人物
山杉健二(30)高校の教師
山杉健城(30)山杉の先祖、戦国武将
山杉朱美(18)山杉の妹
お能(18)健城の妹
田中修二(18)山杉のクラスの生徒
田中組組長の息子
鈴木琢磨(18)同
山田麗子(18)同
谷山 愛(18)同
粟田恭子(17)同
山本啓太(17)同
女子高生1
女子高生2
奥村紗香(28)山杉の同僚
長尾景虎(27)
直江景綱(53)
山本景長(40)健城の家臣、山本の先祖
家来1
サラリーマン
木嶋丈(25)田中組組員
田中勘一(50)田中組組長
組員1
組員2
若頭
○高校・教室の中
スーツ姿の山杉健二(30)が教壇に立
って歴史の授業をしている。生徒達は まるで聴いていない。田中修二(18)がスマホで電話をしている。
田中「おう。そうだよ。上物だぜ・・・おう、
きっかり3万な。ああ・・・」
鈴木琢磨(18)は机の上にパソコンを
広げキーボードを打っている。
ワンクリック詐欺の画面。一斉にメー
ルを送信する。冷たく笑う鈴木。
山田麗子(18)と谷山愛(18)がスマホ
のAVサイトを見ている。その中のコ
ンテンツが拡大される。
麗子「あ、これ恭子じゃね?」
愛「え、まじ?」
教室の一番前の席に粟田恭子(17)が
座って真面目そうに授業を受けている。
愛「ああいう奴が一番やばいんだよな」
教室の中はとても騒がしい。
黒板に字を書いていた山杉が振り返り、
山杉「みなさん!ちょっと静かに・・・」
田中が山杉を睨み恫喝する。
田中「はあっ?!」
山杉「いえ」
再び黒板に字を書き始める山杉。
○同・グラウンド
グラウンドで田中がヤンキー座りをし
て煙草を吸っている。鈴木が不良達に
囲まれて正座し、蹴られている。
鈴木の顔には痣ができている。
田中「鈴木くん、最近、君、生意気じゃない?
こんな上がりで許されると思ってんの?」
田中のスマホのネットバンクに5万3
千円の入金額が表示されている。
鈴木「いえ、そんなことは・・・」
田中はにやりとして立ち上がり、鈴木
を蹴り倒し、顔を靴で踏みつける。
そこに山杉が通りかかり、その様子を
見ている。田中は山杉に、
田中「何見てんだよ、文句あんのか、山杉」
山杉「いえ、ありません」
山杉はその場を去る。校門の影で立ち
止まり、鈴木の方を恐る恐る見る。
田中は鈴木に、
田中「一週間以内に30万用意しろ。わかっ
たな」
鈴木「そんな・・・無理です」
田中は鈴木に蹴りを入れ、唸る鈴木。
田中「用意しねえと殺すからな」
田中はそう言い放ち、不良達と去って
いく。山杉は倒れている鈴木に駆け寄
り起こそうとする。
山杉「大丈夫ですか」
鈴木はそれを跳ね除けよろめきながら
立ち上がる。
山杉「何があったんですか?」
鈴木「話したら助けてくれるんですか?」
山杉「警察に言うとか」
鈴木「言えません」
鈴木は冷笑して去っていく。
○山杉家の門の前(夕)
古い旧家の佇まいである。
山杉がやってきて脇門から中に入る。
○同・居間・中(夕)
山杉朱美(18)がテレビを見ている。
山杉は居間を通り過ぎようとする。
朱美「おかえり。ご飯は?」
山杉「あとで」
○同・座敷・中
大きな仏壇の前に山杉が座っている。
仏壇の横の床の間には鎧と兜と太刀が
飾られ、鴨居には先祖代々の写真が飾
られている。
(イメージ)戦国時代の城の外観。
大広間に座る上杉謙信とその前に賢
づく山杉健城(30)。顔は山杉と同じ。
T「この男、山杉健二は、戦国武将上杉謙信の家臣、山杉健城から数えて13代目の子孫である」
合掌する山杉。
山杉(声)「ただいま帰りました。・・・ご先祖様、今日も臆病者の僕をお許しください」
仏壇の中の位牌が光る。
○同・山杉の部屋・中
布団で眠っている山杉。
○(夢)戦国時代の合戦場
鎧を着た山杉がオドオドして立ち尽く
している。敵の兵が斬り込んでくる。
抵抗できず叫ぶ山杉。そこに健城が助
太刀に入る。腰を抜かしている山杉に、
健城「我は山杉健城である。そちは我から数
えて13代目の山杉家当主でありながら、
武士にあるまじき臆病ぶり。誠に嘆かわし
いぞ!」
山杉「ご先祖様?」
健城「今日より我はそちと入れ替わる。
この戦国の世で、生きていくのじゃ」
山杉「えええ?」
○戦後時代の小城の外観(朝)
○戦国時代の小城の屋敷・中(朝)
うなされて目を覚ます山杉。あたりは
板の間の座敷。健城の妹のお能(18)が山杉に声をかける。
お能「兄上、お目覚めでございますか
随分とうなされておられましたが」
あわてる山杉。
山杉「ここはどこですか?」
お能「お屋敷でございますよ。異な事を申さ
れますね」
山杉(M)「え?まさか、あれは本当?・・・
えええーーーまじかよ!」
○元の山杉の部屋・中(現代)
布団で寝ている健城が目を覚ます。
健城は辺りを見回す。姿は山杉健二で
ある。点いていないテレビを珍しそう
に覗き込む健城。リモコンを踏んでし
まいテレビが点く。テレビに人が映り、
驚く健城。
健城「おおお!お主は誰じゃ!」
テレビの中の人は反応しない。
近くにいた山杉朱美(18)が、
朱美「お兄ちゃん、何言ってんの?テレビに
向かって。頭大丈夫?」
心配そうな朱美。顔はお能と同じ。
健城(心の声)「お兄ちゃん?あやつの妹か。
わしの妹のお能にそっくりじゃ。血は争え
んのう」
健城「そち、名は何と申す」
朱美「朱美に決まってんじゃん。ばっかじゃ
ないの?早くしないと遅刻するよ」
健城「遅刻?どこにじゃ?」
朱美「学校に決まってるじゃない。早く」
朱美は部屋を出て行ってしまう。
枕元に着物がないことに気づいた健城
は辺りを見回し部屋にかけられてい
る赤と青の上下のジャージに気づく。
○同・玄関
ジャージを着た健城とセーラー服を着
た朱美。
朱美「その格好で行くの?」
健城「着心地が良いのじゃ。で、そちはどこ
に行くのじゃ?」
朱美「学校に決まってんじゃん。それに、さ
っきから何?その言葉」
健城「学校?」
朱美「私は勉強、お兄ちゃんは仕事。
何訳のわからないこと言ってんの?」
健城「左様か。わしの仕事は何じゃ?」
朱美「え?高校の教師でしょ!」
健城、少し躊躇して、
健城「ああ、そうか。忘れておったわ」
首をかしげる朱美。
○高校の校門前
朱美と健城がやってくる。健城は
ジャージ姿である。
健城(心の声)「ここが、あやつの勤めておる
学校と言うものか・・・」
登校してくる女子高生に驚く健城。
健城(心の声)「この時代のおなごは妙な格好
をしておるのう。それにしても可愛いのう」
でれっとして鼻の下を伸ばす健城。
女子高生達が朱美に声をかける。
女子高生1「朱美、おはよう!」
朱美「おはよう」
女子高生達が健城を見て、
女子高生2「え?山杉先生?」
女子高生1「どうしたんですか、その格好」
田中たちのグループが通りかかる。
田中、健城に気付き、
田中「なんだ?山杉?ダセえ!」
不良達も口々に健城を馬鹿にする。
健城「何じゃと。わしを愚弄する気か」
健城、田中を睨みつける。
田中「あ、なんか文句あんのか!」
田中も健城を睨みつける。少したじろ
ぐ田中。
田中「行くぞ」
田中たちは振り向いて行ってしまう。
田中たちの方をじっと見る健城。
○教室の中
田中が机に腰掛けている。
不良達は物を投げ合ったりしている。
そこに健城が入ってくる。驚く健城。
健城(心の声)「何じゃここは。学問を学ぶと
ころではないのか?」
そこに鈴木がやってくる。
田中「おう、鈴木、あと6日だからな」
鈴木「ほんとに無理です」
田中は鈴木を殴る。
田中「絶対用意しろ。でないとわかってるな」
青ざめた表情で席に着く鈴木。
健城が叫ぶ。
健城「待て!」
田中と不良達が立ち上がる。
田中「は?何か言ったか?」
健城「弱き者をいたぶるとは卑怯千万。
捨ておけぬ」
田中「何言ってんの?ははは」
田中、健城を殴ろうとする。
健城は田中の手を取り、戦国の世に伝
わる古武術の技で投げ飛ばし、田中の
喉笛を掴む。顔が青ざめていく田中。
田中「・・・たすけて」
健城、手を離す。
まじまじと健城を見る田中。
健城「断じて卑怯は許さん」
凛々しい顔の健城。
茫然と立ち尽くす不良達。その様子を
茫然と見つめる生徒達。
田中「覚えてろよ」
田中はそう言い放ち不良達と教室を出
て行こうとする。
健城「おい、待て!詫びたら許してやるぞ」
田中達は無視して行ってしまう。
健城「それで、わしは何をすれば良いのじゃ?」
山本啓太(17)が山杉に、
山本「早く授業をしてください。先生」
健城「授業?何の授業じゃ?」
教室内が騒つく。
山本「歴史ですよ」
麗子と愛が生徒達に聞こえる声で、
麗子「山杉、頭おかしくなったんじゃないの?」
愛「心神喪失ってやつ?」
生徒達がどっと笑う。
健城「歴史?歴史のう・・・いつの時代の?」
山本、捲った教科書を指で挿しながら、
山本「教科書の続きはここ、明治維新からで
す」
健城「明治維新?それは何じゃ?」
再び教室内が騒つき生徒達が顔を見合
わせる。
健城「その明治維新とやらはわからんが、
天文の時代ならよく知っておるぞ」
山本「戦国時代だ」
健城「時は天文十五年、わしは野で流鏑馬を
しておった。そこに長尾景虎様が通りかか
られた。景虎様の噂は耳にしておったが、お会いするのは初めてじゃった。
○(健城の回想)戦国時代の野原
T「天文十五年、越後国」
馬上の長尾景虎(27)が健城に、
景虎「我は長尾景虎じゃ。わしと競わぬか」
馬上の健城の目がキラリと光る。
健城「よろしゅうござるが、わしが勝てば、
景虎様の領地の半分を下さらぬか」
景虎の目が鋭くなり、
景虎「何?半分じゃと・・・」
お互いに睨み合う健城と景虎。
高笑いする景虎。
景虎「ははははは。よかろう」
側にいた直江景綱(53)が、
景綱「親方様、お戯れが過ぎまするぞ」
景虎「爺は黙っておれ」
景虎「わしが勝てばどうしてくれるか?」
健城「この命、ご存分にして下され」
景虎「おもしろい」
流鏑馬を行う健城と景虎。
景虎の家臣達が当てた数を板に正の字
で刻んでいく。
互いに一歩も譲らない健城と景虎。
最後の段になり、景虎は全ての的に矢
を当てる。次に健城が次々と矢を的に
当ててゆく。最後の的になり、健城の
放った矢は的の端に当たり弾かれる。
景綱「勝負あり」
健城、馬を降りて賢づき、
健城「わしの負けでござる。さあ、この命、
ご存分にしてくだされ」
景虎、馬を降り、太刀を抜き、健城の
顔の前にかざす。景虎を見つめる健城。
景虎、太刀をしまい、
景虎「そなたは今より死んだと思え」
景虎をじっと見つめる健城。
景虎「どうだ、わしの家臣にならぬか」
○元の教室の中(現代)
教壇に立つ健城。
健城「それがわしと主君景虎様の出会いじゃ」
ぽかんと口を開けている生徒達。
健城、はっとして、
健城「あ、いや、これは我が先祖、山杉健城
の話じゃ」
健城、屁をこく。屁が教室に充満する。
麗子「超くせえ!」
愛「死ぬー」
健城。生徒達に頭を下げる。
健城「すまぬ。無礼を許せ」
健城を輝いた目で見つめる山本。
○廃墟となった倉庫の中
田中が不良1を殴っている。不良1は
血だらけである。周りには不良達。
田中「むかつくんだよ!あいつ」
不良2「修ちゃん、もうやめてよ」
田中、不良1を殴るのを止める。
不良2「山杉のやつ、へなちょこだったのに、
いつの間にあんなに強くなったんだ?」
田中「あいつ、絶対ぶっ殺してやる」
田中、スマホで電話をかける。
田中「木嶋か・・・ちょっと頼みがある」
○田中組事務所・中
田中組の代紋。事務所のソファに座っ
た木嶋丈(25)がスマホで話す。
木嶋「何でしょう?若」
○廃墟となった工場の中
スマホで話す田中。
田中「じゃあ、頼んだぞ」
スマホを切りニヤリと笑う田中。
○戦国時代の小城の座敷・中
直衣を着た山杉が板の間に正座して座っている。足が痛い様子。
侍女「昼餉でございます」
侍女達が食事の膳を運んでくる。
膳には麦飯と味噌、たくあんと小魚。
山杉(心の声)「これがお昼ご飯?」
食べるのを躊躇している山杉。
側にいた家臣、山本景長(40)が心配
そうに、
景長「どうかいたしましたか親方様、どこかお体の具合でも・・・」
山杉「いえ、あの・・・これだけですか」
景長「そうでございますよ。質素倹約が山杉
家ご先祖代々の慣しですから」
山杉「あ、そうですよね」
しぶしぶ食べる山杉。
怪訝そうに首をかしげる景長。
○同・庭
弓の的がズラリと並ぶ。
広い庭に立つ、山杉と景長。
景長「親方様、本日の弓術の稽古は、
爺がお相手仕りましょう」
山杉「あの、これ、どうやってやるんですか?」
景長「ははは、親方様、お戯れを」
山杉「いえ、本当に知らないんです」
景長「・・・親方様、真でございますか?」
山杉「はい」
景長「おい、誰か」
庭に控えていた家来1が景長の前に
進み出て賢づく。
家来1「はっ」
景長「すぐに薬師を呼べ!」
家来1「はっ」
家来1が駆けていく。景長、山杉に
景長「御いたわしや。先日以来の戦のご心労
で親方様はお気が動転されておられるので
ありましょう。本日の弓は中止とし、薬師
に診てもらいましょう」
山杉「すみません。少しお話が」
○同・座敷・中
対峙して座る山杉と景長。
山杉「そんなわけで僕は山杉健二なんです」
景長「にわかに信じられませぬ。そのような
ことは」
山杉、健城が出てきた夢を思い出す。
○(夢)合戦場
健城「家臣には座敷の鴨居に隠してあるわし
の文を見せよ」
○元の座敷・中
山杉「この部屋の鴨居に文がありませんか」
景長は鴨居を探すと文が出てくる。
文を読む景長。
健城の声「爺よ、さぞかし驚いていることで
あろう。しかし、この文を読む爺の前にお
るのは、紛れもなく我より13代目の山杉
家当主、山杉健二である。わしは兼ねてより修行しておった修験道の修行によって、時を超える術ならびに魂を入れ替える術を身につけた。その術を使い、子孫、健二とわしの体を入れ替えた。どうか面倒を見てこやつを男として鍛えてやってくれ。わしはしばし、令和の世とやらを見物して参る」
目を丸くして文を見つめる景長。
景長「そうであったか・・・」
景長「おや、最後にこう記してある。
『ただし、大事のときには、自在に入れ替
えを行う。戦で死なれては敵わんからの』」
山杉「い、戦・・・どうしよう、怖いよ」
景長「心配召されるな、そのような時には元
に戻すと記されております」
景長、姿勢を正し、
景長「ただいまより、健二様の武士道御指南
役としてこの景長、お仕え申す。健二様も
しかとお勤めなされい」
山杉「よ、よろしくお願いします」
○高校の職員室(現代)
教師達が何やら噂話をしている。
そこに健城が入ってくる。
奥村紗香(28)が健城に声をかける。
紗香「山杉先生、ちょっと」
健城が紗香の元にやってくる。
紗香「座らないの?そこあなたの席でしょ」
可愛い紗香に見惚れる健城。
健城(心の声)「可愛い・・・」
健城「ああ、そうであった」
不思議そうに辺りを見回しながら、デ
スクの席にぎこちなく座る健城。
紗香「すごかったらしいですね。田中をやっ
つけちゃうなんて。一体何があったんです
か?内緒で少林寺拳法とかやってたとか」
健城「いや、その、特に変わりはござらん」
紗香「何?その言葉。ははは」
健城「わしは歴史の教師であるから、
武将の真似をしておるのじゃ。ははは」
怪訝そうに健城を見る紗香。
○山杉家・居間(夜)(現代)
朱美と健城が晩ご飯を食べ終わる。
朱美「お兄ちゃん、どうしちゃったの?」
健城「どうもしておらんぞ」
朱美「絶対、朝から変だよ」
健城、しばらく考え込み、
健城「実はな・・・」
× × ×
朱美「本当に本当ですか・・・」
健城「わしは偽りは申さぬ」
朱美「たしかに・・・昔、祖父から、
山杉家の初代当主の山杉健城様は、
人の魂を入れ替える不思議な術を使われる
方と聞いたことがあります。まさか本当だったなんて。あんな兄ですけどどうかよろしくお願いします。でも、このことは私とご先祖様の秘密ということで・・・」
健城「そうしてくれ」
朱美「でも、その顔、見れば見るほど、お兄
ちゃんにそっくり。――んと、お兄ちゃん
って呼んでいいですか?」
健城「良いぞ」
朱美「じゃあ・・・お兄ちゃん」
健城「なんじゃ?」
朱美「お兄ちゃん」
健城「朱美」
笑い合う健城と朱美。
健城「さて、朱美に聞きたいことがある」
朱美「なに?」
健城「わしに、この国の歴史を教えてくれ」
朱美「あ、そっか、お兄ちゃん、戦国時代ま
でしか知らないもんね。いいよ」
歴史の教科書を元に、説明をしていく
朱美、それを聞く健城。
○高校の教室・中(朝)
騒つく生徒達。健城が入ってくる。
教室が静まり返る。田中達はいない。
健城「わしが懲らしめたあやつ、名は何と申した」
山本「田中です」
健城「その田中はどこじゃ」
山本「まだ来ていません」
健城「授業だというに、困ったやつじゃ」
山本「先生、それより授業を始めてください」
健城「ああ、そうじゃな」
授業を始める健城。
○街(夕)
街を歩きながら、いろんな店や街を歩
く人々を珍しそうに見る健城。
○人のいない道
歩く健城。そこに田中と木嶋、組員1・2が現れる。
田中「こら!山杉」
健城「ん・・・なんじゃ?」
健城を睨む田中。
健城「お、田中とやらか、いかがした?」
田中「お前、殺す」
田中が木嶋に合図をする。
木嶋と組員1・2が健城を取り囲む。
健城「さてはお主、あのことを恨んでおるの
か?卑怯はいかんと教えただけじゃ」
田中「うるせえ!俺の親父はヤクザだぞ」
健城「ヤクザ?それは何じゃ?山賊の様なものか?」
田中「何ごちゃごちゃ言ってんだ!やれ!」
木嶋と組員1・2が健城に襲いかかる。
健城の目が正気になり、その攻撃を素早い動きでかわす。木嶋と組員1・2がナイフを取り出す。
健城「手裏剣か、よかろう。かかって参れ」
木嶋と組員1・2が健城にナイフで
襲いかかる。健城は巧みに体をかわし、次々と宙に投げ飛ばし、地面に叩きつける。落ちたナイフを拾い見ながら、
健城「この時代の手裏剣は妙な形をしておるのう。それに手裏剣とは投げるものぞ」
健城、田中に向かってナイフを投げる
構えをする。
田中「わあああ!」
田中と木嶋、組員1・2が逃げていく。
○山杉家・玄関・中
健城が入ってくる。
健城「今帰った」
朱美が出てくる。
朱美「おかえり。遅かったね」
健城「帰り道にわしのクラスの田中とやらが襲って参った」
朱美「え!大丈夫?」
健城「なんということはない。しかし、あれ
でも学問を志す生徒かのう」
悲しそうな表情の健城。
○夜道
朱美が歩いている。車が朱美の近くで
止まり、中から木嶋と組員1・2が出
て来て朱実を車の中に押し込む。
○山杉家・居間・中(夜)
健城が一人座っている。
健城「朱美、遅いのう」
ちゃぶ台の上にはスマホが置いてある。
スマホに着信が入る。恐る恐るスマホ
を取りボタンを押す健城。
田中の声「山杉か、妹、帰ってこないだろう」
健城「朱実をいかがした!」
田中の声「返して欲しければ今から言う場所
に来い」
健城「おのれ、卑怯千万」
○同・座敷・中
ちょんまげを結い、床の間に飾られた
太刀を手に取る健城。
○廃墟となった倉庫の中(夜)
田中と木嶋、組員1・2がいる。
朱美が椅子に縛り付けられている。
木嶋「ねえちゃん、可愛い顔してるな」
木嶋が朱美の顎を掴む。
必死で抵抗する朱美。
工場の戸が大きく開く。
健城が入ってくる。太刀を持っている。
木嶋が拳銃を構える。
健城、太刀を抜き、木嶋達に走って向かってくる。木嶋は拳銃の引き金を引こうとするが、震えて引けず、恐ろしい健城の気迫に思わず腰を抜かす。
健城は拳銃を太刀で弾き飛ばし、
木嶋の顔の前に太刀をかざす。
木嶋は恐れ慄いて震えている。
次に田中の顔の前に太刀をかざす。
田中はガクガク震え小便を漏らす。
そこに、田中勘一(50)と田中組若頭が入ってくる。
勘一「先生、やめてくれ」
健城「お主は誰じゃ?」
勘一「そいつの父親だ」
勘一、田中に近づいて来て、
田中を思い切り殴る。
勘一「てめえ、堅気の集に迷惑かけるなと
あれだけ言っただろう」
勘一は何回も田中を殴り、田中は
血だらけになりながら必死で勘一
に謝る。
田中「ごめんなさい、ごめんなさい」
健城「もう、やめい!」
勘一の手が止まる。健城は勘一に
健城「お父上殿、息子殿の躾、しかとなされ
よ」
健城、田中に向かって、
健城「この度は、そちのお父上の頼みに免じ
て許す。もう二度とこのようなことはせず、
学問に励めよ」
健城は朱美を縛る紐を太刀で斬る。
健城「もう大丈夫じゃ」
朱美「お兄ちゃん!」
泣きながら健城に抱きつく朱美。
健城「おお、ういやつじゃ」
健城、勘一に向かって、
健城「御免」
去っていく健城と朱美。
勘一は若頭に、
勘一「今時あんな先生がいるとはな。
わしもあんな先生に会ってたら、
こんな道に入ってなかったかもしれん」
若頭「親父、わしもそう思います」
今日の晩ご飯の話をしながら、
去っていく健城と朱美の後ろ姿。
勘一「でもあの先生、おかしな言葉使ってた
な」
歩く健城の顔が笑顔になる。
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