人 物
渡辺圭吾(30)私立清明小学校六年二組担任
四宮真(12)私立清明小学校六年二組
湯川秀幸(12)私立清明小学校六年二組
教頭
四宮の父
○私立清明小学校・図書室(夕)
湯川秀幸(12)、分厚い本を読んでいる。
表紙は「ひも理論」。湯川の周りには
複数の本が机の上に置かれている。
四宮、湯川の後ろに立つ。
四宮、湯川が読んでいる本を取り上げる。四宮、本をペラペラと捲る。四宮、
除き込み、気味が悪そうな顔をする。
四宮「うわぁ、ミミズのような文字ばっか!こんなの読めるの?気持ち悪!」
湯川「読みたきゃ貸すが、来月にしてくれ。今おもしろいところなんだ」
四宮、湯川に本を投げつける。本は湯川の肩に当たる。本は床におちる。湯
川、痛がる顔。
四宮「誰か呪いの本なんか読むか、こっちまで呪われそう」
湯川、落ちた本を拾い上げる。
湯川「本、大事にしてくれ。これが読めなくなったら死ぬぐらいつまらなくなる」
四宮「ふん、なら、死ね、消えろ」
湯川「死んでもいいけど、この問題を解きたいから、それが終わるまで待って」
四宮「はぁ?何言ってるんだ?やりたいことっていつ終わるんだ?」
湯川「わからない、明日かもしれないし、百年後かもしれないし」
四宮「意味がわからないこと言うな、だからお前は気味が悪いんだ。さっさと死ね」
湯川「無理」
四宮、拳を上げ、
四宮「生意気なこと言いやがって」
四宮、拳を振り下ろす。
四宮の腕を掴む渡辺圭吾(30)。
渡辺「喧嘩か?いや、そのようには見えないな。なぜ、君はその子を殴ろうとした」
四宮「(ジタバタ)は、離せよ」
渡辺「訳を話したら離す」
四宮、必死になり渡辺の手を引き剥がそうとする。四宮の腕には傷がある。
四宮「お前、この俺を誰だと思ってる。こんなことして、お前、どうなっても知らんぞ」
渡辺「初めて会うのに君のこと知っていたら、怖いだろう?」
四宮「いいから離…」
教頭、おどおどしながら、
教頭「こら、渡辺くんその子から手を話してあげなさい」
渡辺「教頭、この子がその子を殴ろうと…」
教頭「いいから、離しなさい。この子は特別なの」
渡辺「はぁ?何を仰って…」
教頭「(鬼のように)いいから」
渡辺、手を離す。
四宮、痛がる。
教頭、四宮に近づき、
教頭「だ、大丈夫ですか?」
四宮「そいつにどうゆう教育してるんだ?」
教頭「すみません、渡辺くんは明日から赴任する先生でまだこの学校のこと全然知らなくて…」
四宮「ふん、ちゃんと教えておけよ、ハゲ」
四宮、図書室を出ていく。
渡辺「教頭、なぜ許すんです、明らかにこの子をいじめていたんですよ?」
教頭「言い忘れていましたけどらあの子は特別です、許されます。その子、湯川くんとも関わら
ないでください」
渡辺「だから、何故ですか?」
教頭「わからない人だね」
渡辺の裾を引っ張る湯川。
湯川「僕ことは気にしなくても大丈夫です。僕は本が読めたり、勉強ができたらいいです」
渡辺「(湯川を見つめ)君は本当にこのままでいいの?」
湯川、考え込み、暗い顔から笑顔になり、
湯川「うん」
渡辺、尻込みする。
教頭、渡辺の腕を引っ張り、
教頭「さぁ、ここはもう後にしましょう」
渡辺「ま、まだ終わって…」
教頭「いいから」
教頭、渡辺を引きずるように引っ張る。
湯川、本に目を移す。
○同・六年二組教室(朝)
教卓前に渡辺が立つ。
窓際後ろの席に本を読んでいる湯川。
その左隣に四宮。
渡辺、湯川と四宮を横目で見る。
渡辺「新しく6年2組の担任になりました渡辺と言います。谷村先生は体を壊し、長いお休みを取
ることになり、私が代わりに務めることになりました。今まではのほほんとしていたかもしれ
ませんが、私は時に厳しく皆と接するのでよろしくね」
生徒一同、嘲る。
渡辺、教卓をバンと両手で叩く。
生徒一同、驚く。
渡辺「何がおかしいのかな?」
四宮、湯川に丸めた紙くずを投げる。
湯川、知らん顔をする。
渡辺、四宮に指を指し、
渡辺「おいそこ、昨日の子だな」
四宮、苦い顔。
四宮「なんだよ、昨日も邪魔しやがって…お父さんに言うぞ、てめぇ」
渡辺「(小声)教頭の言っていたとおりだ。(大声)いいか、君のお父さんがどこの偉い人でも
私は注意をする。いいか?」
四宮「はぁ?てめぇ、おれのお父さんのこと舐めているだろう?」
渡辺「舐めてはいない、怖くないだけだ」
四宮「次邪魔したら、どうなっても知らんぞ」
渡辺「望むところだ」
湯川、素知らぬ顔で本を読む。
○同・六年二組教室(昼)
黒板に数式を書き込む渡辺。
渡辺、振り向き、
渡辺「さぁ、この問題わかる人?」
生徒一同、それぞれ異なる問題集を開き、問題を解いている。
渡辺、生徒生徒一同をゆっくり見渡す。
渡辺「なるほどな…」
湯川、本を読んでいる。
教室中にシャーペンで書く音が鳴り響く。
四宮、立ち上がり、白く滴る雑巾を手に持ち、湯川の顔に投げつける。
四宮「ははは、牛乳くさぁ」
湯川、雑巾を払い除ける。
渡辺、湯川に駆け寄る。
渡辺、ハンカチを出し、湯川の顔を拭く。
渡辺、四宮を睨み、
渡辺「おい、四宮、いい加減しろよ、湯川がお前に何をした?」
四宮「いや何も?ただ、こいつ存在がムカつくんだよね」
渡辺、四宮にビンタする。
四宮、尻もちをつき、キョトンとした顔。
渡辺「これが湯川の痛みだ。感じたか?」
四宮、睨む。
四宮「てめぇ、おれを殴ったらただですまないぜ」
渡辺「いいか、お前がどんなやつで、どんな過去があったが知らんが、湯川を傷つけていい道理
はない。喧嘩するなら、俺に向かってこい、とことんと相手してやる」
四宮「あぁ、やってやるぜ、とことんな…」
渡辺、四宮睨み合う。
◯同・職員室(朝)
教頭、書類に目を通している。
電話が鳴る。「四宮」と表示。
教師一同、苦い顔して、電話を見る。
渡辺、不思議そうに見渡す。
教頭、おどおどしながら電話を取る。
教頭「もしもし…」
四宮父の声「私だ。息子がまた教師にいじめられていると聞いたが、新しい教師になって大丈夫
と言ったがあれは嘘か?」
教頭、ハンカチで額の汗を拭う。
教頭「え?何のことでしょうか?」
四宮父の声「恍けるきか、まぁいい今日そちらへ出向く。その時にその教師と話を聞かせろ」
教頭「はい、申し訳ございません、事実確に…」
通話が切られる。
教頭、叩きつけるように受話器を投げつける。
教頭「(大声)渡辺先生」
教師一同、渡辺を一斉に見る。
渡辺、教頭に向かう。
渡辺「朝から何でしょうか?」
教頭「お前、四宮さんの息子さんに何をした?抗議の電話来た。赴任そうそうに何してくれたん
だ…」
渡辺「何って、何度かただ注意しただけだよ。教育の一環ですよ」
教頭「それは君の尺度であって、重要なのは息子さんがどう感じるかではないのか?」
渡辺「教頭、あれは我々大人が注意しないといけないことです。それに対して抗議してくるって
どうゆうことですか?親御さんは息子さんのことちゃんと見ているのか怪しいですね」
教頭「申し開きはもう終わりか?今日、四宮さんの父親が来ますので、そこでちゃんと謝罪をし
てください、いいですね」
渡辺「はぁ?来る?いいですとも、こっちもそのお父さんと話したかったところです。いいです
とも。勿論、謝罪をする気はないですが…」
教頭「な、何を…」
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