【本文】
朝の日差しと澄んだ空気。潮の香りが横浜の港街を包み込む。
みなとみらいと山下公園の中間に位置する20階建てビルの神栄ホールディングス本社。
この日はまいが遅刻しそうになり、ざわついた人ごみを足早で上手くすり抜けながら会社に向かう。
まいがエントランスをくぐると、清掃員の松子が階段の手すりを拭いている姿が目に入った。
まい「おはようございま~す!」
まいが元気よく松子に挨拶。すると松子がわざわざ下まで降りてきた。
松子「おはよう!あなたいつも元気ね!」
まいは小走りに笑顔で松子に手を振りながらエレベーターホールに向かった。
松子はまいが見えなくなるまで見届けていた。仕事に戻ろうとした時に1メートル
先に何か落ちているものが見えたので
近くに行って拾ってみた。
手作りのハンカチのようだった。
白地に縁取りがレースで赤の糸でMaiと刺繡してあった。
松子「ずいぶんと洒落たハンカチね。あの子が落としたのかしら?・・・」
松子はエレベーターホールの方を見つめていた。
エレベーターのドアが閉まりかける。
まい「あっ、待って~。乗りま~す。」
エレベーターのドアが開いた。
信幸「早く!」
営業部の鈴木信幸がまいを呼んだ。
まい「すみませ~ん!ありがとうございま~す。はぁ~良かったぁ~・・・」
エレベーターには数名の社員が乗っていた。
まいは少し息切れしながら信幸にお礼を言った。
信幸「大丈夫?」
まい「あっ、はい。ありがとうございます。大丈夫です・・・」
信幸「俺は遅刻してもいいんだけどね。」
信幸はにこやかにわざと言った。
まい「えっ?そうなんですか?」
まいは少しびっくりして信幸のいつもの茶化しに返答した。
信幸「冗談だよ!」
まい「そっ、そうですよね・・・」
信幸が軽く苦笑した。
いつも真面目に応えるまいが信幸には妹のような存在と思っているのかもしれない。
2人がそんなやり取りをしているうちに6階のフロアに着いた。その階に総務部と営業部が並んでいる。
信幸との出会いのきっかけは、まいが入社間もない頃、信幸が資料室のコピー待ちを先に譲ってくれたことや、一番の記憶はまいが会社から出てスマホがかばんの中になく、
急いで総務部に戻ったら職員たちが帰宅した後で既にドアの鍵がかかっていた。
その時まいが困っていたところにタイミングよく信幸が通りかかった。
その日は営業の仕事が遅くなると思って最後の鍵かけを課長に任されていた。
信幸は総務部の前でウロウロしているまいがいたので気になって声をかけた。
信幸「どしたの?」
まい「あっ、先輩・・・机の上にスマホを忘れて来てしまって・・・」
信幸「もう課長もみんないないのか・・・。じゃあ俺警備の人呼んでくるから待ってて。」
信幸は1階の警備室まで行って警備員を呼んできてくれた。
警備員が総務部のドアを開けてくれた。
スマホは案の定まいの机にあった。
まいもひと安心。
ようやくスマホ騒動は一件落着した。
まいは信幸と会社を後にして2人で山下公園を通って帰って行った。
まいは少し緊張気味で自分からは話せなかったがそのうち信幸から話しかけてきた。
信幸「スマホ良かったな。俺がタイミングよくいたからかな。」
信幸はいかにも自分のおかげでスマホが取りに行けたと自慢げにまいに話した。
まいはそのことが少しユーモアに聞こえ、心の中でクスクスしていた。
信幸「でも君とはよく会うよね。
俺は営業部の鈴木信幸。君の名前は?」
まい「わっ、私は佐倉まいと言います・・・」
信幸「まい、ね・・・」
まいは男性から呼び捨てで言われるなんて親以外なかったので心が飛び跳ねそうになった。
信幸はまいが緊張していると感じたのか、
信幸から社内のことや職場のことなどの話しをしてまいの緊張をほぐしてくれた。
まい(2人で歩いているとカップルに見られてるのかな~)と普段思わないことをイメージしてしまった。
まいはすぐに目をパチパチさせ、現実の自分に戻した。
信幸「俺反対方向だから。今度はドジるなよ!」とまいの頭を軽く2回ポンポンと軽く叩いた。
まいは背の高い信幸の顔を見上げた。
信幸「じゃ気をつけて。また明日な!」と言って颯爽と帰って行った。
まい「ありがとうございます!」と言ったら信幸は背を向けながら右手を上げ合図した。このスマホ騒動がまいとしては恥ずかしさと嬉しさが入り混じった思い出になっていた。
もちろんこのできごとは同僚のさつきとほのかには秘密である。特に情報通のほのかには絶対に話せない。
まいと信幸は自分たちの職場がある6階に降りた。
信幸「じゃぁ今日もずっこけるなよ。」
信幸は微笑みながら営業部の方に行った。
まい「あっ、はい・・・。」
まいも自分の総務部に向かった。
総務部のドア付近で同僚のさつきとほのかがまるで「待ってました!」と言わんばかりにいた。
まい「おはよ~!2人とも中入らないの?
もう朝礼でしょう!」
朝の朝礼が始まると言うのに特にほのかはソワソワしている。
ほのか「大変なのよ~!」
さつき「明日来るらしいのよ。」
まい「朝からどうしたのよ2人して。大変て?誰が来るの?」
ほのか「副社長!」
まい「副社長!?でもこの会社には副社長はいるでしょう。」
さつき「人事なんて社長の一言でどうにもなるのよ。急に決まったみたい。」
ほのか「課長から聞いた情報だと、台湾支社から戻ってきたエリートらしいわよ。
英語もペラペラだって!それも中々いい男らしいのよ!」
ほのかは早く新しい副社長を見てみたいとルンルン気分になっていた。
まい「戻ってきたと言うことは、前にこの会社にいたってこと?」
ほのか「ん~・・・それはどうなんだろう?・・・課長から聞いた話しだからね。」
ほのかは首をかしげる。
さつき「たぶん私と同期。営業部の鈴木もね。」
さつきはさすが先輩だけあってほのかと違い、いつもながら落ち着いた表情で話す。
ほのか「先輩それ本当ですか?
さつき先輩は鈴木先輩と同期とは知ってましたけど、さつき先輩が新しい副社長とも同期なんて!それってすごいことじゃないですか~!
あ~気になる~!」
ほのかのミーハー女子モードのスイッチがオンになった。
さつき「でも、当時の入社式ではそんなような人も見なかったけどね。」
それもそのはず、当時大地は入社式には参加せず、事前に台湾支社の方に行くことを取締役の松子から命じられていた。
まいは2人の会話を黙って聞いていた。
まい(・・・鈴木先輩と新しい副社長って同期だったんだ・・・)
まいは信幸と台湾支社から戻ってくる副社長との関係が少し気になり始めた。
さつき「ほらほら、訛り弁課長の朝礼が始まるから行くよ!」
さつきは2人の背中を後押ししながら総務部に入っていった。
翌日の午前中、まいは19階の資料室でコピーした資料をドアの前で落としてしまい慌てめいて拾っていた。そこへ知らない男性が来て一緒に拾いだした。
まい「あっ、すみません・・・」
男性は集めた資料をまいに渡した。
男性(大地)「はい、枚数大丈夫?」
まい「あっ、はい・・・ありがとうございます・・・」
男性はドアの上のプレートを見た。
男性(大地)「あれ?ここ20階建てだよね?」
まい「はい、そうですけど。ここの階は19階です・・・」
男性(大地)「え?最上階じゃないの?あ~俺、エレベーターのボタン間違えたわ!」
まいはきょとんとした顔で男性を見ていた。
男性(大地)「もう1つ上かぁ。あっごめん、行くね。」
まい「カルバンクライン・・・」
男性(大地)「えっ?」
男性がまいの方に振り返った。
まいが資料を一緒に拾っていた時、ほのかにその男性からカルバンクラインのムスクの香りがしたので、ついまいは言ってしまった。
まい「あっ、いえ・・・拾って頂いてありがとうございました・・・」
男性は人差し指を上にジェスチャーしながら微笑んで最上階に向かった。
まい(最上階は社長室と会議室しかないのに・・・あの人だれなんだろう?
取引先の人かな・・・でもちょっと爽やか系でいい感じだったな~・・・)
まいは笑みを浮かべながら6階の総務部に戻って行った。
大地が最上階の松子の社長室に入る。ドアをノックした。
大地「失礼しま~す。母さん今帰り・・・
あれ?いないの?」
松子は社長室にいなかった。
大地「電話してみるか。」
大地は松子に電話をかけるが松子は中々出ない。
大地「今日はどこ行ってるんだ?」
大地は一人でつぶやきながら、ふと松子の机に目がいった。
大地「ハンカチ・・・」
大地は机にあったハンカチを手に取った。
その時急にドアが開いた。
社長の松子だった。
大地はとっさにハンカチをジャケットのポケットに入れた。
松子「あら大地帰ってたのね。」
大地「母さん!」
松子「お昼外で一緒に食べない?」
大地「あ~っ、ごめん・・・これから秘書と打ち合わせがあるから・・・」
松子「あら、そう。じゃあ仕方ないはね。」
大地「本当ごめん。また埋め合わせするから・・・」
大地は少し焦りながらかばんを持ってすぐに社長室を出た。
松子は慌てていた大地がおかしいと思い、机を見たらハンカチがなくなっていたことに気がついた。
松子「あら、ハンカチがないわ!」
大地は自分の18階にある副社長室に急いで入った。
大地「ハンカチ持ってきちゃったな・・・」
まいは仕事が終わり6階の通路の窓から外を見ていた。
まい(雨が降るなんて言ってなかったのに・・・。)
天気予報では雨が降ると言ってなかったのでまいは傘を持ってきてなかった。
今日は花の金曜日。
ほのかは高校時代の友人と飲み会と言って急いで行ってしまった。
先輩のさつきは有休を使って日曜日まで3連休。
信幸「雨降ってきたな・・・」
まいが傘がなく困ったように1階のロビーをゆっくり歩いていると信幸が後ろから声をかけてきた。
まいは少しびっくりした。
信幸はまいが傘を持っていないことに気づいた。
信幸「俺の傘で良かったら入っていく?」
まい「えっ?」
信幸「何そんなにビックリしてるの?」
まい「あっ、いえ・・・」
まいは信幸にいきなり言われたので動揺をして更に困ってしまった。
まい(鈴木先輩の傘に一緒なんて・・・)
その時エレベーターから大地が男性秘書と話しをしながら降りてきた。
すると高校時代の親友の信幸を見つけた。
大地は信幸に声をかけようとしたが、信幸と一緒にいた女性社員のまいが先日19階で資料を拾っていた女性だと気がついた。
大地は足を止め、しばらく2人の様子を見ていた。
大地「悪いけど先に地下の駐車場に行っててくれるかな?」
秘書「はい、わかりました。」
大地(信幸・・・あの子のこと知ってるのか?・・・)
まいは信幸の傘に遠慮がちに入り込んだ。
大地は信幸の傘にまいが入っている姿を見て目を丸くした。
大地(あの2人はつき合ってるのか?)
大地は心の中で2人を見てもどかしさを感じた。
まいと信幸は以前一緒に帰った時と同じ山下公園を通った。
まい(いつも先輩から話してくるから今日は自分から何か話さないと!・・・)
しかしまいはこの傘の中の距離感では中々
緊張して言いだせない。
ふと、さつきとほのかが言っていた副社長のことを思い出した。
まいはそのことを信幸に聞いてみよう!と思った。
まいが言いだそうとした時だった。
信幸「もう少し中に入らないと濡れちゃうよ。」
信幸はさりげなくまいに言った。
まいはドキッとした。
まいとしてはこれ以上の距離は近づけない。
まいは副社長の話しをきりだした。
まい「先輩・・・副社長が新しい人に変わる話しって聞いてますか?」
信幸「あ~そう言えばうちの課長が言ってたな~。まい情報早いね!」
まい「いえ、ほのかとさつき先輩から聞いて・・・」
信幸「そう言うことか。」
まい「それと・・・鈴木先輩と副社長が高校時代の友達とかって・・・」
信幸「そんなことまで!それは桐谷が言ったんだな。あいつもおしゃべりだな~!」
まい(いけない!私よけいなことまで言ってしまった!)
まい「先輩今のこと・・・」
信幸「わかってる。誰にも言わないから。大丈夫!」
まいはほっとした。
いつもは茶化す信幸だったが、今の話しは真面目に受け取ってもらったみたいだ。
まい「ありがとうございます・・・」
信幸「まぁ~そのうちわかることだけどね。」
まい「そっ、そお~ですよね・・・」
まいは副社長がどんな人なのか?
少し気になっていたのでそのことも聞いてみた。
まい「新しい副社長って、どんな方なんですか?」
信幸「気になるの?」
まい「えっ、?えっ、まぁ~・・・」
信幸「そ~だな~、あいつは・・・」
まい(あいつ!?いくら高校時代からの知り合いでも、副社長にあいつなんて言っていいの?・・・よっぽどの友達なんだ・・・)
信幸「頭もいいし、誠実だし。俺みたいにかっこいいしな!」
また信幸のおちゃらけ発言が突発。
信幸は微笑みながら冗談交じりでまいに言った。
2人で話しているうちに雨も上がり、まいがいつも利用しているバス停に着いた。
わざわざ信幸が遠回りして送ってくれた。
信幸「雨やんで良かったな。」
まい「先輩、わざわざバス停まで・・・すみません・・・」
信幸「全然。気にしないで!」
まい「本当に助かりました!ありがとうございます。」
信幸「じゃあ気をつけてね。」
まい「先輩も気をつけて・・・」
信幸「あっ山下公園!まいが入社して間もない頃のこと思い出した。スマホ騒動!」
まい「先輩まだ覚えてたんですか!?」
信幸「もちろん覚えてるよ。俺は結構嫌なことは覚えてるの。」
まい「嫌なことって・・・それはあの時私がいけなかったから・・・」
信幸「うそ、うそ。今日も山下公園通ったからそれで思いだしてね。」
まい(あれからだいぶ経ってるのに。覚えていたなんて・・・私の心の中だけに閉じ込めていたかったのに・・・)
まいは複雑な気分だった。
信幸「あっ、バス来たぞ。じゃあな!」
まい「・・・・」
まい(何だか嬉しいようで残念な気分。まっ、いっか・・・)
翌週の月曜日の朝、さつきとほのかが6階のエレベーターの近くでまいを待っていた。
まいが6階で降りた。
ほのか「ちょっと来て!」
さつき「ほのか朝からやめなよ!」
ほのかはまいの腕をいきなり引っ張ってエレベーターの片隅で話しを始めた。
ほのかは少し気持ちが高調してるようだった。
まい「いきなり、ほのかどうしたのよ!」
ほのか「先週の金曜日、まい鈴木先輩と相合傘で帰ったんだって!」
ほのかはまいに単刀直入に話した。
まい(え?もう噂になってるの!?一体誰が見てたんだろう?6時近かったからそんなに人はいなかったはずだけど・・・)
さつきはまたほのかのミーハー症が始まったと思っている。
まい「そっ、そんなこと誰が?」
ほのか「広報部の後輩の子よ。雨が降ってたから置き傘を取りに戻る時にエントランスのロビーで鈴木先輩とまいが一緒にいるとこを見たって!
そしたらまいが先輩の傘に入って帰ったって!」
まい「えっ、え?・・・」
まい(誰が見てるかわからないな~。まだまだこの続きを白状させられるのかと思うと・・・)
まいは金曜日のことを話すのが面倒に思った。
とにかくほのかは何が何でも突き止めたいミーハー女子なので困りはてる。
まい(何でこんな子と友達になったかな~?自分でも不思議だわ・・・)
信幸「おはよ~う!こんな所で3人で何やってんの?もしかして誰かのうわさの井戸端会議?」
まいたちはいきなり信幸が現れたので戸惑った。
さつき「なんでもないわよ!鈴木には関係ないの!」
本当は全然関係がある。さつきは早く信幸をこの場から退散させようとした。
信幸「相変わらず桐谷は素っ気ないな~。」
さつき「素っ気なくて悪かったわね!元々こんな性格だから。」
信幸「そんなこと今始まったことじゃないだろう!」
信幸とさつきがそんなこんなでやっている最中に、ほのかがいきなり信幸に先週の金曜日のまいとのことを聞いてしまった。
ほのか「鈴木先輩!先週の金曜日、ここにいるまいと一緒に帰ったんですか?」
さつき「ほっ、ほのか何言ってるのよ!
この子ちょっとミーハーなとこあるから、
気にしないで!。」
さつきは焦って信幸に弁解した。
まいは少しうつむき加減で下を向いた。
信幸「あ~一緒に帰ったけど。彼女傘持ってなくて困っていたからね。」
信幸は平然とした顔で話した。
まい(先輩よく平気で言っちゃって!)
ほのかはあっけらかんな顔をした。
ほのか「それ、本当だったんですね!」
信幸「そうだけど、それが?」
さつき「さぁ、もう朝礼始まる!ほのか行くよ!ほら、まいも!」
ほのか「ちょっと、さつき先輩・・・」
さつきはほのかがこれ以上信幸に質問をさせないように無理に引っ張って総務部の方へ連れて行った。
信幸「あっという間に流れるんだな。」
まい「情報通のほのかですから。それにあの子いろんな部署の人と繋がっていますからね。」
まいと信幸は何事もなかったようにそれぞれの部署に戻った。
大地と秘書が副社長室で今日の予定の確認をしていた。
大地「朝は営業部と総務部に挨拶に行くから。」
秘書「はい、わかりました。」
大地は会社の部署リストを見ながら営業部の鈴木信幸が載っていたことを目にし指で確認をしていた。
大地(評価がA!・・・トップの成績か。さすがだな・・・)
次に大地は例のハンカチの女性社員のまいを探すのに指でたどっていった。
大地(Maiと刺繡してあったな。まい?かな。それともめい?と読むのか?・・・
信幸がいる営業部にいないとすると
隣りの総務部かな・・・
佐倉まい?この子が落としたハンカチなのか?・・・)
信幸は自分の机の引出しに閉まってあるまいのハンカチを確認した。
大地「ごめん、待たせた。6階に行こう。」
秘書「はい、副社長。」
大地は椅子から立ち上がって、秘書に営業部と総務部の課長にこれから各部署に行くことを伝えるように言った。
今日もまいは朝から19階の資料室で毎度のコピーの印刷をしていた。
この日はいつもより資料が多く、紙袋に入った資料が両手分ふさがっていた。
まい「今日はまたやたらと重いわ・・・」
まいはつぶやきながらエレベーターに乗り
一度重たい資料を置いた。
6階に着き、ドアが開くとまいはすぐに延長ボタンを押した。
するとエレベーターのドアの前に信幸がいた。
信幸「今日はずいぶん重そうだな!」
まい「先輩!すみません・・・すぐ出ますから!」
まいは急いで重い資料を持とうとした時だった。
信幸「いいよ、俺が総務部に持って行くから!」
まい「でも先輩これから仕事で外出するんですよね?」
信幸「大丈夫。いつも余裕持って行くから。」
まい「すみません・・・ありがとうございます・・・」
まいは信幸に恐縮した思いでお礼を言った。
まいと信幸が総務部の方に向かった時に営業部の方から声がした。
大地「信幸、久しぶり!」
信幸「大地じゃないか!いつ戻ったんだよ!」
大地「先週ね。信幸に会いたくなって!」
信幸「よく言うよ!ここの任務任されたんだろう?」
大地「ま~そんなところかな?」
ふと大地がまいの顔を見た。まいも大地の顔をどこかで会ったような?と言う顔で見ていた。
大地「あっ、君この前の!」
まい(あっ、あの時の!・・・カルバンクラインの・・・)
まいは先日、資料を拾ってくれた男性を思い出した。
まい「こっ、この間はありがとうございました。・・・助かりました!」
まいは再度お辞儀をして大地にお礼を言った。
秘書「副社長、何かあったんですか?」
大地「いや、俺がちょっとドジったの。」
まい(えっ?この人が新しい副社長!?私いけない、軽々しいこと言ってしまった!)
信幸「まい何かあったの?」
信幸は2人の顔を交互に見て不思議に思った。
まい「あっ、いえ・・・」
大地「さて、先に営業部に行って挨拶するかな。信幸はもう俺と会ったからいいよな?」
大地と秘書は営業部の方に向かった。
大地(信幸、まいと言ってたな。やはり佐倉まいはあの子か?それに呼び捨てで呼ぶぐらいの仲なのか?)
信幸はまいに大地と何かあったのか聞き返した。
まいは19階での出来事を話した。
まいは重たい資料を持ってくれた信幸にお礼を言って信幸は営業に出かけた。
さつき「まい、遅いじゃない!そろそろ副社長来るみたいよ!
急にさっき決まったみたい。見てよ、ほのかなんてさっきから鏡ばかり見てるし。」
まい(副社長って、やっぱり今会った人かな?・・・)
大地の秘書が総務部のドアをノックした。
ほのか「来た、来た、来ましたよ!」
さつき「ほのか、よけいなこと話しちゃだめだからね!」
さつきが小声でほのかに言った。
ほのかがオッケーのサインを送った。
ドアが開くと、秘書がドアを開けた。
秘書「副社長がきました。」
総務部の社員がその場で一斉に立ち上がった。
総務部は課長を入れて男女合わせ8名の職場で動いている。
総務部の社員「おはようございます。」
大地「みんなおはよう。」
大地が総務部の社員を見渡すとまいと目が合った。
まい(あ~やっぱり!さっきの人だ!)
大地(・・・ここの部署だったのか!)
秘書「副社長?・・・」
秘書が大地に小声で合図した。
大地「あっ、あ~・・・」
大地は少し焦って簡単に挨拶を終え総務部から出た。
ちょうど時計はそろそろお昼の12時を差すところだった。
課長「もう昼だから今日はみんな早めに行ってけ~!」
社員たちは喜んで2階のランチルームにガヤガヤと行きだした。
ほのかが早速まいとさつきに副社長の大地の話しをしてきた。
ほのか「ねぇちょっと、ちょっと!副社長って横浜流星ぽくない?爽やかで落ち着いている大人の男って感じよね~」
またまたほのかのミーハーワールドが開幕。
さつきはほのかにつき合いきれない素振りで足早にランチルームに向かった。
まいはほのかの副社長の話題につき合いながらゆっくりと歩いて行った。
まい(あの副社長が鈴木先輩と親友なんだ・・・それに私と目が合った時、何か言いたそうな感じがしたけど・・・気のせいかな・・・)
ほのか「ねっ、まい?ね~私の話し聞いてた?」
まいは信幸と副社長のことを考えていた。
まい「えっ?あ~、副社長のことでしょう!」
まいは気を取り直してほのかに返答した。
まい「そっ、そうよね・・・ほのかが言ってる通り新しい副社長は横浜流星みたいに爽やかさがあって、大人びて・・・ムスクの香りが似合いそうよね!」
ほのか「ムスクの香り?」
まい(いけない!19階であった時のことを思い出して言ってしまった!)
ほのか「ムスクの香りね~・・・うん、副社長似合いそうだわ!」
まいはほのかに突っ込まれるかとハラハラした。
大地は副社長室に戻って椅子に座り、窓から山下公園の方を見ながら総務部のまいのことを考えていた。
大地「あの子が佐倉まいか・・・」
大地はつぶやきながら引出しにしまっておいたまいのハンカチを出した。
大地のスマホに着信音が鳴った。
松子からの電話だった。
松子「大地、私の机の上にハンカチが置いてあったはずなんだけど、知らない?」
大地「あ~、あのハンカチなら俺が持ってるよ。」
大地は松子から何か言われると思った。
松子「そのハンカチ拾ったんだけど、悪いけど大地から返しておいてくれる?じゃあね。」
大地「あっ母さん、このハンカチって・・・」
松子は電話をすぐ切り、最上階の横浜の街並みを眺めながら、大地のことを心の中で応援していた。
大地「なんだよ!こっちの話しも聞かないで。」
大地は翌日の昼休みにもう一度営業部と総務部がある6階に向かった。
副社長の大地が通路を歩くと社員たちは頭を下げて通って行く。
6階のエレベーターのドアが開くと、まいとさつき、ほのかが立っていた。
大地もびっくり、3人も啞然としている。
3人はすぐにお辞儀をした。
大地「君、佐倉まいさん?」
大地は右端のまいに声をかけた。
まい「あっ、はいそうです・・・」
大地「昼休みで悪いけど、ちょっといいかな?」
まい「あっ、はい・・・」
ちょうど上から来たエレベーターにまいと大地が乗って行った。
さつきとほのかは顔を見合わせた。
ほのか「えっ?何で副社長がまいを?」
さつき「さぁ?・・・」
エレベータの中は誰もいなく、まいと大地2人だけだった。
大地「信幸とはいつから知り合いになったの?」
まい「えっ?・・・あっ、はい。鈴木先輩とはちょっとしたきっかけで・・・」
大地「そうなんだ。じゃあまだつき合ってるとか、恋人とかではないんだよね?」
まい「あっ、はい・・・」
まい(なんでそんなこといきなり私に聞くんだろう・・・)
1階のエントランスのロビ―に着いた。
まいと大地は会社の外に出た。
その様子を清掃員の姿で松子が隠れて見ていた。
松子は右手で親指を立て笑顔でグッドのサインを送った。
まい「あの・・・どこに行くんですか?」
まいはわからないまま大地の後に着いて行った。
大地「信号渡るぞ。」
まい(山下公園・・・。)
6階のエレベーター付近ではさつきとほのかが副社長がまいを連れ去ってしまったこと
で慌てめいている。
さつき「何考えてるのかね?あの副社長!」
ほのか「何かありますよね・・・」
さつき「やっぱり私心配だから見てくる!」
ほのか「私も行きます!」
さつき「どうせほのかはあの横浜流星似の副社長が気になるんでしょう!」
ほのか「それもそうですけど、それにまいは私の同期からの親友でもありますし・・・」
さつきはスマホの時計を見て、昼休みの時間を確認した。
その時に信幸が2人に声をかけてきた。
信幸「あれ?今日は3人娘じゃないんだ?」
ほのか「今副社長がまいを連れて・・・」
信幸「え?副社長がまいを?何で?」
さつき「だからそれが気になって、これからほのかと様子を見に行こうとしてるのよ!」
信幸(何で大地がまいを?)
信幸はすぐにまいと大地を追っかけるように
して上から来たエレベーターに乗り込んだ。
信幸「2人とも今日は昼抜き覚悟だからな!」
さつき「了解!私も行く!」
ほのか「え~昼無しって?」
さつき「つべこべ言わずにほのかも来るの!」
さつきとほのかもエレベーターに急いで乗った。
1階のロビーは昼休み中なので、社員の姿もまばらだった。
3人はロビーを見渡してもまいと大地らしき人はいない。
信幸(大地はまいをどこに連れてったんだ?それに俺は何でこんなにまいのことが気になるんだろう?まいのことが好きなのか?)
信幸は自分の心に問いかけていた。
ロビーの端で清掃員姿の松子が床のモップ掛けをしていた。
ほのか「あっ、あの掃除のおばちゃんに聞いてみようか!」
さつき「そうね!」
ほのか「お仕事中すみません、5分前ぐらいに20代半ばぐらいの女性と副社長いえ、男性が通りませんでしたか?」
松子「え~通ってったわよ。山下公園にでも行ったんじゃない?」
さつき「山下公園・・・」
信幸(山下公園に大地がまいを連れて?)
ほのか「おばちゃんありがとう!」
3人はお礼を言ってお辞儀をし、ほのかは松子に手を振って、松子も手を振り返した。
松子は大地が行く場所としたら山下公園ぐらいだと思って言ってみた。
またほのかは松子に「おばちゃん」なんて言ってしまって、本当はこの会社の取締役社長なのに、もしほのかが知ったらきっと腰を抜かすに違いない。
松子「さてさて、大地がどうするかな?」
松子はまいと大地の出会いを楽しんでいる。
3人は会社から歩いて5分程の山下公園に向かった。
お昼時の山下公園。
山下公園から見えるみなとみらい。
海面に映る景色とキラキラとした日差しが心を癒される。
大地は遊歩道からみなとみらいの方を黙って眺めていた。
まい(この空気感嫌だな~・・・いつまで続くんだろう・・・)
大地「たまにはいいよな。こうやって外に出て眺めるのも。いつもは静かな部屋で窓から見るだけだから。」
まいは副社長が言ったことがなんとなくわかるような気がした。
まい「そうですね、外の方が自然の空気も吸えて遠くが近くにも見えますし、鳥のさえずりや人の賑やかさ、部屋からは見えない部分がリアルに見えますからね。」
まいは大地に偉そうなことを言ってしまったと思った。
まい「あっ、すみません・・・副社長にこんなこと言ってしまって・・・」
大地「いや、君の言った通りだよ。俺は役職が役職だから、たまに息苦しくなる時がある。
自分でもわからないけど、何故か君をここに連れて来てしまった・・・。
いきなり悪かったな。」
大地はまいの方を見て笑みを浮かべながらあやまった。
まい「いえ、そんな・・・副社長があやまるなんて・・・」
大地「俺は大地って言うんだ。よろしく!
でも今日は良かった。君にもまた会えたしね。」
まい「あの~・・・」
大地「まい、だろう!」
まい「あっ、はい・・・」
まい(ひぇ~副社長からいきなりまい!なんて・・・)
信幸「あっ、あそこだ!」
ほのか「あっ、あの2人いた!」
さつき「しっ、ほのか!」
ほのかが大きな声をあげたのでさつきが
ほのかの口をふさいだ。
3人は大きな木の陰からまいと大地の様子を
見ることにした。
さつき「2人で何話してるんだろう?」
さつきがチラッと信幸の顔を見た。
信幸は何も言わずじっと2人を見ている。
さつきは何となく以前から予感をしていた。
信幸はもしかしたらまいのことが好きなのか
もしれないと・・・
この間の相合傘にしろ、重たい資料を持ってあげたり。朝も一緒のエレベーターから降り
てきたりと、ほとんどまいの身近に信幸がいるシーンが目立っていると思っていた。
さつき「鈴木、あんたまいのことどう思ってるの?」
さつきは信幸に率直に聞いた。
信幸は少し驚いた顔でゆっくりさつきを見た。
ほのか「さつき先輩!いきなり何言いだすん
ですか!」
さつき「あんたは黙ってて!」
信幸「どうって?」
信幸は落ち着いた口調でさつきに言い返した。
大地「あと君に聞きたいことがあるんだ。」
まい「私にですか?」
大地「このハンカチは君の?」
大地はジャケットのポケットからハンカチを出してまいに見せた。
まい「あっ、このハンカチは私のです!どうして副社長が?」
大地「あ~この間帰る時に1階のロビーで拾ってね。持ち主がわからなくて、刺繡で名前
が入ってたから社員名簿見て調べたら君かな?と思ってね。はい。」
まい「そうだったんですね!ずっと探していたんです。多分朝急いでいた時に落としたのかも・・・」
本当は母親の松子が拾ったハンカチを、大地は自分が拾ったように話してしまった。
大地「大事なハンカチみたいだね。」
まい「はいそうなんです。去年亡くなったおばあちゃんから頂いたもので・・・」
大地「それは大事にしなくちゃな。」
まい「はい。本当にありがとうございます。」
まい(副社長にはこの間から迷惑かけてるな・・・)
大地「でもちょっと残念だな。」
まい「えっ?・・・」
ほのか「副社長、まいに何か渡したみたいですね!」
さつき「ハンカチっぽかったわよね。」
信幸(ハンカチ?)
3人はもう少し近くに寄ってまいと大地の会話を聞きたいがこれ以上近寄ったらついて来たことがバレてしまう。
まい「残念?・・・」
大地「もう君にはハンカチを渡してしまったから繋がりがなくなってしまうのかな?って・・・」
まい「そっ、そんな私みたいな副社長と繋がりなんて・・・」
まいは大企業の副社長と繋がるなんて、恐れ多くも出来るわけがないと思った。
大地「君といや、まいと一緒にいると不思議に落ち着くんだ。自分を出せて気持ちが楽にな
る。」
まい「いえ、そんな・・・私なんて・・・」
まいは大地から言われたことに困りはてていた。
まい(まだ出会って間もないのに・・・)
大地「信幸のこと好きなの?」
大地から突然信幸のことを聞いてきた。
まい「えっ?鈴木先輩のことですか?そっ、そんな鈴木先輩とは単なる先輩と後輩の関係です・・・」
大地「じゃあまだ俺はまいにアタックするチャンスがあるってことだな。」
まい「?・・・」
まい(副社長、何を言ってるんだろう?それにもう昼休みもそろそろ終わりなの
に・・・きっとさつき先輩とほのか気にしてるな。戻ったら聞かれるの覚悟だな・・・)
まい「副社長すみません・・・そろそろ会社に戻らないといけないので・・・」
いきなり大地はまいの背中に手を回して抱き寄せた。
まいはびっくりして目の瞬きもできない。
そのシーンを信幸、さつき、ほのかも
真顔ではっきり見ていた。
まい「副社長・・・?」
信幸はさつきとほのかに静かに言った。
信幸「俺は、まいが好きかもな。」
信幸はサラッと素直に言った。
さつき「鈴木、あんたやっぱり・・・」
まいは大地から香るカルバンクラインのムスクに惹きつけられそうになった。
ほのか「副社長やるぅ!ドラマチックだわ~まいがうらやまし~い!」
さつき「ほのか静かに!」
信幸「昼間からロンバケか!・・・もう行くぞ!」
さつき「鈴木、これでいいの?」
信幸「まいが決めることだからな。」
さつき「なによ、無理しちゃって・・・。ほのか行くよ!」
ほのか「は~い。あ~お腹すいた~」
まい(あれ?今さつき先輩とほのかの声が聞こえたような?・・・)
まいは慌ててすぐに大地から離れた。
まい「あっ、ごめんなさい・・・」
大地「まい?」
まい(まさか、鈴木先輩も一緒にいたのかな?まさかね・・・。でももし鈴木先輩に見られていたら・・・)
まい「私会社戻りますので、失礼します!」
大地はまいの腕を掴んだ。
大地「まい、俺の側にいてくれないか!」
まい「え?・・・」
大地「ごめん・・・会社戻ろう。」
まい「はい・・・」
大地「一緒に会社に戻ると周りが誤解するから、俺はカフェに寄って行くからまい先に行って。」
まい「わかりました・・・」
まいは会社に戻りながらさつきたちのことを気にしていた。
まいはゆっくりと会社のエントランスに入り、左端にある交流スペースの椅子に腰を下ろした。
まいがため息。
さつきたちに何て言ったらいいのか?考えていた。
信幸「よっ!まい。もう昼食べたの?」
考え事をしている時に突然信幸が声をかけてきた。
まいはびっくりした表情で信幸を見た。
まい「先輩・・・」
信幸「俺まだだから、一緒にランチ行くか?」
まいはいつもと変わらない信幸だったので、
山下公園で見られていたことは自分の考え過ぎだと思った。
実は信幸は山下公園から会社に戻る時、
さつきとほのかにまいと副社長のワンシーンは見なかったことにすることを念を押して伝えた。
ランチルームは昼休みももうすぐ終わりになるので席も空いて静かだった。
まいは信幸とこのように2人だけで食事をすることは初めてのことだったので少し緊張
をしていた。
まいと信幸は同じエビピラフとサラダのセットを注文した。
信幸「今日元気なくない?」
まい「えっ、そうですか?いつもと変わりませんけど・・・」
信幸はまいのことを以前から見てきたのですぐ様子がおかしいことがわかる。
まい「先輩が元気過ぎるんです!」
まいは信幸に勘づかれないように明るく振舞った。
信幸「えっ、そう?いつも俺は空元気だけど。」
まいは信幸の顔を見てクスッとほころんだ。
信幸「おっ、いつものまいに戻ってきたな!」
まい「私はいつもと変わらないですよ。
先輩が変なこと言ってきたから・・・」
信幸「俺なんか変なこと言った?」
まい「いえ・・・。ありがとうございます。」
信幸「逆にお礼?今日は変なまいだな。ま~いつも変だけど、でもそんなとこが俺は好きだけどね。」
まい「えっ?好きって?・・・」
信幸「もう5分前じゃん!片づけて行くぞ!」
まい「ちょっと先輩・・・」
まいは信幸から「変だけど好き・・・と言われ、それはどう解釈して受け止めていいのか?わからなかった。
2人は急いでエレベーターに乗って6階の職場に向かった。
まい「先輩、さっきのこと!」
信幸「また帰りな!」
まい「帰り?」
信幸は右手を上げて営業部の中に入って
いった。
まいは総務部のドアをゆっくり開けて中に入った。
さつき「まい!いきなりいなくなるから心配したのよ!お昼食べたの?」
ほのか「そうよ!仕方ないからさつき先輩と2人だけのランチよ!」
さつき「仕方ないとはなによ!」
ほのか「あっ、すみません・・・」
さつきとほのかも信幸と同じにいつもと変わらない様子で安心した。
まいが副社長に連れて行かれて後から着いてきたと思ったが、やはり自分の勘違いだと
思った。
夕方の5時過ぎ、ぞろぞろと社員たちが帰宅して行く。
まいは昼間の信幸の言葉の意味がよく
わからなかったので、しっかり聞こうと
エレベーター付近で待っていた。
さつき「まいおつかれ!誰か待ってるの?」
まい「うん、ちょっとね・・・」
ほのか「え~まい、いい人出来たの?」
まい「まさか!」
さつき「ほらほのか、エレベーター来たよ!じゃ~ねまい!」
さつきはまいに相づちをしてほのかと一緒に帰って行った。
まいはさつきが何か感づいていることがあるのではないか?と気になった。
まいはエレベーター付近で10分ぐらい待ち、
ようやく信幸が出てきた。
鍵かけをしているので、今日も課長に任されたようだ。
まい「先輩、先ほどのことですけど・・・」
信幸「待っててくれたの?悪かったな。」
まい「いえ、大丈夫です。」
信幸「そんなに俺が言ったこと気になるの?」
まい「はい、気になります!何回も言わせたいです!」
信幸「えっ?」
まいは信幸の顔を真剣に見て伝えた。
信幸はちょっとびっくりした反応。
1階のエントランスロビーの交流スペースで
大地と秘書が座って打合せをしていた。
大地がチラッとロビーの方を向くと信幸とまいが一緒にいるところを目にした。
大地は椅子から立ち上がって信幸とまいの方に近づいた。
大地「よっ!信幸。仕事終わったのか?」
信幸「あ~。大地はまだ?」
まいは山下公園でのワンシーンを思い出した。
信幸も大地がまいを抱き寄せるシーンが頭の中でよぎった。
大地「まいも一緒なんだ!」
信幸はいつの間に大地がまいのことを呼び捨てに言ったので一瞬カチンときた。
大地「信幸、こんな場所で聞くのもあれだけど、まいとはつき合ってないんだろう?」
副社長がいきなり人が多く通るロビーでこんなことを聞いてまいは啞然とした。
信幸はこの際だから自分の気持ちをはっきり
大地に話した。
信幸「見たってわかるだろう。2人で帰るんだから。」
まいは信幸の顔を見た。
信幸もまいの顔を見返した。
誰から見ても2人はカップルに見られる。
大地「そっか・・・。相手が信幸じゃ叶わないな!まい悪かったな。また俺の勘違いだったな!」
信幸「大地、しっかりしてくれよ。ここの会社を背負うんだからな!」
大地「背負うのかな?」
大地は交流スペースに戻り、まいと信幸は会社を後にした。
いつものように2人は山下公園を通って帰っていた。
夕暮れの山下公園。
夏にかけて日も長くなり、
いつもと変わらない光景だが、今日はよりみなとみらいのネオンがロマンチック
に見える。
まいと信幸はゆっくりと遊歩道を歩いている。
まいは先日この遊歩道で、大地に抱き寄せ
られた記憶が甦ってきた。
信幸はちょうどみなとみらいがはっきり位置する場所に止まった。
信幸「大地いや、副社長に言ったこと。勝手に言ってしまってごめん・・・」
まい「えっ?・・・」
信幸「あと、本当はここで大地がまいを抱き寄せてるとこを見たんだ。」
まい「そっ、そうなんですか!あっ、あれは・・・」
まいはハンカチを落して大地が拾ってくれたこと、その後急にあのような展開になって
しまったことを焦って信幸に話した。
信幸「わかっているよ。そこで俺は気がついたんだ。まいのことが好きだって・・・。
まいが入社したての頃はわからなかったけど、大地がまいを抱き寄せたところを
見たら悔しいと思った。大地とは親友だけど、まいを取られたくないと思ったんだ。」
まいは今の信幸の話しを聞いて心が熱く高調した。まいも自分では気づいていなかったが、入社
当時の頃から信幸には今までいろんな場面で助けてもらってきた。
知らないうちに信幸を慕っていたのかもしれ
ない。
まい「私も、もしかしたら、鈴木先輩のことをわからないうちに好きになっていたのかもしれないです・・・」
信幸「まい・・・」
信幸はまいにゆっくりと近づいて、
お互い見つめ合った。
信幸は優しくまいの頭をフワッと抱えながら自分の方に抱き寄せた。
まいは目を閉じて信幸に身を任せた。
みなとみらいの輝かしい夜景が2人のロマンスを祝福しているようだった。
今度こそ本物のたどり着いた恋に違いない。
大地は自宅のマンションから松子に電話をしていた。
大地「母さん?俺もう一度台湾支社に戻るよ。まだこっちの仕事無理そう。まだまだ修行がたりないな。」
松子「そうね。それより大地、例のハンカチは返せたの?」
大地「えっ?あ~名簿見てわかったから返せたよ。俺のタイプだったけど、すでに信幸とつき合ってた。」
松子「信幸君じゃあ、あんた叶わないわよ。」
大地「だから諦めたって。」
松子「またいい人現れるわよ。」
大地「しばらく俺は恋愛はいいの!
早速台湾に明日戻るから。」
松子「わかった。またしばらく会えないけど元気でしっかりね!」
翌日大地は社員たちには伝えず台湾支社の方
に戻る準備をしていた。
まいが総務部の中に入ると元気に挨拶をした。
まい「おはようございま~す!」
さつき「あら、まい今日は珍しく早くない?
いつもは眠たそうな顔してるけど
今日は顔がシャキッとしてるわよ。」
まいはにこやかな顔で自分の机に行った。
それもそのはず、正式にまいは信幸と交際をすることになり、今朝は信幸と待ち合わせを
して出勤したのだから気分がワクワクしている。
ほのか「ちょっと聞いてよ!」
ほのかが相変わらずのミーハー振りでいきなりドアから入ってきた。
さつき「一体朝から何よ?」
ほのか「あっ、まいおはよう!今日早いね!
それより今広報部の後輩から聞いて、
副社長また台湾支社に戻っちゃうんだって!」
まい・さつき「本当に!?」
まいは自分のことが関係して台湾支社に戻ってしまうのかと思った。
さつき「ちょっとまい!」
ほのか「えっ?やっぱりまいと副社長つき合うことになったの?」
急いでまいはまだ間に合うかと思い、エントランスのロビーに向かった。
大地の後ろ姿が地下の駐車場方向に歩いていた。
まい「副社長!」
大地は後ろを振り返った。
大地「まい?・・・」
まいは息を整えてから大地の側に行った。
まい「来たばかりで・・・もしかしたら私と鈴木先輩のせいで戻ってしまうんですか?」
大地「違う、違う。まだ俺にはこの本社を管理できない。だからもう少しあっちで勉強したいからね。まいと信幸は関係ないよ。」
まいは大地にそう言われると少しは気持ちが楽になった。
でも大地の心の片隅にはまいのことが気になっていた。
大地「もし信幸が嫌になったらいつでもウェルカムだからね。」
大地はまいに冗談気に言った。
まいはクスッと笑った。
大地「そうだ!今後は台湾支社の
社員研修旅行って言う案もいいよな!
そしたらまいや信幸とも会えるし!」
まい「海外なんてめったに行けませんから、
きっと同僚の女子社員もテンション上がっちゃいますね。」
大地「後で母さんに連絡しておくか。」
まい「母さん?」
大地「いや、ここの社長にね・・・」
まいはまだ大地の母親がこの会社の社長とは知らない。
大地「じゃあそろそろ行くね。」
まい「本当にいろいろとお世話になりました。」
大地「何日もいなかったのに、世話なんて。
まいも元気で。何かあったらすぐ連絡して。
はい、俺の名刺。」
まい「ありがとうございます。」
大地「じゃあ。」
まい「副社長もお元気で!」
大地はもう一度振り返って右手を振った。
まい「ハンカチ・・・ありがとうございます・・・」
まいは小声でつぶやいた。
大地が見えなくなるまで見送った。
まいは急いで総務部に戻った。
とっくに朝礼は終わっている。
エレベーターの中で課長に言い訳する言葉を考えているうちにすぐに6階に着いてしまった。
まいが静かにドアを開けた。
さつき「まい、どこ行ってたの?」
まい「あ~びっくりした!」
さつき「課長今日休み。ラッキーだったね。」
まい「本当に!あ~良かった~」
ほのか「まい、それで副社長と会えた?」
まい「うん、ま~。会えたけど・・・」
ほのか「で、何だって?」
まい「別に何も。」
ほのか「そんなことないでしょう!
どこまで副社長と進んでるのよ~」
さつき「ほのか、あんた勘違いしてるよ。」
ほのか「勘違い?」
さつき「さぁ、さぁ仕事仕事!まいはまた悪いけどこの書類をコピーしてきて。」
さつきはまいに耳元でコソッと伝えた。
さつき「あとでほのかのわからんちんに説明しとくから!」
まい「先輩ありがとうございます。」
まいも小声でさつきに返答した。
さつき「ほのかちょっと。」
ほのか「はい、先輩・・・」
さつき「つき合ったのはまいと副社長じゃなくて、営業部の鈴木なの!」
ほのか「あの鈴木先輩?本当に?だってこの間山下公園で副社長、まいを抱きしめてたでしょう!」
さつき「とにかくそう言うことだから。
あんた親友なら静かに見守っててあげなさいよ。」
ほのか「もっ、もちろんですよ!」
さつき「よしっ!じゃあ明日は休みだから、
たまにはほのかと飲みに行きますか?」
ほのか「行きましょう、行きましょう!」
さつきとほのかはまいと信幸が結ばれた祝杯として、仕事帰りに2人で飲みに行くことを約束した。
1階のエントランスロビーは定時の時刻が過ぎるとほとんどの社員が帰宅で賑やかになる。
まいは交流スペースで信幸と一緒に帰る待ち合わせの約束をしていた。
まい「先輩遅いな~もう10分過ぎてるし・・・」
信幸「まいごめん!取引先から電話があって。」
まい「あっ、先輩!
先輩は人気のある社内のトップ営業マンですから仕方ないですよね~」
まいがわざとらしく信幸に言った。
信幸「おっ、それってやきもち?」
まい「やっ、やきもちなんて!・・・」
まいは足早に会社を出た。
信幸「まいごめん!」
信幸が急いでまいを追っかける。
信幸「まい?」
信幸はまいを見失った。
まいは背が高い信幸の後ろから肩をポンと叩いた。
信幸が後ろを振り返った。
信幸「まい!」
まい「私がいなくなったから焦った?」
信幸「しっぺ返しか?」
まいは「そうだよ!」と言うような笑みを浮かべた。
時刻は夜の6時を過ぎていた。
夜の山下公園は昼間の情景とは一変に変わる。
だいぶ日も暮れ、穏やかな海面にはみなとみらいの輝かしい夜景が映っている。
まいと信幸はいつもの遊歩道でみなとみらいの方を見ている。
好きなだけで言葉もいらない。
一緒にいるだけでお互いの温度がわかる。
このまま時間が止まって欲しい。
そう2人は同じ気持ちを感じていた。
信幸がまいの手を優しく握ってきた。
まい「先輩・・・」
まいは見上げて信幸の顔を見た。
信幸もまいの顔を見つめる。
信幸「まい、これからもよろしく。」
まい「私こそ、よろしくお願いします・・・」
まいは少し恥ずかしそうに下を向いた。
まい「先輩・・・私先輩にどのように呼んだらいいですかね?」
信幸「ん?普通に呼び捨てでいいけど。」
まい「えっ、そんな!呼び捨てなんて言えませんよ!」
信幸「すぐ慣れるよ。」
まい「じゃあ・・・言いますね。」
「のぶゆき・・・さん」
信幸「アハハハ!まいの好きなように言っていいよ。」
まい「そんな笑うことないじゃないですか!」
「こっちは真剣に言ってるのに・・・」
信幸「ごめん、ごめん!」
するとまいが思い切って、
まい「信幸さ~ん!みなとみらいの観覧車
に一緒に乗りませんか~!」
まいはみなとみらいの方に向かって叫んだ。
信幸は少しびっくりした表情。
今まで見たこともないまいのリアクション。
だったので新鮮な気分がした。
信幸「りょうか~い!」
信幸もみなとみらいの方に向かって素直にまいの希望に応えた。
まいは信幸の腕にいきなりつかまった。
信幸「まい!」
まい「信幸さんありがとう!」
今日は7月7日七夕の日。
空には満天の星が水面に輝き、遊歩道が2人の渡る天の川となって
みなとみらいでロマンチックな夜を過ごした。
(完結)
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