マーブル・ポップコーンep3【何事も表だけでは分からない】 コメディ

現代を生きる若者が、夢や恋、友情を通じて交流していくポップなコメディ物語。今回は ルームメイトのシュミレットが仕事で大失敗して、恐い年下の女上司にも後輩にも迷惑をかけてしまう。その時、シュミレットの判断はいかに……。
ぐずら 4 0 0 07/14
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第一稿

 マーブル・ポップコーンep3
  タイトル 【何事も表だけでは分からない】


※マーブル・ポップコーン エピソード1、2が
 ありますが、基本的に一話完結なのでこの
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 マーブル・ポップコーンep3
  タイトル 【何事も表だけでは分からない】


※マーブル・ポップコーン エピソード1、2が
 ありますが、基本的に一話完結なのでこの
 エピソードから読んでも特に問題ありませ
 ん。

登場人物
一条 はるか(26)『いちじょう はるか』
  女。女優を目指している。
ニック、(二宮 九太郎(36))『にのみ
  や くたろう』男。夢は小説家。フリー
  ター。
シュミレット、(三木 秀人(35))『み
  き しゅうと』男。普通のサラリーマン。
ウェス、(五十嵐 西貴(33))『いがら
  し さいき』男。ダンスレッスンの先生。
シシ、(四葉 詩詞(26))『よつば し
  し』女。はるかの親友。密かに歌手を目
  指している。

バーのマスター(60) 
女上司(31) シュミレットの仕事の上司
後輩(28) シュミレットの仕事の後輩 
OL達 二人 シュミレットの会社の社員


〇シェアハウス リビング 朝
   シャアハウスのみんなは朝食を食べて
   いる。
   ウェス、あくびをしながら起きてくる。
   そして朝食を食べてるテーブルに座る。
ウェス「(ニックに)そのシリアルちょっと
 くれない?」
ニック「そこにまだあるだろ? 自分で入れ
 ろよ」
ウェス「そんなにはいらないんだ。一口だけ
 で十分なんだよ」
ニック「嫌だ!」
ウェス「いいじゃねぇか!? 少しくらい!」
   ニックとウェス、シリアルを取り合う。
シシ「もう、何してんのよ二人とも!」
ハルカ「牛乳こぼれてるよ!」
シュミレット「おやめなさい、二人とも!」
   シュミレット、神父さんのような服を
   着て、神父さんのような喋り方でニッ
   クとウェスを止める。
ウェス「うん?」
シュミレット「醜いのは顔だけにしときなさ
 い」
ニック「何だ? その格好? 喋り方も変だ。
 朝から変なもんでも食べたのか?」
ハルカ「そうなのよ。朝から変なの」
シシ「実を言えば昨日の晩からすでに変よ」
シュミレット「大いなる自然のモノを奪い合
 う事は誰にも出来ないのです。たとえ奪っ
 たとしても、あなたの物ではありません」
ニック「オーガニックだったっけ?(シリア
 ルの事)」
   ウェス、シリアルの箱を見る。
ウェス「いや、添加物だらけだ。自然の方が
 少ない」
シュミレット「奪い合うのではなく、譲歩し、
 己の魂を磨きなさい。いつも無意味に生き
 て、何も努めていないあなた達は恥ずかし
 いと思わないのですか?」
ウェス「おい、これだろ?」
   ウェス、テーブルに置かれていた本を
   手に取る。
ニック「ゾグラテス・ギャンジー? また変
 なモノに影響されてる奴の方がよっぽど恥
 ずかしいぜ」
ウェス「おいおい、何のパロディでそんな名
 前になったんだ? 絶対実在してねぇぞこ
 いつ。また出版社が用意したゴーストライ
 ターに踊らされてんじゃねぇよ」
シュミレット「おっと、もう会社の時間です。
 朝から無駄で愚かな時間を過ごしてしまっ
 たあなた達は悔い改めなさい。私は、そろ
 そろ出ます。世の中の務めを果たさねばい
 けません」
   シュミレット、家を出る。
   みんな唖然と無言でシュミレットを見
   送る。

〇シュミレットの会社 食堂 (昼)
   ビルの中にある普通のオフィス。デス
   クがありパソコンがある。
   シュミレット、昼休み食堂でご飯を食
   べている。サバの缶詰とタッパーのご
   飯だけ。
   仕事の後輩がそれを見て声をかける。
後輩「え? それが昼飯?」
シュミレット「そうです」
後輩「それだけっすか?」
シュミレット「ええ、これで十分です。私達
 はいつも食べすぎているのです。浮いた昼
 食代は募金してきました」
後輩「へ、へぇ~」
シュミレット「あの肥満が多いアメリカでも
 昼食は結構質素にしています。世界からみ
 ると日本は昼食を豪華にしすぎなのです。
 バングラデッシュの子供やペルーの子供達
 の事を思えば……」
後輩「そ、そうですよね。日本、豪華なもん
 食べすぎっす! すいません! ちょっと
 用事があるもんで……」
   後輩、苦笑いでそそくさと何処かへ行
   く。
シュミレット「……まぁいいでしょう。彼も
 いつか分かる日が来ます」
   シュミレット、タッパーを開け、おか
   ずの缶詰を開けようとするが、缶切り
   がない事に気づく。
シュミレット「……ん?」

〇タイトル「マーブル・ポップコーン」
 ご飯の上の海苔にタイトルが書いてある。

   シュミレット、缶詰を色々見回すが開
   けれる所がない(プルタブが付いてい
   ない)。
   どんどんと表情が曇っていき、必死に
   開けようとしている。
   歯で開けようとしたり、どこかに叩い
   たり、とにかく必死で開けようとして
   いる。
   周りはそんなシュミレットを見てコソ
   コソ笑う。「あの人何やってんの?」
   とか言われる。
シュミレット「バカな……こんなはずは……
 まさかオカズすら食べれないとは……白飯
 だけで過ごす? そんなバカな事があるか
 ……どこの国の奴だ」
   シュミレット、お腹が鳴る。
シュミレット「オカズだけでも買うか……」
   シュミレット、財布の中身を見る。蛇
   の抜け殻と緑の羽だけが入っている。
シュミレット(募金しすぎたー! でも、数
 百円あれば100均で買えるか? 時間は
 まだある……)
   シュミレット、チラッと腕時計を見る。
シュミレット(あと5分じゃねぇか! 缶詰
 に手こずり過ぎた!)
   シュミレット、悔し泣きしながら白飯
   だけを食べる始める。
シュミレット「ちくしょう~……」

〇シュミレットの会社 オフィス (昼)
   シュミレット、やせこけた顔でデスク
   に頭を付けて座っている。お腹も鳴っ
   ている。
   それを見た後輩が近づいてくる。
後輩「先輩、どうしたんですか?」
シュミレット「……どうしたと思う? 唯一
 のオカズであるサバが食べれなかったんだ。
 あの強固な箱を開けれなかったんだ! 時
 間も金もなかった! そうさ! 恵まれな
 い子供たちに募金したからさ! おかげで
 この様だ! 笑うがいい! 俺を笑うがい
 いぃ!」
女上司「(遠くから)うるさい! 死ね!」
シュミレット「……だってさ。死にそうなの
 に追い討ちかけられちまった。死ねってさ」
後輩「あの、これナナオ(女上司の名前)さ
 んに頼まれたものです」
シュミレット「おぅ、そこ置いといて」
   後輩、シュミレットの机に置く。
後輩「はい。月曜日までにお願いします」
シュミレット「ほーい……」
   後輩、苦笑いでどこかへ行く。

〇シュミレットの会社 廊下 昼
   シュミレット、廊下をフラフラ歩いて
   いる。
シュミレット「おかしいだろ? 1食抜いた
 だけでフラフラするなんて……少しでも飲
 むか、食べないと……」

〇同・給湯室 昼
   後輩がチョコバーを食べている所を発
   見。
   シュミレット、後輩に近づく。
シュミレット「そ、それ……」
後輩「ど、どうしたんすか先輩? 今日なん
 かむちゃくちゃおかしいですよ!」
シュミレット「一口でいいから! それ、く
 れ!」
   シュミレット、後輩に激しく近寄り揺
   さぶったりしてる。
後輩「ちょっと、先輩! 揺らさないでくだ
 さい!」
シュミレット「もうダメだ……」
   シュミレット、後輩の手に持っている
   チョコバーをゾンビみたいに無理やり
   食べようとする。
後輩「もう嫌だ! この人!」
   後輩、激しく迫るシュミレットを押し
   退ける。
   シュミレット、払いのけられ後ろに大
   きくよろめく。後ろに恐い女上司がい
   る。そのまま女上司の胸に飛び込む。
シュミレット「ああん!」
女上司「……」
シュミレット「……あれ? 柔らかい……こ
 こは天国かな?」
   シュミレット、そう言いながら女上司
   の胸を触る
女上司「そう、そんなに天国に行きたいの?
 じゃあ、今すぐにでも連れて行ってやるよ!」
シュミレット「ああぁ~!」

〇映画館 夜
   次の日の夜、ルームメイト達と映画館
   に来ている。映画が始まる前。みんな
   座ってポップコーン食べてたりジュー
   スを飲んでいる。席順は左からニック、
   シュミレット、ウェス、シシ、ハルカ。
   シュミレット、顔がケガだらけで女上
   司にされた事をルームメイト達に話し
   ている。
シュミレット「……って、事が昨日あったん
 だ。で、このザマだ」
ニック「それは……、お前が悪いんじゃねぇ
 か?」
シシ「ただのセクハラ野郎じゃん。シュミレ
 ット最低~」
ハルカ「ちゃんと謝った方がいいよ?」
シュミレット「謝る前にボコボコにされたん
 ですが。パワハラにモラハラに暴力も受け
 たんですが」
シシ「訴えられないだけマシよ」
シュミレット「訴えられた方がマシなパター
 ンだったかも」
   シュミレット、チラッとシアターに入
   ってきて階段を上がってくる女性を見
   る。そして目を大きく開けて驚く。
   上がってくるのは女上司。
   女上司はシュミレット達の一つ後ろの
   席のレーンに座る。
シュミレット「オウ、マイ、ガァー……」
ニック「どうした?」
シュミレット「(指さして)あそこに座って
 る人いるだろ? あれが今さっき言ってた
 俺の上司だ」
ニック「え? あのチュロス食べてる人?」
   凄く太ったオタクみたいな奴が女上司
   の近くにいて、そいつと勘違い。
シュミレット「違う! あれはどう見ても男
 だろう!? お前の母ちゃんみたいにお父
 さんかお母さんか分からないやつもいるけ
 ど、そうじゃない! もうちょいこっちだ!」
シシ「え? 噂の上司が来たの?」
ウェス「うそ? どこどこ?」
シュミレット「あの人。今、凄い険しい顔で
 ポップコーンを食べてる人」
ハルカ「え? あの人男じゃないの?」
   凄く太ったオタクみたいな奴(さっき
   と同じ奴)がスクリーンを険しい顔で
   ポップコーンを食べている。
シュミレット「だから違うって! 女! あ
 いつもタイムリーに同じ動作しやがって紛
 らわしいんだよ! さっきチュロス食べて
 たじゃねぇか! もうちょいこっち!」
   女上司、スクリーンを睨むようにポッ
   プコーンを食べてる。
   みんな、誰か分かり「あぁ~」。
シシ「へー、綺麗な人じゃない」
ウェス「いや、マジでスゲー美人じゃん」
ニック「まぁ、確かに怖そうではあるな」
ハルカ「一人で来てるんだね」
シュミレット「きっとそうだろ。友達や恋人
 と一緒にいる姿なんて全く想像出来ないぜ」
ハルカ「挨拶しないの?」
シュミレット「しないしない! この顔を見
 てよ! さらにキズを増やしたくないぜ。
 どうやら俺に気づいてない様子だし、この
 まま気づかれずにいてくれた方が良い」
ウェス「へックション!」
   ウェス、大きなクシャミする。
シュミレット「おい! 勘弁しろよ!」
ウェス「悪ぃ。花粉症だ」
シュミレット「お前とは絶対にかくれんぼし
 ないからな」
ウェス「良かった。俺も永遠にしたくないわ」
シュミレット「とにかくみんな、大人しく映
 画を観るんだぞ! 分かったな!」
   プルルルっとニックの携帯が鳴る。
ニック「あ、悪い。俺だ」
シュミレット「お前って奴は! 何で映画館
 に携帯を持ち込んだ!」
ニック「そこから? 普通、マナーモードに
 しとけって注意するんだろ?」
シュミレット「本当に、頼むぞ! 大人しく
 映画を観てくれ!」

× × ×
   映画は始まっている。
   シュミレット、トイレがしたくてガマ
   ンしている顔。
シュミレット(マジかよ……マジかよコレ。
 なんでこんな時にトイレが行きたくなるん
 だ!)
シュミレット「(ヒソヒソ話)おいニック、
 尿瓶持ってないか?」
ニック「はぁ? よく俺が尿瓶を携帯してる
 と思ったな。トイレなら行けばいいだろ?」
シュミレット「バカが! お前はバカだ! 
 このバカ! 上司がいるんだぞ?」
ニック「じゃあ、反対側から行けよ」
シュミレット「反対側から出たら怪しまれる
 だろ! 出口はあっちだし、ここからなら
 そっちから出た方が早いだろ!」
ニック「んな事気にすんじゃねぇよ!」
シュミレット「今、上司とは微妙な関係なん
 だ! 行けるわけないだろ!」
ニック「なんなんだこの議論! 結局お前は
 行けないのかよ!」
シュミレット「あぁ! 行けない!」
ニック「トイレを我慢してる事を激しく訴え
 てるんだな? お前は?」
シュミレット「ああ、そうだ! ……考えた
 ら頭おかしいな」
ニック「偉い、よく気づいた」
ウェス「おい、お前ら静かにしろよ」
シュミレット「(ニックに)良い案考えてく
 れよ。お前、小説家だろ?」
ニック「全く関係ないね。獣医が人間の手術
 する以上に関係ないぜ。ペットボトルにで
 もすれば?」
シュミレット「わぉ、それナイスアイデアだ
 ぜ!」
   シュミレット、ズボンを下ろそうとベ
   ルトに手をかける。
ニック「うそ……やめろ! 俺の隣でするん
 じゃねぇ! こぼれてかかったらどうする
んだ!?」
   ニック、止めようとする。
ウェス「うるさいって言ってるだろ!?」
   ウェス、シュミレットがズボンを下ろ
   している事に気づく。
ウェス「おい、なんで脱ごうとしてるんだよ?
 え? そんなシーンでもないだろ? おい、
 どうなってんだこいつの衝動?!」
ニック「止めろウェス。こいつする気だぜ!」
シュミレット「止めるな! もう我慢出来な
 いんだ!」
ウェス「え? 何なに? 強力なマカでも飲
 んだのかよ!?」
   シュミレット、二人に止められる。
シュミレット「離せ! このままだと俺が俺
 じゃなくなる!」
ニック「分かったから! これ貸してやるか
 ら行って来いよ!」
   ニック、シュミレットにサングラスと
   マスク(変なモノ)を渡す。
シュミレット「いいのがあるじゃねぇか!」
ウェス「何に使うんだ!? それとなぜそん
 なモノを持ってる!」
   シュミレット、サングラスとマスクを
   付けてトイレに向かう。
   女上司の前を通り過ぎる時にだけ、変
   に高い声を出す。(別人を演じている)
シュミレット「(高い声で)失礼」
   女上司、気にも留めない。

〇シュミレットの会社 オフィス 
   週初め(月曜日)のシュミレットのオ
   フィス。
   シュミレット、やつれた感じでデスク
   に座っている。
後輩「先輩、最近疲れた顔してますね。大丈
 夫なんすか?」
シュミレット「体力的にも精神的にも大幅に
 疲労する事があったからな……休みの日の
 気晴らしの映画すら緊迫して観れなかった」
後輩「ホラー映画でも観たんすか? シスター
 の死霊館とか?」
シュミレット「いんや、プリティウーマンみ
 たいなラブコメ」
後輩「(何で?)。ご飯は食べてるんですか?」
シュミレット「食欲がないんだ……なのに性
 欲だけはすごいんだ」
後輩「……じゃあ、しばらく大丈夫そうです
 ね。それより、前に頼んでいたやつ出来ま
 したか?」
シュミレット「前に頼んでいたやつ?」
後輩「ほら、月曜日までにってやつです」
シュミレット「……それって何時にまで必要?」
後輩「12時っす」
   シュミレット、腕時計を見る。
   11時過ぎ。
後輩「まさか先輩……出来てないんすか?」
シュミレット「ちょっとお前、シュミレット
 は気絶して病院に運ばれたって言っててく
 れないか?」
後輩「え? けど、先輩、起きてるじゃない
 ですか?」
シュミレット「今からトイレに行って便器に
 頭ぶつけて気絶してくるから。すぐに救急
 車を呼べよ!」
後輩「先輩! 無茶苦茶っすよ!」
シュミレット「大丈夫だ。昔からの手法さ。
 クマに出会ったら死んだふりするだろ?」
女上司「シュミレット、頼んでたやつ見せて」
シュミレット「!!!」
   女上司、シュミレットの元へ来る。
   後輩もアワアワしてる。
   シュミレット、驚いた顔で女上司をず
   っと見ている。
女上司「ちょっと、聞いてるのあんた? な
 にジェイソンに襲われる前の人みたいな顔
 してるの?」
シュミレット「……はい?」
女上司「(少し怒りながら)例の、頼んでた
 やつ、早く見せて」
シュミレット「あぁ……何の事ですか? (
 後輩に)何の事だと思う?」
後輩「えぇ?」
女上司「何?(後輩に)あなた、言っててく
 れなかったの?」
後輩「いや、ちゃんと、言いました……けど」
シュミレット「何の事だろうな? ああ、も
 しかして、俺が仕事頑張りすぎて今にも気
 を失いそうになっている時に声をかけた?
 それじゃあ、ちゃんと伝えたって事になら
 ない。だって今にも気を失いそうになって
 る人にそれはないわ」
後輩「ま、マジっすか先輩!」
女上司「どうなのよ?」
後輩「俺は、伝えましたよ……」
女上司「あのね、ちゃんと伝えたら、こいつ
 がやらないわけないのよ」
   シュミレット、まさかの女上司に信用
   されている事に気づいて、罪悪感が生
   まれる。
   少し真剣な眼差しで女上司を見る。
シュミレット「……」
女上司「こいつは私の命令なら意地でもやり
 通す奴よ。今までがそうだったんだから」
後輩「……はい、すみません……」
女上司「今すぐに二人でやって。こっちはク
 ライアントに予定を遅らせてもらうから」
   女上司、戻る。
シュミレット「……」
後輩「ひどいっすよ先輩~!」
シュミレット「悪い、埋め合わせはするから」
× × ×
   シュミレット、一人で女上司のオフィ
   スに訪れる。チラッと扉の向こうから
   隠れるように女上司を見る。
   女上司は電話をしていて、何度も申し
   訳なさそうに頭を下げている。
   それを見たシュミレットはさらに罪悪
   感を感じる。
   シュミレット、女上司のオフィスに入
   る。
シュミレット「すいません、出来ました」
女上司「……」
   女上司、無言でシュミレットから資料
   を受け取り、目を通し始める。
シュミレット「……それと、ボスに言わない
 といけない事があります」
女上司「(シュミレットを見ずに資料を見て
 る)何?」
シュミレット「後輩は悪くありません。悪い
 のは全部俺です。あいつは俺にちゃんと伝
 えていました。俺のミスです」
   女上司、シュミレットを上目で睨むよ
   うに見る。
女上司「……嘘をついて、ミスを他人に押し
 付けたの?」
シュミレット「はい……」
女上司「……はぁ」
シュミレット「申し訳ありません(頭をさげ
 る)。どんな処分も受けるつもりです」
女上司「それで? ミスして嘘をついて、他
 人になすりつけて逃げて、今どんな気分?」
シュミレット「……最悪です」
女上司「……あなたには……がっかりしたわ」
   シュミレット「……」何も言えない。

× × ×

〇同・オフィス 夜
   社員達は残業も終わり、みんな帰宅し
   ていて明かりが付いているのがシュミ
   レットのデスクあたりだけ。
   シュミレット、静かで暗いオフィスで
   デスクに座って物憂げな表情。

× × ×
〇(回想)シュミレットの会社のオフィス 
 昼
   いつも女上司に直接的に怒られていた
   時を思い出している。
女上司「この、役立たずのクズが!」
× × ×
   (回想)女上司に胸倉を掴まれている。
女上司「肉片に変えてやろうか? それでハ
 ンバーグ作って、犬の夕飯にしてやろうか?」

× × ×
〇(回想)同・会議室 昼
   シュミレットが前に出てプレゼンして
   いる。
   女上司はチラッとシュミレットを見て
   少しだけ笑みを浮かべる。
   シュミレット、それを見て嬉しそうに
   プレゼンを続ける。

× × ×
〇(戻って来る)同・オフィス 夜
   シュミレット、まだ物憂げな表情。
シュミレット「(小声で)まだ、ボコボコに
 された方がマシだな……」
   後輩がオフィスに入ってくる。
後輩「あれ? 先輩まだいたんすか?」
シュミレット「あぁ……」
後輩「まだ帰らないんすか?」
シュミレット「……どこに帰ればいいんだよ?」
後輩「え? そりゃ、家にじゃないですか?
 どうしたんすか? 記憶も飛んじゃったん
 ですか?」
シュミレット「バカが! お前はもっと良い
 小説やドラマや映画を観ろっ! バカが!」
後輩「はいはい、じゃあ、お先失礼しまーす!」
シュミレット「おつかれ~……あ、それと!」
後輩「なんすか?」
シュミレット「今回はマジで悪かった。今度
 一杯奢るよ」
後輩「楽しみにしときます」
   後輩、軽い笑顔で去る。
   シュミレット、後輩が帰った後も1人
   深夜の暗いオフィスに佇む。

〇同・女上司のオフィス(次の日の朝)
   女上司、デスクに座り作業をしている。
   そこにシュミレットが来てデスクに
   「辞表」と書かれた封筒を置く。
女上司「……何のつもり?」
シュミレット「この度はセクハラ、及び多大
 な迷惑をお掛けしました。その責任を取ろ
 うと……」
   女上司、机をバンと叩く。
シュミレット「ファッ!!(驚く)」
   女上司、シュミレットのネクタイを掴
   んで顔を引き寄せる。顔が近い。
シュミレット「す、す、すいません!」
女上司「ねぇ、今夜、空いてる?」
シュミレット「えっ? え?」
女上司「空いているわよね?」
シュミレット「……はい」

〇小洒落たレストラン 夜
   退社後、シュミレットと女上司が座っ
   て食事をしている。パスタとか洋風な
   もの。
シュミレット「……」
女上司「……」
   女上司は黙々と食べている。シュミレ
   ットは食事があまり進んでいない。
シュミレット「あの、」
女上司「何?(シュミレットを見ずに食べな
 がら)」
シュミレット「これは、その、最後の晩餐か
 何かですか?」
女上司「……」
   女上司、シュミレットの話を無視して
   ウエイターを呼ぶ。メニューに指を差
   して注文する。
女上司「(ウエイターに)これ、お願いしま
 す」
ウエイター「かしこまりました」
シュミレット「……」
   女上司、また黙って食べ出す。
女上司「何? 食べないの?」
シュミレット「いえ、食べます」
女上司「……(食べている)」
   シュミレットもまた食べ始める。
   ウエイターがシュミレット達の席に来
   てワインを注ぐ。
女上司「グラスを取りなさい」
シュミレット「はい?」
   シュミレット、ワインの入ったグラス
   を取る。
女上司「このワインはね、私が戦友と認めた
 人間としか一緒に飲まないの。その覚悟は
 出来てる?」
シュミレット「え? どういう意味ですか?
 結婚?」
女上司「誰がお前なんかにプロポーズするか!
 このクソ男!」
シュミレット「はいぃ! ごめんなさい……」
女上司「で? どうするの?」
シュミレット「ちょっと、あまり理解してな
 いんですが……飲まないとどうなるんで…
 …」
女上司「(凄みを効かせて)飲むの? 飲まな
 いの?」
シュミレット「……の、飲みます」
   シュミレットと女上司、ワインを飲む。
女上司「これを一緒に飲んだのはあなたで二
 人目よ」
シュミレット「二人目?」
女上司「そう、あなたが二人目。この意味は
 分かるわね?」
シュミレット「はい……?」
女上司「だから、これ以上私を失望させない
 で」
シュミレット「はい……」
女上司「……私はこんな性格だから上手く自
 分の気持ちを伝える事が出来ないの。昔っ
 からよ。そして、大事な、信頼できるパー
 トナーを失った」
シュミレット「……」
女上司「もう、失いたくないの。忘れられな
 いから……」
   女上司、少し悲しい顔になる。
シュミレット「それって……つまり……」
女上司「明日からまた大事な仕事が始まるわ。
 私はあなたと乗り切るつもりよ。この意味
 は分かるわね? 今度はヘマしないで」
シュミレット「……(何かを決意したような
 表情)はい、分かりました」
   女上司、ずっと恐い顔してたのに少し
   笑顔を浮かべる。
女上司「よろしい」
シュミレット「ボスは笑顔でいるととても素
 敵な女性ですよ」
女上司「(しかめっ面に戻り)うるさい!」
シュミレット「(笑顔で)はいはい、すみま
 せん」

〇シュミレットのオフィス 昼
   シュミレット、女上司と忙しく過ごし
   ている。
女上司「例の件、連絡終わったの?」
シュミレット「はい、終わってます!」
女上司「よろしい。それじゃあ行くわよ! 
 一歩も引かないで!」
シュミレット「はい!」
   それを見て社員達が噂する。
女社員1「最近シュミレットさんとナナオさ
 ん上手くいってるわね」
女社員2「なんかあったのかな?」
   見ていた後輩も笑顔になる。

〇同・廊下
   シュミレットと女上司、足早に歩く。
女上司「急ぎなさい。今日は時間が押してい
 るわ」
シュミレット「わ、分かりました!」
   女上司がハンカチか何かを落とす。
シュミレット「あ、ボス!」
女上司「うん?」
   女上司、立ち止まって振り向く。
   シュミレット、女上司の落とし物を拾
   おうとして足が絡まってコケる。
シュミレット「あっ!」
   シュミレットはそのまま女上司の胸に
   ダイブする。そしてまた揉む。
シュミレット「あ、天国……」
女上司「てっめぇ~!!!」
   シュミレット、ぶっ飛ばされる。
シュミレット「はぅ~!」

〇映画館 夜
   ルームメイト達で再び映画館に来てい
   る。上映中。客は他に一人もいない。
   シュミレット、殴られた箇所の顔を冷
   やしている。
ハルカ「お客さん、一人もいないね」
ニック「貸し切り状態でいいじゃねぇか」
ウェス「(シュミレットに)どうしたんだよ?
 またセクハラしてやられたのか?」
シュミレット「誤解だ。アクシデントさ」
シシ「セクハラをいつも神のいたずらにされ
 ちゃあ困るわね」
シュミレット「もしくは妖精のいたずらかも
 な」
ニック「卑猥な妖精だな」
シュミレット「お前よりマシだな」
ニック「いや、お前の方が卑猥だな」
ハルカ「ちょっと、他のお客さんがいないか
 らってうるさいよ」
ニック「ほら、お前のせいで怒られた」
シュミレット「それで怒られたのかよ? 俺
 なんて怒られて今顔を冷やしてるぞ?」
ハルカ「もうすぐラストなんだから静かにし
 て!」
ニック「(ヒソヒソ声でシュミレットに)最
 後、ヒーローが悪役にされるんだ」
シュミレット「あぁ! てめぇ、ネタバレし
 やがったな!」
シシ「うるさい!」
   シシ、シュミレットを叩く。
シュミレット「痛っ! そこ今冷やしてるの
 に……(情けない声)」
シシ「だまれ!」
シュミレット「何で俺だけ……」
   ニックとウェス、クスクス笑う。
   シュミレット、不満顔。
× × ×
   映画が終わる。館内が明るくなる。
ハルカ「ふぅ~ん!(伸び)面白かった!」
シシ「思ったより良かったね」
ハルカ「だけどね、ちょっと……」
シシ「何?」
ハルカ「主人公より目立ったキャラがいるっ
 て、どうなんだろ?」
シュミレット「……そういう時もあるさ。ほ
 ら映画のダークナイトも主役のバットマン
 より、ヒースレジャーが演じたジョーカー
 の方が目立ってただろ? 映画やドラマに
 はストーリーと関係ない所でも色んな事が
 起こるのさ。本当は、登場人物達が全員、
 最初からは思いもつかない現状に、最後に
 は変わっているのが一番いいんだ。ピクサー
 の映画はみんなそうさ。本当に良く出来て
 いる作品ばかりだぜ?」
ハルカ「ふ~ん……よく分からないけど、主
 人公ももっと頑張って努力をしないとね!」
シュミレット「うん、そうだ。主人公だから
 って、手を抜いちゃダメだぞ!」
ハルカ「オッケイ!」

〇 ~~END~~

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