竹取物語〜かぐや姫幻想譚〜 舞台

時の帝の前に竹取物語の作者を名乗る人物が姿を現す。彼女が語るかぐや姫の真実の姿とは!?竹取物語から着想を得たファンタジー作品。
出田英人 13 1 0 11/13
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第一稿

竹取物語 かぐや姫幻想譚 第2稿



登場人物

かぐや
お梅



石作
車持
阿部
大伴
石上
岩笠
権六
かぐや母/月使者
帝孫 ...続きを読む
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竹取物語 かぐや姫幻想譚 第2稿



登場人物

かぐや
お梅



石作
車持
阿部
大伴
石上
岩笠
権六
かぐや母/月使者
帝孫
老お梅


他アンサンブルキャスト














開演ブザーののちに物々しい和太鼓の音


TK!

側近 帝の、御成〜り〜。

側近たちの掛け声とともに明転。帝子の前にお梅が伏せている。


帝子 面を上げい。
老お梅 は。
帝子 そなたが、竹取物語の作者に相違ないか。
老お梅 はい。
帝孫 そうかそうか、随分探したぞ。
老お梅 天子様のお手を煩わせるとは、恐悦にございます。
帝子 そう固くなるな。この物語、私もとくと楽しませてもらった。まるで夢のような、儚い物語だなあ。
老お梅 お気にめしたようで何よりでございます。
帝子 して、単刀直入に聞こう。かぐや姫とはどのような女子であった?
お梅 お話をご覧になったのでしたらその通り、月の世界の姫君にございます。
帝 私はそのような建前を聞くためにお主を読んだのではない。真実を知りたいのだ。父が思いを寄せた女子が一体何者だったのか。宮中のどの書物にも彼女の記録は残っていない。この物語を書いたお主なら、知っておるのだろう。


お梅 …そうですね。あなたには、申し上げるべきなのかもしれません。かぐや姫の…いえ、私とかぐやの本当の物語を。


暗転



照明変化暗闇のなかコンコンと竹を切る音が聞こえてくる。お梅の語りとともにゆっくりと明転していく。


お梅 今は昔。竹取の翁というものがおりました。山に登りて竹を取り、生活を営んでおりました。翁がいつもの通り山で仕事をしておりますと、一人のみすぼらしい娘と出会ったのです。



翁 おうい、そこの娘や
かぐや …。
翁 なんじゃ?聞こえておらんのか。おうい、そっちは危ない。崖しかないぞ。
かぐや (ゆっくりと振り返る)
翁 なんだって若い娘がこんなところに。山で迷子にでもなった かのう
かぐや …。
翁 家はどこじゃ?どの村から来た?
かぐや …(何かを伝えようとするが声は出ない。)
翁 ん?(耳をそばだてて)最近耳が遠くていかん。
かぐや …(さっきと同じ)
翁 すまぬが、さっぱり聞こえぬわい。わしも、もう歳じゃからのう。もう少し大きな声で話してはくれぬか?
かぐや …(何かを話そうとしたがやがて諦める)
翁 お主、まさか口がきけぬのか。
かぐや (うなずく)
翁 そうか、それはなんとも可愛そうに。それでは助けも呼べまい。心細かったであろう。
かぐや …。
翁 のう、お主。もし帰る場所がないならわしの家に来ぬか?何もないあばら家じゃが、雨風くらいはしのげるぞ。
かぐや …。(ためらう)
翁 なに、別に家のものになれというわけではない。こんな山奥 で誰かを待ち続けるよりはマシじゃろうて。どうじゃ?


かぐや、おずおずと翁に近寄る






照明変化。



お梅 それから、かぐやはおじいさんとおばあさんにまるで我が 子のように育てられました。竹やぶで一人だったかぐや はみるみる元気になり、おじいさんの作った竹細工を街に 売りに出るようになりました。


かぐや、路上で竹細工を売っている。


村の男1 なんだあの別嬪さんは!?
村の男2 エヘヘ、その竹細工ください!
権六 あ、おらもおらも!
村の男2 ねえねえお姉さん、お名前はなんてえの?

戸惑いながら対応するかぐや

村の男2 あれ、この娘喋れないのか。
村の男1 でも美人だぁ。
権六 俺たちのことどう思ってるんだろうな。
村の男2 俺のことが一番好きに決まっているべさ。
村の男1 そんなこと聞いてみなくちゃあわかんねえ。
権六 そうだ!おめにこの贈り物を!(草花を渡す)
村の男 あ!権六、オメェ抜けがけだな!


かぐや姫を巡ってわいわいする男たち


お梅 そして、かぐや姫の美しさは町中の評判となり、その噂は貴族たちの耳にまで届くことになったのです。そして、私が彼女と出会ったのも、この頃でした。


貴族たちも現れ、男たちに混じる。


阿部 これが噂の竹うりの娘か、何と美しい。
車持 君にこの反物をあげよう!
阿部 いや、そんな貧相な布切れよりきっとこちらの方が彼女が喜ぶはずだ!
車持 なにおう!
村の男1 げ、貴族の方々までいらっしゃるとは!
村の男2 これじゃあ、俺たちの手には届かないや。
権六 それでも俺は諦めねえべ。
車持 ワシが見初めてモノにできなかった女などおらん。きっとあ の娘もワシのものにしてみせる。
阿部 いいや、ワシのものじゃ!ほら、これはどうじゃ?
車持 ならば、ワシはこれじゃ!



と言った感じでヒートアップする贈り物合戦貴族らがかぐやに気をとられている間に貴族から宝石?をすり取るお梅。



お梅 毎度ありっと。あの娘ったら、貴族の連中に目にかけてもらってから随分と暮らしぶりもよくなってるみたいじゃない。…だったら、もう少しおこぼれを頂いてもバチは当たらないわよね。


お梅が不敵な笑みを浮かべて何処かに駆け去るとともに暗転。

翁の家。翁と嫗が出発の支度をしている。明転する前から翁がかぐやを可愛がっている声が聞こえてくる。


翁 この娘を家に置いてから随分と探し回ったが、なかなか身寄りが見つからんのう。
嫗 そうですね。もうかれこれ三月程たつのに音沙汰がないなんて。
翁 なあ、おぬしやっぱり心当たりはないのか。家族はどこに済んでおったのじゃ。
かぐや …。
翁 そんな悲しい顔をせんでくれ

翁 ずっと家に置いていると、なんだか実の娘のような気がして きてしまった。
嫗 私たちに子供はいませんでしたからねぇ。


翁 なあ、もし…もしお主が良ければなんじゃが、わしらの娘になってくれんじゃろうか。もちろん、本当の親が見つかればすぐに親元に帰るが良い。だが、わしらの家におる間だけでもどうかのう。
かぐや …。
嫗 おじいさん。やっぱり無理は…。
かぐや !(頷くなど、肯定のジェスチャー)
翁 おお!そうかそうか、わしらの家族になってくれるか!
嫗 そうと決まれば呼び名を決めませんかおじいさん。“あなた”と呼ぶのもなんだか寂しい気がしますしね。
翁 それは名案じゃ!ふうむそうじゃなぁ。名前はかぐや…なんてどうかのう?光り輝くようなお主にぴったりの名前じゃと思うのだが。
かぐや …(自分の名前を確認するように復唱)
翁 どうじゃ?嫌か。
かぐや (首を振る)




翁 よし!今日はめでたい日じゃ。張り切って竹を取ってくるからの。婆さん!今夜はご馳走じゃ。
嫗 うふふ、おじいさんたら。それじゃあ私も洗濯に行ってこようかしらね。かぐや、留守番は頼みましたよ。


家から出発する翁達。このあたりでお梅登場。物陰に隠れる。


お梅 よし、これで後は口の聞けない娘だけ。こいつで騒ぎを起こされる心配もなくなった。


家に忍び込むお梅。貴人たちからもらった反物や宝石などが転がっている。


お梅 おお、こりゃ上物ばかりだ。じゃ、早速。


お梅、貴重品類をあさり始める。


かぐや 誰?
お梅 ぎゃっ!ってお前だけか。気のせいか?
かぐや いま、私の声が聞こえた?
お梅 喋った?
かぐや すごい!あなた本当に聞こえるんだ!
お梅 「聞こえるんだ!」ってあんた今普通に喋ってるじゃない。まさか喋れないふりをしてたのか?なんだってそんな…
かぐや 聞こえてる!伝わっている!こんなの初めて!
お梅 わあ!こら、騒ぐなお前!外に聞こえるだろうが!
かぐや 聞こえないわよ。私の声は誰にも。
お梅 そんなわけないだろ、今普通に話してるじゃない。
かぐや だから、私の声はあなたにしか聞こえてないの。こうして人と話したのだって初めてなんだから。
お梅 (少し考え込んで)さっぱり信用できねえ。お前が騒ぎを起こす前にヅラかる!
かぐや 待って!私と友達になってよ。
お梅 バカ!盗人が家主と友達同士になるなんて話があるかよ。
かぐや 私は構わないわよ。
お梅 あんたはかまわなくても、私は面倒ごとを増やしたくないの。かぐや でも、私の声が聞こえる人なんて初めてだし。
お梅 そんなこと言われてもよう。
かぐや 私、友達なんてできたことなかったから。
お梅 私だって友達なんてろくにいたことなかったさ。人間なんてそもそも一人で生きていくものなの。だいたいあんたには家族がいるんだろう。じゃあね!
かぐや そう、そうだよね。ごめんなさい。変なことを言って…。

お梅、帰るかどうか少し迷ってから。

お梅 なあ、あんた本当に私以外に話し相手がいないんだよな。
かぐや うん。
お梅 その、友達ってのはアレだけどさ。話し相手…位なら考えてやらないでもないわよ。
かぐや 本当に!ありがとう!
お梅 ただし!私に面倒はかけないこと!
かぐや うん。
お梅 じゃあ、私はこれで。

翁、急に帰ってくる

翁 ふう、いかんいかん忘れ物じゃ…。
お梅 あ
かぐや う
翁 なんじゃお主は!?
かぐや !!
お梅 いや、これはそのぉ。
翁 その身形、お主盗人か!?
かぐや !!(ボディランゲージでお梅を庇おうとする。)
翁 (かぐやに)おお、何か酷いことはされておらぬか?
かぐや (首を振る)
翁 どうしたんじゃ、まさか、脅されておるのか?
お梅 私、アレなんです!この人の声が聞こえるもので。だからぁ、彼女の話し相手に。
翁 なに?
かぐや (めっちゃ頷く)
お梅 ほおら、あなたお話しましょう。ほら、なんか言って!
かぐや (ついボディランゲージをしてしまう。)
お梅 バッカ、何で身振り手振りなんだよ。
かぐや あ、ごめん。つい。
翁 どうも怪しいのう。ひっ捕らえてくれる。
お梅 う〜、あんたぁ。何とかしてくれ!
かぐや なんとか、何とか…
お梅 (翁から逃げ回りながら)早く!
翁 待てい!盗人!

お梅、追い詰められる。


お梅 くそ、爺のくせになんて体力。
翁 山で足腰は鍛わっとるわい。さあ、観念せい。
かぐや そうだ、名前!
お梅 え?
かぐや 私の名前、家族以外は知らないから。
翁 さあ、観念して
お梅 待った!では証拠に彼女から名前を聞いてみましょう。
翁 なに?
お梅 ねえ、あなた名前は?
かぐや 私は、かぐや。光輝くかぐや
お梅 かぐやさん!この子の名前は光り輝くかぐやさんよ。
翁 何と、今本当にかぐやから名前を聞き出したのか。
かぐや (頷く)
お梅 どう?これで信じてもらえるかしら。
かぐや お父様お願い。
翁 かぐやや、このものは本当に?
かぐや (頷く)
翁 そうか…かぐやのこの顔に嘘はなさそうじゃな。娘さんや、疑ってすまんかった。きっとかぐやも話し相手ができて喜んでおるじゃろう。これからもかぐやをよろしく頼みますぞ。
お梅 いえ〜、こちらこそ〜。
翁 では、竹を取りに行ってくるから二人でゆっくり話しておくれ。

翁、退出。

お梅 ふう、疲れたぁ。何でこんな日に忘れ物なのさ!
かぐや ごめんなさい。
お梅 あんたが謝んなくて良いわよ。そもそも悪いのは私だし。じゃあ、今度こそ私は帰るから。
かぐや 待って。
お梅 何さ?
かぐや あなたの名前は?
お梅 私?お梅だよ。
かぐや そっか、お梅ちゃんか。
お梅 “お梅ちゃん”か、なんかむずがゆいね。
かぐや だめかな?
お梅 好きにしな。私もあんたのことは好きなように呼ぶし。
かぐや そっか。ありがとうお梅ちゃん。
お梅 じゃあな…かぐや。

良い感じで帰ろうとしたお梅の背後で戸が開く。

嫗 ただいまかぐや。おや、あんた誰だい?
お梅 …またかよ。



証明C.O.


お梅にスポットかな。


お梅 それから、私はしばしば彼女の話し相手として行動をともにしました。
かぐや (別エリアから)お梅ちゃん。早く!
お梅 たーく。それで、なんであんたの商いに付き合わなきゃなん ないのさ。
かぐや ダメかな。いてくれるだけで良いのよ。
お梅 いてくれるだけって、なんでそんな一銭の得にもならないことをしなきゃならないのさ。
かぐや えっと、友達…だから?
お梅 私はあんたの友達になったつもりはないよ!
かぐや そう、ごめんなさい。
お梅 ああ、もうそんな顔するなよ。…3割だ。
かぐや え?
お梅 売り上げの3割を私に回すってんならあんたの商いも手伝ってやるよ。特別だからな。
かぐや 本当?ありがとうお梅ちゃん!
お梅 わあ、くっつくな鬱陶しい。
権六 あの、おめえ?
お梅 なに、お客さん?
権六 ひょっとして、その娘と話をしてるべか。
お梅 え?ああ、私?うん話してるけど。
権六 えええ!本当に話せるっぺか?なら、おらのことどう思ってるか聞いてみてくんろ。
お梅 だって。
かぐや いつも綺麗な草花をありがとう。
お梅 いつも綺麗な草花をありがとうって言ってるよ。
権六 本当に?本当にそういったっぺ?
かぐや (笑顔で頷く。)
権六 ヤッタァ!ありがとう!ええっと名前は?
お梅 この子がかぐや、私がお梅。
権六 ありがとう。お梅さん!おらは権六。そうだ、お梅さんにもこれあげるべ
お梅 ど、どうも。
権六 ありがとう!おらはあの娘の言葉を初めて聞いたべ!今日はええ日だ!(ハイテンションで駆け去っていく)
お梅 あ、こら!商品買って行きなさいよ!…お花ねえ、いらないからあんたにやるよ。
かぐや どうして、可愛らしいお花なのに。
お梅 こういう役に立たなそうなモノに興味はないのよ。可愛いものよりも値打ちものが欲しいね私は。
かぐや お梅ちゃんそればっかり。
お梅 いいんだよ、それが私の生き方なんだから。
かぐや でも、こうしたらお梅ちゃんもっと素敵になるよ。

かぐや、お梅の髪に花を挿し鏡を見せる。

かぐや ね?
お梅 お、おう。まあせっかくの分け前だからな、もらっておいてやるよ。
かぐや ふふふ。
お梅 あ、そうだ良いこと思いついた!
かぐや え?
お梅 あんたの声が聞こえるのって私だけなんだよね。
かぐや そうだよ。
お梅 私としたことがこんな絶好の商機を見逃すだなんてどうかしてたわ!
かぐや どういうこと?
お梅 私、あんたの通訳になるよ
かぐや え?
お梅 そうと決まれば善は急げ!じゃあね!
かぐや あ、ちょっと…。お梅ちゃん、どうするつもりだろう。


お梅、駆け去っていく。
その場に取り残されたかぐや、商売を続ける。 別エリアにてお梅、営業開始。



大伴 なに、お主にはあの竹売りの娘の声が聞こえると申すのか。
お梅 はい、左様でございます。大伴さま
大伴 にわかには信じられんが。
お梅 かといって他に手がかりもございませんでしょう。
大伴 確かに、このままではにっちもさっちも拉致があかん。騙されたと思って試してみるか。
お梅 それでは代金の方を
大伴 なに!?
お梅 一言金一両で伺っています。
大伴 一言ごとに金を取るのか。
お梅 石作の皇子様は5両、車持の皇子様は10両出して下さいましたよ。
大伴 うぬぬ。
お梅 良いんですか。街一番の美女を手にするまたとない機会ですよ。
大伴 足元を見よって…。わかった!ならばわしは15両を出そう!
お梅 毎度あり。
大伴 それでは、早速頼みたいことがあるのじゃが…
お梅 では、お聞きしましょう。


大伴がお梅に何か言おうとしたところで照明変化。竹細工をうるかぐやに照明。一人で竹をうるかぐやの元に、悪党がたむろしだす。


悪党 へへへ、ねえちゃん一人か?
悪党2 噂によるとあんた声が出ないそうじゃないか。
悪党 だったらここで騒ぎを起こされる心配もないってわけだな。
かぐや ?
悪党 だったら力づくでお前をものにしてやるぜ。


悪党、かぐやを連れ去ろうとする。抵抗するかぐや。悪党にビンタ。

悪党 グオ。
悪党2 このやろう!


悪党がさらに襲いかかろうとしたその時、帝、商品の籠の中から登場。

帝 待てい!
悪党 なんだお前。
悪党2 貴族のボンボンか!怪我する前に消えな。
帝 お主らに用はなくとも、わしにはあるわい!
悪党 なにい?
帝 二人がかりで娘を手篭めにしようなどと卑劣な輩を放っておくわけにはいかんからの。
悪党2 えらく威勢が良いな。おい、この馬鹿に身の程を教えてやれ。
悪党 おうさ!

悪党たち、帝に襲いかかるがあっさりと返り討ち。


帝 だから言ったであろう、ワシに挑むには10年早いと
悪党2 聞いてねえよ!
帝 あれ?そうじゃったかの?
悪党 ふざけやがって!覚えてろ!

悪党たち去る。


帝 ふう、やれやれ。しかしお主逞しいのう。男二人を相手取っても怯まぬとは。すっかり見とれてしまったわ。ひょっとしていらぬ手助けだったかな?
かぐや …。
帝 どうした?何か言いたげじゃな。わかった!当ててやろう。なぜワシがお主の竹籠の中から出てきたか訝しんでおるな?いやあ、実は仕事の多さに嫌気がさしてこっそり抜け出したは良いものの、このような格好で街を歩いていると目立って仕様がなかったからの。こうしてお主の商品で一休みさせてもらったわけじゃ。
かぐや …。
帝 一刻ほど入っていたからわかったが、実に良い竹細工じゃ。一つ売ってくれ。


帝、懐を探るがお金を持ってなかった。


帝 あ、しまった。持ち合わせがない。代わりと言ってはなんだがこれで頼む。

帝、かぐやに耳飾りを渡す。



帝 そいつは異国からやってきたものらしくてな。大願成就のご利益があるそうだ。見事な竹細工をしっかり広めてくれよ。
かぐや …。
帝 うむ、良い顔じゃ。っと、早く帰らんとまた岩笠めに叱られてしまう。ではな、竹売りの娘。また話を聞かせてくれ!
かぐや …。


帝、去っていく。入れ替わりに帰ってくるお梅。


お梅 お待たせ。おいかぐや。これからとんでもないことになりそうだぜ。
かぐや え、どう言うこと。
お梅 へへへ、それは開けてのお楽しみってやつさ。


暗転。


明転。翌日、かぐやとお梅が何やら話している。


翁 かぐや!大変じゃ大変じゃ!今たくさんの使者の方々が来られての。お主の評判を聞きつけた貴族の方々がお前との結婚をお望みだそうだ。
かぐや !!
翁 こんなに良い話はないぞ!お前も年頃の娘じゃ。男と女はそれなりの歳になれば夫婦の契りを結ぶのが世の習わし。貴族の方と結婚すれば、きっとお前も幸せになるに違いない。
かぐや どうしてそんなことしなきゃならないの?
お梅 え、あんた?
翁 かぐやはなんと?
お梅 え〜と
かぐや 言わなくて良い。
お梅 あー、その。突然のことでかぐやも混乱してるみたいで。
翁 どのお方も良い家柄の方じゃ。案ずることはないぞ!
かぐや …。
嫗 ちょっとおじいさん。かぐやにとって一生のことなんですよそんなに急かしたらかわいそうですよ。
翁 そうか、悩むことなどないと思うが?
嫗 おじいさんは、女心がわからない人ですねえ。かぐや、落ち着いてゆっくり考えたら良いからね。
翁 わあ、ばあさん痛い痛い。耳がちぎれる!

嫗、翁を引っ張ってはけ。


お梅 どうだい?驚いたかい?
かぐや お梅ちゃんの言っていたとんでもない事ってこの事!?
お梅 そういう事。
かぐや どうしよう。貴族の人たちが私に求婚してきただなんて。私貴族の人たちにもらわれちゃうのかな。
お梅 めでたいことじゃない。大層なご身分の殿方ばかりなんだろ。
かぐや 彼らは他に何人も奥方を抱えていらっしゃる。言葉も話せない私が疎ましくなる日がきっとくる。
お梅 ほーん、そういうもんかねぇ。
かぐや もう、誰かに見放されるのは怖いから。
お梅 大丈夫だろ、金ならたんまりもってそうだし。
かぐや でも、どんな人かもわからないのに怖いわよ。
お梅 あんた後ろ向きね。女なら誰もが羨む玉の輿よ。これで生活に苦労することだってなくなるわ。
かぐや 生活が苦しくったって私はずっとお父様やお母様と一緒にいたい。贅沢をするよりも二人と一緒にいる方が私は幸せよ。
お梅 まあ、あんたがあの二人を慕ってるなら勝手にすればいいんだけどさ。相手は爺さん婆さんだ、いつまで一緒に居られるかわからないわよ。
かぐや たとえ僅かな間でも、私は大切な人と一緒に暮らしたいわ。
お梅 そんなこと言ったってさ、死んじゃった人間はあんたに何をしてくれる訳でもないのよ。そう言うのって虚しくない?
かぐや 虚しいかな?一緒にいる人が死んじゃったら、その人と過ごした時間ってただ虚しいだけなのかな。
お梅 だって、手元には何にも残らないじゃないの。
かぐや 思い出が残るわ。その人がくれた言葉が残るじゃない。だから少しでも一緒に過ごしたいの。
お梅 へえ〜。私にゃあわかんないね。何の得にもならないのに誰かと一緒にいようだなんて。
かぐや でも、お梅ちゃんだって私の話し相手になってくれてるじゃない。
お梅 そりゃ、あんたといれば儲かりそうだからね。そんだけよ。
かぐや そっか、でもありがとう。
お梅 お、おう(照れ隠しで)で、結局婚約話はどうするのさ。あんたの爺さん、ものすごく期待してるわよ。
かぐや やっぱり私はお父様と一緒に居たい。
お梅 かといって理由もなしに断れないんだろ。だったら引き受けちゃった方が良いんじゃない?
かぐや そんな。
お梅 ただし条件付きでね。
かぐや え?
お梅 へへ、私に任せときなって、悪いようにはしないからサ。(かぐやに耳打ち)
かぐや ええ!そんなことして大丈夫?
お梅 大丈夫!あんたは堂々と話をしているふりさえしてくれれば良いんだから!
かぐや う〜ん。
お梅 どうしたの?
かぐや ううん、何でもない。
お梅 あっそ。じゃあ段取りは私に任しときな。じゃあね。
かぐや うん。



照明変化と同時に中幕閉じる。幕前で皇子たちが話をしながらやってくる。輿に乗ってくるイメージ?馬も面白いかも。



車持 なんと、お主もあの娘を狙っておったとは。
石上 車持様も意外と
車持 あれだけの美人を放っておくわけにはいかんからのう。
石作 車持さまは、かぐや姫を見たことがおありか?
車持 少しだけじゃ。しかし、その一瞬でもこの世のものではないような美しさはワシの目に焼き付いて離れぬ。
阿部 そうじゃのう。
石上 お二人がそう仰るとはよほどですな。
石作 俄然楽しみになってきました。
大伴 必ずワシの嫁にしてくれるぞ。
阿部 いいや、ワシのところに嫁ぐに決まっておろう。
車持 さあさあ、着きましたぞ。


皇子たちが着席すると翁の家の中に。翁がいそいそと現れる。


翁 みなさまよう集まってくださった。かぐや姫が結婚相手についてようやっと話してくれるとのことでな、大変お待たせして申し訳ございませんでした。
大伴 良いから疾くかぐや姫を出せ。
翁 はは、ただいま。

翁の合図で中幕が開くとかぐや姫が鎮座している。美しさに思わず息を飲む一同。

お梅 みなさま、ようこそお集まりくださいました。こちらが音に聞こえしなよ竹のかぐや姫にございます。そして私が姫の通訳を務めまするお梅です。
大伴 端女のことなどどうでも良い。(皇子たち野次)
お梅 (ムッとして)静かにして頂けますか。姫の言葉を聴くには、集中する必要がございますので。…ふむふむ、なるほど。どなた様も素晴らしい方で決め手に欠けて困ってしまいます。
石作 うむ、それも無理はあるまい。
車持 我ら五人とも名門中の名門であるからな
お梅 (無視して)ですので私の望むものをそれぞれ申し上げるので、それを持ってきてくださった方が私にもっとも好意のある方だとします。
大伴 なるほど、ワシらの思いの丈を計ろうと申すのじゃな。
阿部 女というのは皆贈り物が好きじゃからな。
石上 違いない。して、一体何をお望みかな?
阿部 宝石かね。それとも屋敷が欲しいと申すか?ワシならどんな宝でも持っておるぞ。
お梅 それでは申し上げます…ほう、石作の皇子様には印度にあると言う御仏の石の鉢を
石作 なぬ?
お梅 車持の皇子様には伝説の山、蓬莱にある玉の枝
車持 蓬莱じゃと!
お梅 阿部の右大臣様には唐の国に生きていると言う火鼠の皮衣を
阿部 それは、さすがのワシも持っておらぬ。
お梅 大納言の大伴様には龍の首に付いている五色に輝く宝玉を
大伴 なんと!
お梅 そして、中納言の石上様には、燕が持っている子安貝を
石上 はあ。
お梅 今申し上げた品々をそれぞれ持ってきていただきたく思います。
貴人達 な、何〜!(など口々に)
車持 蓬莱の玉の枝など、そんなものあるはずがない!
お梅 あらあら、でしたらご用意いただかなくても結構。姫との結婚のお話はなかったことに。
車持 おのれ!
石作 おい端女!誠に姫がそのようにもうしたのであろうな!
お梅 あら、疑うのですか?私は姫のお言葉をそっくりそのままお伝えしているだけよ。ねえ、かぐや姫。
かぐや (頷く)
お梅 ほらね。文句があるならお帰りください。
石上 う〜む、姫がそう言うのなら。
大伴 わしはやるぞ!斯様に美しい姫を迎えるためならば、龍の首の玉の一つや二つ持ち帰ってきてやる。お主らは指をくわえてみているが良い。


大伴が勢いよく立ち去ると、貴人たちは「まて!」「そうはさせん」などと口々に言いながらかぐや姫の元から立ち去っていく。


お梅 全く。貴族のやつらってのはいけ好かない奴ばかりね。まあ、通訳のお礼ももたんまりもらったしよしとするか。
かぐや お梅ちゃんすごい。あんなにスラスラと作り話が出てくるなんて。
お梅 まあ、お話をでっち上げるのは得意だから。
かぐや でも、そんな宝物がないってわかったら、あの人たち怒らないかしら。
お梅 心配するなって。そんな宝が無いことなんて誰にもわかりっこないんだもの。
かぐや う〜ん。
お梅 どうしたの?
かぐや そうよね、今更嘘だっていうのも怖いし…うまくいくわよね。
お梅 そうそう、うまくいくって。




MEスタート ミュージカルシーン?(太字が歌詞)
お梅   あれからかれこれ3年経って かくかくしかじかあり まして
     見栄はり汗かき皇子たちが こけつまろびつやって きた
石作 申します 申します かしこみ申し上げます
お望みの品はこちらになります 輝く仏の石の鉢
インドの国からやってきた
かぐや 小倉の山からやってきた
ただの鉢には興味はないわ さようなら
石作 そこをなんとか
お梅 なんともならない はいさようなら!
倉持 私は遥か蓬莱に行き
阿部 私は唐から取り寄せて
二人 姫の望みを叶えるために 立派な宝を用意した
申します 申します かしこみ申し上げます
倉持 こちらが蓬莱の玉の枝です
阿部 こちら火鼠の皮衣
かぐや これはまさかの本物かしら
匠 これ作ったのは私です 代金を!
二人 そこをなんとか
匠 なんともならない
お梅 はいさようなら!


皇子たち帰っていく。ケラケラ笑っているお梅たち。


お梅 あー笑った笑った。見たかよあいつらの恥ずかしそうな顔。
かぐや あんまり笑ってしまったらかわいそうよ。
お梅 でも、うまく行ったろ?
かぐや うん、お梅ちゃんの言うとおりにしてよかった。
お梅 しっかしあんたから私を呼び出すだなんて珍しいこともあるものね。で、何で竹やぶ?
かぐや ここは私がお父様に拾われた場所なの。私ね、ここから見る月が大嫌いだった。青白い光がなんだか寂しく見えて、
お梅 ふーん。詩人だね。
かぐや でも、今はただ綺麗だなって思うの。おんなじ月を見ているはずなのに、私次第でこんなにも見え方が変わるんだなって。


月を眺めるかぐや、その横顔の美しさにお梅、思わず見とれてしまう。


かぐや どうしたの?
お梅 い、いや。そのぉ。綺麗だなあって?
かぐや え?
お梅 その、それだよ。その耳飾り!
かぐや これは。ある人にもらったの。
お梅 ある人?
かぐや うん。とてもおかしな人。
お梅 …へえ、さてはあんた恋してるな。
かぐや そ、そんなことないわよ!私はお父様とお母様とお梅ちゃんがいればそれでいいもの。
お梅 ふーん、じゃあその耳飾りの彼は興味ないんだ?
かぐや それは…彼とだって話をしてみたい。
お梅 私と今こうしてるみたいに?
かぐや (頷く)…どうして私の声は誰にも届かないんだろう。
お梅 それは、きっとあんたは本当はどこか別の世界からやってきたお姫様だからさ。
かぐや 別の世界?
お梅 そうだなぁ(少し考えるお梅、ふと何かに気づいたように天を指差す。)あれだ、あのお月様だ。あんたはあそこからやってきたお姫様。だから地上の人間にはあなたの言葉はわからないのです。
かぐや ふふふ、面白い。
お梅 そうするとただ竹藪で拾われたってのも面白くないな。どうしたもんか…。
かぐや じゃあ、竹の中から出てきたら面白んじゃない?ガバッと。
お梅 お、なかなか妙案。あんたもやるじゃない
かぐや エヘヘ。
お梅 だったら、物語の始まりはこんな具合かな。



照明変化。竹取物語の情景が始まる。


お梅 今は昔、あるところに竹取の翁と言うものありけり。野山にまじりて竹をとりつつよろずのことに使いけり。名をば讃岐の造となむ言いける。その竹の中にもと光る竹なむ一筋ありける。怪しがりて寄りて見るに、筒の中光たり。それを見れば三寸ばかりなる人、いと美しうしていたり。

照明変化、現実へ。

お梅 てな具合さ。
かぐや え、私三寸くらいなの!?(指で形を作りながら)
お梅 そんくらいじゃなきゃ竹の中に入らないだろ?
かぐや 竹合わせなんだ。
お梅 月の世界のお姫様だからな、そのくらいの無茶はお茶の子さいさいよ。
かぐや でも、本当の私はただの捨て子。
お梅 それがどうしたのさ。
かぐや え?
お梅 本当のことばかりが人を幸せにするわけじゃない。過去がどうだったかなんかよりも、今どう思って生きていくかだろ。
かぐや 作り話でも?
お梅 そう、ただ口がきけないってよりそっちの方が面白いじゃない。
かぐや でも…。
お梅 それに。あんたが口をきけないおかげて幸せになってる人もいる。
かぐや どういうこと。
お梅 例えば私とか。あんたがいなかったら私みたいな孤児なんて誰も相手にしてくれなかったしさ。
かぐや ふふ、でも確かに口がきけていたらお梅ちゃんとも出会えなかった。お父様とも。
お梅 ま〜た“お父様”かよ。あんたも筋金入りだな。
かぐや だって、私の大切な家族なんですもの。
お梅 家族?あんた拾い子だろ。血は繋がってないんじゃないのか。
かぐや いいの。私がそう思いたいのだから。
お梅 へへ、そりゃあいい。

二人、しばらく月を見上げる。

かぐや …ねえ、お梅ちゃんの夢って何?
お梅 はあ?夢だあ?そんなもんないわよ。
かぐや 無いの?
お梅 あんたねえ、夢なんてもんは贅沢品よ。私みたいな根無し草は明日のおまんまのことで精一杯なの。
かぐや せっかく生きているのに勿体無い。
お梅 何よそれ?そういうあんたはなんかあんの?
かぐや 私の夢はね、今決まったの。私、あの月に行ってみたい。
お梅 月?
かぐや お梅ちゃんの話を聞いていたらさ、月の世界を見てみたくなっちゃった。
お梅 月の世界か。
かぐや もし私に月の世界からお迎えが来たら、お梅ちゃんどうする?
お梅 そうだなぁ。笑顔で見送ってやるよ。
かぐや そっか。

一人でニコニコしているかぐや。

お梅 何よ。何笑ってるの?
かぐや 内緒。
お梅 え〜。…なあ、そろそろ帰らないと爺さん心配するんじゃないの?
かぐや そうね、お梅ちゃん先に帰っていて。私、もう少しだけ月を見ていたいから。
お梅 そう。あんまり遅くなりすぎるなよ。


お梅が去ったのを見て崩折れるかぐや。体調が悪く苦しそうである。



暗転。



数日後、いつもの通りかぐやとお梅が竹細工を売っている。


お梅 どうも、これは米一斤と交換だよ。ほら、かぐや。商品渡してやんなよ。あ、それともかぐやとお話になります?半刻米五両でどうよ。
権六 いや、そのぉ…僕は、お梅さんが…
お梅 え、何?
権六 僕は、お梅さんのことが…わあ!恥ずかしい!

村の男、お梅に花を渡し駆け去っていく

お梅 なんだったんだあいつ

SE小雨

お梅 うわ、こりゃ降ってきそうだな。今日は早めに切り上げないか。
かぐや そうね。
お梅 すいません皆さん。天気も悪くなりそうなので今日のところはこの辺りで…。
大伴 ここにおったか!かぐや姫ぇ!
かぐや まあ。
お梅 あなた様は、ええっと。
大伴 大伴大納言様じゃ
お梅 これはこれは大伴大納言様、どういたご用向きでしょう。何かお買い求めになりますか。
大伴 ふざけるな!この女狐め

大伴、かぐやの胸ぐらを掴む。

お梅 おい待て!一体なんだって言うのよ。
大伴 よくもぬけぬけと。ワシを卑劣な罠に嵌めよって。
お梅 罠?一体何の話よ?
大伴 貴様らのせいで龍神様の怒りを買い、危うく海の藻屑となるところであったわ!
お梅 それは一体?
大伴 ここまで言うてもまだわからんのか。いいか、その女が龍の首の玉が欲しいともうしたから、龍を狩るために海に漕ぎ出でたのじゃ
お梅 はあ。
大伴 その海で見たこともないような大嵐に巻き込まれわしは危うく命を落とすところじゃった!
お梅 それはそれは。
大伴 その嵐はきっと龍神様がお怒りになったせいに違いない!竜を射殺して首の玉を取ろうなどと考えたからバチが当たったのじゃ!
お梅 え?
大伴 そうやって龍神様の怒りによってわしを殺そうとしたのじゃろう、この大悪党が!絶対に許さん!

大伴、刀を抜いて暴れ始める

お梅 わわわ、お、大伴殿落ち着いてくださいませ!
大伴 落ち着いてなどおられるか!このワシが、一村娘にたぶらかされたのじゃぞ。断じて許されん!

遠雷がなる、大伴必要以上に怯えてしまう。

大伴 ひえ〜〜!龍神様じゃ!龍神様がまだお怒りでおられるお助けを!お助けを!
村人 なんだ、大伴様が怯えてらっしゃるぞ。
村人 まだ遠い雷なのに情けないことだ。
村人 いつも威張っているくせに子供みたいだ。


大伴を笑ってる村人たち、大伴状況を理解して慌てて立ち去る。

大伴 お、覚えておれ!
お梅 あはは!“覚えておれ!”だってさ!三下の悪党かよ!あははは!
かぐや お梅ちゃん、どうして笑ってるの。
お梅 どうしてって、いつも偉そうにしてる貴族のやつが恥をかくなんて胸が空くじゃないのさ。
かぐや 死ぬところだったかもしれないでしょ!
お梅 死んでないんだから良いじゃない。だいたいあいついつもいばり散らしていていけ好かなかったのよ。たまには良い薬だわ。
かぐや でも…。
お梅 なに?あんたあの男が可哀想とか思ってるの?
かぐや いや、そうじゃないけど…。
お梅 何よ?
かぐや その…
お梅 言いたいことがないんならとっとと帰るわよ。本格的に降りそうだわ。


暗転。雷雨の音が激しくなる


かぐやの家 翁と嫗が深刻な話で使者の話を聞いている。


使者 それでは私はもうしばらく待たせていただきます。
翁 はい。
お梅 ふう、ただいま…ってどちら様?
嫗 あなた達おかえり。
かぐや どうしたの?
お梅 どうしたんですか?
翁 その、な。何というか。
使者 私から申し上げましょう。私の主君石上様が、お亡くなりになりました。
かぐや え。
お梅 何で。
使者 かぐや様がお求めになったったツバメの子安貝を手に入れようとなさった際に足を踏み外して…。最後にかぐや様への思いを伝えて欲しいと仰せつかり、ここに参った次第です。
かぐや …。
使者 石上さまは、最後まであなたのことを想っておられました、もう一度あなたの姿を見たいと。
翁 かぐや、何か言葉を返してやりなされ。
使者 お気遣いは不要であります。それを伝える相手も、もうおりませんゆえ。
かぐや 伝える…相手が。
使者 それでは、私はこれにて。

使者、帰る。

翁 かぐやや…。
かぐや 石上様が、死んだ。
お梅 ハハ、あいつが勝手に木から落っこちて死んだのよ。あなたが気にすることなんてないって。
かぐや お梅ちゃん、本気で言っているの?
お梅 何が?
かぐや 何がって、そもそも宝物の話がなければ彼が死ぬこともなかったわ。
お梅 ちょっとからかっただけだろ。それを真に受けるバカが悪い。
かぐや そんなのちゃんと言わなきゃわからないじゃない。…ちゃんと話せるのに、せっかく人に言葉を伝えられるのに…そんなの良くないよ。
お梅 なに?私のせいであいつが死んだって言いたいの?
かぐや そんなことは。
お梅 だったら黙って私の話に乗ったあんたも同罪よ。あいつはあんたが殺したの。
かぐや 私が、人を殺した。私が…また。
お梅 なに、都合が悪くなったらだんまり?
かぐや え?
お梅 あんた狡いよ。そうやって口がきけないからって自分の殻に引きこもって。あんたがうじうじしてるから私がいろいろ考えてあげてたんじゃない。
かぐや お梅ちゃんごめん。
お梅 あんたはそうやって黙って一生自分のことを可哀想なやつだと思って生きていけば良いのよ!
かぐや 違う、私は彼が死んだことをお梅ちゃんのせいにしたいわけじゃない!
お梅 何さ、なんとか言ったらどう?
かぐや お梅ちゃん、私の声が聞こえないの?
お梅 そうだよね、どうせあんたも都合が良かったら私と付き合ってただけよね。こんなことになったら私なんて必要ないんだ。
かぐや そんなことない!
お梅 いいよ、私だって金になるからあんたとつるんでいただけだし。それだけだから。じゃあね。
かぐや 待って!お梅ちゃん。

かぐやの声はお梅に届かないままお梅は立ち去っていく。

かぐや どうしよう。私の声、誰にも届かなくなっちゃった。


暗転、かぐやの思い出。


かぐや 今は昔、一人の娘がいました。その娘は口が聞けず、周りから疎まれていました。


かぐや父 唖の娘だあ?我が@@家にそんな出来損ないが生まれたなどとあっては出世に差し障る。姉は**様との縁談も控えておるのじゃぞ。そんな不吉娘は捨てて参れ。





かぐや その娘の母親は、娘への情を捨てきれず、その娘とともに家を飛び出してしまいました。

母 たとえ口が聞けなくてもあなたは私の愛しい娘。あなたをきっと幸せにして見せるからね

かぐや そうして二人は、貧しいながらも幸せな生活を送っていました。ですが…。

楽しい家庭から一変、火事が起こる


村人達 火事だ!!
かぐや(小) 誰か、助けて!お母さんが動けないの!誰か!


かぐやの叫びは届かず、喧騒は流れていく。


かぐや 人を呼んでも、娘の声は誰にも届きません。
村人 火事だ!
かぐや(小) 誰か!お母さんを助けてください!
かぐや いくら叫んでも、娘の声は誰にも届きません。

かぐやの助けを求める声は誰にも届かず火の手が強まってくる。

母 このままではあなたも死んでしまうわ。あなただけでも逃げなさい。
かぐや(小) !!
母 行きなさい!お母さんのいうことを聞いて。

かぐや、母の気迫に押されて一人で逃げていく。ひと段落し てから。


かぐや その娘は、愛してくれた母親に何も伝えられず、ただただ逃げていったのでした。


かぐや(小) 私が、声が出ないから…。私がこんなだから。
かぐや(二人)殺してしまった。


群衆がかぐやを取り囲んでいる。


かぐや母 お前が私を殺した。
石上 お前が私を殺した。
人々 お前が殺したんだ。
かぐや(小) 私が殺したのよ。
お梅 何とか言ったらどう?
亡霊達 なんとか言って。
全員 なんとか言って
かぐや …ごめんなさい。私が口のきけない出来損ないだからいけないんだよね。私がいなければお母さんだって幸せに…。わたしなんて、生まれてこなければ良かった。

かぐや、「何とか言って」の渦にかき消される。亡霊たちかぐやを取り込み、彼らが去った後はその場に倒れたかぐやのみが残る。異変に気付いた翁がかぐやに駆け寄る。

翁 かぐや!大丈夫か!すごい熱だ。婆さん大変だ!かぐやが倒れてしまった。


暗転。


照明変化。かぐやの家。医者が来ている。


医者 これは大変な病気です。もう先は長くない。こんなに病が重くなるまで気づかなかったとは。娘さんは何も言わなかったのですか?
嫗 はい、お医者様。かぐやは口がきけないもので。
医者 そうですか。今まできっと病の苦しさをこらえ続けていたのでしょう。それに心労が重なってというところでしょうかな。
翁 お医者様、なんとかなりませんかの。
医者 私にはどうにも。ただ、病は気からと申します。気分が晴れれば病も少しは軽くなるかもしれません。
翁 そうですか。
医者 では、私はこれにて。力になれなくてすみませぬ。
翁・嫗 ありがとうございました。

二人、医者を見送るために別室へ。医者、さる。

翁 はあ、一体何がかぐやに心労をかけてしまったのやら
嫗 きっと、これまでの結婚話が応えたのでしょう。
翁 なに?かぐやは結婚には乗り気ではなかったのか?
嫗 かぐやの贈り物の話で気づかなかったのですか?あの子は貴族の方々と結婚などしたくなかったのでしょう。
翁 なんと。しかし一体どうして?
嫗 それは…きっと私たちと一緒に暮らしたかったのでしょう。
翁 そんな、かぐやは苦しんでおったのか…。せめて声が聞こえれば思いも伝わるというのに。
嫗 言っても栓のないことですよ。とにかく、これからは貴族の方々がきてもかぐやに会わすことは止しましょう。今のあの子にはそっとしてあげるのが一番でしょうから。
翁 ふむ、そうか。そっとじゃな。

翁と嫗、かぐやの看病に戻る。照明変化、別エリアから帝と岩笠登場

岩笠 帝、やはりやめておきましょう。噂によればそのかぐや姫という娘は魔性のもの。関わればたちまち生気を吸い取られ死に至るとの専らの噂。
帝 岩笠!そちは噂に心を惑わされすぎじゃ。政に携わるものがそれでは笑われるぞ。そう言った話の真偽を確かめ、民の不安を取り除くのも上に立つものの務めであろう。
岩笠 しかし、御身にもしものことがあったら。
帝 お主の心配は痛いほどわかる。だがの岩笠、お前の信じる日 の本の帝は、そんな魔障に屈してしまうようなやわな存在ではないはずじゃ。
岩笠 帝。
帝 それに、そんな魔性の美女がもしこの世にいるなら垣間見てみたいものではないか。
岩笠 そんな事だろうと思いましたよ。何があっても知りませんからね。
帝 頼りにしておるぞ。
岩笠 (ため息)
帝 家主はおらぬか!
翁 はい。私がこの家の主人でございますが、どなた様で?
帝 帝じゃ。
翁 へ?
帝 この日出ずる国の帝じゃよ。狩の御幸に参るついでにこの家に立ち寄ったのじゃ。
翁 え〜〜〜。みか、みか、帝!?その、ひえ〜(腰を抜かす)
嫗 まあ、帝さまでございましたか。こんなみすぼらしい家になにようで?
帝 噂のかぐや姫に会いに参った!
嫗 折角足をお運びいただいたのに恐縮ではございますが、かぐや姫はこちらにはおりません。家を間違えたのではございませんか。
帝 何と、誠か。
嫗 はい。
岩笠 残念でしたね。日も暮れますし帰りましょう。
翁 そ、そうじゃ。お引き取りくだされ。かぐやはここにおらん から、そっとしておかねばならんのじゃよ。
帝 そっとする?
翁 はい、そっとする。
帝 その口ぶりじゃと、姫はここにおる様に思えるのじゃが。
翁 あ、
嫗 もう、おじいさん!
翁 すまぬ。
帝 なれば会いたい!
嫗 お気持ちは存じますが、娘は寝込んでおりまして。
岩笠 ほら、親御さんもこう言っていますし、帰りましょう。
帝 い〜や〜じゃ〜。私はかぐや姫を一目見たいのじゃ!姫を見るまで私はここから一歩も動かんぞ!(座り込む)
岩笠 あ、こら!帰りますよ!
帝 む〜。
翁 婆さんや、帝がここまで恥を捨てて、かぐやに会いたいと仰っているのじゃ。一目くらい会っていただいてはいかがか。
岩笠 恥じらいがないのはいつものことですけどね。
帝 おい、岩笠。うるさいぞ。
嫗 はあ、わかりましたよ。一目だけですよ。
帝 誠か!ありがたい。

かぐやの部屋まで案内する嫗

嫗 こちらです。かぐやは病に臥せっておりますから、そおっとですよ。
帝 (勢いよく戸を開け)そちが噂のかぐや姫か!

ギョッとする翁と嫗

かぐや …。
帝 お主は、あの時の?ハハハ!やはりそうか!お主が噂の魔性の女であったか。
かぐや …。
帝 おい岩笠!やはり噂は噂じゃ。かぐや姫は魔性の女でもなんでもなかったぞ。ただの健気な娘じゃ。
岩笠 帝、この嫗の話聞いていましたか?
帝 ん?何のことじゃ?

嫗の目線に気づく帝

帝 や、これは失礼した。堪え性がなくての。
岩笠 本当に申し訳ありません。
帝 (かぐやに)その耳飾り、持っていてくれたのじゃな。
かぐや …。
岩笠 さっきから気になっていたのですが、帝はこの娘と知り合いなのですか?
帝 え?あ〜。いや、そんなことはないよ。こっそり宮を抜け出して、ばったり村娘と出会うようなことなどないに決まっておろう。
岩笠 抜け出したんですね。
帝 ごほん!それはさておき、そちの評判はいま国でとんでもないことになっておるぞ。やれ“男を手玉にとる悪女”だとか“惚れた男の生気を吸い取る妖怪”だとかな。
かぐや …。
帝 良いのか?お主は本当はどう思っておるのか、伝えたいと思わぬか?本当のお主の思いを。
翁 かぐやは口が聞けないものですから。
帝 口がきけないからと言って黙っていなければならない法はない。そうじゃろ?
かぐや …。
帝 声に出せなくともお主は言葉を持っているはずじゃ。それを人々に伝えてみたいとは思わぬか。
かぐや そんなの無理よ。
帝 当ててやろう、そんなことは無理と思っているな。
かぐや !
帝 若いくせに諦めが良いやつじゃのう。娘っこはもっとわがままで良い。
岩笠 帝はもう少し我慢を覚えてください。
帝 いいの!私は帝だから!ほれ、これを見てみい。

帝、紙を取り出す。

帝 これは、文字じゃよ。口がきけなくても筆を持つ手があれば文字を書くことはできる。お主の言葉は人に伝えることができる。
かぐや …。
帝 かぐや、周りの人がお主をどう思っておるかよりも、ワシはお主自身に興味がある。その心の中にどのような言葉を秘めているのか、私は知りたい。
かぐや 私自身…。
帝 だから、一度で良い。わしに手紙を送ってくれんかの。
かぐや …。
帝 カカカ、初めて出会うてからわしはお主に頼み事をしてばかりじゃ。代わりと言っては何じゃが岩笠を置いていくからみっちり文字を教えてもらうと良い。
岩笠 えええ!聞いてませんよ!
帝 あれ、そうじゃったかの?
岩笠 もう!あなたという人は!

かぐや、少し笑う。

帝 うむ、良い顔じゃ!では、手紙を待っておるからの。

照明変化、かぐやの元にだけ明かり。

かぐや これが、私の言葉…。これで大事な人たちに思いを伝えられるのね。そう、お梅ちゃんにも。ゴホ、ゴホ。

亡霊たち現れ、かぐやを連れ去ろうとする。

亡霊たち …。
かぐや やめて、私はまだあなたたちのところに行くわけにはいかな い。私の大切な人に、私の言葉を伝えるまでは!私の前から消えなさい!


怨霊たち、去っていく。息も整わぬままかぐやが筆をとる姿を見せて照明変化。

お梅 そうして、かぐやは岩笠どのの指導で文字を覚えていきました。
帝孫 そして、そちはその間何をしていたのだ?
お梅 私は、恥ずかしながら…。

照明変化。どこかの街、夕方。

盗賊団?


検非違使1 待て〜!この盗人め!
検非違使2 くそう、どこに行った?
検非違使1 逃げ足の速いやつめ。

てんやわんやの役人達をお梅が高台から見下ろしている。

お梅 ば〜か。あんたらなんかに捕まってやらないよ。ひい、ふう、みい。お!なかなか持ってるじゃないの。やっぱし私って天才! …。(虚しい)

お梅の視線の先に村娘たちが。

娘1 ほらこうしたら綺麗よ。(少女の頭に花を挿す)
娘2 まあ、素敵。ありがとう。
お梅 …。

お梅、何かを振り切ろうとたちあがったその時。

権六 あの、お梅さんですよね。
お梅 なに?あんた。
権六 権六です…って言ってもわかりませんよね。あのこれ(花を取り出す)
お梅 ああ、常連の!で、どうかした?私こう見えても忙しいんだけど。
権六 わ、すみません。ただ、かぐやさんと一緒じゃなくて良いのかなって。
お梅 そんなの私の勝手でしょ。
権六 でも、かぐやさんは病気だっぺ。
お梅 へえ、風邪でも引いたんだ。
権六 ちがうちがう!重い病であとどれだけ生きてられるかわかんないってだから…。
お梅 え、それ本当?
権六 ああ、村のお医者さんがそう言っているの聞いてしまったっぺ。
お梅 あのバカ、そんなこと一言も…!


お梅、駆け出す。

権六 あ、お梅さん。おらもいくだ〜。



照明変化、別場。月の明かりを頼りに文を書くかぐやが少し体調を崩す。

翁 かぐやや、あんまり無理すると体に触るぞ。今日はもう寝なさい。
かぐや …。
翁 はあ、そんな顔をされてしまったらわし、どうして良いかわからぬ。あと少しだけじゃからな。
嫗 おじいさん。そういう甘やかし方はダメです。かぐや一生懸命に勉強するのは素晴らしいことですが、それで体調を崩してしまっては何にもなりません。しっかり休んで…。


息を切らしてお梅登場。

お梅 かぐや!!
かぐや お梅ちゃん。
お梅 何で黙ってたんだよ。病気だったって。もうすぐ死んじゃうかもしれないって。
かぐや お梅ちゃんごめん、私は。
お梅 あんたさ、そうやって自分が辛くてもずっと黙っていたわけ?
かぐや それは…。
お梅 バカじゃないの!そうやって黙って自分で何でもかんでも抱え込んで、抱えきれなくなっちゃうだなんて信じらんない!この世で起きる不幸は全部自分のせいだとでも思ってるの?ふざけんじゃないわよ!そんなんだから病気にもかかっちゃうのよ。このおたんこなす!
かぐや お梅ちゃん。
お梅 …ごめん、ちょっと言い過ぎた。こないだも。だから、あんたも私に言いたいこと言っていいよ。それでおあいこ。
かぐや お梅ちゃん、私たち多分ね。
お梅 どうしたの?まだ遠慮してるの?
かぐや どうしてかはわからないけど、言葉が通じなくなってしまったみたいなの。
お梅 なに、考え中?それともまさか、まさか…?
かぐや …。
お梅 あんたの声、私に届かなくなっちゃったの?
かぐや (頷く)
お梅 そう…。
かぐや ねえ、お梅ちゃん。一つだけお願いを聞いてくれない?(袖を掴むなど何かアプローチをしながら。)
お梅 なんだよ。
かぐや (手紙を取り出しながら)また、私の言葉を聞いて欲しいの。お梅ちゃんには伝えたいこと、伝えなきゃならないことがたくさんあるから。
お梅 文字?これが今のあんたの言葉なのね。
かぐや うん。
お梅 かぐや、私にも文字を教えてくれないか。
かぐや !
お梅 私、やっぱしあんたのそばに居たい。なんの得にもならないかもしれないけれども。あんたの言葉をもっと知りたいの。その…友達だから。
かぐや !!(文字を書く)
お梅 これは?
翁 なになに、おりごとう?
嫗 ありがとうですよ、おじいさん。
翁 おお、そうじゃった。
お梅 こちらこそありがとう。かぐや。


かぐややお梅が文字を勉強しながら楽しく生活する日々をダンスシーケンスのような形で表現したい。岩笠、権六も登場?

いつぞやの竹やぶ。月明かりを頼りにかぐやが帝からの文を読んでいる。

お梅 見〜つけた!なに読んでるの。
かぐや !!(恥ずかしがって隠そうとする)
お梅 ほうほう、恋文ですかな。しっかし、一村娘が帝と文通するだなんて大したものよね。
かぐや …。
お梅 それを言ったら私もか。ただの孤児が読み書きができるようになるだなんて思っても見なかった。やっぱりあんたすごいよ。口が聞けないけど、口が聞けないからこそいろんな人を幸せにしてる。
かぐや お梅ちゃん、それは少し言い過ぎだよ。
お梅 いや、流石に少し言い過ぎかな…ここであんたと月を眺めるなんていつ以来かな。
かぐや・お梅 なんだか、ずっと昔のことのような気がする。
お梅 不思議ね。あんたの声は聞こえなくなったのに、あの頃よりもあんたのことがよくわかるんじゃないかって思うよ。
かぐや 私も、今の方がお梅ちゃんと分かり合えてる気がする。
お梅 え?いま何か言った?
かぐや 聞こえたの?
お梅 気のせいだよな。じゃあ、おやすみ。あんた病人なんだから早く寝なさいよ。
かぐや (頷く。)


お梅と入れ替わりで、亡霊達が現れかぐやを見ている。


かぐや ねえ、もう少しだけ待って。私は、私の言葉をみんなに伝えたい。それまでは、そう、せめて次の十五夜の月が輝く夜までは。

かぐやが文を書く姿を見せながら溶暗。
照明変化。現在に戻る。

帝子 おぼろげに覚えておる。その頃父上が誰かからの文を大層嬉しそうに読んでいたのを。
お梅 その時の文はまだ…?
帝子 どうなったかわからぬ。だが、一村娘との文通などが見つかったら、周りの者どもが黙っておらんだろう。おそらくはもう…。
お梅 そうですか。
帝子 それで、その後どうなったのだ。
お梅 その数日後、かぐやは突然体調を崩し、起きて文字を書くこともままならない容体となりました。

かぐや、床に伏せている。見守るみんな。

翁 この度は帝にまで見舞いに来ていただいて。誠になんと申せば良いのやら。
帝 突然押しかけて申し訳ない。いてもたってもいられなくてな。
岩笠 公務にも身が入らないご様子でしたので、きていただいたのです。
帝 一国の主とて他愛もないのう。娘一人の命も救えぬとは。


お梅、駆け込んでくる。


お梅 かぐや!おい、しっかりしろ。
翁 お梅さんや、かぐやはもう…。
お梅 そんなわけあるか。このこは、私ともっと話をするんだって、そう言っていたんだから。ねえかぐや…なんとか言ってよ。

沈鬱とした様子で皆が見守る中、どこからともなくお梅にだけかぐやの声が聞こえる。

かぐや お梅ちゃん…お梅ちゃん。
お梅 かぐや?
かぐや お梅ちゃん、あのね…

お梅、かぐやの元により耳をそばだてる。
かぐや、お梅に最期の言葉を伝えたのち静かに息をひきとる。


お梅 聞こえた、最後にかぐやの声が。

お梅、突然駆け出す。

翁 おい、どこにいくんじゃ。

お梅ここからランマイム!その間にお梅以外は場転。

かぐや(ナレ)私がお父様に拾われた竹やぶにに私の最後の言葉を残したの。お父様やお母様、そして帝に伝えて欲しい、私の最後の言葉を。声を。こんなことを頼めるのは、お梅ちゃんしかいないから。
お梅 かぐやの最後の言葉が聞ける。もう一度かぐやに会える!あと少しだけ待っていて。あんたの最後の言葉、必ずみんなに届けてみせるから。

ランマイム終わり。お梅、あの竹やぶへ。

お梅 はあ、はあ、やっとついた。綺麗な月…そうか、やっと月に帰れたんだな、お姫様。

一筋の竹が光り、お梅が手紙を見つける。お梅、手紙を読む。

お梅 これが、かぐやの最後の言葉…。


お梅が手紙に意識を向けると照明が変化。一人でに襖が開き、かぐやが月へ帰る幻想が始まる。かぐや母、亡霊たちはここでは月からの使者として登場。




月使者 姫様。月に戻る刻限がやってまいりました。あなたは罪を犯したゆえこの地に落とされた。ですが時が過ぎその罪も許された。だからあなたの世界。月の世界に帰れるのですよ。
かぐや あなたは…。
月使者 ずっと見てましたよ。よく頑張りましたね。さあ、一緒に行きましょう。
かぐや ありがとう。ずっと待っていてくれて。

かぐや、使者とともに月に行こうとするが、そこに翁、嫗、帝現れる。

翁&嫗 かぐや、行かないでくれ。
帝 かぐや。
月使者 さあ、姫様。時はきたのです。参りましょう。
かぐや だけど、あと少しだけ、最後の言葉だけ、大切な人たちに伝える時間をください。
月使者 …。
かぐや お父様、お母様今までこんな私をずっと育ててくれてありがとうございました。二人を悲しませながら旅立ってしまうのは心残りで仕方ありません。…もっと、ずっと一緒に居たかった。もし寂しくなったら、この手紙を読み返してください。私の声を聞くような気持ちになれるかもしれません。

かぐや、手紙を翁に渡す。

翁 かぐや、かぐやぁ。
かぐや 帝。あなたへの思いを伝えようと思うたびに、言葉とはなんて不自由なのだろうと思っていました。思いを伝えるには言葉だけでは足りないと、言葉よりもっと大切なことがあるのだと気づくことができたのは、あなたが私に言葉をくれたからです。感謝しても仕切れないような思いです。

かぐや、手紙を帝に渡す。

帝 かぐや、お主の言葉確かに受け取ったぞ。
かぐや お梅ちゃん、私の夢がやっと叶う時が来ました。お梅ちゃんとお別れしないといけないのは寂しいけれど、あなたに出会 えて幸せでした。私はね、お梅ちゃんが笑って見送るって言ってくれた時嬉しくなっちゃったんだ。私が居なくなる時に、みんなが悲しい顔をしているのは辛いから。お梅ちゃんも、きっと素敵な夢を見つけてね。

かぐや、お梅に手紙を渡す。

お梅 かぐや!私、夢が決まったんだ。あんたに負けないくらい、一等でかくて素敵な夢。私はね、あんたの物語を書くんだ。これから先もずっと誰かがかぐやのことを思ってくれるように。かぐやの言葉が誰かに届き続けるように。
かぐや …。(微笑む)
月使者 かぐや、素敵な人たちと巡り会えたのね。
かぐや はい!

周りの人たちが血の涙を流す中、お梅だけ大笑い。

お梅 約束だからな!私が盛大に笑ってあんたを見送ってやるよ!
かぐや お梅ちゃん。私は、私は…(言葉にならない)
お梅 良いんだかぐや、もう良い。言葉なんかいらない。あんたと私は…友達なんだから。
かぐや !
使者 さあ、参りましょう。
かぐや ええ。わかりました。


月へ登るかぐや姫。その様子は一枚の絵画のように美しい。(具体的にはストップモーションで絵を作りたい!)お梅だけがその絵画の中から抜け出して


お梅 …そうして、かぐや姫は月の世界へと旅立っていったのでした。めでたしめでたし。

照明変化、現在へ。

帝子 そうか、父上が思いを寄せていた女子とはそのような。
お梅 はい、月からやってきた姫だったのです。帝とはいえ心を奪われたのは仕方のないことでしょう。
帝子 月か…。今もかぐや姫はあの月から見守っているのだろうか。
お梅 ええ、私たちが彼女のことを物語る限りずっと、見守っておりましょう。

竹取物語、かぐや姫幻想譚FIN

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