犬猿、トラウマ、バカ アクション

きな臭い話
きし 34 0 0 11/11
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第一稿

   人物
 辻川勇太郎(28~7) 麻薬取締官。元子役
 新堂修吾(22) 麻薬取締官の協力者
 金村誉(45) 辻川の上司
 土屋剛士(28) 辻川の同 ...続きを読む
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   人物
 辻川勇太郎(28~7) 麻薬取締官。元子役
 新堂修吾(22) 麻薬取締官の協力者
 金村誉(45) 辻川の上司
 土屋剛士(28) 辻川の同僚
 水野優葉(24) 辻川の後輩
 辻川恵美子(23) 辻川の母


〇路上
   新堂修吾(22)がバイクに跨ったまま、
   食事、読書、パソコン視聴、スマート
   フォン弄りを同時にしている。新堂の
   側には食料宅配業者専用のバッグ。
   同じバッグを背負った辻川勇太郎(28)
   が新堂の隣に自転車を止める。
辻川「やあ、配達状況はどうだい?」
新堂「んー……お?」
   新堂、スマートフォンを確認する。
新堂「グーッドタイミング。今夜、デカいの
 入りましたー」
辻川「そうか。受け渡しは、僕が行こう」
新堂「は? 俺が行くんだよ」
辻川「行かせられない」
新堂「何だ? 俺は信用ならないってか?」
辻川「そうじゃない。……エスはあくまで情
 報源だ。囮にはできない。エスを囮に使う
 のは、傲慢過ぎる捜査だ」
新堂「あれ? おかしいな? 兄貴はやらさ
 れたぜ。積極的になあ」
辻川「僕はさせない」
新堂「……ま、親切なとこ悪いけど、ご指名
 は俺だ。俺じゃなきゃ取引が進まない」
辻川「……お前がエスだと、勘づかれている
 場合だってある」
新堂「そんなヘマしねえわ」
辻川「過信するな」
新堂「じゃあ、バレてたら何だ。お前は俺を
 切るだけだろ。何にもなかったみたいにさ」
辻川「……俺は、お前の兄貴を切ったマトリ
 とは違う」
新堂「あー、そ! ……まあ、本性は暴かな
 いでやるよ」
   新堂、ニヤリと笑うが、目力は鋭い。
   新堂、首の後ろを辻川に見せる。
新堂「まあ俺だって? それなりに痛い目見
 てきてますよ」 
   新堂の首には、複数の根性焼きの痕。
新堂「いざとなったら、相手をバイクの後ろ
 に括りつけてー、引きずり回したるわー」
   軽薄に笑う新堂。大きく唾を飲む辻川。

〇厚生労働省・麻薬取締部・中
   入室する辻川。 
   水野優葉(24)が辻川に近づく。
優葉「辻川さん! 私、見つけちゃいました」
辻川「何をだい?」
優葉「じゃーん!」
   優葉、辻川(7)の画像を見せる。
   目を剥く辻川。
辻川「これ、何で?」
優葉「お母さんが。辻川さんの写真見せたら
 似てるって教えてくれて。もう、どうりで! 
 むっさいマトリの清涼剤。輝く私の王子
 様! 子役だったなら、言ってください」
辻川「……言ったら、転落だって笑うだろ?」
優葉「またまたー。動画だってチェック済み
 ですよー。ほら、こんなに可愛い」
   優葉、商品CMの動画を見せる。
   動画では子役の辻川がいきいきと語る。
辻川「これで君も、スペシャル! さあ、僕
 についておいで!」
   辻川、汗が噴き出てくる。心臓の音。
   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
   辻川恵美子(23)が泣き喚く姿。
恵美子「何で私が! 私が悪いの⁉ ……も
 っと、普通の子が欲しかった」
   ×  ×  ×
   辻川、優葉のスマートフォンを強く掴
   む。驚く優葉。
辻川「ごめん、恥ずかしいんだ。やめてくれ」
   土屋剛士(28)がデスクから声を飛ばす。
土屋「おい、助けてくれよ。元売れっ子」
辻川「お前まで、からかうな」
土屋「からかってねえわ! 張り込みスカし
 すぎて、感心すらしてるわ、芸能人様」
辻川「僕は頼りにならないよ? 芸能界はク
 リーンなところで生きてたからさ」
土屋「ちぇー」
   金村誉(45)、辻川を見つけて
金村「辻川、話がある。ちょっと来てくれ」
辻川「はい」
   辻川と金村、退室する。
土屋「水野」 
   土屋、優葉を手招きする。近づく優葉。
   土屋、丸めた紙で優葉の頭を小突く。
優葉「痛い! パワハラだ! セクハラだ!」
土屋「水野取締官? しっかり調べてから、
 慎重に動きなさい。それがマトリ」
優葉「何ですか。私の捜査は常に順調です」
土屋「あいつ。子役時代に、お母さん、パク
 られてんだよ」
優葉「え? それってどういう……」
土屋「薬物依存。あとDV」
   辻川(7)が映るCM映像。

〇厚生労働省・麻薬取締部・会議室
   辻川(28)と金村がいる。
金村「オーバーステイの外国人を利用した宅
 配偽装。密輸元は掴めそうか?」
辻川「今夜、エスが受け渡しを図ります。し
 かし、大元かどうかは、まだ」
金村「待機の人間を増やすか?」
辻川「いえ。場所を確認しましたが、人がい
 ると目立ちます。僕一人で」
金村「わかった。十分注意しろ」
辻川「はい」
金村「新堂が怪しい動きを見せないか、もだ。
 協力者のフリをして、マトリへの復讐を考
 えていてもおかしくない。出が出だからな」
辻川「……金村さんは、新堂の兄を知ってい
 ますか?」
金村「……酷い父親でな。首の後ろに根性焼
 きの痕がある。まあ本人は、弟とお揃いだ
 と笑ってたよ」
   辻川、探るように金村を見つめる。
金村「私のエスだった」
   辻川、僅かに体が強張る。
金村「辻川、協力者なんて言葉は、ただの建
 前だ」
   辻川、唇を引き締めている。
金村「あいつらは所詮犯罪者。ただ、マトリ
 は、それを使いこなさなきゃならん。有能
 なマトリになりたいなら尚更だ。今は司法
 の目も厳しい。いざとなったら容赦なく切
 れ。……できるな?」
辻川「はい」      
金村「……お袋さんの事件以来、息子同然の
 お前が、今じゃ優秀な部下。俺は嬉しいよ」
   金村、辻川の肩を叩いて
金村「しっかりな」
   辻川、金村へ黙って頭を下げる。
   辻川、唇を噛みしめている。

〇路上(夜)
   辻川、運転席で遠くを見守っている。
   停車された車に新堂のバイクが近づく。
   新堂、バイクから引き倒され、車に詰
   められる。
辻川「あの、バカ」
   辻川、ハンドルに額を打ち付ける。
   新堂を乗せた車が発進する。

〇路上・車・中(夜)
   後部座席で取り押さえられている新堂。
新堂「おい! 離せ! 離せよ、コラ‼」
   新堂、ひたすら暴れる。
新堂「くそったれ‼ くそがっ。……死んだ
 方がマシだ」
   衝撃。車両が大きく揺れる。
   隣の車が車体を何度も擦っている。辻
   川が運転する車である。
   新堂、タイミングを見て、抑えを解き、
   後部座席の扉を開ける。
新堂「おい‼ もっとつけろ‼」
   新堂、車の天板に飛び移り、運転席側
   の窓を叩く。
   辻川、呆れて運転席の窓を降ろす。
   同時に両足で勢いよく入る新堂。新堂、
   辻川のシートベルトを外して、助手席
   へ押しのけようとする。
辻川「バカ‼ 僕が運転してる!」
新堂「うるせえ! どけ‼」  
   座り、圧し掛かられた状態の辻川。
辻川「おい! ……やめないか!」
新堂「やられっぱなしで黙ってられるか!」
   ハンドルの主導権を盗る新堂。
   新堂、辻川の上からアクセルを踏む。
   辻川、途端に硬直し、汗が噴き出す。
辻川「おい、降ろせ。降ろしてくれ……」
   心臓の音。

〇パソコン画面
   SNSの投稿。【調子乗りすぎ】【子役
   は可愛がられるからな。生意気多い】
   【子供叩くな。悪いのは大人】【親の教
   育が悪い】【子役の母親は皆〇チガイ】

〇辻川の回想・路上・車・中(夜)
   爆走する車。運転席には恵美子。
   辻川(7)が助手席に縛り付けられている。
   喚き暴れる辻川。
辻川「母さん‼ 母さん‼ 降ろして‼」
   アクセルを更に踏む恵美子。
辻川「お母さん……ごめんなさい。ごめんな
 さい。ごめんなさい。ごめんなさい」
   恵美子の血走った目。

〇路上・車・中(夜)
   新堂の血走った目。
   心臓が大きく鳴る音。
辻川「(喚いて)降ろせ‼」
新堂「うざってえ――」
   辻川、新堂に向けて銃を構えている。
   新堂、反射的に辻川の手首を取って、
   銃を下へ向ける。発砲音。
   車体が大きく揺れる。
新堂「バカかお前‼ バカだろ⁉」
   成す術なく、震えている辻川。

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