『どうも、探偵部部長の大森です。』第10話「多数決でわかるのは、多数派か否かだけだ」 学園

生徒会長選挙に立候補した佐野詩織(17)は「探偵部の廃部」を公約に掲げていた。阿部紗香(17)らはそれを阻止するために対立候補の応援を始ようとするが、大森宗政(18)は何故か乗り気ではなくて……。
マヤマ 山本 7 0 0 02/09
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第一稿

<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 ...続きを読む
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<登場人物>
阿部 紗香(17)愛丘学園高校2年
大森 宗政(18)同3年、探偵部部長
沢村 諭吉(16)同1年、探偵部員
須賀 豊(18)同3年、パソコン部部長
鈴木 友美(17)同2年、紗香の友人
佐野 詩織(17)同2年、風紀委員
阿部 静香(42)紗香の母
阿部 公太(9)紗香の弟
保科 亜紀(30)養護教諭
岡本 久典(51)紗香の担任、探偵部顧問

宮下 大和(17)生徒会長候補
杉山 修(18)探偵部副部長
生徒会長(18)

武田 飛鳥(18)第2話ゲスト
山田 善人(16)第3話ゲスト
青井 純平(18)第6話ゲスト
堂本 舞(17)第7話ゲスト
有川 皆実(17)第8話ゲスト
松永 文也(17)第1話ゲスト、回想のみ
中岡 翔(18)第3話ゲスト、回想のみ
内藤 祐輔(18)第4話ゲスト、回想のみ
市村 みのり(18)第5話ゲスト、回想のみ
江口 辰彦(45)第6話ゲスト、回想のみ
濱口 由梨(17)第9話ゲスト、回想のみ



<本編>
○愛丘学園・外観
   T「月曜日」
大森M「あらゆるものに、終わりはある」

○同・廊下
   掲示板に貼られた佐野詩織(17)と宮下大和(17)の生徒会長選のポスター。
大森M「学校に、卒業があるように」
詩織の声「この乱れた学園の風紀を、今こそ正そうじゃありませんか」

○同・中庭
   「佐野詩織」と書かれたタスキをかけ、演説をする詩織。周囲には多数の生徒達。
大森M「役職に、任期があるように」
詩織「その実現のため、私が生徒会長に当選した暁には、次の公約を掲げます」
   それを聴いている阿部紗香(17)、大森宗政(18)、沢村諭吉(16)。
大森M「部活動に、廃部があるように」
詩織「まずは……探偵部の廃部です」
紗香「え!?」
   さらに盛り上がる、詩織の周囲の生徒達。
大森M「そして……」
   振り返り、カメラ目線になる大森。
大森「ドラマに、最終回があるように」

○メインタイトル『どうも、探偵部部長の大森です。』
   T「第10話 多数決でわかるのは、多数派か否かだけだ」

○愛丘学園・中庭
   演説をする詩織。周囲には紗香、大森、沢村ら多数の生徒達。
詩織「探偵部とは本来、学園内のトラブルをスピーディーに解決させるために存在する部です。その為、彼らには様々な情報にアクセスする、特別な権限が与えられています」

○(回想)同・パソコン室・中
   スマホを取り出す大森。江口辰彦(45)の映像がリアルタイムで映し出されている。
詩織の声「しかし彼らは、その権利を悪用して盗聴、盗撮を繰り返し」

○(回想)同・探偵部部室・中
   中岡翔(18)が他校の不良にカツアゲされている写真。
詩織の声「弱みを握って、言う事を聞かせ」

○(回想)同・会議室・中
   席に座る詩織、その正面に立つ大森。
詩織の声「得られた調査結果を秘匿し、事実と異なる報告をする」

○愛丘学園・中庭
   演説をする詩織。周囲には紗香、大森、沢村ら多数の生徒達。
詩織「このような悪行を許していては、いつまで経っても学園の秩序は守られません。むしろ一部の生徒に特権を与えるからこそ、歪みは生じるのです。よって探偵部は、即刻廃部とすべきなのです!」
   盛り上がる周囲の生徒達。
   勝ち誇ったように紗香を見やる詩織。
紗香の声「どうするんですか!?」

○同・探偵部部室・前
紗香の声「このままじゃ廃部ですよ?」

○同・同・中
   部長席に座る大森の前に立つ紗香。
紗香「でもまさか、佐野さんがあそこまで探偵部に恨み持ってたなんて……。あ、もしかして、この間私達を利用して濱口さんを会長選から辞退させたのも佐野さん……?」
   のんびりとお茶を飲む大森。
紗香「もう、何とか言って下さいよ!」
大森「言いたい事があるなら僕ではなく、あの場で佐野ちゃんに反論すれば良かったんじゃないかい?」
紗香「仕方ないじゃないですか。佐野さんが言ってた事、あながち間違いじゃなかったんですから」
大森「そうかな? 実際はあんなもんじゃ……」
紗香「その先は言わなくていいです。それより、投票日は今週末なんですから、もう時間ないんですよ!」
大森「そのようだね」
紗香「だから……」
沢村の声「あの、先輩方……」
   振り返る紗香。入口に立つ沢村と宮下。
沢村「お客さんです」
宮下「その悩み、僕に解決させてもらおうか」
    ×     ×     ×
   応接用の席に向かい合って座る紗香、大森と宮下。大森の手には依頼書。
紗香「選挙の応援?」
宮下「そういう事。探偵部を味方に付けて、僕が選挙に勝つ。そうすれば、僕は生徒会長という立場にありつけるし、探偵部の廃部は回避できる。まさにウィンウィンでは?」
紗香「確かに。そうなれば願ったりかなったりだ。ですよね、大森先輩?」
大森「もちろん、承りかねるね」
紗香「(食い気味に)何でですか?」
大森「阿部ちゃんも反応が速くなってきたね」
紗香「お褒めの言葉は結構なので、断る理由を教えてもらっていいですか?」
大森「探偵部というのは、中立公平な存在でなければならないんだよ。特に生徒会長選となれば尚更だ。わかってもらえるかな、宮ちゃん?」
紗香「宮ちゃんって。(宮下に)あ~、えっと、この人……」
宮下「知ってるよ。そういう人なんでしょう?」
紗香「話が速くて助かる」
宮下「それに、探偵部の立ち位置も知ってる。だから今までこういう依頼は避けてきた。でも、状況が変わったのでは?」
紗香「そうですよ。宮下君が負けたら、探偵部が廃部なんですから」
大森「先ほどから『勝つ』『負ける』などと言っているけど、選挙なんてただの多数決だろう?」
紗香「だから、多い方が勝つ訳で……」
大森「多数決でわかるのは、多数派か否かだけだろう? そこに勝つも負けるもあるまい」
紗香「民主主義に喧嘩売るつもりですか?」
大森「そこまで言ったつもりはないが、場合によっては独裁の方が良い結果を生む可能性がある事には言及しておこう」
紗香「じゃあ、大森先輩は何に引っかかっているんですか?」
大森「選挙で選ばれる事、落ちる事自体は『勝ち負け』ではない。選挙で多数派に選ばれた人間がきちんと結果を出す。そうして初めて『多数派の勝利』と言えるんじゃないかい?」
紗香「でも、多くの人が納得しているんだから、それが良い事なんじゃないんですか?」
大森「では、聞こう。あるクラスで、イジメがある。そのイジメを受けている生徒をA君としよう。そのクラスで『A君のイジメを止めるべきか否か』と多数決を取ったら、阿部ちゃんはどちらに賛成するかい?」
紗香「もちろん『イジメを止めるべき』に一票入れます」
大森「では、宮ちゃんは?」
宮下「反対するかな」
紗香「え!?」
宮下「そのA君へのイジメが無くなれば、自分が次のイジメのターゲットになる可能性がある。正直、デメリットしかないのでは?」
大森「おそらく、その意見が多数派を占めるだろうね。誰だってB君にはなりたくない。逆にA君がイジメられ続けている限り、A君以外の人間に損がない。これが、多数決だ」
紗香「あ~、もう。わかりました。それはそれとして、話を戻しますよ? 探偵部を存続させるためには、宮下君を当選させるしかない、って話じゃないですか」
大森「それで終わるのなら、その程度の部だったという事だろう」
紗香「急にあっさりと……」
大森「あっさりにもなるさ。何せ僕は、もう引退するんだからね」
紗香「なっ……」
大森「もっと言えば、どちらが生徒会長になろうが、僕ら現三年生の学園生活にさしたる支障はない。強いて言うなら、卒業式の送辞だろうけど、どうせ定型文で済まされるのだろう? だったら……」
   机を勢いよく叩く紗香。
紗香「もう結構です。大森先輩のご意見は痛いほどわかりました」
大森「そうかい。では、今回の依頼は……」
紗香「今回の依頼、承ります」
大森「何だって?」
宮下「本当かな? 助かるよ。さすが、持つべきものはクラスメイトだ」
沢村「あ、そういえばそうでしたね」
紗香「まぁ、今はそれ、あんまり関係ないけど」
大森「阿部ちゃん、勝手に依頼を承られても困るね」
紗香「どうせ引退するんだから、黙っててください。これは私達、一、二年生の問題です」
大森「ほう……」
   大森を睨みつける紗香と、それを見て面白そうに笑う大森。

○同・パソコン室・前
紗香の声「……っていう事があった訳ですよ」

○同・同・中
   須賀豊(18)の隣の席に座る紗香。
紗香「本当、変な人だとは思ってましたけど、あそこまでとは……」
須賀「ハハハ、阿部ちゃんも大変だね~」
紗香「という訳で、大森先輩はアテにならないんですけど、須賀先輩は協力してくれますよね?」
須賀「う~ん、どうだろう?」
紗香「何でですか? まさか、須賀先輩も引退した後の事はどうでもいいとか思ってるんですか?」
須賀「そんな事ないよ。むしろ、逆。可愛い後輩達には、より良い学園生活を送ってもらいたいと思ってるよ」
紗香「だったら……」
須賀「だからこそ、だよ」
紗香「だからこそ?」
須賀「今回の生徒会長候補の二人、佐野さんと宮下君。彼らのこれまでの経歴、学業成績、生活態度、人間性……それらを独自に数値化して検証すると、あらゆる面で『佐野さんの方が生徒会長に相応しい』という結論が導き出されるんだよね」
紗香「そんな……」
須賀「ちなみに、阿部ちゃんはクラスメイトとして宮下君を見てきたんでしょ? どう?」
紗香「……無駄に偉そう」
須賀「ハハハ、言うねぇ。じゃあ、佐野さんは?」
紗香「凄く真面目。融通利かないけど」
須賀「それでも、探偵部存続のためだけに、宮下君の応援を出来る?」
紗香「……じゃあ、須賀先輩は探偵部が無くなってもいいって言うんですか?」
須賀「そんな事言われてもさ。俺、パソコン部だし」
紗香「それは、そうですけど……」

○同・保健室・前
   うめき声にも喘ぎ声にも聞こえる声。

○同・同・中
   ベッドに横たわり保科亜紀(30)から整体の施術を受けている岡本久典(51)。
岡本「お、おぉ……さすがの腕前ですな、保科先生」
亜紀「あら、まだまだですよ? それ」
岡本「う、お、い、痛たたた……」
   その様子を冷めた目で見ている紗香。
紗香「……」
亜紀「……で、阿部さん。誰の話だったかしら?」
紗香「あ、はい。生徒会長候補の宮下君です」
亜紀「宮下大和君、ね。確かに、いい噂も悪い噂も聞くわね」
岡本「お、おぉ……」
紗香「いい噂は?」
亜紀「常に自信を持ってるわね。そういう男の子、いいと思わない?」
岡本「が、あぁ……」
紗香「自信か……。うん、生徒会長には向いてる気がする。で、悪い所は?」
亜紀「ちょっと過信してる所があるかしらね」
紗香「ダメじゃないですか」
亜紀「でもそういう男の子も、可愛いわよね」
紗香「(無視して)ちなみに、対立候補の佐野さんはどうですか?」
亜紀「佐野詩織さん、ね。確かに、いい噂も悪い噂も聞くわね」
岡本「ぬ、おぉ……」
紗香「悪い噂は?」
亜紀「ちょっと融通が利かない所があるわね。あと探偵部の事、大分嫌ってるみたいかな。(岡本への施術を終え)どうです?」
岡本「あ~、大分楽になりましたな」
紗香「っていうか、ずっと何やってたんですか?」
岡本「整体だよ。保科先生が、施術できるって聞いてな」
亜紀「阿部さんにもしてあげようか? オプション、サービスするわよ?」
紗香「結構です」
亜紀「あら、残念」
岡本「そういえば、探偵部は今大変らしいな」
紗香「そうなんですよ。先生方にも、何かとお力添えをお願いしたいんですけど」
亜紀「ごめんね。私も教員っていう立場上、一部の生徒に過度に肩入れする訳にはいかないの」
紗香「そんな……でも岡本先生は担任だし、宮下君の応援してくれますよね?」
岡本「う~ん……宮下って、あんまり生徒会長っぽくない気がするんだけどな。だから今の所、佐野に入れようと思ってるよ」
紗香「いや、先生に投票権ないですから」
岡本「あれ、そうだったっけか?」
紗香「お二人も、探偵部が廃部になってもいいって思ってるんですか?」
亜紀「そういう訳じゃないけど。でもまぁ、安心して、阿部さん。もし廃部になったら、余った時間で先生があんな事やこんな事、教えてあげるから」
岡本「お~。良かったな、阿部」
   ため息をつく紗香。

○同・探偵部部室・前

○同・同・中
   肩を落とし入ってくる紗香。
紗香「はぁ……誰も協力してくれないなんて」
杉山の声「遅いぞ、阿部っち!」
紗香「え?」
   顔を上げる紗香。応接用の席に向かい合って座る沢村と杉山修(18)
杉山「結論から言おう。さっさと座れ」
紗香「杉山先輩!?」
杉山「沢村っちに呼ばれてな。大森はどう思っているか知らねぇが、伝統ある探偵部を自分達の代で終わらせたとなったら、末代までの恥だからな。力になるぜ」
紗香「ありがとうございます。沢村ちゃんも。っていうか、沢村ちゃんが手伝ってくれるなんて意外だな。てっきり、大森先輩に付くと思ってたから」
沢村「僕だって、探偵部がなくなったら困りますし、先輩方が探偵業に専念できるように努めるのが、助手の役目ですから」
紗香「沢村ちゃん……」
杉山「じゃあ、そろそろ作戦会議始めるぞ。タイムイズマネーだ」
紗香「はい!」

○同・外観
   T「火曜日」

○同・校門
   登校する生徒達。
   宮下のポスターが貼られ、「宮下大和」と書かれた幟が立っている。
紗香の声「宮下大和、宮下大和」
   ビラ配りをする紗香、沢村、杉山。
紗香「生徒会長選挙は是非、宮下大和に清き一票をお願いします」
沢村「よろしくお願いします」
   杉山の元に歩み寄る紗香。
紗香「何か、随分と原始的なやり方ですね」
杉山「こういうのは、草の根運動に限る」
紗香「そうですけど……杉山先輩はもっと、時短でやる方かと思っていたので」
杉山「あえて時間をかける事で価値を高める。これもある意味、タイムイズマネーだ」
紗香「なるほど……」
宮下の声「ちょっといいかな?」
   振り返る紗香と杉山。そこに立つ宮下。
紗香「あ、宮下君。おはよう」
杉山「おう、宮っちか」
紗香「宮っちって」
宮下「これは……何を?」
杉山「見ての通り、ビラ配りだ」
紗香「探偵部として、宮下君の応援を……」
宮下「いやいや、もっと他にやる事があるのでは?」
紗香「他にやる事?」
宮下「(ため息交じりに)わかった。一旦部室で話せるかな?」
紗香「あ~、うん……」

○同・探偵部部室・前
   「宮下大和選挙事務所」の張り紙。

○同・同・中
   部屋中に宮下のポスターが貼られ、先の幟の他、ダルマや宮下の等身大パネルが置かれる等、選挙事務所と化した室内。
   応接用の席に向かい合って座る紗香、杉山と宮下。そこにお茶を運んでくる沢村。
宮下「(室内を見回し)……模様替え?」
紗香「(杉山を見て)形から入る人みたいで」
杉山「で、話って何だ?」
宮下「そうそう。コレを」
   一枚のリストを紗香に渡す宮下。
紗香「何のリスト?」
宮下「佐野詩織の支持者リストだ」
紗香「え?」
杉山「……こんなもん、どこで手に入れた?」
宮下「どこだっていいのでは?」
紗香「このリストを見せて、私達にどうしろって?」
宮下「彼らの事、片っ端から調べて、弱みを握ってくれないか?」
紗香「!?」
杉山「何?」
沢村「どうされるおつもりですか?」
宮下「決まっているだろう? 僕サイドに寝返ってもらうんだよ」
紗香「脅す、って事?」
宮下「探偵部なら、それくらい出来るのでは? もちろん、佐野詩織本人の弱みを握ってくれても構わないけど」
杉山「断る」
宮下「へぇ」
杉山「伝統ある探偵部をそんな風に利用しようなど、たとえ阿部っちが頷いても、俺が許さねぇ」
紗香「いや、私だって引き受けないですよ」
沢村「僕も同意見です」
宮下「そう。じゃあ、廃部だ」
紗香「なっ……」
杉山「何だ、もう白旗宣言か?」
宮下「まさか。ただ、僕に協力してくれないなら、僕が生徒会長に選ばれた際の公約が一つ増えるだけだ」
紗香「公約が増える?」
宮下「『探偵部の廃部』ってね。そうしたら、どうなる?」
紗香「それは……どっちが当選しても、廃部」
宮下「そうなって困るのは、そちらサイドなのでは?」
紗香「……」
宮下「で、答えは?」
紗香「少し、考えさせて」
杉山「おい、阿部っち」
宮下「そんな時間なんて無いのでは? ……と言いたいところだけど、仕方ない。一日だけ待ってあげよう」
   リストを持って立ち上がる宮下。
紗香「あ、一応そのリストは預からせてもらってもいい?」
宮下「断る。コレは『僕の応援をする』と約束出来る人にしか渡せないね。それじゃ」
   出ていく宮下。
沢村「阿部先輩……何か、お考えがあるんですよね?」
紗香「うん、まぁ……」
杉山「時間がない。結論から言え」
紗香「……これ、私の勝手な想像なんですけど」
    ×     ×     ×
   T「水曜日」
   選挙関連のグッズが無くなった、元通りの部室。
   応接用の席に向かい合って座る紗香と大森。紗香の手には詩織の支持者リスト。
紗香「間違いありません。コレです」
大森「そうか」
紗香「コレが、出てきたんですよね? 林田君のパソコンから。」
大森「あぁ。正確には削除されていたけど、須賀ちゃんが復元してくれたよ」
紗香「つまり、林田君を使って濱口さんを失脚させた黒幕は、宮下君……」
大森「宮ちゃんとリンちゃんが繋がっている以上、その可能性が高いと言えるだろう。それにしても、阿部ちゃん。よく気が付いたね」
紗香「まぁ、作りがパソコン部っぽかったりとか、頑なに持ち帰ろうとしたりとか、色んな理由はあるんですけど……」
大森「一番の理由は?」
紗香「やり口が似てるな、って。人の弱みに付け込んで……って」
大森「なるほど」
紗香「でも大森先輩は、最初から宮下君が怪しいと思ってたんじゃないですか?」
大森「僕の場合は消去法さ。佐野ちゃんのやり方とは思えなかったからね」
紗香「やっぱり……」
大森「で、どうするんだい? ぐっちゃんを辞退に追い込み、佐野ちゃんにも同様の事を仕掛けるため、探偵部の弱みに付け込んでくる宮ちゃんが、生徒会長に相応しいと思えるかい?」
紗香「……」
大森「そしておそらくだが、宮ちゃんは佐野ちゃんの弱みも握ろうとしたハズだ。けど、出来なかった。それだけ佐野ちゃんは品行方正という事だ。そんな佐野ちゃんを、探偵部を廃部させようとしているという一点だけで、生徒会長に相応しくないと言えるのかい?」
紗香「……」
大森「それでも探偵部を守るために、宮ちゃんの応援をするというのなら、もう僕は止めないよ。好きにしたまえ」
紗香「……わかりました」

○阿部家・外観(夜)

○同・リビング(夜)
   ソファーに座り、考え込む紗香。そこにやってくる阿部公太(9)。
公太「好きだね、悩むの。飽きない?」
紗香「うるさいな」
公太「何があったんだよ? かわいい弟君が聞いてやるよ?」
紗香「言ってもわかんないよ」
公太「ふ~ん」
   紗香を無言でじっと見つめる公太。
紗香「まぁ、話すと長くなるんだけど……」

○(回想)愛丘学園・探偵部部室・中
   宮下に頭を下げる紗香。
宮下「そうか。残念だよ」

○阿部家・リビング(夜)
   ソファーに並んで座る紗香と公太。
紗香「……という訳さ」
公太「じゃあ、探偵部潰れんの?」
紗香「これで良かったのかな……?」
公太「ふ~ん。……何か意外」
紗香「え?」
公太「だって姉ちゃん、いっつも文句ばっか言ってたじゃん? 探偵部の事嫌いなんだと思ってた」
紗香「あ……確かに。そうだよね。探偵部がどうなったって、別に元に戻るだけで。バカみたい、あんな……」

○(フラッシュ)各地
   紗香と大森の交流シーン。
紗香の声「あんなデリカシーのない変人先輩に」
    ×     ×     ×
   紗香と沢村の交流シーン。
紗香の声「その先輩に従順すぎる後輩に」
    ×     ×     ×
   紗香と須賀、亜紀、岡本らの交流シーン。
紗香の声「その周りにも、変な人ばっかで……」

○阿部家・リビング(夜)
   ソファーに並んで座る紗香と公太。
紗香「もう振り回されなくていいなら、全然、いい、ハズ、なのに……」
   紗香の頬を伝う涙。
公太「え?」
紗香「何で? 嫌だよ。まだ終わらせたくないよ。色んな人に出会えて、色んな人に『私』っていう人間を認めてもらえて……そんな場所、まだ失くしたくないよ」
静香の声「紗香……」
   振り返る紗香と公太。背後に立つ阿部静香(42)。
公太「……あっ、コレ、俺じゃないからね。姉ちゃんが勝手に泣いて……」
静香「紗香。泣いてても何も解決しないわよ?」
紗香「お母さん……」
静香「その気持ちを伝える相手は、私? 公太? 違うでしょ?」
紗香「あ……」
静香「ちゃんと、伝えるべき人に、伝えてきなさい。泣くのは、その後よ」
紗香「……うん。ありがとう、お母さん」
   立ち上がり、出ていく紗香。
公太「たまには、親らしい事言うじゃん……」
   泣き出す静香。
公太「え~」
静香「公太。お母さん、ちょっと厳しい事言いすぎたかな? やっぱり、もうちょっと寄り添ってあげるべきだったかな?」
公太「いや、別に良かったんじゃない?」
静香「ダメな母親でごめんね、紗香~!」
公太「あ~、もう。それ、姉ちゃんに直接言えよ~」

○愛丘学園・外観
   T「木曜日」

○同・中庭
   演説する詩織。周囲には多数の生徒。
詩織「……以上が『生徒会活動の可視化』についてでした。続いて『探偵部の廃部』について……」
紗香の声「ちょっと待った!」
   振り返る詩織ら生徒達。そこにやってくる紗香。
詩織「……何?」
紗香「探偵部の廃部は、考え直して……」
詩織「私の考えは変わらないから」
紗香「お願いします!」
詩織「(ため息交じりに)私の公約が気に入らないなら、宮下君の応援をすればいいだけの話でしょ?」
紗香「それが出来ないから、頼みに来たんじゃん」
詩織「じゃあ、諦めて」
紗香「何でそんなに探偵部を敵視するの?」
詩織「前にも言ったでしょ? 探偵部がいる事で、学園に歪みが生じてるの。私はそれを正したい。みんながソレを望んでいるの」
   賛同する周囲の生徒達。
紗香「それは違う!」
詩織「何が?」
紗香「探偵部は歪みを生んでいるんじゃない。歪みを直してるの」
詩織「直してる?」
紗香「確かに、探偵部は今まで、色んな問題を炙り出してきた」

○(フラッシュ)同・野球場・ロッカールーム
   ロッカーを閉める内藤祐輔(18)。
紗香の声「必ずしも、良い結果だったとは言えないかもしれない」

○(フラッシュ)同・探偵部部室・中(夜)
   応接用の席に座る市村みのり(18)。
紗香の声「実際、学園を去った人も居た」

○(フラッシュ)同・同・同
   涙を流す濱口由梨(17)。
紗香の声「傷つけた人も居た」

○(フラッシュ)同・二年五組・中(夕)
   松永文也(17)にペンダントを返す紗香。
紗香の声「私だって、その一人」

○同・中庭
   対峙する紗香と詩織。周囲には多数の生徒達。
紗香「でも、だからこそわかるの。元々自分達が、空気を読んだり、カッコつけたり、どこかでそういう無理をしていたんだ、って。探偵部はただ、その歪みに気づいてくれただけなんだ、って」
詩織「……」
紗香「確かに、歪みを直すには痛みが伴う。でも歪みを放置していたら、もっとひどくなる可能性だってある。傷つかない人生なんてない。でも、その傷を最小限にする事は出来る」
詩織「それが探偵部、とでも言いたいの? その役目なら、生徒会が担えばいいでしょ?」
沢村の声「それは違います」
   そこにやってくる沢村と杉山。
紗香「沢村ちゃん、杉山先輩……」
沢村「探偵部は、生徒会や風紀委員とはアプローチの仕方が違います。いわば、車の両輪です。共存できますし、共存して初めて大きな効果が期待できると思います。少なくとも、諦めたら叶いません」
杉山「まぁ、探偵部が居ると都合が悪ぃ奴らは多いんだろうが、『自分に都合がいい』生徒会長を選ぶ事は、正しい事は限らねぇぞ?」
   互いを見て頷き合う紗香、沢村、杉山。
紗香「(周囲の生徒達に)皆さんはどう思いますか?」
   黙り込む周囲の生徒達。
紗香「これでもまだ、探偵部を廃部すべきだと思われますか?」
詩織「私の意見は、貴方たちの自己弁護程度じゃ変わらない」
紗香「私は皆さんに聞いているんです。どう思ってますか?」
友美の声「私は、廃部に反対です」
   一歩歩み出る鈴木友美(17)。
紗香「あっ……」
友美「私も、探偵部がらみで大事な友達を傷つけてしまった事があります」

○(フラッシュ)同・廊下
   対峙する紗香と友美。
紗香「私、こんな事頼んでない!」
友美の声「でも、探偵部に悪意があった訳じゃない。探偵部は、敵じゃない」

○同・中庭
   対峙する紗香、沢村、杉山と詩織。その周囲には友美ら多数の生徒達。
友美「私達は、敵じゃない」
紗香「友美……」
舞の声「わ、わ、私も……」
   一歩歩み出る堂本舞(17)。
舞「あんなに大勢の前でお芝居が出来たのは、探偵部のおかげで……」

○(フラッシュ)同・演劇部部室・中
   満席の客席を前に芝居をする舞。
舞の声「あの経験は、今でも私の大事な思い出で……」

○同・中庭
   対峙する紗香、沢村、杉山と詩織。その周囲には友美、舞ら多数の生徒達。
舞「私からしたら、探偵部は神様みたいな人達です」
紗香「堂本さん……」
青井の声「俺も似たようなもんだな」
   一歩歩み出る青井純平(18)。
青井「確かに、誤解されやすい奴らなのかもしんねぇけどよ」

○(フラッシュ)同・裏手
   江口に腕を掴まれる青井。
青井の声「外面ほど、悪い奴らじゃねぇよ」

○同・中庭
   対峙する紗香、沢村、杉山と詩織。その周囲には友美、舞、青井ら多数の生徒達。
青井「俺からすりゃ、風紀委員の方がよっぽど信用ならねぇっての」
紗香「青井先輩……」
飛鳥の声「確かに、誤解はされてるかもね」
   一歩歩み出る武田飛鳥(18)。
飛鳥「この人達、案外優秀だから」

○(フラッシュ)大通り
   飛鳥を尾行する紗香。下手な尾行。
飛鳥の声「もし部活動に通知表があったら『5』はもらえるんじゃない?」

○愛丘学園・中庭
   対峙する紗香、沢村、杉山と詩織。その周囲には友美、舞、青井、飛鳥ら多数の生徒達。
飛鳥「この人達のせいで学校に居場所がなくなるなら、行かなくてもいいと思うし」
紗香「武田先輩……」
山田の声「俺はむしろ、本当の居場所を見つけてもらいました」
   一歩歩み出る山田善人(16)。
山田「それまでは歪みだらけの学園生活だったけど……」

○(フラッシュ)同・校庭
   仮設リングの上で中岡とボクシング対決をする山田。
山田の声「探偵部のおかげで、俺は変われたんです」

○同・中庭
   対峙する紗香、沢村、杉山と詩織。その周囲には友美、舞、青井、飛鳥、山田ら多数の生徒達。
山田「きっと皆さんにとっても、他人事じゃないと思います」
紗香「山田君……」
皆実の声「まぁ、ちょっとおせっかいだけどね」
   一歩歩み出る有川皆実(17)
皆実「いつか自滅するんじゃないかって、心配すらしてるよ」

○(フラッシュ)東中学校・屋上(夜)
   フェンスの向こう側に立つ皆実。
皆実の声「だから、わざわざ公約にして廃部にしなくても、もうちょっと自由にやらせていいんじゃない?」

○愛丘学園・中庭
   対峙する紗香、沢村、杉山と詩織。その周囲には友美、舞、青井、飛鳥、山田、皆実ら多数の生徒達。
皆実「運を天に任せて、さ」
紗香「有川さん……皆さん、ありがとう」
   詩織に向き直る紗香。
紗香「佐野さん。これでもまだ、探偵部を廃部させますか?」
   詩織を無言でじっと見つめる紗香。
詩織「……私の意見は変わらない。(周囲の生徒達に)どうしても探偵部を存続させたい方は、私に投票しなくても構いませんので」
   その場を立ち去る詩織。その後姿を見送る紗香。

○同・二年五組・前
   T「金曜日」
岡本の声「じゃあ、投票用紙に記入して」

○同・同・中
   教壇に立つ岡本と机に向かう紗香、宮下ら生徒達。
岡本「名前間違えると、無効になるから気をつけるんだぞ~」
   投票用紙に迷わず「宮下大和」と書く宮下。
   投票用紙を前に悩む紗香。迷った挙句、「佐野詩織」と書く。
生徒会長の声「それでは投票結果を発表します」

○同・体育館・前
   T「翌 月曜日」
生徒会長の声「宮下大和さん、一五二票。佐野詩織さん、七八四票」

○同・中
   集まる全校生徒。紗香、沢村、須賀、友美、杉山らもそれぞれクラスごとに座っている。
   壇上に立つ生徒会長(18)。
生徒会長「よって、次の生徒会長は二年八組、佐野詩織さんに決まりました」
   拍手で迎えられ、壇上に上がる詩織。入れ替わるように壇上から降りて着席する生徒会長。
詩織「この度、生徒会長に就任する事になりました、佐野詩織です。皆様のご期待に応えられるよう、精進いたします」
   再び拍手が起きる。
詩織「早速ですが、この場を借りて最初の公約を果たしたいと思います。たった今、この瞬間、探偵部を廃部とします」
   立ち上がる紗香。
紗香「ちょっと待って」
詩織「待ちません」
   立ち上がる沢村と杉山。
沢村「『この瞬間から』なんて、あんまりです」
杉山「俺が言えた義理じゃねぇが、事を急ぎすぎだろ」
詩織「しつこいですよ。これが、全校生徒の総意じゃないですか」
紗香「でも……」
大森の声「僕は待つべきだと思うよ、佐野ちゃん?」
   壇上に姿を見せる大森。ざわつく生徒達。
紗香「大森先輩!?」
大森「どうも、探偵部部長の大森です」
詩織「何の用ですか? もう結果は出たんです」
大森「そうかな? (生徒手帳を開き)佐野ちゃんの大好きな校則によると『部活動廃部の決議は、生徒総会にて、全体の三分の二以上の賛成が必要』との記述があるよ?」
詩織「今更、何を言うかと思えば。得票数を見てないんですか? 私は九三六分の七八四、八割以上の生徒の方から支持を得ているんです。それでもご不満なら、たった今この場で、生徒会長の権限を用い、臨時の生徒総会を開催しましょうか?」
大森「是非、お願いしよう」
詩織「……まったく」
   正面に向き直る詩織。
詩織「では、改めて。探偵部の廃部に賛成の方は、拍手をお願いします」
   勝ち誇ったような詩織の表情、諦めたように目を瞑る紗香。しかし結果は、過半数に満たない程度の拍手。
紗香&詩織「え……?」
大森「過半数にも届いていないように見受けられるよ?」
詩織「も、もう一度。探偵部の廃部に賛成の方は拍手をお願いします」
   やはり過半数に満たない程度の拍手。
詩織「何で……?」
大森「では、探偵部の廃部案は却下、という事になるね」
詩織「い、いいえ。そもそも、部活動を維持するためには五名以上の部員が必要です。探偵部は現在、三年生を含めても部員は四名。この条件を満たしていない以上、決議を待たずとも廃部となります」
大森「『現在』ねぇ……それは一体、いつの情報だい?」
詩織「いつって、確か先月頭の……」
大森「おやおや、随分と古い情報だね」
紗香「古い……?」
詩織「どういう事ですか?」
大森「まぁ、百聞は一見にしかず、だ。見ているといい」
   正面に向き直る大森。
大森「では、探偵部部長の大森が告ぐ。探偵部員は全員、その場で起立してくれたまえ」
紗香「いや、でも……」
   すでに起立している沢村と杉山を見やる紗香。
紗香「もう全員立って……?」
   他にも人が立ち上がる音。
紗香「え?」
    ×     ×     ×
   沢村の周囲、一年生が続々と立ち上がる。
沢村「え?」
    ×     ×     ×
   杉山の周囲、三年生が続々と立ち上がる。
杉山「何だ?」
    ×     ×     ×
   紗香の周囲、二年生が続々と立ち上がる。
紗香「嘘……?」
    ×     ×     ×
   壇上に並び立つ大森と詩織。その景色に目を疑う詩織。
詩織「これは、どういう……」
大森「見ての通りさ」
   三百人以上の生徒が起立している。
大森「現在の探偵部は、総勢三二六名だ。何か不服はあるかい?」
詩織「一体、どんな手を……」
大森「何て事はない。入部届にサインをしてもらっただけさ。もちろん、お望みとあらば全員の入部届のコピーを提出する事は厭わないが、環境問題の側面から、あまりオススメはしないよ?」
詩織「……」
    ×     ×     ×
   並んで立つ須賀と杉山。
須賀「これだけの数の入部届、いきなりプリントアウトさせられた俺の身にもなって欲しいよな」
杉山「結論から言おう。須賀っちも大変だな」
須賀「ハハハ」
    ×     ×     ×
   周囲を見回す沢村。起立する生徒の中には飛鳥や山田、青井、舞、皆実らの姿もある。
沢村「山田君に武田先輩、青井先輩、堂本先輩、有川先輩、それから……」
    ×     ×     ×
   周囲を見回す紗香。起立する生徒の中に友美や生徒会長の姿。
紗香「友美……」
   壇上の大森と詩織。
詩織「会長まで……」
大森「……で、佐野ちゃん? 反論がないようなら、探偵部の廃部は一旦取り消しという事でいいのかな?」
詩織「……このままで済むと思わないでくださいね」
   その場を立ち去ろうとする詩織。
大森「あぁ、ちょっと待ってくれたまえ」
詩織「まだ何か?」
大森「今回の選挙、我が探偵部員は全員、佐野ちゃんに投票させてもらったよ」
詩織「それはどうも。それが何か?」
大森「佐野ちゃんは有効投票数九三六票の内、七八四票を獲得した。けどもし、探偵部全員が宮ちゃんを支持していたら、どうなっていたと思う?」
詩織「七八四から三二六を引いて……!?」
大森「そう、四五八票。過半数の四六八票に満たない事になる」
詩織「……私が『探偵部のおかげで生徒会長に当選した』とでも言うつもりですか?」
大森「どうとるかは、佐野ちゃん次第だ」
   その場を立ち去る詩織。
紗香の声「もう……」

○同・探偵部部室・前
紗香の声「そういう事なら、言っておいてくださいよ」

○同・同・中
   部長席に座る大森と、その前に立つ紗香と沢村。机の上には入部届の山。
紗香「っていうか、『探偵部は中立公平な存在でなければならない』とか言ってたくせに、当落にガッツリ関わってるじゃないですか」
大森「むしろ、これでわかっただろう? 探偵部が本気で介入すれば、選挙の結果だって左右できてしまうんだ、とね」
紗香「あれだけの数、一体どうやって?」
大森「何て事は無い。ただ多数派を集めただけさ」
紗香「多数派? 佐野さん派の人が、良く協力してくれましたね」
大森「違うよ。ほぼ全ての選挙に言えるだろうが、真の多数派は『どちらでもない』派だ」
紗香「どちらでもない……?」
大森「『どちらが生徒会長になったって、大した差はない』と考えている層だね。逆に彼らを取り込む事が、選挙に当選するための近道とも言えるね」
紗香「『多数派が正しいとは限らない』って事ですね」
大森「それにしても、今回は疲れたよ。何せ、誰も手伝ってくれなかったからね」
沢村「お疲れ様でした」
紗香「いや、言ってくれれば手伝いましたよ。まったく、私があの演説に費やした時間と熱量、返して欲しいですわ」
大森「それはすまなかったね」
紗香「思ってもないくせに。あーあ、結局、私がやったことに何の意味もなかったのか」
大森「そうとも言えないよ? あの演説があったからこそ、探偵部に入部してくれた人もいる。例えば、ほら」
   一枚の入部届を見せる大森。「動機」の欄に「女子部員のスピーチに心動かされた」と書かれている。
紗香「あ……」
大森「これだけじゃない。(次々と入部届を紗香に渡し)彼も、彼女もだね」
   紗香の手には計三枚の入部届。いずれも「動機」の欄には先と同様の内容が書かれている。
大森「さすがに三百枚全て調べるのは酷だから、この辺で止めておくけど、どうだい? 少しは機嫌を直してくれたかな?」
紗香「もう、人の事を『面倒くさい女』みたいな扱いしないでくださいよ」
   部屋から出ていく紗香。

○同・同・前
   部屋から出てくる紗香。思わず笑みを浮かべ、立ち去る。
沢村の声「いいんですか? 大森先輩」

○同・同・中
   部長席に座る大森と、入部届の山を整理する沢村。
沢村「動機の欄で阿部先輩に言及されていたのは、その三人だけでしたよね? 三百分の三って……」
大森「動機の欄の記入は任意だ。わざわざ書いていないだけで、実際にそう思っている人もいるかもしれない」
沢村「でも、いないかもしれない」
大森「だとしても、世の中には、知らない方がいい事もある」
沢村「ですね」
大森「さて、これで僕も心置きなく引退できる」
紗香M「あらゆるものに、終わりはある」

○同・パソコン室・中
   花束を手に、パソコン部員から拍手で見送られる須賀。
紗香M「しかし、きちんとした終わりを迎えられれば、それは素晴らしい事だ」

○同・保健室・中
   亜紀から整体の施術を受ける岡本。
紗香M「だから私は、私達は伝えたい」

○同・生徒会室
   会長席に座る詩織。探偵部関連の書類に苦々しく承認印を押す。
紗香M「最大限の感謝を」

○同・廊下
   スキップする紗香。
紗香M「このドラマを最後まで愛して下さった」
   そこにやってくる友美。友美に気付いてスキップを止めるも、思わず笑う友美。つられて笑う紗香。
紗香M「少数派の、あなたへ」

○同・外観

○同・探偵部部室・前
   部室に向かって歩いていき、扉を開ける何者かの視点。

○同・同・中
   扉を開けて入ってくる何者かの視点。
   目の前には沢村、入口に背を向ける形で部長席に座る紗香。
沢村「あ、こんにちは。先輩、お客さんです」
   入口の方へ振り返る紗香。
紗香「どうも、探偵部部長の阿部です」
   T「Thank you for watching」
                  (完)

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