1_海岸 day25 夕方
美都は竹皮に包まれた一切れの肉を手に持って夕に対して微笑みかける。
美都 「本当にいいのね?あなたが大切にしてきたものすべて捨てることになるわよ。」
夕は無表情で美都から竹川を受け取りぶっきらぼうに答える。
夕 「大丈夫です、僕が大切にしてきたものはもうなくなりましたから」
美都 「そう・・・」
夕は美都が言い終わったのをきっかけに竹皮から肉を取り出しかぶりつく。
グシュグシュと咀嚼音が響き渡る。
2_高尾邸 玄関前 day1 昼
夕は炎天下の中息を切らしながら地図を見て歩いている、地図を持っていないほうの手には
みどりの手がつながれている、そして背中には大きなカバンを背負っている。
夕 「このあたりのはずなんだけど・・・」
夕はあたりを見回し、視線の先に暑さから輪郭線があいまいになっている女の人影を
見つけるが瞬きをした瞬間その人影が視界から消える。
夕がもう一度注意深く見ようとしたとき、高尾邸を見つけ、後ろにいるみどりのほうを
振り返る。
夕 「あの家だ、もうすぐだぞ、みどり」
うつむいたまま歩いていたみどりが顔をあげ確認する。
みどり 「うん・・・」
二人は表札に『高尾』と書かれた家に入っていく
夕が家の人に気づいてもらうために大きな声を出す。
夕 「ごめんくださーい!ごめんくださーい!」
家のほうから大きな声とともにあわただしい足音が聞こえる。
文子 「はーい!」
玄関の戸が開き文子が顔を出す。
夕は文子に対して話し出す。
夕 「こんにちは、文子おばさん。広島の夕とみどりです。」
夕はそういい終えてから後ろに隠れていたみどりの姿が文子に見えるように左に一歩ずれる。
夕 「ほら、みどり、あいさつして」
夕に促されてみどりも文子に挨拶をする。
みどり 「こ、こんにちは。文子おばさん」
みどりのあいさつの後夕は顔を俯かせながら文子に事情を説明しようとする。
夕 「文子おばさん、あの・・・僕たち・・・」
文子は夕の言葉をさえぎって腰を落とし、二人の肩を抱く。
文子 「大丈夫、分かったわ、美代子たちはあのピカで死んでしまったのね」
夕 「はい・・・それで何かあったらここに来るようにお母さんから言われてて、だから・・・」
文子は顔を俯かせ、二人をより強く抱き、絞り出すような声で二人に話す。
文子 「そう・・・大変だったわね。夕くんもみどりちゃんも」
その言葉に反応するかのようにみどりが静かに涙を流し、それにつられるように夕と文子も泣き始める。
三人でしばらく抱き合いながら泣いた後、文子が立ち上がり二人に対して言う。
文子 「さあ、上がって、そんなに広い家じゃないけど夫が使っていた部屋が空いているからそこで良ければいつまでもいていいわよ。」
夕とみどりはほぼ同時に顔をあげ、満面の笑みを浮かべる。
夕 「本当ですか!?ありがとうございます!よかったな、みどり」
みどり 「うん!」
二人は文子についていくように家の中に入っていく。
3_高尾邸 居間 day1 昼
居間の中には文子とキヨと洋子と博がいる。
夕とみどりがふすまを開け居間の中に入ってくる。
二人が居間に入ってきたことに気づき声をかける文子。
文子 「荷物は片付いた?」
夕 「はい、もともとそんなに量もないし、すぐ終わりました。」
文子 「そう、あ、そういえば紹介がまだだったわね、こちらのおばあさんがキヨさんといって
私の夫のお母さんよ。そしてこの二人が私の子供の博と洋子よ。
洋子が今12歳で博が夕くんと同じ11歳よ。」
文子の紹介を聞くと夕はすぐさま挨拶する。
夕 「こんにちは、広島から来ました平岡夕といいます。11歳です。
今日からお世話になります。」
あいさつの後すぐ夕はお辞儀をするが、みどりは視線を泳がせながら何もしないまま
立っている。
それに気づいた夕はみどりの頭を掴み無理やりお辞儀をさせる。
みどりはそれにつられて慌てて挨拶をする。
みどり 「ひ、平岡みどりです。9歳です。よ、よろしくお願いします。」
夕とみどりの様子を見たキヨはあきらかに不機嫌そうに顔をしかめる。
文子は何も言わずに黙っている博と洋子に向かって言う。
文子 「洋子、博仲良くしてあげてね。」
洋子と博はお互いに顔を見合わせた後大きな声で返事をする。
洋子・博 「はーい」
文子 「さあ、ご飯にしましょうか。二人ともお腹すいたでしょう?」
文子はそういった後、厨房のほうへ入っていく。
4_高尾邸 居間 day1 夕食時
夕、みどり、洋子、博の四人がテーブルを囲んでいる中にキヨと文子が夕飯を配膳してくる。
白米やカボチャなどが並べられていく、それらを見たみどりが嬉しそうに夕に話しかける。
みどり 「お兄ちゃん、お米があるよ」
夕もみどりの言葉を聞いて嬉しそうに返事をする。
夕 「そうだな、こんなにいっぱいご飯を食べるのは久しぶりだな」
配膳を終えて腰を下ろす文子は笑いながら夕とみどりに話す。
文子 「遠慮しないで、たくさん食べてね。」
それを聞いたみどりが箸を持って食べようとする。
みどり 「いただきま・・・」
洋子 「お母さん、今日なんかご飯少なくない?」
洋子がみどりの言葉をさえぎって文子に話しかける。
博 「ほんとだ、いつもより少ないね。」
博も洋子につられて指摘する。
みどりは思わず箸を下げる。
文子があわてて洋子と博に反論する。
文子 「そ、そんなわけないでしょ、何を言ってるの二人とも」
場の空気が悪くなる中キヨが一人食べ始める。
キヨ 「いただきます。」
ほかの五人は茫然とキヨを見ている。
キヨは一定のペースでご飯を口に運びながら博と洋子に向かって低い声色で言う。
キヨ 「洋子、博」
呼ばれた二人はぴくっと肩をあげる。
キヨ 「人数が増えたんだ、一人一人の量が減るのは当然のことだよ。」
文子 「さあ、私たちもいただきましょう。夕くんみどりちゃん遠慮しなくていいからね。」
文子が苦笑いを浮かべながら言う
夕とみどりはバツが悪そうに食べ始める
夕 「はい、いただきます。」
みどり 「いただきます・・・」
5_高尾邸 夕とみどりの部屋 day1 深夜
夕とみどりが布団を並べて寝ている。
みどりは熟睡しているが、夕は寝苦しそうに眉間にしわを寄せている。
夕の頭には原爆で死んだ母や焼けてしまった家のことがよぎっている、
そして最後にS2で見た陽炎のような人影が思い出される。
やがて夕は飛び起きるように目を覚まし、激しい動悸に襲われる。
夕 「はあ、はあ、はあ」
動悸が治まるまでそのままの姿勢でいる夕
夕 「はあ、はあ、ふう」
夕は動悸が治まると立ち上がりそっと部屋を出ていく。
6_高尾邸 居間 day1 深夜
部屋を出た夕は居間にうっすらと電気がついていることに気づく。
居間では文子とキヨが座って話している。
夕は身を隠しながら二人の会話を盗み聞きする。
居間の中ではキヨがイライラした様子で文子に対して話している。
キヨ 「あんた一体どういうつもりなんだい?
あんな子供を二人も私に何の相談もしないで家に入れるなんて。」
文子は言い訳をするように反論する。
文子 「しょうがないじゃないですかお義母さん、あの子たちは美代子・・・
妹の子供でもう父親も母親も死んでしまったんですから」
キヨ 「だからってなにもうちに来なくても、父親の実家に行けばいいじゃないか。」
文子 「妹の嫁ぎ先の実家もピカでやられてしまったらしいんです。
だからあの子たちが頼れるのはもううちしかか・・・。」
キヨ 「あんたは身内だから関係あるかもしれんが、私には関係ないね。
それに私はどうもあの子たちが気に食わないよ、
二人ともきれいな顔して憎たらしいったらありゃしない。」
文子 「そんなこと言わないでくださいよ。」
夕は二人の話をじっと静かに息を殺して聞いている。
文子が話の流れを変えようと声色を変えてキヨに話しかける。
文子 「そういえば、お義母さんお昼に荒木さんの家に行ってきたんですよね?
どうでしたおじいさんの様子は?」
キヨはいらいらした口調で話す。
キヨ 「あそこの爺さんはもうだめだよ、こっちが何を言っても聞きやしない。
医者に行けって言ったって『わしには人魚がついているから大丈夫じゃ』って、
それの一点張りさ。」
もう部屋に帰ろうかとしていた夕はキヨの言葉に足を止める。
文子 「人魚ってあの、血を飲めばどんな病も治るっていうっていうあれですか?」
夕は耳をさらに扉に近づけて二人の話を聞く。
キヨはため息をつきながらあきれたように話す。
キヨ 「そうだよ、あんなものを信じちまうなんて、
あの爺さんは奥さんが死んでから頭がおかしくなっちまったのさ。」
文子 「そうですか。」
話を聞き終えた夕はなぜかS2で見た陽炎を思い出す。
7_高尾邸 居間 day2 朝
朝、起きたばかりの夕とみどりが居間に入ってくる。
居間には洋子と博が座っている。
夕 「おはようございます。」
みどり 「お、おはようございます。」
夕とみどりは眠そうな声であいさつをする。
文子 「おはよう。」
夕たちの声に反応して文子の声が厨房から聞こえてくる。
夕たちは昨日と同じ位置に座り洋子と博に再度挨拶をする。
夕 「おはよう。」
洋子 「ん、おはよう。」
博 「おはよう。」
洋子と博は夕と目も合わせず挨拶し返す。
やがて食卓に朝食が文子とキヨによって運び込まれる。
そして、昨日と同じように文子がご飯を茶碗によそおうとすると、キヨがそれを止める。
キヨ 「文子さん、いいよ、私がやるよ。」
文子 「え?いいですよお義母さん。」
慌てる文子、しかしキヨは冷静に文子にすり寄る。
キヨ 「いいから。これくらいは私にやらせて。」
文子 「でも・・・」
文子は怪しみながらしゃもじをキヨに渡す。
キヨは慣れた手つきでご飯を茶碗に盛っていく。
そして、順々に配られたご飯が配られる中、夕とみどりの分が配られる。
夕は配られた茶碗の中を確認する。
茶碗の中には昨日の半分ほどの量のご飯が盛られている。
夕は驚き、ほかの人の茶碗を確認しようと体を前のめりにすると、
キヨが大きな声を出し、それを止める。
キヨ 「あんたたちは、うちにおいてもらっている身分なんだ、文句は言えないよ。」
キヨの声に驚いた夕は姿勢を正し、キヨのほうを見る。
キヨは眉間にしわを寄せ文句を言わせないよう夕とみどりを威嚇する。
文子が慌ててキヨに言う。
文子 「お義母さん、そんなこと・・・」
キヨ 「あんただって文句を言える立場じゃないよ!」
キヨの迫力に気押されしてしまう文子。
夕は二人のやり取りを見て、瞬きもしないままゆっくりと顔の向きを正面にし、
自分に配られたご飯をまじまじと見つめ、つぶやく。
夕 「文子おばさん、大丈夫です。」
みどりはそんな夕の姿を見て、夕と同じような姿勢になる。
重たい空気にかまうことなくキヨはご飯を食べ始める。
キヨ 「いただきます。」
それにつられて他の5人も静かに食べ始める。
8_高尾邸 夕たちの部屋 day3 深夜
夕とみどりが布団の中で寝ている。
みどりの腹の鳴る音が部屋中に響き二人とも目を覚ます。
目覚めたみどりが体を夕のいる側に90度回転させる。
みどり 「お兄ちゃん、お腹すいたね・・・」
みどりの声を聴き、夕も体を緑のほうにむける。
夕 「そうだな、あれからあんまり食べれてないもんな。」
二人は顔を俯かせ、黙り込む。
すると再びみどりの腹が鳴り、みどりは恥ずかしそうに顔を布団に埋める。
夕はみどりの様子を見て泣き出しそうな表情を浮かべる。
夕 「ごめんな、みどり。」
夕の泣き出しそうな声を聴いて布団に顔をうずめたまま泣き始めるみどり。
みどり 「お兄ちゃんのせいじゃないよ、あのばあさんが悪いんだ。」
夕 「でも、ここにおいてもらってる以上は従わないと、もう僕たちにはここしか・・・」
夕の言葉を聞いてより一層泣き出すみどり。
みどり 「お父さん、お母さん・・・。」
泣き続けるみどりを見て夕はわざとらしい明るい口調でみどりに話しかける。
夕 「みどり、明日、二人で裏の山に行ってみようか。」
夕の言葉に驚き、布団から顔を出すみどり。
みどり 「え?」
夕 「あそこだったら何か食べられるものがあるかもしれない、行ってみようよ。」
夕の言葉を聞き表情がだんだんと明るくなっていくみどり。
みどり 「うん!」
9_裏山 ふもと day4 昼
裏山に向かって手をつないで歩くみどりと夕。
みどり 「食べられるものがたくさんあるといいね。」
満面の笑みで夕に話しかけるみどり。
それを見た夕も明るくみどりに話す。
夕 「そうだな。」
二人が山に入ろうとした瞬間、洋子が後ろから二人を呼び止める。
洋子 「夕!みどり!」
洋子の声に気づき後ろを振り返る夕とみどり。
振り返るとそこには洋子と博に加えて大樹と修がいる。
嫌な予感を感じた夕はすごんだ声で博たちに話しかける。
みどりは博たちにおびえて夕の後ろに隠れる。
夕 「なに?なんか用?」
すると修、大樹が二人を指さして大笑いする。
修 「ホントだ。あいつ女みてえな顔のくせに男の口調で話してるぜ。」
大樹 「博たちの言った通りだな。」
洋子も陰に隠れてクスクス笑う。
博と修と大樹がどんどん夕たちに近づいていく。
夕の目の前に来た博は夕の胸ぐらをつかむ。
博 「お前たちが来てからこっちは迷惑してるんだよ。飯は減るわ、家の空気は悪くなるわ。」
そういって博は夕の腹を殴る。
殴られた夕は腹を抑えてうずくまり、博たちをにらむ。
みどりは手で口を押えながら夕から離れる。
夕の様子を見て博は一層険しい表情を浮かべる。
博 「ナニ睨んでんだよ、気持ち悪い!」
博がうずくまる夕に蹴りを入れる。
大樹と修も博につられて夕のことを蹴る。
夕は体を丸めてけりに耐える。
洋子が博たちに話しかける。
洋子 「博、いったん止めな!」
洋子の言葉に通りいったん蹴るのをやめる3人。
博 「なんでだよ、姉ちゃん」
夕は恐る恐る顔をあげる。
洋子は夕たちに近づき、夕を見下ろした後、夕たちからは離れていたみどりのほうを見る。
洋子 「ただ殴るだけじゃ面白くないよ。」
博 「そうか?」
洋子 「そうだよ。」
博 「じゃあ、どうすんだよ?」
洋子 「みどりにやらせよう」
みどりは泣きながら首を振る。
みどり 「や、やだよ、そんなこと・・・お兄ちゃんに出来ないよ」
洋子がみどりのほうに近づいていく。
みどりは一歩一歩後ずさりをする。
みどりに目の前まで来た洋子はみどりの肩をつかむ。
洋子 「なら、こういうのはどうだい?もしあんたがこいつを殴ったら、
あんたの分のご飯だけ今日から増やしてあげるよ。」
博 「姉ちゃんいいのかよ?」
洋子 「いいのよ、その分夕のご飯が減るだけなんだから」
みどりは地面に倒れている夕のことを涙目でじっと見ている。
夕は立ち上がろうとするが大樹と修に抑えられ口もふさがれる。
大樹 「お前はおとなしくしてろ」
夕は何とか二人を引きはがそうとするが、動くことができない。
みどりは夕のほうを見つめるだけで、何も話さない。
洋子は口元をみどりの耳元に近づけ囁く。
洋子 「いい?今、夕を殴るだけで、あんたはあったかいご飯をお腹いっぱい食べることが
できるの。こんな風に山に食材を探しに来なくてもいいんだよ?
どう考えてもそっちのほうがいいでしょ?」
みどりは洋子の言葉に一層混乱し、洋子と夕のことを交互に見続ける。
みどりの様子に苛立ち洋子はみどりの耳元で叫ぶ。
洋子 「いいから、さっさとやれよ!」
洋子がみどりを夕のほうに押し出す。
押し出され夕の目の間にくるみどり。
夕はみどりの顔をじっと見つめる。
みどりはひどい動悸のなかで夕を見つめ、視線を合わせる。
みどり 「はあ、はあ、はあ。」
洋子 「どうした、さっさとやれよ!」
洋子の言葉を聞いたみどりは夕と合わせていた視線をそらし、
足をあげ、夕の背中めがけて力強く踏み下ろす。
夕は顔を地面つける。
洋子がみどりのほうに近づき肩を後ろからつかみ、みどりの肩越しに夕を見下ろす。
洋子 「よしよし、よくやったね、みどり。」
みどりはうつむき立ったまま動かない。
洋子はみどりから離れ、その場を去っていく。
洋子 「じゃあ行くよ、あんたたち。」
洋子の言葉を合図に博たちもその場を去っていく。
4人が去ってから、みどりが泣きながら夕に話しかける。
みどり 「ごめん、ごめんね、お兄ちゃん。」
夕も起き上がり、泣いているみどりの頭に手を置き、穏やかな声でみどりに話す。
夕 「大丈夫だよ、みどり、心配しないで。」
10_高尾邸 居間 day4 夜
居間には6人がそろっている。
キヨがご飯を茶碗に盛っている。
夕の前には、以前よりも明らかに少なく盛られた茶碗がおかれる。
みどりの前には夕を除くほかの4人と同じくらいの量のご飯が盛られた茶碗がおかれる。
みどりは茶碗を見たあと、洋子のほうを見る。
みどりの視線に気づいた洋子は、みどりに対してそっと微笑みかける。
文子がその様子を見てキヨに耳打ちをする。
文子 「お義母さん、あれどういうことなんですか?」
キヨ 「洋子の奴からこうしてくれって頼まれたから、私はやってるだけだよ」
文子 「で、でも、あれじゃあ夕くんが・・・。」
夕がうつむきながら文子に向かって言う。
夕 「文子おばさん、いいんです、何も言わないでください。」
文子 「でも、夕くん・・・」
夕 「お願いします。」
夕と文子のやり取りを聞きながら、みどりは俯いている。
洋子と博は何事もないかのような表情を浮かべる。
文子は夕の様子を見て黙る。
11_裏山 ふもと day7 昼
夕が大樹と修に両腕をつかまれながら立っている。
博が夕の腹を思いっきり殴る。
夕が声をあげて痛みに耐える。
博は夕を殴った後、後ろを振り返る。
博 「みどり、次はお前の番だぞ。」
洋子に肩を持たれた状態のみどりが首を振る。
みどり 「い、いや」
洋子がみどりの耳元に口を近づける。
洋子 「いいの?またご飯を減らされても?」
みどり 「そういって昨日も一昨日も・・・もう嫌だよ。」
洋子 「じゃあ、もうご飯はいらないってことだね?」
みどりは洋子の言葉に慌てて反応する。
みどり 「ちがっ・・・」
みどりは思わず出た自分の言葉に気づき口元を手で抑える。
洋子はみどりの言葉を聞きにやりと笑う。
洋子 「正直なやつだねあんたは。」
洋子はみどりを夕のいる方に押し出す。
夕の目の前に立ったみどりは下を向き、
夕の顔を見ないようにしながら足をあげ夕の腹を思いっきり蹴る。
蹴った後、みどりの隣に立つ博が言う。
博 「もう一回」
みどりは博の言葉に驚き博のほうを慌ててみるが、博は黙ってみどりを見つめ威圧する。
みどりは博の威圧に押され、再び夕の顔を見ないように夕の腹を蹴る。
夕は声を上げないように必死でこらえる。
博は先ほどよりも声を荒げて言う。
博 「もう一回!」
みどりは博の声に合わせて夕の腹を再度蹴る。
博はその様子に興奮し、より大きな声で言う。
博 「もう一回!もっと!もっとやれ!」
みどりは夕を蹴り続け、その後息を切らせて足を下ろす。
博は笑いながらみどりの髪をくしゃくしゃ撫でる。
博 「やるな、お前、いい感じだったぜ。」
みどりは閉じていた眼を開き顔を上げ、博のほうを見る。
大樹と修は夕を離す。
夕は受け身をとることもなく地面にうつぶせになる。
大樹と修が博と同じように笑いながらみどりをほめる。
大樹 「ほんとだぜ、すげえなお前」
修 「俺もびっくりしたよ。」
みどりは褒めてくれる3人をきょろきょろ見ながら困惑する。
洋子 「3人ともそろそろ行くよ」
博 「わかった」
大樹、修、博が洋子を追いかけて歩き始める。
歩いている洋子が後ろを振り向きながら言う。
洋子 「みどり、あんたもおいで。」
みどりは困惑し、後ろで地面に突っ伏している夕と正面にいる洋子達を交互に見る。
そして、夕のほうを向き動きを止める。
みどり 「ごめんね、お兄ちゃん。」
そう言い残してみどりは洋子たちのもとに走っていく。
夕はみどりのほうに腕を伸ばすが届かない。
洋子、博、大樹、修の中にみどりが入っていくのを見て夕は涙を流す。
12_海岸 day7 夕方
夕日が傾きかけてきたころ、夕は海岸に一人体育座りで海を眺めている。
夕の頭に、S11の出来事がフラッシュバックされ、
みどりの捨て台詞がこだまのように何回も再生される。
夕はそっと涙を流し膝に顔を押し付け涙を拭う。
夕 「みどり・・・。」
涙をぬぐった夕は立ち上がろうとするが腹の痛みでうずくまる
夕 「いって!」
目を閉じながら必死で痛みに耐える夕。
そこに美都の声が聞こえる。
美都 「あなた大丈夫?」
声に気づき目を開け顔をあげる夕
美都はしゃがんで夕の顔を覗き込む
美都 「どうしたの?お腹が痛いの?」
夕 「い、いえ大丈夫です」
夕は言い終わるのと同時に勢い良く立ち上がるがまたすぐうずくまってしまう
夕 「っつう!」
うずくまる夕の背中に手を置きさする美都
美都 「無理しないで、落ち着いて深呼吸して」
美都の言う通り深く息を吸ってゆっくり吐く夕。
美都 「どう?少しは落ち着いた?」
顔をあげ美都のほうを向く夕、
そのときS2で見た人影に美都が似ていることに気づき動揺する。
夕 「は、はい。」
砂浜に腰かける夕。美都は夕に合わせて腕を移動させ最終的に肩に手を置く。
美都 「でも、いったいどうしたの?立ってから急に倒れるからびっくりしたわ」
夕 「僕のことを見てたんですか?」
美都 「ええ、ここにはあまり人が来ないから珍しくて、
それにうずくまって泣いてるみたいだったから何かあったのかなと思って」
恥ずかしがり下を向く夕。
美都 「あなた名前は?あまり見ない顔だけどこの辺の人じゃないわよね?」
夕 「平岡夕です、ここには一週間ほど前に越してきました。」
心配そうな表情から笑顔になる美都。
美都 「夕くんか、いい名前ね。君の雰囲気にもあっているわ。私は桂木美都よ。よろしくね。」
顔をあげ美都を見て、先ほどよりも大きく明るい声で答える夕。
夕 「はい。桂木さん」
美都 「美都でいいわよ」
夕 「はい、美都さん」
美都が夕の腹のほうを見る。
美都 「それより夕くん、お腹どうしたの?服も随分汚れてるみたいだけど?」
夕は自分の腹を見る美都を見下ろしながら言う。
夕 「何でもないですよ、ちょっと転んだ時にお腹を打ち付けちゃったみたいです。」
美都は疑り深い目で夕を見上げる
美都 「ほんとかしら?」
夕 「ほ、本当です。」
夕が言い終わった瞬間に夕の腹が『ぐううう』と鳴り出す。
美都はそれを聞き一瞬唖然とし、笑い出す。
美都 「ふふふふ」
笑いながら顔の位置をもとに戻す美都。
美都に笑われ恥ずかしそうにする夕。
美都 「もしかしたら、倒れたのはお腹が減っているせいなのかしら?」
夕 「ち、違いますよ・・・」
近くにあったカバンから二つのおにぎりが包まれた竹皮を取り出す美都。
美都 「よかったらこれ食べて」
包みを受け取り、中を確認した後、目を見開く夕。
夕 「いいんですか?」
夕の表情に笑みを浮かべる美都。
美都 「ええ」
夕 「ありがとうございます、いただきます」
勢いよくおにぎりにかぶりつく夕。
夕の様子を見ながら微笑む美都。
あっという間に二つのおにぎりを平らげる夕。
夕 「ごちそうさま、おいしかったです。」
美都 「お粗末様。」
夕がお辞儀をする。
夕 「本当にありがとうございました、
このところまともに食べることもできなかったので助かりました。」
心配そうな顔をして尋ねる美都。
美都「あなた、そんなに食べるものに困っているの?」
顔を少しだけあげ伏し目で答える夕。
夕 「ええ、色々ありまして満足に食べられる状態じゃないです、
でも、こんなの今じゃ当たり前ですよ」
美都 「そうね・・・じゃあ、夕くん、明日もこの時間にここに来なさい。
少しだけだけどご馳走してあげるわ」
夕は勢いよく顔をあげ美都を見る。
夕 「本当ですか!?」
美都は夕の言葉に対して落ち着いた笑顔で答える。
美都 「ええ。だから明日もここで会いましょう」
美都の笑顔を正面から見て、思わず顔をそらす夕。
美都は立ち上がり夕のもとを去っていく。
美都 「じゃあ、また明日」
夕 「は、はい」
夕は美都が自分のそばを去ったあと美都の後姿を見つめる。
13_高尾邸 夕たちの部屋 day7 夜
布団を敷いている夕とみどり。
みどりのことが気になり布団を敷くのに集中できない夕。
夕の視線を気にしていそいそと布団を敷き、早く寝ようとするみどり。
夕はみどりに話しかけようとするが言葉が出る途中で口を閉じてしまう。
みどりは布団を敷き終え、布団に入って寝ようとする。
夕 「みどり、あのさ・・・」
みどり 「なに?」
夕 「あの・・・俺のことは気にしなくていいからな・・・」
みどりは夕の言葉を聞くと冷たい小さな声で答える。
みどり 「うん、わかった。」
みどりの声の冷たさに驚く。
布団を敷き終えた夕は明かりを消す。
14_海岸 day10 夕方
海岸に美都と夕が並んで座っている。
夕の足元には米粒がいくつかついた竹皮が置かれている。
美都の足元にはカバンが置かれている。
美都 「そう、じゃあご両親この間のピカで・・・」
夕 「はい」
美都 「それは大変だったわね」
夕 「ええ」
夕と美都の間に沈黙流れる。
美都 「今度妹さんも一緒に連れてきて」
夕 「いや、それは・・・」
美都 「何かあるの?」
夕 「たぶん、みどり…妹は来ないと思います。
今は新しくできた友達と遊ぶのが楽しいみたいだし」
美都 「そうなの。でもいつか会ってみたいわ」
夕は顔を伏せ歯切れの悪い返事をする。
夕 「わかりました、話すだけ話してみます。」
美都 「お願いね」
その後、二人は黙り、ふたりの間の空気が気まずいものになる。
夕は空気を換えるためにわざとらしい明るい声で美都に尋ねる。
夕 「そういえば、美都さんは人魚の伝説って知っていますか?」
美都は俯けていた顔を夕のほうに向けるがその表情はいつもの優しい表情ではなく、
感情のない真顔の表情になっている。
夕は美都の表情に動揺する。
しかし美都は一瞬で表情を優しい顔に変え夕の質問に答える。
美都 「人魚の伝説ってあの血を飲んだらどんな病も治るっていうあれかしら?」
夕はいつもの優しい表情に戻ったことに安堵しながら答える。
夕 「そう、それです」
美都 「それがどうかしたの?」
夕 「なんかうちの近くに住んでる荒木っていうおじいさんが、
その伝説を信じて体が悪いのに病院に行かないらしくて」
美都はふと視線を下に向けながらどこか悲しい表情を浮かべながら答える。
美都 「そう、馬鹿なおじいさんね、そんなのあり得るわけないのに・・・」
夕 「ですよね、そんなのあり得ないですよね」
美都 「ええ・・・」
美都はそのまま何も話さなくなってしまう。
沈黙に耐えきれなくなった夕は立ち上がって帰ろうとする。
夕 「僕、もう帰ります、ごちそうさまでした。」
夕が立ち上がると美都もそれに合わせて顔をあげ夕を見上げる。
そして微笑を浮かべながら夕に尋ねる。
美都 「ねえ、夕くん。その人魚の伝説には続きがあるってことは知ってる?」
夕 「え? いや、知らないです」
美都 「教えてほしい?」
夕は美都の様子がいつもとは少し違っていることを感じて、少し間を置いて答える。
夕 「はい」
美都は夕の言葉を受けても表情一つ変えずにそのままの体勢で答える。
美都 「じゃあ教えてあげる。人魚の血を飲んだものはどんな病も治る、ここまではいいわよね?」
夕 「はい」
美都は先ほどよりも少しだけ大きな声で強調させるように言う。
美都 「じゃあ、人魚の肉を食べた人はどうなると思う?」
夕は少し考えながら自信なさげな声で答える。
夕 「ん~、体が若返るとかですか?」
美都 「惜しい、けど違うわ」
夕は答えが外れて残念がる様子もなく美都に尋ねる。
夕 「じゃあ、どうなるんですか?」
美都は少しだけ間をためた後、淡々とした声で答える。
美都 「食べた人も人魚になるのよ」
15_高尾邸 庭 day20 昼
家には夕とみどり、そして洋子と博しかいない。
みどりと博は手とひざを地面についた状態の夕の背中を二人で蹴る。
洋子は縁側に座って退屈そうにその様子を見ている。
博 「よし、みどり、最後決めてやれ」
みどりは目をつむりながら夕をける
蹴られた拍子で地面に倒れ込む夕
博 「姉ちゃん終わったぜ」
洋子 「分かってるよ。」
みどりは目線を下げてその場で立ち尽くしている。
立ち上がり家のほうに入っていく洋子、博もそれを追いかけ部屋の中に入っていく。
洋子 「みどり」
洋子に呼ばれて家のほうに視線を向けるみどり。
洋子 「そろそろ、お母さんたちが帰ってくるから言われてた米とぎをやるよ。」
みどり 「う、うん」
みどりは倒れている夕を一瞬見て部屋に戻っていく。
みどりが去ったあとゆっくりと起き上がりそのまま外に出ていく夕。
博とみどりは夕が出ていくのを見る。
博 「あいつ、最近帰りが遅いけど、どこで何やってるんだ?」
みどり 「わからない」
みどりは家の門のほうをじっと見つめている。
二人からは少し離れた位置にいた洋子がみどりと博のほうに近づいてくる。
洋子 「ふたりとも、早くやるよ」
博 「姉ちゃんは知ってる?、夕が外で何してるか?」
博のほうを向いて答える洋子。
洋子 「そんなの私が知っているわけないだろ」
そういった後、みどりのほうに視線を移す洋子。
洋子 「でも、確かに気になるねみどり、あいつを追いかけて何してるのか見てきな」
洋子の言葉に気づかず門のほうを見つめるみどり。
みどりの肩に手を置く洋子。
洋子 「みどり、聞いてるの?」
ぼーっとしていたところを気づかされ洋子のほうを向くみどり。
みどり 「あ、ごめんなさい、なんでした?」
洋子 「だからあいつを追いかけて様子を見て来てって言ったの」
みどり 「う、うん分かった。」
走って部屋を出ていくみどり。
16_海岸 day20 夕方
海岸に走ってくるみどり。
そこで遠くのほうでおにぎりを食べる夕とそれを優しい顔で見る美都を発見する。
みどりはその場で立ち止まって二人の様子を黙って見つめる。
みどりの表情がだんだんとこわばっていく。
みどり 「なに、あれ・・・」
夕は美都に向かって幸せそうな笑顔を向ける。
美都も微笑を浮かべそれにこたえる。
みどりはその夕と美都の様子を食い入るように見ている。
みどりの脳裏に、夕と死んだ母親が話しているときの情景が思い出される。
みどりは歯を食いしばりながら回れ右をして、走ってその場を去っていく。
みどりは走りながら涙を流し、搾りだすような声出す。
みどり 「なんで私ばっかり・・・」
17_二人の部屋 day20 夜
夕が部屋に入ってくる、みどりはすでに寝る支度を済ませ布団の中に入っている。
夕 「早いな、みどり、もう寝るのか?」
夕の言葉を無視するみどり。
無視されたことに驚きつつまた話し出す夕。
夕 「そうだ、みどり、最近知り合った人がいるんだけど
その人がお前にも会ってみたいって・・・」
みどりの脳裏にS16で見た夕と美都の様子がよぎる。
夕が話している途中で起き上がって叫ぶみどり。
みどり 「いや!会いたくない!」
夕は驚き言葉を詰まらせる。
夕 「みどり?」
立ち上がり、涙目になりながら夕の顔を見るみどり。
みどり 「そんな話しないで!」
みどりの豹変ぶりに驚きを隠せない夕はみどりのほうに近づいていき声をかける。
夕 「どうしたんだ?みどり?まだなにも言ってないだろ?」
みどりは近づいてくる夕から離れながら叫ぶ。
みどり 「いや!なんで、なんでよ?」
夕はみどりの気迫に押されて足を止める。
夕 「わ、わかったもうやめるから。な、みどり」
みどりは徐々に落ち着きを取り戻し、静かに部屋を出ていく。
みどり 「私、今日は洋子ちゃんの部屋で寝る」
夕 「分かった・・・」
みどりは枕を持って勢いよく戸を開け部屋を出ていく。
18_高尾邸 居間 day21 朝
居間には文子とキヨがすでにいる。
夕が眠そうな様子で居間の中に入ってくる。
夕 「おはようございます」
夕は入ってきたことに気づき、台所から顔を出し声をかける文子。
文子 「おはよう夕くん。」
文子がみどりのいないことに気づき夕に聞く。
文子「あれ?みどりちゃんは?まだ寝てるの?」
文子の質問に顔を伏せながら答えようとする夕。
夕 「みどりは・・・」
夕の言葉を遮るように洋子とみどりが居間の中に入ってくる。
洋子 「おはよう」
みどり 「おはようございます」
ふたりは入ってくるなり席に座るが、みどりは夕の隣ではなく洋子の隣に座る。
文子は一緒に入ってきた二人に疑問を持ち質問する。
文子 「どうしたの二人そろって?」
洋子が文子の質問に当然のように答える。
洋子 「昨日の夜はみどりと一緒に寝たの」
文子は意外そうに答える。
文子 「そうなの?いつの間にそんなに仲良くなったの?あんたたち」
洋子はみどりのほうを向きながら答える。
洋子 「前から仲良しよね?私たちは」
洋子の問いかけに笑顔で応えるみどり。
みどり「はい、洋子ちゃんは優しいから」
文子は二人の様子を不審に見ながらも答える。
文子 「そう・・・」
夕はそんな二人の様子をつらそうな表情を浮かべながらじっと見ている。
そこに博が大あくびをしながら居間に入ってくる。
博 「おはよ~」
博が入ってくるのと同時にキヨが茶碗を配膳し終える。
キヨ 「さあ、食べるよ」
キヨが席に着くのを合図に博が食べ始める。
博 「いただきます」
博につられるようにキヨ、文子、洋子、みどりが食べ始める
夕は自分だけ少なく盛られたご飯を見た後、おいしそうにご飯を食べるみどりを見て。
下を向き、自分の分のご飯を素早く食べる。
夕 「ごちそうさまでした・・・」
夕とキヨ以外の四人は一斉に夕のほうを見るが、
夕はそれにこたえることもなくそのまま何も言わず居間を後にする。
19_荒木邸前 day21 昼
家を飛び出してあてもなくとぼとぼ歩き続ける夕。
夕がふと顔をあげると100メートルほど前方に美都の姿がある。
美都に気づいた夕は声をかけようと美都のもとに向かおうとするが、
美都は荒木邸の中に入っていく。
夕は走るのをやめて立ち止まり美都が入っていった家を見つめる、
そこにある表札には『荒木』と書いてある夕の頭にS6のキヨと文子の会話が
フラッシュバックする。
夕 「ここって・・・」
夕は美都が中に入っていた場所と同じところから
そっと気づかれないように荒木邸の中に入っていく。
20_荒木邸 day21 昼
入ってすぐにある庭には人影はなく、夕はそっと家屋のほうに近づいていく。
縁側のそばまで近づき家の中を覗き込む夕。
家の中には布団で寝ている荒木とそのそばに座る美都がいる。
すると美都がナイフで自分の右手の人差し指を傷つけ血を流す。
夕はそれを見て驚嘆する。
夕 「え?」
美都は血の流れる人さじ指を荒木の口のそばにまでもっていき、その血を荒木に飲ませる。
夕は唾を一滴の見込み、食い入るように二人の様子を見つめる。
美都は荒木に血を飲ませながらうっすらと笑みを浮かべ、ふと顔をあげる。
夕は美都のその様子を見て激しく動揺し荒木邸から走って出ていく。
21_海岸 day21 夕方
夕がこわばった表情を浮かべながら海岸にやってくる。
夕の頭にはS19の荒木と美都の様子が思い出される。
夕は下を向けていた顔をあげ、
正面にみどり、博、洋子、大樹、修がいることに気づく。
夕 「お前ら何でここに?」
博 「みどりから聞いたぜ、お前ここで飯を恵んでもらっていたらしいな」
夕がみどりのほうを向く
みどりは無言で夕のことをにらむ。
博 「そんなみっともない乞食には、お仕置きだ。」
博の言葉を合図に大樹と修が夕に掴みかかる。
ふたりに捕まった夕は砂浜に倒される。
みどりと博がゆっくりと夕のところに近づいてくる。
夕は顔を上に上げみどりのことを見る。
夕 「みどり、お前見てたのか?俺と美都さんがここで会っているのを」
みどりは夕の言葉を無言で聞き流し、夕のことを見下ろす。
夕 「おい、みどり」
夕が言い終わるのと同時に夕の脇腹を蹴る博。
博 「うるせえ」
蹴られた痛みに必死で耐える夕。
みどりは静かに夕を見下ろし続ける。
痛みに耐えながらみどりのことを呼び続ける夕。
夕 「みどり・・・」
博は夕を蹴り続ける。
夕は蹴られ続けるなか、みどりのほうを見て呼びかけ続ける。
夕 「みどり」
夕はみどりに呼びかけながら、抑えられていた右腕を修から振りほどき、
みどりの足首をつかむ。
足首を摑まれた瞬間みどりは激高し掴まれた足を振りほどき、
夕の右腕を思いっきり踏みつける。
みどり 「さわらないで!」
みどりは夕の顔や腕、背中、あらゆる箇所を無作為に蹴り続ける。
みどり 「なんで、私ばっかり、お兄ちゃんは・・・」
みどりの剣幕におびえた博は一歩下がる。
左腕を抑えていた大樹は腕をはなす。
美都が冷たく通る声でみどりたちに向かって言う。
美都 「そこで何をやっているの?」
みどりは蹴るのをやめ美都のほうを見る。
博と大樹と修も美都のほうを見る。
美都がゆっくりと夕たちのもとに近づいてくる。
美都 「ねえ、教えて、何をやっているの?」
博と大樹と修は夕のそばから徐々に離れていく
博はおどおどした様子で答える。
博 「え、えっと・・・」
博たちが夕から離れる中みどりだけは一歩も動かず美都のことをまっすぐ見ている。
洋子 「博、みどり、もう帰るよ」
洋子は歩くより若干速いスピードでその場を後にする。
博と大樹と修は洋子についていく。
みどりはだんだん近づいてくる美都を睨み続ける。
みどりがついてきていないことに気づいた洋子はみどりを呼ぶ。
洋子 「みどり、あんたも早く来な!」
みどりは洋子の言葉を無視して目の前まで来た美都をじっと睨んでいる。
美都もみどりから視線をそらさずじっと見る。
先ほどよりも大きな声で洋子がみどりを呼ぶ。
洋子 「みどり!」
みどりは洋子の声を聞きも一度美都のから目線を外すことなくその場を立ち去る。
美都はしゃがんで砂浜に突っ伏す夕を仰向きにさせる。
みどりは走って海岸を後にしながら二人の様子を見ている。
美都 「夕くん大丈夫?」
仰向けになった夕は涙を流している。
美都は左手でハンカチを持ち、そのハンカチで夕の顔についた砂と涙をふく。
夕は美都に介抱されながら、美都の右手人差し指をみる。
その指には傷一つ付いていない。
22_海岸 day21 夕方
美都と夕が二人並んで座っている。
美都は夕の前にそっと竹皮に包まれたおにぎりを差し出し、夕の顔を見て尋ねる。
美都 「あの子がみどりちゃん?」
夕は起き上がり小さくうなずく。
美都 「そう・・・いつからあんなふうなの?」
夕 「に、二週間くらい前からです」
美都 「それから毎日?」
夕 「はい」
美都は夕を抱きしめる。
美都 「そう、つらかったわね。」
夕は美都の服をぎゅっとつかむ。
夕 「うん・・・」
夕は美都の体をよりしっかりと抱きしめる。
23_高尾邸までの帰り道 day21 夕方
日がほとんど沈み切った夕暮れ。
道を一人で高尾邸までの道のりを一人で歩く夕。
夕の顔や服は汚れているが表情は安心感に満ちたものになっている。
高尾邸の前で深く深呼吸をする夕。
息を吐く瞬間急にせきが出る。
口に手をあて『ごほごほ』と5、6回せき込む。
咳が終わり、息を切らしながら口に当てていた手を見る夕。
その手のひらにはべっとりと血がついており、手首には赤黒い斑点が浮かんでいる。
24_高尾邸 居間 day22 朝
真っ青な顔色をした夕が静かに居間に入る。
居間ではすでに5人が食事を始めている。
キヨ 「あんたがいつまでたっても来ないから、先に食べ始めたよ」
夕は席に座りながら答える。
夕 「すいません」
夕の声に元気がないことに気づき怪訝な表情を浮かべるキヨ。
夕は手を合わせてご飯を食べようとする。
夕 「いただきます」
お茶碗を持ったところで急にせき込み、その勢いで吐血する夕。
夕が血を流していることに気づき夕のもとに駆け寄る文子。
ほかの四人も気づき動きが止まる。
文子 「夕くん、大丈夫!?」
夕はせき込み続け、どんどん血を吐いていく。
文子 「博、田島さんの家に行ってお医者さんを呼んできて」
博は返事をしながら慌てて立ち上がり、外に出る。
博 「う、うん、わかった」
咳は止まったが息が荒い夕。
文子は夕の背中をさする。
みどりはそんな夕の様子を見て青ざめた表情を浮かべる。
25_高尾邸 ふたりの部屋 day22 昼
部屋の中には夕とみどりと文子そして田島がいる。
夕は布団を敷いて寝ている。
文子とみどりは夕の枕元で並んで座っている、
田島は夕を挟んだ文子たちの向かい側に座っている。
田島 「うん、やはりピカの影響によるものだな。この手首に浮かんでいる斑点、
あの時生き残った人のうちの何人かが,
夕くんと同じような症状を訴えているという話も聞くし間違いないだろう。」
文子が不安そうな声を押し殺して田島に質問する。
文子 「夕くんは助かるんですか?」
田島は立ち上がりながら冷たく答える。
田島 「わからん、今のところ治す方法も薬も見つかっていない、気長に待つしかないな。」
文子は去ろうとする田島に縋りつくようにもう一つ質問する。
文子 「じゃあ、みどりちゃんは?みどりちゃんは大丈夫なんでしょか?」
田島 「あの時あそこにいた人全員が体調を崩しているわけではないらしいし、
こればっかりはわからんな。」
文子 「そうですか・・・」
荒木 「全く近頃は変なことばかり起こる。荒木の爺さんの容体が急によくなったと思ったら、
今度は子供が病気か」
田島の言葉に文子が驚く。
夕も「荒木」という名前に反応し顔をわずかばかり田島のほうに向ける。
文子 「荒木さんってあの向かいの?」
田島は帰り支度をしながら答える。
田島 「そうだよ、前までは立ち上がるのでやっとだったのに、急によくなったんだよ。」
文子 「でも、どうして?」
田島は冗談みたく茶化しながら言う。
田島 「さあね、もしかしたら人魚の血でも飲んだかな?」
文子はあきれながら答える。
文子 「もう田島さんまでそんなこと、そんなわけないじゃないですか。」
田島 「そうだよな、じゃあ私はこれで」
田島が部屋を出ていく。
田島が出て行ったあと溜息をつく文子。
みどりは安堵の表情を浮かべる。
文子 「とりあえず、みどりちゃんは何ともないようでよかったわ。」
みどり 「はい」
文子 「夕くんもあきらめちゃだめよ。」
夕は力のない声でこたえる。
夕 「はい・・・」
みどりは夕の顔をじっと見つめた後部屋を出ていく。
夕は文子と話しながらも、みどりの視線に気づきみどりが視線をそらした後、
その後ろ姿を見つめている。
26_高尾邸 ふたりの部屋 day30 昼
博がおかゆの乗った御盆を持って夕の部屋に入ってくる。
部屋の中には夕が荒い息を立てながら一人寝ている。
夕の枕元には抜け落ちた髪が何本も落ちている。
博 「おい、飯持ってきたぜ」
博がそう言っても夕は起きない。
博は畳に御盆を置いた後、座り夕の体をゆする。
博 「おい、起きろ」
夕が目覚めて、博のほうを見る。
博は夕が目覚めたことを確認するとゆするのをやめ、畳に置いたお盆を夕のほうに近づける。
博 「ほら、飯だ。食えよ」
夕は博に何も言わずつらそうに起き上がり蓮華を手に取ってゆっくりとおかゆを食べ進める。
博は夕の弱弱しいしい様子をつらそうな表情を浮かべながら見つめている。
夕はおかゆを半分ほど食べ進めると蓮華を置く。
博はそれを見て慌てて夕に尋ねる。
博 「お、おいもういいのかよ?まだ残ってるぞ。」
夕は博のことを見ることもなく、ぶっきらぼうに答える。
夕 「あんまり食欲ないから。」
博は夕のこの言葉を聞いて泣きそうな顔をする。
博 「夕、あの、俺・・・」
博が次の言葉を言おうとした瞬間玄関から大きな音がし、
その後みどりの大声が聞こえてくる。
みどり 「入ってこないで!!お兄ちゃんとは会わせないから。」
博はみどりの声を聴くと慌てて部屋から出て玄関のほうに走っていく。
夕は玄関のほうを博が出ていった際に開けられたとの戸から必死に外を見る。
27_高尾邸 ふたりの部屋 day30 夜
部屋の中には布団の中で寝ている夕しかいない、夕は横になっているだけで起きている。
部屋の中にみどりが入っている。
みどりはおかゆを乗せた御盆を持っている。
みどり 「お兄ちゃん。」
みどりは御盆を床に置き夕の枕元に座る。
みどり 「博君から聞いたけど、お昼もあんまり食べなかったらしいね、
ちゃんと食べなきゃだめだよ。」
夕はゆっくりと起き上がる。
みどりは夕が起き上がるときに手で背中を支えてやる。
夕 「ありがとう」
夕は蓮華を手に取っておかゆを食べようとする。
夕 「いただきます」
みどりは夕のことを心配そうにずっと見つめている。
夕はなかなかおかゆを口に運ばず。ちらちらとみどりの様子をうかがっている。
みどり 「どうしたの?」
みどりの言葉に少し同様する夕だが、少し間を置いた後みどりに尋ねる。
夕 「いや、えっと・・・ 今日の昼さ、美都さん家に来た?」
みどりは美都のことを聞くと表情が険しくなる。
みどり 「なんで?」
夕 「いや・・・」
みどりは夕のそばまで移動し夕の肩を抱き夕の耳元で囁く。
みどり 「お兄ちゃんには私がついてるからいいでしょ?」
夕はみどりの言葉に動揺し、肩を抱いているみどりを弱弱しい力で振りほどこうとする。
みどりはその夕の様子にショックを受け夕の体から手をはなす。
みどり 「やっぱり、お兄ちゃんはあの女のほうがいいんだ。」
夕 「いや、ちがう、みどり・・・」
みどりは勢い良く立ち上がりながら大声で叫ぶ。
みどり 「もういい!」
みどりは夕に一瞥もくれることなく部屋を後にする。
夕は部屋を去っていくみどりを追おうとするが、体が動かず、
その場で座ったまま手を伸ばす。
28_高尾邸 ふたりの部屋 day30 深夜
夕は眠ることなくじっと天井を見ている。
美都が扉からでなく縁側から部屋に入ってくる。
美都 「こんばんわ、夕くん。」
夕は驚き、美都のほうを見る。
美都は夕の枕元に座り顔を覗き込む。
美都 「あらあら、髪もだいぶ抜け落ちちゃって、せっかくきれいな髪だったのに。」
夕はかすれ声で美都に話しかける。
夕 「どうして?」
美都 「ほんとは昼に来たかったんだけど、妹さんが入れてくれなくてね、
だから夜にこっそり来ることにしたの。」
夕はゆっくり首を振る。
夕 「ちがいます・・・」
美都 「ああ、なんで来たのかってこと?」
夕がうなずく。
美都 「風のうわさで夕くんの峠が近づいていると聞いてね、最後に会って・・・」
美都は言葉を区切って夕のほうをしっかりと見る。
美都 「聞きたいことがあったから」
夕はかすれた声で答える。
夕 「それって・・・」
美都は夕が最後まで話すのを待つこともなくい一方的に夕に話す。
美都 「夕くん、あなたは生きていたい?」
夕は自分が話しているのを無視して急に話し始めた美都に驚き、歯切れの悪い返事をする。
夕 「えっと・・・」
美都は顔を夕の顔に近づけそっとささやくように言う。
美都 「もう一度聞くわ、あなたはまだ生きていたい?」
夕は茫然とした状態からだんだんと真剣に美都の言葉に耳を傾け始め、
真剣なまなざしで美都と目を合わせ、必死に手を動かし美都の手をつかむ。
手を握られた美都は唇をきゅっと噛み、その後夕にキスをする。
夕は驚きながらも抵抗せずそのままの状態でいる。
5秒ほどたった後、美都は顔をあげ、そのまま立ち上がる。
美都 「明日の夕方いつもの場所に来なさい。」
美都の唇からは血が垂れている。
美都は部屋から出て縁側に向かっていく。
美都の唇から血が流れていることに気づいた夕は指を唇に添わせる。
すると、指に少量の血がついている。
夕は何も言わずに美都の背中をじっと見つめ、美都が視界から消えた後、指の血をなめる。
29_高尾邸 ふたりの部屋 day31 夕方
文子が部屋の襖を開ける。
文子 「夕くん調子はどう?」
文子が部屋の中に入るとそこには誰もおらず、掛布団がどけられた布団だけが残されている。
文子は驚き、戸棚を開けたりして部屋の中を探し始める。
そして部屋のなかに夕がいないことを確認すると居間のほうに走っていく。
文子 「みどりちゃん!」
30_海岸 day31 夕方
海岸で一人座っている美都。
そこに夕が体を引きずりながら現れる。
夕のほうに振り向く美都そして微笑を浮かべる。
美都 「来たわね」
夕は無言で美都のところに近づいてくる、
そして美都のところにたどり着くと倒れるように座り込む。
美都 「体、少しは良くなったようね。」
夕は淡々と答える。
夕 「はい」
美都は夕の手をそっと持ち、そこに赤黒い斑点があることを確認し、
悲しそうな表情を浮かべる。
美都 「やっぱりアレだけでは治らなかったわね・・・」
夕はまっすぐ美都の目を見つめる。
夕 「美都さんあなたはほんとうに・・・」
夕の目線は美都の方向で固定されている。
美都は夕の問いかけにうっすら笑みを浮かべながら答える。
美都 「ええ、そうよ。」
美都は普段と変わらない口調で答える。
美都の言葉をきいて夕は顔を伏せる。
美都 「夕くん、前に話した伝承の続き、覚えている?」
夕 「はい」
美都 「あれはね、私のことなの」
夕は黙って美都の話を聞いている。
美都は忌々しそうにつぶやく。
美都 「400年前の私」
夕は美都の言葉に驚き思わず声が出てしまう。
夕 「よ、よんひゃく・・・」
美都は話題を変えるために声色を変えて夕に語り掛ける。
美都 「でも、驚いたわ、いつの間に人間はこんな恐ろしいものを
作るようになったのかしらね?今まではどんな病気も私の血一滴で治ったのに」
夕はつらそうに眼をつむりながらうつむく。
美都はそんな夕に語り掛ける。
美都 「夕くん、あなたは本当にそんな世界で生きていたい?」
夕はうつむいたまま返事をしない。
美都は話し続ける。
美都 「人魚になってしまえばそこからは、果てのない永遠の生
年を取ることもなくそのままの体で何年も何年も生きていかなければならない。」
夕はまだ黙っている。
美都 「そして、何より、人間であった過去はすべて捨てることになるわ。」
夕はまだ黙っている。
美都は肉の包まれた竹皮を夕の前に差し出す。
美都 「もう一度だけ聞くわ、あなたはそれでも生きていたい?」
夕は顔をあげまっすぐに美都の目を見る。
夕 「ぼくは・・・」
31_海岸 day31 夜
みどりが海岸に駆けつけ、夕を探してあたりを見回す。
海岸には誰もいない。
みどりは波打ち際まで歩き、砂浜に落ちている竹皮と砂浜についた足跡を見つける。
みどりはしゃがんで竹皮を拾い、足跡は波によって消されてしまう 。
みどりは足跡が消える様子を見た後、海岸線を見つめ涙を流す。
みどり 「おにいちゃん・・・」
32_みどりの家 リビング 60年後 夕方
リビングにはいずみとみどりがいる。
ふたりはソファに横並びで座っている。
いずみ 「じゃあ、おばあちゃんはそれから一回もお兄ちゃんに会ってないの?」
みどりはいずみの顔を見ながら悲しそうな顔を浮かべる。
みどり 「そうよ、死んでしまったのか生きているのかもわからない」
いずみは俯いてつまらなさそうな顔をする。
みどり 「いずみ」
みどりはいずみの頭に手を置く。
みどり 「これから生まれてくる、妹を大切にしなさい。」
いずみ 「うん」
いずみはソファから立ち上がる。
いずみ 「じゃあ、そろそろ帰るね。」
みどり 「あら?早いわね。」
いずみ 「うん、お母さんの代わりに洗濯物取り込んだり、
お風呂洗ったりしなきゃいけないから」
みどりが感心した様子で満足そうに答える。
みどり 「そう。」
いずみは何かを思い出し、大きな声でみどりに話しかける。
いずみ 「そうだ、赤ちゃんの名前決まったってお母さんが言ってたよ。」
みどり 「そう、どんな名前?」
いずみ 「凪だって」
みどり 「そう、凪か、いい名前ね。」
いずみは笑顔を浮かべながら言う。
いずみ 「うん、私もそう思う。」
みどりは目を閉じながら顔を俯かせる。
いずみ 「そういえばおばあちゃん、そのおばあちゃんのお兄ちゃん、名前は何ていうの?」
みどりはうつむいたままつらそうな顔をしてよわよわしく答える。
みどり 「平岡夕よ」
33_いずみの通う学校 教室 朝
朝、始業前、いずみは梨絵と話している。
いずみ 「それでおばあちゃんはそれから夕さんとは会っていないんだって。」
梨絵 「なんか嘘くさい話だね。」
いずみは机に突っ伏す。
いずみ 「だよね~」
いずみが言い終わるのと同時にチャイムが鳴り、満が教室の中に入ってくる。
満 「おーい、席につけ~」
まだ立っていた生徒たちが全員席に座る。
全員が席に着いたことを確認した後話し始める満。
先生 「えー、今日はまず、これからクラスの仲間になる子を紹介するぞ。」
生徒たちがざわつく
いずみはつまらなさそうに外を見ている。
満 「おーい、夕くん入ってきてくれ」
夕という名前に反応して、教卓のほうを見るいずみ。
教室の中に夕が入ってきて満の横に立つ。
満 「じゃあ、自己紹介を」
笑顔を浮かべ、お辞儀をする夕。
夕 「平岡夕です。今日からよろしくお願いします。」
いずみは夕のほうを驚きの表情を浮かべながらまじまじと見る。
顔を上げた後ちらっといずみのほうを見る夕。
いずみと夕の目が合う。 (完)
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