あの子のピアノ 学園

幼い頃からピアノで競い合っていたライバルが亡くなってから1年。 高校三年生の野中はそのショックからピアノを辞めてしまっていた。しかし、ある日の放課後、「あの子」のピアノが聴こえてきて・・・。
松上全也 26 0 0 10/09
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

登場人物

野中(18)……女子高校生、三年生
生田(18)……女子高校生、三年生。野中の友人
矢島(24)……野中の担任、音楽教師
小林(15)……女子高校生、一年生
...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

登場人物

野中(18)……女子高校生、三年生
生田(18)……女子高校生、三年生。野中の友人
矢島(24)……野中の担任、音楽教師
小林(15)……女子高校生、一年生

○高校・音楽室(夕方)
  誰もいない放課後の音楽室。
野中(18)がピアノを弾いている。
  曲はサウンド・オブ・ミュージックの「私のお気に入り」。
  扉が開き、生田が入って来る。
生田「ごめん、野中。お待たせ」
  ピアノを止め
野中「大丈夫だよ」
生田「矢島ちゃんの進路指導が長くてさ」
野中「私、大丈夫かな」
野中、鞄を持ち、帰り支度をする。
生田「野中なら大丈夫でしょ」
野中、音楽室の電気を消し、生田と出て行く。

○同・校庭
  薄暗い校庭を横切って歩いている野中と生田。
生田「野中のピアノ久しぶりに聴いた」
野中、自嘲ぎみに
野中「下手になってたでしょ」
生田「そんなことないよ」
  野中の耳にピアノの音が聞こえる。
  曲は「私のお気に入り」。
  野中、立ち止まり、校舎を見ると4階の音楽室に明かりがついている。
生田「野中?」
野中「……『あの子』だ」
生田「どうしたの?」
野中「ごめん、先に行ってて」
  野中、校舎に向かって走り出す。

○同・階段
  野中が駆け上がっていく。
  音はだんだん大きくなる。

○同・4階廊下
  野中、息を切らせてたどり着くが、音楽は止んでいる。
  音楽室前にやって来る。
  意を決っして扉を開けるが、音楽室には誰もいない。

○「あの子」のピアノ

○ファミレス
  野中と生田、テーブル席で苺のデザートを食べている。
  浮かない顔の野中。
野中「生田は進路希望なんて書いたの?」
生田「スーパーモデル」
  野中、笑い
野中「何それ?」
生田「野中は音大?」
野中「無理だよ」
生田「何で?」
野中「もうピアノ辞めて1年以上経つし」
  生田、驚き
生田「そうだったの?」
野中「うん、それに結局、一度も『あの子』に勝てなかったし」
生田「『あの子』って高校で会ったんじゃないの?」
野中「小さい頃からコンクールでよく会ってたんだ。だから、同じ高校になった時はビックリした」
生田「1年ってさ。あの事故から……」
野中「『あの子』が生きていたらどんなピアノを弾くんだろう」

○高校・下駄箱(朝)
  生徒たちで賑わっている。
  登校してくる野中。
  靴を履きかえているとまたピアノの音が微かに聴こえてくる。

○同・階段
  階段を上がっていく野中。
  段々と音は大きくなる。

○同・4階廊下
  野中がやってくると音は止んでいる。
  野中、音楽室の扉に手をかける。

○同・音楽室
  野中が開けるが、誰もいない。
  ため息をつく。

○同・裏庭
  箒を持った野中が掃除している。
  生田が持つちり取りにゴミを入れている。
野中「今朝さ、またあのピアノの音がしたんだよね」
生田「矢島ちゃんが弾いてんじゃない?」
野中「そうかな」
生田「あんまり気にし過ぎないほうがいいと思うよ」
  野中、校舎を見上げている。
生田「野中?」
野中「聞こえる」
  ピアノの音が聴こえてくる。
  野中、外付けの非常階段を駆け上りだす。
生田「野中!」

○同・非常階段
  野中、駆け上っている。
  4階に来て下を見る野中。
  高所恐怖症の野中、眩暈を起しかけるが立ち直る。
  重い鉄の扉を開けると音は消えている。

○同。音楽室
  野中が入って来ると、音楽教師の矢島が立っている。
矢島「どうしたの?」
野中「今のピアノ、先生が弾いてたんですか?」
矢島「ピアノ? 私は忘れ物を取りに来ただけだけど」
野中「他に誰かいませんでした?」
矢島「私が来たときには誰もいなかったよ。……靴どうしたの?」
野中、足元を見るとスニーカーのままである。
野中「あっ」
矢島「まぁ、いいけど。それより明日の進路面談なんだけど……本当に音大じゃなくていいの?」
野中「……はい」
矢島「もう一度、ご両親と話し合ってみて」
  矢島、出て行く。
  俯いている野中。

○野中家・居間
  野中、ピアノを見ている。

○高校・教室前(夕方)
  並べられた椅子に野中が座っている。
  進路指導の用紙を持っているが、音大の名前は無い。
  自分で書いた用紙を見ていると、ピアノの音色が聴こえてくる。
  野中、立ち上がり、音のする方を見る。
  扉が開き、矢島が生徒と出てくる。
矢島「まぁ、焦らないで、もう一度考えて見てね」
生徒「はい」
  矢島、野中を見て
矢島「野中さん?」
  野中、答えず、走り出す。
矢島「野中さん!」

○同・階段
  夕陽が差し込む階段を上がっていく野中。
  音楽は段々と大きくなる。

○同・4階廊下
  野中、やって来ると、音楽は鳴りやんでいる。
野中「バカにしてるの?」
  音楽室に向かって歩き出す。
野中「……最後まであなたに勝てなかった私を!……あなたがいなくなってピアノを辞めた私を!」
  音楽室の扉の前に立つ。
野中「……それでもあなたに会いたいって思ってる私を!」
  野中、扉を開く。

○同・音楽室
  女子生徒、小林(15)がピアノに座っている。
野中「……あなた、誰?」
小林「……1年の小林です」
野中「小林って」
  二人の間に沈黙が流れる。
  小林、意を決して
小林「先輩、ここでピアノ弾いてた人知りませんか?」
野中「?」
小林「一昨日の放課後、突然お姉ちゃんの好きだった曲が聴こえてきて……でもここに来たら誰もいなくて」
野中「お姉ちゃん?」
  小林、必死に伝えようとするあまり、取り留めのない話し方になってしまう。
小林「……お姉ちゃんは事故で死んじゃって……家だとお父さんもお母さんも、お姉ちゃんを思い出すからピアノやめろって……本当はこの高校に来るのも反対されたんです。でもあの曲を聴いて、どうしてもピアノを弾きたくなって……」
  言葉に詰まる小林。
  小林に近づく野中。
  小林の震える手を握り、
野中「私だよ。『あの子』のピアノを弾いていたの私」
  野中、優しい眼差しで小林を見る。

(完)

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。