あいも変わらず、共犯者 ドラマ

ある夜、永谷和人は1人の女性を見かける。 それはかつて高校時代に突然消息を絶った彼女――葵にそっくりだった。 同日、女子高生が命を落とした。第一発見者の新羽蒼太は、刑事らの事情聴取を受けて高校時代を思い出す。蒼太もまた、葵を大切に想う1人だった。 再会した和人と蒼太は当時を振り返り、互いの感情をぶつけ合う。 一方、刑事らは女子高生と蒼太との接点を見つけ出す。 10年越しの答え合わせの結末とは。事件の真相とは。 様々な愛の形を描く青春ヒューマンラブサスペンス。
海波 かれん 32 0 0 07/27
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第一稿

◯ 街中 夜

雨の音。大粒の土砂降り。
下手から男――永谷和人が入ってくる。
電話の着信音。和人、懐から携帯を取り出す。

和人 「はい、永谷で ...続きを読む
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◯ 街中 夜

雨の音。大粒の土砂降り。
下手から男――永谷和人が入ってくる。
電話の着信音。和人、懐から携帯を取り出す。

和人 「はい、永谷です。……え? あー、そうなんですね、すみません。えー……っと、明日修正するでもいいですか。あー……はい、朝一で必ず。えぇ、はい。」

話しながら歩き、中央あたりで立ち止まる。
空を見上げて、溜息。

和人 「いやっ、すみません! 雨が降っていたのでつい……。面倒だなんてとんでもない。はい、はい、失礼致します。
……はぁ、……最悪。」

和人の後ろからすれ違うように女。
傘を取り出して雨の中を進んでいく。
和人、驚いたように前を、すれ違った女を見る。

和人 「……え、葵? 葵なのか!?」

女、振り返らずに歩いて行く。
大きくなる雨音。
和人は、空を見上げて苛立たしげに踏みとどまる。

和人 「くそっ……あれ、……。」

再び前を見るも女の姿はない。
和人、焦ったように上手へ走り去る。
雨音が響いている。
暗転。

◯ 事件現場・河川敷 夜
 
明転。
パトカーのサイレン。車のドアの閉まる音。
蒔田が上手から入ってくる。

日吉 「お疲れ様です。」
蒔田 「おー、状況は。」
日吉 「被害者は16歳の女の子です。現場が河川敷のため、何らかの事件に巻き込まれた可能性もあるとして捜査を進めるそうですが、手首に深い切創があり、おそらく、自尽……ではないかとの見解だそうです。」
蒔田 「手首切っただけで死にきれるなんて相当な根性の持ち主だなぁー。関心関心。」
日吉 「ちょっと! ……不謹慎ですよ。」
蒔田 「褒めてんだよ。(しゃがみながら)それだけの覚悟と根性がありゃ、どこまででも逃げられただろうに。」

日吉、蒔田に合わせて隣にしゃがみ、2人で合掌する。

蒔田 「……さて、捜査だ捜査っ。」
日吉 「はい。」
蒔田 「通報者は?」
日吉 「通行人の男性です。夕方、川沿いを散歩中に、被害者を発見したと。」
蒔田 「ほー? こんな背の高い草むらで倒れてる人影を、夕闇の中でね……。で、その男性は?」
日吉 「他の班が聴取中です。また横取りする気ですか。捜査会議で情報共有はされますからね? ちょっとは協力ってもんを覚えたらどうなんですか。」
蒔田 「俺が聞きたいことは俺が聞く。俺は自分で見聞きしたものしか信じない主義なの。」
日吉 「相変わらず、組織人として終わってますね。」
蒔田 「お前は相変わらず、上司に対して生意気だな。」
日吉 「尊敬されるとでも思ってるんですか、その性格で。」
蒔田 「おー怖ぇ。令和の大物新人、ってやつだな。」
日吉 「適当なこと言わないでください。」

下手から蒼太が、背後に会釈をしながら入ってくる。

蒔田 「お、君が通報者?」
蒼太 「え? あぁ、はい。そうですけど。」

蒔田、懐からメモを取り出しながら蒼太へ近づく。
日吉、止めようとするが、やがて諦めて後を追う。

日吉 「だから! 事情聴取は二度手間なんだから周囲の聞き込みに……あーもう!」
蒔田 「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
蒼太 「知ってることなら、さっき別の刑事さんに全部話しましたけど……。」
日吉 「すみません、似たようなことをお聞きするかも知れないんですが、この朴念仁にお付き合いいただけませんか。」
蒼太 「ぼく……(笑いをこらえながら)え、えぇ、構いませんが。」
蒔田 「しれっと悪口言うなよ、お前。」
日吉 「あら、知ってる言葉でしたか、これは失敬。……では、改めまして、刑事の日吉 若菜です。」
蒔田 「蒔田 耕一だ。」

刑事2人、蒼太へ警察手帳を提示する。

蒼太 「どうも。僕は新羽です。新羽 蒼太。」
日吉 「では新羽さん。まずは被害者を見つけた状況について教えてください。」
蒼太 「僕、この辺りを散歩するのが好きで。今日も仕事帰りに寄り道を。そしたら、草むらの中に人影が見えた気がして、見に来たら……あの子が、倒れてて。」
蒔田 「まず警察を呼んだ訳は? 人が倒れてたら普通、救急車を呼ばないか?」
蒼太 「……手首から血がたくさん出てたし、声かけても動かないし、体もかなり冷たくなってたし……場所が場所だったので、まずは警察かな、と。」
蒔田 「なるほど、一理ある。(そっぽを向いて)うーん……病院に運ぶのを少しでも遅らせようとか、そういう魂胆でもあるのかと思ったが、思い過ごしだったか。」
日吉 「聞こえてますよ。」
蒼太 「僕、疑われてます?」
蒔田 「(おどけた様子で)まさか。」
日吉 「ちょっと蒔田さんっ。」
蒔田 「被害者との面識は。」
蒼太 「やっぱり疑ってる。」
蒔田 「不服そうだなぁ、やっぱり何か関係が?」
蒼太 「はぁ……誰だって身に覚えのないことでいきなり犯人扱いされたら良い気はしないでしょう。……彼女との面識はありませんし、僕はただの発見者です。」
日吉 「そうですよね、本当すみません。蒔田さん、まともに聴取しないなら引っ張ってでも聞き込み行きますけど。」
蒔田 「そんなギスギスすんなって。面識はないが、顔は知っている。……どうだ?」
蒼太 「……そうですね、彼女の存在は知ってました。」
日吉 「え?」
蒼太 「お互いこの辺りに住んでるんです。ご近所さんなら、見かけたことくらいあっても不思議じゃないですよね。」
日吉 「それは、そうですね。」
蒔田 「見かけたくらいで覚えるか? なにか記憶に残るエピソードでも? 例えばそうだな……一目惚れとか。」
蒼太 「ありえません、相手は高校生ですよ。生活リズムが似ていて、遭遇する頻度が多いんです。いつも同じような時間に同じような場所で見かけるから、習慣として覚えてただけで。無理矢理つながりを作ろうなんて、冤罪のもとなんじゃないですか。」
蒔田 「言うねぇ。いいよ、肝が据わってる一般人は嫌いじゃない。」
蒼太 「それはどうも。褒められてもいい気はしませんが、ありがたく受け取っておきます。……で、そっちの女の刑事さんは、他に聞きたいことないんですか?」
日吉 「あ……すみません、じゃあ、散歩はいつも同じ時間に?」
蒼太 「仕事から帰る時間によって多少前後しますが、大体同じですね。陽が落ちていくのを見るのが好きなので、日暮れ前には出歩いていることが多いです。」
日吉 「いつも同じような時間帯なんですね。では、今日ここに来るまでの途中で不審な人物は見かけませんでしたか? あるいはいつも居る人が、今日は見かけなかったとか。」
蒼太 「うーん……どうだったかな。倒れている彼女を見つけたのがここに着いてすぐだったので、あんまり……」
日吉 「そうですか。……では、何か思い出したら連絡をください。私たちでも、さっきの刑事でも構いませんから。」

日吉、名刺を手渡す。
蒼太、受け取る。

蒼太 「わかりました。」
蒔田 「全てを話す気になったらいつでも聞いてやるぞ。」

蒔田も名刺を差し出す。
蒼太、一瞥のみで受け取らない。

蒼太 「何もありませんし、もしその気になっても貴方にだけは話したくないですね。」
蒔田 「言うねぇ。」
蒼太 「失礼します。」

蒼太、退場。

日吉 「蒔田さん、ちょっといじわるすぎませんか。」
蒔田 「そうか?」
日吉 「あなたは変な人ですけど、理由もなく市民を疑うような人ではないはずです。それなのにあんな……あからさまな容疑者扱いなんて。蒔田さんらしくはないんじゃないですか。」
蒔田 「貶しながら褒めるなよ。」
日吉 「別に褒めてません。彼に何か違和感でも? 話している内容は、別に変ではなかったと思いますけど。」
蒔田 「どうかな。まぁ、強いていえば……デカの勘?」
日吉 「ダサいですよ、それ。」
蒔田 「ロマンがないね、お前は。けど、正直それだけだ。何となく、妙な感じがしてな。」
日吉 「容疑者としてってことですか? 彼女は自分で命を絶ったんじゃ……。」
蒔田 「それを今から調べるんだろうが。……ただ、あの男が嘘を吐いているのは間違いないな。」
日吉 「デカの勘、ですか。」
蒔田 「おう。」
日吉 「どうせだったら、どこが嘘でどんな嘘だったかも勘付いてくれると助かるんですけどね。」
蒔田 「そうだなぁ。」
日吉 「でも、念頭には置いておきましょう。蒔田さんの勘は、当たりそうですから。……さ、聞き込み行きますよ。」
蒔田 「飴と鞭が上手いこって。まずは、被害者の自宅周辺てとこか。」
日吉 「その後は、通報した彼の自宅周辺、ですよね。」
蒔田 「部下が優秀だとやりやすくて助かるねー。」

刑事2人、退場。
暗転。

◯ 永谷家・リビング 屋内(夜)

明転。
上手側にソファとローテーブルが置かれている。
永谷瑞希が上手から洗濯物を抱えながら歩いてくる。
少しして、玄関の鍵が開く音。
下手から和人が入ってくる。雨に濡れた上着を外に向け振る。

瑞希 「おかえ……ちょっと! びしょびしょじゃん。どうしたの?」
和人 「あぁ……うん。」
瑞希 「コンビニで傘買うなりして来なさいよ、まったく……。」
和人 「うん……。」

和人、玄関で立ったまま心ここにあらずといった様子。

瑞希 「寒いでしょ、お風呂沸いてるよ。」
和人 「うん……。」
瑞希 「和人?」
和人 「うん……。」
瑞希 「永谷和人さーん?」
和人 「うん……。」
瑞希 「……おりゃ。」

瑞希、おもむろに立ち上がり、置いてあったバスタオルをつかみ、男に向かって投げつける。

和人 「ぶっ……!」
瑞希 「お風呂。とりあえずあったまってきなよ。」
和人 「……だな。……さんきゅ。」
瑞希 「あ! 靴下。」
和人 「あ……悪い。床濡れちゃった。」

和人、濡れた靴下を脱ぎ、部屋へ上がる。

瑞希 「いいよ、拭いとくから。風邪引いちゃうから早く行きな。」
和人 「ありがとう。」
瑞希 「コーヒーでも淹れとく?」
和人 「うーん……ホットミルク、かな。」
瑞希 「ホットミルク?」
和人 「あ、いや。やっぱ、コーヒーで。」
瑞希 「ふふっ、はちみつ入りね。」
和人 「え? あ、覚えて……。」
瑞希 「覚えてるよ。高校生の時はよく飲んでたもんね。どうしたの急に。」
和人 「あー……うん、なんか、思い出して。」
瑞希 「……そっか。わかった。上がる頃に準備しておくね。」
和人 「うん、ありがとう。」

和人、上手へ退場。
瑞希、その背中を見送った後、タオルを手に取り濡れた床を拭きはじめるが途中で手が止まる。

瑞希 「ホットミルク、ね……。どうして急にそんなこと……。」

考えを振り払うようにし、自分に言い聞かせるように続ける。

瑞希 「……だめだめ。あの人が昔を吹っ切れてないなんて、今に始まったことじゃないんだから。いちいち凹んでたら身が持たないって、分かってるでしょ。」

急いで床を拭き上げ、濡れたタオルを持って部屋の奥へ退場。

◯ 蒼太の家・リビング 夜 → 回想/高校の空き教室 放課後

照明変わり、薄暗い室内。
蒼太、帰宅。ジャケットとネクタイを脱ぎ捨て、ソファに沈む。

蒼太 「はぁー……、……あの子の人生は、16年で止まったんだよな。……高校生、か。」

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照明変わり、回想。
   
学校のチャイムの音。遠くに管楽器の音。
ガラガラと扉の開く音。
下手から制服姿の澪がが入ってくる。
蒼太は気付いていない。

澪 「わっ!」
蒼太 「うわあっ、びっくりした……。先輩か……。」
澪 「ちょっと、そんな残念がられるとショックなんですけど?」
蒼太 「そういうんじゃないって。あーっびびった。」
澪 「また帰りの会サボったの?」
蒼太 「違いますよ。最後の授業が担任だったから、免除になったの。」
澪 「なるほどね。いいよね、担任が教室授業の科目だと。」
蒼太 「先輩ちがうんですか?」
澪 「やさたろうだもん。」
蒼太 「優(ゆう)太郎(たろう)先生ね、化学でしたっけ。」
澪 「そ。だからただの座学でも化学室なの。」
蒼太 「移動教室確定か。だるいっすね。」
澪 「でしょ? ……って、あれ? 葵たちも後ろにいたのに。」
蒼太 「だとしたら入ってきてないことに気付くの遅くない?」
澪 「うるさいなー。」

ドアの開く音。
和人と葵が入ってくる。
2人は手を繋いでおり、葵は長袖のシャツでスカートの下にはジャージを履いている。

葵 「もおーまた言ってんの? ……あ、お疲れさまでーす。」
和人 「今回こそはマジだって! ……お疲れーっす。」
澪 「お疲れー。何の話?」
和人 「そうそう蒼太! お前も聞いてくれよ~。」
葵 「今日、現代文で漢字の小テスト返ってきて。和人がまた問題にいちゃもんつけてるの。」
蒼太 「また不適切探し? 俺も昨日返ってきたけど、無かったんじゃないかな……。」
和人 「いやいや見てコレ! ここ先生のミスだと思う!」
澪 「どれ?」
和人 「これっす! おのろい!」
蒼太 「……おのろい?」
葵 「あぁ……。」
和人 「先生が『お』をつけたからおもしろ回答みたいになっちゃって! これ不適切回答ってやつだよな!?」
全員 「…………。」

和人以外、大爆笑。

和人 「……?」
蒼太 「和人、それは『おまじない』だ。」
和人 「えっ、」
澪 「まぁ、漢検だと確か準一級くらいで出てくる読み方だからね。読めなくても仕方ないといえば、仕方ない。」
葵 「授業でやってますけどね。」
蒼太 「何を聞いてたんだか。」
葵 「さすが睡眠学習の賜物。」
和人 「何だよくそーっ、プラス2点獲得のチャンスだったのにーっ!」
葵 「不適切問題で点を稼ごうとしてるところが馬鹿の発想。」
蒼太 「本当に。」
和人 「うぅ……俺の2点が……。」
澪 「ていうか、2人どこ行ってたの? ここ来るとき、すぐ後ろにいたよね。」
蒼太 「そういえば、そんなことも言ってたね。」
葵 「和人が忘れ物したって言うから、教室まで戻ってたんです。ほんと迷惑~。」
和人 「えぇっ、迷惑……?」
葵 「あははっ、嘘嘘。そんな落ち込むと思わなかった。」
和人 「……葵~っ、(飛びつこうとする)」
葵 「きゃーたすけてー。」
澪 「私の葵をいじめないでっ。」

きゃっきゃとふざける葵と澪。
蒼太に泣きつく和人。

和人 「うぅっ……辛辣……! 蒼太ぁー!」
蒼太 「懐くな。相変わらずラブラブでうらやましいよ。」
和人 「どこが!? ねぇ、今のどこが!?」
蒼太 「ああやってあしらわれるの楽しんでるくせに。」和人 「……。てか蒼太はいいの!? 澪先輩が葵に盗られても!」
蒼太 「盗られるって、女の子同士だろ? 仲良しでいいことじゃん。」
和人 「余裕ぶっこきやがってよー。」
蒼太 「そんなんじゃねーって。楽しそうにしててくれると、俺も嬉しいってだけ。」

ドアの開く音。
瑞希が入ってくる。

瑞希 「ちょっとー、私抜きで盛り上がらないでくれますかー?」
和人 「悪い悪い。遅かったな。」
瑞希 「今日、日直だったから日誌がね。ほら、うちの担任、ちゃんと書かないとうるさいから。」
和人 「あー……角田ね。見るからに細かそう。で、ねっちこそう。」
瑞希 「言い過ぎ(笑)」
葵 「瑞希ちゃん! だめだよそんなおバカな人と話しちゃ!」
和人 「おぉーい! そんな人とはなんだ! オレ彼氏!」
澪「バカは否定しないんだ。」
瑞希 「なに、また何かやらかしたの?」
蒼太 「そーそー。」
和人 「ちげーよ! てかまたって何だし!」
瑞希 「なんで葵はこんな奴と付き合ってるのかね―。」
蒼太 「でも、こいつと居るときの葵、可愛いから。案外お似合いだと思うよ、俺は。」
和人 「蒼ちゃん……!?」
瑞希 「まあそれは、私も思うけど。」
和人 「おぉ、心の友……!」
蒼太 「笑っててほしいよな、ずっと。」
瑞希 「葵、ニコニコしてるときが一番可愛いからね。」
和人 「無視……!」
葵 「なにー? 私の話?」
瑞希 「葵は今日も可愛いねって話!」
葵 「えー照れるー。」
澪 「さて、全員揃ったんだから、そろそろ行くよ。」
蒼太 「はいよ。今日はどこ行く?」
和人 「カラオケ一択だろ!」

沈黙。
葵、無言で和人の頭をはたく。
和人、大袈裟に痛がる。

和人 「いってぇ!」
蒼太 「あほか。図書館か地区センの二択でしかねーだろ。」
和人 「えー、やっぱ勉強やらなきゃだめー?」
瑞希 「当たり前でしょ、テストいつから始まると思ってるの。」
和人 「明日!」
葵 「その勉強嫌いで何でこの学校に入学しようとしたのか。」
蒼太 「そして何で受かって進級まで出来ているのか。」
和人 「なぁーせめてモチベがないと頑張れないって俺。」
瑞希 「なに、モチベ? ご褒美ってこと?」
和人 「いやいや、勉強のお供の話!」
葵 「あー、あれ? でもあれ飲みたいなら、生徒会室じゃないと作れないよ?」
澪 「あれ?」
蒼太 「葵が作るホットミルク。すげー美味しいの。いつも生徒会の仕事してるときに、作ってくれて。」
和人 「俺、あれがあるだけですげー頑張れるんすよ!」
澪 「ホットミルクってことは、電子レンジまだ使ってんだ?」
瑞希 「冷蔵庫もね! 大助かりです。」
葵 「えっ、あれ澪先輩たちの代に持ち込んだんですか?」
澪 「そうそう。」
蒼太 「意外とやんちゃだからね、先輩たちの代。」
澪 「意外とはなによ、しっかりやんちゃだわ。」
蒼太 「しっかりって……威張ることじゃないから。」
澪 「先生たちにはバレてない?」
和人 「もちろん! バレたら没収されるの目に見えてるんで。何が何でも死守しますよ。」
澪 「(笑)だよね。」
蒼太 「じゃあ今日は生徒会室でやるか? 集中できるかは分からないけど。」
葵 「いいの? 和人のわがままなんか聞く必要ないんだよ?」
瑞希 「まぁ、いいんじゃない。私も葵のホットミルク飲みたいし。」
葵 「先輩は? 受験生なのに。生徒会室だと絶対集中できないですよ?」
澪 「大丈夫。今日一日手抜きでやっても問題ないくらいにいはちゃんとやってるから。それに、みんなが飲みたがる葵特性ホットミルク、俄然興味がわいてきちゃった。」
蒼太 「心配すんなって。先輩、要領は良いから。」
澪 「要領は? 要領も!」
蒼太 「はいはい。」
葵 「蒼太が言うなら、大丈夫か。」
和人 「よーし! 頑張るぞー‼」
瑞希 「1時間持たずに寝るに一票~。」
蒼太 「じゃあ45分。」
葵 「じゃあ30分。」
和人 「おぉーい! 2時間でも3時間でもやってやるっつーの!」
澪 「無理そう。」
瑞希 「うん、無理です。絶対に。」
和人 「はぁー!?」

3人、言い合いながら足早に退場。
蒼太と葵、ゆったりとついて行く。

蒼太 「相変わらずだな和人(笑)」
葵 「ねー。」
蒼太 「……葵も、相変わらず?」
葵 「…………そう、だね。」
蒼太 「葵?」
葵 「相変わらず過ぎて、嫌になる。」
蒼太 「……うん。」
葵 「何でだろうね、ずっとこの生活が普通だったはずなのに。痛いのも苦しいのも、暗いのも狭いのも、それが普通だから何とも思ってなかったはずなのに。なのにさ……」
蒼太 「何ともない、フリだった?」
葵 「フリ、……うん、そうかも。何ともないフリしてただけで、本当は辛かったのかな、私。」
蒼太 「うーん、今までの葵が辛いと思ってたかどうかは分からないけど、今の葵が辛いと思うなら、それは間違いじゃないし、否定しなくていいことだよ。これまでの葵は、それも葵だけど、今ここにいる葵とは違うんだから。」
葵 「……今ならね、お母さんがあの世に逃げた気持ちが分かる気がするんだ。でも、同時に、わかっちゃったからこそ、置いていかれたことに絶望もしてる。私は、お母さんにとって守る対象じゃなかったのかな、とか。私と2人で生きる道は無かったのかな、とか。最近そんなことばっかり考えてさ。……ねぇ、蒼太。」
蒼太 「ん?」
葵 「逃げても、いいのかな。」
蒼太 「……。」
葵 「今更だけど、今更過ぎるかもしれないけど。私、逃げても、いいのかな。」
蒼太 「いいんじゃない? 逃げたいなら。」
葵 「でも、どうやって? わかんないよ。誰に何を話せば良い? 先生?警察?役所? 私が口で説明したって、どうせ嘘だって、思春期の反抗期だって思われたら……しつけの範疇だって思われたら……そんなこと言われたら、……そんな面倒なことするくらいならさ、やっぱりいっそ……。」
蒼太 「葵。」
葵 「……っ。」
蒼太 「付き合うよ、俺。」
葵 「え?」
蒼太 「葵が逃げるなら、どこまでも付き合う。葵がどんな方法を選んだって、俺がなんとかしてやる。」
葵 「……あり、がとう。」
和人 「(声のみ)葵―っ、蒼太―っ、なぁにしてんだぁー!」
葵 「あ……。」
蒼太 「ちょっと話しすぎたか、」
葵 「……だね。」
和人 「(声のみ)なぁーに2人でこそこそしてんだ! 不倫か!?」
葵 「ふふっ、違うわ。」
蒼太 「てか不倫って。今から夫婦気取りかよ。」
葵 「それを言うなら浮気じゃない?」
蒼太 「そうそう。」
和人 「(声のみ)葵ぃーっ!」
葵 「はいはーい。」

葵、笑いながら退場。

  x      x       x
 
照明変わり、現在。

薄暗い無音の部屋で、蒼太が一人ソファに沈んでいる。

蒼太 「彼女にとっての16年は、短かったのか、長すぎたのか。どっちなんだろうな。…………って、何してんだか。俺が考えても仕方ないだろって。……っし、風呂だ風呂。」

蒼太、ジャケットとネクタイを拾い退場。
暗転

◯ 永谷家・リビング 屋内(夜)

明転
瑞希、机のそばに座っている。
机の上にはマグカップが2つ。
上手から和人が入ってくる。

瑞希 「おかえり~。あったまった?」
和人 「おかげさまで。」
瑞希 「ならよかった。 あ、これ。ご所望のはちみつ入りホットミルクでございます。」
和人 「あぁ、ありがとうございます。……うん、美味しい。」
瑞希 「あの頃の味ではないだろうけど。私、作ったことないから。」
和人 「俺だって作ったことないよ。なんだろう、うーん、使ってるものが違うのかな? 配合?」
瑞希 「なんだろね。」
和人 「……。」
瑞希 「……。」
和人 「あ、でも本当、これもすごい美味しいよ、うん。ありがとね。」
瑞希 「……和人。」
和人 「うん?」
瑞希 「なんかあったんでしょ。」
和人 「……何もないよ。」
瑞希 「嘘。何もなくない。帰って来たときの様子見せられて、それで何もないって言われても、はいそうですかって納得はできない。」
和人 「ちょっと今日、仕事が大変で。傘買うのとか、面倒くさくなっちゃって。走って帰ってきた疲労と家ついた安堵でちょっとぼーっとしててさ、本当、それだけだから。風呂入ったら大分さっぱりしたし。……ホットミルクもたまたま、温まりたいなーって思って、たまたま思い出しただけ。」
瑞希 「……。そう? ならいいや。」

瑞希、和人から目をそらし姿勢を正す。
和人、気まずそうに残りのホットミルクを飲み干す。

和人 「……葵を、見かけたんだ。」
瑞希 「え?」
和人 「いや、正確には、見かけた気がした、なのかな。」
瑞希 「そ、そうだよね、だって……」
和人 「そう、アイツはもう居ない。10年も前から。」
瑞希 「よく似た人を見間違えたんだよきっと。」
和人 「いやでも、」
瑞希 「ほら、ドッペルゲンガーって本当にいるっていうし、」
和人 「違う! あれは確かに!」

和人、切羽詰まったように叫ぶ。
瑞希が身を引いたのに気付き、言葉を噤む。

和人 「……ごめん。」
瑞希 「大丈夫、だけど。大丈夫……じゃないよね。」
和人 「ごめん、本当。はぁ……駄目だな、俺。10年も経ってるのに、全然……。」
瑞希 「無理もないよ。あの時の和人と葵は、」
和人 「……あの時は、あの時だから。」
瑞希 「……それに私だって、会えるものなら会いたいもん。」
和人 「だよな……。」
瑞希 「うん……。」

沈黙。
しんみりとした雰囲気。和人、居た堪れなくなって口を開く。

和人 「……俺もう寝るわ。」
瑞希 「あ、うん。コップ、」
和人 「いいよ、俺洗ってくる。瑞希は? もう寝る?」
瑞希 「ありがとう。……私、もうちょっと起きてようかな。」
和人 「そっか、わかった。」

和人、コップを持って立ち上がり、退場しようとするが、途中で思い出したように振り返る。

和人 「あ、そうだ。俺、明日蒼太と飲んでくるから。晩ご飯いらないや。」
瑞希 「わ、懐かしい名前。」
和人 「でしょ、久しぶりに連絡取り合って。アイツも今、近くに住んでるらしいから。」
瑞希 「そっか、楽しんできてね。……あ、でも話盛り上がって飲み過ぎないでよ?」
和人 「あはは、気をつけるよ。じゃあ、おやすみ。」
瑞希 「うん、おやすみ。」

和人、退場。
瑞希、TVのリモコンを操作する。

TV 「(声のみ)昨夜はじめ頃、県内の河川敷で女子高生の遺体が発見されました。警察は現場の状況から、自殺と事件、双方の観点から捜査を進める方針としています。」
瑞希 「高校生が自殺……か。」 

瑞希 「……やっぱり寝よう。」

瑞希、リモコンを操作しTVを消す。
立ち上がり退場しようとしたところでスマホの着信音。

瑞希 「もしもーし、先輩? ……明日、空いてますよ。ご飯?行きましょ!ぜひ! いつものお店で良いですか? はい、じゃあ明日、仕事終わったら連絡ください。はーい。」

通話終了。切電音。
瑞希、退場。

◯ 居酒屋 

騒がしい店内。
和人が席に座っている。机には2つのビールジョッキ。
遅れて、蒼太がやってくる。

和人 「よっ。」
蒼太 「おう。先飲んでて良かったのに。」
和人 「一人で飲み始めても虚しいだけだろ。」
蒼太 「それもそうか。」
和人 「ん、これお前の。すぐ着くって言ってたし、とりあえず一杯目は生で注文しちゃったけど良かった?」
蒼太 「大丈夫。ありがと。」
和人 「良かったー、これでビール嫌いって言われたらどうしようかと思った。」
蒼太 「もしそうだったらどうすんだよ。」
和人 「え、俺がビール二杯飲んで、好きなの注文してもらう。飲み物来るまで間が開いちゃうのは申し訳ないけど、まぁその間にブレイクファスト?してもらって。空きっ腹に酒は良くないからな。」
蒼太 「それは朝ご飯な。直訳で覚えてるのレアすぎるだろ。……けどお前、ビールあんま好きじゃないんじゃない?」
和人 「え!? なんでわかんだよ!」
蒼太 「何となく。昔から甘いジュースばっか飲んでたイメージだし。」
和人 「いやーほんとに! 俺、最初は全然飲めなくて。苦すぎておぇってなる感じ。でもさ、大人になると付き合いで飲まなきゃいけない時もあるだろ? 会社の飲み会とかで『とりあえず生でいいよな?』みたいな。上司に言われると、嫌とは言えないし。だから無理して飲んでるうちに、まぁ、飲めなくはないってくらいには、な。しかも、時間置いてぬるくなったビールって……なぁ?」

テンション高く話す和人。
蒼太、楽しげにその話を聞き、噴き出すのをこらえながら答える。

蒼太 「あぁ、そうだな。」
和人 「なーに笑ってんだよっ。」
蒼太 「いや、変わんないなと思ってさ。」
和人 「なんだそれ。 蒼太はビール派? てか酒飲める人?。」
蒼太 「俺もビールは付き合い程度だな。強いかどうかは、まぁ、人並みじゃない? お前は……すぐ酔いそうだな。」
和人 「え、なんで分かるの。」
蒼太 「何となく。飲めるんだろうけど、強くはなさそう。」
和人 「まさにその通り。もともと全く飲めないって訳じゃなかったから、それこそ飲み会で強くなってきたって感じだな。仕事仲間となら、まぁなんていうか緊張感もあるし、そんなに酔わないんだけど。」
蒼太 「友達とか家族相手だと、羽目外しちゃうってことか。」
和人 「ご名答!」
蒼太 「てか、今日だって既に場酔いしてるだろ、お前。」
和人 「バレたか~。多分今日の俺はダメだから、よろしくな蒼太~。」
蒼太 「勝手に頼むな。」
和人 「あーてか、ついにお前と酒飲む日が来るなんてなぁー。」
蒼太 「そうだな。卒業して以来だから、10年は会ってないか。」
和人 「高校の時はほとんど毎日一緒にいたのになぁ。……あんなことが無きゃ、今でも俺たち集まってたのかな。」
蒼太 「……。さあな。」
和人 「あっ、てか聞いてくれよ。昨日なんだけどさ。」
蒼太 「ん?」

  x      x       x

照明変わり、穏やかな店内。
瑞希が座る席に澪がやってくる。

澪 「お待たせ~。」
瑞希 「あっ、お疲れ様です!」
澪 「ごめんね、ちょっと残業で。」
瑞希 「全然。あ、これ先輩の。カシオレで良かったです?」

瑞希、グラスの一つを澪へ渡す。

澪 「さすが、ありがとう。今日は急にごめんね、家のこととか大丈夫だった?」
瑞希 「大丈夫です、むしろ和人も今日、飲みに行ってて。ちょうど良かったです。」
澪 「自分だけのためにご飯作るのってちょっと面倒だもんね。」
瑞希 「そうそう。……それに、今日はちょっと、飲みたい気分だったので。」
澪 「うん? なんかあったの?」
瑞希 「……先輩、葵のこと、覚えてますか?」
澪 「そりゃあもちろん。なんで?」
瑞希 「昨日、和人が帰り道で見たって言ってて。話した、とかじゃなくて本当、見かけただけみたいなんですけど。」
澪 「見間違いなんじゃないの?」
瑞希 「やっぱりそうですよね。私も葵な訳ないって返したんですけど……。」
澪 「飲み込みきれなかったか。」
瑞希 「(うなずく)……死ぬほど取り乱してました。」
澪 「はぁー、相変わらずの女々しさ。いっそ安心するわ。」
瑞希 「本当ですよ。まぁ、これが初めてのことじゃないし、今は私を想ってくれてるってことも十分に伝わってるから。」
澪 「良しとしている?」
瑞希 「うん。」
澪 「本当に?」
瑞希 「……本音を言えば、そりゃあ凹みます。不安にもなるし。和人が取り乱す度に、あいつにとって葵が特別なんだってことも、私じゃ代わりは務まらないってことも、痛いほどに感じるから。」
澪 「十年も経ってるっていうのが、余計にね。……とはいえ、私は和人の気持ちも、分からなくはないかな。」
瑞希 「え?」
澪 「やっぱ高校生の恋愛って特別でさ、思春期真っ只中だからなのかな、初恋だろうとそうでなかろうと、小中学生の初心な恋とも、大人のリアルな愛とも違う……特別感? あるんじゃないかなって思うよ。」
瑞希 「……先輩も、特別でしたか?」
澪 「まぁねー、蒼太とは円満に別れたし、今は旦那が一番なのは間違いないよ? でもやっぱり、今でも蒼太とのことは思い出すもん。一番純粋で、一番幸せだったのは、あの頃だったのかもなぁ、ってね。」
瑞希 「特別感、ですか……。」
澪 「ま、今カノ不安にさせるほど取り乱すのは、さすがの私でも引いてるから。安心して。」
瑞希 「(笑)良かったです。」
澪 「葵かぁ……もう十年になるんだね。」

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照明変わり、賑やかな店内。

和人 「仕事帰り、アイツ……葵を見かけたんだよ!」
蒼太 「……へぇ。」
和人 「夜だし大雨だったし、見たのはすれ違いざまの後ろ姿だけだったんだけどさ、絶っ対あの背中は葵だったんだ。」
蒼太 「普通に見間違いだろ。それか、ドッペルゲンガーか、……夢でも見てたか。」
和人 「俺は夢遊病じゃねぇっつーの。……ちぇ、お前も瑞希と同じこと言うのかよ。」
蒼太 「瑞希?」
和人 「あ、そっか。お前は知らないか。俺さ、瑞希と結婚したんだ。」
蒼太 「へぇ、瑞希と。お前が。」
和人 「高校卒業した後も連絡取り合ってて。……というか、瑞希が俺のことすげぇ気にかけてくれてて。俺、瑞希のおかげでいろいろ持ち直してさ。大学もめちゃめちゃ楽しめて。」
蒼太 「そっか、良かったじゃん。あのことがあって、俺もお前のことは心配してたから。それが聞けて安心したよ。」
和人 「さんきゅ。」
蒼太 「ま、お前からしたら、俺が言うなって感じなんだろうけどな。」
和人 「そんなことねぇよ。って、あぁ……そういうことか。確かに、あの時、お前の言葉は効いたわ。」
蒼太 「あの時は本当、申し訳なかった。」
和人 「やめろって。……ま、おかげで瑞希から告白された時に相当迷ったってのは、事実だけどな。」
蒼太 「だよな……。お前のせいで、なんていくらアイツからの伝言でも、伝えるべきじゃなかった。」
和人 「ほんとだよ、墓まで持ってけ馬鹿野郎。まじで迷ったんだからな、かーなーり!」
蒼太 「はいはい、悪かったって。」

直前までおどけていた和人だが、急に黙り込む。
蒼太、その様子に不安が募る。

蒼太 「……和人?」

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照明変わり、穏やかな店内。

瑞希 「そういえば先輩は卒業した後の話なのに、結構詳しく知ってますよね。蒼太から聞いたんですか?」
澪 「そう。あの頃はまだ別れる前だったからね。あいつ、ああ見えてかなり思い詰めてたんだよ?」
瑞希 「……あれ、そういえば先輩が蒼太と別れたのって。」
澪 「蒼太が卒業してすぐだね。」
瑞希 「……てことは、2人もあの事件が原因で?」
澪 「うーん、それも確かにあるね。」
瑞希 「それも? じゃあ他に理由が?」
澪 「あいつね、私以外に忘れられない人がいたの。ずっと。」
瑞希 「うそっ、初耳! 高校より前の人?」
澪 「うーん、まぁ誰かは別にいいじゃん。……で、私は告白するときからそれは知ってたし、それでも良いからって伝えてた。蒼太も、その相手とは一緒になれないって割り切ってたから、自分の中にもう1人思い人がいても良いならって、私の告白を受け入れてくれた。」
瑞希 「へぇ、そんな経緯があったんですね。あの時から2人の雰囲気は大人な感じだったけど、そっかぁ……そういうことだったのか。」
澪 「さっきも言った通り私たちは円満に別れられたし、他の誰かが気に病むことじゃないよ。ちゃんと話し合って、今の形に落ち着いたの。……今でも連絡取り合ってるしね。」
瑞希 「え! そうなんですか?」
澪 「うん。頻繁にってわけじゃないけど、お互い困ったことがあれば頼る相手って感じかな。友達……とは、ちょっと違うし、パートナーだと夫婦みたいだし、うーん……協力者、ってところかな。」
瑞希 「いいなぁ、大人ならではな関係って感じ。恋人が別れても関係続くのって、理想ですよね。」
澪 「カップルの一番の理想は、別れないことだけどね。」
瑞希 「あははっ、それはそう!」

2人、にこやかに会話を続ける。
暗転。

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照明変わり、賑やかな店内。

和人 「……あの時、葵が急に居なくなって、俺には何も連絡がなくて。なぜか付き合ってた俺じゃなくて、ただ、いつメンで一緒に過ごしてただけのはずのお前には、連絡があって。」
蒼太 「……。」
和人 「しかも、また戻ってくるって思ってたのに、もう二度と会うことも、連絡を取ることもできないなんて聞かされて。そういえばそれもお前からだったな、蒼太。アイツの家もバイト先も連絡先も何もかも無かったことみたいにすっかり片付けられた後で。どんな都合の良い話だよって思ったよ。なんでお前は全部知ってて、なんで俺は何も知らないんだって、正直恨んだ。」
蒼太 「……あぁ。」
和人 「でもさ、やっぱりなって、思うところもあったんだ。」
蒼太 「え?」
和人 「葵ってさ、俺といるときすげぇ楽しそうなの。ずっとニコニコしてて、そんでもってコロコロ表情が変わってさ。俺といる葵は、ぜってぇ幸せなんだって自信もあった。」
蒼太 「そうだな、俺たちから見ても、お前と話すアイツは幸せそうだったよ。」
和人 「けど、それだけだった。アイツが家でどんな生活してるのか、何も知らなかった。父親がやべぇヤツだったことも、そのせいでお母さんが亡くなってたことも、俺は後から知った。全部、人伝てで。あの頃はそういう話を聞かされる度に、知ってるフリしてたけど。」
蒼太 「……そうだったのか。」
和人 「お前はそれも知ってたんだろ? 葵から直接、聞いてたんじゃないか?」
蒼太 「……まぁ、な。」
和人 「(盛大な溜息)はぁぁぁーまじかー。えー、やっぱりそうなの?」

和人、机に突っ伏し大袈裟に凹む。

蒼太 「お前の情緒はどこに置いてきたんだよ。」
和人 「結局、俺がお前に勝てたのは、先に告白する度胸だけだったってことかぁー……!」
蒼太 「そうでもないぞ。」
和人 「はぁ?」
蒼太 「もし俺がお前より先に瑞希へ告白したところで、フラれてたよ。」
和人 「慰めならいらねーよ。」
蒼太 「いやホントだって。実際、アイツから聞いてるし。葵の秘密を共有してた立場として、それは断言する。」
和人 「うーん、その言い方は喜んで良いんだか自慢されたんだか……」
蒼太 「あははっ、悪い悪い。」
和人 「あーもう、こうなったらやけ酒だ!」
蒼太 「(笑)おいやめとけって。お前酒弱いんだろ? すみませーん、お冷―。ピッチャーで!」
和人 「いーやーだーっ。 蒼太! 責任とってお前も付き合えっ‼」
蒼太 「だめだこりゃ。やっぱお会計! 伝票くださーいっ! ……ほらっ、帰るぞ和人っ!」
和人 「えーっ、やだぁーっ!」
蒼太 「瑞希に怒られても知らんぞ! どうせ飲み過ぎないようにとか釘刺されてんだろ?」
和人 「うっ……それもやだぁーっ!」

わめく和人をなだめながら引きずるように席を立つ蒼太。
楽しげに戯れながら退場。

◯ 屋外

明転。
蒼太、和人を脇に抱えながら歩く。

蒼太 「おーい、本当に大丈夫か?」
和人 「んー……だいぶ酒抜けてきたー……」
蒼太 「だとしたら、もう少し自分の足で歩いてもらっていいかな?」
和人 「やだぁ。」
蒼太 「だる。」

対面から、瑞希と澪が歩いてくる。

蒼太 「あ。」
澪 「……。」
瑞希 「もしかして蒼太? えー、久しぶり!」
蒼太 「おう、久しぶり。」
瑞希 「てことは、小脇に抱えるそれは……」
蒼太 「奥さん、回収してもらってもいいですか。」
瑞希 「あー……やっぱり。ごめんね~飲み過ぎないようにって言ってたんだけど。」

瑞希、和人の腕を掴み引き寄せる。

和人 「瑞希だー。」
瑞希 「はいはい、帰ろうねー。……先輩ごめんなさい、私ここで。……(蒼太を見て)大丈夫ですか。」
澪 「気にしないで。気をつけて帰ってね。」

瑞希と蒼太、退場。
沈黙。

澪 「久しぶり、になるのかな。」
蒼太 「会うのは、そうっすね。」
澪 「彼女とは? 上手くいってる?」
蒼太 「あー……うん、まあ、相変わらず、かな。」
澪 「そっか。まぁ……何かあったらまた連絡して。私で力になれることなら、何でもするから。」
蒼太 「いいんですか? 人妻が独身男にそんなこと言って。」
澪 「もう。あんまり意地悪ばっか言ってると、和人たちに色々ばらしちゃうよ?」
蒼太 「それは困るな。じゃあ……何かあれば。」
澪 「うん。それじゃあ、またいつか。」
蒼太 「はい、またいつか。」

澪、退場。
澪とすれ違うように蒔田が近付き、声をかける。その後ろからは日吉も着いてきている。

蒔田 「新羽さん。」
蒼太 「……またですか。こんな時間にまでくるなんて、刑事の労基ってどうなってるんだ。」
日吉 「すみません……。」
蒼太 「別に貴方が謝ることじゃないでしょ。どちらかといえば、被害者でしょうし。……ねぇ?」
蒔田 「いいねぇ、アルコール入っていつもより口が達者だ。」
蒼太 「生憎、酔っ払うほど飲んでないんで。」
蒔田 「それでも。いつもよりは、ボロが出やすいんじゃないか?」
日吉 「蒔田さんっ、またそうやって……!」
蒼太 「出せるボロがありませんから。」
蒔田 「そうか? だけど少なくともお前は、最初の事情聴取で嘘をついた。そうだろう?」
蒼太 「……。」
日吉 「捜査の結果、貴方と被害者の少女との間に接点が見つかりました。」
蒼太 「接点、」
日吉 「新羽さん、ご職業は?」
蒼太 「……臨床心理士です。」
日吉 「彼女が生前通っていた高校で月2回、スクールカウンセラーとして働いている。間違いありませんか。」
蒼太 「……ええ。」
日吉 「その月2回のカウンセリングを欠かさず利用していたのが、被害者少女。……貴方は、彼女から何らかの相談を受けていたんじゃないですか?」
蒼太 「……。」
蒔田 「俺たちは刑事だ。その理由がどうであれ、一度嘘を吐いた人間を、おいそれとは逃せねぇんだよ。さぁ、話してもらおうか、全部。」
蒼太 「……。殺してはいません。」
蒔田 「殺して『は』?」
蒼太 「彼女と面識があったのは、事実です。嘘……ついてました。すみません。」
日吉 「なぜ? あの時、第一発見者として疑いの目が合ったのは確かですが、被害者との接点があったからといって、自分に非が無いのなら、そう証言すれば良かったんじゃないんですか?」
蒼太 「このまま助からなければいい、とは思ってました。」
日吉 「え?」
蒼太 「見殺し。助かるかもしれない命を、救おうとしなかった。たとえ見つけた時には手遅れだったとしても。俺が、彼女の命を蔑ろにしたのは、事実です。」
蒔田 「自分に非があると思ったから、誤魔化した。」
蒼太 「はい。」
蒔田 「違うな。」
蒼太 「はい?」
蒔田 「俺のデカの勘が違うと言っている。」
蒼太 「……。」
日吉 「またそれ。すみません。」
蒼太 「あぁ、いえ……勘、ですか。」
蒔田 「本当のことを混ぜると嘘も真に聞こえる、ってやつだろ。けど俺は、騙されてやらねぇ。」
蒼太 「……野生の勘か。」
蒔田 「だれが野良犬だ。」
蒼太 「言ってません。 …………彼女は、自分の命を捨てる選択をしました。」
日吉 「あなたはその現場を見ていたんですか?」
蒼太 「いえ。でも、彼女がその決断をするまでの過程を、俺は見てきた。」
蒔田 「過程。」
蒼太 「だから、見てないけど、きっとそうです。身なりも襲われたように見えなかったし、何より彼女の顔は、俺が知ってるいつもの顔だった。誰かに命を脅かされた顔ではありませんでした。」
蒔田 「いいねぇ、あんた刑事に向いてるんじゃない?」
蒼太 「勘弁してください、警察学校って厳しいんでしょ。」
日吉 「あー……否定はできない。」
蒔田 「ま、事情は分かった。……捜査へのご協力、感謝します。」
蒼太 「もう、いいんですか。」
蒔田 「彼女の命は、理不尽に奪われたわけじゃない。それが判れば、十分だ。」
蒼太 「……。」
蒔田 「もう帰っていいぞ、酔っ払い。」
蒼太 「酔ってません。……失礼します。」

蒼太、退場。

蒔田 「事件性なし。捜査終了だな。」
日吉 「良かったんですか、聞き取り終わらせて。」
蒔田 「……。」
日吉 「ほら、納得いってないじゃないですか。」
蒔田 「何も言ってねぇだろ。」
日吉 「言わなくてもわかります。相棒ですから。デカの勘、まだ働いてるんじゃないですか。」
蒔田 「言ったろ、最低限知りたかったことは知れた。これ以上は余計な詮索だ。」
日吉 「……。じゃあ仮に自殺と結論づけたとして。その判断に至った根拠が薄いと突っ込まれるんじゃ……。」
蒔田 「自殺だろうが他殺だろうが、彼女には命を絶つ意志があってそれは達成された。そこに意味を見出そうとするのは、他人のエゴだ。捜査会議だの調書だの、そんなもんのために彼女の想いが掘り返されてたまるか。」
日吉 「……そう、ですね。」
蒔田 「まぁ、残された人間としては、それが一番知りたくなるもんだけどな。」
日吉 「……彼女を救う大人は、居なかったんでしょうか。」
蒔田 「いや、居たはずだ。探せば、いくらでもな。」
日吉 「探せば、」
蒔田 「未成年ってのは、家と学校、限られた狭い社会を生きてる。まぁ、一部例外も居るだろうが、そういう社会を広げられるのは、ほんの一部だ。……そんで大抵、こういう道を辿っちまうような不幸な子供は、社会を広げる術を持たない。だから余計に、見える世界が狭まっていく。」
日吉 「限られた社会……。」
蒔田 「行政やシェルターの仕組みだって、子供が直接駆け込むには距離が遠すぎる。教師や周囲の大人が繋いでやることが多いのが現状だろう。探さなきゃ見つからない手助けなんざ、彼女らにとっちゃ何の救いにもならねぇんだろうな。」
日吉 「……たまにまともなこと言いますよね、蒔田さんって。」
蒔田 「たまにとは何だ。いつでもまともだろ、俺は。」
日吉 「よく言う。」
蒔田 「嫌いなんだよ、自分の都合で他人の人生壊せる奴が。それが子供相手ならなおさらな。」
日吉 「……。」
蒔田 「帰るぞ。……悪かったな、付き合わせて。」
日吉 「単独行動は規定違反ですから。」
蒔田 「可愛くないねー。」
日吉 「明日の昼休憩、スタバにおつかい行ってくれたら許します。」
蒔田 「は? 一人で?」
日吉 「もちろん。」
蒔田 「勘弁してよ、俺あの呪文覚えられねぇって。」
日吉 「メモしていけばいいじゃないですか。刑事なんですから。」
蒔田 「そんなことに大事な商売道具使えるかっつーの。」

刑事二人、退場。
暗転。

7. 居酒屋

周囲に人気は無く、川の水の流れる音が聞こえている。
和人が川辺に座っており、蒼太がビニール袋片手にやってくる。
袋から缶チューハイを取り出し、和人へ差し出す。

蒼太 「ん。」
和人 「おー、さんきゅ。」

沈黙。
2人乾杯はせず、それぞれのタイミングで缶を開き、飲み始める。
袋にはおつまみやスナックが入っており、各々取り出して食べる。

和人 「――おーい、早く話せよー。」
蒼太 「え?」
和人 「しらばっくれんなって。お前が呼び出したんだろ? 話があるって。」
蒼太 「あー、ね。そうだな。」
和人 「なんだよ歯切れ悪いな。なんか悪い話か?」
蒼太 「……10年前のあの日、2人で話したこと。覚えてるか。」
和人 「はぁ……やっぱその話か。忘れた日はねぇよ。」
蒼太 「俺さ、お前に嘘ついた。」
和人 「嘘?」
蒼太 「和人のせいで、ってアイツの言葉。」
和人 「あぁ、お前から聞かされた。葵との最後の電話で、そう話したんだったな。」
蒼太 「そう、それ。嘘だから。」
和人 「は? どういうことだよ。」
蒼太 「和人のせいで、とは言ってたけど。けど、お前が何かしたとか、きっかけになったとか、そういうことじゃなくて。」
和人 「……。」
蒼太 「お前と出会って、人の温もりを知って、1人じゃないって思えたから。愛されたいって思ったから。今まで『これで良い』って思えてた全てのことから、逃げたくなったんだって。」
和人 「なんだよそれ……。」
蒼太 「一緒に生きていきたいと思える人に出会えて幸せだったって。アイツ泣いてたよ。幸せそうな顔で、泣いてた。」
和人 「なんだよそれ……っ」
蒼太 「でも、助けを求める勇気がなかったんだって。諦めることを諦めたくて、だけど声を上げる勇気がなくて、自分一人で解決できる方法を選ぶしかなかったんだって。」
和人 「けど! お前には電話したんだろ、それはお前に助けを求めたってことじゃないのか?」
蒼太 「それは……助けを求めたわけじゃないから。」
和人 「え?」
蒼太 「俺たちは、共犯者だ。アイツの思いを、アイツのすることを、否定せず無条件に手助けしてやる。そういう存在でしか、あいつのそばに居てやれなかった。……お前とは、役割が違ったんだよ。」
和人 「共犯者……。」
蒼太 「わかってる。こんな関係、馬鹿げてるって。俺だって分かってんだよ。でも、じゃあどうしてやれば良かった? 今さらいい人ぶって『そんなことやめろ』って説得すれば良かった?」
和人 「そうだろ、普通なら、……好きなヤツだったんなら尚更! そうするのが普通だろ。」
蒼太 「普通ってなんだよ。」
和人 「は?」
蒼太 「俺らにとっての普通は、あいつのこと全部肯定して『大丈夫。』って言ってやることで。それなのに余計なこと言って、それで引き留められなかった時、あいつが最後に欲しかった言葉を言ってやれずにショックを受けさせたままいかせたら良かったのか?」
和人 「それは……そうじゃないだろ。引き留められなかったときのことなんか考えるなよ、何がなんでも引き留めなきゃならなかったんじゃないのか!」
蒼太 「あぁ、そうだよ! 俺は引き留められなかった。 アイツが俺に電話をしたってことは、もうそういうことだって思ったから。止めて欲しかったなら、きっと電話をしたのは俺じゃなかった。俺は! ……俺は、アイツにとっての思い留まる理由じゃなかった、だから……」
和人 「蒼太……。」
蒼太 「ごめんな、俺にはできなかった……アイツのしたいことを、否定してやることが……。最後に電話をかけたのがお前だったら、結果は違ってたかもしれないな。」
和人 「……お前は、アイツに生きていてほしいか。」
蒼太 「当たり前だろ。」
和人 「……。」
蒼太 「ずっと好きだったんだ。笑っていてくれるなら、俺の隣にいなくても良いと思えるくらいにはな。……ごめんな、和人。俺は、……俺は、引き止められなかった自分が許せなくて、苦しくて、俺じゃない誰かのせいにしたかった。だから、あんな伝え方しかできなかったんだ。本当、ごめんな。」
和人 「……俺はアイツが、葵が笑う時は俺の隣で、俺のためであってほしかった。」
蒼太 「あぁ。アイツもそう言ってる。お前の思いはちゃんとアイツに届いたし、アイツも同じ思いだったよ。」
和人 「……俺はお前を、お前の考えを、認めることは、できない。」
蒼太 「それでいい。俺も、お前に許してもらおうなんて思ってない。」
和人 「だけど、ちゃんと真実を伝えてくれたことは、感謝してる。」
蒼太 「ちょっと今更感はあるけどな。」
和人 「(笑)本当だよ。……10年間、俺はいつもどこかで、自分を責めてた。なにが悪かったのか、あいつを救う方法はなかったのか、アイツが居なくなったこと、受け入れたフリをしてたけど、全然そんなことなかった。毎日毎日アイツのことばっか考えててさ。」
蒼太 「……。」
和人 「だから、知れて良かったよ。もうアイツが戻ってくることが二度と無かったとしても、葵と過ごした日々を信じて良いんだって思えたから。」
蒼太 「なら、良かったよ。」
和人 「……ま、今日の分はお前の奢りだけどな。」
蒼太 「えー、そりゃあないぜ~。」
和人 「当然だろ、本当なら向こう10年奢ってもらいたいくらいだ。」
蒼太 「ははっ、冗談。もちろん奢らせていただきます。……10年は勘弁だけど。」
和人 「あははっ、それこそ嘘だよ。」
蒼太 「助かる~。」
和人 「(笑)話は終わりでいいんだよな?」
蒼太 「あぁ、そうだな。悪かったな、こんな話で呼び出しちゃって。」
和人 「全然、ノープロブレムよ。じゃあ今日はもう解散だな。遅くなるとまた瑞希に怒られる。」
蒼太 「あはは、それは大変だ。」
和人 「また飲もうぜ。今度は純粋に、今の仕事のこととか男としての会話とか、そういうくだらない話をしよう。」
蒼太 「そうだな、また連絡する。」

和人、下手へ退場。
蒼太、和人が居なくなったところでスマホを取り出す。

蒼太 「――もしもし、俺。ごめん、寝てた? ……話したよ、全部。お前の言った通りに。」

通話終了。蒼太、上手へ。
暗転。

◯ それぞれの家・リビング 屋内(夜)

明転。
ドアの開閉音。上手から和人が入ってくる。

和人 「ただいま。」
瑞希 「おかえり。遅かったね。」
和人 「ちょっと、話し込んじゃって。」
瑞希 「そっか。」

和人、瑞希の隣に黙って座る。
沈黙。

瑞希 「……和人?」
和人 「瑞希。」
瑞希 「うん? ……もー、どうしたの。」
和人 「俺、やっぱり葵との日々を忘れることはできない、と思う。」
瑞希 「……うん。」
和人 「けどそれは、10年前の過去の思い出として、だから。」
瑞希 「え?」
和人 「今はちゃんと瑞希だけを想ってるし、これからの未来、一緒に居て欲しいのは瑞希だけだから。」
瑞希 「……。」
和人 「今までごめんな、俺が中途半端なせいで、不安にさせたろ。」
瑞希 「本当だよ、何回離婚しようと思ったか。」
和人 「えぇっ!? そんなに?」
瑞希 「あはは、嘘嘘。和人がプロポーズしてくれた時から、一回も考えたことないよ。」
和人 「……ん? じゃあそれまでは別れようと思ったことがあるってこと?」
瑞希 「さぁ? どうでしょう?」

瑞希、和人から離れ立ち上がる。

和人 「えぇっ、ちょっと! 瑞希!? ねぇってば!」

和人、慌てたように追いかける。
2人、わちゃわちゃと追いかけっこしながら退場。

照明変わり、蒼太の家。
薄暗い室内。

蒼太 「ただいまー。……って、もう寝てるか。」

蒼太、荷物を置き、疲れたようにソファに座り込む。
少しして、部屋の奥から 葵が入ってくる。

葵 「あ……おかえり。遅かったね。」
蒼太 「起きてたの?」
葵 「うん、なんか寝付けなくて。」
蒼太 「ごめん、電話したからかな。薬は飲んだ?」
葵 「うん。寝る前の眠剤もちゃんと飲んだよ。でも……。」
蒼太 「偉いじゃん。大丈夫、そういう日もあるよ。」
葵 「……うん。……ごめんね。」
蒼太 「謝らないの。おいで。眠くなるまで、そうだな……今日は映画でも観ようか。」
葵 「……うん。」
蒼太 「飲み物持ってくるよ。好きな映画選んで待ってて。」
葵 「わかった。私、ホットミルクが良い。」
蒼太 「はいよ。はちみつ入りね。」

蒼太、飲み物を取りに離れる。
葵、ソファに座りリモコンをいじる。
しばらく映画を選んでいるが、少しずつ眠くなってくる。
蒼太、コップとブランケットを持って戻ってくる。

蒼太 「お待たせ~……って、寝てるし。」

蒼太、眠ってしまった瑞希にブランケットをかけ、隣に座る。

蒼太 「……やっぱ葵が作るほうが美味しいな。何が違うんだろ。」
葵 「……おまじない、かな。」
蒼太 「うお、びっくりした。ごめん、起こした?」
葵 「ううん、ウトウトしてただけだから。」
蒼太 「なぁ、今度はまた作ってよ。久しぶりに葵のホットミルク飲みたい。」
葵 「いいけど……あの味はもう作れないよ?」
蒼太 「え、なんで。」
葵 「あれは、あの頃の私が、あの場所で、あの場所に集うみんなに作ったからできた味。」
蒼太 「……。」
葵 「幸せに焦がれていた少女が、近くにいる誰かを引き留めたくて、ここから離れていかないようにって、そういう強い思いから生まれたもの?」
蒼太 「ははっ、なんか呪いみたい。」
葵 「そう。だから、おまじない」
蒼太 「あぁ……『おのろい』ね。」
葵 「うん。」
蒼太 「……葵。」
葵 「うん?」
蒼太 「今、幸せ?」
葵 「え? なに急に。どうしたの。」
蒼太 「いや……いいんだ。ちょっと気になっただけ。俺は、間違ってないかなって。」
葵 「何を今更。」
蒼太 「え?」
葵 「死ぬまで共犯者で居てよ。居てくれるんでしょ。何でもするって、あれは嘘なの?」
蒼太 「嘘じゃない。付き合うよ、どこまでも。葵が何を選択しても、どうなっても。」
葵 「じゃあそれでいいじゃん。」
蒼太 「……だな。」

葵と蒼太、ホットミルクを飲みながら映画を見る。
沈黙。
暗転。

◯ ある場所・ある時点

雨の音。
近くに川が流れている。
暗がりの中、しゃがみこむ人影。0場と同じ服装の女。
傘を差していて顔は見えない。
雨の音。
人影は立ち去る。顔は見えない。

明転。
蒼太が人影を追いかけるように歩いてくる。

蒼太 「……。」

蒼太、その場でしばらく地面を見つめ、おもむろにスマホを取り出す。

電話口(声のみ)『――はい、こちら110番警察です。事件ですか、事故ですか。』
蒼太 「もしもし。女性が一人、血を流して倒れています。場所は、」

大きくなる雨音。
蒼太、電話口に話し続ける。雨音で言葉は聞こえない。
電話を切り、誰かに呼ばれたように横を振り向き、微笑む。
元に戻る雨音。

蒼太 「先に帰ってて。――大丈夫、きっとまた、上手くいく。」

終演。

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