PINK 恋愛

30歳を目前に結婚を焦る加奈子。同棲している遼との「結婚観」の違いが受け入れられず、家を飛び出してしまう。加奈子の思いを知った遼は……。
葵カズハ 11 0 0 08/16
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第一稿

〇田中遼の家 中(朝)
   1DKの男女二人暮らしの部屋。
   窓際に置かれたベッドの中で、田中遼
   (29)と、大竹加奈子(29)が寝ている。
   背中を向け、 ...続きを読む
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〇田中遼の家 中(朝)
   1DKの男女二人暮らしの部屋。
   窓際に置かれたベッドの中で、田中遼
   (29)と、大竹加奈子(29)が寝ている。
   背中を向け、離れて眠っている二人。
   ヘッドボードに置かれたスマホが光り
   アラームが鳴る。
   加奈子、迷惑そうに唸り、布団を頭ま
   でかぶる。
   田中、布団から手を伸ばし、手探りで
   スマホを探すが、なかなかアラームを
   止められず、体を起こしアラームを止
める。
   スマホを元の位置に戻し、布団に潜る。
   5分後、再びアラームが鳴る。
   加奈子、起き上がって田中のスマホを
   取り、アラームを止める。
   スマホを田中に投げつける加奈子。
加奈子「何回も鳴らすの辞めてくんない?」
   田中、投げつけられたスマホを取る。
田中「あーごめん」
加奈子「どーせ起きない癖に早い時間にアラーム鳴らさないでよね」
   加奈子、田中に背を向けて横になり、
   布団を頭までかぶる。
田中「(舌打ち)」
   加奈子、勢いよく起き上がる。
   田中をじっと睨みつける。
加奈子「あのさ、私はアンタと違って眠りが
浅いの。ただでさえイビキがうるさくて寝
付けないのに、役に立たないアラームで起
きなくていい時間に毎朝毎朝起こされる
のが、どんだけストレスか、わかる?早
起きしてランニングするとか言ってたけ
ど、一回もやった事ないじゃん」
田中「少しは運動しろって言ったのお前だろ」
   加奈子、田中を睨みつける。
加奈子「(低い声で)は?」
田中「元々お前がやれって言うから……」
加奈子「私のせいって言いたいわけ?」
田中「そうじゃないけど」
加奈子「いっつもそうだよね」
田中「何が」
加奈子「なんでもかんでも私のせいにするよ
ねって言ってんの。今回も、私が運動しろ
って言ったから仕方なくランニングシュ
ーズ買って、しかたなく6時にアラームか
けて。で?一回もできないのは自分の意志
じゃないから仕方ないって事でしょ」
田中「まぁ、そういう部分もあるかもな」
   加奈子、ベッドから降りて立ち上がる。
   足音を立てて、クローゼットの前まで
行き、次々に洋服を床に出していく。
   立ち上がって玄関の方に行く。
   スーツケースを持って戻ってくる。
   ケースを床に広げ、服を詰め込む。   
田中「お、おい」
   加奈子、服を詰め乍ら
加奈子「マジでもう無理だわ。合わないんだ
 わ元々。分ってたのにさ、なんで3年も付
 き合っちゃったんだろ。マジで時間の無駄」
田中「時間の無駄って……その言い方はなく
ないか?」
加奈子「どっちが?」
田中「なんも言ってないだろ」
加奈子「そういう部分もあるかもって、普通
言わないよね、この場面で」
田中「……アラーム位でそんなに怒る事か?」
加奈子「あのさ。そんなに怒るなとか、そん
 なに気にする事かとかよく言うけどさ。気
 にするとかしないとか怒るとか怒らないと
 か、アンタが決める事じゃないんだけど。私がアンタと一緒にいて怒ってて、私がアンタと一緒にしてうんざりしてんの。アンタの意見なんて聞いてない」
田中「なんなんだよ急に。アラームごときで。
お前ちょっとおかしいぞ」
加奈子「アラームごとき?」
   加奈子、鼻で笑い、クローゼットの中
の物を出し、次々にクローゼットに詰め込
んでいく。
   ラッピングされた袋を手に取り、それ
   を見つめ動きが止まる。
   田中、加奈子の前に座り、肩を抱こう
とする。
田中「もうアラームかけないからさ」
   加奈子が田中の腕を払い、田中を睨み
つける。ラッピングの袋を田中に投げ
   つけ、スーツケースを閉じる。
   立ち上がり、スーツケースを引いて
玄関の方に歩いていく。
田中「おい」
   田中、加奈子の後を追い、手を引く。
   加奈子、田中の手を払う。
   加奈子、玄関でサンダルき、玄関の鍵
をあける。
田中「おいってば!」
   田中、加奈子の手を引く。
   加奈子振り返り、田中が持っている袋
   を見る。目に涙がたまっている。
加奈子「今日、何の日か知ってる?」
田中「……クリスマスだけど」
加奈子「(鼻で笑いながら)そんだけ?」
田中「……」
加奈子「うちらが付き合い始めた記念日だよ
ね?覚えやすいから忘れないって言って
なかった? 3年間、一度も祝ってくれた事
ないけどね。クリスマスプレゼントも、い
っつも私が渡すだけ」
田中「微妙な物貰っても仕方ないから一緒に
買いに行こうってお前が言ったんだろ?」
加奈子「また私のせい」
田中「……」
加奈子「私、そういうのちゃんとしてくれる
人が良い。渡したプレゼントに文句言わ
 ないで、ありがとうって言って喜んでくれ
てくれて、私の為に選んだプレゼントをい
つもありがとうって言って渡してくれる。
そういう、優しい人が良い」
   加奈子、玄関のドアを開け、出ていく。
   その後ろ姿を、茫然と見守る田中。

〇公園(朝)
   雪が降っている。
   公園の遊具のあちこちにうっすらと雪
が積もっている。
サンダルに、上下白いスウェット姿の
加奈子、隅のベンチの上で体育座りを
し、膝に顔を埋めている。
脇に置かれたスーツケースに雪が積
もり始めている。
   くしゃみをする加奈子。顔を上げ、辺りを見て、自分の両肩をさする。
   公園に、小さな子供と犬を連れた母親が入ってくる。
   子供、雪を見てはしゃいでいる。
   加奈子、それを見て微笑む。
   子供、加奈子に気づき、母親の服をつまんで、加奈子を指さす。
子供「雪だるま!」
   母親、子供の手を制し、足早に去る。
   加奈子、肩や髪に雪が積もっている。
   加奈子、手で雪を払う。
払ってうるうちに涙がこぼれ、声を上
げて泣く。徐々に大きくなる泣き声が
辺りに響く。後ろから、バタバタと足
音がする。
   加奈子、泣き止み、辺りを見回す。
   田中が走ってくるのが見える。
   加奈子、急いで涙をぬぐう。
   田中、走ってきて加奈子の前で止まり、
膝に手をついて肩で息をする。
田中「なにしてんだよこんなとこで」
   加奈子、田中の言葉を無視する。
   田中の手にショッキングピンクのコー
トが握られている。
それを見て驚く加奈子。
田中、コートを加奈子に差し出す。
田中「これ、捨ててなかったんだな」
加奈子「(顔を背け)捨てといて下さい」
   田中、加奈子の肩にコートをかける。
田中「ホワイトXmas、三年ぶりだってさ」
   加奈子、かけられたコートを握り締め、
目に涙をためる。
   田中、それを見て困った顔をする。
田中「それ、あげた時すげー微妙な反応した
よな」
加奈子「……だって」
田中「今見ると、全然似合わねーな。派手すぎ。でも、あん時は着てたよな」
加奈子「付き合って30分の人にもらったも
のに文句言えないでしょ普通」
  強風が吹き、雪が舞う。
  加奈子、田中、目を細める。
 お互いの姿が雪で見えづらくなる。
田中「三年かぁ」
  田中、空を見上げる。
  大粒の雪が空から落ちてくる。
田中「あっという間だな」
   加奈子、無言で頷く。
田中、スーツケースの取っ手を持つ。
田中「帰ろ」
   田中、反対の手を加奈子に差し出す。
   加奈子、田中の手を見つめ、手を取ら
ずに立ち上がり、歩き出す。
   田中、加奈子の後ろをついて行く。
   加奈子、立ち止まる。
   田中、加奈子の隣に並び、手を繋ぐ。
加奈子、田中を見る。
田中「着替えて出かけるか」
加奈子「どこに?」
田中「どこがいい?」
加奈子「……混んでないとこ」
田中、加奈子の手を引いて歩きだす。
   加奈子、田中の背中を見つめる。
   強風が吹き、雪が二人の周りに舞う。
   田中、加奈子、体を密着させて震える。
田中、加奈子「寒っ」
   田中、加奈子、体を密着させたまま歩
   き出す。

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