Deli HERO アクション

二〇XX年。緑色の肌のエイリアン・ビリジアンの襲来により平和が脅かされた時代。派遣型ヒーローとして働き始めた若林雄馬(24)は、初陣の現場でベテランヒーロー・深見セージ(36)と出会う。
マヤマ 山本 16 0 0 01/26
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第一稿

<登場人物表>
若林 雄馬(24)派遣型ヒーロー
深見 セージ(36)同、男性エイリアン
ライム(24)女性エイリアン
深見 千歳(28)深沢の妻
エメラルド(30)男性 ...続きを読む
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<登場人物表>
若林 雄馬(24)派遣型ヒーロー
深見 セージ(36)同、男性エイリアン
ライム(24)女性エイリアン
深見 千歳(28)深沢の妻
エメラルド(30)男性エイリアン

老婆
女性タレント
上司
少年A、B

電子音声



<本編>
○道路
   自転車やバイク等で行き来する、多数のフードデリバリの配達員達。
    ×     ×     ×
   自転車の脇に立ちスマホを眺める若林雄馬(24)。背中にはフードデリバリのような鞄を背負っている。
若林「おっ、注文キタ! しかも近い。いいね!」
   自転車に跨り、走り出す若林。
若林「若林雄馬、行きま~す!」

○市街地
   スマホに表示された地図を見ながら、自転車を押して歩く若林。
若林「この辺だと思うんだけど……」
   悲鳴を上げ、逃げ惑う人々とすれ違う若林。顔を上げると前方に、体の半分がビリジアン(=緑色の肌をしたエイリアン)化した男性が、うめき声を上げながら歩いている。
若林「うん、やっぱそうだ。って事は……」
   半ビリジアン化した男性の死角、物陰に隠れているライム(24)を見つける若林。ライムは一見、日本人女性と思しき外見だが、実際はビリジアン。
若林「見っけ。しかも、かわいい」
   自転車と鞄を置き、鞄から大型の銃を手にし、ライムの元にやってくる若林。
若林「お待たせしました。ご注文いただいた柳さんですよね?」
ライム「え? (若林の持つ銃を見て)!?」
   その場から逃げ出すライム。
若林「え、柳さん? ちょっと~……」
老婆の声「お兄さん、コッチコッチ」
   振り返る若林。スマホを手に持った老婆が手招きをしている。
若林「え? (ライムの後ろ姿を名残惜しそうに見ながら)ちぇっ、婆さんかよ」
   老婆の元に行く若林。持っている銃で老婆の持つスマホの画面に表示されたQRコードを読み込む。
電子音声「ロックを解除します」
   半分ビリジアン化した男性に銃を向ける若林。
若林「さて、と。やりますか……」
   そこへバイクに乗ってやってくる深見セージ(36)。半分ビリジアン化した男性と若林の間に割って入る。
若林「おい、危ねぇよ」
深見「危ねぇのはどっちだ。人間のくせに、人間殺す気か?」
若林「え?」
深見「……お前、新人か?」
若林「いや、まぁ、今日が初めてっスけど」
深見「(ため息をつき)ったく、最近はロクに研修受けてねぇ新人がヒーローやってんだな」
   バイクを下りる深見。若林と同じ鞄を背負っており、そこには「Deli HERO」のロゴ入り。

○メインタイトル『Deli HERO』

○(CM映像)地球・外観
   地球に迫る飛来物。
女性タレントの声「20XX年。人類の平穏な生活は」

○(CM映像)市街地
   うめき声を上げながら歩くビリジアンから逃げ惑う女性タレントら人々。
女性タレントの声「惑星侵略者ビリジアンによって奪われていった……」
   スマホを手にカメラ目線で語り掛ける女性タレント。
女性タレント「でも、大丈夫」
    ×     ×     ×
   スマホを操作する女性タレント。
女性タレントの声「このアプリを使えば……」

○喫茶店・中
   カウンター席に座る若林と深見。スマホが鳴る。
若林「おっ、キタコレ」
   店内のテレビに映るCM映像。
女性タレント「スマホで簡単にエマージェンシーコール」

○道路
   バイクを走らせる深見と、自転車でそれを追う若林。
女性タレントの声「近くに居るヒーローが、貴方の元に駆け付けます」

○(CM映像)市街地
   ヒーロー役の男性タレントの持つ銃の前に、スマホのQRコードをかざす女性タレント。
女性タレント「あとはQRコードをかざして、ヒーローにお任せ」

○繁華街
   大型モニターにCM映像が映っている。画面には「Deli HERO」のロゴ。
女性タレントの声「いつでもどこでも、Deli HERO。登録無料」
   体の九割近くがビリジアン化した男性と対峙する若林、深見。
深見「そろそろだな。構えろ」
若林「うっス」
   銃を構える若林。
   全身が緑色になると、男性の体は外に放出され、完全なビリジアンとなる。
深見「OK。オールグリーンだ」
若林「さぁ、地獄に届けてやんぜ」
   ビリジアンに向け発砲する若林。命中し、ビリジアンから噴き出る紫色の血。
深見「まぁまぁ上達したな」
若林「うおらっ、うおらっ、うおらっ!」
   立て続けに発砲する若林。ビリジアンは倒れ息絶えるが、それでも尚撃ち続ける。
若林「うおらっ、うおらっ、うおらっ! これでどうだ! うおらっ!」
深見「……(ふっと笑い)いいぞ、もっとやれ」

○喫茶店・外観
   若林の自転車と深見のバイクが停められている。
若林の声「ごちそうさんっした」

○同・中
   カウンター席で食事する若林と深見、カウンター内に立つ深見千歳(28)。深見の食事量は少ない。
若林「いやぁ、悪いっスね。戦い方教えてもらってる上に、タダ飯まで」
千歳「まぁ、別にいいけど。試作品だし(深見を指し)この人、小食だから参考になる意見全然貰えなくて困ってたくらいだから」
深見「まったくだ。おかげで俺の稼ぎはさっぱりだからな。だがまぁ、それも今日で卒業だ」
千歳「おめでとう、若林君」
若林「あざっす」
   若林や千歳に気付かれぬよう、席を立つ深見。
千歳「で、味はどう?」
若林「まぁ、俺はコレ食うくらいだったら、牛丼とかハンバーガーいくっスね」
千歳「……そう。参考にさせてもらうね」
若林「でも深見さん、羨ましいっスね。こんな美人な奥さんがいて……(深見がいない事に気付き)あれ、深見さん?」
   外からバイクの発進音が聞こえてくる。
若林「あれ? (スマホを見て)うわっ、注文入ってた。くっそ~、出遅れた」
   席を立つ若林。
若林「じゃあ、また何かタダ飯食いたい時に来るっス」
   出ていく若林。
千歳「……」
   呆れたような笑みを浮かべながら、ドアに向け塩を投げる。

○道路
   自転車をこぐ若林。前方から、逃げてくる人々を見つける。
若林「あーあ、完全に出遅れた。こりゃ無理ゲーだな……ん?」
   逃げる人々の中にライムを見つける若林。
若林「あの子は……」

○(フラッシュ)市街地
   ライムに駆け寄る若林。
若林の声「この間の」

○道路
   逃げてくるライムに駆け寄る若林。
若林「絶対そうだ。二度目まして……」
   意識を失い、倒れるライム。
若林「!?」

○アパート・外観(夜)

○同・若林の部屋(夜)
   ベッドで眠るライム。目を覚ます。
ライム「ん……」
   そこに駆け寄る若林。
若林「あ、起きた?」
ライム「ここは……?」
若林「俺ん家。あぁ、俺の名前は若林雄馬。二四歳、独身、彼女募集中。特技は人助け、よろしく」
ライム「人助け……助けてくれたんですか? 私を? 何で?」
若林「そりゃあ、かわいかったから。……じゃなくて、人として当然の事で」
ライム「……」
若林「あぁ、安心して。俺、誤解されがちなんだけど、こう見えて奥手というか、シャイというか、純情可憐というか、とにかく……」
ライム「あの。私をここに置いてくれませんか?」
若林「え!? まさかの!?」
ライム「私、行く所が無くて。もちろん、私に出来る事は何でもしますから」
若林「何でも? いや、そんな事言われると『じゃあ服脱いで』とか言いたくなっちゃう……」
   服を脱ぎ始めるライム。
若林「え、ちょっ、そのまま続けて……じゃなくて、ちょっと待って。うほ~っ」

○同・外観(朝)

○道路
   自転車をこぐ若林。
若林「よっしゃ、今日もやるぞ~!」
   スマホの画面を見る若林。ライムとのツーショット写真が映っている。
若林「何たって、二人分稼がなきゃなんないんだからね。く~っ」

○市街地
   紫色の血を流し倒れているビリジアン。その脇に銃を持って立つ深見と、そこにやってくる若林。
深見「おう。遅かったな」
若林「え~」

○道路
   自転車をこぐ若林。

○繁華街
   紫色の血を流し倒れているビリジアン。その脇に銃を持って立つ深見と、そこにやってくる若林。
深見「よう」
若林「ぐ~」

○道路
   自転車をこぐ若林。バイクでそれを追い越す深見。
深見「先に行ってるぞ」
若林「ぬ~」

○アパート・若林の部屋(夜)
   うなだれる若林を励ますライム。
若林「ごめん、全然稼げなかった……」
ライム「……やっぱり私、出ていった方がいいですかね」
若林「大丈夫だから、本当に。気にしないで。とりあえず、飯にしよう」
ライム「でも……」
若林「任せて。いい店知ってるから」

○喫茶店・中(夜)
   カウンター席に並んで座る若林とライム、カウンター内に立つ千歳。
若林「試作品、二つ」
千歳「あのさ。ウチ、そういう店じゃないんだけど。まぁ、別にいいけど」
若林「(ライムに)ここの店の試作品、タダ飯にしては美味いんだよ」
千歳「……。(ライムを指し)彼女ちゃん?」
若林「彼女というか、まぁ、一緒に住んでる、みたいな? ライムちゃんっス」
ライム「ライムです」
千歳「うわ~、キラキラネームだね。どういう字書くの?」
若林「知らんっス」
千歳「知っとけ」
若林「どういう字書くの?」
ライム「どういう字? えっと……」
若林「待って、当てて良い? 『来る夢』と書いて『来夢』。どう?」
ライム「あ~……そう、ソレ」
若林「よっしゃ、(千歳に)俺の勝ちっスね。コーヒーでいいっスよ」
千歳「……サービスしろと?」
   すでに若林はライムしか見ていない。
    ×     ×     ×
   食事中の若林とライム。コーヒーも置いてある。ライムは小食。
若林「ところで、深見さんはどこに?」
千歳「今、喋っている私が深見だけど?」
若林「もう、そんなん知ってるっスよ。……あ~、下の名前わっかんねぇ」
千歳「セージ」
   一瞬、ピクリとなるライム。
若林「そうだ、セージさんだ。まだ帰ってきてないんスか?」
千歳「ビリジアンは、夜も出るからね」
若林「そっか。まだ稼ぎようはあんのか。(スマホを見て席を立ち)あ、注文来てる。ライムちゃん、俺ちょっと行ってくるから。ゆっくりしていってね」
   出ていく若林。
千歳「あの子のどこがいいの?」
ライム「私を助けてくれるので」
千歳「ふ~ん。ところで、ライムちゃん、あなたもしかして……」
   ライムに何やら耳打ちする千歳。驚くライム。
千歳「やっぱり、ね。まぁ、別にいいけど」
ライム「何で……?」
千歳「女の勘かな? 大丈夫、私口堅いから」
ライム「……若林さんにも伝えた方が良いと思いますか?」
千歳「どうだろう? 正直『好きにすれば』としか言いようがないんだけど」
ライム「そうですか……」
千歳「ただ……」

○道路(夜)
   自転車をこぐ若林。
千歳の声「あの子は、受け入れてくれると思うけどね」
若林「深夜手当付きで、稼ぐぞ~!」

○アパート・外観(朝)

○同・若林の部屋(朝)
   食卓を囲む若林とライム。
若林「この部屋、やっぱ二人で住むには狭いよね。金貯まったら、引っ越そうか」
ライム「あの……」
若林「その前に、ご両親に挨拶した方がいいかな? ライムちゃんの親って、どこに住んでんの?」
ライム「いや、あの……」
若林「(スマホを見て立ち上がり)おっ、注文入った。ごめん、行ってくるね」
   出ていく若林。
ライム「……行ってらっしゃい」

○道路
   自転車をこぐ若林。車道は渋滞中。
若林「あ~、どうせ引っ越すなら、同業者が少ないエリアに引っ越せばいいのか。そうすれば……ん?」
   前方、渋滞で身動きが取れない深見のバイクを見つける若林。
若林「(追い越しざまに)お先っス~」
深見「(若林の後ろ姿と渋滞の様子を見て)ちっ」

○オフィス街
   銃を手に駆け付ける若林。
若林「よっしゃ、先着……え?」
   エメラルド(30)をはじめ、多数のビリジアンの姿。
若林「いや、多い多い。(振り返り)深見さん、早く来てよ」
   周囲を見回す若林。人はいない。
若林「あれ……誰もいない……? おいおい、注文したヤツは居なきゃダメだろ」
エメラルド「あの、僕らの話を聞いてもらえませんか?」
若林「!?」
   振り返る若林。歩み寄るエメラルド。
エメラルド「僕らは、あなた方に危害を加えるつもりはありません」
若林「ビ、ビリジアンが喋った!?」
   エメラルドに銃を向ける若林。
エメラルド「僕は知っています。その銃は現状、使えません。そうですよね?」
若林「アンタ、一体何者……?」
エメラルド「失礼。僕は……」
   バイクでエメラルドに体当たりする深見。吹っ飛ぶエメラルド。
若林「深見さん!?」
深見「気を付けろ、ソイツはオリジナルだ」
若林「オリジナル?」
深見「(他のビリジアンを指し)ああいうビリジアンを、生み出しているビリジアンの事だ」
若林「諸悪の根源、ってヤツっスね」
エメラルドの声「『悪』とは心外ですね」
   エメラルドが捕らえた女性を連れてやってくる。
エメラルド「確かに、僕らはあなた方地球人類の寿命を約一年分頂戴しています。しかし……」
   緑色のカード(=グリーンカード)を取り出すエメラルド。女性の首元に付きつける。
エメラルド「代わりに差し上げています。僕らの星の、永住権を」
   女性の体内に吸い込まれていくグリーンカード。女性の体がビリジアン化し始める。
エメラルド「あとはビリジアンとして完全体となるのを待てば、彼女の体は分離、命に別状はありません……。そのくらいの知識は、既にあなた方にもあると見込んでいますが?」
若林「そんな話、知るか!」
深見「俺は知っていたけどな」
若林「あ、そうなんスか?」
エメラルド「僕らの目的は、いわば繁殖活動です。あなた方と敵対するつもりはありません。友好的な関係を築きたいのです」
   その場を離れ、ビリジアンと分離し、倒れている男性の元へ歩み寄る深見。その男性の持つスマホを手に取る。
エメラルド「寿命を一年分けていただければ、百年生きるビリジアンを生むことが出来ます。そうして生まれた労働力や財産を地球人類と僕らとで分け合えれば、ウィンウィンではありませんか?」
若林「ビリジアンって、惑星侵略者じゃなかったの?」
エメラルド「それはあなた方の思い込みです。僕らは肌の色と血の色が違うだけで、同じ知的生命体……」
   撃たれ、倒れるエメラルド。
若林「!?」
   振り返る若林。銃を構えている深見。
深見「ビリジアンの言う事なんぞに、いちいち耳を貸すな」
若林「いや、でも……」
   若林にスマホを放ってよこす深見。画面にはQRコード。
若林「これは……」
深見「(倒れている男性を指し)注文者は、ビリジアンにされていたみてぇだな。人類の手の内を知った上で、対策を立ててきやがった。そういう事だ」
若林「そういう事っスか。危ね危ね」
深見「さぁ、やるぞ」
   ビリジアンに囲まれる若林と深見。銃でQRコードを読む若林。
電子音声「ロックを解除します」
   背中合わせに銃を構える若林と深見。
深見「OK。オールグリーンだ」
若林「全員まとめて、地獄に届けてやんぜ!」
   銃を撃ちまくる若林と深見。次々と倒れていくビリジアン。

○喫茶店・外観
若林の声「しっかし、不便なシステムっスよね」

○同・中
   カウンター席に座る若林と深見。若林の手には銃。
若林「第三者のQRコードを読まないと使えない銃なんて。今日みたいな事があったら、どうしたらいいんスかね?」
深見「黙って死ね、って事だろ」
若林「え~、俺嫌っスよ」
深見「要するにお偉方ってのは、俺らみてぇな輩が力を持たねぇように、制限かけてやがんだよ」
若林「どういう事っスか?」
深見「考えてみろ。もし、銃が俺らの意思で自由に使えたら……」

○(イメージ)市街地
   ビリジアン達の遺体の前に立つ若林、深見。それを崇拝する人々。
深見の声「ビリジアンを全滅させれば、俺ら実行部隊に賞賛が集中しちまうし」
    ×     ×     ×
   逃げ惑う人々。
   若林、深見を先頭に歩く屈強な男達。皆「Deli HERO」のロゴ入り鞄を背負い、人々に銃口を向ける。
深見の声「人類に銃口を向ければ、俺らが世界を制圧出来ちまう」

○(イメージ)会議室
   有識者たちの会議。
深見の声「だから『銃を扱える力』と『銃を使う許可を出せる力』を分けたんだろ。人類の底辺にいたような輩が、権力を持たねぇように」

○喫茶店・中
   カウンター席に座る若林と深見。
深見「お偉方が、自分達の既得権益を守れるように、な」
若林「そのせいで、人が死ぬかもしんないのにっスか?」
深見「世の中、そんなもんだろ」
若林「世知辛いっスね」
   そこに買い物袋を抱えて帰ってくる千歳。
千歳「ただいま。セージ君、店番ありがとね。若林君も。あ、今日ジャガイモ特売だったからいっぱい買ったんだけど、試作品食べていく?」
若林「いや、いいっス。今日は結構稼げたんで(小指を立てて)コレと家で焼肉でもしようかな、って感じっス」
深見「何だ、お前そんな女いるのか。聞いてねぇぞ?」
若林「そうでしたっけ? あ~、そっか、この間ココに連れてきた時は深見さん居なかったんスよ」
深見「(千歳に)じゃあ、お前は会ったのか」
千歳「まぁ、いいじゃない。その話は」
若林「ライムちゃんって言うんスけどね。めっちゃ可愛いんスよ」
深見「ライム……?」
若林「今度、深見さんにもちゃんと紹介するっスよ」
深見「あぁ、楽しみにしてる」
若林「じゃあ、俺帰るっスね」
   出ていく若林。
   千歳を見やる深見。目をそらす千歳。
深見「……そういう事か」

○アパート・外観(夜)

○同・若林の部屋(夜)
   食事の準備をする若林とライム。若林は食卓にホットプレートや肉を並べ、ライムはキッチンで野菜を切っている。
若林「焼肉、焼肉~。ライムちゃんも、今日は遠慮しないでガンガン食べてね」
ライム「いや、私はそんなに食べなくても平気だから。雄馬君こそ、いっぱい食べて」
若林「優しい。可愛くて優しい。ライムちゃん、君は天使か」
ライム「もう、笑わせないで……痛っ」
   包丁で指を切るライム。
若林「大丈夫!?」
ライム「平気。ちょっと切っただけだから」
若林「一大事だよ。ライムちゃんの綺麗な指に傷なんて……」
ライム「本当、平気だから。来ないで」
若林「そういう訳にも……」
ライム「お願い!」
若林「?」
   若林の視線の先、ライムの指から流れる、紫色の血。
若林「え!?」
ライム「……」

○喫茶店・外観(夜)

○同・中(夜)
   カウンター席で食事をする若林と深見。カウンター内に立つ千歳。食事の手を止める若林。
若林「何で、ライムちゃんが? 見た目は、全然……」
深見「お前、アルビノってわかるか?」
若林「アルビノ?」
千歳「生まれつき色素が薄くて、肌は白くて髪も金髪で……みたいな人。まぁ、私も詳しくは知らないけど」
若林「あ~、聞いた事あるっスね」
深見「その女は、いわばアルビノのビリジアンだ。肌が、ちょうどこの国の人間っぽくなるらしい」

○アパート・若林の部屋(夜)
   キッチンに立つライム。手に持ったグリーンカードを見つめる。
深見の声「だからこそ、そういうヤツは先遣隊として地球に送られんだ」

○喫茶店・中(夜)
   カウンター席に座る若林と深見、カウンター内に立つ千歳。
深見「群衆に紛れ込み、ビリジアンを生み出すのには、都合がいいからな」
若林「……」
深見「お前ん家、どこだ?」
若林「どういう意味っスか?」
深見「決まってんだろ? ビリジアンだとわかったんだ。殺しにいく」
若林「まだ注文は入ってないっスよ。銃は使えない」
深見「手段なんて、いくらでもある」
   席を立つ深見。
千歳「セージ君」
   深見の前に立ちふさがる若林。
深見「……何だ?」
若林「……もし殺るなら、俺が殺るっス」
深見「……そうか」
   席に着く深見。
若林「奥さん。(料理を指し)ゴマを足すと風味が出て、もっと良い感じになると思うっスよ」
千歳「え? あぁ、ありがと」
若林「ごちそうさんっした」
   出ていく若林。

○道路(夜)
   一人歩く若林。スマホが鳴り、注文が入るも、無視する。

○アパート・外観(朝)
若林の声「ただいま」

○同・若林の部屋(朝)
   向かい合って座る若林とライム。しばしの沈黙。
若林「……ライムちゃん。正直に答えてくれる?」
ライム「……はい」
若林「ビリジアンの目的って、何?」
ライム「数を、増やす事」
若林「やっぱり、繁殖か……」
   しばしの沈黙。
若林「ライムちゃんは今まで、人をビリジアン化させた事、あるの?」
ライム「……」
若林「あるよね?」

○(フラッシュ)市街地
   若林とライムの出会いのシーン。
若林の声「あの時居たビリジアンは、ライムちゃんが生み出したんだよね?」

○アパート・若林の部屋(朝)
   向かい合って座る若林とライム。
若林「何も言わないって事は、そうなんだよね?」
ライム「ごめんなさい」
   立ち上がるライム。
ライム「私、出ていくね。それとも、ここで死んだほうがいい?」
   銃を手に取り、ライムに向ける若林。
   しばしの沈黙。
   銃を下ろす若林。
ライム「雄馬君?」
若林「……俺、こう見えてさ、童貞じゃないんだよね」
ライム「?」
若林「女の子を抱いた事がある。繁殖行動をした事がある。ライムちゃんと、何も変わらない」
   銃を自身のこめかみに当てる若林。
若林「だから、もしライムちゃんのした事が罪なら……」
   引き金に手をかける若林。
若林「俺も同罪だ」
ライム「止めて!」

○同・外観(朝)
   何かが倒れる音。

○道路
   バイクを走らせる深見。

○市街地
   バイクを下りる深見。銃を手に警戒しながら周囲を見回すも、ビリジアンの姿はなく、紫色の血の跡もない。
深見「……またか」
千歳の声「最近、稼ぎ少なくない?」

○喫茶店・中
   カウンター席に座る深見と、カウンター内に立つ千歳。
千歳「このままじゃセージ君、ヒモだよ、ヒモ」
深見「仕方ねぇだろ? 注文数も減って、空振りも多い」
千歳「オリジナルを倒しちゃったから?」
深見「それもあるだろうが、オリジナルは他にも腐るほどいるハズだ。それよりも空振りの方が気になる」
千歳「誰かに先を越された、って訳でもなさそうなんでしょ?」
深見「血の跡も無かったからな」
千歳「じゃあ、イタズラか、それとも……」
深見「ビリジアンがどこかに消えたか」
千歳「消えるなんて、あり得るの?」
深見「さぁな。だが最近、一人消えただろ? 地球人と一緒に」
千歳「若林君とライムちゃんの事?」

○アパート・若林の部屋
   もぬけの殻。
千歳の声「どこ行っちゃったんだろうね?」

○喫茶店・中
   カウンター席に座る深見と、カウンター内に立つ千歳。
千歳「やかましい子だったけど、いざ見なくなると寂しいもんだね。まぁ、別にいいけど」
深見「……別に。俺が気になるのは、あのライムってビリジアンが死んだかどうかだけだ」
千歳「また、そんな事言っちゃって」
   深見のスマホが鳴る。無視する深見。
千歳「注文じゃない?」
深見「どうせまた空振りだ」
千歳「行ってみなきゃわからないでしょ? それとも何、本当にヒモになる気?」
深見「ダメなのか?」
千歳「まったく、もう……まぁ、別にいいけど」
深見「悪いな、いつもいつも」

○繁華街(夜)
   停車したバイクに跨る深見。
深見「空振りが多いのは、この辺りだな」
   酔っぱらった若者達が騒いでいる。その様子を見ている深見。

○(回想)ビリジアンの星
   ビリジアンの少年達に囲まれるセージ(12)。ビリジアンの少年達は緑色のペンキをセージに浴びせていく。
セージ「嫌だ、止めてよ」

○繁華街(夜)
   停車したバイクに跨る深見。
セージの声「止めてってば~!」
   ハンドルに拳を叩きつける。
深見「……嫌な事を思い出させやがる」
   若者達の悲鳴。
   顔を上げる深見。逃げる若者達と、うめき声を上げながら歩く体が半分ビリジアン化した女性。
深見「来たか。(若者達の後ろ姿を見ながら)あのガキども、注文してから逃げろっての」
   鞄から銃を取り出す深見。その間にやってくる軽トラック。
深見「? 何だ?」
   軽トラックから降りてきた謎の二人組(=若林とライム)が、半分ビリジアン化した女性を荷台へ乗せ、走り去る。
深見「……どうやら、ビンゴだな」
   軽トラックを尾行するようにバイクを走らせる深見。

○道路(夜)
   軽トラックを尾行する深見のバイク。

○病院・前(夜)
   ビリジアンから分離した女性を入口前に寝かせ、走り去る軽トラック。そこにバイクでやってくる深見。
深見「(女性を見て)今頃は、オールグリーンか」
   再びバイクを走らせる深見。

○山道(朝)
   片道一車線の曲がりくねった道路。
   軽トラックを尾行する深見のバイク。ただし車間距離は先ほどまでよりは狭くなっている。
   突然停止する軽トラック。それを見てバイクを停める深見。
深見「今度は何だ?」
   深見に向かって猛スピードでバックし始める軽トラック。
深見「ちっ」
   バイクを急発進させ、軽トラックから逃げるようにUターンさせる深見。しかしバランスを崩した上、軽トラックにも接触され、道路の下に放り出される深見。
深見「うわっ!」
   深見の姿が見えなくなると、再び発進する軽トラック。

○集落(朝)
   山間部にある小さな集落。そこに軽トラックが入ってくると、出迎える多数のビリジアン達。
深見の声「見つけたぜ」
   そこにやってくる深見。それを見て逃げていくビリジアン達。
深見「よくもやってくれたな。若林」
   軽トラックの運転席から降りてくる若林。
若林「さすがっスね、深見さん。もしかして不死身っスか?」
深見「だったらいいんだけどな。それより、また随分とビリジアンを集めたじゃねぇか」
若林「結構大変だったんスよ」
深見「こんだけ居りゃ、荒稼ぎできそうだな」
若林「させない……いや、出来ないっスよ。注文する人が居ないっスから」
深見「じゃあ、お前の目的は何だ?」
若林「……俺が何でヒーローになろうと思ったか、知ってるっスか?」
深見「いいや」
若林「人を助けたいからっスよ」
深見「だったら……」
若林「だからっス」
若林の声「だから、もしライムちゃんのした事が罪なら……」

○(回想)アパート・若林の部屋(朝)
   銃を自身のこめかみに当てる若林を止めに入るライム。
若林「俺も同罪だ」
ライム「止めて!」
   若林の銃を奪うような形でベッドに倒れ込んでいるライム。銃口はライムの胸に当てられており、引き金も引かれているが、発砲はされていない。
   荒い息の両者。
ライム「あれ……?」
若林「ロック、かかってるから」
ライム「あっ……」
若林「……ありがとう」
ライム「何のお礼?」
若林「ライムちゃんは今、命を懸けて、俺の事を助けようとしてくれたから」
ライム「それは……」
若林「俺も、ライムちゃんに何かあったら、命を懸けて助ける覚悟がある」
   銃を捨て、ライムを抱きしめる若林。
若林「俺達は、人間とビリジアンは、きっと助け合って生きていける。共存する希望は、きっとある」
ライム「私もそう思いたい。でも……夢物語だよ」
若林「夢が叶う日はきっと来る。だから一緒に待とうよ、来夢ちゃん」
ライム「雄馬君……」

○集落
   軽トラックの前で対峙する若林と深見。
深見「それでこんな場所に、ビリジアンを匿ったって訳か。人間の手から助けるために」
若林「俺の特技は人助けっスから」
深見「ビリジアン助け、って言った方がいいんじゃねぇか?」
若林「ビリジアンも人間っス。生まれた星とか肌の色とかが違うだけで、同じ人間っス。だから、守るっス」
深見「ビリジアンは敵だ。殺すべき存在だ」
若林「ビリジアンが一体、俺達に何したって言うんスか? 少なくとも、この生まれたてのビリジアン達は何もしてないっス」
深見「『まだ』な。コイツらは人間でいう赤子みてぇなもんだ。数年で喋れるようになるだろうし、一〇年二〇年すればオリジナル同様、新たなビリジアンを生み出せるようになる」
若林「だとして、別に寿命一年くらい……」
深見「本当にそう思うか? 三〇匹のビリジアンが、お前の寿命を一年ずつ奪っていったら、どうなる? お前、あっという間に死んじまうぞ?」
若林「それは……」
   俯く若林。その隙に背後でこそこそ作業をする深見。
電子音声「ロックを解除します」
若林「え?」
   顔を上げる若林。深見の手には銃が握られており、離れた場所に居たビリジアンが一体撃たれる。
若林「なっ!?」
深見「これだけの数のビリジアンが町に出ていったら、大変な事になるからな。始末させてもらうぜ」
若林「そんな……どうやって?」
深見「コレだよ」
   スマホを見せる深見。画面にはQRコード。
深見「俺の連れのスマホを借りてんだ」
若林「自分で注文して自分でって、それは違反じゃ……?」
深見「だろうな。まぁ、せいぜい後で怒られておくさ」
若林「何で、そこまでして……?」
深見「ビリジアンを滅ぼすためだ」
若林「俺達はきっと、共存できるっス」
深見「人間が多いうちは、な。だが、コイツらに『数』なんて力を与えちゃいけねぇ。あっという間に星ごと乗っ取られんぞ」
若林「そんな事は……」
深見「コイツらは、そういうヤツらなんだ」
若林「何で言い切れるんスか?」
深見「それはな……」
   袖をまくる深見。バイクで転倒した際の擦り傷があり、傷口から流れる紫色の血。
深見「こういう事だ」
若林「そんな……深見さんが、ビリジアン……?」
深見「アルビノの、な。おかげで散々、迫害を受けてきたよ。肌の色が違うだけなのに、だ」
ライムの声「やっぱり、そうだったんですね」
   トラックの助手席から降りてくるライム。
ライム「先遣隊として地球に来ながら行方をくらませた、セージさん」
若林「ライムちゃん、危ないから出てきちゃダメだって……」
ライム「でも、セージさんを止められるとしたら、私だけだから」
深見「そうかな? むしろ、同じ立場だったお前なら、わかるだろ? ビリジアンが、どんな種族なのか」
   再びビリジアンに銃口を向ける深見。
深見「生かしておく価値など、無ぇと」
少年Aの声「やーい、やーい」

○(回想)ビリジアンの星
   ビリジアンの少年達に囲まれるセージ。
少年A「宇宙人、宇宙人」
セージ「違う。僕は宇宙人じゃない!」
少年A「嘘つけ、そんな肌のビリジアンがいる訳ないだろ!」
セージ「嘘じゃない!」
少年B「じゃあさ、俺らがセージをビリジアンにしてやるよ」
   緑色のペンキが入ったバケツを持ってくる少年B.
セージ「!?」
   緑色のペンキをセージに浴びせていく少年A、Bら。
セージ「嫌だ、止めてよ。止めてってば~!」

○集落
   ビリジアン達に向け銃を乱射する深見。トラックの荷台にある鞄から銃を取り出す若林と、深見を止めようと駆け出すライム。

○(回想)地球・外観
   地球に迫るUFO。
上司の声「君らには地球人に紛れて生活してもらう」

○(回想)UFO・中
   深見、ライムらアルビノのビリジアン達の前に立つ上司。上司の肌は緑色。
上司「良かったな、君らの肌の色が役に立つ時が来て」
   笑う上司。それを睨む深見。

○集落
   ビリジアンに向け銃を乱射する深見からスマホを奪い、銃を手にした若林へ放るライム。

○(回想)市街地
   市民にグリーンカードを挿入する深見。
深見の声「何でだ?」

○(回想)ビリジアンのアジト
   上司に詰め寄る深見。その脇にはエメラルドもいる。
深見「何で昇進するのが俺じゃなくて(エメラルドを指し)ヤツなんだ!?」
上司「そりゃあ、君じゃ、下の者が付いてこないだろ?」
   笑う上司とエメラルド。
深見「……もういい。もう懲り懲りだ」
   出ていく深見。

○(回想)道路
   雨が降っている。
   傘もささずに歩く深見。その背後からやってきて、深見を自身の傘の中に入れる千歳。
千歳「風邪、引いちゃうよ?」
深見「……」

○(回想)喫茶店・外観

○(回想)同・中
   カウンター席で少量の食事をとる深見とカウンター内に立つ千歳。
深見「ごちそうさん」
千歳「え、もう終わり? お腹空いてる割に、全然食べてないじゃん」
深見「悪ぃな、小食なんだ。だが、助かった」
   席を立つ深見。
深見「恩に着るよ。じゃあな」
千歳「ちょっと待って。行く所、あるの?」
深見「……」
千歳「ウチ、部屋空いてるよ?」
深見「……何で、俺に優しくする?」
千歳「う~ん……イケメンだから、かな?」
深見「は?」
千歳「で、どうすんの? ウチに住むの? 住まないの?」
深見「言っとくが、俺は今、仕事は無ぇぞ?」
千歳「ヒモか……まぁ、別にいいけど」
   笑う千歳。つられて笑う深見。

○集落
   ライムから放られたスマホを受け取り、銃でQRコードを読む若林。
電子音声「ロックを解除します」
ライム「雄馬君、今の内に……」
   ライムを撃つ深見。
若林「ライム!」
   倒れ、息絶えるライム。
若林「うああああ!」
   互いに銃口を向け合う若林と深見。
深見「お前も、同じところに届けてやる」
若林「アンタを撃つ。オールグリーンだ!」
   互いに発砲する若林と深見。
   しばしの沈黙。
   膝をつく若林。
若林「ライム……ごめん……俺……助けられなかっ……」
   倒れ、息絶える若林。
深見「最期の挨拶、してくれば良かったな」
   膝をつく深見。
深見「まぁ、別にいいけどな」
   倒れ、息絶える深見。
若林N「俺達は、死んだ」
   その様子を遠巻きに見ているビリジアン達。
若林N「そしてこの場には、ビリジアンだけが残った」
    ×     ×     ×
   集落を出ていくビリジアン達。
若林N「彼らは二〇年後、一斉に山を下り、人間の住む街へと繰り出す事になる」

○地球・外観
若林N「その結果、この星は……」
                   (完)

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