ジンライムをあなたと 恋愛

大阪から都会へ引っ越した時のトラウマから、大阪を毛嫌いしている花森歩実。 両親に騙されて見合いをするべく大阪へ戻ってきた歩実は偶然、小学校時代の同級生・木瀬玲二と再会する
叶野 遥 16 0 0 11/08
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第一稿

人物
 花森歩実(29)(13)(12)
 木瀬玲二(29)(12)歩実の小学時代の同級生
 中曽根深雪(24)木瀬の同僚
 花森由実(53)歩実の母
 花森雄三(55) ...続きを読む
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人物
 花森歩実(29)(13)(12)
 木瀬玲二(29)(12)歩実の小学時代の同級生
 中曽根深雪(24)木瀬の同僚
 花森由実(53)歩実の母
 花森雄三(55)歩実の父
 男子生徒A(13)歩実の中学時代の同級生
 男子生徒B(13)歩実の中学時代の同級生
 おばあさん(75)
 三石結子(24)深雪の友人
 マスター(60)BAR「入道雲」のマスター
 大野誠一(35)歩実の先輩


〇歩実の通っていた中学校
   T・16年前
   中学校の教室。教室には「1年3組」のプレート。生徒たちが席に着く中、花森歩実
  (13)が担任教師と共に並んで教卓に立っている。
   緊張の面持ちで、関西訛りで歩実が自己紹介をする。
歩実「大阪から来ました。花森歩実です。よろしく…」
男子生徒A「オチないぞ関西人~!」
男子生徒B「ちょっとギャグやってよ、関西人ならできるんだろー」
   歩実、表情が凍る。
   生徒たちはワイワイと笑っている。
   担任は困ったようにただ見ている。
   歩実、うつむいて制服のスカートを握り締める。
歩実(M)「それはささいな、軽い気持ちのからかいだったのかもしれない。でも、あ
 の瞬間から」

〇東京駅・全景
   T・現代
   多くの通勤客や観光客が駅を利用している。
歩実(M)「私は故郷を嫌いになった」

〇同・構内
   花森歩実(29)がキャリーバッグを転がしながら、暗い表情で「大阪方面」の案内板の指 
   す方向へと進んでいく。

〇同・新幹線ホーム
   ホームで新幹線を待つ歩実。
   スマホをいじってメール画面を開く。
   母・花森由実(53)からのメール。
由実のメール「今朝、お父さんが倒れました。ずっと意識が無い状態。家族を呼ぶように先生に
 も言われているので帰ってきて」
歩実「っとに…ベタな手使うんだから」
   由実からのメールのすぐ後に花森雄三(55)からのメールが届いている。
雄三のメール「今日のアベル」
   笑顔の雄三と猫のアベルの自撮り写真が添付されている。
   新幹線が入線してくる。
   歩実、スマホを仕舞うと軽くため息をついて乗り場へ向かう。

〇新大阪駅・全景(夕)

〇同・構内(夕)
   混雑する構内を歩実が速足で歩く。
   タクシー乗り場の案内板に向かう歩実の前方、大きい鞄を引きずったおばあさん(75)がヨ
   ロヨロ歩いている。
   木瀬玲二(29)が近寄っておばあさんに話しかける。
   おばあさん、何度も頭を下げながら鞄を木瀬に渡す。
   木瀬、笑顔で受け取るが予想外に重たかったのか持ち上げられず膝をついてしまう。
   おばあさん、心配そうに見ている。
   様子を眺めていた歩実、フゥと息を吐いておばあさんと木瀬に近寄る。
歩実「お手伝いしましょうか」
   歩実を見上げるおばあさんと木瀬。
   木瀬、何かに気付いたように目を見開く。
   歩実、その様子には気付かない。
歩実「いっせーの、でいくよ」
木瀬「あ、はい」
歩実・木瀬「いっせーの」
   鞄が持ちあがる。
歩実「おばあさん、どちらまで?」
おばあさん「タクシー乗り場までよろしゅう」
歩実「あ、私も行くところだったからちょうどいいわ。あなたは?」
木瀬「あ、お、俺も」
歩実「いきましょ」
   息を合わせて歩き出す歩実と木瀬。

〇同・タクシー乗り場
   タクシーが一台出発していく。
   乗り場には歩実と木瀬が残っている。
歩実「思った以上に重たかったですね」 
木瀬「なあ、あんたどっかで…」
歩実「え?」
   ジッと顔を見つめる木瀬。不審げな歩実。
   タクシーが一台入ってきてドアが開く。
木瀬「あんた、どっかで俺と会うてへん?」
歩実「…人違いだと思いますけど?私、こっちに住んでないし」
   無視して乗ろうとする歩実を引き止める木瀬。
木瀬「いやいや、絶対会うてるて。俺一度見た顔は基本忘れんもん」
歩実「知りませんてば、私急いでるんです」
木瀬「俺、木瀬玲二。名前聞いて思い出さん?」
   歩実、しばし考える。
歩実「木瀬…」
   思い出した歩実、木瀬を指差して、
歩実「ああ!」

〇街中を走っていくタクシー(夕)

〇タクシー車内(夕)
   後部座席に歩実と木瀬が乗っている。
木瀬「どうや、やっぱり会うたことあったやろ!俺の記憶力すごかろ」
歩実「よく気付けたわね…小学校以来会ってないのに」
木瀬「そりゃ、自分ガキん頃とおんなじ顔しとるからや」
歩実「嘘ぉ」
木瀬「それにしても、こんな時期に帰省なんて珍しのぅ。何かあったん?」
歩実「…あぁ、うん」
   表情が曇る歩実。不思議そうに見つめる木瀬。
   歩実、パッと明るい表情を作って、
歩実「ねぇ、今暇?」

〇BAR「春風」・店内(夜)
   薄暗い店内に落ち着いたジャズのBGMが流れている。
   客入りは上々。

〇同・カウンター
   木瀬がカウンターでウイスキーを飲んでいる。隣にはカシスオレンジのグラスがあり、誰
   かが座っていた様子。

〇同・店の奥
   廊下の突き当りで歩実が電話している。
歩実「だからぁ、ちゃんと帰るけど遅くなるって言ってるの」
由実(声)「遅うなるってなんやの!おとん倒れてんで?薄情な娘や…」
歩実「倒れた割にはお父さん、元気そうにアベルの写真送って来たけど?」
由実(声)「(舌打ち)なんやバレてたん…。おとんのアホが」
歩実「まぁそんなわけだから。友達と飲んでから帰る」
由実(声)「…せやけど明日はアカンよ、あんたに会わせたい人おんねんから」
歩実「…やっぱりそういう魂胆だったわけね」
由実(声)「あんたももう三十近いんやし、いい加減戻ってきてこっちで結婚してほしいねん。
 孫見せてや。この間もな、松屋のあかりちゃんのとこに子供生まれて…」
   歩実、イライラ。由実の声を遮り電話を切る。
歩実「じゃあね、友達待たせてるから」

〇同・カウンター
   歩実が戻ってきて木瀬の隣に座る。
歩実「ごめんね、お待たせ」
木瀬「おふくろさん、ええのん?」
歩実「いいのいいの。お父さんの病気は嘘なんだし」
   カシスオレンジを飲む歩実。
木瀬「で、結局自分なんで呼ばれたん?」
歩実「…お見合い」
木瀬「ああ」
歩実「もう、ことあるごとにその話持ちだしてくるからウンザリよ。その気はないって、何回も
 何回も言ってるのに全然聞いてくれないんだから!」
   歩実、一気に飲み干す。
歩実「マスター、おかわり!」
木瀬「おぉ、いい飲みっぷりやのぅ。よっし、 俺も付き合っちゃる」
   木瀬もウイスキーを呷る。
木瀬「マスター、俺もおかわり!」

〇同・店内入口
   扉が開き、中曽根深雪(24)と三石結子(24)が入ってくる。
   深雪、カウンターに座る木瀬と歩実に気付き足を止める。
   先に着席した結子が深雪を振り返る。
結子「深雪?どしたん?」
深雪「ごめん、ちょっと」
   深雪、カウンターへ向かう。

〇同・カウンター
   歩実と木瀬が飲んでいる。
   深雪、努めて可愛い笑顔を作って近づき、木瀬の肩を叩く。
深雪「木瀬さん!」
木瀬「おお?おー中曽根お疲れ。仕事終わりか?」
深雪「はい。木瀬さんは?」
   深雪、胡散臭そうに歩実を見る。
   歩実、さりげなく目を逸らす。
深雪「まさかデートですか?」
木瀬「いやぁ、小学校時代の同級生。偶然駅で会うてな」
深雪「なぁんだ、そうだったんですね!あ、マスターカルーアミルク一つ!」
   深雪、木瀬の空いている隣に座る。
深雪「ご一緒してええですかぁ?」
木瀬「なんや、誰かと来たんちゃうんか」
深雪「駄目ですかぁ?」
   歩実、立ち上がる。
歩実「それじゃ、私はそろそろ…」
木瀬「ええ!まだ9時やで?まだええやん」
歩実「でも…お友達来たなら、邪魔でしょ」
   歩実、チラリと深雪を見る。
   深雪、木瀬に見えないように歩実を睨みつける。
木瀬「こいつはただの会社の後輩やから、気にせんでええって」
   深雪、ちょっとショック。
木瀬「俺はまだ花森と飲みたいんや。中曽根も、ええやろ?」
深雪「…木瀬さんが、そう言うなら…私はええですけど…」
木瀬「ほら!こいつもええって言うてるから。飲も!」
   木瀬、歩実の腕を引いて座らせる。
   歩実にグラスを持たせて、自分のグラスと乾杯させる。
   木瀬の笑顔に、歩実も笑いかける。
   深雪、面白くない。
深雪「木瀬さん、ちゃんと紹介してください」
木瀬「あ、ああすまん」
   木瀬、歩実と深雪を向かい合わせる。
木瀬「こちらが花森歩実。小学校の同級生や」
歩実「花森です。よろしく」
   歩実、挨拶する。深雪、動かない。
木瀬「んで、こっちが中曽根深雪。職場の後輩」
深雪「中曽根です、よろしゅうお願いします」
   華やかな笑顔で挨拶する深雪。
深雪「木瀬さぁん、ちょっと挨拶そっけなさすぎるんじゃないですかぁ?可愛い後輩とか、もっ
 とええように言うてくださいよぉ」
木瀬「そんなんよう言わんわ」
深雪「もーいじわるぅ」
歩実「仲がいいのね、うらやましいわ」
木瀬「俺がなめられてるだけかもな」
深雪「なめてませんよぅ!尊敬してます!」
木瀬「なんや自分の言い方やとそう聞こえんなぁ…」
深雪「えぇ~酷いです」
   歩実、笑う。
木瀬「花森は何しとんの?今東京やったっけ」
歩実「うん」
木瀬「デザイナー?なりたい言うてたよな」
歩実「よく覚えてるね。まぁまだ修行中だからデザイナーとはいえないんだけど。そのために頑
 張ってるところ」
木瀬「まだまだ半人前ってか。そらこっち帰ってこれんわなぁ」
歩実「そういうこと」
深雪「木瀬さん!ここのチーズ盛り美味しいって知ってました?食べましょ!」
   深雪に袖を引っ張られ、若干うっとうしそうな木瀬。
木瀬「ああ?ほな注文しとけ」
深雪「ワインも合いますよ、どうです?」
木瀬「あぁもう、好きに頼んどけや」
深雪「了解です!」
   深雪、マスターに手早く注文する。
木瀬「すまんな花森、話の途中で…」
歩実「ううん、全然。元気な子だね」
木瀬「しょっちゅう絡んできよんねん、なんなんやろな、ほんま」
歩実「なんとなく想像はつくけど」
木瀬「え?」
   マスターがチーズの盛り合わせとワインボトルとグラス3つを運んでくる。
   深雪、また強引に木瀬を引っ張る。
深雪「木瀬さん来ましたよチーズ!ワイン!」
木瀬「ああもうわかった!」
   木瀬、席を立つ。
深雪「どこいくんですか!」
木瀬「便所や、言わすなアホ!」
   木瀬、店内奥へ消えていく。
   きまずい空気が流れる歩実と深雪。
   歩実、ワインボトルを手に取り、
歩実「とりあえず、先に飲んでる?」
   深雪、グラスを取る。
深雪「あ、はい。いただきます」
   歩実、深雪のグラスにワインを注ぐ。
   自分のグラスにも淹れようとすると、深雪が手を伸ばし歩実に注ぐ。
歩実「ありがとう」
深雪「どういたしまして」
   深雪、残りのグラスにもワインを注ぐとチーズの皿を歩実の方へ差し出す。
深雪「どうぞ。ほんまに美味しいですよ。雑誌にも載ってましたし」
歩実「ありがとう、いただきます」
   チーズを食べる歩実。深雪も食べる。
歩実「美味しい!」
深雪「花森さんと木瀬さんて、どないな関係なんですか」
歩実「どうって…今日久しぶりに会った同級生」
深雪「それだけ?」
歩実「…そうよ」
深雪「ふぅん」
   歩実、気まずくなってワインを飲む。
深雪「花森さんて今東京なんですよね」
歩実「うん、そうだけど?」
深雪「元々大阪出身で、今東京」
歩実「うん…?」
深雪「私の友達にも大学で関東に行った子おるんですよ。めっちゃ頑張って、今も向こうで夢叶
 えてるって」
歩実「すごいね」
深雪「今でも時々電話したりするんですけどその子、私と話すときは関西弁で話すんですよね。
 地元の友達と話すと自然と戻ってまうわ~って。普段は頑張って標準語話してんねんけどっ 
 て」
歩実「…そう」
深雪「なんか花森さん、無理して標準語で話そうとしてる感じですよね。背伸びしちゃって、壁
 感じる」
歩実「別に、無理してなんか…」
深雪「地元のこと、好きやないんでしょ。なんで帰ってきたんですか」
歩実「あ、あなたに関係ないでしょ」
深雪「そーゆう人に、木瀬さんに近づいてほしくないですわ」
歩実「はあ!?」
   木瀬が手を拭きながら戻ってくる。
木瀬「いやぁ個室が使用中で参ったで~もうちょっとで人としての尊厳が…」
   ただならぬ空気に気付く木瀬。
木瀬「お前ら、どないしたん?顔怖いぞ」
歩実「木瀬くん、ごめん私帰るね」
木瀬「え?」
   歩実、財布から一万円札を出して席を立つ。
木瀬「ちょ、花森?これ多いて!待って!」
   歩実、そのまま店から出ていく。
深雪「帰らはる言うてるんやし、放っておけばええやないですか。それよりワイン飲みましょう
 よ」
木瀬「中曽根、お前花森になんか言うたんか」
深雪「別に変なこと言うてません」
木瀬「何言うた?」
深雪「…なんでそんなにムキになるんですか」
木瀬「ええから言え」
深雪「…関西出身のクセに標準語話してるから、そのこと言うただけです」
木瀬「かー!お前なんでそういう失礼なこと言うんや!前からそういうとこあるでほんま!」
深雪「ほんまのこと言うただけやないですか!私ああいう気取った女大嫌いなんです!」
木瀬「アホウ!俺は好きなんじゃ!」
   木瀬、財布から一万円札を置いて店を飛び出していく。
深雪「木瀬さん!」
   カウンターを見つめる深雪。
深雪「…お金、多すぎますて…」
結子「…深雪」
   結子が近づいてくる。
女性A「…全部聞こえてたんやけど、その…」
   深雪、目に涙を溜めながら微笑む。
深雪「…平気、へいき…」
   結子、深雪の頭をポンポンと叩く。
   マスターがそっとフローズンマルガリータを差し出す。
   深雪、カクテルとマスターを見つめる。
   マスター、優しい表情でうなずく。
   深雪、微笑む。
深雪「…おおきに」

〇街中(夜)
   にぎやかな大阪の繁華街。
   肩を落として歩実が歩いてくる。スマホで時間を見る。午後10時30分。
歩実「…どっかで飲み直そうかなぁ」
   後ろから人込みをかき分け木瀬が走ってくる。
木瀬「ま…待って!待ってえな!花森っ」
   驚いて振り向く歩実。
歩実「木瀬くん!?」
   立ち止まる歩実の元に息を切らせて到着する木瀬。肩で息をしている。
木瀬「はぁっはぁっ…やば、酒飲んで走るんきつすぎ…」
歩実「なんでそんなに急いで…お金、足りなかった?」
木瀬「アホ!むしろ多すぎ、大阪の料金なめんなや」
歩実「ご、ごめん…。あ、とりあえずどっか休もう?」
   木瀬、無言で一点を指差す。
   ホテル街とその角に小さなバー。
   歩実、思い切り顔をしかめる。
歩実「…木瀬くん…?」
木瀬「ち、ちゃうちゃうそっちやなくて!その隣!」
歩実「…なら良し」
   木瀬、安堵の表情。

〇BAR「入道雲」
   こじんまりとした店内。
   客は少なく、静かな雰囲気。
   木瀬、先に立ってカウンターへ向かう。
   マスター(60)が木瀬へ会釈する。
木瀬「マスター、彼女に、えーと…ジンライムを。俺はブランデーロックで」
   マスター、うなずくと準備を始める。
歩実「なに?オススメなの?」
木瀬「え?あぁ…うん、まあ」
歩実「私追いかけてきちゃって良かったの?後輩さんは?」
木瀬「最初に飲んでた相手は自分やろ」
歩実「そうだけど」
   カクテルが出て来る。歩実、一口飲む。
歩実「あ、美味しい」
木瀬「せやろ」
歩実「あんまり辛口のカクテルって飲まないから新鮮」
木瀬「良かった。他にアラスカとかライラとかも考えてたんやけどちょっと強めやからな」
歩実「何の話?」
木瀬「こっちの話。それよか…さっきはすまんかったな。中曽根の奴、失礼なこと言ってしも
 て」
歩実「ううん、いいの気にしてない。そう思われても仕方ないし」
木瀬「標準語ってだけで気取ってるとか、アホちゃうかと思うけどなぁ俺は」
歩実「私も小さいときは思ってたよ、東京怖いって。東京の人はツンツンしてるとか」
木瀬「やすよともこの見過ぎちゃう?」
歩実「あー確かに影響あったかも」
   歩実、笑いながらグラスに視線を落とす。
歩実「そういうレッテル貼られるのが嫌だったくせに、自分でもしっかり貼ってたんだよね。バ
 カみたい」
木瀬「転校先で何かあったんか」
歩実「するどーい」
木瀬「それしかないやろ。こっちにいるときは普通やったのに、同窓会は全然参加せえへんし、
 こら向こうで帰ってきたくのうなる何かあったんかなって思うがな」
歩実「大阪あるあるって奴。思春期にはあの洗礼はきつかったのよね。それ今も引きずっちゃっ
 てるって感じ」
木瀬「ガキほど遠慮知らんからなぁ…俺がその場におったら、そいつらぶっ飛ばしてやったの
 に」
歩実「なにそれ」
   吹き出す歩実。
   真面目な表情になる木瀬。
木瀬「本気やで。なんなら、今後花森にそないアホなこと言う奴おったら全部俺がぶっ飛ばした
 いくらいや」
歩実「木瀬くん…」
   歩実のスマホが鳴る。着信相手は由実。
   歩実、あからさまに嫌な顔をしつつ出る。
歩実「もしも…」
由実の声「いつになったら帰ってくるんやアホタレっ!」
   スマホから漏れる大きな声に全員驚く。
由実の声「いつまでほっつき歩いてんの、明日は大事な用事ある言うてんのに、二日酔いで行く
 気ぃなんか!」
歩実「大きな声出さないでよ、まだ友達と一緒なのに」
由実の声「友達って誰よ?全然帰ってきてへんあんたに、こっちでの友達がおったんか」
歩実「だから駅で偶然会って」
由実の声「まさか男やないやろな!お見合い前日に他の男と飲み歩いてるんやないやろな!」
   歩実、言い返そうとする。
   木瀬、その手からスマホを取り耳に当てる。
木瀬「男です!歩実さんとお付き合いさせてもろてます、木瀬玲二と申します。せやから明日の
 見合いはキャンセルでよろしゅうお願いします!歩実さんは俺が無事に送り届けますんで、お
 母さんはゆっくり寝てください。ほな!」
   木瀬、一方的に通話を終了する。
   茫然と見ている歩実。
   木瀬、スマホを返しつつ
木瀬「…そういうことで、よろしく」
歩実「な…なんてこと…」
木瀬「お見合いしたくないねやろ、もう相手いることにしたら断る口実になるやんか」
歩実「そうかもしれないけど…!」
木瀬「伊達や酔狂で言うたわけやないで」
   木瀬、歩実を見つめる。
   首を傾げる歩実。
木瀬「俺、花森のこと好きやねん。小学校の頃から、ずっと」
歩実「えっ…」

〇歩実と木瀬の小学校・ウサギ小屋(回想)
   T・17年前
   歩実(12)と木瀬(12)がウサギ小屋の掃除をしている。
   顔を真っ赤にした木瀬、掃除中の歩実の方を見て意を決したように、
木瀬「好きや」
歩実「うん、ウチも好き。ほんまウサギって可愛えねぇ」
木瀬「違う、ウサギのことやなくて…」
   チャイムが鳴る。
   歩実、サッと立ち上がって、
歩実「おしまい!早よ教室戻ろ!」
   一気に走り去っていく歩実。
   木瀬、箒を握りしめたまま立ち尽くす。

〇もとのBAR「入道雲」
   歩実、目の前の木瀬をまじまじと見つめる。どんどん赤くなる歩実。
歩実「…そういえば…言われた気がする…」
木瀬「思い出した?」
歩実「うん…なんか、あの時はごめん」
木瀬「実は結構傷ついた」
歩実「ごめん…」
木瀬「俺の気持ちはあの時から何も変わってへん。今日もホンマは、すぐ花森やってわかった。
 会えてめちゃ嬉しかった」
   木瀬、ジンライムのグラスを指差す。
木瀬「それ。ジンライム。カクテル言葉って
 奴で『色褪せない恋』って言うんやって」
   歩実、グラスを見つめる。
木瀬「俺の気持ち」
   歩実、微笑む。
歩実「キザ~」
木瀬「ええやんけ、やりたかったんやから!」
   木瀬、拗ねて唇を尖らせる。
木瀬「次に会えたら絶対やろう思てずっと練習してたんに、自分全然同窓会に来うへんから…」
   歩実、吹き出す。
歩実「やだ、木瀬くん可愛い」
木瀬「はぁ!?こっちは真面目じゃい!」
歩実「ごめんごめん、バカにしてるつもりないの…ありがとうね、木瀬くん」
   チラリと歩実を見る木瀬。
   クスクス笑っている歩実。
木瀬「…ふん」
歩実「あーあ、こんなことならもっと早く大阪に帰ってくれば良かったな」
   歩実、スマホをいじって何かを見てから、マスターの方へ向く。
歩実「グラスホッパーお願いします」
   マスター、微笑んで作り出す。
   歩実、木瀬を見て
歩実「私からの返事」
   木瀬、キョトンとしてスマホで調べる。
木瀬「グラスホッパー…」
   画面を見て、歩実を驚いて見つめる。
   歩実、いたずらっぽく笑って見せる。
歩実「しばらくは遠距離恋愛になっちゃうと思うけど…。責任、取ってね?」
   木瀬、笑顔になる。
木瀬「もちろんや!しつこいからな俺は、それくらい屁でもないで」
   マスターがグラスホッパーとプリンセスメアリーを差し出す。
   きょとんとする歩実と木瀬。
マスター「プリンセスメアリー。祝福、です」
   マスター、ウインクしてみせる。
   木瀬の顔が緩む。
木瀬「おおきに、マスター」
歩実「乾杯しよ」
   笑顔で乾杯する歩実と木瀬。

〇東京・オフィスビル街・全景(朝)
   多くのサラリーマンが行き交っている。

〇オフィスビル・歩実の会社(朝)
   「KEIKO・SATO デザイン事務所」と書かれた看板が掲げられたオフィス。
   多くの社員が忙しそうに働いている。
   スーツ姿の歩実が明るい表情で入ってくる。
歩実「おはようございまーす」
   口々に挨拶が返ってくる。
   大野誠一(35)が座るデスクの隣にやってくる歩実。
歩実「おはようございます」
大野「おはよう…なんだ、元気だな」
歩実「そうですか?」
大野「行く前は大分嫌そうだったのにな。向こうで何かいいことでもあったのか?」
歩実「秘密です。さーて、仕事仕事!」
   歩実、晴れやかな笑顔で返すと仕事を始める。
   デスク上のスマホの壁紙は木瀬との自撮り写真。

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