<登場人物>
福田 理沙(27)修理業者
直江 修司(30)無職
上木 (29)理沙の婚約者
直江の母
<本編>
○メインタイトル『エア婚』
○アパート・外観
「直江」と書かれたポストにはチラシが大量に詰まっている。
○同・直江の部屋
足の踏み場もないほど散らかり放題の室内。寝転がる直江修司(30)。エアコンのリモコンを押すが、反応しないエアコン。
直江「……」
× × ×
インターホンの音。
理沙の声「エアコンの修理に伺いました~」
玄関にやってきて扉を開ける直江。ただしドアチェーンを付けた状態。扉の外に立つ福田理沙(27)。
理沙「(ドアチェーンを見て)? あの……直江様、ですよね?」
一度扉を閉め、チェーンを外す直江。
理沙「すみません、お邪魔いたしま……(室内の惨状を見て)え!?」
直江「……もう靴のままでもいいですよ」
理沙「いや、そういう訳には……え~……」
× × ×
足の踏み場がある程度には片付いた室内。中身の詰まったゴミ袋を手に持った理沙と、部屋の隅に座る直江。
理沙「さて、と。やっとスタートラインか」
申し訳なさそうに軽く頭を下げる直江。
理沙「(エアコンの調子を見ながら)なるほどな……。室外機って、ベランダですか?」
頷く直江。
理沙「では、ベランダ失礼しますね」
カーテンを開ける理沙。窓から見えるベランダ、やはりゴミの山。
理沙「う~わ~」
直江を見やる理沙。目をそらす直江。
× × ×
片付いたベランダ。
稼働するエアコン。それを見ている直江と理沙。
理沙「(疲れた様子で)直りました……」
軽く頭を下げる直江。
理沙「(エアコンを指し)あと、吹き出し口の羽の部分がそろそろ経年劣化っぽいんですけど、ついでに交換します?」
直江「(目も合わせず)結構です」
理沙「そう、ですか……。では(書類を出し)コチラにサインをお願いします」
直江「……ペン、ありますか?」
理沙「あぁ、はい。(ペンを渡し)どうぞ」
○アパート・外観
○同・直江の部屋
扉を開ける直江。ただしドアチェーンを付けた状態。扉の外に立つ理沙。
理沙「エアコンの修理に伺いました」
× × ×
エアコンの修理をする理沙とその様子を見ている直江。エアコンの吹き出し口の羽が割れている。
理沙「(小声で)だから前に言ったのに……」
直江「……何か言いました?」
理沙「いえ、何でも」
直江「いいですよ。バカにしたければ、すればいい」
理沙「いや、別にそこまで……」
直江「どうせ『働かない男なんて』って思っているんでしょ? こっちだって、好きで引き籠ってる訳じゃないんだ」
理沙「思いませんよ、そんな事」
直江「……」
理沙「私だって、働かなくても生きていけるなら、働きませんよ。ただ……」
直江「ただ?」
理沙「『働いていない自分』が嫌なら、働くか、好きになるか、どっちかにした方がいいんじゃないですかね?」
直江「……選んでいいんですかね?」
理沙「選ぶくらい、いいんじゃないですか? (作業を終え)はい、終了です」
○直江の実家・外観
一軒家。
インターホンの音。
○同・玄関
扉を開ける直江。そこに立つ理沙。
理沙「エアコンの修理に伺いま……え?」
直江「……実家です」
理沙「あ、なるほど……」
○同・居間
直江に連れられ入ってくる理沙。
そこに立っている直江の両親。
理沙「失礼いたします」
直江「……両親です」
直江の母「修司の母です。息子がいつもお世話になって」
理沙「? あの、エアコンはどちらに?」
直江の母「あぁ、コッチです。それにしても、まさかこんな日が来るなんて……」
理沙の声「いや~、参りましたね」
○同・玄関
帰り支度をする理沙を見送る直江。
理沙「お母さん、完全に勘違いされてて。ちゃんと言っておいてくださいよ?」
直江「……勘違いじゃないです」
理沙「え?」
直江「福田さん。僕が再就職できたら、結婚してくれませんか?」
理沙「はい? け、結婚? もう、からかわないでくださいよ」
直江「僕は本気です。お願いします」
頭を下げる直江。
理沙「……私、婚約者がいるんで」
直江「……そう、ですか」
理沙「この仕事も、もうすぐ辞めるんで。……さようなら」
出ていく理沙。
○同・外
鼓動を確認する理沙。
○上木家・外観
おしゃれな一軒家。
○同・リビング
笑顔で食卓を囲む理沙と上木(29)。
○同・外観
理沙の声「どういうつもり!?」
○同・寝室
裸で正座する上木を見下ろす妊婦姿の理沙。ベッドには裸の女もいる。
理沙「私が実家に帰ってる間に女連れ込んで。信じらんない!」
上木「……っせぇな」
理沙「え?」
上木「こっちはお前の分まで外で働いてんだよ。これくらい良いだろ」
理沙「何それ。浮気しといて逆ギレ?」
○同・リビング
テーブルの上に置かれた、理沙の名前が記入された離婚届と指輪。
○理沙の実家・外観
○同・リビング
求人誌を手にスマホで通話中の理沙。
理沙「はい、はい。そうですか……わかりました。失礼いたします」
通話を切り、求人誌にバツ印を付ける理沙。その近くで泣きわめく理沙。
理沙「もう、どうしたの?」
部屋のエアコンの異常に気付く理沙。
× × ×
家計簿をつける理沙。頭を抱える。
理沙「あーあ、もう……」
忌々し気にエアコンを見つめる理沙。
理沙「部品さえあれば、自分やるのに……」
インターホンの音。
直江の声「エアコンの修理に伺いました」
○同・玄関
扉を開ける理沙。そこに立っている、修理業者姿の直江。
理沙「すみません、よろしくお願いします」
直江「……お久しぶりです」
理沙「? (思い出し)直江さん!?」
○同・リビング
エアコンの修理を終える直江。その様子を見ている理沙。
直江「作業、終わりました。どうでした?」
理沙「うん。完璧だと思います」
直江「良かった。では、コチラにサインをお願いします」
理沙「は~い」
理沙に婚姻届けを手渡す直江。
理沙「え……?」
直江「……覚えてますか? 『再就職できたら、結婚してください』って話」
理沙「覚えてます。覚えてますけど、あの時、お断りしたハズじゃ……?」
直江「でも、それで僕が諦めるか諦めないか、選ぶくらい良いんじゃないですか」
理沙「……」
直江「お願いします」
頭を下げる直江。
理沙「直江さん」
直江「はい」
理沙「……ペン、あります?」
(完)
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