進路相談 ドラマ

ハローワークに勤める浦のもとに、かつて高校の恩師だった伊佐木が現れる。夢を追うために転職したい伊佐木と現実を突きつける浦。二人の攻防は奇妙な方向へと展開していく。アクトジャム俳優事務所の作品募集で最終選考まで残った作品です。よろしくお願いします。
中村友彦 64 2 0 11/23
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第一稿

  人  物
 浦啓輔(27)ハローワーク職員
 伊佐木真治(40)求職者
 森山宗則(40)浦の上司
 渡会(40)謎の男


〇ハローワーク・相談窓口
   首 ...続きを読む
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  人  物
 浦啓輔(27)ハローワーク職員
 伊佐木真治(40)求職者
 森山宗則(40)浦の上司
 渡会(40)謎の男


〇ハローワーク・相談窓口
   首から職員プレートを提げた浦啓輔(27)と雑誌を持った伊佐木真治(40)が何やら揉めている。
浦 「だから出版関係は難しいです。自分の
資格を活かせる仕事を探してください」
伊佐木「いいじゃん、編集者。夢があって」
浦 「編集経験もないし、出版社に勤めた事
もない。しかも39じゃ無理ですよ」
   と、求人用紙を一枚ずつ出していく。
浦 「予備校講師、通信高校の講師、児童館
職員。高校教諭の資格で採用されそうな所を集めました。さ、選んでください」
伊佐木「だからさー」
   森山宗則(40)、やってきて。
森山「浦君、どうしたの」
伊佐木「いやね、この人、さっきから横暴で。
全く俺の希望聞いてくれないんですよ」
森山「(会社希望表を見て)伊佐木さん、大変
失礼いたしました」
伊佐木「お、話が分かる人だ」
森山「ここは、市民の皆様がご希望の仕事に
就ける様、お手伝いをする所ですから」
伊佐木「(浦に)お前もさ、この人を見習えよ。
ボーイズ・ビィ・アンビシャスだ」
浦 「(うんざり)先生、またそれですか」
森山「先生?」
伊佐木「あ、こいつ俺の教え子なの」
浦 「高校時代の部活の顧問です」
森山「あー、なるほど……」
   伊佐木の隣の席に誰かが座る。
   渡会(40)だ。
浦 「あ、ご希望のお仕事はありましたか」
   と、渡会の席へ行く。
伊佐木「おいおい、お前の担当は俺だろ」
浦 「先生はアンビシャスの話でもしててく
ださい」
渡会「アンビシャスか……」
浦 「へ?」
渡会「いいじゃないか。アンビシャス。人間
には野心がないとな」
伊佐木「ほら、この人だってこう言ってるぞ」
浦 「(無視)どういった仕事をご希望ですか」
渡会「そうだな、女子高がいいな」
浦 「……女子高ですか……」
渡会「女子大でもいいぞ。美人が多いとこ」
浦 「(小声で)変なのしか来ねー」
伊佐木「つか、お前は今のままでいいの?」
浦 「え……」
伊佐木「ほら、進路の相談してきただろ。高
3の時。スポーツライターになりたいって」
浦 「今はこの方を担当してるので」
渡会「ん? 俺ならいいぞ。どうせ暇だし」
浦 「……」
伊佐木「俺は思ったね。お前の将来の為に何
でもしてやりたいって」
森山「伊佐木さん、いい先生だったんですね」
伊佐木「これでも熱血でね」
浦 「……いい先生じゃないっすよ」
伊佐木「え?」
浦 「俺の夢壊したの、先生じゃないですか」
伊佐木「!」
浦 「頭では整理できてますよ。その頃、先
生は問題がバレて、それどころじゃなかったし。つか、学校中がざわついてたし」
森山「浦君、何の話ですか」
浦 「アンビシャスの話です!」
伊佐木「お、俺が何したんだよ」
浦 「覚えてますか、先生。僕の最後のイン
ターハイ、エントリーし忘れてたんですよ」
伊佐木「え! ウソだ、したよ。多分」
浦 「お陰で狙ってたスポーツ推薦はダメに
なりました。受験にも失敗して、結局いけたのは三流大。出版社も受けましたよ。でもこの様です。ここも非常勤で、毎年更新されるかビクビクしてます。でもやってますよ! 必死に!」
伊佐木「……」
浦 「ここで働いて気付きましたよ。夢って
叶いやすいのと、そうじゃないのがあるんです。僕らみたいな凡人が、幸せとかリア充とか勝ち組になりたいなら、叶えやすい方を選ぶべきなんです」
伊佐木「……それはアンビシャスじゃないよ」
浦 「いい加減、現実を見てくださいよ」
伊佐木「……」
浦 「つか、こんな所に雑誌なんて持ってき
ます? しかもダーツ。真剣に仕事を探そうとしてるんですか」
渡会「いい加減にしろ!」
浦 「!」
渡会「さっきから聞いてればなんだ。てめぇ
の人生を人のせいにしやがって」
森山「ですよね、大変失礼いたしました」
浦 「けど、事実じゃないですか」
渡会「てめぇの情熱がなくなったのは、てめ
ぇの責任だろ。こいつのせいじゃねぇ」
浦 「この人のせいです。それが事実です!」
渡会「……そうか。その程度か」
   伊佐木、何だか焦って。
伊佐木「いや、違うんです。今は自暴自棄に
なってるだけで、ホントは夢を追いたいんですよ。こいつも」
浦 「そんなの一言も言ってない!」
伊佐木「浦、人生って他人に振り回されるも
んなんだよ。振り回されて、邪魔されて、それでも譲れないものを見つけてくんだ」
浦 「……」
伊佐木「この雑誌の人たちだってそうだ。プ
ロのダーツプレイヤーなんて殆ど稼げない。他の仕事をしながら、大会の遠征費は自腹で出して、それでもプロとしての活動を続けてるんだ」
浦 「……」
   森山、思わず雑誌をパラパラと捲る。
伊佐木「そういう生き方だってあるんだよ。
勝ち組とかリア充とか、他人の評価なんて気にしない生き方が」
浦 「……何を言ったって響かないですよ。
先生みたいなクソ教師の言葉なんて」
渡会「クソは言い過ぎだろ。卒業しても生徒
を気遣う、良い先生じゃないか」
浦 「良い先生なんかじゃないですよ。この
人は僕の同級生と付き合ってたんです」
渡会「! そうなのか」
伊佐木「いや、違う……違ってはないか」
浦 「それが問題になったんです。だから大
会のエントリーどころじゃなくて、結局クビになって。その彼女だって、クラスにいられなくなって転校していきました」
伊佐木「……」
浦 「先生は壊したんですよ。僕だけじゃな
くて、彼女の人生も!」
伊佐木「……」
浦 「先生、わかりますか。僕は貴方を恨ん
でるんです。もうこれ以上、僕を振り回わさないでください」
渡会「好きだったんだな。その同級生の事」
浦 「……そんなんじゃないですよ」
   渡会、はぁーと深くため息。
伊佐木「(渡会を一瞥し)……」
   森山、雑誌と希望表を見比べて。
森山「伊佐木、真治さん」
伊佐木「え? あ、はい」
森山「ここはお仕事をお持ちでない方が来る
場所ですよ」
浦 「……え?」
森山「アンビシャスです」
   森山、浦に雑誌を渡す。
浦 「!」
森山「この記事、伊佐木さんが書かれてたん
ですよね。選手たちが過酷な状況でも生き抜いている感じ、伝わってきます」
伊佐木「あ、いや……」
浦 「どういう事ですか……」
伊佐木「教師を辞めてから、ずっと出版社で
バイトしてたんだよ。(苦笑し)実は、教師をしてる間、ずっとくすぶってた」
浦 「……」
伊佐木「俺の背中を押したのはお前なんだ」
浦 「え……?」
伊佐木「俺たちが付き合ってること、噂を広
めたのはお前だろ」
浦 「!」
伊佐木「勘違いするなよ。俺は感謝してるん
だ。お前が噂を広めてくれたから、俺は教師を辞めることができた。吹っ切れたんだ。今の俺があるのはお前のお陰なんだよ!」
  浦、雑誌をパラパラと捲り、
浦 「……でも、この記事、ちょっと男性選
手だけ集めすぎじゃないですか」
伊佐木「え……」
浦 「僕なら女性も取材します。イラストと
か色合いも工夫して華やかな感じにします」
伊佐木「!」
浦 「あと、道具も紹介したいですね。ダー
ツの羽根、ダーツフライトって言うんですけど、それにも結構種類があるんですよ」
渡会「ほお……」
伊佐木「何だ、今でもアンテナ張ってるじゃ
ないか」
渡会「いいだろう。採用だ」
浦 「へ?」
渡会「うちで働いてみないか。給料は多く出
せないけどな」
浦 「な、何の話ですか」
伊佐木「この人、渡会さん。俺の会社の社長」
浦 「えー!!!」
森山「先生、ここに何しに来たんですか」
伊佐木「進路相談ですよ」
浦 「先生……その、ありが……」
伊佐木「(遮り)あ、浦。これから同僚になる
訳だから、今のうち言っておくけど……」
浦 「え?」
伊佐木「あの時のお前の同級生な、今の……」
   と、左手の結婚指輪を見せる。
浦 「! マジすか」
渡会「(驚き)アンビシャスだな」
浦 「(笑って)アンビシャスですね」
                   了

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