丸の内ОLと霊になった船橋のフリーター ドラマ

「わたしが電車で揉めた男は、翌日わたしの目の前で電車に轢かれた。直後、幽霊になって現れた」 丸の内勤務のОL・吉岡瑠奈(32)と船橋在住のフリーター・楠健太(23)が寄り添い合うまでの数週間の話。
古堅元貴 106 1 0 07/20
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第一稿

「丸の内OLと霊になった船橋のフリーター」

■登場人物
吉岡瑠奈 (32)丸の内勤務のOL
楠健太  (23)船橋在住のフリーター
楠和実  (48)健太の母
大津留 ...続きを読む
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「丸の内OLと霊になった船橋のフリーター」

■登場人物
吉岡瑠奈 (32)丸の内勤務のOL
楠健太  (23)船橋在住のフリーター
楠和実  (48)健太の母
大津留淳 (54)吉岡の会社の上司
楠木みな美(29)吉岡の会社の同僚
ゴウ   (30)吉岡がマッチングアプリで知り合った男


○楠の自宅マンション・玄関(朝)

月曜日。リュックを背負い、玄関から出てくる楠健太(23)。

楠「!?(陽の光がまぶしい)」

和実「健太」

母・楠和実(48)が水筒を持って急いで来て、リュックの中に入れる。

楠「(拒むように)いらないって」

和実「きつかったら帰ってきなさい」

楠「・・・いってくる」



○西船橋駅・通勤ラッシュ帯のホーム(朝)

列に並び、電車を待つOL・吉岡瑠奈(32)。吉岡の前には男。1人分詰められる間隔があるのに、スマホをいじり、気づいていない。

吉岡M「(男に)つめろよ」

男の後ろ姿を睨み続ける吉岡。男、吉岡の視線にか、突然振り返る。

男「あっ・・(と吉岡に気づき)すいません」

列を詰める男。

吉岡「(罪悪感)」   



○通勤ラッシュ帯の電車内(朝)

混雑で押しつぶされそうな吉岡。モニターの路線図を見ると、東京駅まであと23分の表示。

吉岡M「・・・地獄」

×     ×     ×

さらに混雑している。スマホをいじるスペースを確保しようとする男が、隣にいる吉岡を押す。

吉岡M「は!?みんな立ってるのも、やっとなの!我慢してるの!」

男を押し返す吉岡。

×     ×     ×

同じ車両のドア付近にいる楠。

楠「(押し潰されそうで苦しい)」



○新木場駅・ホーム(朝)

電車到着。一斉に降りる乗客。楠の位置は降りる乗客の邪魔になっている(リュックも背負っている)。だがその位置を死守している楠。

×     ×     ×

発車する電車。楠は同じ位置にいる。



○東京駅・実景(朝)



○東京駅・ホーム(朝)

電車到着。一斉に降りる乗客。

吉岡M「(到着し)はあ・・・」

吉岡も降りようとするが、ドア前にいる楠が邪魔で降りられない。

吉岡M「(楠に)邪魔・・・」

吉岡、肩を強く入れ、通勤バッグで楠を押し、なんとかホームに出る。

吉岡「(ため息)」

吉岡、後ろから肩を掴まれ

吉岡「え!?」

吉岡、振り返ると

楠「(吉岡に)殴りましたよね?」

吉岡「・・・え?」

楠「暴力行為」

吉岡「んっ?殴ってないです」

楠「はい?」

吉岡「いや、あ・・あなたのいる位置で退かないから、人とぶつかって、殴られたと誤解されてるんじゃないですか・・・?」

楠「殴られました!」

吉岡「ドア前にいるなら、あなたが降りない駅でも、退いてもらってもいいですか?」

楠「口で言えよ!」

吉岡「分かるでしょ・・私だけじゃなくて皆困ってました!あなたが退かないから・・」

楠「口で言え!」

周りの乗客が「大丈夫ですか?」などと、2人を止めようとする。口論はエスカレートし、駅員も駆けつける。



○駅員室〈朝〉

対面で座っている吉岡と楠。それぞれの隣には駅員。

吉岡「マナーですよね!?」

駅員A「(吉岡に)落ち着きましょう」

スマホを気にする楠。

吉岡「アナウンスもありますよ?降りる人優先しましょうって。(駅員に)ねえ?わざわざ言ってるんですよ。言わせてるんですよ!」

楠「聞いたことないです・・・」

吉岡「スマホばかりしてるから、気づかないんでしょ」

楠「(立ち上がる)」

駅員A「(楠を制止させ)一方が!ではないですよ!」

楠「(スマホを見て)もう時間・・・」

吉岡「ねえ!あなたのせいで会社遅刻してるんですけど!」

楠「俺だって・・・」

吉岡「ただでさえ朝から皆イライラしてるの!あなたみたいな人がそういう人たちの邪魔してるの」

駅員A「(吉岡に)お客様」

吉岡「そんな気遣いも分からないんですか?」

駅員B(女性)「(吉岡に)やめましょう」

吉岡「他の人もあなたに迷惑してたの、分からないんですか?」

楠「・・・」

吉岡「分かりますよ、普通」

楠「じゃあ普通じゃないので」

吉岡「(ため息)」

×     ×     ×

駅員A「このようなトラブルは、ほぼ毎日発生しています。どちらが悪いではないです。お互いが少しの変化で減らせる事だと思うんです」

室内時計は午前11時過ぎ。

楠「(それを見て絶望)」

吉岡「(楠の態度に苛立ち)」   

駅員B、先に吉岡を出口に誘導すると

楠「(泣いている)」

吉岡「(楠の姿が目に入る)」

部屋を出る吉岡。



○東京駅・改札外(朝)

吉岡、スマホを見ると上司・大津留から何件もの着信。

吉岡M「もう・・・」

急いで会社へ向かう吉岡。



○吉岡の職場・オフィス(朝)

30名ほどが勤務しているコールセンター。その中に吉岡。上司・大津留淳(54)がやってきて

大津留「吉岡さん、お昼まだ大丈夫だよね?遅れたから後の方がいいよね?」

吉岡「・・・あ、はい」

大津留「よろしくね」

昼食に出かける大津留と他の社員。

吉岡「(イラッ)」

×     ×     ×

21時。オフィスには明らかに疲弊している大津留や数人の社員が仕事している。その中に吉岡。

吉岡「(しんどい)」



○吉岡の自宅マンション・寝室(朝)

火曜日。スマホのアラーム音。

吉岡「(起きたくない)」

アラームに耐えられず止めにいく吉岡。



○西船橋駅・通勤ラッシュ帯のホーム(朝)

電車を待つ吉岡。ふと見渡すと、離れた列の先頭で並んでいる楠を目撃する。

吉岡M「え・・・」

周囲を見渡す楠。顔を逸らす吉岡。

吉岡M「うそ、最寄り同じ!?」

吉岡、楠が視界に入らない列に並び直す。電車到着のアナウンスが流れる。

吉岡M「なんで・・・え?これから電車乗るたびに会うかもしれないの?もう最悪・・・」

電車が到着する間際、「ピーッ!」とクラクション音。直後に「ドンっ」と何かが衝突した鈍い音。

吉岡「!?」

「ギギギッ!」電車が急停車。同時に悲鳴。駆けつける駅員ら。吉岡も向かう。電車の停止位置付近に楠が背負っていたリュックが落ちている。

吉岡「(あの男が・・・)」



○吉岡の職場・オフィス

PC作業をしている吉岡。

吉岡「(事故がよぎる)」

大津留「(吉岡の所に来て)また」

吉岡「すいません人身事故で・・・」

大津留「昨日遅刻したら、今日は余裕をもとうって思わないと」

吉岡「でも人身事故は・・・」

大津留「(ため息)乗ろうとしていた電車がちょうど事故って・・・ツいてないよね」

吉岡「・・・」

大津留「うん、まあ気を付けよう」

大津留、社員・楠木みな美(29)に話しかけにいく。

吉岡「(大津留を睨む)」

離れた所で吉岡を見ている男の後ろ姿。



○吉岡の自宅マンション・寝室(朝)

水曜日。スマホのアラーム音。

吉岡「(起きたくない)」

アラームに耐えられず止めにいく吉岡。



○西船橋駅・通勤ラッシュ帯のホーム(朝)

電車を待つ吉岡。

吉岡「(昨日の事故がよぎる)」

電車到着。乗車する吉岡。



○通勤ラッシュ帯の電車内

混雑で押しつぶされそうな吉岡。



○東京駅・ホーム(朝)

電車到着。一斉に降りる吉岡含め乗客。降りた瞬間、目の前に楠。

吉岡「(楠に)なん・・・えっ!!?」

吉岡、驚いて腰を抜かす。

楠「あんただけ・・・」

吉岡「なに!?」

吉岡の声に駅員が駆けつける。

駅員A「どうしま・・あ(吉岡に気づく)」

吉岡「(楠に)ストーカー!」

駅員A「(吉岡に)お客様?」

吉岡「(駅員に気づき)警察!呼んで!?」

駅員A「(怪訝に)大丈夫ですか・・・?」

吉岡「だから!(楠を指し)この人!このまえ私に・・・」

駅員A「お客様!大丈夫です!誰もいませんよ!」

吉岡「います!ここ!?・・・え・・・」

吉岡、自分にだけ見えている事を認識。



○東京駅・実景(朝)



○会社へ向かう道中(朝)

駆け足の吉岡。後ろには楠。

吉岡「(楠に)なんですか!?」

怪訝に吉岡を見ている歩行者ら。

楠「(見えてるの)あなただけなんですよ」

吉岡「(周囲を見渡し)なんで・・・」

楠「なんで・・・」

吉岡「なんですか?わたしへの怨念!?」

楠「まあ怨念があるのは確かですね」

吉岡のスマホに着信。大津留からだ。

吉岡「(着信に)もう!(楠に)もう!」



○吉岡の職場・オフィス(朝)

申し訳なさそうに自席へ向かう吉岡。後ろには

楠。

楠「(興味津々にオフィス内を見渡す)」

自席に座る吉岡。大津留がやってくる。

大津留「嫌なら無理して来なくていいよ」

吉岡「すいません・・・」

楠「(大津留を見て)この人、あなたのためじゃなく、あなたを利用してストレス発散するために怒ってますよ。こういう奴がいるから・・・」

吉岡「(楠に)うるさい」

大津留「は?」

吉岡「いえ・・・すいません」

大津留「もう気を付けてとしか言えないから。(全体に)外回り行ってきます」

大津留、出ていく。

吉岡「(楠を睨んでいる)」

楠「(吉岡を見ている)」

×     ×     ×

電話対応をしている吉岡。横には楠。

吉岡「(気に障る)」

×     ×     ×

電話対応をしている吉岡。オフィス内をウロウロしている楠。

吉岡「(気に障る)」

×     ×     ×

20時。電話対応をしている吉岡。

吉岡「(電話を終え、小さくため息)」

楠「いつ終わるんですか?」

吉岡「(無視してPCを操作)」

楠「帰りに神社寄ってもらっていいすか?」

吉岡「は?」

楠「お祓いすれば成仏できると思うんで」

吉岡「そんな時間ないです。ご自分で勝手に行けばいいんじゃないですか?」

楠「幽霊ひとりで成仏に行けないでしょ」

吉岡「いや、知らないですけど」

大津留「(自席から)吉岡さん入力!」

吉岡「はい(とため息し、PC入力を急ぐ)」

楠「・・・」



○帰宅ラッシュ帯の電車内

混雑で押しつぶされそうな吉岡。荷物棚に寝そべっている楠。

吉岡「(楠の姿勢にイラッ)」



○駅前スーパー(夜)

値引きされた惣菜などを買っている吉岡。その姿を見ている楠。



○自宅マンションまでの道中(夜)

歩いている吉岡。後ろには楠。

吉岡「(立ち止まって)あの」

楠「あ、俺?」

吉岡「付いてこないでもらえます?」

楠「付いてくるっていうか、憑いてしまってるというか」

吉岡「どっちでもいい!そこいてください!」

駆け足で去る吉岡。付いてくる楠。

吉岡「だからぁ!」

楠「付いてきてないです!憑いてるんです!」

吉岡「は!?」

楠「俺、今止まってますよね?歩いて下さい」

吉岡、恐る恐る歩く。楠は動いていない。しかし2人の距離が数m開くと、楠は吉岡の方に引っ張られていく。

吉岡「!?」

楠「ね!自動で憑いてきちゃうシステムなんですよ」

吉岡「・・・最悪」



○吉岡の自宅マンション(朝)

木曜日。スマホのアラーム音。

吉岡「(起きたくない)」

楠「(アラームに)止めます?」

吉岡「(寝ぼけながら)・・・うん」

楠、アラームを止める。

吉岡「(楠に気づき)ちょっ家入らないで!」

楠「だから入る入らないの問題じゃなくて」

吉岡「え、アラーム・・・どうやって?」

楠「物質は操作できるみたいです。ポルタ―ガイストですよ!俺、ポルタ―ガイストできるんだあ(と興奮)」

吉岡「(呆れる)」



○西船橋駅・ホーム(朝)

電車を待っている吉岡。横に楠。

吉岡「・・・どうして死んだの?」

楠「なんでですか」

吉岡「・・・わたしのせい?」

楠「・・は?あれくらいで」

吉岡「・・・迷惑です。あなたみたいに電車に飛び込んで死ぬ人」

楠「・・・」

電車到着のアナウンスが流れる。

吉岡/楠「(近づいてくる電車を見ている)」



○通勤ラッシュ帯の電車内

混雑で押しつぶされそうな吉岡。目の前には足を組み座席に座る男。男によって、より狭い思いをしている周りの乗客。

吉岡「(足組み男を睨む)」

荷物棚に寝そべっている楠が

楠「(吉岡に)でたでたでたでた」

吉岡「(楠を見る)」

楠「睨むエネルギー使うなら言えばいいのに」

吉岡「(楠を睨む)」

楠「睨んでも気づかないですよ。仮に気づいてもこの人は直さないし、火種が増えるだけですよ」

吉岡「(楠を睨む)」

楠「あ、僕との火種も増やします?」

吉岡「(楠を睨む)」

楠「はあ、こうやって世の中のストレスは増えてるんだなー」

吉岡「(より楠を睨む)」

楠「今、世の中のストレスがまた一つ増えてますよ」



○東京駅・実景(朝)



○会社までの道中(朝)

歩いている吉岡。後ろに楠。

吉岡「やめてくれない?」

楠「はい?」

吉岡「車内の独り言」

楠「アレはほんと止めた方がいいっすよ」

吉岡「そうさせてるのはあいつでしょ」

楠「でもアレって、自分のイライラ発散させてるだけじゃないすか?」

吉岡「は?」

楠「結局伝わってなかったし。むしろ横の中学生怖がってましたよ。こういう人が公園で遊んでる子供の笑い声にクレーム入れるんだ。あおり運転の常習犯なんだなーって顔して」

吉岡「子供大好きだし、免許持ってないんですけど(と楠を睨む)」

楠「意外。分からないもんすねー」

吉岡「決めつけよくないですよ」

楠「いやいや!あなたこそあの時俺のこと」

目の前のコンビニに入っていく吉岡。

楠「ちょっと!話し終ってませ・・・」

吉岡が店内に入る事により、取り憑く楠も吸い込まれるように入っていく。



○吉岡の職場・エントランス(朝)

コンビニコーヒーを持っている吉岡。入館する為、バッグから社員証を出そうとするが

吉岡「(社員証がなく)え?あれ・・・」

楠「?」

吉岡「無い・・・え、どこ?」

楠「あれすか?社員証。カップの蓋閉めてるときに、台に置いてましたよ」

吉岡「は!?なら言ってよ!」

楠「え俺すか?」



○コンビニ(朝)

入店する吉岡。レジ内の店員(60代女性)に声をかける。

吉岡「すいませ・・・」

店員「(吉岡に気づき)ですよね!」

店員、吉岡の社員証を持ってくる。

店員「ごめんなさい!すぐに気づいてあげられなくて」

吉岡「いえいえ!こっちが悪いです!」

吉岡、社員証を受け通り

吉岡「ありがとうございます!」

店員「いえ!いってらっしゃい!」

店員、レジに戻り研修中バッジを付けた店員にレジ操作を丁寧に教えている。

楠「(羨ましい)」

吉岡「(その楠を見ている)」



○吉岡の職場・オフィス

電話対応を終える吉岡。大津留がやってきて

大津留「吉岡さん、違うよ!」

吉岡「はい?」

大津留「(PC画面を見せ)このプラン先週で終わってるのに、お客様に案内したよね?」

吉岡「・・・え、そうだったんですか・・・」

大津留「共有したよ?」

吉岡「いや・・・え?・・・」

2人のやり取りに目を向けるみな美。

大津留「私の共有が上手く出来てなかったとしても、逐一社内ポータルで確認していれば防げた事だよね?その為にあるわけで」

吉岡「・・・はい」

大津留「しっかりやらないと。お願いだから」

吉岡「・・・」

大津留「・・・次は気を付けて」

大津留、去っていく。

楠「(大津留を見て)大違い」

×     ×     ×

自席で仕事をしている大津留。

楠「(念じる)」

大津留のデスク上のコーヒーカップが少しずつ隅に移動している。

吉岡「(楠を見て)?」

大津留が立ち上がった瞬間、カップが落ち、コーヒーが服にかかる。

大津留「ああ!?あっちィイあアぁぁっ!」

楠「(笑っている)」

吉岡「・・・」

×     ×     ×

汚れを落とし、戻ってきた大津留。通路横にある段ボールが少しずつ動いている。

吉岡「(動く段ボールを見て)?」

大津留、自席に戻る途中でその段ボールに足をぶつける。

大津留「(痛くて)クアぁあああ!」

楠「(笑っている)」

吉岡「・・・」



○同・給湯ルーム

コーヒーを淹れている吉岡。

楠「(笑っている)」

吉岡「やめてくれない?」

楠「はい?」

吉岡「ポルターガイスト」

楠「え」

吉岡「関係ないでしょ?」

楠「ああいう奴は分からせた方がいいんですよ。人に当たってるから、不幸が自分にも帰ってくるって」

吉岡「そのしわ寄せが来るのはこっちなの!これ以上怒らせるのやめて!」

楠「いや、取り憑いちゃって迷惑かけてるとは思ってるから、せめてのご厚意で・・・」

吉岡「ご厚意!?あなたこそ、ご自身の当てつけでポルタ―ガイストされてません?ポルタ―かポルタ―じゃないだけで・・・」

楠「あのポルターガイストの事、ポルタ―って略すの止めてもらえませ・・・」

みな美「(怪訝に)いいですか?」

入口で入りづらそうにしていたみな美。

吉岡「えっ、ああぁあっ!?どうぞ・・・」

コーヒーを淹れるみな美。

吉岡「(変に思われてるよ・・・)」

楠、みな美の社員証をまじまじと見ている。

吉岡「(何見てんの!?キモっ)」

みな美、去っていく。

吉岡「(楠を睨んで立ち去る)」



○同・オフィス

自席に座る吉岡。少し反省している楠。

吉岡「霊になったことを、悪さでしかご利用になられてないですよね?」

楠「だからポルタ―ガイストはもう・・・」

吉岡「別!見えないのをいいことにガン見しちゃって(とみな美を見る)」

楠「何言ってるんすか?」

吉岡「(みな美を見て)見るハラ、見るハラ」

楠「いや!社員証!あの人楠木さんでしょ。俺も楠なんで。俺は一文字のですけど」

吉岡「あ、そうですか」

楠「すぐハラ、ハラハラ!ロクに思考しないでとりあえず括って相手にぶつける事も、どうかとも思いますけどねー」

吉岡「誤解しちゃうんで。気を付けて下さい」

大津留、やってきて

大津留「日曜日が人足りてないんだけど」

吉岡「はい・・・」

大津留「今週遅れてしまった分、取り返すためにもさ」

吉岡「え・・・はい」

大津留「うん」

吉岡「・・・。・・・出れます」

大津留「ありがとう。よろしくね」

大津留、去っていく。

吉岡「ほら・・・」

楠「(大津留を見ている)」



○吉岡の自宅マンション・リビング(夜)

スマホをいじりながら晩酌をする吉岡。

吉岡「お祓いって夕方には終わっちゃうんだー。仕事終わりは無理だね」

楠「週末は?」

吉岡「今月は厳しいですねー」

楠「(スマホを見て)ここ遅くまでやってません?」

吉岡「ここか・・・。待って、ここダメ。お祓いした翌日に空き巣入ったって、レビューしてる人いる」

楠「えーじゃあ成仏見込めないか・・・」

吉岡「てかなんであなたの成仏のために私が休み潰さないといけない訳?そっち負担ゼロなのおかしくない?」

楠「そう言われてもこっちが出来る事ないですから」

吉岡「休み取られるの、ほんと嫌なんだけど」

楠「・・・」

吉岡「わたし寝るから。そこら辺考えといて」

吉岡、電気を消し、寝室へ向かおうとすると

吉岡「(寝室)入んないでよ。そこいてよ」

楠「いますよ。ソファ借ります」

吉岡「汚さないでよ」

楠「汚しようがないです」



○同・玄関(朝)

金曜日。玄関を出る吉岡。通勤バッグと別に大きなバッグを持っている。

楠「(バッグを見て)なにそれ?」

吉岡「今日勝負なの」

楠「?」



○東京駅・コインロッカー(朝)

大きなバッグを入れる吉岡。

楠「?」

   

○吉岡の職場・オフィス

いつもよりテキパキ仕事をする吉岡。

楠「なにあるんですか?」



○同・社員食堂入口(昼)

本日のメニューを見ている吉岡。

吉岡「(葛藤)」

後退る吉岡。   

楠「なにあるんですか?」



○同・オフィス

電話対応が終わり、干し梅を一つ食べる吉岡。

楠「干し梅になにがあるん・・・」

吉岡「しつこい、察して」

時計を見ると18時過ぎ。

吉岡「もう・・・」

×     ×     ×

19時。焦って仕事をしている吉岡。楠、吉岡のスマホを見ながら、

楠「アプリで出会った人とは3回目のデートが勝負。成功させる5つの・・・」

吉岡「ちょっと、勝手に検索しないで。ギガ無くなる」

楠「やばいじゃないすか。3回目のデート行けないじゃないすか」

吉岡「もう・・(と焦りながら仕事)」

架電リストを持って、大津留が来る。

大津留「吉岡さん、ここ追加で架電お願い」

吉岡「え・・・」

大津留「ん?」

吉岡「えっと・・・あ・・・はい・・」

大津留、自席へ戻る。

吉岡「なんで(大津留を睨み)・・・ねえ?」

楠「?」

吉岡「・・・ポルタ―ガイスト・・でき・・」

みな美がやってきて、

みな美「引き継ぎます」

吉岡「え?」

みな美「私の分終わったので。大津留さん、追加分私やります」

大津留「あ、了解」

吉岡「(みな美に)いいんですか・・・?」

みな美「このあと何もないので」

吉岡「すいません。ありがとうございます!」

楠「(みな美に)スマートだねー」

みな美、不意に楠の方へ向く。

楠「(目が合い)え!?見えて・・・」

仕事に戻るみな美。

楠「・・・?」



○東京駅へ向かう道中(夜)

ダッシュで駅へ向かう吉岡。



○東京駅・コインロッカー

今朝入れたバッグを取り出す吉岡。



○電車内

そわそわしている吉岡。「次は恵比寿」の車内アナウンス。



○恵比寿駅・トイレ

トイレから出てくる吉岡。化粧や服装がおしゃれになっている。

楠「(変化に驚く)」

×     ×     ×

コインロッカーにバッグを入れる吉岡。

楠「(吉岡の段取りに)なるほど」



○恵比寿駅・駅前(夜)

20時。急いで改札を出る吉岡。

吉岡「(辺りを見渡していると)」

男「(吉岡を見つけて)瑠奈さん!」

吉岡「あ!ゴウさん(と手を振る)」

ゴウ(30)は塩顔長身男性。

ゴウ「お仕事おつかれさま」

吉岡「ごめんなさい、到着ギリギリで・・」

ゴウ「出口多いし、地下鉄もあるから分かりづらいですよね。でも時間ぴったりに会えた」

吉岡「(気遣いにうれしい)」

吉岡「この前話した肉バルのお店、信号渡ったあそこ(と指さし)、今見えてる」

吉岡「(店を見て)美味しそう!楽しみ!」

店へ向かう2人。怪訝そうに見る楠。



○肉バル・個室(夜)

メイン料理を食べる吉岡とゴウ。

吉岡「うわ!すごい美味しい!」

ゴウ「僕、今まで食べたお肉で一番おいしいかもです」

吉岡、もう一口食べると

吉岡「1週間の疲れ、全部消えました!」

ゴウ「分かります。報われた感あります」

笑い合っている2人。

楠「・・・」

×     ×     ×

好きな話題で盛り上がっている2人。

吉岡「え!サーカス、私も大好きです!」

ゴウ「これ共有できる人、初めて会いました」

吉岡「私もです!」

ゴウ「今度一緒に行きたいですね」

吉岡「え!行きたい!」

ゴウ「森の上大サーカスのチケット、来月まだ取れた気がする」

スマホを出し、検索するゴウ。

吉岡「(うれしい)」

楠、ゴウの背後に回り、

楠「(スマホを覗くと)!?」

×     ×     ×

○同・トイレ

メイク直しをしている吉岡。

楠「(背後に現れて)速報です」

吉岡「あとにして。大事なチャンスな・・・」

楠「ゴウ、既婚者でーす」

吉岡「は!?」

楠「奥さんと娘いますよ」

吉岡「うそ!?いやいや・・・」

楠「奥さんに送ってました。会社の飲み会で0時前になっちゃうーって。マツキヨでかぜシロップ買えないかもって」

吉岡「かぜシロップ・・・0時?今まだ9時」

楠「あと調べてましたよ。森の上大サーカスのチケット見るって言って、ブックマークしてるラブホテルの空室状況」

ファンデーションを叩きつける吉岡。

吉岡「殺す」

楠「え」

吉岡「殺す(とトイレを出ようとする)」

楠「ええ!?口で言うんじゃないですか!?殺しはポルターガイストよりだめでしょ!?」

吉岡「離して!?」

吉岡、楠を振り払おうとするが、

楠「掴んでないです!掴んでないから!」

吉岡「あ・・・(と我に返る)」

楠「・・・こういう時に使いましょう、アレ」

吉岡「?」



○同・個室(夜)

スマホをいじっているゴウ。戻ってくる吉岡。

ゴウ「おかえりなさい」

ゴウ、スマホをしまおうとすると

楠「(念じる)」

ゴウ、スマホを滑らせて白ワインのグラスの上に落とす。

ゴウ「!?」

グラスは割れ、スマホはワインまみれ。

ゴウ「マジかよ!?」

楠「イッツア、ポルタ―ガイスト」

ワインまみれのスマホには奥さんとのメッセージ画面。その画面背景は奥さん、娘とテーマパークで撮った写真。

吉岡「(スマホ画面を見て)誰?」

ゴウ「いや!これはアプリで、他の人とやり取りしててその中の一人というか・・」

吉岡「この女性、指輪してるけど。アプリで知り合った人なんですよね?結婚してるのにこの人アプリやってるんですか?やばくないですか?」

ゴウ「・・・イヤ!だからね・・・」

吉岡「いつもこういう事されてるんですか?」

ゴウ「えっと・・いや本当に初めてで・・・」

吉岡「今日のことは認めるんですね?」

ゴウ「・・・」

吉岡「今までの時間返してもらっていいですか」

ゴウ「・・・」

吉岡「こんな事してたらいつか刺されますよ。私は刺さないですけど。もしあなたの奥さんだったら刺してますけど」

ゴウ「・・・」

吉岡「今日台無しにされたこと。ほんと一生忘れないから。あとあなたの顔と会社名も」

店を出る吉岡。

楠「(ゴウに)イッツア、ポルターガイスト」

   

○帰り道(夜)

駅へ歩いている吉岡と楠。

吉岡「あー最悪」

楠「いやぁ、かっこよかった」

吉岡「・・・私、ほんとに結婚したいのかな」

楠「そういうの霊に聞かないでください」

吉岡「たぶん1週間に変化が欲しいんだよね。結婚は家族も周りも喜ぶし、一番分かりやすい幸せの形みたいな変化だから、みんな結婚を求めちゃうのかな。ひとり登山が結婚と同じくらいのステータスにならないかなー」

楠「ひとり登山好きなんですか?」

吉岡「やったことない」

楠「・・・」

吉岡「なんか彼氏欲しいのかも分かんなくなってきた」

目の前に「ラーメン六郎」の看板。

吉岡「(店に入っていく)」

楠「!?」



○ラーメン「六郎」・店内(深夜)

カウンターに座っている吉岡。

店主「(吉岡に)ニンニク野菜増し、お待ち」

店主、吉岡の前にラーメンを置く。

吉岡「いただきます」

ラーメンを食べる吉岡。

吉岡「(至福)」

にんにくを麺とスープに絡める吉岡。

楠「(それを見て)明日大丈夫すか?」

吉岡「明日何もないので。何もなくてよかった(と食べる)」

楠「(見守る)」



○吉岡の自宅マンション・リビング(夜)

吉岡、部屋に入るとソファに直行。

吉岡「(ソファに顔を埋め、叫ぶ!)」

楠「苦情来ますよ」

吉岡、叫びが泣きじゃくりに変わる。

楠「え、あ・・・(と動揺)」

吉岡「(泣きながら)あありがあぅーうぉう」

楠「はい?」

吉岡「・・・今日は・・・ポルタ―ガイストとか・・・色々・・・ありがとう」

楠「(照れて)別に・・・じゃお祓いの日程決めま・・」

吉岡「うるさい!(と再び泣く)」

楠「(やさしい眼差し)」



○西船橋・実景(朝)

土曜日。家族連れやカップルが多い。



○吉岡の自宅マンション・リビング(朝)

ソファで寝ている吉岡。服装は昨日のまま。それを見ている楠。

×     ×     ×

昼。寝ている吉岡。それを見ている楠。

×     ×     ×

夕。TVを付け、見ている楠。起きる吉岡。トイレへ行き、パジャマに着替えると、またソファで寝る。

×     ×     ×

日没。バラエティー番組の手相特集を見ている楠。

楠「(自身の手相を見ている)」

起きる吉岡。スマホを見ると夕方6時。

吉岡「(絶望)」

楠「(手相を見て)おれ二重生命線あるのか」

吉岡「(楠のくつろぎぶりに少し和む)」

×     ×     ×

ソファでTVを見ている吉岡。

楠「洗濯いいんすかー」

吉岡「あと10分経ったら」

楠「それ、6時半からずっと言ってますよ」

現在の時刻は夜9時。

吉岡「・・・」

×     ×     ×

配達員(声)「ご注文ありがとうございました!」

デリバリーされたものを持って、玄関からリビングにやってくる吉岡。

×     ×     ×

夜10時。夕食を食べている吉岡。

楠「・・・今日お祓い行けましたよね?」

吉岡「(構わず食べる)」

楠「(TVのチャンネルをザッピングする)」

吉岡「てかわたしに霊感あったとは。ねえ、なんで私に憑いてるの?」

楠「それ、ここで話して答え出る問題じゃないですよ」

吉岡「もっと近しい人いるでしょ。親とか兄弟とか」

楠「まあ・・・」

吉岡「・・・。それよりもわたしへの怨念?」

楠「最後は怨念が強かったのかもですね」

吉岡「・・・うわ、今鳥肌たった」

楠「(笑顔)」

吉岡「ねえ、前から思ってたんだけど、金縛りとかしないでよ」

楠「ああ。試したことない。今日チャレンジしてみます」

吉岡「絶対やめて!」

楠「(吉岡を茶化す)」

   ×     ×     ×

同じ場面だが、吉岡が一人で話しているように見えている。



○西船橋駅へ向かう道中(朝)

日曜日。歩いている吉岡と楠。

楠「だめでしたー」

吉岡「なに?」

楠「金縛り」

吉岡「ねえ!?(と楠を叩こうとする)」

楠「まだ金縛りできる力はないみたいです。経験値で身に付くのかな?それとも幽霊それぞれに最初から備わってる能力なのかな?俺はポルターガイストが能力の幽霊ってことか」

吉岡「そこ悩まなくていいから」

吉岡、横の葬儀場が目に入ると、突如立ち止まる。

吉岡「(入口を見て)え?」

入口には「楠家」の看板。

吉岡「楠って・・・」

楠「・・・」



○葬儀場・入口近く(朝)

少し離れた所から見ている吉岡。

楠「・・・行っていいっすよ」

吉岡「(動かない)」

楠「・・・」

×     ×     ×

数分後。入口から喪服姿の数名が出てくる。その中に遺影を抱えている母・和実。

楠「・・・」

棺が霊柩車に入れられる。母・和実が泣いている。

楠「・・・」



○会社へ向かう道中(朝)

歩いている吉岡と楠。会話はない。



○吉岡の職場・オフィス

仕事している吉岡。横に楠。

楠「・・・」

吉岡「(楠が気になる)」



○同・社員食堂(昼)

昼食を食べている吉岡。横に楠。

楠「・・・」

吉岡「(楠が気になる)」



○同・オフィス(夕)

仕事している吉岡。横に楠。

楠「・・・」

吉岡「(楠が気になる)」

×     ×     ×

夜。仕事している吉岡。横に楠。

吉岡「体調悪くなってきた(と呟く)・・・」

楠「・・・すいません、多分俺のせいです」

吉岡「え、ああ、伝染するんだ・・・。だから悪霊に取り憑かれると体調おかしくなるのね・・・あーしんどい」

前屈みになる吉岡。みな美、それが目に入り、

みな美「大丈夫ですか?」

吉岡「・・・ありがとうございます、大丈夫」

吉岡、体勢を戻す。みな美、気にしながら自席に戻る。

吉岡「(受話器を持ち、架電しようとする)」

楠「(母のことを考えている)」

吉岡「(架電しようとする体勢で)私があんな言い方しなかったら、やっぱりこうはなってなかった?」

楠「・・・」

吉岡「・・・ごめんなさい」

楠「いや・・・」

吉岡「あなたのこと知らないのに色々決めつけて、私が正しいように押し付けた」

楠「・・・」

吉岡「あんな言い方とか態度とか、私もあの日、ストレス発散のために言っちゃってた」

大津留、吉岡に気づいて

大津留「吉岡さん!それ、電話繋がってないよね?誰と話してるの・・・」

みな美「(大津留を制止する)」

大津留「何・・・」

吉岡「・・・私が傷つけた。取り返しのつかないことした」

楠「・・・」

吉岡「ごめんなさい」

楠「・・・」



○船橋・実景(夜)



○吉岡の自宅マンション・リビング

窓の外を見ている楠。風呂上がりの吉岡がリビングにやってくる。

吉岡「(楠を気にしている)」

吉岡、冷蔵庫を開き、中を確認した後

吉岡「あの・・・・・・コンビニ行かない?」

楠「え」



○コンビニまでの道中(夜)

歩いている吉岡と楠。

吉岡「・・・」

楠「・・・」

吉岡「・・・完全に湯冷めだ」

楠「・・初出勤だったんです、あの日のあと」

吉岡「・・・」

楠「遅刻して行ったら、全く作業教えてくれなくて。でも出来ないとなんで出来ないのって怒鳴られて、それ見て大学生くらいの奴らが、あからさまに俺見てコソコソ笑ってて」

吉岡「・・・」

楠「その後帰りの電車でも、邪魔だって体当たりされて、引きこもってたのもあるけど、リュック背負ってるのが邪魔になってることとか全然気づかなくて。電車降りてコンビニでお会計してる時に、もたついちゃったら、後ろのお客さんため息と舌打ちしてて、多分店員さんも俺のこと呆れてて・・」

吉岡「うん」

楠「そしたら・・・気づいたら朝あそこいて、飛び降りちゃって。でも・・・後悔してて」

吉岡「・・・」

楠「・・・吉岡さんのせいじゃないです」

吉岡「・・・」

楠「すいません・・・」

立ち止まる吉岡。

吉岡「・・・いや私・・・ごめんなさい」

楠「(頭を下げる)」

吉岡「・・・えっと」

楠「・・・」

吉岡「・・・何買おうとしてたんだっけ?」

楠「・・・あ、ビールと歌舞伎揚」

吉岡「あっ!そうだ」

楠「・・・」

吉岡「ちょっとだけ走っていい?」

楠「え・・・あ、俺は憑いてくだけなんで」

吉岡「じゃ走ります」

楠「はい・・お願いします」

駆け足になる吉岡。憑いていく楠。



○吉岡の自宅マンション・寝室(朝)

月曜日。スマホのアラーム音。

吉岡「(起きてアラームを止める)」

リビングへ向かう吉岡。



○吉岡の職場・オフィス

吉岡、出社し、大津留のデスクへ行き

吉岡「昨日はご迷惑おかけしました」

大津留「まあね、365日あったらそういう日も、あるから。それがたまたま仕事中に出てしまったというか、今は大丈夫そうなら何より」

吉岡「(大津留の返答に少し驚いている)」

楠、ふと大津留のPC画面が目に入る。

楠「(PCを見ると)!?」



○同・社員食堂(昼)

列に並んでいる吉岡。

楠「(大津留のことを考えている)」

吉岡「(楠を見て)どうしたの?」

すると列の後ろにみな美が並び、

みな美「お疲れ様です」

吉岡「あ、おつかれさまです」

みな美「・・・吉岡さん」

吉岡「え、はい?」

みな美「・・・見える人ですか?」

吉岡「何が?」

みな美「(楠の方を見る)」

楠「また目合った」

吉岡「(楠を見て)もしかして・・見える?」

みな美「いや、見えないんですけど、私信じてるというか、見たい人で」

吉岡「ああ・・・」

みな美「生まれつき見えるんですか?」

吉岡「いや・・・何て言えばいいんだ・・・」

助けを求めるように楠を見る吉岡。

楠「(視線に気づき)え、好きなように言っていただければ」

吉岡「先週から・・・」

みな美「うわぁ、突然なんだ」

吉岡「そうなんです・・・」

みな美「生きてれば私もいつか見えますかね」

話しながら並んでいる吉岡とみな美。



○同・オフィス(夜)

仕事を終えた吉岡。

吉岡「(大津留に)お先に失礼します」

大津留「はい、おつかれー」

吉岡、ふとみな美を見ると

みな美「(目が合い)お疲れさまでした」

吉岡「おつかれまさま」



○多摩・実景(朝)

1週間後。月曜日。



○都内の神社・入口(朝)

鳥居の前に到着する吉岡と楠。

楠「・・・来ましたね」

吉岡「・・・」

楠「・・・色々とお世話になりました」

吉岡「こちらこそ。いい経験になりました」

楠「・・・よかったです。あの日のこと謝れて」

吉岡「私の方こそ・・・」

楠「・・・」   

吉岡「・・・行こっか」

鳥居をくぐり、中へ入っていく2人。



○同・境内

お祓いを受けている吉岡。後ろには楠。

楠「(神妙な顔)」



○同・入口(昼)

お祓いを終えた吉岡。

吉岡「・・・」

後ろには申し訳なさそうにしている楠。

吉岡「いるよね?」

楠「・・・いますね。びくともしなかったですね」

吉岡「なんで?」

楠「全く分かんないっすね」

吉岡「・・・」

楠「・・・すいません」

吉岡「わざわざ有休取ったんだけど」

楠「謝っても謝り切れないです」

吉岡「あとお祓い料5千円」

楠「え、それ相場の最低額じゃないですか?もう少し払った方が効果出たん・・」

吉岡「(楠を睨む)」

楠「(神妙な顔)」



○会社までの道中(昼)

歩いている吉岡と楠。

楠「え、会社行くんすか?」

吉岡「ちょうど(お祓いで)スーツだし、それに有休取っても、休んだ分の仕事は溜まるから、次出勤したときがより大変になるだけなの。これがOLの現実なんです」

楠「丸の内OLしんどいっすね」

吉岡、歩いていると、独り言を言っている男とすれ違う。男は楽しそうだ。

吉岡「あの人も憑いてるのかな?私みたいに」

楠「(男を見て)んー、独り言じゃないすか」

吉岡「ねえ、他の幽霊は見えるの?」

楠「どうなんすかね?今のところは見てないですけど。見えんのかな?」

吉岡「ならあの人にも憑いてるのかも。傍から見たら、私と同じだし」

楠「(うれしそうに吉岡を見ている)」

                 

○吉岡の職場・オフィス

出社し、自席に向かう吉岡。

みな美「吉岡さん、今日って・・・?」

吉岡「有休なんですけど、たまたま近く通って。ちょうどスーツだったし。休んでも仕事溜まるだけじゃない?」

みな美「助かります。今日、超バタバタなので・・・」

吉岡、社内を見渡すと皆慌ただしい。

大津留「(吉岡に気づき)何してるの!?」

吉岡「いや、たまたま近く来たので、それなら少しは仕事片付けとこうと・・・」

大津留「いやいや!有休取ってるんだから!」

吉岡「そうなんですけど、先週ご迷惑かけた分もあるし、今日忙しいって・・・」

大津留「そしたら有休の意味がないだろ!吉岡さんが休んでるシフトで配置や分担組んでるんだよ!いても迷惑だよ・・・」

楠「(大津留を見ている)」

吉岡「・・・」



○東京駅までの道中(夕)

歩いている吉岡と楠。

吉岡「・・・あー来なきゃよかった」

楠「・・・」

吉岡「何か言ってよ・・・」

楠「・・・たまたま見ちゃったんですけど」



○吉岡の職場・オフィス(回想)

楠、ふと大津留のPC画面が目に入る。

楠「(PCを見ると)!?」

画面には「事業縮小によるオフィス移転及び人員整理」についての資料が表示されている(移転エリアは日暮里と記載されている)

   

○現在/東京駅までの道中(夕)

吉岡「え?日暮里!?会社移転するの・・・」

楠「縮小って書いてあって、あとおそらく辞めなきゃいけない人も・・・」

吉岡「・・・」

楠「・・・上の奴らって実際に働いてる人のことよく知らないのに、現場のこと決めたりするでしょ?」

吉岡「え?」

楠「俺は会社で働いたことないんで、分からないですけど。でも実際にそういうことあるんですよね?」

吉岡「まあ・・・」

吉岡「今まで頑張ってきた人が、ここ最近のちょっとしたことで切られないようにって、あの人は思ってるんじゃないすか」

吉岡「ええ・・・」

楠「だから強く言ってたんじゃないんですか。少なくとも自分の部署の人が削られることはないように。決して上手い言い方ではなかったかもですけど。分かんないけど」

吉岡「・・・」

楠「でもストレス発散のためには言ってない気がします。・・最初に決めつけてたの俺か」

吉岡「・・・」



○吉岡の職場・オフィス

自席で仕事をしている大津留。

大津留「(反省している)」

その姿が目に入るみな美。



○東京駅までの道中(夕)

楠「どうします?」

吉岡「え・・・」

楠「戻ってみます?」

吉岡「・・・」

楠「さっきの忙しさで明日の仕事さらに溜まってるだろうし。ああは言ってたけど来てくれたら、他の人は助かるだろうし」

吉岡「・・・」

楠「それに多分、あの人も今後悔してるから」

吉岡「・・・」

楠「言いたいこと言いました」

吉岡「・・・うん」

引き返す吉岡。憑いていく楠。

2人の後ろ姿。

タイトル『丸の内OLと霊になった船橋のフリーター』

おわり

「丸の内ОLと霊になった船橋のフリーター」(PDFファイル:502.35 KB)
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