ジュンのホームラン コメディ

地球に住むお父さん、お母さん、ジュン、ミサ、タク、リコの一家6人が宇宙ツアーに参加し、ホームステイしながらいろいろな星の生活を見て回ります。地球では考えられないような文化や習慣・自然環境があり、驚きの毎日を過ごしながら家族が成長していきます。宇宙を旅するが宇宙SF小説とは違う異色ホームドラマ。アニメならば約10分、1話完結の物語。
トナミKK 15 0 0 11/19
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第一稿

【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー


○ホ ...続きを読む
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【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー


○ホストハウスの玄関

地球家族6人。リコがドアを開ける。
リコ「おじゃまします」
HMが出て来る。
HM「いらっしゃい。どうぞ上がってください」
そのとき、となりの家の庭のほうから野球のボールが転がってくる。ジュンが拾う。その間に、他の5人は中に入る。
女子「すみません、ボールとってください」
ミサ「(HMに向かって)あの女の子は?」
HM「隣に住んでいる子ですよ」
ジュン、女子に向かってボールを投げる。
ジュン「はい。ほい」
女子「あっ」
女子、ボールを受けられずに顔に当ててしまう。
ジュン「あっ、だいじょうぶですか?」

○廊下

ちょうど電話が鳴り、HMが出る。
HM「もしもし、はい、地球のご家族? ちょうどたった今到着されたところよ。え? 野球? 今日の午後? 男の子? ちょっと待って」
HM、電話を持ったまま地球家族に尋ねる。
HM「男のお子さんは何人でしたかしら?」
父「ジュンとタクの二人ですけど」
HM「ちょうどいいわ。突然の話なんですけど、野球の試合に出てほしいんですよ」
タク「へ? 野球? 無理です、無理です、僕、見るのは好きだけど、やるのは大の苦手で・・・」
HM「あ、大丈夫。地球の方なら絶対大丈夫。あ、もしもし、男の子二人いるわ。わかった、3時ね」
HM、電話を切る。

○庭(となりの家の庭との境)

女子とジュンが話し続けている。
女子「とても速い球を投げるんですね。もしかして、野球やるんですか?」
ジュン「いや、野球は得意だけど、やるというほどやってはいないな。あ、申し遅れました。地球から来た、ジュンといいます」
女子「地球から。道理で。私、地球の人に会いたいと思ってたんです。お会いできてうれしいわ」
ジュン「あ、いや」
女子「そうだ。このあと2時から、女友達が5人、うちに集まるんだけど、ジュンさんも来ませんか? みんな、地球の人にとても会いたがっているんです」
ジュン「本当? ぜひ行くよ」

○居間

HM「いらしたばかりでお疲れのところをごめんなさいね。今ちょうど主人から電話で。主人は野球チームの監督をやっていて、そのチームのメンバーに入っていただきたいの」
タク「僕、本当に野球は苦手なんですよ。クラスで一番下手なくらいで・・・」
HM「ご心配なく。この星の野球の歴史は、まだわずか1年なんです。1年前に、地球からの旅行者に伝えていただいたんですけど、それまで私たちは誰もボールさえ握ったことがありませんでした。野球のボールそのものが、ここには無かったんです」
母「へえ。それで、今は?」
HM「まだ、野球チームは2つしかありません。主人のチームと、もう1チーム。この2つのチームが毎週試合をしています。そして、地球からの旅行者がいらっしゃった場合は、地球人枠2名まで、チームに参加してよいことにしているんです」
父「なるほど。地球人は、野球が得意にせよそうでないにせよ、少なくとも小さい頃からボールで遊んでいますから、かなり有利になるかもしれませんよ」
タク「ちょっと待ってよ、地球人と言っても、僕は戦力にはならないよ」
HM「そんなことありません。地球の方はいつでも大活躍です。今日いらっしゃって、本当に良かったわ。今日は絶対に負けられない、特別な日なの」
父「どういうことですか?」
HM「先月、テレビのニュース番組で、野球のことが紹介されて、みんなに知れ渡ったんです。それからというもの、一気に大ブームになって、みんな野球のボールを買い求めて生産が追いつかないほどで。今後野球チームも、一気に増えていくことでしょう」
母「それで、今日が特別な日というのは?」
HM「今日の試合、初めてテレビで生中継されるんです」
タク「え? テレビ中継? その試合に僕が選手で出場? ありえません、絶対に! 兄なら野球が得意だからいいかもしれないけど、僕は・・・」
父「そういえば、ジュンはどこ行ったんだ?」
母「そういえば・・・。 隣の女の子とまだ話してるんじゃない」
父「じゃあ、野球に出る話は、あとで話しておきますよ」
HM「じゃ、客間のほうにご案内しますから、準備なさってください。3時に一緒に出発しますから」
6人、HMに案内されて奥に向かう。タクはおろおろしている。
そのとき、玄関からジュンが入って来る。
一番後ろにいたリコがジュンを見つけ、声をかける。
リコ「あ、ジュン、3時から野球の試合だって」
ジュン「へえ、わかった。野球ね」
リコ、小走りに奥へ行く。
リコの声「お父さん、ジュン、野球、オッケーだって!」
ジュン「(心の中で)野球見物なんてしばらくぶりだな。3時か。隣の家に呼ばれたのが2時だから、間に合うかな。まあ、最初から見なくてもいいだろうし、少し遅れてもいいか」

○ホストハウスの玄関

HMと地球家族5人(ジュンを除く)。
HM「そろそろ、出発しましょうか」
父「あれ、ジュンは?」
ミサ「どこへ行ったのかしら」
母「仕方が無いわ、先に行ってください。私、家で待ってますから」

○隣の家の居間

女子5人とジュンが歓談している。
女子「へえ、それでそれで・・・」
女子「おもしろーい」
ジュン「でしょう?」

○野球場のベンチ

監督のHFと地球家族5人があいさつしている。
HF「今日は大事な試合なんです。地球からの助っ人に来ていただいて、心強いですよ。それじゃあ、三番タク君、四番ジュン君でいいかな」
タク「三番? とんでもない・・・」
ミサ「それより、兄がまだ来てなくて・・・」
HF「本当かい? もう試合開始の時間になってしまうな・・・。 じゃあ、ミサさん、お願いします。女性でもかまいません。地球人の枠は二人ですから。四番ミサさんにしましょう」
ミサ「え!? ご冗談を・・・」

○隣の家の居間

女子5人とジュンがまだ歓談している。
女子「そうだ、テレビでもつけましょうか。今、ちょうど野球の試合をやっています。昨年、地球から来た旅行者から伝わったスポーツで、今、大ブームなんですよ」
ジュン「へえ、そうなんだ・・・」
テレビの画面に、突然タクが映る。
場内アナウンス「三番バッター、タク君」
ジュン「へ? なんでタクが試合に・・・。まさか、信じられない・・・」
ジュン、テレビを見入る。ピッチャーが1球目を投げる。超スローボール。
アナウンサー「地球からの助っ人、タク君。やはり地球人はちがいます。今日2打数2安打」
ジュン「うそだろ、そんなことって・・・」
ピッチャー、投げる。タクが打つ。ヒット。
アナウンサー「タク選手、またヒットです。3打数3安打」
ジュン「(心の中で)ボールは全部直球のど真ん中。しかもメチャメチャ遅い。これならタクがヒットを打てるのもおかしくない」
場内アナウンス「次のバッターは4番、ミサさん・・・」
ジュン、目をさらに丸くしながらテレビに集中する。
ミサ、初球を打つ。外野を越える当たり。タクがホームイン。
アナウンサー「ミサ選手、またタイムリーヒットだ。今日3打数3安打3打点!」
ジュン「・・・」
アナウンサー「さあ、きょうの解説者は、ミサ選手とタク選手のお父さんです。地球から家族で旅行に来ています。いやーすごいですねー。」
画面には、父とリコが映る。ジュン、目をさらに丸くする。
ジュン「お父さん! リコ!」
アナウンサー「4対3とリードされていますが、この3点は、すべてタク選手とミサ選手のコンビであげた3点ですからね。他の選手にまだ1本もヒットが出ていない中、この二人が3本ずつヒットを打って、地球人の格の違いを見せつけてくれましたね」
父「いや、ここまで活躍できるとは、私も思っていませんでした」
アナウンサー「そういえば、切り札がいらっしゃるとのことですが、まだ到着していませんね」
父「ジュンですか? そうですね、どうしちゃったんでしょうか・・・」
ジュン「こうしちゃいられない! さよなら!」
ジュン、走って部屋を飛び出す。

○野球場

アナウンサー「さあ、4対3、1点差を追う9回裏、最後の攻撃です。ツーアウトから、タク選手がまたヒットで出ました。なんと4打数4安打! そしてバッターボックスにはミサ選手が向かいます」
ミサ「(心の中で)1点差、9回裏ツーアウト1塁・・・。この後のバッターにはまったく期待できない・・・。逆転勝ちするためには、私がホームランを打つしかないのね。でも、私には、なんとかヒットは打てても、ホームランは無理だわ。こんなとき、ジュンがいてくれたら・・・」
ミサ、バッターボックスでバットを構える。
そこに、ジュンの叫び声。
ジュン「ミサ! ちょっと待った!」
場内アナウンス「バッターは、ミサさんに代わりまして、ジュン君・・・」
拍手と歓声。
ミサ「ジュン、頑張って・・・」
ジュン、バットを構える。
ピッチャー1球目。ジュンが打つ。ホームラン性の大きい当たりだが、惜しくもファウルになる。
すると、キャッチャーが立ち上がる。ピッチャーが2球目を投げる。敬遠のボール。
ジュン「(心の中で)しまった! 僕の力をへんな形で見せつけてしまったな・・・。 敬遠されちゃうよ・・・」
アナウンサー「そうか、フォアボールで歩かせて、次のバッターと勝負する気か。なるほど考えたものだな」
父「あ、あれは敬遠といって、地球の野球ではよくやる作戦のひとつなんですよ」
アナウンサー「へえ、そうなんですか。初めて見ましたよ。何しろわれわれは、野球のルールだけを伝えられて、あとは自己流でやっているものですから。でも、観客たちはブーイングですよ。あまりいい作戦とはいえないようです」
ピッチャーは3球目も4球目も敬遠のボールを投げる。
ジュン「(心の中で)次のバッターには期待できない。僕が打つしかないんだ。フォアボールじゃだめなんだ。なんとかしないと・・・」
ジュン、次のボール球に飛びつき、バットの先に当てる。ファウル。観客が拍手。
ピッチャー、最後の球を投げる構え。
ジュン「(心の中で)良かった。ちゃんと勝負してくれるようだ・・・」
ピッチャー投げる。おあつらえ向きのど真ん中、超スローボール。
ジュン、にやりと笑ってバットを振る。
しかし、その瞬間、ボールが下方向に変化して落ちる。
ジュン「・・・」
審判「空振り、三振! ゲームセット!」
ジュン、呆然と立ちすくむ。

○アナウンサーと解説者の席

アナウンサーと父。父のそばにリコ。
アナウンサー「いや、驚いたなあ。バットの手前で、ボールがストーンと落ちましたね! あんな球は見たことがない!」
父「あれは変化球というものです。それにしても、ジュンはとてもいい経験をしました」
アナウンサー「『油断大敵』あるいは『猿も木から落ちる』ということでしょうか」
父「いや、そうじゃありません。ジュンの三振は、いわば必然的なものだったと思いますよ」
アナウンサー「え?」
父「地球上で初めて変化球を投げたのが誰か、私は知りません。でも、誰かが最初に投げたのは事実だし、おそらく、苦しみ悩んでいる中で生まれたものでしょう。そして、その技はその後またたくまに世界に広まったんだと思います」
アナウンサー「・・・」
父「この星でも、今同じことが起きようとしています。今日の相手のピッチャーは、ジュンをバッターにむかえて、とても追い詰められていました。絶対に負けられない、1点もやりたくないという意地が、思わず変化球を投げる技を生んだんです。ジュンは、この星の野球の歴史を動かしたんです」
アナウンサー「そうですね。でも、もっとかっこいい形で名前を残したかったでしょうけど」
グラウンドに目を向けると、ジュンがまだ呆然と立っている。そばにタクとミサ。
グラウンドに重なる翌日の新聞記事のイメージ。「落ちる魔球?」の見出し。三振して天をあおぐジュンの写真。
母とHMは家のテレビに見入って父の解説を聞いている。
父「歴史を変える原動力なんて、いつもこんなものですよ。この星の野球の歴史はまだ1年ですが、進歩は著しく速いです。次に地球人が訪れる頃には、地球といい勝負の試合が出来るようになっているんじゃないでしょうか」

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