桜の咲く頃に ドラマ

祖母の余命がわずかだと知った大森翔平は、祖母との思い出の公園で少女から不思議なおまじないを教わる。 気休め程度にやってみる翔平であったが、祖母の容態はみるみる良くなっていく。 しかし、その日から祖母は不気味な夢にうなされていた。 少女のおまじないは聖母の救いか?あるいは…
木公圭 11 0 0 06/21
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第一稿

登場人物
 大森翔平(25) IT企業に務めるエンジニア
 大森大輔(53) 翔平の父、大手印刷会社のサラリーマン
 大森玲子(51) 翔平の母、不動産屋に勤務している
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登場人物
 大森翔平(25) IT企業に務めるエンジニア
 大森大輔(53) 翔平の父、大手印刷会社のサラリーマン
 大森玲子(51) 翔平の母、不動産屋に勤務している
 大森晴恵(78) 翔平の父方の祖母、大輔の母
 マリア 金髪碧眼の少女の姿をしている悪魔、見た目は8~9歳程度
 先生 晴恵の主治医の先生
 髙橋愛(28) コンビニの店員
 店長 コンビニの店長
 店員 コンビニの店員

○公園
   ベンチに座る大森翔平(25)。
   公園の脇にあるまだ咲いていない桜の木を見る。

○(回想)大森家・リビング(夜)
   テーブルに座っている大森大輔(53)、大森玲子(51)、翔平。
大輔「婆ちゃん……もう長くないんだ……あと一ヶ月もないだろうって……」
   俯く翔平。
大輔「翔平、たくさん顔見せてやってくれ。お前の顔見ると婆ちゃん……すごく嬉しそうだから」
(回想終わり)

○公園・ベンチ
   ブランコに目を移し暫く見つめる翔平。
   翔平の視界に突然入ってくる棒付き飴。
   驚いて右側を振り向く翔平。
   野球帽をかぶっているマリアが飴を差し出している。
マリア「あげる」
   飴を差し出したままじっと翔平を見つめるマリア。
翔平「ありがとう……」
   しょうがなく飴を受け取る翔平。
   座ったまま足をぶらぶらさせるマリア。
マリア「ブランコ好きなの?」
翔平「……昔はね……よく遊んでたんだ……」
マリア「ふーん……お友達と?」
翔平「いいや、お婆ちゃんと……ここで」
マリア「そっか。仲良しなんだね」
翔平「うん……」
マリア「(翔平の方を向いて)お兄ちゃん、元気ないね?」
翔平「そうかな?」
マリア「うん。元気ない。どうして?」
翔平「……最近ちょっと……お婆ちゃんが元気なくってね……」
マリア「そっかぁ……あ! 私いいおまじない知ってるよ?」
   ポケットから赤いマジックのようなものを取り出すマリア。
マリア「左手出して」
   左手を差し出す翔平。
   翔平の左手の甲を上にして、マジックのようなもので甲に十字架を書くマリア。
マリア「この左手で家族じゃない人にタッチして、こうやってお祈りするの」
   手を組んで目を瞑るマリア。
マリア「お婆ちゃんが良くなりますように……って! 一日に一回」
   左手の甲に書かれた十字架を見る翔平。
翔平「学校で流行ってるの?」
マリア「うん」
公園の時計を見るマリア。
マリア「あ!そろそろお稽古の時間だ!お兄ちゃんまたね!」
ベンチから立ち上がり勢いよく走っていくマリア。
途中で振り返る。
マリア「お婆ちゃん!きっと良くなるよ!」
翔平「ありがとう」
手を振る翔平。
マリアを見送って自分の甲に書かれた十字架を見る。

○病院・病室
   大森晴恵(78)の病室をノックする翔平。
   扉を開けて顔を覗かせる翔平。
翔平「婆ちゃん」
晴恵「(か細い声で)翔ちゃんかぃ……」
   病室に入ってベッド脇の椅子に座る翔平。
翔平「お昼はもう食べた?」
   小さく頷く晴恵
晴恵「鯖だったよ……」
翔平「婆ちゃん魚好きだもんね」
   晴恵に袋を見せる翔平。
翔平「プリン買ってきたから、冷蔵庫入れとくね?」
   小さく頷く晴恵。
晴恵「(微笑みながら)いつも……ありがとうねぇ……」
   冷蔵庫を開けてプリンを入れながら話しかける翔平。
翔平「最近暖かくなってきたね。来る途中少し暑いくらいだった」
   晴恵の方を向いて。
翔平「婆ちゃん、小さい頃よく一緒に行った公園覚えてる? あのブランコ昔のままだった。少し錆びてたけどね」
   小さく頷く晴恵。
晴恵「桜は……あったろうか?」
翔平「うん……まだあったよ……」
返事の代わりにゆっくりと頷く晴恵。
×××
翔平「そろそろ帰るね」
   少し笑みを浮かべて頷く晴恵。
翔平「……またね」
   椅子から立ち上がり病室のドアへと向かう。
   晴恵に小さく手を振りながらドアを締める。

○電車内
   左手の甲を見つめる翔平。
   甲の十字架を指で強めに擦る。
翔平「どこのマジックなんだ? 全然消えないな……(以下心の中で呟く)おまじないかぁ……しかし、他人に触れる機会なんて意外とないもんだな」
   電車のドアが開く。
翔平「あ、すみません。降りまーす」
   混雑する車内を掻き分けて進む。途中で男の人に左手が触れる。
   駅に降りて、左手を見る翔平。駅内のトイレに入る。
   誰も居ないことを確認して祈る。
翔平「(心の声)婆ちゃんが良くなりますように……」
   目を開けて再度誰も居ないことを確認。
翔平「はぁー……なにやってんだかな……」
※※※
(フラッシュ)
マリア「お婆ちゃん!きっと良くなるよ!」
※※※
翔平「……」
   家に向かって歩き出す翔平。
翔平「しっかし消えないなこれ……」

○(数日後)大森家・玄関(夜)
   玄関のドアを開ける翔平。
翔平「ただいまー」
   玄関に走って来る玲子。
玲子「翔平! お婆ちゃん良くなってるって!」

○(回想)病室・とある一室(夜)
   座っている先生と大輔。
   レントゲンを2枚提示する先生。
先生「これが先週末のもので、これが今日のものです」
   レントゲンに目を向ける大輔。
先生「ここに転移してたものが無くなっているんです。こんなのは見たことがありません……異常なまでの回復です」
大輔「え?! ……助かるかもしれないんですか?!」
先生「このままいけばその可能性も出てきます。ただ……なにが原因で急に良くなったのかはわかっていません。今は環境を変えずに経過を観察しましょう……ご家族の皆さんのおかげかもしれないですね……」
(回想終わり)

○大森家・翔平の部屋(夜)
   自室に入ってドアを締める翔平。
   左手の甲を見つめる。
翔平「……神様っているのかもな……」

○(数日後)大森家・玄関前
翔平NA「週末、婆ちゃんは当初の予定通りに一時帰宅で我が家に戻ってきた。この頃の婆ちゃんは驚くことに、ほぼ完治した状態だったという」
   大輔の車が家に到着する。
   後部座席から晴恵が杖をついて降りる。
   家の前で大森家を眺める。
翔平「どう? 婆ちゃん。久しぶりの我が家は?」
晴恵「(家も見上げながら)なんだか……懐かしいねぇ……」
   家だけが写り、夜になる。

○同・食卓(夜)
翔平「いただきます」
大輔「いただきます」
玲子「いただきます」
晴恵「(しみじみと)いただきます……」
   食事をする大森家。
玲子「どうですか? お義母さん?」
晴恵「うーん。病院食も良かったけど、玲子さんの手作りには勝てないねぇ。特にこの鯛なんかすごく美味しいよ」
玲子「それお刺身じゃないですか!」
   一同笑い。
×××
晴恵「……そういえば最近は毎日似た夢を見てね」
翔平「どんな夢?」
晴恵「自分が誰かになって倒れる夢でねぇ。毎日違う人になるんだよ。」
玲子「あんまり気にしない方がいいんじゃないですか?」
大輔「玲子の言う通りだよ母さん。悪い夢はさっさと忘れるに限る」
晴恵「そうだねぇ……でもね、その夢を見るようになってからなんだよ、体が良くなったのは」
玲子「不思議ですねぇ……」
翔平「いつから見るの?」
晴恵「翔ちゃんがプリンを買ってきてくれた日からだから……先週の日曜だね」
   手の止まる翔平。
大輔「ということは……(指を折って数える)6夜連続!? それはずいぶん奇妙だなぁ……」
翔平「……」

○大森家・翔平の部屋(夜)
   ベットに寝転がって左手の甲を見つめる翔平。
翔平「夢……か……」
   天井を見つめる。
翔平「あ! そういえば今日はまだやってなかった」
   起き上がりリビングに向かう。

○大森家・リビング(夜)
   リビングの扉を開いて頭を覗かせる翔平。
翔平「ちょっとコンビニ行ってくるけど、なにか買ってくるものある?」
玲子「うーん、甘い物。お茶に合うやつね」
翔平「了解。あれ? 婆ちゃんは?」
玲子「もう寝るって。久々に帰ってきて疲れちゃったのかもね」
翔平「そっか……ちょっと行ってきます」
   ドアを締める翔平。

○コンビニ『コッコーマート』(夜)
   コンビニに入る翔平。
   ~♪(入店音)
   タバコを補充する手を止めて挨拶する髙橋愛(28)。
髙橋「いらっしゃいませー」
   飲み物数本をカゴに入れてデザートコーナーに移動する翔平。
翔平「これでいいかな……」
   饅頭とプリンをカゴに入れてレジに置く翔平。
   精算する髙橋。
髙橋「1026円になります」
   千円札と百円を渡す翔平。
髙橋「1100円お預かりします。……74円のお返しです」
翔平「どうも」
   お釣りを受け取る際に髙橋の手に微かに触れる。
髙橋「ありがとうございましたー」
   コンビニを出る翔平。
   ドアの横に移動して周囲に誰も居ないことを確認して祈る。
翔平「……」
   歩き出す翔平。
   コンビニの方から騒ぐ声が聞える。
   慌てて振り返った後、恐る恐るコンビニに入る翔平。
店長「髙橋さん!髙橋さん!!」
   レジ内で店員に呼びかける店長。ざわつく店内。
   レジ内で倒れている店員を見る翔平。虚ろな目の店員。
店長「(周りの客に向って)だれか! だれか救急車を!」
   携帯で救急車を呼ぶ翔平。
翔平「救急車をお願いします! 店員の方が倒れていて! ……はい、場所はコッコーマート……(レジ横のレシートを取り出して)△△通り店です! はい……意識が朦朧としているみたいで……至急お願いします!」
   電話を切って店長の方を向く翔平。
翔平「あと7分くらいで到着するそうです」
店長「髙橋さん! もうすぐ救急車来るから! もう大丈夫だからね!」
   目を瞑ってぐったりしている髙橋。
   髙橋の手を握ったまま店長が翔平の方を見る。
店長「(会釈しながら)ありがとうございます!」
   立ち尽くす翔平。

○大森家・翔平の部屋(朝)
   目を覚ます翔平。
   ベッドから勢いよく起き上がるとジャージのままコンビニへと走る。

○コンビニ『コッコーマート』(朝)
   急いでコンビニに駆け込む翔平。
店員「いらっしゃいませー」
翔平「(肩で息をしながら)……昨夜の、髙橋さんの容態はわかりますでしょうか?」
店員「……昨日、いらっしゃった方ですね……」
   レジから出てくる店員。
店員「(小声で)実は……髙橋は、昨晩亡くなったと……」
翔平「……」
   軽く会釈する翔平。
   フラフラとコンビニを後にする。

○大森家(朝)
   玄関のドアを開ける翔平。
   リビングへ向かう晴恵。
晴恵「おはよう。随分と早いねぇ。ジョギングかい?」
翔平「うん。そんなとこかな……」
晴恵「そうかい。婆ちゃんも見習わないとね」
   リビングへ向かおうとする晴恵。
翔平「(ハッとして)婆ちゃん!」
晴恵「(振り返りながら)ん?」
翔平「昨日も……あの夢見た?」
晴恵「そうなんだよね。また似たような夢だったよ」
翔平「どんな人だった?」
晴恵「たしか……店員さんだったかね……男の人が“髙橋さん”って呼んでたよ……」
   震え出す翔平。
晴恵「どうしたんだい? 顔色が良くないよ?」
翔平「(恐る恐る)もしかして……俺も居た?」
晴恵「(少し驚いて)よくわかったねぇ」
   家を飛び出す翔平。
晴恵「翔ちゃん!?」
翔平「大丈夫! もうちょっとジョギング!」

○公園(朝)
   肩で息をする翔平。公園内を見回す。
翔平「……居るわけないか……」
マリア「どうしたの? お兄ちゃん。まるで人でも殺した様な慌てぶりで」
   振り返る翔平。
翔平「君に教えてもらったおまじない……あれは一体なんなの?」
   クスクス笑うマリア。
マリア「本当は気付いてるんじゃないの?」
翔平「……君は……一体」
マリア「大体お兄ちゃんの思ってる通りだよ。そのおまじないをするとね、その手で最後に触れた人が死ぬの」
翔平「……そんなこと……あり得ない……」
マリア「昨日見たでしょ?」
翔平「……」
※※※
(フラッシュ)
   昨日のコンビニでの光景を思い出す。
   今まで触れてきた人を思い出す。
※※※
   俯く翔平。手が震える。
マリア「別にやらなければ、もう殺すこともないんだよ? ……でも……(歪な笑みを浮かべて)お婆ちゃんはどうなっちゃうんだろう?」
翔平「お前は……」
   顔をあげるとマリアは消えている。
   桜の花が咲きかけている。

○大森家・洗面所(夜)
   ドライヤーで髪を乾かす翔平。
   左手の甲の十字架を見る。
   洗って落とそうとするも消えない。
   リビングへ向かう途中で縁側に腰掛ける晴恵を見つける。
○大森家・縁側(夜)
翔平「まだ夜は冷えるんだから……風邪引くよ?」
晴恵「ここで風にあたりたくてね……」
翔平「……じゃあ、あと少しだけ」
晴恵「……もうすぐ桜の季節だねぇ……もう見れないと思ってたけどねぇ……」
翔平「……」
晴恵「誰かが生かしてくれてる気がするんだよ……神様の仕業なのかねぇ……物好きな神様もいたもんだ」
翔平「……婆ちゃん、もしも、大切な人のために誰かの命が必要だとしたら……どうする?」
   晴恵、遠くを見つめたまま微笑む。

○(夏)墓地
   響き渡るセミの鳴き声。
   墓地内を喪服で歩く大森家。
大輔「(空を見上げて太陽を手で覆いながら)今日は一段と暑いなぁ~」
玲子「(手で扇ぎながら)ほんとねぇ~」
   暫く歩く大森家。
   “大森家之墓”と書かれた墓の前で立ち止まる。
大輔「母さん……おかえり」
   墓前にプリンを置く翔平。
翔平「おかえり……婆ちゃん……今年も綺麗に咲いてたよ……」
   順に線香を立てていき、祈る大森家。
   翔平は手と手の間を空けている。
   数珠を持っている左手には、もう十字架はない。

○ビルの屋上
   棒アイスを咥えるマリア。
マリア「あふい(暑い)~ひめひめ(ジメジメ)する~」
   アイスを食べ終わり、棒の当たりを確認する。
マリア「ちぇ~ハズレか~」
   歩く人達を見降ろす。
マリア「さ~てと……(アイスの棒で人を指しながら)ど、れ、に、し、よ、お、か……な!」
(終)

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