。今フェスティバらずして、いつフェスティバる?」

○同・一階階段
   階段を上る女子生徒のスカートの中を下から覗く瀬戸平太(16)。坊主頭。
瀬戸「お~」
   そこに現れる福士。
福士「お前も」

○同・中庭
   女子生徒二人組に声をかけている速水大輔(18)。
速水「ねぇねぇ、彼女達。今日ヒマ?」
   そこに現れる福士。
福士「君も」

○同・三年三組・中
   ストラックアウトの台が二つある。
   その脇で、ほうきで素振り(左打ち)をする佐藤伸治(18)。坊主が伸びたような髪型。
   そこに現れる福士。
福士「貴方も」

○同・音楽室・中
   バンドの練習をするベース兼ボーカルの荒木基宏(18)、キーボードの村上加奈(17)、ギターの高杉元気(16)。ドラムは空席。荒木は常に青いハットをかぶっている。演奏を中断する荒木。
荒木「ダメだ。もう一回、頭から」
   そこに現れる福士。
福士「Youも」

○同・校門
   門の前の多くの人の前にマイクを持って立つ福士。
福士「みんな、フェスティバろうぜ!」
   盛り上がる人々。

○メインタイトル『フェスティバろうぜ!』

○風祭高校・二年二組・前
   「カップル喫茶」と書かれた看板。
   多くの通行人を前に喋る藤岡。手にはハートの首飾り(青地に紫の水玉模様や、緑地に白のストライプなど。ちなみに藤岡自身の首には赤地に黄色のボーダー柄の首飾りがある)。
藤岡「(テンションの高い声で)さぁ、ここ二年二組のカップル喫茶。最大の特徴は、校内至る所で配っているこのハートの首飾り。男子に配る右のハートと女子に配る左のハート、色や柄違いで種類は数百、一致するのは世界でただ一つ。見事一致するハートを持ってきたカップルにはドリンクを無料で差し上げます。さぁ、みんな。運命の相手を見つけよう」
   藤岡の後ろで拍手する舞。
舞「さすが藤岡君、やる気満々だね」
藤岡「そりゃ、祭りだからな」
舞「後夜祭出ないくせに?」
藤岡「お互い様だろ?」
舞「Tシャツも着てないし」
藤岡「それもお互い様」
舞「それはちょっと違うんだよね……。あのさ、ちょっといい?」

○同・同・中
   紫色のクラスTシャツを着た生徒達が動き回る室内。客はいない。
   レジの前にいる彩芽の元に集まる藤岡と舞。
藤岡「売上金が盗まれた?」
舞「(人差し指を手に当て)しーっ」
   周囲を見回す藤岡と舞。他の生徒は気付いていない。
藤岡「何で? 鍵かけてたんだろ?」
舞「……忘れちゃったんだって」
藤岡「マジかよ……」
彩芽「ごめん……」
藤岡「で、盗まれたのは金だけ?」
舞「あと、(紫色のクラスTシャツを手に持って)私のTシャツ?」
藤岡「え?」
舞「いや、持って帰ったような気もするんだけど、家にも学校にも無くてさ」
藤岡「その、今持ってるのは?」
舞「余ってた奴。でも男子用だからサイズが合わなくてさ」
彩芽「ごめん……」
舞「いや、別に彩芽が謝らなくても」
彩芽「もう、死にたい……」
舞「そんな事言わないの」
藤岡「そうそう、何とかなるって。ようするに今日、昨日よりうんと売り上げ伸ばせばいいんだよ」
彩芽「いや、それじゃ解決になってな……」
藤岡「(遮るように)そうと決まれば、呼び込みだな。張り切って行ってくるか」
   教室から出て行く藤岡。
舞「ほら、藤岡君もああいう風に言ってくれてるんだし、ね?」
彩芽「死にたい……」

○同・同・前
   教室から出てくる藤岡。表情が曇る。
藤岡「あ~あ、どうなる事やら……」
   歩いてくる倉田紫音(19)に首飾りを渡す藤岡。
藤岡「(気を取り直すようにテンションを上げて)どうぞ~」
   首飾りを受け取る紫音。
   歩きながら首飾りを首にかける。
紫音「懐かし~、ウチらも去年やったな~」
   校内を見回す紫音。
紫音「この辺も全然変わってないな~。あ、そうだ。音楽室行ってみよう」

○同・音楽室・前
   「音楽室」と書かれた表札。バンドの演奏する音楽が漏れている。

○同・同・中
   バンド練習をする荒木、加奈、高杉。演奏を止める荒木。
荒木「ダメだ、ダメダメ。全然ダメ。本番は今日なんだぜ? わかってんの?」
加奈「そうかな? ドラムがアレな割にはいい感じだと思うけど」
高杉「やっぱり、倉田先輩が居ないと……」
   空席のドラムを見つめる加奈と高杉。そこに置いてあるノートパソコン。
荒木「いなくなった奴の事なんて気にしてんじゃねぇよ。ドラムの音はあるんだから、問題ねぇだろ」
高杉「そんな言い方……」
荒木「いいか、高杉。ブルーハーツの曲にこんな歌詞がある。『なれあいは好きじゃないから、誤解されてもしょうがない』ってな。さぁ、練習練習」
   ドアが開き、細川智恵(40)が入ってくる。
智恵「まだやってたの? ほらほら、もうおしまい。早く片付けて」
荒木「先生、もう少しお願いしますよ」
智恵「ダーメ。文化祭は始まってるんだからみんなもちゃんと楽しんできなさい」
荒木「そこを何とか。お願いします」
   必死に頭を下げる荒木。
荒木「(加奈と高杉に)ほら、お前らも」
加奈&高杉「お願いします」
   渋々頭を下げる加奈と高杉。
荒木「いいですか、先生。ブルーハーツの曲にこんな歌詞があります。『やりたくねえ事、やってる暇はねえ』ってね」

○同・同・前
   扉を閉め、鍵をかける智恵。
智恵「じゃあ、みんな。後夜祭、楽しみにしてるからね」
   その場を去る智恵。楽器を持ったまま立ち尽くす荒木、加奈、高杉。高杉は背負ったギターケースに青いハットをかぶせている。
加奈「(小声で)よかったね、解放されて」
高杉「(小声で)解放って言い方はどうかと思いますけど……。(荒木に)荒木先輩、どうするんですか?」
荒木「どうするも何も、やる事は一つしかねぇよ。二人とも、今日は空いてるだろ?」
加奈「私、生徒会の仕事もあるんですけど」
高杉「僕も今日は……」
荒木「ヒマだよな?」
高杉「……はい」
荒木「よし。じゃあ俺はもうちょっとドラムの音イジるから、高杉は練習できる場所を探せ。いいな」
高杉「でも、怒られるんじゃ……?」
荒木「ブルーハーツの曲にこんな歌詞がある。『大人たちにほめられるような、バカにはなりたくない』ってな。じゃあ、頼んだぞ」
   その場を去る荒木。
加奈「大丈夫、何とかなるって」
高杉「はぁ……」

○同・一階廊下
   肩を落として歩く高杉。
高杉「村上先輩はああ言うけど、練習場所なんてそんな簡単に……」
   向かい側から走ってくる小田切拓郎(16)とぶつかる高杉。
小田切「痛っ」
高杉「すみません……あれ、小田切君。どこ行くの?」
小田切「おう、高杉か。俺は今からアキバに行ってくる」
高杉「アキバ? 何で? 買い出し?」
小田切「んな訳なくね? 今日はメガネっ娘レインボーの握手会だぞ? 尊いだろ? 文化祭なんてやってる場合じゃなくね?」
高杉「メガネっ娘……あぁ、アイドルか」
小田切「そう言う訳だ。止めるなよ。あと、誰にも言うなよ。じゃあな」
   その場を去る小田切。
高杉「……いいなぁ、自分の意志がある人って」

○同・二階廊下
   窓から外を眺めている藤岡。
   校外を走る小田切の姿を無言で見つめている。
藤岡「抜け出してるし。あ~あ、俺も……」
   向き直り、窓に背中をもたれかかる藤岡。目の前を歩く女子生徒。そこに走ってきて女子生徒のスカートをめくって逃げる菅田直也(8)。

○同・一年一組・前
   悲鳴が上がる。
   並んで立つ泉と湊、悲鳴に驚く。
泉「ビックリした~、何やねん、もう」
湊「じゃあ、私そろそろ写真部の方に顔出してくるね」
泉「せやな、ウチも野球部の様子見ときたいし(腕時計を見て)一一時にここ集合って事でどうや?」
湊「わかった、一一時ね。あ~、今日本番なんだよね。緊張してきた」
泉「早すぎやろ。それに、ウチは楽しみで仕方ないくらいや。ほな、また後でな」
   その場を去る泉。
湊「楽しみだよね。漫才と……ミスコンも」

○同・生徒会室・前
   「生徒会室」と書かれた表札。

○同・同・中
   向かい合って座る沙織と宮内。
宮内「どうします? ミスコン」
沙織「どうするも何も、このままって訳にはいかないでしょ」
   中に入ってくる加奈。
加奈「遅くなりました~」
宮内「村上先輩、お疲れさまです。バンドの方はいかがですか?」
加奈「うん。まぁ、大丈夫でしょ。それよりさ、宮ちゃん。何か空気重くない?」
宮内「今朝の、ミスコンの説明会で、ちょっと……」
加奈「(沙織に)何かあったんですか?」
沙織「説明会に来なかったのよ。クイーン」
加奈「そうなんですか~。まぁ、それくらい良いじゃないですか」
沙織「良くないわよ。もし、このまま去年のクイーンがミスコン不参加、なんて事になったらどうするの?」
宮内「大トリの予定ですからね。全て台無しになる事を会長は危惧されているんです」
加奈「会長、心配しすぎですよ」
沙織「村上さんが心配しなさすぎなのよ。とにかく、この件は後夜祭担当の貴方の問題なんだから。クイーンと、出来れば他の出場者の様子も見てきてちょうだい」
加奈「わかりました~。ちなみに、宮ちゃんは元気?」
宮内「え? 自分は、元気ですけど……」
沙織「そう、ならよかった。じゃあ、クイーンのところに行ってきま~す」
   出て行く加奈。
沙織「……大丈夫かしら」
宮内「ミスコンですか?」
沙織「そうじゃなくて。順当に行けば、来年は村上さんが生徒会長でしょ? あ~、心配だわ。いっそ、宮内君が会長になってくれたら、安心して卒業できるんだけど」
宮内「以前からお話ししていますが、自分はそんな器の人間ではありませんから。それより、売場の巡回に行きましょうか」
沙織「そうね。今の所、何か異常があったって話は来てないわよね?」
宮内「はい、全く」

○同・二階階段
   階段を下りる藤岡。
藤岡「しかし、どうすんだろうね。売上金盗まれちゃって。あの生徒会長に報告したら大変な事になりそうだけど」
   階段を上ってくる水嶋幸(18)。
   幸にハートの首飾りを渡す藤岡。
藤岡「どうぞ」
幸「ほう、これは二年二組のカップル喫茶で配っている首飾りだね?」
藤岡「お、詳しいですね」
幸「僕にとっては、常識の範囲内さ」
   階段を上って行く幸。
藤岡「……僕?」

○同・三階階段
   階段の前に立っている速水。幸がやってくる。
速水「ねぇねぇ、彼女。俺とデートしない?もちろん、奢るからさ」
幸「ほう、これがナンパというものか。興味はあるが、あいにく僕は先を急いでいるんでね。それじゃあ」
   その場を去る幸。
速水「……僕? まぁ、いいや」
   歩いてくる湊。
速水「ねぇねぇ、彼女。俺とデートしない?もちろん、奢るからさ……」
湊「あ、すいません、急いでるんで」
   その場を去る湊。首を傾げる速水。
速水「何で上手くいかねぇんだろうな。奢るって言ってんのに」

○同・写真部部室・前
   「写真部」と書かれた看板。

○同・同・中
   写真館と写真展風の室内。
   中に入ってくる湊。湊と入れ違いに数名の生徒達が出て行く。不満顔。
湊「ありがとうございました」
   写真展側の椅子に座る石川透(17)の元に近づく湊。
湊「今のお客さん達、写真撮っていったんですか? それとも、写真展に?」
石川「撮ってくれ、と言われたが断ったさ」
湊「え?」
石川「知っているだろう? 私は美しいものしか撮らないのさ」
   写真展の写真。全て美しい風景と、美しい女性の写真のみ。
湊「もう、せっかくのお客さんなのに」
石川「そういう君だって、美しいものが好きなんだろう?」
   湊のスマホを指差す石川。
石川「今、二年二組にいる藤岡一輝の写真、待ち受けにしているんだろう? しかも、去年私が撮影した写真をね」
湊「それは……一緒にしないで下さい」
   スマホを開こうとする湊。充電切れを示すスマホの画面。
湊「藤岡先輩の美しさは別格で……(充電切れに気付き)。え、ちょ、え、こんな時に。(画面が消えて)藤岡先輩~!」

○同・一階廊下
   壁にもたれかかる藤岡。ビクッと反応する。
藤岡「今、呼ばれたような……気のせいか」
   そこにやってくる菅田朋子(33)。
朋子「あの……(ハートの首飾りを指して)それ、ひょっとしてカップルを見つける、とかそういう奴ですか?」
藤岡「そうなんですよ。よかったらどうぞ」
朋子「ありがとう。カップル喫茶か~。私が高校生の時にもあったけど、やっぱり今も人気あるんでしょうね」
藤岡「えぇ、そりゃあもう」

○同・二年二組・中
   一人の客もいない店内。並んで座る舞と彩芽。
舞「暇だね」
彩芽「死にたい」
   中に入ってくる福士。
福士「よう、フェスティバってるな~」
舞&彩芽「……」
福士「俺をスルーするなんて、めちゃめちゃフェスティバってるじゃないか~」
舞「……福士君。実は、ここだけの話なんだけどね」
   福士に耳打ちする舞。
福士「何だって? 売上金が盗まれた!? 何てこった!」
彩芽「ごめん、私のせいで……」
福士「盗んだ奴は、最っ高にフェスティバってるじゃないか~」
舞&彩芽「は?」
福士「今どこかで最っ高にフェスティバってる奴がいる。それだけで俺も最っ高にフェスティバれるのさ!」
   浮かれモードで室内を駆け回る福士。
彩芽「……死にたい」
舞「まぁ、福士君を見習えとまでは言わないけどさ、彩芽ももっと楽しもうよ」
彩芽「そんな事言われても……」
舞「ほら、無理にでも笑うと、心が楽になるとか聞いたことあるし。笑顔の仮面をつけると思って。ね?」
荒木の声「(『チェインギャング』の歌にのせて)仮面をつけて生きるのは、息苦しくてしょうがない~」

○同・三年三組・中
   教室の隅でノートパソコンを開き、ドラム音源ソフトを使用中の荒木。耳にはヘッドホン。
荒木の声「(『チェインギャング』の歌にのせて)どこでもいつも誰とでも、笑顔でなんかいられない~」
   ストラックアウトに挑戦している幸と須賀義隆(18)。幸の脇には佐藤が義隆の脇には賀集双葉(18)が立つ。
須賀「見てろよ。フーちゃんのためにパーフェクト獲ってやるからな」
双葉「ヨッシー、格好いい~」
須賀「そういうフーちゃんもかわいいぜ~」
幸「君たち、少し黙っててくれるかい?」
   深呼吸し、振りかぶる幸。
幸「腕の角度、リリースポイント、足の踏み出し。全てが完璧ならば、ボールは僕の思うままにコントロールできるハズだ」
   的から外れるボール。まだ八枚のパネルが残っている。
佐藤「はい、終了。記録一枚ね」
幸「む……おかしい。僕の理論は間違っていないハズなのに」
佐藤「言うは易く行うは難しだ」
幸「そうか、わかった。このゲームは実はパーフェクトを獲る事が不可能になるよう細工されているのだろう?」
   九枚目のパネルを射抜く須賀。
双葉「すご~い、パーフェクト~」
須賀「ハンドボール部をナメんなよ~」
双葉「ヨッシーかっこいい~」
須賀「そういうフーちゃんもかわいいぜ~」
   須賀と双葉の様子を無言で見る幸。幸にうちわを渡す佐藤。
佐藤「はい、景品」
幸「……僕が欲しいのはコレじゃない」
   壁に貼られた張り紙を指差す幸。「景品 1~5枚=うちわ 6~8枚=メダル 9枚=パンドラの箱」と書かれた張り紙。
幸「僕はあの『パンドラの箱』の中身が知りたいだけだ」
佐藤「じゃあ(うちわは)いらねぇの?」
幸「貰おう。そして僕は僕のやり方で、あの『パンドラの箱』を手に入れてみせるよ」
   うちわを持って出て行く幸。

○同・体育館
   幸と同じうちわを持ち、野球部のダンス練習を見ている泉。
泉「あれ、瀬戸ちゃんがおらへん……? お~い、ルイージ先輩~」
   ダンス中の野球部員達の中から、井上が出てきて泉の元に来る。
井上「どうしたの? 桐山さん」
泉「瀬戸ちゃんは?」
井上「瀬戸は……アイツはほら、こういう事やりたがらないから……」
泉「いくら一年生エースやからって、そんなん通じひんやろ。ちょっと探してきてや」
井上「え、俺が?」
泉「他に誰がおんねん」
井上「でも、そう簡単に見つかる訳……」

○同・一階階段
   階段を上る女子生徒のスカートの中を覗き込む瀬戸と、その脇に立つ井上。
井上「いた」
瀬戸「あれ、ルイージさん。何してんの?」
井上「ダンス練習、お前も来いって。マネージャーがうるさくて」
瀬戸「俺、野球するために野球部入ったの。ルイージさんもそうでしょ? だったらダンスの練習より、野球の練習しようよ」
井上「瀬戸のソレは、野球の練習なのか?」
瀬戸「動体視力を鍛えてんの。見えるとしても一瞬のチラリズム。男の本能が、時に限界を超えて能力を研ぎすまさせてくれる、って訳。一石二鳥でしょ?」
井上「一石二鳥って、お前……」
瀬戸「あ、来た。ルイージさん、伏せて」
   階段の陰に隠れる井上と瀬戸。やってくる加奈。階段を上る。
   加奈のスカートの中を覗き込む瀬戸。
瀬戸「お~」

○同・二年二組・中
   中に入ってくる加奈。
加奈「おじゃましま~す」
   レジの近くにいる彩芽と福士。出入口付近にいる舞。客は誰もいない。
舞「ヤバっ」
   加奈の顔を見て慌てて部屋を出る舞。その際、手近にあった余りのクラスTシャツで顔を隠す。
彩芽「えっと……あ、生徒会の人」
加奈「舞いる?」
彩芽「舞なら……あれ、いない……」
加奈「そっか~、残念」
彩芽「きっと私に嫌気がさしたんだ……。そうだよ、きっとそうだよ……」
加奈「? 何かあったの?」
福士「いや~、ここだけの話、泥棒に入られちゃったらしくてね」
加奈「え~、それは大変だね~。でもまぁ、何とかなるよ。気を落とさずにね~」
彩芽「死にたい……」
加奈「(聞こえてない様子で)あ、そうだ。一つお願いがあるんだけど」
彩芽「お願い……?」

○同・一年一組・前
   並んで立つ沙織と宮内。
宮内「何ですか? お願いって」
沙織「宮内君、一人で行ってくれないかな」
宮内「何言ってるんですか、会長視察なんですから、会長が行かないと始まりません」
沙織「……わかったわよ、行くわよ。行けばいいんでしょ?」
    ×     ×     ×
   悲鳴が上がる。
   出てくる沙織と宮内。目がうつろで肩で息をしている沙織。スマホで話し始める宮内。
   二人の後に出てくる土門麗(16)。
麗「どう? ウチのお化け屋敷」
沙織「人気の秘訣はわかった気がするわ」
麗「会長、顔真っ青だよ。紅、塗っとく?」
沙織「結構よ」
   電話を切る宮内。
宮内「会長、こんな時にすみません。何か通報があったらしいんですが」
沙織「通報? 何事?」
宮内「何でも、屋上に通じる階段に不良生徒がたむろしていて通れない、とか」
沙織「屋上に不良……それ、青と緑の髪とか言ってなかったかしら?」
宮内「はい、青と緑の髪の不良生徒です」
沙織「なら問題ないわ。次に行きましょう」
宮内「はい、わかりました」

○同・屋上階段
   階段の最上段にたむろする望月亮(17)ら数名の不良。望月は髪の毛の色が右は青、左は緑。
   下の段に並んで立つ須賀と双葉。
望月「ここから先は、俺らのテリトリーだ。誰も入れねぇよ。立ち入り禁止」
須賀「ちょっとくらいいいじゃねぇか」
双葉「そうよ、ヨッシーと青空の下で愛を語り合うだけなのに~」
望月「そんなんヨソでやれ、バカップル」
双葉「もういい。行こう、ヨッシー」

○同・三階階段
   階段を下りてくる須賀と双葉。
双葉「でも不良達に立ち向かうヨッシーもかっこ良かったよ~」
須賀「そういうフーちゃんもかわいいぜ~」
   不意にやってきて双葉のスカートをめくる直也。
双葉「きゃっ」
直也「なんだよ、見せパンかよ」
   階段を駆け下りる直也。
須賀「くそっ、何てガキだ」
双葉「本当。でも、怒ってるヨッシーもかっこいい~」
須賀「そういうフーちゃんもかわいいぜ~」

○同・一階階段
   階段を駆け下りてくる直也とすれ違う藤岡。
藤岡「あれ? 今のガキさっきの……」
   藤岡の元に来る佐々木真(33)。
佐々木「よっ、藤岡」
藤岡「ホラ先……じゃない、佐々木先生」
佐々木「別にいいぜ。『ホラ吹き先生』略して『ホラ先』。その呼び方、結構気に入ってるから」
藤岡「それが嘘なんじゃないですか?」
佐々木「それよりお前のクラス、売上金盗まれちまったんだろ?」
藤岡「(驚いて)何で知ってるんですか?」
佐々木「そりゃあ、俺、犯人知ってるから」
藤岡「……はいはい」
佐々木「あ~、信じてねぇだろ」
藤岡「だってホラ先だし」
佐々木「じゃあ、教えてやるよ」

○同・二階廊下
   女子生徒の前に立つ速水。
速水「君は大泥棒だね。僕の心を、盗んだ」
   無視して去って行く女子生徒。
速水「何がいけないんだろうな……ったく」
   速水の元にやってくる紫音。
速水「ねぇねぇ、お姉さん。かわいい高校生とお茶してみない? もちろん、奢……」
紫音「あ~、私、そういうのダメなんで」
   速水の元から離れる紫音。
紫音「あ~あ、音楽室も誰もいなかったし……教室でも行ってみるか」

○同・三年三組・中
   中に入ってくる紫音。
紫音「うわ~、ここも変わってないな~……あっ」
   部屋の隅でノートパソコンを操作している荒木に近づく紫音。
紫音「(荒木のヘッドホンを外して)お客さんだぞ」
荒木「(驚いて)うわっ。あ、倉田先輩!」
紫音「よっ」

○同・三階廊下
   トボトボと歩いている高杉。
高杉「あ~あ、倉田先輩さえいれば、こんな事しなくて済むんだろうにな……。空いてる教室なんてないし……。あ、屋上って今日開いてるのかな……?」
   廊下の片隅に掲げられている「わらしべ屋」の看板。そこに座っている幸。素通りする高杉。
   わらしべ屋にやってくる朋子。
朋子「あら、ここは何のお店?」
幸「ここは『わらしべ屋』。僕の店だ」
朋子「わらしべ……物々交換していく、わらしべ長者の、わらしべ?」
幸「その通り。そして今の商品は、コレだ」
   うちわを見せる幸。
朋子「面白そうね。交換するものは何でもいいのかしら? 例えば……(カバンの中を探り)このメロンパンとか」
幸「いいだろう。交渉成立だ」
   メロンパンとうちわを交換する幸。
朋子「じゃあ、頑張ってね」
   その場を去る朋子。
   入れ違いで通りかかる舞。
幸「メロンパンは欲しくないかね?」
舞「え? あ、いえ、結構です」
   その場を離れる舞。ため息をつく。
舞「何逃げてんだろ、私……」

○同・一階階段
   並んで歩いてくる沙織と宮内。
沙織「それにしても、クイーンは見つかったのかしら? 村上さんから連絡は?」
宮内「いえ、まだ」
沙織「そう。じゃあ一応、探偵さんにも連絡しておいた方がいいかしら」
宮内「探偵に連絡ですね。わかりました」

○同・三年三組・中
   ストラックアウトに挑戦中の女子生徒の姿を見学している瀬戸と井上。
瀬戸「(スカートの中を覗きながら)ナイスピッチング~。……で、ルイージさん、探偵って何?」
井上「生徒会の中に書記とか会計みたいな感じで探偵ってのがいるんだって。だから、こんな事してたらいずれバレるって」
瀬戸「大丈夫、大丈夫。だからルイージさんも一緒にやろうよ。ダンス練習よりよっぽど楽しいよ? (スカートの中を覗きながら)ナイスピッチング~」
井上「ったく……」
   部屋の隅に並んで座る荒木と紫音。
荒木「先輩はあいかわらず、音楽続けてるんスか?」
紫音「まぁ、一応……」
荒木「やっぱりドラム?」
紫音「ドラムも、時々……」
荒木「他にもやってるんスか?」
紫音「……歌、とか?」
荒木「マジっスか、ボーカルっスか」
紫音「不本意ながら、ね」
荒木「いいじゃないっスか。先輩、歌上手いんスから」
紫音「コーラスとは訳が違うよ」
荒木「で、先輩はどんなマイクロフォンの握り方してるんですか?」
紫音「え……あっ。(首飾りをマイクに見立て、独特な握り方を見せて)こうかな」
荒木「(『僕の右手』の歌にのせて)見た事もないような、マイクロフォンの握り方で~」
紫音「(『僕の右手』の歌にのせて)聞いた事もないような、歌い方をするよ~」
荒木&紫音「(『僕の右手』の歌にのせて)だから 僕の右手を知りませんか~?」
   笑う荒木と紫音。
荒木「さすが倉田先輩。この速さでブルーハーツ合わせてくれるヤツ、他に居なくて……あれ、先輩のハート……」
紫音「ん?」
   自分が付けている首飾りを紫音に見せる荒木。二人の首飾りを重ねるとハートの柄が一致している。驚いて顔を見合わせる荒木と紫音。

○同・写真部部室・中
   二人の首飾りを重ねて(二人の柄は全然違う。ちなみに、双葉のハートの柄は赤地に黄色のボーダー)一つのハートを作ってポーズをとる須賀と双葉。
   カメラを構える湊。撮る。
    ×     ×     ×
   プリントアウトされた写真を持って出て行く須賀と双葉。
双葉「ヨッシー、かっこよく写ってるね~」
須賀「そういうフーちゃんもかわいいぜ~」
湊「ありがとうございました」
   ため息をつく湊。廊下に面した窓際に座る。手には須賀と双葉の写真(渡したものと同じもの)とフォトブック。
湊「私の腕はこんなもんか……」
   フォトブックを開く湊(中の写真は見えない)。
湊「あ~あ、藤岡先輩を撮りたいな~」
   廊下を眺める湊。歩いてくる藤岡。
湊「嘘っ、本物キタ~!」

○同・同・前
   歩いている藤岡。
藤岡「二年二組、カップル喫茶で~す」
   すれ違う生徒達に笑顔で首飾りを配って回る藤岡。残る首飾りはあと一個。
藤岡「これさえ無くなれば……」
   藤岡の元にやってくる佐藤。焼きそばを食べながら歩いている。
藤岡「二年二組、カップル喫茶で~す」
佐藤「(手が離せず)あ~、俺はいいや」
   藤岡の元を離れて行く佐藤。
藤岡「……ちぇっ」
    ×     ×     ×
   焼きそばを食べ終える佐藤。ゴミを袋に入れる。
佐藤「あ~、食った食った」
   ゴミ箱を見つける佐藤。ゴミの入った袋をゴミ箱に向けて投げようと投球モーションに入るも、途中で止める。
佐藤「……野球は終わったんだよ」
   投げずにゴミをゴミ箱に捨てる佐藤。
佐藤「今食ったばっかなのに、引退して体動かしてねぇのに、まだ腹減るか、俺」

○同・屋上階段
   最上段にたむろする望月ら不良生徒と下の段に立つ高杉。
望月「俺らは腹減ったんだよ」
高杉「はぁ……。あの、僕は屋上に行っていいか聞いただけなんですけど……」
望月「だから『ダメだ』って言った後に『俺らは腹減った』って言ったんだよ」
高杉「そう言われましても……」
望月「俺らはここ離れられねぇからよ。お前買ってこいよ」
高杉「でも僕は……」
望月「(にらみを利かせて)……なんだ? 嫌なのか?」
高杉「……行かせていただきます」

○同・二年二組・中
   机に突っ伏している彩芽。彩芽以外には福士しか居らず、客はいない室内。
彩芽「お金は盗まれるし、お客さんは来ないし、店番も誰もいないし……死にたい……屋上から飛び降りてしまいたい……いや、もう飛び降りよう……」
   フラフラと立ち上がる彩芽。
彩芽「福士君、留守番お願い。ちょっと屋上行ってくるから」
福士「屋上で何しようってんだ?」
彩芽「……福士君風に言えば『フェスティバる』ため?」
福士「おう、行ってこい」
   教室を出て行く彩芽。

○同・同・前
   教室から出てくる彩芽。自分の首飾りを握りしめる。
彩芽「どうせ、こんなハートの首飾りなんて何の役にも立たないから……」

○同・写真部部室・前
   加奈の前に立つ速水。首飾りの柄は別々。
速水「あれ、首飾りの柄、一緒じゃない?」
加奈「え~? いやいや、違うよ~」
速水「本当だ。でもせっかくだし、一緒にお茶でもどう? 奢るからさ」
加奈「ん~、ごめんなさい。今ちょっと人探ししててさ」
   写真部と反対側に歩き出す加奈。
速水「いい手だと思ったんだけどな、この首飾り。まぁ、もう少しやってみるか」
   速水の方に歩いてくる舞。
速水「あれ? ねぇねぇ、首飾りの柄、俺のと一緒じゃない?」
舞「え? あ……」
   柄が一致している速水と舞の首飾り。
速水「あ、本当に? これは奇跡だ、運命だよ。どう? 俺と一緒にお茶しない? もちろん、奢るからさ」
舞「えっと……」
   舞の視線の先、加奈の姿。(加奈からは速水の影で見えていない)。
舞「と、とりあえず中に……」
速水「え……?」
   速水を引っぱり、部室の中に入る舞。
加奈「あ、いた」
   加奈の前方、藤岡の姿。藤岡に駆け寄る加奈。藤岡と腕を掴む。
加奈「藤岡君見っけ~」
藤岡「あ……」
   逃げようとするも逃げられない藤岡。
加奈「ちょっと、何で逃げるの~? で、どう? 元気~?」
藤岡「いや、まぁ、元気だけど……」
   そのまま歩いて行く藤岡と加奈。
   その様子を室内の窓から見ている湊。
湊「え、え、何? どういう事?」
   部屋から出てくる湊。藤岡と加奈の後を追って行く。

○同・同・中
   扉の隙間から外の様子をうかがっている舞。室内には他に速水と石川のみ。
舞「ふ~……。(速水に)あ、すみませんでした。いきなり」
速水「いいよ、いいよ。まずは記念写真を撮ろうって事だろう? OK、OK。もちろん、俺が奢るから」
舞「はぁ……」
速水「じゃあ、写真一枚よろしく~」
   写真展側から出てくる石川。
石川「……悪いが、お引き取り願おう」
速水「は? 何でだよ」
石川「私は美しいものしか撮らないのさ」
速水「ほう、俺たちが美しくねぇって言いたい訳か」
石川「(速水を指し)君は問題外さ。懺悔でもして心を浄化するといい」
速水「うっ……」
石川「(舞を指し)君は……惜しいね。素材は十分だ。そうだな……『もっと自分に正直に生きる』事をおすすめしよう」
速水「場所変えようか、ね?」
舞「はぁ……」

○同・一階廊下
   腕を組んで歩く藤岡と加奈の様子を離れた場所から見ている湊。
湊「何話してるんだろう……?」
    ×     ×     ×
藤岡「……とにかく、そういう事だから」
加奈「わかった、それでいいんじゃない?」
藤岡「え?」
加奈「ところでさ、舞見なかった? 教室にはいなかったんだけどさ」
藤岡「いや、わからねぇけど」
加奈「そっか。ならいいや。じゃあね」
藤岡「え、終わり?」
加奈「あ~、何か他に聞きたかった事があった気がするんだけど、まぁいいや。藤岡君の意見は聞いたし。あとは何とかなるよ」
藤岡「まぁ、ならいいんだけど」
加奈「それより、あの娘の方が用事あるみたいだけど?」
   振り返る藤岡と加奈。そこに立っている湊。
湊「あっ……」
加奈「ずっと付いてきてたみたいだよ?」
藤岡「……誰?」
加奈「一年一組の渡部湊さん。後夜祭で漫才やってくれるんだよね」
藤岡「えっと……渡部さん、何か用?」
湊「あ、あの……私、写真部なんです。去年の写真、見ました」
藤岡「あぁ……」
湊「私、感動しました。心が浄化される、っていうか、嫌な事があったら先輩の写真を見てます。今日も、昨日も、多分明日も」
藤岡「そんな大げさな」
湊「大げさなんかじゃないです。私の生きる支えなんです。だから私も、誰かの心の支えになるような、そんな写真を撮りたいんです、今日。よろしくお願いします」
藤岡「いや、悪いけど俺、今日は……」
湊「い、いえ、そんな事……。あ、あの、お近づきの印にソレ、私に頂けませんか?」
   藤岡の持つ配布用の首飾り(実は男用だが湊は気付いていない)を指す湊。
藤岡「これ? いや、でもこれは……」
湊「お願いします!」
藤岡「……まぁ、いっか」
   首飾りを湊に渡す藤岡。
湊「ありがとうございます、家宝にします」
藤岡「だから大げさだって。じゃあな」
   その場を離れる藤岡。
藤岡「俺なんかが『生きる支え』なんて、大げさなんだよ……」
    ×     ×     ×
   並んで立つ加奈と湊。
加奈「あ~、思い出した~」
湊「え、何を?」
加奈「藤岡君のクラスの半田さんって人の家がね、泥棒に入られたって聞いたから、本当なのかなって」
湊「え、それって結構大変な事ですよね」
加奈「あ~、そういえば『ここだけの話』って言われてたんだった。まぁ、今だけの話って事でよろしく」
湊「はい、今だけの話……あれ、そういえば今何時ですか?」
加奈「今? 一一時二〇分だよ?」
湊「ヤバッ!」
   駆け出す湊。

○同・一年一組・前
   たこ焼きを食べながら待つ泉。
泉「遅い!」
   たこ焼きを口に運ぶ泉。
泉「しっかし、このたこ焼きは何やねん。関西人ナメてんのと違うか? こんなん美味い言う奴、信じられへんわ」

○同・三階階段
   並んで歩く沙織と宮内。宮内の手にはたこ焼きのパックがある。
宮内「会長、食べないんですか? 美味しいですよ」
沙織「今は仕事中」
宮内「え、売場巡回はもう終わって……」
沙織「巡回が終わったら、次よ。私の仕事はここにいる全員が、最後までこの文化祭を楽しむ事なんだから」
宮内「でも、それだと会長が……あっ」
   沙織のスカートをめくる直也。
直也「ふ~ん、白なんだ」
沙織「な……」
   逃走する直也。沙織に駆け寄る宮内。
   その際、たこ焼きが床に落ちている。
宮内「会長、大丈夫ですか?」
沙織「何なの? あの子」
宮内「さぁ……調べますか?」
沙織「お願い」
宮内「わかりました。(足下のたこ焼きに気付き)あ、たこ焼き……」

○同・屋上階段
   最上段にたむろする望月ら不良達と下の段にいる高杉。床に落ちるたこ焼き。
高杉「あ、たこ焼き……」
望月「誰がたこ焼きなんて頼んだ? 俺はメロンパン買ってこい、って言ったよな」
高杉「でも、その、今日は売店も閉まっててメロンパンなんてどこにも……」
望月「いいから買ってこいよ」
高杉「……はい」

○同・三階廊下
   トボトボと歩く高杉。
高杉「そんな事言ったって、無いものは無いんだから……」
   わらしべ屋の前で足を止める高杉。店頭にあるメロンパンを指す幸。
幸「どう? メロンパン欲しくないかい?」
高杉「!? 欲しいです! い、いくらですか?」
幸「お金じゃない。ここは『わらしべ屋』だぞ? 物々交換だ」
高杉「物々交換って……何と?」
幸「それは、僕が欲しいと思うものさ」
高杉「そんな事言われても……(ポケットから絆創膏を取り出して)絆創膏とか」
幸「ダメだ」
高杉「(ポケットからボールペンを取り出して)ボールペンとか」
幸「ダメだ」
高杉「え~、他に持ってるもの……」
幸「そのハットと交換なら、構わないよ」
高杉「それはちょっと……(ポケットからハンカチを取り出して)ハンカチとか」
幸「僕はそのハットが欲しい」
高杉「そんな……、コレ今日の衣装だし……」
幸「どうするんだい? 君はこのメロンパンが欲しくないのかい?」
高杉「それは……」
   ハットの縁を握り締める高杉。

○同・二年二組・中
   向かい合ってドリンクを飲んでいる荒木と紫音。荒木は相変わらず青いハットをかぶっている。
紫音「え? ドラムなしでやるつもり?」
荒木「だって、先輩以上のドラムが見つからないんスもん。……あ~あ、先輩達とやってた頃が懐かしいっスよ。去年のバンド、最高だったんスけどね~」
紫音「……私も。懐かしいよ」
荒木「やっぱりバンド名を受け継いだ以上、名前に恥じないバンドにしたいんスけど、どうしても去年に劣って……。ブルーハーツの曲にもこんな歌詞があるじゃないスか。『諦めるなんて、死ぬまでないから』って」
   笑い出す紫音。
荒木「? どうしたんスか?」
紫音「ううん、別に。私も去年、同じような事思ってたなぁ、って」
荒木「そうだったんスか?」
紫音「ねぇ、これから音楽室行かない?」
荒木「音楽室っスか? でも今、鍵かかってるから……」
紫音「あれ、諦めるの? 甘いね、甘々だね。あの部屋の鍵の開け方、教えてあげるよ」

○同・同・前
   開いたドアから中にいる荒木と紫音の様子を見ている舞。舞の後ろには速水もいる。
速水「あのさ、ここやめない?」
舞「え?」
速水「ここ入りづらいっていうか……無料になるのはわかるけど、俺奢るからさ。別の店にしようよ」
舞「……私も、そう思ってた所です」
速水「本当に? じゃあ行こう行こう」

○同・三階廊下
   並んで歩く舞と速水。
速水「いやぁ、気が合うっていうか、運命の赤い糸を感じるねぇ」
舞「はぁ……あっ」
   わらしべ屋の前を通る舞と速水。店頭にあるハットを指す幸。
幸「このハット、何かと交換しないかい?」
舞「コレ……」
速水「どうしたの? 舞ちゃん」
   カバンの中を探る舞。紫色のクラスTシャツを取り出す舞。
舞「交換って何でもいいんですか? 例えばこのTシャツとか」
幸「ほう、二年二組のクラスTシャツか。面白い。交渉成立だ」
舞「ありがとうございます」
速水「そのハット、どうかしたの?」
舞「う~ん……何となく、ですかね」
   わらしべ屋に置かれたTシャツ。

○同・屋上階段
   最上段にたむろする望月ら不良達。メロンパンを食べている望月。
   そこにやってくる彩芽。
望月「ここは俺らのテリトリーだ」
彩芽「お願いします。ちょっと飛び降りるだけなので……」
望月「訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇよ。さっさと教室帰んな」

○同・二階廊下
   トボトボと歩く彩芽。
彩芽「死ぬ事すら出来ないなんて……あぁ、もう死にたい……」
   彩芽の元に駆け寄り、スカートをめくる直也。
直也「何だよ、見せパンかよ」
   走り去って行く直也。
彩芽「……何? 今の……」
   彩芽の元にやってくる佐々木。
佐々木「おう、半田。どうかしたか?」
彩芽「いや、今、スカートを……」
佐々木「ん? (直也の背中を見つめ)あぁ悪いな。今の、俺の息子なんだ」
彩芽「……ホラ先、独身ですよね?」
佐々木「隠し子、ってヤツだ」
彩芽「バカにされてる……先生にも、子供にも……もう死にたい……」

○同・生徒会室・中
   電話中の宮内と、向かい合って立つ沙織。受話器を置く宮内。
宮内「やはり、今日だけで多くの女子生徒がスカートめくりの被害にあっているようです。全て、犯人は小学生だと」
沙織「いくら子供のいたずらとはいえ、看過できないわね。宮内君、悪いけど校内の巡回をお願いできる?」
宮内「わかりました。会長は?」
沙織「もちろん、後で行くわ。ただ、先に別件を済ませておきたくて」
宮内「わかりました。では行ってきます」
   部屋を出て行く宮内。受話器を手に取る沙織。
沙織「もしもし? 今から来れる?」

○同・一階階段
   階段を上る女子生徒のスカートの中を覗く瀬戸と井上。
瀬戸「は? 今から?」
井上「そう。いい加減ダンスの練習を……」
瀬戸「だから、俺はそんな事しないって」
井上「だからって、こんな事してんのバレたら、最悪『公式戦出場禁止』とかになっちまうぞ?」
瀬戸「何言ってんの今更。それに、ここまで来たらルイージさんも同罪だからね」
井上「え、俺も?」
瀬戸「ほら、来た。伏せて」
   階段を上る女子生徒のスカートの中を覗く井上。そこにやってくる藤岡。
藤岡「何してんだ? 井上」
井上「あれ、藤岡。あれ、瀬戸は?」
   階段の影で「我、関せず」といった表情の瀬戸。
井上「あいつ……(藤岡に)別に、これは俺の意思でやってる訳じゃ……」
藤岡「俺に言い訳されてもな~」
    ×     ×     ×
   階段を上る女子生徒のスカートの中を覗く瀬戸。
瀬戸「お~」
   近くの窓辺に並んで立つ藤岡と井上。
藤岡「何で後輩の言いなりなんだよ」
井上「瀬戸は才能あるし、一年生でエースの看板背負ってるんだよ。俺より全然上だ」
藤岡「にしても『ルイージ』って」
井上「いいあだ名だろ?」
藤岡「永遠の二番手じゃねぇか」
井上「主役もやるよ。たまにだけど」
藤岡「完全にナメられてんじゃん。先輩として恥ずかしくねぇの?」
井上「『先輩として』ねぇ。そんな小さいプライドなら捨てたよ」
藤岡「捨てた? プライドを? プライド捨てちまったら、それこそ終わりだろ」
井上「そうかもな。でも小さなプライドを捨てれば、もっと大きなプライドを手に入れられるんだよ」
藤岡「大きなプライド?」
井上「チームとしてのプライドだよ。ホームランバッターがプライド捨てて送りバントしたり、速球投手がプライド捨てて変化球投げたり、本当は試合に出たいけどプライド捨てて応援ダンスを練習したり……。それでチームが勝てば、それでいい」
藤岡「そういうもんか」
井上「藤岡もプライド捨ててみれば? 何か変わるかもよ?」
藤岡「考えとくよ。じゃあな、ルイージ。マリオやヨッシーにもよろしく」
   その場を去る藤岡。
井上「マリオとヨッシーね……マリオは瀬戸だとして、ヨッシーって誰になるんだろ」

○同・二階廊下
   トイレの前に立つ須賀と双葉。
双葉「じゃあ、ちょっとだけ待っててね、ヨッシー」
須賀「いつまでも待ってるよ、フーちゃん」
   トイレに入って行く双葉。
   須賀の元にやってくる加奈。
加奈「あ~、ヨッシー先輩見っけ。元気?」
須賀「おう、元気元気」
加奈「あれ? ヨッシー先輩。そのハート、私のと一緒じゃないですか?」
須賀「え?」
   加奈と須賀の首飾り、ハートの柄が一致している。
須賀「凄ぇ、こんな事あるんだ」
加奈「何か運命感じちゃいますね」
須賀「確かに」
加奈「じゃあ、また後で」
   その場を去る加奈。
   ニヤつく須賀。気配を感じて振り返ると、背後で双葉が殺気を放って立つ。
双葉「何よ、ヨッシー。他の女相手にデレデレしちゃって」
須賀「そ、そういう訳じゃないよ」
    ×     ×     ×
   歩いている加奈。前方から佐藤が、たこ焼きを食べながらやってくる。
加奈「あ~、佐藤先輩も見っけ。元気?」
佐藤「ん? まぁ、元気は元気だな」
加奈「ならよかった。じゃあ、また後で」
   その場を去る加奈。
佐藤「? イマイチ掴めないよな、あの娘」
   たこ焼きを食べ終える佐藤。その後方で双葉にビンタされている須賀。
佐藤「え~っと、この辺にゴミ箱は……」

○同・進路相談室・前
   「進路相談室」と書かれた表札。ドアの脇にゴミ箱が置いてある。そこにゴミを捨てる佐藤。
佐藤「(表札を見て)進路相談室、か……」
   ドアに手をかける佐藤。鍵がかかっていて開かない。
佐藤「そりゃそうだよな……」

○同・音楽室・中
   扉が開き、入ってくる荒木と紫音。荒木はベースを担いでいる。
紫音「(ドヤ顔で)どう?」
荒木「いや……まさかこんな開け方があったなんて……」
紫音「(部屋を見回し)わ~、懐かし~」
   部屋を見回す紫音の様子を見ながら、ベースをセッティングする荒木。
荒木「(ドラムを指し)倉田先輩も、叩いてみたらどうっスか?」
紫音「さすがにそれは……遠慮しとく」
荒木「そうっスか。久々に倉田先輩とセッションしたかったんスけどね」
紫音「……今セッションしても、基宏の気持ちは救われないと思うけど」
荒木「え?」
紫音「基宏は過去ばっか見すぎなんだよ。そりゃあ、去年のバンドは最高だったかもしれないけど、じゃあもう一度同じメンバー集めてライブでもする?」
荒木「そりゃ、出来るならやりたいっスよ」
紫音「でもみんな、一旦は別々の道に進んだの。色んなものを得て、色んなものを失って。だから、仮に集まったとしても、それはもう別のバンド。想い出に浸る事なんてできないよ」
荒木「別に俺、そんなつもりは……」
紫音「私もそうだったから、わかる。想い出に浸るのは楽だから。でも気付いた。そこからは何も生まれない、って」
荒木「気付いて、先輩はどうしたんスか?」
紫音「過去ばっか見てないで、今を見る事にした。今のメンバーに来年、『去年のメンバーが最高だった』って言ってもらえるような、そんなライブをやろう、って」
荒木「……そうだったんスか」
紫音「ブルーハーツの曲にこんな歌詞がある。
『でたらめばかりだって、耳をふさいでいたら、何にも聞こえなくなっちゃうよ』ってね」
荒木「確かに、そうっスね」
紫音「あ~あ、こんな説教臭い話するつもりで来たんじゃなかったんだけどな。ごめんね。私、席外すからさ、ちょっと一人で考えてみなよ」
   部屋を出ようとする紫音。
荒木「倉田先輩、あの……」
紫音「どんなに頑張っても、どんなに後ろ向いても、そこには戻れないんだよね」
   部屋から出て行く紫音。

○同・同・前
   部屋から出てくる紫音。
紫音「もう、戻れないんだよ……」
   歩き出す紫音。

○同・同・中
   一人たたずむ荒木。
荒木「今を見る……今のメンバーを……」

○同・三階廊下
   わらしべ屋の前に座り込む高杉。
高杉「ハット、売れちゃったんですか?」
   紫色のクラスTシャツを指す幸。
幸「あぁ、このTシャツと交換でな」
高杉「僕の、ハットが……よりによって、こんなTシャツと……。あの、一体どこの誰が僕のハットを……」
   横からやってくる須賀。高杉を押しのける。
須賀「おい、水嶋。(自分の首飾りを指し)赤に黄色のボーダー柄のハート、見なかったか? 男用」
幸「さぁ、見てないな」
須賀「見つけたら、連絡してくれ。俺とフーちゃんの未来のために」
幸「わかった、承ろう」
高杉「ちょ、ちょっと、僕の話がまだ……」
須賀「あ~、もう。コレやるからお前は黙ってろ」
   首飾りを高杉の首にかける須賀。
高杉「別に、こんなの……」
   既に高杉が眼中にない様子の二人。
須賀「俺は代わりに何を用意すればいい?」
幸「安心したまえ。君は既に僕の欲しいものを持っている」
須賀「は?」
高杉「……うぅ」
   その場を立ち去る高杉。

○同・三階階段
   トボトボと階段を下りる高杉。
高杉「どうしよう……。あ、そうだ。僕が練習場所さえ見つけなければ、まだもう少し時間は稼げるハズ。その間に何とか……」
   高杉のスマホに通知音。荒木から「音楽室使えるようになったぞ」というメッセージが届く。
高杉「……。う~……僕のハット~!」

○同・一年一組・前
   中から出てくる舞と速水。ともに顔面蒼白。
速水「だ、大丈夫だった……?」
舞「わ、私より、先輩の方がヤバそうに見えますけど」
速水「ハハ、格好悪い所見せちゃったかな。次、名誉挽回で格好いい所見せるからさ、もうちょっと付き合ってよ」
舞「……じゃあ、もうちょっとだけ」
   並んで歩いて行く舞と速水。
   そこにやってくる湊。
湊「やっぱ、もういないよな~……ん?」
   壁に貼られたメモを見つける湊。「待ちくたびれた 12時に再集合 泉」と書かれたメモ。
湊「一二時か……(腕時計を見て)あれ、でももう一二時過ぎてる……?」

○同・三年三組・中
   ストラックアウトに挑戦中の泉。的にはパネルが残り一枚。泉の隣で佐藤も見守っている。
泉「あと一枚で、パーフェクト……」
佐藤「凄ぇな、桐山。お前マネージャー辞めて選手になれよ」
泉「佐藤先輩、ちょっと黙っとってもらえます?」
佐藤「……すまん」
   深呼吸する泉。
泉「行くで」
   静まり返る室内。他の生徒達も固唾をのんで見守っている。
   振りかぶる泉。今まさに投げよう、という時に入ってくる双葉。
双葉「もう聞いてよ、ヨッシーったら……」
   的から外れるボール。
佐藤「あっ……」
   何とも言えない空気の室内。
双葉「(察して)……え? 何?」
泉「な~~~にしてくれとんねん、自分!」
   双葉に詰め寄る泉。
泉「人の一世一代の大勝負を邪魔しよって、何が『ヨッシーったら』やねん、アホ。そもそも自分……」

○同・一年一組・前
   壁に貼られたメモを見る泉。「待ちくたびれた 1時に再集合 湊」と書かれたメモ。
泉「アカン、やってもうた……こうなったらもうこの場所意地でも動かんで」
   スマホを取り出す泉。通話開始。
泉「もしもし、ヒデ? え? せやから来んでええわ。そんな事より、ちょっと話聞いてや」

○同・生徒会室・中
   一人たたずむ沙織。扉が開き、加奈が入ってくる。
加奈「あ、会長。話って何ですか?」
沙織「決まっているでしょう? ミスコンの件よ。クイーンは? どうなった?」
加奈「う~ん……多分、出ないと思います」
沙織「え?」
加奈「だから、大トリはどうしようかな~、って今考え中です」
沙織「ちょっと待ってよ。わかってるの?  楽しみにしてる人が大勢いるのよ? なのにクイーンが出なかったら……」
加奈「でも、それでクイーン自身が楽しめなかったら、意味ないんじゃないですか?」
沙織「え? それは……」
加奈「大丈夫、何とかなりますよ」
沙織「……」

○同・写真部部室・中
   入ってくる湊。
湊「全然練習できないんだけど、大丈夫なのかな……?」
   瀬戸の投球フォームを写真に撮っている石川と、離れた場所に立つ井上。
石川「いいねぇ、美しい投球フォームだ」
瀬戸「でしょ? どんどん撮ってよ」
   井上の隣にやってくる湊。
井上「あれ、確かウチのマネージャーの相方さん、だったよね?」
湊「はい、そうです。……すみません、これは一体どういう状況なんですか?」
井上「うん……それがね……」
   瀬戸の撮影を続ける石川。
瀬戸「たっぷり撮ったら、後はわかってますよね、石川さん」
石川「あぁ、君のご要望通り、女子のスカートの中、絶妙の美しいチラリズム写真を撮ってくる事を約束しよう」
井上「……っていう状況です」
湊「……今地球上で最も低俗な会話ですね」
井上「バカな後輩を持つと苦労します」
湊「バカな先輩を持っても苦労しますよ」
   同時にため息をつく湊と井上。
井上「あ、二年二組の井上塁と言います」
湊「あ、一年一組の渡部湊です。二年二組……あぁ、あの泥棒の?」
井上「泥棒? 何の話ですか?」
湊「あ、いや……さっき聞いたんですけど、二年二組の半田さんって人が、何か泥棒に盗まれた、って」
井上「半田さんが?」
湊「すみません、ここだけの話って言われてたんで……」
井上「うん、黙っとく」
   石川と瀬戸に目をやる湊と井上。
石川「誰の写真がお望みかな?」
瀬戸「そうだな……ルイージ先輩のクラスのかわいい子、確か……そう、舞ちゃん!」

○同・三年三組・中
   舞が見守る中、ストラックアウトに挑戦中の速水。的から外れるボール。パネルは二枚残っている。
速水「あ~、残念」
   速水にメダルを渡す双葉。
双葉「記録七枚だから、メダルね」
速水「おう、サンキュー。どう、舞ちゃん。俺、格好よかった?」
舞「凄かったです。野球上手いんですね」
佐々木「まぁ、元野球部だからな」
   速水の隣の台でストラックアウトに挑戦中の佐々木。
速水「ホラ先、いたんだ」
佐々木「特に相手投手のモーション盗むのが上手で、チームの盗塁王だったんだよな」
舞「それは、本当なんですか?」
速水「うん、まぁ……」
   的から外れる佐々木のボール。
双葉「ホラ先の記録は四枚だね」
速水「何か中途半端な記録」
佐々木「何言ってんだ。俺は四枚じゃなきゃいけない理由があるんだよ」
   うちわを受け取り、出て行く佐々木。
舞「今のは、きっと嘘ですよね」
速水「だろうね。まぁ、いいや。気を取り直して、次は舞ちゃんがやってみなよ」
舞「え? 私ですか?」
速水「大丈夫、俺が奢るから」
舞「いや、そうじゃなくて……」

○同・三階廊下
   並んで歩く舞と速水。舞はうちわを持ち、速水はメダルを下げている。
速水「記録二枚、凄ぇじゃん」
舞「どこがですか? 全然ですよ」
速水「だって、俺は七枚だろ? 二人足せば九枚、パーフェクトじゃん。やっぱ俺達、運命で結ばれてるんだよ」
舞「凄い解釈ですね」
速水「という訳で、後夜祭も一緒にどう?」
舞「え、後夜祭、ですか……?」
速水「そう。……あ、そうか。舞ちゃんは出る側だったっけ」
舞「……いや、私、出ない事にしたんで。大丈夫ですよ」
速水「本当に? よっしゃ、じゃあ決まりだね。いや~、楽しみだ」
舞「……」
   二人の元にやってくる福士。
福士「よう、カップルか。いいね、フェスティバってるね~」
   そのまま去って行く福士。
速水「何だあれ?」
舞「あぁ、ああいう人なんで」

○同・二階階段
   並んで階段を上る井上と瀬戸。そこに階段を下りてやってくる福士。
福士「よう、野球部。先輩後輩か。いいね、フェスティバってるね~」
   そのまま去って行く福士。
瀬戸「何だあれ?」
井上「あぁ、ああいう奴なんだ。……にしても残念だったな、瀬戸。渡部さんが邪魔してくれたおかげで、写真撮影の件、パーになっちゃって」
瀬戸「ルイージさん、全然残念そうに見えないけど?」
井上「そう? まぁ、諦めてさ、このままダンス練習に……」
   カメラを見せる瀬戸。
瀬戸「こっそりカメラ貸してくれたから、大丈夫。自分でやるよ」
井上「いつの間に……。瀬戸さ、いい加減ヤバイだろ、それ。もう野球の練習関係なくなってるし」
瀬戸「何言ってんの、バッティングで大事なのはタイミングでしょ? 早すぎず遅すぎず、ジャストのタイミングでシャッターを押す。これも立派な、野球の練習」
井上「そんなの……あ、ヤバっ」
   二人の前方から下りてくる沙織。
井上「会長だぞ、隠せ隠せ」
瀬戸「オドオドしすぎだよ、ルイージさん。堂々としてなって」
   二人の元にやってくる沙織。
瀬戸「お疲れさま、会長さん。一枚どう?」
沙織「あら、野球部がカメラ?」
瀬戸「ダメ?」
沙織「別に構わないけど。それより、変な小学生見なかった?」
瀬戸「変な小学生?」
井上「何がどう変なんですか?」
沙織「早い話、女子のスカートをめくって周ってるらしいの。見かけてない?」
瀬戸「へぇ、そんな小学生がいるんだ……。(小声で)使えるかも」
井上「え?」
瀬戸「会長さん、貴重な情報ありがとう。お礼に……そうだ『ここだけの話』教えてあげる」
沙織「ここだけの話?」
瀬戸「(小声で)二年二組の半田さんって人、泥棒に盗まれて育った子供なんだって」
沙織「(小声で)それって、幼い頃に誘拐された、って事?」
瀬戸「(小声で)そういう事だと思うよ」
井上「(二人の会話が聞こえておらず)おいここだけの話って何だよ」
瀬戸「さぁね? じゃあ、これで貸し借り無しって事で。会長さん、またね」
   その場を去る井上と瀬戸。
沙織「そう、あの子にそんな辛い過去があったなんて……」
   考え込む沙織。
   その沙織を追い越して歩く紫音。
紫音「あ~あ、何やってんだろ、私……」
智恵「倉田さん?」
   顔を上げる紫音。そこに立つ智恵。
紫音「先生! お久しぶりです」
智恵「やだ~、来てたの? 仕事は? 忙しいんじゃないの?」
紫音「それは……まぁ……」
智恵「そうだ、せっかくだからゆっくり話しましょうよ。空いてる部屋使って。ね?」
紫音「……はい」
   そこにやってくる福士。
福士「よう、恩師と卒業生の再会、いいね、フェスティバってるね~」
   そのまま去って行く福士。
紫音「何ですかあれ?」
智恵「あぁ、ああいう子なのよ」

○同・一階階段
   階段を上る藤岡。やってくる福士。
福士「よう、藤岡」
藤岡「おう、司。フェスティバってるか?」
福士「おかげさまでな。そっちはどうした? 全然フェスティバってねぇじゃねぇか」
藤岡「何言ってんだよ、(おどけた動きを見せて)この通り、フェスティバってるぜ」
福士「俺にごまかしは通じないぜ? まぁ、いいや。祭りが終わるまでには、フェスティバれるようになれよな。じゃあ」
   その場を去る福士。
藤岡「(真顔になり)……るせぇ」
泉の声「人の気も知らんで、適当な事言わんといてや」

○同・一年一組・前
   スマホで通話中の泉。
泉「こっちはあと一枚でパーフェクトやったんやで? それを……」
   そこにやってくる直也。泉のスカートをめくる。
泉「ぎゃっ」
直也「何だよ、お前も見せパンかよ」
   走り去る直也。
泉「スカートめくられた……許さんで」
   電話を切る泉。直也を追いかけ走る。
泉「待てっ、クソガキッ!」
   直也が教室内に入る。泉も追いかけて中へ。入れ替わるようにその場にやってくる湊。
湊「泉は……まだ来てないのかな?」
   出口から出てくる直也。走り去る。
湊「(直也の姿を見ながら)?」
   入口から出てくる麗。
麗「あ、渡部さん。オタク知らない?」
湊「オタク……あぁ、小田切君? 見てないな」
麗「次、お化け役のハズなんだけど……」
湊「そうなんだ……私、探してこようか?」
麗「もう時間がないからさ、渡部さん、代わりにやろうか」
湊「え、私? いやいや、無理無理」
麗「最初に、紅、塗っとく?」
   麗に捕まり無理矢理中に連れて行かれる湊。
湊「いやああああ!」
泉の声「ぎゃああああ!」
   湊が中に入ると同時に出口から出てくる泉。息を切らしている。
泉「ハァ、ハァ、何やあれ……文化祭レベルのお化け屋敷ちゃうで、ホンマ……」

○同・校門
   明らかにヤンキーな外見の男、椿英典(17)が立っている。中に入ってくる。その様子を遠目で見ている沙織。

○同・一階廊下
   走ってくる直也。
直也「ヘヘ、ここまでくれば……」
   直也を捕まえる瀬戸。
瀬戸「捕まえたぜ、エロガキ」
直也「何だよ、離せよ」
瀬戸「バッチリ見てたぜ、お前が女子のスカートめくってる所。このまま親の所に突き出してやろうか?」
直也「嫌だ、やめてよ」
瀬戸「黙ってて欲しかったら、ちょっと俺達に協力してくれよ」
直也「協力って、何を?」
瀬戸「ちょっと、スカートめくってきて欲しい人がいるんだよ」
   瀬戸の様子をため息まじりに見ている井上。
   その脇を歩いて行く高杉。

○同・一階階段
   階段を上って行く高杉。
高杉「やっぱり、どこにもない、僕のハット……。もう、終わりだ……」
   階段を下りてくる宮内。
宮内「あ、すみません。この辺で小学生の男の子、見ませんでしたか?」
高杉「あ、生徒会の……。いや、僕は見てないです……」
宮内「そうですか。……あの、何かあったんですか?」

○同・二階廊下
   並んで歩く宮内と高杉。
宮内「そうですか、ハットを……」
高杉「もうダメです。すみません、バンドがダメになっちゃったら、生徒会の皆さんにも迷惑をかける事になりますよね」
宮内「それは別に構いませんが……一つ、正直に申し上げてもいいですか?」
高杉「何ですか?」
宮内「それは本当に、どうしようもない事なんでしょうか?」
高杉「え? だから、僕らのバンドのリーダーは厳しい先輩で、大事な衣装のハットを『売った』なんてバレたら、多分メンバーから外されて……」
宮内「自分にはそうは思えません。世の中には謝って済む事と済まない事があると思いますけど、高杉君の場合は、前者かと」
高杉「謝れば済むって?」
宮内「後は高杉君次第です。出過ぎた真似でしたら、ご容赦下さい。では」
   その場を去る宮内。
高杉「荒木先輩の事、何も知らないからそんな事が言えるんだよ……」

○同・音楽室・中
   椅子に座り、考え事をする荒木。
紫音の声「どんなに頑張っても、どんなに後ろ向いても、そこには戻れないんだよね」
荒木「俺、前向いてなかったのかな……」
   ベースを弾き始める荒木。
荒木「(『チェインギャング』の歌にのせて)過ぎていく時間の中で、ピーターパンにもなれずに~」

○同・進路相談室・前
荒木の声「(『チェインギャング』の歌にのせて)一人ぼっちがこわいから、ハンパに成長してきた~」
紫音の声「本当に前を向いてないのは、私なんです」

○同・同・中
   向かい合って座る紫音と智恵。
紫音「元々、ドラムを続けたかったんです。今の仕事も、そのチャンスが少しでもあれば、と思って始めて。でも実際、ドラム叩く機会なんて全然なくて……」
智恵「それで?」
紫音「ただ、ずっとそんな生活してたら、だんだん、自分が本当にドラムやりたいのかわからなくなってきて。自分のやりたい事が、自分の夢が、自分自身が変わってきちゃってる気がして、恐くなって」
智恵「うん」
紫音「本当は今日も仕事だったんです。でも逃げてきちゃって。ここに来れば、変わる前の自分が思い出せるかな、って」
智恵「で、思い出せた?」
紫音「少しだけ。ここも、ここのみんなも、やっぱり少しずつ変わってたから」
智恵「若いからね、みんな。変わっちゃうものなのよ。もちろん、倉田さんもね」
紫音「そういうものなんですか?」
智恵「若いうちは、変わっていくものよ。自分自身も、周りも、もちろん夢も。それが当たり前なんだから、恐れる必要なんてないのよ。どんどん変わっていけばいい」
紫音「でも、それって寂しくないですか?」
智恵「そうね、寂しいかもしれないわね。だからもし、どうしようもなく懐かしくなって、昔に戻りたい時が来たら、その時は私の所に来なさい。私は、変わらないでいてあげるから」
紫音「先生……」

○同・二年二組・中
   トボトボと入ってくる彩芽。客は誰もいない。
彩芽「全然変わってない……」
   そこにやってくる朋子。
朋子「ここ、一人でもいいのかしら?」
彩芽「あ、いらっしゃいませ。どうぞ」
朋子「ありがとう。でも一人じゃ淋しいな。よかったら、話し相手になってくれる?」
彩芽「え、私がですか……?」
    ×     ×     ×
   向かい合って座る彩芽と朋子。
朋子「(首飾りを見ながら)こういうの、私が高校生の時にもあったのよ。もう一五年も前の話だけどね」
彩芽「そうなんですか……」
朋子「ちなみに私、そのおかげで彼氏ができてね。今でもその時のカード、取っておいてるんだ。見る?」
彩芽「いいんですか?」
   財布を取り出し、掌サイズの紙を見せる朋子。紙には猫の絵の左半分が描かれている。
彩芽「大事に取ってあるんですね」
朋子「大事な思い出だからね。だからこの学校でも同じ事やってて、嬉しいな」
彩芽「でも、全然お客さん来なくて……」
朋子「いいじゃない、売り上げなんて。もしこの企画のおかげで、一組でもカップルが生まれてたら、それは貴方達のおかげ。それだけで、やった甲斐があったんだって、そうは思えない?」
彩芽「……そうですよね。ありがとうございます。おかげで自信持てました。売上金の事、正直に報告してきます」
   部屋から出て行く彩芽。
朋子「あら……? いいわね、若いって」
   自分の首飾りを見つめる朋子。

○同・三階廊下
   トイレの前に立つ速水。自分の首飾りを見ている。
速水「いい子だよな、舞ちゃん……」
   そこにやってくる佐藤。
佐藤「あれ、大輔じゃねぇか」
速水「おう、ノブか、久しぶり。……随分と髪伸びたな」
佐藤「え? あぁ、引退してから二ヶ月以上経っちまったからな」
速水「そのまま伸ばせば?」
佐藤「どうすっかな。正直、何も考える気が起きねぇよ」
速水「何だよ、らしくねぇな」
   トイレから出てくる舞。以降、後ろで二人の会話を聞いている。
佐藤「俺の最後の打席知ってるか? 最後の試合の九回裏ツーアウト、代打で呼ばれて見逃し三振、ゲームセットだ」
速水「見逃し? せめて空振りしろよ」
佐藤「俺もそのつもりだったし、チームのみんなもそう望んでたと思う。でも結果はコレだ。みんなに顔向け出来ねぇよ」
速水「じゃあ、ボール球振ってたらどうだ?ノブは後悔しなかったのか?」
佐藤「それは……」
速水「そもそも、レギュラーになれないって悟った一年前、俺と一緒に辞めてたら、後悔しなかったのか?」
佐藤「そりゃあ、後悔しただろうな。俺は大輔とは違うから」
速水「夏は海に花火、秋は祭りで冬はスノボ……。野球部辞めてからの一年は楽しかったぜ? でも、それでもふと思う時があるんだよ。『野球続けてたら、今頃どうだったんだろうな』って」
佐藤「そうだったのか?」
速水「でもあのタイミングで辞めてなきゃ、絶対後悔してた。ようは、どっちにしろ後悔すんだよ。だったら、後悔するだけムダじゃねぇの? 見逃し三振でも、空振り三振でも」
佐藤「どっちにしろ後悔してた、か……」
速水「少なくともノブは、野球を続けた。おかげで俺みたいにならずに済んだ。良かったじゃねぇか」
佐藤「……かもな」
速水「おっと、話が長くなりすぎたな。悪いけど俺は今デート中なんだ。またな。(舞に)お待たせ、行こうか」
舞「あ、はい……」
   並んで歩き出す速水と舞。
   壁に貼ってある後夜祭のポスターを見る舞。

○同・一年一組・前
   壁に貼ってある後夜祭のポスターを見ている加奈。入口に立つ麗。
加奈「ねぇ、小田切君知らない?」
麗「オタクか。私達も探しているんだが……」
加奈「だが?」
麗「朝、やけに元気だった」
加奈「そっか、ならいいや」
   歩き出す加奈。出口付近にいる泉。
加奈「あれ、泉ちゃん。元気?」
泉「あ~、村上先輩。もうアカンですわ」
加奈「え~、どうしたの?」
泉「湊と全然会えへんのですわ。今日一日もう会えへんのちゃうか、いうくらい」
加奈「そっか~。私もさ、まだ会わなきゃいけない人に会えてないんだよね。でも、大丈夫だよ。きっと」
泉「何の根拠が?」
加奈「世の中、なるようになる。会える人には会えるようになってる。だから大丈夫」
泉「……根拠薄っ」
加奈「え~、ダメかな~?」
泉「いや、ええと思います。ウチも何か、そんな気がしてきた」
加奈「そっか。じゃあお互い、会えるといいね。じゃあね」
   その場を去る加奈。
泉「ほな、ウチも待つとするか」
   出口から出てくる、お化けの特殊メイク姿の湊。
湊「泉~、やっと会えた~」
泉「ぎゃあああ! お化け~!」
湊「泉、私、私。湊」

○同・音楽室・中
   入ってくる加奈。中には荒木のみ。
荒木「おう、加奈か。生徒会の仕事は?」
加奈「まぁ、一段落。あれ、他の人達は?」
荒木「さぁな。高杉からは連絡ねぇ」
加奈「あとは?」
荒木「あと、って。他に誰かいるか?」
加奈「いるじゃん、もう一人。連絡しなきゃいけない人」
荒木「……お前が連絡しろよ」
加奈「私からじゃ電話出てくれないの。それに、先輩がやらなきゃ意味がないでしょ?自分でもわかってるくせに」
荒木「……わかったよ」
   スマホを取り出す荒木。

○同・一年一組・前
   ドアの前に立って待つ泉。
泉「練習、どこでやったらええんやろ? 本番も近いし、人の居らん場所……あ、屋上なんかええんちゃう?」
泉のスマホに着信。電話に出る泉。
泉「何やヒデ。どないしたん? え? 今?屋上に行こうとしてる所やけど……。は?何言うてんねん。ちょ……」
電話を切られる泉。教室と電話を交互に見やる。
泉「あ~、もう!」
    ×     ×     ×
   ドアが開き、メイクを落とした湊が出てくる。泉の姿はない。
湊「泉、お待たせ~。……あれ、いない」

○同・一階廊下
   走る泉。
泉「湊、堪忍な」
   首にかけたメダルが揺れる。

○同・二階廊下
   並んで立つ速水と舞。速水の首にかけたメダルが揺れる。
   二人の様子を離れた場所から見ている瀬戸、直也、井上。
瀬戸「いいか、あの娘のスカートをめくってこい」
直也「わかった」
   舞の元に駆け出す直也。カメラを構える瀬戸。
瀬戸「よし。3、2、1……」
   瀬戸と井上の背後に現れる佐々木。
佐々木「よう、何してんだ?」
瀬戸「(振り返り)げっ」
井上「(振り返り)ホラ先」
   舞の悲鳴。瀬戸と井上が前を見ると既に舞はスカートを押さえ、直也は走り去っている。
瀬戸「あ~、もうっ! ホラ先のせいでタイミング逃しちゃったじゃん」
佐々木「そうなのか? 悪い悪い、俺何も知らなかったからさ。じゃあな」
   その場を去る佐々木。
瀬戸「くそ~、この作戦、もう一回って訳にはいかないのにな……」
井上「まぁ、結果オーライ。何もせずに済んだんだから、良かったじゃねぇか」
   二人の元に戻ってくる直也。
直也「どうだ? やったぞ?」
井上「瀬戸。もう帰してやれよ」
瀬戸「わかったよ。(直也に)もう悪さすんじゃねぇぞ? わかったら帰りな」
直也「そういう訳にはいかねぇよ」
井上&瀬戸「は?」
直也「いたいけな小学生にスカートめくりを強要したんだぜ? お前ら。このまま先生の前に突き出してやろうか?」
井上「な……」
瀬戸「このガキ……」
直也「黙ってて欲しけりゃ、言う事聞きな」
井上「言う事って、何?」
直也「俺、欲しいものがあるんだよね」

○同・二階階段
   トボトボと歩く高杉。
高杉「あぁ、僕のハットはどこに……」
   そこにやってきた椿とぶつかる高杉。
高杉「あ、すみませ……」
椿「っ痛ぇな。どこに目ぇ付けてんだ?」
高杉「す、すみません。すみません」
椿「まぁ、いいや。ちょっと屋上まで案内しろ」
高杉「え? いや、今僕……」
椿「何グダグダ言ってんだよ」
高杉「……コチラです」
   階段を上っていく高杉と椿。
   二人と入れ違いで上ってくる藤岡と下りてくる佐々木。
佐々木「よう、藤岡」
藤岡「あぁ、ホラ先……佐々木先生」
佐々木「だから『ホラ先』でいいって。にしてもどうした? 浮かない顔して」
藤岡「そんな事ないですよ」
佐々木「……よし、ちょっと来い」
藤岡「え?」

○同・進路相談室・中
   向かい合って座る藤岡と佐々木。
藤岡「別に俺、ホラ先と話す事なんて……」
佐々木「俺は高校時代、つまらん学生でな。『文化祭? くだらねぇ』って、そんな風に思ってたよ」
藤岡「ホラ先?」
佐々木「でも他の奴らに、自分がそう思っている事も知られたくなくて、楽しんでるフリ、ノリのいいフリをしててな」
藤岡「……」
佐々木「楽しみたいなら、心の底から楽しめよ。楽しくないなら、正直に言えよ。自分に嘘ついてたらそのうち、嘘ついてばっかりの高校教師になっちまうぞ?」
藤岡「ねぇ、ホラ先」
佐々木「何だ?」
藤岡「今の話、ウソですよね?」
佐々木「あれ、バレた?」
   笑い出す藤岡。
藤岡「何か初めて、ホラ先も先生なんだな、って思えましたよ」
佐々木「え、嘘ついたのに?」
藤岡「だって、今先生がした話は嘘だとしても、先生が俺を元気づけようとしてくれた気持ちは嘘じゃないでしょ? 感謝しますよ、ホラ先」
   部屋から出て行く藤岡。
佐々木「……俺みたいになりたくなりたくなかったら、もう嘘つくなよ」

○同・屋上階段
   最上段にたむろする望月ら不良達。下段に立つ椿と高杉。
椿「嘘ついてんじゃねぇぞ? この先にいるんだろ? 俺の女に手ぇ出した奴が」
望月「だから誰もいねぇよ。ここは俺達のテリトリーなんだよ。立ち入り禁止」
椿「なるほど、どうしても通さねぇって訳だな。わかった、仕方ねぇ。力ずくってのも嫌いじゃねぇんだよ」
望月「ほう、やんのか? 面白ぇ」
   下りてくる望月。
   オロオロする高杉。
椿「逃げるんなら、今のうちだぜ?」
   そこにやってきて、望月と椿の間に入る宮内。
宮内「止めて下さい。ここは校内です」
椿「うるせぇ、メガネ。ケガしたくなかったら、そこをどけ」
   宮内の手を払う椿。その拍子に宮内の眼鏡が落ちる。
宮内「……自分の言う事、聞いていただけないんですか? ヒデ先輩」
椿「は? お前なんで俺の名前を……(眼鏡を外した宮内の顔を見て)宮内……? お前、何でここに……」
高杉「? 宮内君……?」
宮内「色々ありましてね。で、どうします? どうしても、って言うなら、自分が先に相手する事になりますよ?」
椿「(狼狽し)……ちっ、覚えとけよ」
   その場を去る椿。
   眼鏡を拾い、着ける宮内。
宮内「どうもお騒がせしました」
高杉「……」

○同・三階階段
   上ってくる泉と下りてくる椿。
泉「あ、ヒデ」
椿「あ、泉ちゃん。よかった、無事?」
   椿の頭を叩く泉。
泉「アホ、来んな言うたやろ」
椿「だって、泉ちゃんに手ぇ出した野郎がいたみたいだからさ」
   椿の頭を叩く泉。
泉「アホ、あんなんガキのいたずらや」

○同・三階廊下
   並んで歩く宮内と高杉。
宮内「自分は、隣の地区じゃそこそこ名の知れた不良だったんです」
高杉「それが何で生徒会に?」
宮内「それはまぁ、色々と。ただ、生徒会に入った今、自分の過去は非常にネックなんです。何せ、ケンカに明け暮れた日々は、消えませんから。例え、謝っても」
高杉「……僕、荒木先輩に謝ってきます」
宮内「本当ですか?」
高杉「宮内君が僕に厳しかった理由もよくわかりました。宮内君は今までも、これからも苦しむんだろうな、って。それに比べたら僕の悩みなんて小さいですよ。バレたって、世界が終わるような悩みじゃない」
宮内「え?」
高杉「頑張って下さいね。応援してます」
   その場を去る高杉。
宮内「そんな事言われたら、自分の悩みだって世界が終わるような悩みではありませんよ……」
   その場を去る宮内。
   入れ違いでやってくる藤岡。
藤岡「祭りを楽しむ、って言ってもな……」
   わらしべ屋の前に来る藤岡。紫色のクラスTシャツを指す幸。
藤岡「あ……」
幸「いらっしゃい、二年二組のクラスTシャツは欲しくないかい?」
藤岡「……何と交換ならいい?」
幸「そうだな……ん? それだ」
   藤岡の首飾りを指す幸。
藤岡「え? これでいいの?」
幸「ちょうど、ソレをほしがっている人がいてね」
   首飾りとTシャツを交換する藤岡。
幸「毎度あり」
藤岡「あぁ、こちらこそ」
   その場を去る藤岡。
   携帯電話で通話を始める幸。
幸「見つけたぞ。あぁ」
   電話を切る幸。
幸「いよいよ、パンドラの箱が僕のものに」

○同・三年三組・中
   張り紙に書かれた「メダル」「パンドラの箱」の文字。
   ストラックアウトに挑戦中の瀬戸と脇に立つ佐藤の元に来る井上、直也。
井上「ごめん、瀬戸。俺、三枚だった」
直也「おいおい、俺メダル欲しいって言ったんだぞ? コイツ全然ダメじゃねぇかよ」
瀬戸「待ってな、もう少しだ」
   パネルを射抜く瀬戸のボール。パネルは残り四枚。
井上「さすが瀬戸、あと一枚じゃん」
直也「ボールは?」
佐藤「残り一球」
瀬戸「よし、行くぜ」
   振りかぶって投げる瀬戸。ボールは的から外れる。
井上「あぁ……」
瀬戸「そんな……」
佐藤「はい、ゲーム終了。景品はうちわな」
瀬戸「ノブさん、そこを何とか。メダル下さい、お願いします」
井上「ノブ先輩、俺からもお願いします」
佐藤「あのさ、お前ら何でそんなにメダル欲しいんだ?」
直也「それはだな……」
   慌てて直也の口を塞ぐ井上。
井上「それは、ちょっと……」
瀬戸「野球部の未来がかかってる、としか言えないんですよ」
佐藤「まぁ、そんな事言われても、俺の権限で『ハイどうぞ』って訳にもいかねぇし」
瀬戸「そんなっ。俺ら……」
   瀬戸の肩に手を置く井上。
井上「諦めよう、瀬戸」
瀬戸「何言ってんだよ、ルイージさん。下手すりゃ俺ら退部だぜ?」
井上「全部俺が悪い事にすればいい。そうすれば瀬戸は大丈夫だろ」
瀬戸「え……。何で……?」
井上「俺が先輩だからだよ。先輩ってのは、後輩に偉そうに振る舞う人間じゃない。後輩を庇う人間だ。俺はそう思う」
瀬戸「ルイージさん……」
井上「直也君、だったっけ? ごめんね、メダルはダメだった。……あとは君の好きに するといいよ」
直也「ん~、でも何か、まだ終わってないみたいなんだけど」
井上「え?」
   的の前に立つ佐藤。
佐藤「さてと、俺も挑戦するかな」
瀬戸「ノブさん……」
井上「ノブ先輩、何で?」
佐藤「それはな、俺が先輩だからだよ。それに……」
井上「それに?」
佐藤「もう嫌なんだよ。ストライクかボールか曖昧な球、黙って見逃すのはな」
   ボールを手に取る佐藤。目を閉じる。
佐藤「一球目は内角高め、ボール球だった」
   「1」のパネルを射抜く佐藤。
佐藤「二球目は低めのカーブ。見送ればボール球だったが、俺は振った。空振りで一ボール一ストライク」
   「7」のパネルを射抜く佐藤。
井上「ノブ先輩、それ……」
瀬戸「ノブさんの最後の打席の?」
佐藤「今でも全球覚えてるよ。あの日のあの打席、自分が何を見送って何を振ったか。三球目は二球目と同じような球。今度は見送って二ボール一ストライク」
   「8」のパネルを射抜く佐藤。
佐藤「俺はずっと、みんなに顔向けできなかったよ。最後のバッターに選んでくれたのに、よりによって見逃し三振。今でも夢に見るよ」
瀬戸「ノブさんがこんなにコントロール良かったなんて……」
佐藤「勘違いするなよ、瀬戸。俺はただのへたくそだ。けどな、人は自分のためだけより、誰かのために行動する方が、より力を発揮できるもんだ」
   「9」のパネルを射抜く佐藤。
佐藤「応援してくれる奴がいるから頑張れる。頑張っている奴がいるから応援する。それがチームで、先輩で、後輩だ」
   「5」のパネルを射抜く佐藤。
佐藤「最後、六球目。外角いっぱいのストレート。俺は見逃したが……ストライク」
瀬戸「……あの日の審判、外角広めにとる人だったんです。代打で出てきたノブさんがあの球を見送るのは、無理ない事です」
井上「それにノブ先輩は最後まで勝ちにいった。最後までチームに貢献しようと、塁に出ようとしていた。だからあの球を見送ったんです。思い出作りの空振り三振より、よっぽど格好よかったです」
佐藤「お前ら……」
井上「だから、胸張って下さい。ノブ先輩は俺ら、へたくその星なんですから。じゃなきゃ、最後の打者には指名されませんよ」
佐藤「……ありがとな」
   振りかぶる佐藤。固唾をのんで見守る瀬戸、井上、直也。
   「6」のパネルを射抜く佐藤。
佐藤「しゃあ!」
瀬戸&井上「やった~!」
    ×     ×     ×
   佐藤に頭を下げる瀬戸。
瀬戸「ありがとうございました」
佐藤「気にすんな。それよりもう一人、お礼を言わなきゃならねぇ奴がいるんじゃねぇのか?」
瀬戸「え?」
佐藤「最初にお前を庇ってくれたのは?」
   井上に頭を下げる瀬戸。
瀬戸「井上先輩、ありがとうございました」
井上「何か、そう言われると恥ずかしいな」
瀬戸「あの……俺、どうお礼すれば?」
井上「そうだな……。じゃあ、今からでもやろうぜ、ダンス練習」
瀬戸「でも、今からで間に合いますか?」
井上「瀬戸の運動神経だったら、大丈夫だろ。それに……」
瀬戸「それに?」
井上「これは、先輩命令だ。来い!」
瀬戸「はい!」
佐藤「なぁ。ダンスって、何の話だ?」
井上「是非、佐藤先輩も来て下さい」

○同・音楽室・中
   入ってくる紫音。室内には荒木と加奈しかいない。
紫音「あ、加奈」
加奈「倉田先輩だ~。来てくれたんだ~」
紫音「まぁね。基宏、あのさ……」
荒木「さっきは、ありがとうございました。もしアイツが『戻りたい』って言ってきたら、迎え入れてやりたいと思います。今を最高のバンドにするために」
紫音「……わかったなら、よし。私、もう帰るから」
加奈「え~、もう帰っちゃうんですか?」
紫音「一応、仕事があるんだよね。じゃあ、また今度ゆっくり会おうね」
荒木「あ、倉田先輩」
紫音「ん?」
荒木「ブルーハーツの曲にこんな歌詞があります。『僕等は泣くために、生まれてきたわけじゃないよ』ってね」
紫音「……何言ってんの。私、泣いてないから」
   出て行く紫音と入れ違いで入ってくる高杉。
高杉「遅くなりました」
荒木「本当、いつまで待たせんだよ高杉」
高杉「色々あって……。ところで(紫音の行った方向を指して)今の人、誰ですか?」
加奈「あ~、倉田先輩」
高杉「倉田先輩?」
加奈「そう、うちのドラムの、倉田舞のお姉さん」

○同・二階廊下
   並んで歩く舞と速水。
速水「ねぇ、舞ちゃん。この後なんだけど」
舞「先輩、すみません。私……」
速水「後夜祭の事?」
舞「……やっぱり、出る事にします。もちろん、バンドのみんなが許してくれればの話なんですけど。でも、このまま途中で辞めたら、私きっと……」
速水「俺みたいになっちゃう、って?」
舞「……今ならまだ間に合うと思うし、今を逃したらきっと一生後悔すると思うから、だから、後夜祭一緒には……」
速水「そっか。まぁ、仕方ないよね」
舞「……すみません」
速水「謝る相手は、俺じゃないんでしょ? 本番、楽しみにしてるから」
舞「はい。今日はありがとうございました」
   その場を去って行く舞。
速水「今ならまだ間に合う、か……」
   舞の背中を見送っている速水。
泉の声「もうこっち戻ってくるんやないで」

○同・一階廊下
   並んで歩く泉と椿。
泉「また問題起こされたら敵わんからな」
椿「わかったよ。……ん?」
   壁に貼られた後夜祭のポスター。「ミスコン」の部分を指差す椿。
椿「ここ『ミスコン』なんてやるんだね。当然、泉ちゃんも出るんだろ?」
泉「ウチは出ぇへんわ」
椿「え? 泉ちゃんみたいなかわいい子が?ここの奴らは見る目がねぇな」
泉「そういう訳ちゃうで。ここのミスコン、女子やないねん」

○同・三階階段
   下りてくる藤岡。その先に立っている沙織。
泉の声「男子が女装する、いうコンテストなんやて」
藤岡「あ、会長さん……」
沙織「見つけたわよ、クイーン」

○同・生徒会室・中
   部屋の両端に立つ藤岡と沙織。気まずそうに沈黙が流れる。
藤岡「……俺は出ないですよ。ミスコン」
沙織「……」
藤岡「もう、あんな恥かかされるなんてまっぴらなんですよ」
沙織「……」
藤岡「だから、誰が何と言おうと……」
沙織「わかったわ。藤岡君はミスコンを辞退する、って事でいいのね?」
藤岡「え? あ、あぁ……」
沙織「その確認だけだったから。ごめんなさいね、わざわざ来てもらって」
藤岡「それはいいですけど……思ってたよりあっさり引き下がるんですね」
沙織「私はね、全員が楽しめる文化祭にしたいの。貴方が楽しめない事なら、それはするべきじゃないから」
藤岡「そうですか。そりゃすみませんね。楽しめない人間で」
沙織「本当よ。あの半田さんだって、もう少し楽しんでるわよ?」

○同・同・前
   部屋の前を通りかかる彩芽。
藤岡の声「半田って、ウチのクラスの? アイツがどうかしたんですか?」
沙織の声「……ここだけの話なんだけど」
彩芽「え、私の話?」
   ドアに耳を当てる彩芽。
沙織の声「半田さん。幼い頃に親元から誘拐されて育てられたんだって」
彩芽「私が……誘拐……?」
   来た道を引き返す彩芽。

○同・屋上階段
   トボトボと歩いてくる彩芽。
彩芽「何で私の知らない私の話を、みんなが……? もう、死にたい……」
   屋上へ続く扉が開いている。
彩芽「あ、開いてる……」

○同・生徒会室・中
   部屋の両端に立つ藤岡と沙織。
沙織「まぁ、楽しむ楽しまないは貴方が決める事だから、それについてどうこう言うつもりはないけど。ただ、これだけは覚えておいてね。貴方の事を楽しみにしていた人は、貴方が思っているよりたくさんいる、って事を」
藤岡「……お邪魔しました」
   出て行く藤岡。

○同・音楽室・中
   バンド練習の準備中の荒木、加奈、高杉。
荒木「よし、はじめっか」
加奈「あ、ねぇ。衣装どうする?」
荒木「あ~、ハットくらいはかぶるか?」
高杉「あ……実は、それなんですけど……」
   ドアが開き、部屋に入ってくる舞。
高杉「倉田先輩!」
加奈「あ、舞だ~。来てくれたんだ~」
舞「あの……(頭を下げて)お願いします。一生懸命やるんで、もう一度、ここでドラムをやらせて下さい」
   荒木の様子を見る加奈と高杉。
荒木「……ブルーハーツの曲にこんな歌詞がある。『時間はまるで、ジェット・コースター、流星みたいに、燃えつきてしまう』ってな」
舞「……はぁ」
荒木「こっちは本番間近なんだ。悪いけど、お前と喋ってる時間はねぇ」
舞「……すみません」
荒木「だから、時間がねぇんだよ。……さっさと位置に着け」
舞「……はい! よろしくお願いします」
   ドラムの席に座る舞。
舞「(ハットをかぶった荒木と加奈の姿を見て)もうかぶる感じですか?」
荒木「あぁ」
高杉「あ、えっと、その件で僕からも……」
舞「はい」
   高杉にハットを渡す舞。
高杉「え、僕のハット? 何で?」
舞「え~っと……拾った?」
高杉「ありがとうございます!」
荒木「よし、じゃあはじめ……」
加奈「そうはいかない!」
荒木「何でだよ」
   荒木の前に立つ加奈。対になったハートの首飾りを渡す。
加奈「まずは、ちゃんと仲直り。ね?」
舞「加奈、それどうしたの?」
加奈「貰った。生徒会の権限で」
荒木「……そういうお前こそ、高杉とデキてんじゃねぇの?」
加奈「え?」
   加奈と高杉の首にかけられた首飾り。
   ハートの柄が一致している。
高杉「あ……」
加奈「あれ~? 本当だ~、凄~い」

○同・一年一組・前
   並んで歩く泉と湊。
湊「これでやっと練習できるね」
泉「堪忍な。まぁ、言うてももう時間あらへんけど……ん?」
   湊の首飾りと自分の首飾りを合わせる泉。ハートの柄が一致している。
湊「……あれ、何で?」
泉「何やこれ、めっちゃおもろいやん」

○同・生徒会室・中
   向かい合って立つ沙織と宮内。
宮内「よかったんですか? クイーンの件」
沙織「いいのよ。クイーンがいなくてもみんなが楽しめるようにするのが私達の仕事でしょう?」
宮内「会長がそれでいいとおっしゃるなら」
沙織「水嶋さん、ごめんなさいね。せっかくクイーン見つけてもらったのに」
   部屋の隅に立つ幸。
幸「僕は構わないよ。探偵として、当然の仕事をしたまでだ」
沙織「そう。じゃあ、私はちょっと打ち合わせに行ってくるから。宮内君もミスコン、何かいい案考えててくれる?」
   出て行く沙織。
幸「さぁ、何か考えておかないとね。未来の会長さん」
宮内「自分はそんな、生徒会長にふさわしい人間ではありませんから」
幸「それは君が、隣の地区で有名な不良生徒だったからかい?」
宮内「(驚いて)何でそれを!?」
幸「前に調べたんだよ。もちろん、会長に頼まれてね」
宮内「じゃあ、会長もご存知で……?」
幸「あぁ。知ってて君を側に置き、生徒会長になる事を望んでいるんだ」
宮内「そう……だったんですか……」

○同・校門
   立っている朋子の元に駆け寄ってくる直也。首からメダルを下げている。
朋子「直也、帰るよ。あら、どうしたの、そのメダル?」
直也「貰った」
朋子「そう。お母さんもあるのよ(と言って首飾りを見せる)。文化祭楽しかった?」
直也「楽しかった」
朋子「そう、よかった」
   言いながらうちわで仰ぐ朋子。

○同・進路相談室・中
   一人、席に座る佐々木。手には朋子と同じ柄のハートの首飾りと、猫の絵の右半分が描かれた掌サイズの紙。
佐々木「楽しかったか? みんな」
   言いながらうちわで仰ぐ佐々木。

○同・体育館
   踊りの練習をする井上、瀬戸ら野球部員達。その様子を見ている佐藤。
佐藤「みんな……これ、俺のために……?」

○同・三階廊下
   財布を見つめる速水。
速水「今を逃したらきっと後悔する、か」

○同・屋上
   入ってくる彩芽。その景色に驚く。
彩芽「これは……」

○同・外
   トボトボと歩いてくる小田切。
小田切「あ~あ、せっかくの握手会だったのに、俺の尊い紫音ちゃんが欠席なんて……。行った意味なくね?」
   向かい側から歩いてくる紫音とぶつかる小田切。倒れる二人。
小田切「痛たた……」
   小田切に手を差し伸べる紫音。
紫音「すみません、大丈夫ですか?」
小田切「あぁ、平気です」
   紫音の手を取り、立ち上がる小田切。そのまま去って行く紫音。
小田切「今の……まさかな」
   小田切の持つプロマイド写真。アイドル風の衣装を着てメガネを着けた紫音の姿。「紫担当 倉田紫音」と書いてある。
    ×     ×     ×
紫音「あ~あ、まだまだ暑いな~」
   上着のボタンを外す紫音。中に着ているのは二年二組の紫色のクラスTシャツ。
紫音「(Tシャツに気付き)ヤバっ、コレ舞のシャツじゃん」

○同・二年二組・中
   入ってくる藤岡。
藤岡「……何だコレ」
   満席の店内。荒木と舞、高杉と加奈、泉と湊、須賀と双葉ら、全員の首飾りのハートの柄が一致している。
   藤岡の元にやってくる福士。
福士「全員カップル成立してんだぜ、フェスティバってんだろ?」
藤岡「凄ぇな。……あれ、ってことは、こいつら全員無料?」
福士「そういう事。売上金盗まれた上に、こんだけ無料にしちまったら、めちゃめちゃフェスティバった事になりそうだな」
藤岡「いいじゃねぇか、偉大なる大赤字だ」
福士「お、藤岡。お前もようやくフェスティバってきたな」
   笑みを浮かべる藤岡。

○同・外観(夜)
福士の声「みんな、フェスティバってるか~い?」

○同・中庭・ステージ(夜)
   大きなステージ、客席を分断するようなランウェイ、ステージ上の巨大モニター等、高校の文化祭とは思えない規模。
   客席には藤岡、速水、石川ら多数の生徒と佐々木、智恵ら教師達。
   ステージに立つ福士。
福士「さぁ、いよいよ後夜祭の始まりだ。トップを飾るのはこの二人、漫才コンビ『HANGーSHING(ハンシン)』!」
   福士と交代でステージに現れる泉と湊。ともに阪神タイガースのユニフォーム姿。
泉&湊「どうも、HANGーSHINGです」
湊「私達HANGーSHINGというコンビでやってまして」
泉「ウチがHANGで」
湊「私がSHINGで、二人合わせて」
泉&湊「HANGーSHINGです! って訳じゃないんですよ」
泉「ウチがHANGでもなければ」
私「私がSHINGでもない、という訳でよろしくお願いしま~す」
    ×     ×     ×
   ステージを見ている藤岡の元にやってくる舞。バンドの衣装を着ている。
舞「藤岡君」
藤岡「あ、倉田。(衣装を見て)そうか出る事にしたんだ」
舞「まぁね。藤岡君は?」
藤岡「俺は……」
舞「そっか。でも藤岡君は去年、このステージ経験してるし、いいのかもね」
藤岡「? 何の話?」
舞「私ね、みんなが楽しんでる顔、見たいんだ。お姉ちゃんから聞いてね。『いい景色だよ』って。藤岡君、去年どうだった?」
藤岡「自分で見てくれば?」
舞「それもそうだね。じゃあ、戻るね」
   舞の後ろ姿を見送る藤岡。
    ×     ×     ×
   ステージ上で漫才をする泉と湊。
泉「そういえば知ってます? 学校内でハートの首飾り配ってたやないですか」
湊「あ~、あの右半分と左半分で、柄が一致すればカップル成立って奴ね」
泉「(自分の首飾りを見せ)ウチはコレや」
湊「(自分の首飾りを見せ)私のはコレ」
泉&湊「(お互いの首飾りを合わせて)カップル成立、って何でやねん!」
泉「これ、ガチの話ですからね」

○同・同・ステージ裏(夜)
   せわしなく動き回る生徒達。中央で指揮をとる沙織。
沙織「さぁ、しっかりやってね。今は村上さんも宮内君もいないんだから」

○同・同・ステージ(夜)
   走る真似をしている泉と湊。
泉「アカン、煙が立ちこめてきた」
湊「あ、あそこに非常口のランプが」
泉「助かった。どっちに行ったらええ?」
   モニターに表示される非常口のランプ。矢印が左右両方表示されている。
泉&湊「だから、どっちやねん」
泉「もうええわ」
泉&湊「どうも、ありがとうございました」
   拍手と笑いが起きる客席。
    ×     ×     ×
   ステージに立つ福士。
福士「続いてフェスティバってくれるのは、軽音楽部伝統のバンド『ザ・ブルーハッツ』。張り切ってどうぞ!」
福士と交代でステージ上に姿を見せる荒木、舞、加奈、高杉。青いハットをはじめとする揃いの衣装を着ている。
舞「ワン、トゥー、スリー、フォー」
   前奏が始まる。曲は『チェインギャング』。
   一番から歌い始める荒木。
   笑顔で演奏をする舞。
   その様子を客席から見ている速水。会場を後にする。
   その後も演奏は続く。

○同・二年二組・前(夜)
   ドアが開いている。

○同・同・中(夜)
   レジの脇に封筒を置く速水。
   遠くから聞こえる『チェインギャング』。二番に入っており、歌詞は「モノを盗んだりするのは、とっても いけないことです」。
   ドアの脇に立っている佐々木。
佐々木「返しにきたのか」
速水「(驚いて)ホラ先。何でここに?」
佐々木「知ってたからな。お前が売上金を盗んだ犯人だ、って」
速水「嘘つけ」
佐々木「で、盗んだ理由は?」
速水「……俺みたいな中途半端なヤツが女の子ナンパしようと思ったら、やっぱり金が必要だったんだよ。でも結局、金じゃ誰も寄ってこねぇし、全然使わなかったよ」
佐々木「(封筒の中身を見て)みたいだな」
速水「後悔しねぇと思ってた。どっちにしろ後悔すんなら、盗んで、楽しんでから後悔しようと思った。でも、ダメだな。やっぱり、悪い事は出来ねぇや」
佐々木「そこまでわかったんなら、俺から言う事は何もねぇな」
速水「ホラ先、この事報告しねぇのか?」
佐々木「俺が? 『速水が売上金盗んだけどちゃんと返しました』って? 信じてもらえると思うか?」
速水「(吹き出して)確かに」
佐々木「さぁ、戻るぞ。まだ後夜祭は終わってねぇんだからな」

○同・中庭・ステージ(夜)
   ステージで演奏する荒木、舞、加奈、高杉。一転、ノリのいい曲(『僕の右手』とか?)になる。
荒木「ギター!」
   高杉のギターソロ。盛り上がる客席。
   笑顔で見守る舞。
   客席にいる石川。カメラを構え、写真を一枚撮る。
石川「美しい」
   演奏は最後のBメロからサビへ。
   互いの顔を見合わせ、笑顔で演奏する荒木、舞、加奈、高杉。
   演奏が終わり、盛り上がる客席。笑顔で手を振る舞。
   それを見届け、歩き出す藤岡。

○同・同・ステージ裏(夜)
   せわしなく動き回る生徒達。中央で指揮をとる沙織。
沙織「ミスコンの準備はどう? ちゃんと最終チェックはした?」
   そこにやってくる藤岡。
藤岡「ちょっといいですか?」
沙織「藤岡君? どうしたの?」
藤岡「……いや、その、まだ間に合うのかなって」
    ×     ×     ×
   半泣きでハグをしている泉と湊。
藤岡の声「俺の事を、生きる支えだって言ってくれた人がいるんですよ」
    ×     ×     ×
沙織「でも『恥をかくのはまっぴら』なんじゃなかったの?」
藤岡「俺にだってプライドはありますから。女装なんて、って」
    ×     ×     ×
   瀬戸らとダンスの確認をする井上。
藤岡の声「でも、小さいプライドを捨てればもっと大きなものが手に入る、って」
    ×     ×     ×
藤岡「正直、みんなが俺の事を楽しみにしてくれている理由がわからないんですよね。だって俺、覚えてないんですもん、去年の事。周りを見る余裕なんて無かったから」
    ×     ×     ×
   メンバーとハイタッチする舞。
藤岡の声「だから見てみたいんです。みんなが楽しんでいるっていう『いい景色』を」
    ×     ×     ×
藤岡「俺は何かを心から楽しんだ事がないから、それを見て『楽しむ』って何なのかを知りたい。そう思ったんです」

○同・一階廊下(夜)
   並んで歩く佐々木と速水。
藤岡の声「そんな自分に、もう嘘はつきたくないんです」

○同・中庭・ステージ裏(夜)
   沙織に頭を下げる藤岡。
藤岡「俺にもう一度、フェスティバるチャンスを下さい」
沙織「……じゃあ、急いで準備しなくちゃいけないわね。麗さん」
   顔を出す麗。
麗「じゃあまず、紅、塗っとく?」
藤岡「……人間のメイク、だよね?」

○同・同・ステージ(夜)
   ステージに立つ福士。
福士「レディース、エーンド、ジェントルメーン。いよいよ最後の最後、メインイベントとなりました。みんな、最っ高にフェスティバってまいりましょう。いざ、ミスコンテスト、開催~!」
    ×     ×     ×
   ノリのいい曲(例:『サンバ・デ・ジャネイロ』)にのって女装した須賀が姿を見せる。盛り上がる客席。
福士の声「トップバッターはこの人。みんな大好き、みんなのヨッシー、須賀義隆!」
   ランウェイを歩く須賀。途中で双葉も乱入し、一緒にポーズをとる。
    ×     ×     ×
   アイドル風の曲(設定上、メガネっ娘レインボーの曲)にのってプロマイド写真の紫音と同じ衣装を着た小田切が姿を見せる。
福士の声「続いては、アイドル追っかけ一六年。略さず読んでね、小田切拓郎!」
   ランウェイを歩く小田切。アイドル風のダンス(設定上、同曲の振り付けの完コピ)を披露する。

○同・同・ステージ裏(夜)
   小田切の様子を見ている舞と高杉。
舞「この曲、何か聞いた事ある気が……」
高杉「メガネっ娘何とかってアイドルの曲だと思いますけど?」
舞「そうなんだ。……でも、何で聞き覚えあるんだろ?」

○同・同・ステージ(夜)
   野球の応援風の曲(例:ブラスバンド風にアレンジされた『狙い撃ち』)にのってステージで踊る井上、瀬戸ら野球部員達。ユニフォーム姿。
福士の声「野球部の誇るリーサルウエポン。ピンチヒッター・佐藤伸治!」
   野球部員達をかき分け、姿を見せる女装姿の佐藤。部員達と踊る。
    ×     ×     ×
   ノリのいい曲(例:『Hot Stuff』)にのってステージに現れる女装姿の宮内。
福士の声「次期生徒会長候補最右翼、欲しいのは清き一票、宮内剛史!」
   福士からマイクを奪い、ランウェイを歩く宮内。
宮内「皆さん、ここで自分に少しだけ時間を下さい」
   ざわつく客席。
宮内「自分には、この場を借りて、思いを告白したい人がいます」
   盛り上がる客席。
宮内「生徒会長の、岡崎沙織先輩!」

○同・同・ステージ裏(夜)
   驚く沙織。
沙織「宮内君、何して……」
   そこにやってくる加奈と幸。
加奈「ほら、先輩。早くステージに行って下さいよ。宮ちゃん待ってますよ~?」
沙織「でも、私はまだ仕事が……」
幸「ここは僕と村上君が残るから、行ってきたまえ」
沙織「でも……」
幸「君が行かないと、会場が盛り下がってしまうぞ?」
沙織「それは……」
加奈「それに、会長がこの祭りを楽しまなきゃ、全員にはなりませんよ?」
沙織「……ありがとう」
   ステージに向かう沙織。
   顔を見合わせて笑う加奈と幸。

○同・同・ステージ(夜)
   ステージに姿を見せる沙織。盛り上がる客席。
   ランウェイの中央で向かい合う沙織と宮内。
宮内「会長、いや、岡崎先輩。正直に言います。中学時代、決していい学生じゃなかった自分が生徒会に入ったのは、岡崎先輩に一目惚れしたからでした。それから先輩の下について、もっと好きになりました。これからもずっと、一緒にいたいです。僕と付き合って下さい!」
   頭を下げる宮内。
   静まり返る客席。
   手で大きく丸を作る沙織。
   盛り上がる客席。
   手をつなぎ、一緒にランウェイを歩く宮内と沙織。
宮内「自分的には、これが大トリでもよかったと思うんですけどね」
沙織「(聞き取れず)え、何?」
宮内「(大声で)自分、幸せです!」
    ×     ×     ×
   客席に姿を見せる速水と佐々木。
佐々木「間に合ったみたいだな」
   ノリのいい曲(例:『君の瞳に恋してる』)の前奏が流れる。
福士の声「さぁ、いよいよ最後の最後。大トリの登場です。この人にもはや説明不要。昨年度ミスコンクイーン、藤岡一輝!」
   ステージに姿を見せる藤岡。
   盛り上がる客席。
   じっくりと客席を見ながらランウェイを歩く藤岡。
    ×     ×     ×
   客席にいる湊。カメラを構える。
湊「ヤバっ、超キレー。よ~し」
   湊を押しのけ、シャッターを切りまくる石川。
石川「キターッ!」
   ランウェイを歩く藤岡

○同・同・ステージ裏(夜)
   ステージを見ている舞と高杉の元にやってくる加奈。
加奈「盛り上がってるね~」
高杉「さすがクイーンさん」
舞「私達も、何かやりたいよね」
   そこにやってくる荒木。
荒木「なら、行こうぜ」
舞「え?」
荒木「ブルーハーツの曲にこんな歌詞がある。『作戦たててじっと待つより、子どものままでぶつかってゆく』ってな」
加奈「そうだね。行っちゃおう」
高杉「はい!」
   ステージに向かう荒木、加奈、高杉。
舞「……今の、ブルーハーツじゃなくて、ハイロウズの曲じゃない? まぁ、いっか」

○同・同・ステージ(夜)
   荒木、加奈、高杉に続いてステージに現れる舞。生演奏を始める。
   ランウェイを歩く藤岡。
   客席から声援を送る宮内と沙織、須賀と双葉。
   客席からジェット風船を飛ばす泉。その周囲に井上や瀬戸もいる。
泉「ウチらも行きましょうよ」
井上「え? いいの?」
   ステージに上がる泉や井上、瀬戸ら野球部員達。踊る。遅れて佐藤に連れられ、速水も現れる。
井上「え、速水先輩?」
佐藤「お前も踊れるだろ? 一緒にやるぞ」
速水「後悔すんなよ」
   野球部員達と一緒に踊る佐藤、速水。ランウェイを歩く藤岡。着ていた上着を脱ぐ。下に着ているのは二年二組のクラスTシャツ。

○同・同・ステージ裏(夜)
   電話をしている幸。
幸「さぁ、そろそろ行こうか」

○同・同・ステージ(夜)
   ランウェイを歩く藤岡。
   上空、花火が打ち上がる。

○同・屋上(夜)
   家庭用の打ち上げ花火が並べられている。打ち上げ準備をしている不良達。
   その後方に立つ望月。
望月「よし、次!」
   打ち上がる花火。
   その様子を間近で見ている彩芽。
彩芽「行け~、上がれ~!」

○同・中庭・ステージ(夜)
   打ち上がる花火。
   ランウェイを歩く藤岡。
   客席の端で見ている智恵と佐々木。
智恵「みんな楽しそうね」
佐々木「ですね。実は僕も学生時代、ミスコンで優勝した事あるんですよ」
智恵「はいはい」
佐々木「あ、信じてないでしょう?」
智恵「みんな楽しそうね」
佐々木「ですね」
   ランウェイを歩く藤岡。その後ろを並んで歩く須賀と双葉。
   客席から写真を撮ろうと必死に石川とポジションの奪い合いをする湊。
   ステージで踊る佐藤、井上、瀬戸、速水、泉、小田切。小田切のみオタ芸。

○同・同・ステージ裏(夜)
   ステージを見守る幸の元にやってくる麗。
麗「このうちわ、借りるよ?」
幸「あぁ、好きにしてくれたまえ」
   「パンドラの箱」と書かれた箱から、ちょっと質の良いうちわを取り出す麗。

○同・屋上(夜)
   花火を打ち上げる望月ら不良達。
   それを眺めている彩芽。
彩芽「売上金がなんだ、誘拐がなんだ、吹っ飛んじゃえ~!」

○同・中庭・ステージ(夜)
   ステージで演奏する荒木、舞、加奈、高杉。ランウェイから戻ってきた藤岡と息を合わせて演奏を終わらせる。
   盛り上がる客席。沙織と宮内も大きな拍手を送る。
   藤岡の隣にやってくる福士。
福士「さぁ、ではこの後夜祭をしめくくる一言を藤岡君にお願いしましょう」
藤岡「俺?」
   福士からマイクを渡される藤岡。考えている。
   黙って見守る客席。
藤岡「みんな……フェスティバってるか~い!?」
一同「イエーイ!」
                   (完)

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