雪原の狼 舞台

ユキは、狼である。 大きくなり、ユキは他の動物と友達になった。 ユキは狼である。 ゆえに、恐れられてしまう。 三度繰り返す。ユキは、狼である。 これは、悲しい大君の物語。
西塔あるは 36 0 0 01/26
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第一稿

雪原の狼
西塔あるは  

ユキ 犬。幼い
アル 狼
猿1
猿2
メイス ウサギ
羊のお姉さん①
羊のお姉さん②
カスタード ほら吹き鳥


猿1 いやー ...続きを読む
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雪原の狼
西塔あるは  

ユキ 犬。幼い
アル 狼
猿1
猿2
メイス ウサギ
羊のお姉さん①
羊のお姉さん②
カスタード ほら吹き鳥


猿1 いやージャングルってのはやっぱり最高だな!食べるのも寝るのも遊ぶのも、全部が自由!バナナだって、取り放題!
猿2 落ち着けよ、うるさい
猿1 なんだよー。いいじゃん、こんな広いんだぜ。誰も迷惑なんてしないだろー(歌いだす)
猿2 僕がいるだろう。耳が痛いからやめてくれよ
猿1 えー
猿2 なあ、前から思ってたんだけどさ
猿1 なに?
猿2 下手だよね、歌
猿1 え!?
猿2 正直聞いてられないよ
猿1 …。いやいやいや、そんなことない。だって毎日歌ってるんだぜ?そりゃ最初は下手だったかもしれないけど
猿2 聞いてられないよ!
猿1 うるせーなー。…暇なんだもん。ジャングル何にもないんだもん
猿2 そんなことないよ。
猿1 例えば?
猿2 ほら、向こうの滝とか。よく飛び込んで遊んだじゃないか
猿1 もう飽きた
猿2 え?じゃあ…バナナ!君の家の近くに生えてるバナナがあるじゃないか。あれはおいしかった…。今から食べにいっていい?
猿1 …なあ、正直に言うぞ
猿2 うん
猿1 飽きた
猿2 え!?
猿1 バナナ飽きた。っていうか猿だからってバナナばっかりはいやだよ
猿2 えー!?
猿1 いやだってバナナだよ?いくらおいしいからって毎日食べてたら飽きちゃうじゃん
猿2 そんなこと…
猿1 じゃあお前、昨日何食べた?
猿2 えーっと、魚
猿1 その前は?
猿2 …大根だったかな
猿1 その前は?
猿2 卵
猿1 ほらー!バナナ食べてないじゃん!
猿2 たまたまだよ
猿1 あーあ。暇だあー
猿2 だからうるさいって
猿1 あ!じゃあさ、「大平原」は!?
猿2 だめだよ。あそこには狼がいるから
猿1 あーあいつかぁ…。いいと思ったんだけどなあ。「大平原」あそこ、すっごい広いらしいじゃん。歌うには絶好の場所なんだけど
猿2 いや歌わなくていいよ。でも、僕も行ってみたいな。きっと風が気持ちいいと思うんだ
猿1 まったく狼のやつ!

猿1がゆりかごを見つける

猿1 これ何
猿2 なんだろう。見たことないね
猿1 食べ物かな
猿2 まって!勝手に開けるのはダメだよ
猿1 えー

狼登場

猿1 ひい!やばい、狼だ
猿2 まずいよ。食べられちゃうよ
アル なあ、君たち
猿1 は、はい
アル さっき話してた君の家の、俺にも教えてくれないか
猿1 えっ!?
アル お腹がペコペコでね
猿2 やばいよ!こいつ、君を食べる気だよ
猿1 なんでだよ!
猿2 うるさく歌ってるから怒ったんだよ!
猿1 そんな…あ、あの!
アル ん?
猿1 こ、これあげるから!
アル なんだそれ
猿1 食べ物。さっき拾ったんだ。これあげるんで、食べないで下さい!
アル これは…
猿2 ほら、逃げるよ!
猿1 おう

猿たち逃げる

アル ちょっと待って。…いってしまったか

メイス登場

メイ また怖がらせたのか
アル メイス。そうじゃないんだ
メイ ほう。じゃあなんであの猿たちは慌てて逃げたんだい?
アル 俺はただ近くに生えてるっていうバナナが食べたかっただけだ。それを聞いたら、わけもなく走っていったんだ
メイ やれやれ。どうせ怖い言い方したんだろうよ
アル そんなこと
メイ ないわけないだろ。ただでさえ顔怖いんだから
アル …
メイ なんだこれ
アル ああ、さっき猿たちが置いて行ったんだ。あとで返してやらないと
メイ 今度は怖がらせるなよ。にしても、見たことない形だな

メイスが開けると中から子犬の鳴き声。「わんわん!」

メイ うわあ!なんだこれ!
アル どうした
メイ こんな生き物、見たことない
アル ほんとだ
メイ はやくあいつらに返そう
アル いや、猿たちも拾ったって言ってたんだ
メイ はあ!?じゃあどうすんだよ。…仕方ねえ、ここに置いていくか
アル なんでだ
メイ アル、ここはジャングル。甘いやつや弱いやつが生きていける場所じゃない。それに、この子がどんな動物なのか、お前にもわからないだろう。もし、ここのみんなに迷惑をかけることになったらどうする
アル じゃあ、俺が育てる
メイ はあ!?お前なに言って
アル 俺が住んでるのは大平原。ここから離れてるから、みんなに迷惑をかけることもないだろう
メイ …本気なのか?
アル ああ。俺の息子として、育てる
メイ …分かった。ただ、ひとつだけ約束しろ
アル なんだ
メイ この子が大きくなったら、ジャングルに戻すんだ。自分の力で、ちゃんと生きていけるように
アル …ああ
メイ ならいい。そういえば、名前はどうする
アル ユキだ
メイ やけに早いな。まあいいけど。元気に育てよ、ユキ


三年後。


羊① 今日もかわいいわねーユキちゃん
羊② 耳モフモフだもーん。あ、これ食べる?
ユキ ありがと
羊① あーもう。こんなかわいい子見たことない
ユキ や、やめてよ。僕別にかわいくないから!
羊①② 『かわいいー!』
ユキ だからぁー

猿二匹が登場

猿1 ユキ、遊ぼうぜ!
ユキ うん!いいよ!
猿2 どこに行こうか
猿1 滝!
ユキ 何それ!すっごい気になる!
猿2 飽きたって言ってなかった?
猿1 うるせーなー。ユキがいるんだから絶対楽しいって!
猿2 確かに。そうだね、行こう!
猿1・ユキ『おー!』
羊① ユキちゃん滝に行ってくるの?
ユキ うん
羊① おうちの人にはちゃんと言ってあるの?
ユキ うん。夕方まで遊んでくるって言った
羊① そう。じゃあ気を付けてね。君たちも。
猿1 おう!
羊② いってらっしゃーい

猿とユキがはける

羊② ほんとかわいいわねえ、ユキちゃん
羊① …ねえ、ユキちゃんって、いったい何の動物なのかしら
羊② さあ、分かんない。でも、ジャングルなんだから知らない動物がいたって不思議じゃないわ
羊① そうなんだけど…最近よくこのあたりで遊んでいるみたいだけど、親の人に会ったことないのよねえ
羊② そんなに心配なの?あの子がどんな子か
羊① 確かに、いい子だけど、大人になってどうなるかまではわからないじゃない
羊② 大丈夫よ。あんなにかわいい顔してるんだから
羊① まあ、そうね。考えすぎたわ
羊② そろそろ帰りましょ

羊たちはける

夕方
ユキ登場

ユキ じゃーねー!バイバーイ!あー楽しかった!

アル登場

アル ユキ、迎えに来たよ
ユキ 父さん。ただいま
アル おかえり
ユキ 今日はね、みんなと滝に行ってきたんだ
アル そうか。楽しかったか?
ユキ うん!魚がいっぱいいたよ
アル それはよかった。さあ、帰ろう
ユキ はーい

ユキのお腹が鳴る「グルルル」

ユキ 父さん。お腹減った
アル お腹減った?ほら
ユキ なにこれ
アル さっき獲ったんだ
ユキ ありがと。いただきまーす

ユキ ねえ父さん。父さんは子供の頃何して遊んだ?
アル え?そうだなぁ、広いところを走り回ってたかな。ほら、ちょうど父さんたちが住んでるところみたいな
ユキ へー、そっか
アル どうしてそんなこと聞くんだ?
ユキ みんな、楽しい場所をいっぱい教えてくれるんだ。だから、僕もどこか見つけたいなって
アル そっか。見つかるといいな
ユキ うん!
アル じゃあ、ひとつ。いいことを教えてやろう
ユキ なになに!
アル 雪原って知ってるか?
ユキ 雪原?
アル ジャングルは普段、木も草も緑だろ?でもそうじゃなくて、一面が真っ白になる場所があるんだよ
ユキ 真っ白に!?それってどこにあるの!?
アル それは、秘密
ユキ えー!教えてよー
アル いいか、ジャングルを冒険するっていうのはとても危険だ。だから、強くならなきゃいけない。もう少し大きくなったら、そん時に一緒に見に行こう
ユキ 絶対だよ!僕、父さんみたいな強い狼になるから!
アル ああ。ほら、食い終わっただろ?行こう
ユキ はーい

暗転。翌日。ユキと猿2が座っていて、あとから猿1が入ってくる

ユキ ねえ、今日は一人なの?
猿2 いや、あとで来るって言ってたけど…遅いね
ユキ どうしたんだろ

猿1 おーい
ユキ どうしたのそれ!

猿1は抱えてた大量のバナナを置く

猿1 あー重かったー
猿2 なあ、なんでバナナ大量に持ってるんだ?
猿1 今朝、いっぱい採れてさ、せっかくだからみんなで食べようかなって。ユキ、バナナは好きか?
ユキ え!僕も食べていいの!?やった!
猿1 よーし。今日の遊びは、「誰が一番多くこれを食べられるか」だ!

バナナを食べながら

ユキ このバナナすごいおいしい。こんなのが家の近くにあるなんて羨ましいなぁ
猿1 いいだろー
猿2 この前バナナは飽きたって言ってたけどね
猿1 言ってねーよ。お前んちバナナないくせに
猿2 ないけど…でも、川がある。魚なら取り放題さ!
猿1 はいはい。あ、そうだ
猿2 ん?
猿1 なあ、ユキんちはどんなところにあるんだ?
ユキ 僕?
猿1 ああ
ユキ 僕の家は、大平原にあるよ
猿1・2 『大平原!?』
ユキ うん。大平原
猿1 それ本当か!すげー!
猿2 ねえ、大平原ってどんなところ?
猿1 俺たちまだ行ったことないんだよ!教えてくれ!
ユキ えっとね、大平原はとっても広いんだ。高いものが何もなくて、これくらいの草が、一面に広がってる
猿1 高いものが何もない?
猿2 木とか、山もないってこと?
ユキ うん。遮るものがないから、風がすごい気持ちいいんだよ
猿2 いいなぁ
猿1 他には!?他には何があるんだ!?
ユキ 夕日。地平線の奥に、太陽がゆっくり沈んでいくのが見える。たぶん、ジャングルで一番きれいな夕日だよ
猿1 すっげー!
猿2 そんないいことろに住んでるんだ!
ユキ 広い大平原に一か所だけ、小さな丘がある。その丘の上に生えてる「金木犀」の下。そこが僕のうちなんだ
猿1 金木犀?
猿2 木の名前だよ
猿1 へー
ユキ そうだ、よかったら今度遊びに来る?
猿1 え、いいの!?
ユキ いつもいろんな場所教えてもらってるから、そのお礼に
猿1 やった!ありがとな、ユキ
ユキ うん
猿2 待って
猿1 どうした?
猿2 そういえば、大平原って…
猿1 あ、そっか。そうだった…
ユキ どうしたの?
猿2 大平原には、狼が住んでるんだよ
猿1 行ってみたいけど、でも狼がいるのに行くのは無理だ…
ユキ なんで…
猿1 なんでって、狼だぞ?すごい怖くて、俺たちだって食べられちゃうよ
猿2 狼には、関わらないのが一番さ

アルとメイスが入ってくる

アル ユキ、迎えに来たぞ
ユキ 父さん
メイ おや、お友達かい?こんにちは
猿1・2 『…』
アル ユキ、今日はもう帰ろう
ユキ なんで?まだ明るいよ?
アル 夕方には嵐が来る
ユキ 嵐?
メイ かなり強いらしい。危ないから家に帰ったほうがいい。君たちも。親御さんが心配しているよ
アル さ、行こう
ユキ うん、じゃあね。また明日

ユキとアル、メイスがはける

猿1 なあ、ユキって…
猿1・2 『狼だったの!?』
猿1 マジかよ!
猿2 でも!見た目とか、全然違うし
猿1 聞こえただろ。あの狼を「父さん」って
猿2 そうだけど…

カスタードが入ってくる

カス 見た。見た。ユキ、狼の子。狼、怖い。
猿2 カスタード!
猿1 カスタード?
猿2 ほら吹き鳥のカスタード。まずい。あいつ、このことをジャングル中に言いふらすつもりだ
猿1 …
カス 狼、みんな食べる。ユキ、狼。ユキも、みんな、食べる
猿2 適当なこと言うな!ユキはそんなことしない!
猿1 そんなん分かんねーだろ
猿2 はあ!?
猿1 今はまだ子供だけど、大人になったら
猿2 それは…

嵐の音「ゴロゴロ」

猿1 嵐だ
猿2 とりあえず、僕たちも帰ろう
猿1 ああ!


ゴロゴロ
『みんな!洞窟のなかへ入って!早く!』
『大変だ!木が倒れてくるぞ!』
『あの!息子を知りませんか!まだ帰ってきてないんです!』
ゴロゴロ
『こんな嵐今まで見たことないぞ!』
『お母さーん!どこー!』
ゴロゴロ ドーン!
『落ちたぞ!雷が落ちた!』


ジャングルの中。先ほどの雷でけがをしたアルを、ユキが担いで
いる。

アル ああ…ユキ
ユキ もうすぐだから。もうすぐ洞窟につくから。そうしたらゆっくり休める。もうすぐ
メイ おーい、ユキー。おいおいどうしたんだ。アル!お前大丈夫か!
ユキ さっきの雷が近くに落ちて、怪我しちゃったんだ
メイ そうか。よし、手伝うよ

アル倒れる

アル ハァ…ハァ…
ユキ 父さん!しっかりして!
アル 大丈夫だ
メイ アル…
アル ちょっと休んだらすぐ行くから、先に行ってろ
ユキ そんな!
アル 父さんを信じろ。狼だぞ?
メイ ユキ。アルのことは任せろ。今は、君の安全が大事だ
ユキ …分かった。父さん、助けを呼んでくるから、待っててね

ユキ走り出す

メイ いい子になったな、ユキは
アル うるせー。あいつは最初っからいい子だったよ
メイ そうか
アル 優しい、元気な、俺の息子だ
メイ なあ、アルよ
アル 分かってる。そろそろだろう
メイ 十分、大きくなった。だから、あの子をジャングルに返すんだ
アル …ああ

洞窟の中。猿二人と羊二人が中で焚火をしながら雨宿り中。

猿1 母さんたち、大丈夫かな
猿2 はぐれちゃったね
羊② あれだけの雨だもの、仕方がないわ
羊① 大丈夫よ、すぐに止むから
猿1 うん…
羊① ねえ、ユキが狼っていうのは、本当なの?
猿2 え?
羊② 洞窟に逃げてるときにね、カスタードが「ユキは狼だ」って言ってたのを聞いて…
羊① …本当、なのね
猿1 ああ。そうだ。ユキがあの狼のことを「父さん」って呼んでるのを見たんだ
猿2 ユキはいいやつだよ!
猿1 今はそうでも!俺も、お前も、大人になる。ユキも。そのとき、ユキが俺たちを食べないって、言い切れるか!?
羊① あたし、食べられるのはいや
羊② …ユキちゃん
猿2 あ、雨…止んだ

ユキが走ってくる

ユキ おーい。みんなー!
猿1 ユキ…
ユキ みんな、父さんが倒れたんだ。助けて
猿1 父さんって、あの狼のことかよ
ユキ うん
猿1 …なら、無理だ
ユキ え?
羊① 狼は…怖いから。ねえ、あなたも狼なんでしょ?
ユキ それは…
羊② 出っていって。出て行ってよ!
ユキ みんな、どうしちゃったんだよ。僕、全然怖くないよ?
猿1 …今は怖くなくても、この先がどうかは分からないだろ
ユキ 襲わないよ!絶対!だって友達だろう!?
猿2 そ、そんなの、ウソに決まってる
ユキ そんなことない。僕はみんなのことが大好きだよ。だから
猿1 友達だった。でも、ここはジャングル。いいか、俺は猿で、お前は狼。このことは、どこまで行っても絶対に変わらない
ユキ そんな…
猿1 狼、二度とここに来るな
ユキ …

ユキ走り出す
場転

アルとメイスがいて、そこにユキが歩いてくる

アル ユキ
メイ おお、戻ってきたか。ほら、ちゃんと元気になったぞ、お前のお父さん
ユキ  …ただいま
アル おかえり。ちゃんと洞窟には入れたのか?
ユキ うん。できた
アル そうか、よかった
ユキ うん…
アル なあ、ユキ。ちょっとここに座れ
ユキ ん?分かった
アル 大事な話だ
ユキ うん
アル 今日から、家には帰ってくるな
ユキ …
アル お前はもう十分大きくなった。だから、ジャングルの仲間のところに行け。自分の力で、生きるんだ。いいな?
ユキ …
アル どうした?…ユキ?
ユキ 無理だよ…
アル 無理じゃない。お前は俺の息子として、十分に強くなったさ
ユキ そうじゃなくて
アル …?
メイ ユキ、いったい何があった
ユキ さっき、父さんとおんなじこと言われた
メイ 同じこと? 
ユキ みんな、僕が狼の子供だから、「もう来るな」って。ねえ、狼ってなんでみんなに怖がられるの?僕、みんなのこと大好きなのに…。狼は、なんでこんなに寂しいの…?


メイ なんでそうなるんだ。ユキは狼なんかじゃないのに!
アル 俺のことを父さんって呼んでるんだ。誰だってそう思うだろ

メイ なあ、アル。やっぱりまだいいかもしれない。ユキを一人立ちさせなくても
アル …狼は寂しい、か
メイ そうだ。ユキは今、一人になってしまった。お前が寄り添ってやらなくてどうする
アル …でも、ユキは狼じゃない
メイ ああ。でもそんなの関係ないだろ?みんなはそう思ってないんだから
アル …
メイ ほら。「帰ろう」って、そう声をかけるだけでいいんだ
アル ユキ
ユキ …なに
アル もう一度行け。友達のところに
ユキ だから、みんな僕のこと怖がって
アル ちゃんと言ったのか?「怖がらないで」って
ユキ …
アル 怖がられて、それで寂しくなって戻ってきたのか。いいか、自分の気持ちを伝えられないのは、弱いからだ。お前、言ったよな。「強くなる」って。だから、行ってこい
ユキ …でも
アル 行け

ユキみんなのところへ

メイ なんであんな言い方したんだよ。ユキが今どれだけつらいか、分かってるのか!
アル 分かるに決まってる!俺だって狼なんだ
メイ じゃあなおさら、あんな言い方は!
アル 黙れ!
メイ …ユキのところに行ってくる

メイがユキの後を追う
場転
洞窟の前。猿と羊。ユキが入ってくる

ユキ みんな…
猿1 また来たのか
ユキ みんな、僕の話を聞いてほしい。僕はね、みんなが大好きなんだ。滝で遊んだり、バナナ食べたり、頭をなでてもらったり。だから、怖がられるとすごい寂しいんだ。絶対にみんなを襲ったりしない。お願い、僕を怖がらないで
羊② ユキちゃん…
羊① でも、狼なんでしょ?
猿2 そうかもしれないけど…

アル登場

アル ワオーン(遠吠え)
猿1 この鳴き声!
ユキ お父さん!
カス 狼きた。狼きた。みんな、食べられる。おしまい
アル …
猿2 狼!
羊② 助けて!
アル なんだユキ、お前そんなところにいたのか。ったく勝手な
   ことばっかりしやがって
ユキ …父さん?
アル まあいい。おい、邪魔だからどけ。俺は腹が減ってんだ
猿1 は!?お、俺たちを食うのか!
アル あ?それ以外に何があんだよ。んーどれにしようかなあ…。よし、決めた。おらあ!
ユキ 待って!父さん!
アル あ?
ユキ 僕の友達なんだ!
「ユキ…」
アル は?おいおい、さっきお前言ってたよな。「狼だからって怖がられた」って。それなのに友達か。くだらねえ
ユキ 怖がられても!それでも、僕はみんなのことが好きなんだ

メイス登場

メイ ユキ、大丈夫か。何があった
アル うるせーなぁ。腹が減ってるって言ったよな?そこをどけ
ユキ 父さん
アル そこをどけ
ユキ やめて…
アル どけ!
ユキ 父さん!
アル …あーあー。父さん、ねぇ。いつまでそう呼び続ける気だ?
ユキ …
メイ おい
アル なあ、いいこと教えてやるよ
メイ やめろ。ここじゃない!
アル だまれバカウサギ!…お前はなぁ、俺の息子なんかじゃないんだよ
ユキ …え?
アル 三年前に、その辺で拾ったんだ。面白そうだったから育ててみたが…もういい
ユキ そんな…
アル お前は狼じゃない
ユキ じゃあ、僕は何なの?
アル 知るか!
ユキ 僕は…父さんの…狼の…
猿1 ユキから離れろ!

猿1が焚火の薪を投げつける

アル あっつ!くそ!

アルが立ち去る

猿1 ユキ!
猿2 ユキ、大丈夫か!
ユキ …うん
猿1 ごめん!お前のこと怖がって
猿2 ひどいことをしちゃった…本当にごめん
羊① ユキちゃんは狼じゃなかったのね
羊② ちょっと。ユキちゃん、私たちは例えユキちゃんが狼だとしても、怖がらないわ。ホントよ
カス ユキ、なかま。ユキ、なかま
猿1 よっしゃー!またみんなで遊べるな
猿2 また遊ぶの?
猿1 ああ!俺気付いたよ
ユキ なにに?
猿1 やっぱお前いないと楽しくねえや。なあ?
羊① そうね
猿2 つぎは何をするの?
猿1 決まってるだろ。大平原さ(耳打ち)
羊② え!?それってあの狼がいるんじゃ…
猿1 襲ってきたらまた俺がやっつけてやるよ
羊① できるかしら?
猿1 できるんだよ!なあ、ユキ
ユキ うん
猿1 よっしゃー!行くぜ、大平原!

暗転。夕日。メイスとユキが話している

ユキ いつも、お父さんが夕方になると迎えに来てくれたんだ
メイ そうか。…なあ、狼は嫌いかい?
ユキ …
メイ 一つ、昔話を敷いてもいいかな
ユキ うん
メイ あるところに、足を怪我して動けないウサギがいました。すると向こうから狼が歩いてきました。ウサギは、「もうだめか。自分は食べられる」そう思いました。しかし、その狼は、突然ウサギを抱え、木のふもとに優しく置きました。「俺の家の前で倒れるな。景色が悪くなるだろう」そう言ってね
ユキ 父さんは、優しいんだね
メイ ああ。アルは、ユキがもう大丈夫だって思ったから…出て行ったんだ
ユキ 帰ってくるかな
メイ きっと。帰ってくる。雪原の話は聞いたか?
ユキ うん。聞いた
メイ 緑だけのジャングルの、真っ白になる場所。それはね、ここ「大平原」のことなんだ
ユキ ここが?
メイ 時期が来たら、ここには白い花が一面に咲くんだ。まるでユキみたいに。それが咲くころに、きっと帰ってくる
ユキ そっか
メイ ユキ、狼は嫌いかい?
ユキ 大好き。大好きだよ

FIN

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