次期、生徒会長! 学園

生徒会長に推薦されてしまったいじめられっ子。生徒会長の選挙で落ちようと、できるはずのない公約を掲げたのだが、それを聞いた生徒達は熱狂し始め、あらぬ方向に選挙が進んでいった。
春ノ月 10 1 0 08/31
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第一稿

○ 教室
  校則を述べながら歩く諌山三春(38)。
三春「学校の秩序を乱し、その他生徒として
 の本文に仮した者。正当な理由が無く出席
 常でない者。学校の許可無く男女交 ...続きを読む
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○ 教室
  校則を述べながら歩く諌山三春(38)。
三春「学校の秩序を乱し、その他生徒として
 の本文に仮した者。正当な理由が無く出席
 常でない者。学校の許可無く男女交際を行
 った者。以上生徒が本校の定める諸規定を
 守らず、その本文にもとる行為のあった時
 は適切な処分を行う」
  生徒たちは退屈そう。
  三春、その間を歩きながら、
三春「又、生徒会長に任命された者は全校生
 徒の3分の2の賛成があった場合、校則の
 改変書を校長に提出する事が出来る」
  と教壇に立ち、チラリ生徒の方を見る。
三春「生徒会長になれば大きな権限を持って
 より良い学校生活を送る事が出来るという
 事ですね。さっ、生徒会長に立候補したい
 人はいますか」
  と手を挙げる。
  生徒たちは無反応。その中、羽田涼紀
  (17)は頬杖をついて聞いている。
  隣には俯いて当てられないようにしてい
  る鳴門寅風(17)。
三春「これは各クラスから立候補者が必要で
 す。いずれにしろ誰かに手を挙げてもらい
 ますからね」
  手を挙げる進藤翼(17)。
進藤「はい」
三春「(感心して)進藤君。偉いわね。さあ、 
 他に我こそはという人は」
進藤「いや、先生違います。立候補じゃあり
 ません」
三春「え?」
進藤「誰もやりたくないと思いますよ。この
 ままやっても時間の無駄です」
  「だよな」や「なりたくねーよ」などの
  声で騒つく。
三春「……わかりました。手が挙がらない様
 なのでジャンケンで決めましょうか」
  池谷晃(17)が不満そうに、
池谷「そんなやり方で代表を決めていいの?」
三春「(ムッとして)じゃあ池谷君がクラス
 の代表で出ますか?」
池谷「はっ? 意味わかんねー」
  ガヤガヤとする教室内。
涼紀「(我慢ならず)……」
  涼紀、指を鳴らす。すると、時間が止ま
  ったように教室内の動きが無くなる。
  涼紀、黒板の前まで歩く。
涼紀「誰もなりたくない役は、結局ジャンケ
 ンという公平公正である勝負に持ち込まれ
 る。しかし、ジャンケンの勝率は二分の一」
  チョークを手に取りジャンケンの勝率を
  黒板に書き出す。
涼紀「勝つ確率を『r』とすれば負ける確率
 も『r』になる。そしてアイコになる確率
 を『y』とすると『y=1−2・r』とな
 り」
  と確率の計算式を書いていく。
涼紀「そう! 授業の殆どが意味が無いよう
 に、この話し合いもこの計算式も意味は無
 い。元々、生徒会長の選任に公平公正を求
 める方がおかしいんだ」
  涼紀、席に戻りながら、
涼紀「じゃあ終わりの見え無い生徒会長候補
 をどうやって決める?」
  席に着き、
涼紀「立場の弱い人間にやらせたらいい」
  と指を鳴らす。時間が動きだす。
  ガヤガヤとする教室内に戻る。
涼紀「推薦でいいだろ。そんなもん」
  賛同してまた騒つく生徒たち。
  俯いたままの鳴門。
鳴門「……」
涼紀「鳴門。お前出ろよ」
鳴門「えっ? いや、僕は……」
涼紀「いいだろ。お前、生徒会長っぽいし」
  笑う生徒たち。
涼紀「鳴門を推薦する人ー」
  と手を挙げてみせる羽田。
  生徒たちは過半数以上、悪ノリで手を挙
  げる。
  進藤と池谷は手を挙げていない。
鳴門「(周りを見回し)えっえっ」
  と焦っている。
涼紀「先生これで決まりだな。これが生徒の
 意見だ。鳴門で決定」
三春「羽田君、そんな決め方では鳴門くんが」
  と遮るようにチャイムが鳴る。
  帰って行く生徒たち。
鳴門「……」

○ 進藤の家・外観(夜)
  二階建ての一軒家。二階の部屋だけ灯りが
  点いている。

○ 同・進藤の部屋(夜)
  羽田がテレビゲームをしている。
  その後ろ、ベッドに横になって漫画を
  見ている進藤。
涼紀「スルーパス! よし、よし、ゴール!」
  とサッカーゲームに熱中している。
  進藤、漫画を直し、
進藤「もう寝んぞ」
涼紀「えー寝んの早くね?」
進藤「もう2時過ぎってから」
涼紀「わかったよ」
  とゲームの電源を切る。
進藤「消すぞー」
  と電気を消す。
涼紀「早えーよ消すの。まだ寝る体勢になっ
 てねーから」
進藤「明日も学校だぞ」
涼紀「わかってるよ」
進藤「……なあ」
涼紀「んん?」
進藤「鳴門で大丈夫かな」
涼紀「知ったこっちゃねーよ。(あくびして)
 寝る」
進藤「……」

○ 涼紀の高校・外観(翌朝)

○ 同・教室
  授業中。涼紀は頬杖をついて授業を
  聞いている。
  その隣、鳴門は背筋を伸ばしノートに
  書き込んでいる。
涼紀「おい」
鳴門「(おどおどしながら)は、はい」
涼紀「腹決めたのか?」
鳴門「いや、まだ……」
涼紀「(笑って)笑っちゃうね」

○ 同・下駄箱(夕)
  靴を履いて出て行く生徒たち。

○ 同・教室(夕)
  中には涼紀と進藤と池谷が帰る準備をしている。
涼紀「今日翼んち泊まっていい?」
  目を合わせる進藤と池谷。
進藤「良いけど。家帰んなくていいの?」
涼紀「あんなとこ帰んなくていいよ。何も言
 われねえし」
進藤「そうか」
涼紀「何か美味いもん買って行くから。じゃ、
 先」
  と教室を出て行く。
  進藤と池谷、出て行く涼紀を見つめてい
  る。

○ 同・自転車置き場(夕)
  涼紀、自転車に近付きながらポケットを漁る。
涼紀「あれっ? (鍵が見つからず)マジか
 よ」

○ 同・廊下(夕)
  バックを漁りながら教室に向かう涼紀。

○ 同・教室・前(夕)
  教室へ入ろうとする涼紀。
  中から進藤たちの声が漏れてくる。
池谷の声「どうなの? 翼」
涼紀「(足を止め)?」

○ 同・教室(夕)
  進藤と池谷が話している。
進藤「良くないとは思ってるよ」

○ 同・同・前(夕)
  涼紀、立ち尽くしたまま。
涼紀「……」

○ 同・教室(夕)
池谷「だろ? いつも困る事があれば鳴門だ
 からな。口だけで何もやんねえ」

○ 同・同・前(夕)
池谷の声「今日も泊まり来るんだろ? そ
 ろそろ断ったら?」
  涼紀、振り返って歩いていく。

○ 学校の側(夕)
  自転車の後輪を持ち上げながら歩く涼紀。
涼紀「……」
  自転車を止め、スマホで電話をかける。
涼紀「(電話に)翼? 今家ついたんだけど
 誰も居ないみたいだから。今日はやめとく。
 ……すまん」
  と電話を切る。
涼紀「(ため息)」
  自転車の後輪を持ち上げ歩き出す。

○ 涼紀の家・外観(夕)
  住宅街の一角。綺麗な一軒家。
  涼紀が中へ入っていく。

○ 同・玄関(夕)
  涼紀、玄関に並んだ靴を見る。
  黒い革靴とパンプスが並べられている。
涼紀「(親いるのかよ)……」
  踵を返そうとする。
  母親の羽田佳恵(47)が来て、
佳恵「涼紀。誰かと思ったら」
涼紀「おう……」
佳恵「さ、さ。入って」
  涼紀、渋々中へ入っていく。

○ 同・リビング(夕)
  佳恵に続いて涼紀が入ってくる。
  中には食事をしている羽田政知(48)の姿。
政知「……」
佳恵「今日も帰んないって思ってたから先に
 食べてたのよ。すぐ用意するから待ってて」
  とご飯の用意を始める。
涼紀「いや、今日はいい」
  と2階へ上がろうとする。
政知「お前帰ってないらしいな」
涼紀「……親父も全然帰ってないだろ」
政知「俺は仕事なんだ。お前は学校の授業で
 帰らないわけじゃないだろ」
涼紀「……ご飯いらねえから」
  と二階へ上がっていく。
政知「涼紀!」
  上がっていく涼紀。
佳恵「難しい年頃だからしょうがないわよ。
 少しは分かってあげて」
政知「お前の躾が悪いんだぞ。涼紀の教育は
 任せてるんだから」
佳恵「はいはい」

○ 学校・前・通学路(朝)
  涼紀、自転車を押して歩いている。
  後ろから男子学生達の笑い声が聞こえる。
涼紀「(振り向いて)?」
  進藤と池谷と数人が自転車で登校してい
  る。
涼紀「翼」
  涼紀の声は進藤達の会話で掻き消される。
  そして涼紀の前を素通りして行く。
  進藤達の後ろ姿を見つめる涼紀。
涼紀「……」

○ 教室
  三春が教壇に立って話しをしている。
三春「先日、鳴門くんが生徒会長候補に推薦
 されましたが、本人がやってみたいという
 ことで正式に立候補することになりました」
  どよめく教室内。
涼紀「(鳴門を驚いて見る)」
鳴門「(俯いている)」
三春「そこで立候補者を補佐する人を決めた
 いと思いますが、誰か居ませんか」
進藤「なんだよそれ」
三春「これも校則で決まってます。立候補者
 には補佐を必ずつける事。ただし、生徒会
 長になった場合は、改めて別の生徒を補佐
 として任命する事ができます」
進藤「じゃあ、選挙活動中だけでもいいって
 事?」
三春「もちろんです」
池谷「鳴門、お前が決めろよ」
鳴門「えっ? 僕が?」
涼紀「……」
  鳴門、涼紀を見る。
涼紀「なんだよ」
鳴門「いやっ、別に……」
池谷「涼紀でいいじゃん」
涼紀「(睨んで)はあ?」
池谷「涼紀が鳴門を推薦したんだからいいじ
 ゃん。なあ、翼」
進藤「……まあ、生徒会長になる訳でもない
 し、いいんじゃね?」
涼紀「……」
三春「じゃあ、決まりね。今日から鳴門くん
 と羽田くんで生徒会長になるために選挙活
 動を頑張ってもらいます。みんな、拍手」
  と拍手する。生徒たちも拍手。
  涼紀と鳴門、目が合う。
涼紀「(睨む)」
鳴門「(やべっ、とそっぽ向く)」

○ 同・校門(夕)
  涼紀が自転車に乗って下校している。
  校門の陰で待ち伏せしている鳴門。
  涼紀、気付いて自転車を止め、
涼紀「なにコソコソしてんだよ」
鳴門「いや、謝らなきゃって思いまして……」
涼紀「は?」
鳴門「羽田くんが僕なんかの補佐になってし
 まって……」
涼紀「お前のせいで俺も巻き込まれたじゃね
 えか。大体俺はお前なんかの補佐だなんて
 思ってねえからな」
鳴門「もちろん分かってます」
涼紀「……推薦なんか間に受けるから」
鳴門「お父さんに話したんです。推薦された
 事」
涼紀「?」
鳴門「そしたらすごく喜んでくれて。なる気
 は無かったんですけど。期待されちゃって」
涼紀「……お前、バカにされてんぞ」
鳴門「え?」
涼紀「心の奥じゃ、子供の事なんて信じちゃ 
 いねえよ。イジメられてる息子に気付きな
 がらも何かに打ち込んで欲しいって思って
 るだけだ」
鳴門「……そんな事……」
涼紀「(食い気味で)あるんだ。……哀れみ
 の目で見られてんだよ」
鳴門「……」

○ 帰り道(夕)
  自転車を押しながら歩く涼紀。
  立ち止まって、スマホを取り出す。
  スマホ画面の着信履歴には『進藤翼』の
  名前がずらり。
涼紀「……」
  そのままポケットにしまって歩き出す。

○ 涼紀の家・玄関(夕)
  中へ入ってくる涼紀。
  靴はパンプス一足だけ。
涼紀「(ホッとする)……」

○ 同・リビング(夕)
  涼紀、入ってくる。
  料理を作っている佳恵。料理をしながら、
佳恵「今日も帰ってきたの。おかえり」
涼紀「……親父は?」
佳恵「遅くなるって」
涼紀「……俺の分あんの?」
佳恵「当たり前じゃない」
  ×     ×     ×
  テーブルに食事が並ぶ。
佳恵「久しぶりに食べるでしょ。私の料理」
涼紀「(頷いて)……いただきます」
  料理を口に運ぶ二人。
佳恵「どう?」
涼紀「(食べて)……うまい」
佳恵「(嬉しそうに)最近さ、どうなの? 
 学校は」
涼紀「何って。普通だよ」
佳恵「普通って何よ。ずっと話ししてなかっ
 たでしょ? 普通の話しでも聞かせてよ」
涼紀「……生徒会長に立候補する奴が居てさ。
 それの補佐に任命された」
佳恵「えっ? それ本当?」
涼紀「俺はやりたくなかったんだけどさ。そ
 ういう流れになって」
佳恵「すごいじゃない。お父さんに報告しよ
 うよ」
涼紀「言わなくていいよ。そんな真剣にやろ
 うとも思ってねえし」
佳恵「お父さんも喜ぶって。そういう道に進
 んで欲しいって思ってるはずだから」
涼紀「俺は思ってねえから。どうせ、あいつ
 は生徒会長になれねえし」
  玄関からドアが閉まる音が聞こえる。
涼紀「(帰ってきた)!」
  入ってくるスーツ姿の政知。
  スーツには議員バッチが付いている。
政知「ただいま」
佳恵「早かったわね」
政知「(涼紀を見て)今日も帰ってるのか。
 身の回りで何かあったか」
涼紀「……」
佳恵「お父さん。すごくいい報告があるの」
涼紀「(嫌そうに)おい」
政知「なんだ?」
佳恵「涼紀。言ってごらん」
涼紀「(嫌がって)いいよ」
佳恵「生徒会長に立候補する人の補佐をする
 事になったんだって」
涼紀「(佳恵を睨む)」
政知「補佐? お前が?」
佳恵「すごいでしょ。きっと良い経験になる
 と思うの」
政知「生徒会長じゃないのか」
涼紀「別に生徒会長になれねえから補佐役に
 なった訳じゃねえよ。どっちにしろ興味ね
 えから」
政知「お前な、生徒会長と補佐役なんて天と
 地の違いだぞ? 補佐役になるなんて負け
 犬と一緒だ。補佐に回るくらいならならな
 い方がよっぽどいい」
佳恵「ちょっとお父さん」
涼紀「俺は自分でなりたいって言った訳じゃ
 ねえよ」
政知「まあ、俺の顔に泥を塗るような事はし
 ない事だな」
涼紀「……」
佳恵「お父さん。少しは涼紀の気持ちを考え
 て」
涼紀「俺の気持ちなんかこいつがわかるはず
 ねえだろ」
政知「俺は政治の為に身を削っているんだ。
 お前一人と何万人もいる民衆の為に尽くす
 のとどっちが責任が重いと思ってるんだ」
佳恵「お父さん」
政知「お前はもう子供とは言えない歳になる
 んだぞ」
涼紀「俺はあんたの息子じゃなくて民衆の一
 人なんだな。良かったよ」
  とリビングを出て行く。
佳恵「涼紀!」
政知「ほっとけ」

○ 街中(夜)
  俯きがちに歩く涼紀。顔を上げると
  少し離れた所に書店。

○ 書店・店頭(夜)
  立ち止まる涼紀。
  様々な本の中に、政知が表紙のビジネス本。
  タイトルは『8つの発言力のつけ方』。
涼紀「……」
  ポケットからジッポライターを取り出す。
  指で蓋を弾いて開き火を灯す。
涼紀「……」
鳴門の声「羽田くん?」
  涼紀、ハッとして火を消す。
  鳴門が本の入った袋を持っている。
鳴門「ここで何してるんですか?」
涼紀「(焦って)あっ、いや。本を見に」
鳴門「(驚いて)意外と本読むんですね」
涼紀「お、おう。ってお前と一緒にすんなよ」
鳴門「あ、ごめんなさい。……今日も家帰ら
 ないんですか?」
涼紀「……まあ」
鳴門「今後の選挙のことで相談したい事もあ 
 りますし、良かったら僕の家来ませんか?」
涼紀「は? 鳴門の家?」
鳴門「(嬉しそうに)はい」

○ 鳴門の家・外観(夜)
  鳴門の家は古いアパートの一階。
  鳴門忠行(53)の声が先行して。
忠行の声「さあ、食べて食べて」

○ 同・リビング(夜)
  小さな円卓で食事を取る涼紀、鳴門、忠行。
忠行「早く言ってくれたらもう少し豪華なお
 もてなしが出来たんだけどねえ」
鳴門「お父さん出来ないでしょ」
  と笑う。
忠行「まあ、そうだなあ。お母さんが居てく
 れたら手際よく色々作れるんだろうけど」
  和室に母親と思しき遺影写真が飾られて
  いる。
忠行「俺一人じゃ寅風で手一杯で」
鳴門「(嬉しそうに)僕に手が掛かってるよ
 うな言い方しないでよ」
忠行「でも本当に来てくれて嬉しいよ。寅風
 がこんな良い友達を持ってるなんて」
鳴門「(羽田をチラリと見る)」
涼紀「(鳴門をチラリと見る)」
忠行「ご飯おかわりいるか?」
涼紀「あ、はい」
  忠行、ご飯をよそう。
忠行「生徒会長の立候補者に推薦してくれた
 んだよね?」
涼紀「ま、まあ……」
忠行「まさか人見知りで臆病者な息子がこん
 な大そうな役に挑むなんて。親としたら幸
 せだよ。(ご飯茶碗を渡し)はい」
  涼紀、受けとり、
涼紀「すみません」
忠行「これからも寅風をよろしくね」
鳴門「(気まずそうに頷く)」
  急に咳き込む忠行。
鳴門「お父さん。大丈夫?」
忠行「昼間薬を飲むの忘れてたんだ」
鳴門「ちゃんと飲まないと」
忠行「ごめんごめん。この後すぐ飲むから」
  鳴門、微笑みながら忠行の背中をさすっ
  ている。
  その光景を羨ましそうに見つめる涼紀。
涼紀「……」

○ 同・鳴門の部屋(夜)
  6畳くらいの小さな部屋。
  涼紀と鳴門が話している。
鳴門「ごめんなさい」
涼紀「もういいよ。飯食わせてもらったし」
鳴門「色々心配かけたくないんです。だから
 お父さんの前では普通の友達でいてほしい」
涼紀「ああ。親父さんの前だけな」
鳴門「うん。ありがとう」
涼紀「でも親父さんに悪いけど、俺は生徒会
 長の役員になんてなりたくねえから」
鳴門「……僕も生徒会長なんてなれると思っ
 てませんから」
涼紀「心配かけたくないんなら一生懸命やっ
 たけどダメだったって言えばいいじゃん。
 元々、鳴門が勝つ確率なんてそこら辺にい
 るダニくらいちっぽけなんだよ」
鳴門「えっ? ダニ?」
  とダニを探し出す。
涼紀「バカ。ダニなんか見える訳ねーだろ。
 ともかく、ちゃんと選挙活動をしながら落
 ちる方法教えるから、俺の言う通りにやれ
 よ。分かったか?」
鳴門「……はい」

○ 体育館・中
  全校生徒が集まっている。

○ 同・壇上
  名前の書いた襷を肩にかけて座っている
  候補者3人。
  その中に涼紀と鳴門の姿。
  校長が、生徒たちに向けて話しをしている。
  校長の髪は明らかにカツラ。
校長「え〜それではより良い学校生活にする
 べく演説会を意義あるものにしましょう」
  司会者の女子生徒の声。
司会者の声「まずは2年A組、徳山菜々子さ
 んお願いします」
  立候補した女子生徒が前に行く。
  緊張しながら順番を待つ鳴門。
羽田「緊張すんな。練習通りやればいい」
鳴門「(頷き)でも大丈夫かな?」
  隣にいる美濃勝也(17)が鳴門を見て、
美濃「ちょっと。私語は慎んでください」
鳴門「ごめんなさい」
美濃「返事すらも私語です。黙っててくださ
 い」
羽田「(美濃を睨み)何だお前」
  表情を変えずにいる美濃。
  ×     ×     ×
司会者の声「では、2年B組の美濃勝也君お 
 願いします」
  美濃、マイクの前に立つ。
美濃「2年B組の美濃です。私が当選した暁
 には我が美濃不動産の所有する土地を無料
 開放します」

○ 同・中
  俯いていた生徒達が美濃を見る。

○ 同・壇上
美濃「サッカー、野球、テニスなど部活動に
 特化した場所を提供しこの学校をもう一度
 スポーツ最強高にすべく環境整備を行って
 参ります」

○ 同・中
  先生たちは体育館の脇で頷きながら聞いている。

○ 同・壇上
鳴門「すごい。生徒、先生達の心を掌握して
 いる」
涼紀「……」
  ×     ×     ×
  拍手が沸きこりドヤ顔で戻って来る美濃。
涼紀「(睨む)……」
司会者「続きまして2年C組、鳴門寅風君お
 願いします」
  マイクの前に立つ鳴門。一度振り向いて
  涼紀を見る。涼紀は頷く。
鳴門「え〜、2年C組、鳴門寅風。よろしく
 な」

○ 同・中
  静まる生徒、ポカンとしている先生たち。

○ 同・壇上
  続ける鳴門。
鳴門「何だお前ら。そのポカーンとした顔は」

○ 同・中
  ポカンとしたままの生徒達。

○ 同・壇上
  涼紀、指を鳴らす。すると時間が止まっ
  たかの様に皆の動きが止まる。
涼紀「(カメラに向かって)生徒会選挙で落
 ちる方法第一。タメ口を使う。生徒の信用
 を得るためには謙虚な言動が必要であるが、
 あえてタメ口を使う事で生徒たちからの反
 感を買い、まともな公約だとしても反論さ
 れる余地を作る。ちなみに鳴門はタメ口を
 使わないキャラだから、反感の前に驚きと
 それを消化する時間が少し必要だ」
  ともう一度指を鳴らす。時間が動きだす。

○ 同・中
生徒「お前らって何だよ!」
  体育館内がどよめく。
  学年主任の森山(42)がマイクを手に
  取り、
森山「みなさん、静かに。鳴門君、言葉使い
 には気をつけなさい」

○ 同・壇上
鳴門「生徒会長になれば校則を変えることが
 出来るんだけど、こんなクソみたいな校則
 を全て塗り替えてやろうと思ってます!」

○ 同・中
  更にどよめく体育館内。
  生徒たちの中、座っている進藤と池谷。
進藤「鳴門ってあんなキャラだったか?」
池谷「何か面白えな。あいつ」

○ 同・壇上
  羽田、指を鳴らす。再び時間が止まる。
  歩き出す羽田。
羽田「(カメラに向かい)この生徒会選挙、
 完全に俺の手中に収めた」

○ 同・中
  生徒たちは鳴門に向かって抗議をしている模様。
羽田の声「投票権を持つ生徒は鳴門の態度に
 嫌気がさしている。それがこの会場内のど
 よめきだ。これで投票するなら悪ふざけの
 類か、救いようもないバカな奴らだと言う
 ことだ」
  先生たちも腕を組んで何か言いたげな様
  子。
羽田の声「そして生徒会選挙で落ちる方法第
 二。学校批判にフェーズを移す。教師たち
 の職場批判をする事で生徒のみならず、そ 
 れを監督する側にも反感を買ってもらう」

○ 同・壇上
羽田「そして生徒会選挙で落ちる方法第三。
 ありえないマニフェストを掲げる。誰もが
 嘘だと思う公約なら当選させようと思わな
 い。2年B組の美濃の方がまともだってい
 う事だ」
  席に戻り指を鳴らす。時間が動きだす。
  ガヤガヤしている体育館内。
鳴門「もし僕が生徒会長になったら……校長
 のカツラを取ります!」
  静まる体育館内。

○ 同・中
  凍りつく教師たち。
校長「(呆然)……」

○ 同・壇上
  鳴門、振り向いて羽田に親指を立てる。
  羽田も親指を立てて返す。
池谷の声「面白れえ!」 
鳴門「え?」
羽田「え?」

○ 同・中
  池谷が立ち上がっている。
池谷「その公約面白えじゃん! なあ」
  とその側にいる生徒たちに投げかける。

○ 同・壇上
  鳴門、焦っている。
鳴門「え、え? あ、ありえないやつなんだ 
 けど」
羽田「おい鳴門、もっとありえないやつ!」
鳴門「は、はい。(メモを取り出し)今の
 公約にプラスして、夏休みを延長させま
 す!」
  拍手が湧き上がる。

○ 同・中
 拍手をしながら立ち上がる生徒たち。
「いいぞ!」「もっとやれ!」などと声が聞こえる。

○ 同・壇上
  鳴門、焦ったまま演説を続ける。
鳴門「な、なんで? も、もう一個。お金を
 払えば恋愛オッケーにします!」
  生徒たちの拍手と歓声。
鳴門「(ヤバい)台風の日はすぐに休校にし
 ます!」
  生徒たちの拍手と歓声。
鳴門「でも、台風の目に入ったら外出オッケ
 ーです!」
  生徒たちの拍手と歓声。鳴門コールが沸
  き起こる。

○ 同・中
  生徒達は立ち上がって鳴門コールを
  しながら手拍子。

○ 同・壇上
鳴門「ど、ど、どうしよう」
涼紀「(呆然)……」

○ 同・中
  森山がマイクを取り、
森山「え〜こんな事は許されません。以上で
 演説会を終了します。鳴門と羽田は生徒指
 導室に来るように」
  鳴り止まない鳴門コール。

○ 生徒指導室・前
  表札に『生徒指導室』と書かれている。

○ 同・中
  森山は腕を組んで座っている。
  その前に座る涼紀と寅風。
森山「羽田、どうせお前が言わせたんだろ。
 鳴門がこんな事言うはずがない」
涼紀「国のトップでも全て自分の言葉で発言
 している訳じゃねえだろ。原稿を作るスピ
 ーチライターってもんがあるんだよ」
森山「スピーチライターにしては内容が稚拙
 で猥雑な文章だったな」
  とバカにする。
涼紀「(虚勢を張って)あえてああやったに
 決まってんだろ。ここに俺たちが呼ばれる
 のも想定内だから」
森山「あえて? 現実に出来ない事をあえて
 言ったってのか? なるほどな」
涼紀「?」
森山「お前のお父さんと同じだ」
鳴門「?」
森山「教職員の処遇改善。長時間労働の是正。
 選挙じゃ公約として掲げたくせに何もやっ
 てくれない」
涼紀「……」
森山「お前とそっくりじゃないか」
涼紀「……」
鳴門「……」
涼紀「あんたが俺をどう批判したって、答え
 は一緒だよ。これが選挙だから」

○ 鳴門の家・中(夜)
  食卓を囲う涼紀と鳴門と忠行。
忠行「あ〜、あの政治家の息子さん」
涼紀「あんまり知られたくないんですけどね」
鳴門「あの言い方は無かったよね」
涼紀「森山マジでムカつくわ」
忠行「まあ食べて食べて」
  と3人でご飯を食べる。
忠行「俺は政治の事なんてよく分かんないけ
 どさあ、同じ親父の気持ちなら分かるよ」
涼紀「……」
忠行「何故か突っ走っちゃうんだなあ。初め
 は嫁の為、子供の為なんだけどいつの間に
 かそれからただ逃げてるだけになって」
涼紀「……」
忠行「仕事をしてるからって理由が欲しかっ
 たんだろうね。体を壊してから気づいた。
 遅かったよ」
鳴門「そんな事ないよ。お父さん」
忠行「だから本当はみんな悪いやつじゃない
 んだ。ただ、悪いことを悪いって気付けな
 いだけなんだ」
涼紀「……」

○ 同・鳴門の部屋(深夜)
  部屋の照明は消えている。
  ベッドで寝ている鳴門。
  目を開けて仰向けになっている涼紀。
涼紀「……」
起き上がって鳴門を起こす。
涼紀「おい、鳴門」
鳴門「(起きて)何ですか」
涼紀「今日やっぱ帰るわ」
鳴門「こんな時間に?」
涼紀「ああ。ありがとな。親父さんにも伝え
 てくれ」
鳴門「う、うん。伝えとく」
  涼紀、部屋を出て行く。
  鳴門、微笑む。

○ 街中(深夜)
  自転車を漕いで行く羽田。

○ 涼紀の家・玄関・外(深夜)
  玄関のドアを開ける涼紀。

○ 同・玄関(深夜)
  パンプスと黒い革靴が置いてある。
涼紀「……(何かに気づき)?」
  リビングから灯りが漏れている。
  上がっていく涼紀。

○ 同・リビング(深夜)
  涼紀、リビングに来ると、中には政知が
  頭を抱えて座っている。
涼紀「まだ起きてんの」
政知「何だ。こんな時間に帰ってきて」
涼紀「親父こそ何してんだよ」
政知「お前に関係ない事だ」
涼紀「……」
  涼紀、何か言いたいが言えず、自分の部
  屋に向かおうとする。
政知「考え事だ」
涼紀「(立ち止まり)は?」
政知「何してんだって質問したろ」
涼紀「……」
政知「まだやってんのか。生徒会選挙の補佐」
涼紀「明日だよ」
政知「?」
涼紀「明日が投票日」
政知「……そうか。精々頑張れ」
涼紀「……ちゃんと家に帰らなくてゴメンな」
  と自分の部屋に歩いていく。
  政知、驚いて涼紀を見る。
政知「……」

○ 学校・校庭(翌朝)
  演説の練習をしている涼紀と鳴門。
  涼紀は手にスピーチ用原稿を持って聞いている。
鳴門「もし、僕が当選したら、みんなが健全
 で楽しく」

○ 通学路
  登校中の進藤と池谷。
池谷「(涼紀達に気付いて)あっ」
  進藤も気付いて足を止める。
  校庭で演説の練習をしている涼紀と鳴門。
  涼紀が身振り手振りで指導している。
池谷「こんな朝早くに」
進藤「あいつら頑張ってんな」
池谷「意外とあのコンビで良かったのかも」
進藤「(そうだなと、微笑む)」

○ 学校・生徒会室
  森山が前に立って話している。
  周りには校長や、教頭先生など。
  座って聞いている涼紀と鳴門と候補者達。
森山「これから最後の演説をしてもらいます。
 その後、名前の書かれた用紙にマル印を記
 入し投票ボックスに投函してもらいます」
鳴門「……」
森山「前回の演説会では不適切な発言があり
 ましたので今回はきちんと言葉を選んで発
 言するように」
  と涼紀達を見る。
涼紀「……」

○ 同・トイレ
  涼紀が鳴門の身なりを整えている。
涼紀「選挙は見た目が大切だからな」
鳴門「ねえ。どうする?」
涼紀「(鳴門の襟元を正しながら)何が?」
鳴門「万が一当選なんてしちゃったら」
  涼紀の手が一瞬止まる。
涼紀「なに心配してんだよ」
鳴門「当選したら羽田くん迷惑でしょ」
涼紀「……当選したら補佐は変えていいって
 諌山が言ってたろ」
鳴門「そうだけど……」
涼紀「……さっ、行くぞ」

○ 同・廊下
  廊下を歩いている涼紀と鳴門。
諌山の声「鳴門くん!」
  振り向く鳴門と羽田。
  諌山、息を切らしている。
諌山「ちょっとこっち来て」
鳴門「えっ? でも」
諌山「いいから!」
  鳴門、涼紀を見る。
涼紀「行ってこいよ。体育館で先に待ってる
 から」
鳴門「うん。わかった」
  と諌山の後を付いて行く。
  拍手の音が聞こえる。

○ 同・体育館・中
  全校生徒が座っている。
美濃の声「ぜひ、この美濃に清き一票を投じ
 てください」

○ 同・体育館・壇上
  美濃が壇上で演説をしている。
美濃「本日はありがとう御座いました」
  と頭を下げる。沸き起こる拍手。
  涼紀、鳴門の席を見る。
  鳴門の席は空席。
  元の席に座る美濃。
美濃「まだですか。君のクラスの立候補者は」
涼紀「うるせえ。私語厳禁だ」
美濃「……」
  ドアの開く音。
涼紀「?」

○ 同・同・出入り口
  鳴門が小走りで入ってくる。

○ 同・同・壇上
  涼紀、鳴門を見つけて安堵の表情。
涼紀「……」
 鳴門、壇上に上がり席に座る。
鳴門「ごめん。遅くなって」
  鳴門の顔色が悪い。
涼紀「(気付いて)?」
司会者「続きまして2年C組。鳴門寅風君お
 願いします」
鳴門「……」
  鳴門、小刻みに震えている。
涼紀「鳴門、大丈夫か?」
鳴門「……」
  涼紀、壇上の下にいる教師たちを見る。
  教師たちは何やら不安げに見ている。
涼紀「どうした?」
鳴門「……お父さんが……」
涼紀「……えっ……」
鳴門「……倒れたって」
涼紀「嘘だろ?」
鳴門「(首を横に振る)」
羽田「バカ! 行ってやれよ!」
  候補者達、一斉に注目する。

○ 同・同・中
  生徒達も何かと壇上を見つめる。

○ 同・同・壇上
  鳴門、俯いて小刻みに震えている。
涼紀「行けって!」
鳴門「でもお父さんと約束したから!」
涼紀「……」
  ざわつく生徒達。
涼紀「……そんな状態じゃ演説なんて出来ね
 ーだろ」
鳴門「……」
涼紀「……俺が代わりにやるから。行ってこ
 い」
鳴門「えっ……?」
涼紀「(笑って)俺は腐っても政治家の息子
 だ」
鳴門「……」
涼紀「早く行け」
鳴門「……」
  席を立つ鳴門。
  諌山が鳴門に付いて行く。
  マイクの前に立つ涼紀。
涼紀「立候補者の鳴門君に代わりまして、補
 佐役の私、羽田涼紀がお話しをしたいと思
 います」

○ 同・同・中
  進藤と池谷が壇上を見つめる。

○ 同・同・壇上
涼紀「みなさん、知っている人もいるだろう
 けど俺は政治家の息子です。親父には育て
 られませんでした。飯を食わせてくれたの
 は母親だけです」
  生徒達はじっと涼紀を見ている。
涼紀「親父からはまともになれとか、立ち振
 る舞いを考えろとか、ずっと言われてきま
 した。こんな自分になったのは親父に対し
 ての反抗心。それだけでした」

○ 同・同・中
  腕を組んで見ている森山。

○ 同・同・壇上
涼紀「前回言った校則を変える事。そんな事
 は出来ません。俺が悪いんです。鳴門には
 選挙に落選させる為にそう言わせましたが、
 違う方向に事が動いてしまいました」

○ 病院・前
  タクシーから降りて中へ急ぐ鳴門の姿。
涼紀の声「皆さんも様々な期待をしたでしょ
 う。鳴門が打ち出す公約。皆が望んでいる
 事だったと思います。理想を語る。これは
 政治の常套手段だったんです」

○ 学校・体育館・壇上
涼紀「俺のやり方は親父のやり方と一緒でし
 た。結局俺は軽蔑してた嫌な人間になろう
 としていました」
  静まり返っている生徒達。
涼紀「俺は嫌な人間です。人をいじめるのも
 力の誇示。俺がいじめられない様にする為
 にいじめるのです」

○ 同・同・中
  進藤が真剣な眼差しで見つめる。
涼紀の声「仲間意識を持って、孤独にならな
 い為にその矛先を見つける。ぶっちゃけ、
 俺は鳴門くんをその対象にしてました。で
 も実際はいじめている方が孤独だったんで
 す」

○ 同・同・壇上
涼紀「いじめられている人間の方がよっぽど
 強い。鳴門が俺に言いました。『お父さん
 の前では普通の友達でいて』と」

○ 病院・病室・前
  走って中に入っていく鳴門。
涼紀の声「俺なんて自分を守る事に精一杯だ
 ったのに、鳴門は親父を守りたい一心でし
 た」

○ 同・同・中
  鳴門、立ち止まる。
  ベッドに横たわる忠行の姿。酸素マスクを
  つけている。
  鳴門、忠行の体に顔を埋める。
涼紀の声「自分を犠牲にしてまで誰かの為に 
 行動できる姿を見て俺は決心しました。鳴
 門を当選させると。鳴門が当選すれば生徒
 達の為に尽くしてくれると」

○ 学校・体育館・壇上
涼紀「そして俺も鳴門と鳴門の親父さんと出
 会って自分の親父と向き合いたいと思える
 様になりました」

○ 同・同・中
  壇上を見つめる教師達。
森山「……」

○ 同・同・壇上
涼紀「そんな鳴門が今日退席したのは、鳴門
 の親父が倒れたということで今病院に向か
 っています」
  ざわつく生徒達。
涼紀「鳴門の気持ちを救ってやりたい。何が
 出来るか分かりません。でも鳴門を信じて 
 やってください。清き一票をよろしくお願
 いします」
  と頭を深々と下げる。
  静まったままの体育館内。
  一人の拍手が聞こえる。
  頭を上げる涼紀。
涼紀「?」

○ 同・同・中
立ち上がって拍手をしている進藤。

○ 同・同・壇上
涼紀「……」
  拍手の音が増える。

○ 同・同・中
  池谷も立ち上がり拍手。進藤と池谷、
  顔を見合わせて笑顔。
  立ち上がって拍手をしだす生徒達。
  教師達も拍手を送っている。

○ 同・同・壇上
  涼紀、生徒達が拍手している光景を見つめる。
  背後から拍手の音。
涼紀「?」
  美濃も立ち上がって拍手をしている。
  涼紀、驚いたまま。
  全校生徒達の方を向いて、
涼紀「ありがとう御座います!」
  と頭を下げる。

○ 病院・病室・中
  忠行の体に顔を埋めたままの鳴門。
  その頭を撫でる忠行。
鳴門「!?」
  顔を上げると、目を開けている忠行。
鳴門「お父さん!」
忠行「今日は投票日じゃなかったか?」
鳴門「うん。でもきっと大丈夫だよ」
  と忠行に抱きつく。

○ 学校・体育館・出入り口
  生徒達が投票箱に用紙を入れて出て行く。
  側で立って見つめている涼紀と美濃と他の候補者。
美濃「さすが。政治家の息子ですね。言葉巧
 みでした」
涼紀「褒めてくれてんのか」
美濃「あれも常套手段?」
涼紀「(笑って)まさか」
  投票を終えた進藤と池谷が来て、
進藤「涼紀。お疲れ」
涼紀「……おう」
進藤「またいつでも家に遊びこいよ」
涼紀「親父とケンカしたら行くわ」
  と分かり合えたように二人笑う。

○ 同・教室
  諌山が教壇に立っている。
  席に座っている涼紀と生徒達。
  館内放送のチャイムが鳴る。
司会者の声「生徒会選挙の投票結果が出まし
 た」
  祈るように手を合わせる涼紀。
司会者の声「投票の結果……」

○ 病院・病室・中
  ベッドに寝たままの忠行とその側に鳴門。
  ドアの開く音。
鳴門「?」
  立っているのは涼紀。
鳴門「羽田くん」
涼紀「大丈夫だったのか」
鳴門「うん。今寝たところ」
涼紀「(安堵して)そっか。良かったな」
鳴門「どうだった? 選挙」
涼紀「……すまん」
鳴門「……そっか。そうだよね。でも一生懸
 命やったしね」
涼紀「当選した」
鳴門「え、え?」
涼紀「おめでとう。鳴門会長!」
鳴門「本当に!?」
涼紀「ああ。本当だって」
鳴門「これでお父さんにいい報告が出来るね」
  と喜ぶ。
涼紀「……それでさ、訂正したい事あるんだ
 けど」
鳴門「え? 何?」
涼紀「鳴門の親父の前だけじゃなくて友達で
 いてほしい」
鳴門「(嬉しく)うん」
涼紀「(嬉し恥ずかし)俺を生徒会長の補佐
 にしてくれるか?」
鳴門「えっ、いいの?」
涼紀「おう。鳴門会長が良ければ」
鳴門「羽田涼紀くん。生徒会長補佐役に任命
 させてもらいます」
羽田「はい」
  と笑いあう2人。
鳴門「なにこれ?」
  と羽田のポケットあるものに気づく。
羽田「ああ。これ?」
  とポケットからカツラを取り出す。

○ 教員室
  校長が教員達の前で表情を変えずに
  座っている。頭にはカツラがない。
  表情が固まったままの教員達。
                 終わり

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