MATCH! コメディ

30歳になった今でも運命の恋に憧れるロマンチストで派遣社員の星川康太、一方で男顔負けの最恐看護師で現実主義者の五十嵐千夏。2人はそれぞれ婚活サイトKOIKOIを利用し、最適のパートナーを探し始めるが、そこには好みにそぐわなければ即斬り捨て御免・超絶無慈悲の弱肉強食ワールドが広がっていた。自分をより良く見せるための嘘つき合戦の果てに彼らは真実の愛を見つけることができるのか?世紀の婚活バトルロイヤルマッチの火蓋が切って落とされる!
キイダタオ 3 1 0 11/01
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第一稿

  人物

星川康太(30)派遣社員
五十嵐千夏(30)看護師
田島実(30)星川の友人
仁湖修(30)候補者
三浦晃(25)候補者
百田零香(31)候補者
アナウ ...続きを読む
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  人物

星川康太(30)派遣社員
五十嵐千夏(30)看護師
田島実(30)星川の友人
仁湖修(30)候補者
三浦晃(25)候補者
百田零香(31)候補者
アナウンサー
ラブ太
ナレーション
友人A・B
レストランの店員
医者


○青山通り(夕)
   仕事帰りの人々が行き交う青山通り。
   スターバックスから星川康太(30)
   がテイクアウトしたコーヒーを片手に
   颯爽と出てくる。
   T『星川康太 AGE 30 派遣社
   員』
N「(渋い声)星川康太。ロマンチストという
 言葉はこの男のために生みだされたと言っ
 ても過言ではないだろう。彼は30になっ
 た今も、映画のようなロマンティックで運
 命的な恋に憧れる青年だ」
   コーヒー片手に通りを練り歩く星川。

〇幼稚園・教室
   園児たちが戯れている。部屋の端には
   七夕の笹の葉。『ウルトラマンになれ
   ますように』『やきゅうせんしゅにな
   りたい』など子どもたちの願い事が書
   かれた短冊がいくつも下げられている。
N「思えば、彼は幼児期から既にその片鱗を
 見せていた」
   その中に一つ『たましいのはんりょと
   であう。 ほしかわこうた』と書かれ
   た短冊が下がっている。

〇星川の部屋(夜)
   真っ暗にしたワンルームの部屋で星川
   が泣きながら映画を観ている。
N「好きな映画と言えば『ローマの休日』
 『カサブランカ』『ノッティングヒルの恋
 人』『タイタニック』」

〇青山通り(夕)
   コーヒー片手にうろうろする星川。
N「彼には仕事終わりに必ず行う日課がある。
 それはスターバックスでコーヒーを購入し、
 青山の街をぶらつくこと」

〇イメージ・青山通り(夕)
   コーヒーを持った星川が角を曲がると
   美女とぶつかり、コーヒーが星川の服
   にかかる。
N「それも運命の女性と角でぶつかり、こぼ
 すためにコーヒーを買うのである」

〇元の青山通り(夕)
   コーヒーを飲む星川、カップを覗き込
   む。中身は空。
N「しかし結局全部飲み終えてしまい、大人
 しく帰宅するまでが一連の流れである」
   溜息をつく星川。

〇レストラン・店内(夜)
   お洒落で落ち着いた雰囲気の店内。
   男性とテーブルに向かい合わせで座り
   イタリアンを食す、着飾った五十嵐千
   夏(30)。談笑する2人。
千夏「(可愛らしい声色で)えー、すごーい」
N「一方でこちらの一見可愛らしい女性」
   T『五十嵐千夏 AGE 30看護
   師』
千夏「(ぶりっ子口調)私ぃ、あなたみたいな
 人初めてぇー」

〇病院・病室
   3人の中年男性の入院患者が談笑して
   いる。
   そこに鬼の形相で怒鳴り込んでくる白
   衣姿の千夏。
千夏「(ドスの利いた声で)ちょっと山中さん
 ! あんたまた煙草吸ったでしょう!」
   飛び上がる入院患者。
N「彼女について多くを語るのも野暮だろ
 う」

〇同・廊下
   千夏が恐ろしい顔で仁王立ちしている。
   背後の窓からの景色は激しい雷雨。
N「勤務先での通称はサマーストーム」
   激しさを増す稲妻。

〇千夏の部屋(夜)
   明かりの点いた部屋で映画を観ている
   千夏。拳を握り、画面に向かって叫ぶ。
千夏「よっしゃあ! ぶっ殺せぇー!」
N「ちなみに好きな映画は『ダイハード』
 『96時間』『エイリアン2』『マッドマ
 ックス 怒りのデスロード』」

〇レストラン・店内(夜)
   食事を続ける千夏と男性。
N「運命など端から信じていない。全てはた
 だの偶然。出会う男がいかに自分の条件に
 沿う人物か、それを見極めることが全てな
 のだ」
   男性がスープを音を立てて啜る。
   男性の周囲に文字が浮かび上がる。
   T『イケメン +50』
   T『そこそこの学歴 +10』
   年収『-10』
   T『マナー -30』
   T『話がつまらない -40』
   T『服のセンス -25』
   T『TOTAL -45』
千夏「失格」

〇イメージ・同・店内(夜)
   千夏が手元のスイッチを押す。
   男性の足元の床が開き、穴が出現する。
   断末魔と共に落下していく男性。

〇居酒屋・店内(夜)
   安価なチェーンの居酒屋。星川と田島
   実(30)がビールを飲んでいる。
   そこそこ酔った様子の田島がスマホを
   取り出し、田島が妻と3歳の息子と一
   緒にハロウィンの仮装をしている写真
   を見せつけてくる。
田島「ほーら見ろ。いいもんだ家族は。お前
 もさっさと彼女作って結婚しろ」
星川「(うんざりした様子で)だーかーら、俺
 はお前みたいにネットで出会うなんてのは
 嫌だっつーの」
田島「古くせえんだよお前は。いい歳して運
 命だの何だの……女子か」
星川「ネットで出会いなんて人工的なもん、
 ロマンも美しさもない」
田島「(呆れた様子で)はあ……わかった。じゃ
 あスマホ貸せ」
星川「やだよ」
田島「いいから」
星川「だから何で」
田島「お前に運命の恋を見つけてやる」
星川「余計なお世話だよ」
田島「大丈夫。変なことはしねえから」
星川「……ったく。10秒だけ」
   星川、警戒しながらスマホを渡す。
   田島、スマホをいじって返す。
星川「何やったんだよ?」
   田島、見ろよと顔で合図。
   スマホのホーム画面にKOIKOIと
   いうアプリのページが出ている。
田島「今はネット婚活の時代だよ」
星川「ふざけんな!」
   即スマホを閉じる星川。

〇千夏の部屋(夜)
   千夏がパソコンでインスタグラムを見
   ている。結婚式の写真をアップしてい
   る友人の投稿に「彩ちゃんお久しぶり
   (*^_^*)結婚おめでとう。お幸せに!」
   とコメントしつつ、一人毒づく。
千夏「けっ、自分大好き女が。なーにが幸せ
 になりますだ。独身女は不幸かっつーの」
   そこでスマホの通知が鳴る。画面上に
   KOIKOIのバナーが表示される。
   「Shunさんからメッセージが届き
   ました」
   アプリを開く千夏。表示されるメッセ
   ージ
   「こんばんは(^^)おいしいイタリアンの
   お店を知ってるんですが、よかったら
   行きませんか?」
   ガッツポーズする千夏。

〇青山通り(夕)
   コーヒーカップ片手にぶらついている
   星川。
   そこに友人Aが後ろから声をかける。
友人A「あれ? ホッシー」
   振り返る星川。
   そこには大笑いしてはしゃぐ友人AB
   の姿。
友人A・B「おー! やっぱホッシーじゃー
 ん」

〇居酒屋・店内(夜)
   星川、友人ABと共に酒を飲んでいる。
星川「卒業して以来だから7年ぶりぐらい? 
 懐かしいな」
友人A「(友人Bを指して)いやー、でもさ。
 遂にこいつも既婚者ですわ」
友人B「まあ、いつまでも遊んでらんないか
 らね」
友人A「てことは何、ホッシー以外皆既婚
 者? 的な」
友人B「あ、でもニコチンも微妙かも」
星川「(苦笑い)は、はは……そうだな」
友人A「ねえ、もう出会ったわけ? 何だっ
 け、その……魂の何とか」
友人B「伴侶!」
友人A「(バカにしたような笑い方で)それだ
 それ! 伴侶! はっはっは」
   居心地が悪そうな星川。
友人A「それで、見つかった? 伴侶」
星川「……まだ」
友人B「まだってことは、今も探してんの?」
星川「……うん」
   大爆笑する友人A。
友人A「はっはっは。ヤッベ、ホッシー相変
 わらず最高だわ。チョーおもしれえ」
友人B「(呆れた様子で)ねえ、さすがに俺ら
 も30だよ。そろそろ現実見ようよ」
   我慢できなくなった星川、テーブルを
   叩いて怒鳴る。
星川「うるせえんだよ! ゼッテエあるんだ
 よ運命は! お前ら見てろよ。出会ってや
 るからな!」
   そしてその場を後にする星川。
   取り残された友人AとB、すぐにまた
   笑い始める。

〇病院・更衣室
   しっかりと着飾り、鏡の前で入念にメ
   イクをする千夏。鼻歌を歌っている。

〇表参道(夕)
   星川がコーヒーを持って歩いている。
   だがいつもより早足で、表情も険しい。
   角を曲がり小さな通りへ。
   そこへ若い女性と出くわす。が、ぶつ
   からずに避けられる。
   溜息を吐く星川。
   また歩き出し、次の角を曲がる。
   大柄な男とぶつかりそうになり、舌打
   ちされる。
星川「すいません……」
   がっくりと肩を落とす星川。

〇青山通り(夕)
   着飾った千夏が切迫した顔で全力疾走
   している。
千夏「ヤバい~」
   大慌てで角を曲がる。するとそこには
   コーヒーを持った星川。
千夏「あああ!」
   勢いよくぶつかる2人。千夏の勢いが
   強すぎ、激しく飛ばされる星川。顔及
   び上半身にかけて思い切りコーヒーを
   浴びる。
星川「熱っ、いや、冷てっ!」
千夏「あああ、ごめんなさい」
   自分の荷物を掴んで再び走り去ろうと
   する千夏、倒れている星川がコーヒー
   を浴びているのに気づく。
千夏「あああ、嘘。もうー」
   慌てているようなイライラしたような
   様子で財布を取り出す。
千夏「はい!」
   財布から2千円取り出し雑に渡す千夏。
星川「え?」
千夏「クリーニング代。ごめんなさい! そ
 れじゃあ」
   再び全力疾走で去っていく千夏。
   倒れたまま悲し気にその後ろ姿を見つ
   める星川。
星川「そんな……待って……」
   がっくりと地面に突っ伏す。

〇T『MATCH!』

〇住宅街(夜)
   クリーニング店から肩を落として出て
   くる星川。
星川「これが現実か……」

〇星川の部屋(夜)
   スマホと睨めっこする星川。スマホの
   画面はiTunesのKOIKOIの
   アプリのページ。インストールのタブ
   を見つめる星川、一人葛藤する。
星川「ダメだっ! ダメだっ!」
   今度は冷静な顔で
星川「いや待て、ネットでの出会いもある意
 味運命……」
   再び頭を抱える星川。
星川「ダメだ! ダメだ!」
   何か考え込んでいる様子。
星川「……あいつらには街でたまたまぶつか
 って出会ったって言えば……」
   再びスマホを凝視。顔を伏せ、指先だ
   けでスマホをつつく星川。
   再び画面を見るとアプリをダウンロー
   ド中になっている。
星川「不可抗力! 神のお導きだ!」
   ベッドに飛び込んで突っ伏す星川。

〇プロモーション動画
   KOIKOIのプロモーション動画。
   キューピットを模したキャラクター、
   ラブ太が癖のある口調で解説する。
ラブ太「さあーて、今日は今話題の婚活アプ
 リ、KOIKOIについて説明するコイ
 ー」
   若い男女それぞれの写真が表示される。
ラブ太「使い方は簡単。まずはプロフィール
 登録ぅ。名前、年齢、職業を登録したら自
 己紹介文を書くのだコイー」
   ラブ太の背景が検索画面に変わる。
ラブ太「それが済んだら、性別、年齢、職種、
 趣味など自分が理想の相手の条件を入力し
 て検索するのだコイー」
   背景が女性のプロフィールに変わる。
   写真とプロフィールが表示され、その
   下には「LIKE」と「NOT LI
   KE」のアイコン。
ラブ太「あとは簡単。次々条件に引っかかる
 異性が表示されるので、LIKEかNOT 
 LIKEを選ぶのだコイ」
   背景が「LIKE」をタップし、「M
   ATCH!」という文字が現れる。
ラブ太「そしてお互いにLIKEをした時、
 マッチが成立。メッセージのやり取りがで
 きるのだコイ。それじゃあ後は頑張るのだ
 コイー」

〇公園
   広い公園の芝生の上で、田島が妻子と
   戯れている。そこに田島の携帯が鳴る。
   電話に出る田島。
田島「もしもし?」

〇星川の部屋(夜)
   星川が机の上のスマホと睨めっこして
   いる。
   そこに田島がやってくる。
田島「何だよ緊急事態って?」
   星川、目線で自分のスマホを指す。
田島「はあ?」
   画面にはKOIKOIの星川のページ。
田島「何だよお前、あんだけネットは嫌だっ
 て言ってたくせに」
星川「事情が変わったんだ」
田島「お前も遂に運命の何チャラは諦めた
 か」
星川「それは違う。(長々と大袈裟な口調で
 語る)俺は気づいたんだ。時代や社会によ
 って運命の恋も姿を変える。この21世紀
 という時代、見知らぬ男女が路上で会話を
 交わすことなどあり得ないんだ。行き過ぎ
 た文明の発達は社会を不寛容にし、見知ら
 ぬ他社とのコミュニケーションを断絶に至
 らせた。そして人々が目を向けるのは常に
 電子機器。だから神はそんな時代に合わせ、
 運命の出会いが起こる場をサイバー空間に
 設けたんだ」
   冷めた目の田島。
田島「そう……で、俺にそれを手伝えと?」
星川「(咳払いして)まあ、そういうことだ」
田島「そんで? もう使ってんの?」
星川「うんまあ……つーか、ここ本当に女いる
 のかよ」
田島「当たり前だろ。何言ってんだよ」
星川「じゃあ何で未だにマッチしないんだよ。
 もう3日目だよ」
田島「ちょっと見せろ」
   田島が星川のスマホに触れようとする
   と咄嗟に星川がスマホを取る。
田島「バカ、見ねえと何も言えねえだろ」
   星川、渋々田島にスマホを渡す。
   じっとスマホを見る田島。
   田島、何かに気づいた様子。
田島「おい、お前正気か?」
星川「何が?」
   田島、星川にスマホを近づける。
田島「星川康太、30歳、派遣社員、年収3
 00万」
星川「だから何だよ」
田島「あのなあ、プロフィールバカ正直に登
 録してどうすんだよ」
星川「は?」
田島「婚活はなあ、ボランティアじゃねえ、
 食うか食われるかのサバイバルなんだよ。
 男も女も、少しでも条件のいい相手見つけ
 てやろうって闘志に燃えてるんだよ」
星川「お、おう……」
田島「なのに年収300万の派遣社員なんて
 わざわざ相手にする女がいるわけねえだろ、
 バカか」
星川「……じゃあ、どうすれば……」
田島「盛れ」
星川「は?」
田島「職業は会社員、年収は500万だ」
星川「ふざけんなよ」
田島「じゃあ今すぐ退会しろ。運命の出会い
 も諦めるんだな。俺の助言に従わない限り
 お前にマッチする日は永久に来ない」
   少し考える様子の星川。
星川「わかったよ」
   星川、スマホを操作する。

〇病院・ナースステーション
   若い看護師が2人雑談をしている。
看護師A「噂って本当だったんですねー。ナ
 ースって意外と出会いないって」
看護師B「おじいちゃんおばあちゃんの顔し
 かほぼ見てないもんねー」
看護師A「ナースなったら金持ちの医者とか
 スポーツ選手とか選び放題だと思ったのに
 なぁ。あー、運命の王子様ってどこにいる
 のかなぁー」
   ドアが開き、若干イラついた様子の千
   夏が入ってくる。
千夏「その歳になって何JKみたいなこと言
 ってんのよバカ女。運命なんてあるわけな
 いじゃない」
   速足ですぐに出て行く千夏。
看護師A「五十嵐さんまた機嫌悪いですね」
看護師B「なんかまたぽしゃったらしいよ」
看護師A「何がですか?」
看護師B「男」

〇星川の部屋
   星川がスマホを覗き込んでいる。興奮
   気味である。
星川「おぉ、おおおおおおお」
   画面には「マッチが成立しました」と
   表示されている。
星川「おおおお、キタァーーーーー!」
   一人大袈裟にガッツポーズ。
   画面を見つめる星川。
星川「25歳、OL。しかも可愛い!」
   メッセージのアイコンをタップし、文
   を入力し始める星川。
星川「初めまして、星川です……」

〇河原
   田島が幼稚園の数家族合同のBBQと
   みられる会で肉を焼いている。そこに
   携帯が鳴る。
田島「もしもし」
星川の声「もう3日経つのに返事がこない」
   田島、妻たちの方を一瞥し、人気のな
   い水辺に移動する。
田島「最後に送ったメッセージは?」

〇星川の部屋
   星川が携帯をスピーカーに切り替え、
   KOIKOIのメッセージ欄を開く。
星川「えっと……よかったら今度会いません
 か? って」
田島「全部で何通やり取りした?」
星川「あー、3通ぐらい?」

〇河原
   水辺で電話する田島。
田島「バカ野郎!」
   他のBBQ参加者たちが一斉に田島を
   見る。慌てて首を振る田島、口調を穏
   やかにする。
田島「お前な、そんな関係も温まってない段
 階でいきなり会えるわけねえだろ」

〇イメージ
   沼地のような場所で、スター・ウォー
   ズのルーク・スカイウォーカーのよう
   な格好をした星川と、顔を緑に塗り、
   ヨーダのような格好をした田島が話し
   ている。
星川「しかし先生、お互い顔を合わせなけれ
 ば関係は温まりはしないのでは?」
   田島、杖で星川を指す。
田島「お主はメールという物を蔑ろにしては
 おらんか? ネット婚活でまず基本になる
 のはメールの技術じゃ。これが出来ておら
 んと何も始まらん」
星川「ではその力はどのように学べますか?」
田島「これは婚活全体に言えることじゃがな、
 兎に角数をこなすことじゃ。失敗を恐れて
 はならん。殊メールにおいては適格に質問
 を投げかけ、相手の話を引き出すことじゃ。
 よいか」
星川「は!」
田島「だが質問攻めにしてもいかんぞ」
   しきりに頷く星川。

〇星川の部屋
   スマホを操作する星川、KOIKOI
   で表示される女性の写真付きプロフィ
   ールを次々スワイプして「LIKE」
   と「NOT LIKE」に仕分けして
   いく。

〇イメージ
   木造の小屋。庵の前で『七人の侍』の
   勘兵衛に扮した田島が勝四郎に扮した
   星川に訓示を与えている。
田島「よいか、婚活で大事なことは主に4つ。
 1つ目はがっついてはならんということ
 だ」
星川「余裕を持てということでしょうか?」
田島「左様。おなごは余裕のない者、下心を
 見せる者を嫌うものでな」
星川「しかし先生、如何様にすればそのよう
 な心の余裕を持てるのでしょうか……」

〇星川の部屋
   スマホでKOIKOIを操作する星川。
   「マッチが成立しました」と表示。
星川「よし!」
   しかしその女性を保留し、更に次々ス
   ワイプしていく星川。

〇イメージ
   木造の小屋。庵の傍で勘兵衛に扮した
   田島と勝四郎に扮した星川の対話。
田島「そこで出てくるのが第2の教えである。
 それは同時に複数のおなごとやり取りをす
 ることだ。さすれば1人に執着することも
 防げるであろう」
星川「ふ、複数と! し、しかし先生。それ
 はあまりにも不誠実では御座いませんか?」
田島「貴様も初心だな。
星川「う、初心」
田島「そうだ。だがおなごもまた複数の男と
 やり取りしておる。婚活とはそのようなも
 のだ。何通りもの選択肢の中から自分に一
 番合う相手を見つけることが重要とされて
 おるのだ」
星川「(やや呑み込み難い様子で)はい……」
   首を傾げる星川。

〇星川の部屋
   姿見の前に立ち、値の張るジャケット
   に身を包み、髪型を整える星川。

〇カフェ・店内
   お洒落な店内。テーブルに1人座り、
   そわそわしている星川。
   そこに若い女性が近づいてくる。
   はっと中腰になり、若干挙動不審気味
   に挨拶する星川。
星川「あ、ま、真理子さんですか?」

〇イメージ
   木造の小屋。庵の傍で勘兵衛に扮した
田島と勝四郎に扮した星川の対話。
田島「そして3つ目の教えだ。基本的に3回
 勝負の短期決戦だと思え。まずはカフェで
 軽めにお茶、次に酒も入る夕食、そして1
 日デートという順だ。3回目のデートでは
 最後に告白せねばならん。これが成功すれ
 ばめでたくカップル成立である」
星川「はい先生!」

〇カフェ・店内
   ケーキを食べながら談笑する星川と若
   い女性。

〇イメージ
   木造の小屋。庵の傍で勘兵衛に扮した
   田島と勝四郎に扮した星川の対話。
田島「そして最後に、これは忠告ともいえる
 やもしれん」
星川「は!」
田島「以前にも一度申したが、婚活とは情け
 容赦なしのサバイバルバトルである! 斬
 るか斬られるか。貴様が少しでも相手の意
 にそぐわん所を見せればそこで勝負は終わ
 りである!」
星川「先生、婚活とは真にそのような血も涙
 もない物でございますか? お話を伺うに
 まるで戦のようでございますが……」
田島「左様! 戦である! 婚活を甘く見て
 はならん。逆を申せば貴様も相手が好みで
 なければ、容赦なく切り捨てる覚悟が必要
 であるということだ。肝に銘じておけ」
星川「ははー!」

〇星川の部屋(夜)
   無言でスマホを見つめる星川。
星川「おかしい……2日経っても返事がない」
   自分が最後に送ったメールを確認する
   星川。
星川の声「今日はわざわざありがとう。色々
 お話しできて楽しかったです。今度はぜひ
 飲みに行きましょう。真理子さんの都合の
 良い日はいつですか?」
   スマホを凝視する星川。
星川「このメールに一体何の問題が……」

〇カフェ・店内
   全国チェーンのカフェ。星川と田島が
   向かい合ってコーヒーを飲みながら座
   っている。星川の前にはケーキが置か
   れている。
田島「なるほど。それはお前、切られたな」
星川「え?」

〇イメージ
   戦場らしき平原。甲冑に身を包んだ星
   川と田島。星川が腹から血を流してお
   り、田島に抱きかかえられている。
星川「そんな……いつの間に……いつの間に私は
 斬られたのでありますか?」
田島「だから言ったであろう」

〇元のカフェ・店内
   青ざめている星川。
田島「他に良い男が見つかったか、もしくは
 お前が気に入らなかったか」
星川「確かに最初はちょっとキョドったけど、
 でも話は盛り上がったんだけどな」
田島「まあ女はつまんなくても楽しそうに振
 舞えるからな」
   肩を落とす星川。
田島「まあ次探すこった。とにかく数を打て。
 練習してスキル磨くしかねえよ」
星川「練習ねえ……」
   星川、手元のケーキを食べる。
田島「なあ、お前ってやっぱりクソつまんね
 えよな」
星川「な、何だよいきなり」
田島「お前はな、スイーツとか好きそうな顔
 してんだろ? それで本当に好きだからつ
 まんねえんだよ」
星川「男がスイーツ好きでもいいだろ」
田島「そうじゃねえよ。俺が言いたいのはな、
 お前にはギャップがねえってことだよ」
星川「ギャップ?」
田島「ああ、何だその、キレイめ男子ってや
 つ目指してんだか知らねえけどな、ひょろ
 い女みたいな格好で、恋愛映画が好きで」
星川「うるさいな」
田島「だからな、スイーツが好きなのは問題
 じゃねえ。スイーツが好きそうな奴が本当
 にスイーツ好きだから問題なんだ。つまり
 な、ワイルドなやつがスイーツを食ってれ
 ばそれはギャップになる。そしてそういう
 のに女は弱い」
   フォークを皿に置く星川。
星川「ワイルド系か……」

〇千夏の部屋(夜)
   千夏がスマホを操作し、KOIKOI
   で男性のプロフィールを見ている。
千夏「山本達也、23点。失格」
   画面に「マッチを解除しますか?」と
   いう表示が現れる。
千夏「はい、バイバイ」
   スマホを伏せ、ため息を吐く千夏。
千夏「あー、いい男いないかなー」
   再びスマホを手に取る千夏。

〇イメージ
   森の中。『ベストキッド』のミヤギの
   ような格好の田島。そしてダニエルの
   ような格好を星川がしてトレーニング
   をしている。
田島「よいか、お前はこれからワイルド系の
爽やかスポーツマンになるのだ」
   星川、拳を交互に突き出しながら
星川「しかし先生、私はスポーツの経験がほ
 ぼありませんが」
田島「婚活は就活と同じだ。如何に自分を大
 きく見せ、嘘を真の様に思わせるか。嘘も
 吐き続ければ真実になる」
星川「はい先生!」
   両手を顔の前で構える星川。

〇ダイジェスト
   KOIKOIでひたすら女性のプロフ
   ィールをスワイプしていく星川。
   ×   ×   ×
   部屋で腕立て伏せを汗だくになりなが
   ら行う星川。
   ×   ×   ×
   カフェで女性と会話している星川。
   ×   ×   ×
   スマホを眺めて肩を落とす星川。
   ×   ×   ×
   朝の住宅街でランニングする星川。
   ×   ×   ×
   カフェでまた別の女性と会話している
   星川。
   ×   ×   ×
   スマホを眺めて肩を落とす星川。
   ×   ×   ×
   プールで水泳をする星川。
   ×   ×   ×
   カフェでまた別の女性と会話している
   星川。
   ×   ×   ×
   スマホを眺めて肩を落とす星川。
   ×   ×   ×
   公園を走る星川。その後ろを田島が自
   転車で罵倒しながら追う。
   ×   ×   ×
   カフェでまた別の女性と会話している
   星川。
   ×   ×   ×
   カフェでまた別の女性と会話している
   星川。
   ×   ×   ×
   カフェでまた別の女性と会話している
   星川。
   ×   ×   ×
   スマホを眺めて肩を落とす星川。
   ×   ×   ×
   スマホを眺めて肩を落とす星川。
   ×   ×   ×
   スマホを眺めて肩を落とす星川。
   ×   ×   ×
   カフェで百田零香(31)と会話して
   いる星川。

〇星川の部屋(夜)
   ぐったりと壁にもたれかかる星川。
星川「もう疲れたぁ~」
   溜息をつく星川。
星川「彼女作るのってこんな大変だっけ?」
   缶ビールを開ける星川。
星川「もうやめるか……」
   そこにスマホの通知が鳴る。

〇回転寿司屋・店内(夜)
   田島が家族で回転寿司を食べている。
   そこに田島の携帯が鳴る。
   田島、席を外して電話に出る。
田島「何だ?」
星川の声「(大きな声)キター!」
   田島、ビクリとする。
星川の声「やっとセカンドステージ来たぜー
 !」
田島「おおお! やったな! じゃあ次は飲
 みだな。シャレオツな居酒屋教えてやるか
 らいってこい!」
星川の声「おう! サンキュ!」
   遠目から怪訝な顔で田島を見ている妻。

〇居酒屋・店内(夜)
   可愛らしい雰囲気の店内。星川と零香
   が酒を飲みながら食事している。
零香「すごーい。可愛いお店ですねー。居酒
 屋って感じしなーい」
星川「僕もだから好きなんです」
零香「でも星川さんこんなお店よく知ってま
 すね。素敵」
星川「いやぁ、僕も食べ歩きが好きで」
零香「でも星川さんモテるんだろうなぁ~。爽
 やかだし色々詳しいし、スポーツもやって
 るんですよね?」
星川「いやぁ、たまに休みの日にテニスする
 だけですよ。それに最近は全然」
零香「え~、いいなぁ。私もテニスやってみた
 ーい」
星川「そのうちにね。それに、僕に言わせれ
 ば、零香さんこそ素敵ですよ。何で独身な
 のか不思議です」
零香「(嬉しそうに)ありがと。あ、でも言っ
 てなかったけ?」
星川「(素の反応)え?」
零香「私バツイチなんですよ」
星川「……あ、そうなんですか?」
零香「うん。それに息子いるの」
   零香、徐にスマホを取り出し、星川に
   見せる。
零香「ほら」
   画面には零香と、襟足だけ髪を伸ばし
   た体格の良い生意気そうな少年が写っ
   ている。カメラを睨んでいる少年。
零香「今小5なの」
星川「あ、ああ……」
零香「可愛いでしょ?」
星川「あ、ああ、はい……元気が良さそうで」
零香「でしょー? でも星川さんが子ども好
 そうでよかった」
星川「え?」
零香「あ、そうだ。今度息子も連れてくるか
 ら一緒にドライブでも行きましょうよ。ね、
 ほらテニスとかしたりして」
   星川、明かに動揺する。
星川「ああ、ああ、そうですね……ドライブ……
 ドライブ……いいね」
   星川、顔がこわばる。

〇繁華街(夜)
   駅に向かって歩く星川と零香。
零香「ねえ、じゃあ次はいつにする? 今度
 の土日とかは?」
星川「あああ、えっと……今ちょっと予定わか
 んないんで、帰ったら調べて連絡します」
零香「オッケー! じゃあ息子と一緒に楽し
 みにしてるね」
星川「ははは……楽しみです……」
   苦笑いを続ける星川。

〇星川の部屋(夜)
   スマホの前で頭を抱える星川。
星川「……さすがに子持ちはハードルが高すぎ
 る……」
   ×   ×   ×
   生意気そうな顔でこちらを睨む零香の
   息子の顔が浮かぶ。
   ×   ×   ×
   スマホを操作する星川。
星川「零香さん……ごめんなさいっ!」
   零香とのマッチを解除する星川。

〇会社のトイレ
   トイレの個室に籠ってKOIKOIで
   女性のプロフィールをスワイプし続け
   るスーツ姿の星川。

〇カフェ・店内
   窓際の席に座り、KOIKOIで女性
   のプロフィールをスワイプし続ける星
   川。

〇電車・車内
   KOIKOIで女のプロフィールをス
   ワイプし続ける星川。

〇星川の部屋(夜)
   KOIKOIで女のプロフィールをス
   ワイプし続ける星川。
   「マッチが成立しました」という表示
   が現れる。
   プロフィールを開くと千夏の写真が現
   れる。凝視する星川。
   ×   ×   ×
(フラッシュ)青山の街角でコーヒーを持っ
 た星川とぶつかる千夏。
   ×   ×   ×
星川、はっと驚いた顔。
星川「あっ!」
   もう一度千夏のプロフィールを凝視す
   る星川。
星川「五十嵐千夏、27歳、看護師。趣味、
 カフェ巡り、ヨガ、映画、特にディズニー、
 ラブストーリー……ほう」
   すっと立ち上がり、窓の外の夜空を見
   る星川。
星川「神様、ありがとう。運命の人はやはり
 いるのですね!」
   夜空に向かってガッツポーズする星川。
星川「ありがとう! 本当にありがとう」
   空に笑顔を向ける星川。

〇千夏の部屋(夜)
   すっぴんでアクション映画を観ている
   千夏。テレビからは激しい銃声が鳴り
   響いている。
千夏「さっさとトドメ刺せよ!」
   携帯の通知が鳴る。開くと星川との間
   にマッチが成立したという通知内容。
   それをさっと確認するとすぐにスマホ
   をソファの上に放り投げる千夏。
千夏「後で」
   すぐにテレビの方に目線を戻す。

〇住宅街(夕)
   田島が妻子と3人、息子を真ん中に手
   を繋いで歩いている。そこに鳴る田島
   の携帯。
田島「はいはい」
星川の声「俺は決めたぜ!」
   怪訝な顔の田島。

〇スーパー(夕)
   星川が1人買い物をしながら電話して
   いる。
星川「遂に運命の人と出会った。だからもう
 複数同時やり取りはなしだ!」
田島の声「わかった……ってちょっと待て! 
 お前正気か?」
星川「俺はいつだって正気だ」
田島の声「待てよ! 危険すぎる!」
星川「運命の人を相手に保険をかけるなんて
 不誠実だろ? これからは背水の陣だ」
田島の声「ちょっと、待て……」
星川「それじゃあな」
   電話を切る星川。

〇スマホ画面
   KOIKOIのメッセージ欄。千夏か
   らのメッセージが表示される。
   「メッセージありがとうございます! 
   五十嵐千夏、看護師やってます(^^)こち
   らこそ仲良くしていただけると嬉しい
   です。よろしくお願いします(*^^*)」

〇星川の部屋
   千夏から届いたメッセージを見てにや
   ける星川。
星川「来た……」
   小さくガッツポーズする星川。

〇オフィス街(外観)
   丸の内の高層ビルが立ち並ぶ光景。

〇スマホ画面
   KOIKOIのメッセージ欄。千夏か
   らのメッセージが表示される。
   「メッセージありがとうございます! 
   五十嵐千夏、看護師やってます(^^)こ
   ちらこそ仲良くしていただけると嬉し
   いです。よろしくお願いします(*^^*)」

〇オフィスビル・喫煙所
   仕事のできそうな眼鏡の男がスマホか
   ら顔を上げる。仁湖修(30)である。
仁湖「来たぜ……」
   T『仁湖修 AGE 30 システム
   エンジニア』
   仁湖、灰皿に煙草を押し付ける。

〇工事現場・外観
   ビルの建設現場。端にはプレハブの事
   務所。

〇スマホ画面
   KOIKOIのメッセージ欄。千夏か
   らのメッセージが表示される。
   「メッセージありがとうございます! 
   五十嵐千夏、看護師やってます(^^)こち
   らこそ仲良くしていただけると嬉しい
   です。よろしくお願いします(*^^*)」

〇工事現場・事務所
   プレハブの事務所内。スマホを見つめ
   るガッシリと体格のいい男。三浦彰(
   25)である。
   T『三浦彰 AGE 25 土木作業
   員』
   突然雄叫びを上げる三浦。
三浦「っしゃあああああ!」
   周囲の同僚がビクリと驚く。

〇千夏の部屋(夜)
   スマホを操作している千夏。星川、仁
   湖、三浦の3人のプロフィールを見比
   べている。
千夏「さて、どれにしたもんか……」

〇カフェ・店内
   全国チェーンのカフェ。星川と田島が
   向かい合わせで座っている。お互いか
   なり険しい顔つき。
星川「……だからなんだよ?」
田島「いいか! お前は何もわかっちゃいな
 い」

〇イメージ
   『ワンピース』のルフィのような格好
   をした星川が、レイリーのような格好
   をした田島に楯突いている。
星川「どういうことだよおっさん」
田島「お前は1人の女とやり取りしてるだけ
 だ。だがな、相手もお前だけとやり取りし
 てるとは思うな!」
星川「な……」
田島「お前が今こうしている間にもな、ライ
 バルたちは虎視眈々とその女を狙ってるん
 だ。自分は数いる野郎どものうちのただの
 1人、それを忘れるな」
星川「そのライバルたちはどのくらい……」
田島「さあな、しかし最低でもお前の他に2
 人はいると思っておけ」
星川「最低2人か……」
   星川の額に汗が伝う。
   ×   ×   ×
   トーナメント表が現れる。線の下には
   星川、仁湖、三浦のそれぞれの顔写真
   が表示されている。

〇星川の部屋(夜)
   神妙な顔で机に向かっている星川。
星川「何が俺は数いる野郎どものうちの1人
 だ。なめてもらっちゃ困るな」
   机の上に大学ノートを置く星川。
星川「ダテに俺も失敗はしてねえ」
 ノートを広げる星川。ノートにはびっ
 しりと恋愛のテクニックが書き込まれ
 ている。
星川「この戦い、絶対に勝つ!」
N「この以前とはまるで違って見える星川の
 自信。それには数々の根拠があった」

〇公園(朝)
   スウェット姿で公園をランニングする
   星川。
N「並みの自称スポーツマンより鍛え上げら
 れた肉体」

〇オフィス街
   ベンチに座り、メールを打つ星川。
N「文豪顔負けのメール技術」

〇繁華街(夜)
   お洒落な店が並ぶ通り。星川が女性と
   歩いている。
N「歩くグルメサイトとも言えるほどの飲食
 店情報」

〇レストラン・店内(夜)
   イタリアンを食べている星川と女性。
N「英国紳士ばりのマナー」
   ×   ×   ×
   星川が何か話して女性を笑わせている。
N「そしてお笑い芸人顔負けのユーモア」

〇星川の部屋(夜)
   腕を組んで考え事をしている星川。
N「以上の要素が揃っている……はずだ」

〇T『1ST STAGE』

〇カフェ・店内
   メイクをバッチリ決めた千夏がカフェ
   ラテを飲みながら辺りを見渡している。
千夏の声「今回は、今回こそ決める。あの3
 人のうちから1人に絞ろう。そして何だか
 私も今回はいけそうな予感がする」
   ポーチから手鏡を出して顔を見る千夏。
千夏の声「抜かりはないはずだ」

〇千夏の回想・千夏の部屋・洗面所(朝)
   鏡の前で顔の体操をする千夏。
千夏の声「早朝からのしっかりと入念な顔の
 ストレッチで浮腫みを解消」
  ×   ×   ×
   ブラジャーの下にパットを入れる千夏。
千夏の声「男の視線対策もバッチリ」
   ×   ×   ×
   入念にメイクをする千夏。
千夏の声「2時間かけたメイク」
   ×   ×   ×
   バッチリ決まった服装でマンション玄
   関を出て歩いていく千夏。日差しが強
   いので日傘を差す。
千夏の声「紫外線対策も、オッケー!」

〇元のカフェ・店内
   千夏がキョロキョロしていると入口か
   ら仁湖が入ってくる。
T『CHARANGER』
千夏の声「来た! さあーて、まずはお手並
 み拝見といきましょうか」
   ゴングの音。
   仁湖、慌てて頭を下げながら席に座る。
仁湖「すいません遅くなって。急に呼び出し
 かかっちゃって」
   仁湖の頭上に仁湖の顔写真と「0P」
   という表示が現れる。以後この数字は
   仁湖が映っている限り常時表示され続
   ける。
   T『女の子を待たせた -30』
   仁湖の頭上のポイントが「-30P」
   になる。
千夏「(にっこり笑って)いえいえ、忙しいの
 にごめんなさい」
   T『イケメン +50』
   T『PC強い +30』
   仁湖の頭上のポイントが「50P」に
   なっていく。

〇星川の部屋
   姿見の前で服装や髪型を整える星川。

〇大通り
   通りを歩いている仁湖。
   T『仁湖修 獲得ポイント 65P』

〇新宿・アルタ前
   千夏がアルタ前の人混みの中、人を待
   っている様子。
   スマホを出して時間を見る千夏。2時
   15分。
千夏「(小声で)2時じゃねーのかよ」
   すると歌舞伎町方面から三浦がやって
   くる。ジャージ姿である。
T『CHARANGER』
三浦「ああ、あんたが千夏さん? メンゴメ
 ンゴ」
千夏「ええ、まあ……」
三浦「じゃあ何か食いいこうや」
   怪訝な顔で頷く千夏。

〇マクドナルド・店内
   込み合う店内。三浦がビッグマックと
   ポテトを食べながら大声で話す。
三浦「でさあ、そいつせっかくパチンコで3
 万勝ったのにだよ。全部風俗で使ってやん
 の。しかも出てきたのがトドみてえなババ
 アでさ。はっはっは」
   ドン引きした顔で話を聞く千夏。
   T『筋肉 +50』
   T『バカ -60』
   T『低学歴 -60』
   T『下品 -30』
   T『チャラい -30』
   三浦の頭上にポイントが現れ「-13
   0P」と表示される。
千夏の声「失格」

〇イメージ
   だだっ広い荒野。ボロボロの戦闘服を
   着た千夏が立っている。
   遠くから大型の改造されたトレーラー
   が走ってくる。
   目を細めてそちらを見る千夏。
   トレーラーが轟音を上げながら猛スピ
   ードで徐々に近づいてくる。
   構える千夏。
   トレーラーを運転しているのはモヒカ
   ン刈りで弾けた三浦。
三浦「ヒャッハー!」
   三浦の運転するトレーラーが千夏に向
   かってくる。
   そこですっと背中に背負っていたロケ
   ットランチャーを取り出す千夏、トレ
   ーラーにその先を向ける。
三浦「死ねー! ハッハッハー」
   トレーラーに向けてロケットランチャ
   ーを発射する千夏。
   ギョッとする三浦。
三浦「な、なにぃ~」
   トレーラーをミサイルが直撃し、大爆
   発を起こす。
   身をかがめて爆風を避ける千夏。
   残ったのは燃えるトレーラーの残骸。
   それを見下ろす千夏。
   T『GAME OVER』

〇カフェ・店内
   お洒落で可愛らしい雰囲気のお店。千
   夏が入ってくると星川が席で本を読ん
   で待っている。
千夏「あ、星川さんですか? すいません、
 お待たせして」
星川「(爽やかな笑顔で)いいえ、僕も今来た
 ばかりです」
   T『CHARANGER』
   星川の頭上にはポイントと顔写真が表
   示される。
   T『フツメン +15』
   T『爽やか +20』
   星川のポイントが「35P」になる。
千夏「可愛いお店ですねー。よく来られるん
 ですか?」
星川「時々です。たまたま散歩してたら気に
 なって」
   当たり障りのない話を続ける星川と千
   夏。
千夏「へえー、星川さんってセンスいいです
 ねー」
星川の声「この感じ、表情、視線、口調から
 察するに、青山でぶつかった時のことは覚
 えてなさそうだ。まあ仕方がない。だがあ
 る意味好都合だ。あの時の俺の姿はきっと
 情けないものに違いない。ならば全く新し
 い自分で勝負する方がこちらにとっては有
 利に働くはずだ」
星川「いいえ、何となくで生きてるだけで
 す」
   ニコニコ愛想よく微笑む千夏。
千夏の声「誰だっけ……どっかで見たことあ
 る気がするぞ。スタバの店員? いつも電
 車が同じ人? ……いや、わからん。芸能
 人に似てるだけか? まあよくある顔っち
 ゃよくある顔だし。試しに聞いてみるか」
千夏「あの、もしかしてどこかで会ったこと
 あります?」
星川の声「え、まさかバレた?」
星川「いや、たぶん違うと思います」
星川の声「ここは黙っている方が得策だ。あ 
 の情けない姿を思い出させてはいけない。
 話題を逸らすんだ」
千夏「あ、ですよね。なんかごめんなさい」
星川「いえ、よくいる顔ですから。結構言わ
 れるんです」
千夏の声「だよねー!」
星川「友達のお兄さんに似てるとか、従妹の
 彼氏に似てるとかって。こっちもリアクシ
 ョン困りますけど」
千夏「あはは」
星川の声「つかみとしては悪くない。ここか
 らは聞き手にシフトだ。聞くが7割、話す
 が3割」
星川「千夏さんは普段お休みの日なんかは何
 されてるんですか?」
千夏「えーとぉ、お友達とカフェでお茶した
 りぃ、お散歩とかヨガとか」
千夏の声「ヨガとか行ったこともないけど」
千夏「あと映画よく観てます」
星川「へえー、映画はどんなのご覧になられ
 るんですか?」
千夏の声「まさかマッドマックスとか言えね
 えからなあ。とりあえず浮かんだタイトル
 挙げるか」
千夏「えっとぉ、私昔の恋愛物とか好きなん
 ですよぉ。『ローマの休日』とか『ノッテ
 ィングヒルの恋人』とかあと『タイタニッ
 ク』とか?」
星川「あー、いいですね」
星川の声「最高だー! 俺の趣味にドンピシ
 ャ! やはり運命の女性は目の前に」
千夏「星川さんはどんなのご覧になるんです
 か?」
星川「僕は、そうですねえ……」
星川の声「さすがに恋愛物ばかり挙げると
 女々しいと思われるかもしれん。ここは野
 郎臭い映画を上げるのがベストだろう」
星川「逆に僕はアクションばっかです。『ダ
 イハード』みたいな。あ、去年観た『マッ
 ドマックス』最高でしたね」
星川の声「観てないけど、とりあえず『マッ
 ドマックス』推しなら外しはしないだろ」
千夏の声「来たー! イモータァーン!」
千夏「へえー、私まだ観てないんですけど面
 白いらしいですね」
千夏の声「嘘。もう10回は観たわ」
星川「最高ですよ。超テンション上がりま
 す」
千夏の声「V8! V8! よし、この勢い
 で可愛さをもうひと押し」
千夏「あ、あと私ファンタジーも好きかも。
 『ハリーポッター』とか」
星川「懐かしいなー。最初のやつ友達と観に
 いきましたよ。確か中3の時」
千夏「そうそう私もー!」
星川「え? 千夏さんまだ小学生じゃ?」
   表情が固まる千夏。
千夏「……あっ、違う! そうだ、中3の時見
 に行ったのは3作目か何かで。私バカだか
 ら記憶混乱しちゃうんですぅー、えへへ」
   星川、千夏に微笑む。
星川の声「可愛いなぁー」
   星川にコケティッシュな笑顔を向ける
   千夏。

〇T『1ST STAGE 終了』

〇大通り
   それぞれ逆方向に向かって歩き出そう
   とする星川と千夏。
星川「今日は楽しかったです。ではまた」
千夏「はい、お酒楽しみにしてます」
   会釈して別れる2人。
星川と千夏の声「うまくやれたはず」
   T『星川康太 獲得ポイント TOT
   AL 60P』

〇イメージ
   星川、仁湖、三浦の3人の顔が載った
   トーナメント表。三浦が消滅し、星川
   と仁湖の一騎打ちになる。

〇星川の部屋(夜)
   ノートを前に考え事をしている星川、
   カメラに向かって突然話しかける。
星川「さて。僕はあの後無事に次回居酒屋で
 の飲みデートを取り付けた訳だが、ここで
 問題がある。それは恐らく他にいるであろ
 うライバルの存在だ。僕自身カフェでは上
 手くやったので、しがない派遣社員だとは
 バレてはいないはず。しかし、ライバルが
 もっとハイスペックな男だったら? 僕は
 どうやってそいつに勝つ? そこで必要に
 なってくるのが戦略だ」
   スマホを手にする星川。

〇スーパー・店内(夜)
   息子を肩車して買い物をしている田島。
   そこに携帯が鳴る。
   電話に出る田島。
田島「よお……うん……うん」
   暫く頷きながら聞いている田島。
田島「はあ? お前マジで言ってんのか?」

〇千夏の部屋
   スマホでKOIKOIを見ている千夏。
   画面には「田坂実」というプロフィー
   ルが表示されている。田島がサングラ
   スをかけ、小奇麗なスーツに身を包ん
   でいる。
千夏「実業家……年収1000万……」
   生唾を飲む千夏。
千夏「まあ1度お茶するぐらいなら……」

〇カフェ・店内
   千夏がそわそわしながら人を待ってい
   る様子。

〇同・外
   千夏がいるカフェの外で胡散臭い変装
   をした星川と、長髪のカツラを被り、
   「青年実業家」という体の格好をした
   田島が言い合いをしている。
田島「おい、会うとなったら話は別だろ。息
 子の玩具ぐらいじゃ済ませねえぞ!」
星川「頼むよ! これで終わりだって。どう
 せ2度と会わないし」
田島「ったく」
   渋々入口に向かっていく田島。

〇同・店内
   サングラスをかけ、カーディガンをプ
   ロデューサー巻きにした田島が、千夏
   と向かい合って座っている。明らかに
   顔が引きつっている千夏。
   田島、メモを見ながらチャラ男風な口
   調で尋ねる。
田島「じゃあさぁ好きな男のタイプは?」
千夏「は?」
田島「だから、どんな男が好き?」
千夏「(怪訝な顔で)……スポーツマン、とか…
 …」
   田島、メモに書き込む。
田島「スポーツマン……っと」
   首をかしげる千夏。
   遠くの席からは変装した星川が2人の
   様子を見つめている。
田島「じゃあ、ぐっとくる男の仕草は?」
千夏「あの、何なんですかこれ?」
田島「君をもっと知りたいんだ」
千夏「はあ……」
   更に首をかしげる千夏。

〇大通り
   1人になるとすぐに田島とのマッチを
   解除する千夏。
千夏「何なんだよコイツはあ!」
   千夏の怒鳴り声にビクリとする通行人
   たち。

〇イメージ
   先ほどのカフェでマシンガンを取り出
   し、「青年実業家」風の田島を射殺す
   る千夏。椅子に座ったまま蜂の巣にな
   る田島。

〇公園
   変装を解きながら文句を垂れる田島、
   星川にメモ帳を渡す。
田島「ったく。マジで貸しだからな!」
星川「(深々と頭を下げ)ありがとうございま
 す先生!」
田島「ひょっとして教育を間違えたかもしれ
 ねえな……」

〇T『2ND STAGE』

〇居酒屋・店内(夜)
   お洒落で落ち着いた雰囲気の店内。星
   川と千夏が向かい合って座っている。
   星川の前にはビール、千夏の前にはカ
   シスオレンジが置かれている。
千夏「すごーい。何か居酒屋って感じしない
 ですよね。オシャレー」
星川「だから僕もここ好きなんです」
   星川、グラスを手に取り
星川「じゃあ乾杯しましょう」
   千夏もグラスを手に取り
星川・千夏「乾杯」
   グラスを合わせる2人。
   そこからの2人のやり取りがひたすら
   早回しで流れる。
   サラダを取り分ける千夏。
   千夏のグラスの残りが減ってきた所で
   メニューを渡す星川。
   星川が何か言い、千夏が大笑いする。
   店員がオーダーを間違えた様子で星川
   に平謝りしているが、星川はにっこり
   微笑み、間違えで出てきたドリンクを
   飲む。
   再び星川が何か言い、千夏が大笑いし
   ている様子。
   千夏がトイレに立つ。その隙に店員を
   呼び、会計をする星川。
   戻ってくる千夏。
   再び星川が何か言い、大笑いする千夏。
   ドリンクを飲み終え、帰る準備をして
   席を立つ2人。
   千夏が財布を取り出す。そこで星川が
   何か言っている。感激する様子の千夏。
   店員に挨拶して店を出る2人。
   ゴングの音。
   T『星川康太 TOTAL 85P』

〇イメージ
   コロッセオ風の闘技場。
   星川と仁湖がボロボロの衣服をまとっ
   てそれぞれ鎖につながれている。
   2人の足元は虎が閉じ込められている
   檻になっている。
   祈る2人。
星川「神様……」
仁湖「どうか助けて」
   ドラムの音が響く。
   T『仁湖修 TOTAL 75P』
   仁湖の顔が急に青ざめる。
   仁湖の足元が開き、虎のいる檻に落ち
   ていく。
仁湖「助けてー!」
   星川、仁湖から目を背ける。
   T『GAME OVER』

〇駅・改札前(夜)
   千夏を見送る星川。千夏、笑顔で手を
   振りホームの方へ去っていく。
   千夏が完全に見えなくなったところで
   踵を返す星川。

〇イメージ
   駅から出て繁華街を1人歩く星川。す
   ると報道陣が星川の周りを取り囲む。
記者「星川さん。今夜の第2戦、お疲れ様で
 した。先ほど入りました情報によるとライ
 バルである仁湖氏の獲得ポイントは75で、
 星川さんの勝利に終わったそうですね」
星川「ありがとうございます。しかし僕にと
 ってはライバルの存在はさして大きな意味
 はありません」
記者「といいますと?」
星川「いわば、己自身に勝つこと、それが大
 切なことですから」
記者「なるほど。そして今夜の試合ですが、
 星川さんご自身としては勝因はどこにあっ
 たとお思いですか?」
星川「やはり事前の徹底した準備ですかね。
 特に今回は情報戦としての側面が大きかっ
 たので」
記者「そうですね、見事な戦いっぷりでした。
 さて、次の第3戦がいよいよ最終ラウンド
 となりそうですが、どのように戦うおつも
 りですか?」
星川「そうですね。やはり次で告白に持って
 いく必要がありますので、彼女とは長い時
 間を過ごすつもりです。そしてできるだけ
 自分のフィールドで戦いたい。なので一緒
 に映画に行き、その後表参道のお洒落なイ
 タリアンを計画しています。私のコーチで
 ある田島のお墨付きのお店なのでまず間違
 いはないでしょう」
記者「なるほど。では次回の試合も期待して
 おります。今夜はどうもありがとうござい
 ました。星川康太選手でした」
星川「どうも」
   星川、記者団に頭を下げ、そのまま去
   っていく。
   ×   ×   ×
   トーナメント表。星川と仁湖の顔が出
   ていたが、仁湖の顔写真が消え、星川
   がトップに出る。

〇実況席
   スポーツの実況席風の空間。アナウン
   サーと田島が並んで座っている。
アナウンサー「さあ、遂にライバルたちを蹴
 落とし、後は五十嵐さんの承認を受けると
 いう段階に至りました。星川康太の『MA
 TCH!』いよいよ次は最終戦です。ここで
 解説に素敵なゲストをお招きしました。星
 川選手のコーチであり友人の田島実さんで
 す」
   田島、手を挙げて
田島「あ、どうも田島です。よろしくお願い
 しまーす」
アナウンサー「さあ田島さん、星川選手のこ
 こまでの戦い、いかがでしょう?」
   田島、顎を触りながら得意げに分析し
   ながら語る。
田島「そうですねー。まあ多少反則ギリギリ
 のずるい手も見られましたが、それほど真
 剣なんでしょうね」
アナウンサー「それにしてもこの数ヶ月の星
 川選手の成長ぶりは目を見張るものがあり
 ますね」
田島「そうですね。まあ学生時代から彼を知
 ってますが、本当にザ・草食系男子って感
 じでしたから。僕自身この変化には驚いて
 ますね」
   アナウンサー、田島を遮る。
アナウンサー「あ、今情報が入ってきまし
 た! 星川選手が五十嵐さんと共に映画館
 に入場した模様です」

〇T『FINAL STAGE』

〇映画館・売店前
   千夏が立っているところに星川がポッ
   プコーンとジュース2つを買って戻っ
   てくる。
星川「お待たせ」
千夏「ありがとうございます」
   笑顔でシアターに向かって歩いていく
   2人。
アナウンサーの声「田島さん、五十嵐さんが
 お手洗いに行っている隙に食べ物を買う。
 これはなかなかのファインプレーですね」
田島「はい、チケットも事前にネットで一番
 良い席を購入済みですし、出だしから好調
 ですね。このペースを夜まで持続できれば
 いいですね」

〇同・劇場内
   洋画のラブストーリーを観賞する2人。
   千夏、欠伸を噛み殺している様子。
千夏の声「あーあ、爆発とか銃撃戦とか起こ
 んないかなー」
   星川は泣きそうになるのを必死でこら
   えている様子。
星川の声「はああああ。何て悲しい映画なん
 だ。しかしいかん! 泣いてはいかん! 
 今の俺は『普段はアクションしか見ないが
 彼女の趣味に付き合ってちょっと無理して
 恋愛映画を観ている男らしいスポーツマ
 ン』なのだ! ここで泣いては設定がぁ……
 そうだ、気を逸らせ」
   ×   ×   ×
(フラッシュ)映画のヒロインと同じような
   格好に女装した田島が号泣しながら電
   車から手を振っている。
   ×   ×   ×
   元の映画館。ハッと我に返ったような
   顔をする星川。
星川の声「よしっ! 耐えた」
   星川の隣では必死に膝をつねる千夏。
千夏の声「クソっ、涙が出ねえ~」

〇映画館・外
   映画館から出てくる星川と千夏。
   千夏、ハンカチを目元に当てながら
千夏「すっごい良かった! 私あの電車のシ
 ーンで泣いちゃいました」
星川の声「可愛い人だなぁ」
星川「僕も泣い……」
星川の声「こらっ!」
星川「僕普段アクションとかしか観ないんで
 すけど、たまにはこういう恋愛ものもいい
 ですね」
   にっこり微笑む星川。
星川の声「危ない危ない。これぐらいに留め
 るべきだ」
千夏「でしょぉー?」
千夏の声「やっぱり人の死なない映画はつま
 んないな。セックスとバイオレンスは欠か
 せないよなあ」

〇表参道(夜)
   表参道の通りを歩く星川と千夏。

〇レストラン・店内(夜)
   お洒落で落ち着いた雰囲気の店内。星
   川がドアを開け、千夏を通す。
   ×   ×   ×
   星川が千夏のために椅子を引き、千夏
   を座らせてから自分は手前の席に座る。
アナウンサーの声「田島さん、やはり星川選
 手、紳士的行動が板についていますね」
田島の声「ええ、もう相当数練習を重ねてき
 たはずですから、完全に技術を自分の物に
 していますね」
   星川、千夏にメニューを手渡す。

〇実況席
   アナウンサーと田島が並んで座ってい
   る。
アナウンサー「しかしお店のチョイスもいい
 ですね。これは女性としてもかなりの高得
 点なのでは?」
田島「ここは僕が教えたお店なんですが、実
 はですね。僕がKOIKOIを使って今の
 妻に告白した時もこのお店だったんですよ。
 だから縁起も非常にいいはずですよ」
アナウンサー「ほお、そうでしたか。それは
 素晴らしい。さあ、このまま乗り切れるか
 星川康太」

〇元のレストラン・店内(夜)
   星川と千夏が楽しげに会話しながらワ
   イン片手にイタリアンを食している。
   星川の頭上のポイントが「90P」に
   なる。
   更に「91P」、「92P」と徐々に上
   昇していく。
アナウンサーの声「おおーっと! いよいよ
 ポイントが大台に近づいていきます。これ
 はも告白成功間違いなしか!」
   ポイントが「96P」になる。
   そこで少し離れた通路を若い女性が通
   りかかる。星川の視線が自然とそちら
   へ動く。するとその若い女性は星川が
   初めてカフェで会った女性であること
   がわかる。
   ×   ×   ×
(フラッシュ)カフェ。星川と二人で向かい
   合って座って話す女性。
   ×   ×   ×
星川「あ……」
   星川と目が会った女性、気まずそうな
   顔で早足でトイレに行く。
   星川の顔に動揺が見える。
千夏「どうかした?」
星川「あ、いや。何でも……」
   傍のワイングラスに手を伸ばす星川、
   手が震えてグラスを倒してしまい、ワ
   インがテーブルにこぼれる。
星川「うわっ、しまった」
   慌ててナプキンでテーブルを拭く星川。
アナウンサーの声「おおっと、ここで思わぬ
 アクシデント!」
   頭上のポイントが「88P」にまで下
   がる。
星川「千夏さん、服大丈夫?」
千夏「ええ、私は大丈夫(店員に向かって)
 すいませーん!」
   店員が慌てて布巾を持ってきてテーブ
   ルを拭く。
星川「すいません」
店員「いいえ、お客様、お洋服は大丈夫です
 か?」
   星川、自分の服を見る。シャツに少し
   ワインがにじんでいる。

〇同・トイレ(夜)
   洗面台でティッシュに水を含ませてシ
   ャツを拭く星川。
星川「だいたい大丈夫かな……」
   溜息をつく星川。
   すると流水音が鳴り、個室から仁湖が
   出てくる。仁湖、頬を叩いて気合を入
   れる様子。
   鏡の前で並ぶ星川と仁湖。鏡越しに目
   が会う。
星川・仁湖「えっ?」
星川「ニコチン?」
仁湖「ホッシー?」
星川・仁湖「マジか!」
   急に懐かしそうになる二人。
仁湖「え、何、めっちゃ久しぶりじゃん!」
星川「卒業以来じゃね?」
仁湖「まだ田島とか会ってんの?」
星川「うん、時々」
仁湖「そっかそっかー。でもここで会うとは
 なー」
星川「ねっ。あ、ヤベっ、戻んないと」
仁湖「うん、じゃあ今度またゆっくり」
   星川、仁湖に手を振ってトイレを出る。

〇同・店内(夜)
   テーブルに戻る星川。
星川「いやあ、今トイレで大学の同期とバッ
 タリ会って」
千夏「え、すごい偶然ですね」
星川「びっくりですよね」
   少し離れた席に座ろうとしている男女
   の動きが千夏の視界に入る。チラリと
   そちらを見る千夏。
   そこには三浦が若い女性と一緒に座っ
   ている。
   こちらをチラリと見てくる三浦。
   さっと視線を星川に戻す千夏。
星川「どうかしました?」
千夏「いえ、別に」
   遠くで三浦がゆっくりと立ち上がり、
   こちらに近づいてくる。
   千夏、やや不自然な動作で手で顔を隠
   す。
   傍に来る三浦。
三浦「やっぱりあんたか! おい、何メール
 シカトしてんだよ!」
   ギョッとした顔をする千夏。
   事態が呑み込めていない星川。
三浦「おい、何か言えよ」
   顔を俯ける千夏。
アナウンサーの声「おおーっとこれまた不測
 の事態。これはまずいですね」
田島の声「婚活の暗黙ルールを理解してない
 バカがいたもんだ」
   視線を星川の方に向けてくる三浦。
三浦「おいおい、俺をシカトして何だよ、こ
 んなモヤシ野郎かよ」
   星川の顔が引きつる。
   ×   ×   ×
(星川の妄想)三浦に絡まれている星川、す
   っと立ち上がり
星川「君、さっさとその汚い口を閉じてくれ
 るか? せっかくの料理が不味くなる」
三浦「ああ? 何だと?」
   三浦、突然星川に殴りかかる。しかし
   すぐに三浦の腕を掴み、反対側に捻る
   星川。腕がおかしな方向に曲がって悲
   鳴を上げてのたうつ三浦。
   星川、席に戻り
星川「僕たちの勝利に乾杯しよう」
   千夏、うっとりとした目で星川を見る。
   ×   ×   ×
   元のレストラン。うろたえる星川。
星川の声「まずい、まずいぞ。とんでもない
 バカがいたもんだ。クソ、スポーツマンに
 設定した以上このバカは俺がどうにかしな
 いといけないはずだ。だけどしかし……」
   三浦をチラリと見る星川。
星川の声「服の上からでもわかる筋肉。もし
 戦うことになったらいくら筋トレしたとは
 いえ確実に負ける。まずい、しかしこのま
 ま黙っておくわけには……」
   星川、膝の上でぐっと拳を握る。
星川「(小さな声で)き、君……」
   そこで突然千夏が立ち上がり、三浦の
   胸倉を掴んで顔に往復ビンタを3連発
   する。
   呆気に取られる星川。
千夏「(ドスの利いた声で)おい! お前に用
 はねえんだよ低学歴のポンコツ野郎!」
   唖然としている三浦。
三浦「誰がポンコ……」
   更に5連発の往復ビンタをかます千夏。
千夏「おい、まだ何か文句あんのか? あ?」
   三浦、俯いて震える小さな声で
三浦「……すいません」
千夏「は? 聞こえねえよ!」
三浦「……すいませんでした……」
千夏「わかったらとっとと消えろコラ」
三浦「はい……」
   小走りで去っていく三浦。
千夏「ったく」
   席に座る千夏。
   驚愕の表情で固まっている星川。
   千夏、我に返って慌てる。
千夏「あ! いや! これは……その、ほ、ほ
 ら、あれ!」
星川「あれ?」
千夏「あ、あの、何とかマックス。星川さん
 おすすめの」
星川「マッドマックス?」
千夏「そう、それ! それのフュリオサ? 
 がカッコよくて影響されちゃって……」
星川「……あああ、ああ、ああ」
   そこへ遠くで皿が大量に割れる音。
   星川と千夏がそちらを見ると男女が座
   る席の所で店員がお盆をひっくり返し
   てしまっている。
店員の声「も、申しわけございません! す
 ぐにお席をお代えいたしますので」
   別の店員が星川たちの隣の席の椅子を
   引き、男女が移動してくる。
   その男女をちらりと見る星川と千夏。
   やってきたのは仁湖と零香である。
仁湖「(星川を見て)あっ」
   仁湖、今度は千夏を見る。
仁湖・千夏「ええ!」
星川「え?」
   更に星川と零香の目が合う。
星川・零香「え?」
星川・千夏・仁湖・零香「えええええ!」
   零香、星川を睨みつけて怒鳴る。
零香「何よあんた! 子持ちは勘弁ってか! 
 ええ!?」
   しどろもどろになる星川。
星川「あ、いや、そういうわけじゃ……」
零香「そうだろ! じゃあ何であたしが息子
 の写メ見せた途端にブッチなんだよ! え
 え?」
星川「いや……それは……」
   仁湖と千夏も顔が引きつっている。
   更にそこに三浦が怒鳴りながら戻って
   くる。
三浦「おいてめえ! ふざけんなよ! お前
 のせいでせっかくヤレそうだった女に逃げ
 られたじゃねえか!」
アナウンサーの声「何ということでしょう。
 地獄というものが実在するのならばまさに
 このこと」
田島の声「ダメだ! もう見てられない!」
アナウンサーの声「あ、ちょっと、田島さん
 ! どこへ!」
   言い合いを続ける一同。
   星川、さっと1万円札をテーブルの上
   に置き、千夏の手を握る。
千夏「え?」
   星川、千夏の目を見て頷く。
   すると千夏の手を引いて猛ダッシュす
   る星川。
   騒ぐ一同を尻目に全力で逃げていく2
   人。

〇表参道(夜)
   夜の表参道を手を繋いで全力疾走する
   星川と千夏。

〇代々木公園前(夜)
   公園の入り口の前で息を上げながら膝
   に手をついて休む星川と千夏。
   咳き込む星川。
   ぷっと笑いだす千夏。
星川「え?」
千夏「あはははは」
星川「(苦笑い)」
   一呼吸置く2人。
千夏「……でも、ちょっと楽しかったかも」
星川「大の大人が全力ダッシュですよ。青山
 から代々木まで」
   大笑いする2人。
   笑いが落ち着き、神妙な空気で黙る2
   人。
星川「千夏さん……」
千夏「はい……」
星川「千夏さん……すいません。やめましょう
 か、こんなこと」
千夏「はい……え?」
星川「俺、一体何やってたんだろうって、何
 だか急にバカバカしくなったんです。ただ
 ひたすら嘘を重ねて自分を良く見せて、何
 か相手に欠点が見つかればすぐに切り捨て
 て、もっと条件のいい相手はいないかって
 延々と次を探して……こうしてまで結婚する
 意味って何でしょう?」
千夏「え、だって……」
星川「お互い目の前にいる相手は常に幻想な
 んだと思います。俺たちは実は人を見てい
 ない、ただ目の前にいるのは条件の集合体
 にすぎないんです」
千夏「条件の……集合体」
   星川の周囲に文字が浮かぶ。
   T『会社員 年収500万 スポーツ
   マン 紳士 アクション映画好き 物
   知り 90P』
   それらの文字にヒビが入り、崩れてい
   く。
星川「それで結婚したところで、幸せな関係
 って築けるんでしょうか? 俺にはそうは
 思えなくて」
   俯いて沈黙する千夏。
星川「この際全部ぶっちゃけますけど、俺は
 年収500万の会社員なんかじゃないです。
 本当は300いくかどうかの、いつ切られ
 るとも限らない派遣社員です。それにスポ
 ーツだって嫌いなインドア人間だし、本当
 はアクション映画よりラブストーリーが好
 きな男なんです。それに笑っちゃうかもし
 れませんけど、いい歳してロマンティック
 な運命の出会いとか期待しちゃってますよ。
 映画みたいな。だから仕事終わりにコーヒ
 ー買って街ブラしちゃったりしてますよ。
 それも運命の人にぶつかるためにね。ええ
 バカですよ。たぶん頭どうかしちゃってま
 すよ。でも、やっぱり僕はこんな風にいつ
 切られるかもわからない弱肉強食のサバイ
 バルみたいな関係よりも、そういうロマン
 ティックで美しい関係だって世界には存在
 するんだって信じていたいんですよ」
   一気に喋って息が上がる星川。
   口元を噛みしめている千夏。
   数秒の沈黙。
   スマホを取り出し、KOIKOIを開
   く星川。
星川「俺には向いてない」
   星川、その場でKOIKOIを削除す
   る。
   黙ってそれを見ている千夏。
星川「俺みたいなのに時間取らせてすいませ
 んでした」
   星川、そのまま立ち去っていく。
   その場には呆然としたまま立ち尽くす
   千夏。
   ×   ×   ×
(星川の妄想)去ろうとする星川に千夏が声
   をかける。
千夏「待ってください! 私気づいたんです。
 あなたが嘘をついてたとか関係ない。私は、
 星川さんの、ありのままの姿、それが好き
 なんです」
   千夏の前に戻る星川。
星川「恋愛映画やスイーツが好きな男子で
 も?」
千夏「はい。あなたの全部が」
星川「千夏さん……」
   星川、千夏の手を握る。
   星川の胸元に身を寄せる千夏。
   ×   ×   ×
   元の代々木公園の前の通り。星川が1
   人歩き去っていく。
   後ろを気にする星川、何も声がかから
   ない。
星川「そんなことないか……」
   溜息をつく星川。

〇千夏の部屋(夜)
   荒れた様子でスマホを操作する千夏。
   テーブルの上には缶ビールの空き缶が
   何本も置かれている。
千夏「ふざけんなあのクソ野郎!」
   KOIKOIで男性のプロフィールを
   見ている千夏。画面には「LIKE」
   と「NOT LIKE」
千夏「次だ次!」
星川の声「ただ目の前にいるのは条件の集合
 体にすぎないんです」
   プロフィールを開いたまま手を止める
   千夏。
   そしてそっとスマホを閉じ、ベッドの
   上に放り投げる。
千夏「わかってんだよバーカ」
   溜息をつく千夏。
   床にあるコンビニの袋からビールを取
   り出し、蓋を開ける。
N「千夏はこれまで会った男たちを思い返し
 ていた。会社員、企業家、アーティスト、
 公務員……しかし彼らの話の一体どこまで
 が本当なのだろう」
  ビールを一気に飲む千夏。
N「そんな中で、唯一本当のことを話したの
 が、あの星川という男だったのではないだ
 ろうか」
千夏「うるせえファッキュー!」
N「だがやはり運命などという物は信じるこ
 とはできない。それだけは絶対。生き方だ
 けは変えられないのだ」
   ビールを飲み干し、缶をテーブルの上
   に雑に置く千夏。

○青山通り(夕)
   仕事帰りの人々が行き交う青山通り。
   スターバックスから星川がテイクアウ
   トしたコーヒーを片手に颯爽と出てく
   る。
N「一方で星川も元の日常に戻っていた。相
 変わらず運命の人を探す日々」
   少しばかり足早にウロウロと歩く星川。
   ×   ×   ×
(フラッシュ)代々木公園の前で千夏の元か
   ら歩き去る星川。
   ×   ×   ×
   苦い顔で青山の裏路地に入っていく星
   川。
星川「やっぱもったいなかったかなぁ……」
   肩を落とし、ボーっと歩く星川、角を
   曲がる。
   すると突然軽トラックが走ってくる。
星川「あ……」
   急ブレーキの音と共に跳ね飛ばされる
   星川。
   ×   ×   ×
   救急車の音。

〇病院・搬送口(夕)
   救急車から降ろされ、ストレッチャー
   で運ばれる星川。周りを大勢の医者や
   看護師に囲まれて移動している。
星川「(情けない声で)痛い……痛い……足がぁ、
 足がぁ~」
医者「もう病院着きましたからねえ、大丈夫
 ですよぉ」
星川「足がぁ~」
   星川を運ぶスタッフの中の1人が千夏
   である。
   千夏、若干イライラした様子で
千夏「軽傷なんだから大丈夫だって言ってる
 でしょ。少しはしっかりしなさい! ピー
 ピーピーピーうるさい」
医者「まあまあ五十嵐さん、カッカしない
 で」
星川「え?」
   星川、ふと顔を上げる。
   そこでふと目が合う千夏と星川。
星川・千夏「あ……」
   鳴り響くストレッチャーの車輪の音。

〇T『MATCH!』

                 《了》

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