<登場人物>
満田 朋哉(16)(26)下請け業者社員
明智 美香(25)空調機メーカー社員
新海 朗(32)(42)下請け業者社長
<本編>
○民家・外観
施工業者のトラックが停まっている。
○同・リビング
床暖房の設置作業を行う満田朋哉(26)ら作業員達。
満田「ほい、次のパネルちょうだい」
満田M「床暖房」
× × ×
作業が完了した室内。子供達が寝転がるなどしている。
満田M「それは家の中の小さなオアシス」
○事務所・外観
駐車場にトラックが停まっている。花壇には花が咲いている。
満田M「俺は、そんな小さなオアシスを作る」
○同・オフィス
満田ら従業員の前に立つ新海朗(42)。
満田M「小さな小さな仕事をしている」
新海「みんな。月に行きたくはないか?」
満田「はい?」
○メインタイトル『床暖房設置物語 ~月面基地編~』
○(ニュース映像)
月面に建設された基地。
美香の声「人類による宇宙開発の新たなる拠点・国際月面基地が完成したのが、約一年前」
○(イメージ)月面基地
暑がったり、寒がったりする多国籍の宇宙飛行士達。
美香の声「しかし月面の気温は、昼間は一一〇度、夜はマイナス一七〇度。暑くて寒い。空調設備をフル活用して、昼間は何とか凌いでいるけど、夜はきつい」
会話をする多国籍の宇宙飛行士達。
美香の声「(映像の宇宙飛行士達が話しているかのように)『おいおい、この寒さ何とかならないのかよ』『これ以上、暖房かける訳にもいかないだろ?』『じゃあ、床暖房を導入しよう』『それいいね』」
○事務所・オフィス
明智美香(25)の話を聴く満田ら従業員達と、美香の隣に立つ新海。
美香「……という訳で、弊社の床暖房システムをご購入いただき」
新海「その設置作業をウチが請け負った、という話だ。いつもの事だろ? 作業場所が『月』な事以外は」
満田「そこが問題なんスけどね」
美香「ご安心ください。交通費は弊社が負担いたしますし、私も通訳兼弊社代表として帯同いたしますので」
新海「行きたいだろう? 月だぞ?」
満田「……まぁ、俺は社長がそう言うなら」
頷く従業員達。
満田「で、いつ行くんスか? さすがに今日明日って話じゃないっスよね?」
美香「当然です。まずは宇宙に行くための準備をしていただきます」
満田「準備?」
○宇宙センター・外観
○同・中
ランニングマシン上で走る満田、新海、美香ら。倒れ込む満田。周囲には同じく倒れ込んだ従業員達の姿。
満田「きっつ……」
× × ×
重力加速度訓練を受ける満田、新海、美香ら。失神する従業員も多数おり、満田も終えた頃にはフラフラ。
満田「何だ、これ……」
○事務所・更衣室
着替えをする満田ら従業員達。疲労困憊の様子。人数も減っている。
○宇宙センター・中
座学を受ける満田、新海、美香ら。睡魔と戦う満田。
× × ×
閉鎖環境訓練を行う満田、新海、美香ら。耐えられず発狂する従業員も出てくる。
○事務所・外観(夜)
○同・更衣室(夜)
着替えを終える満田。周囲を見回すと満田以外の全てのロッカーが空。
○同・オフィス(夜)
席の上にある退職届の山を見つめる新海。そこにやってくる満田。
満田「社長、お疲れ様っス」
新海「……なぁ、朋哉。俺、間違ってんのかな?」
満田「え?」
新海「俺は子供の頃、宇宙飛行士になるのが夢でな。でも、みんなは違う。もしかして俺は自分の夢を、『月に行きたい』って夢を、押し付けてるだけなのかな?」
満田「……かもしんないっスね。訓練、きついっスもん」
新海「そうか……」
満田「でもね、社長。世の中には、自分一人じゃ夢見つけらんない人間もいるんスよ」
笑う満田。
満田「そういう人間からしたら、むしろありがたいっス」
新海「朋哉……」
満田「じゃあ、お先っス」
出ていく満田。
○同・前(夜)
出てくる満田。空を見上げる。尚、花壇の花は枯れている。
満田の声「上等だ、こら!」
○(回想)満田の実家
母親と口論する満田(16)。
満田「こんな家、二度と帰るか!」
○(回想)事務所・前
大荷物を抱え、花壇に腰掛ける満田。その肩を叩く新海(32)。
新海「小僧、家出か?」
満田「……関係ねぇだろ」
新海「行く所ないなら、ウチに来るか?」
満田「え?」
新海「ウチでいい夢、見させてやるよ」
笑う新海。
○同・同(夜)
空を見上げる満田、月に手を伸ばす。
満田「待ってろよ。月」
○公園(夜)
走ったり、筋トレをしたりする満田。
○宇宙センター・中
ランニングマシン上で走る満田、新海、美香。走り切る満田。
○寮・満田の部屋(夜)
勉強する満田。
○宇宙センター・中
宇宙船の操縦シミュレーターを使って訓練する満田。的確にスイッチを選ぶ。
× × ×
座学を受ける満田、新海、美香。
○事務所・前
花壇の花に水をやる新海。
○同・オフィス
分厚い手袋を手にチューブを配管する練習をする満田と、アドバイスする新海。
○宇宙センター・中
宇宙服を着て、水中でチューブを配管や床下での作業の訓練をする満田。見事にこなす。
× × ×
重力加速度訓練を受ける満田、新海、美香。耐えきる満田の姿を見て笑みを浮かべる美香。
○雪原(夜)
サバイバル訓練を受ける満田、新海ら。焚火を囲みながら寒さに震える。
○同(朝)
美香や多国籍の訓練スタッフが待つ拠点に、無事に戻ってくる満田、新海ら。
○宇宙センター・発射場
スペースシャトルの打ち上げ準備中。
× × ×
宇宙服姿で並んで歩く満田、新海、美香(『アルマゲドン』風)。
満田の声「あ、もしもし、おふくろ?」
○(回想)寮・満田の部屋(夜)
スマホで通話する満田。
満田「俺、今度宇宙に行く事になったわ」
○宇宙センター・発射場
発射されるスペースシャトル。
満田の声「お土産、楽しみにしといて」
○事務所・外観
花壇には花が咲いている。
(完)
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