STAGE 学園

あらすじ    夏休みに入ろうとする七月。ある高校のダンス部は、九月の頭にある文化祭のステージに向け、準備を始めようとしていた。そこに、廃部寸前に追い込まれた吹奏楽部が合同ステージをつくりたいと相談を持ちかけてくる。ダンス部は初めての試みだったが、みゆが大尊敬する先輩のあんも助っ人として加わったため、練習は順調に進むと思われた。しかし外から見ると完璧そうなあんも、様々な悩みをかかえていて… これは、一つのステージを作ることに全力を捧げる若者たちの、愛と友情の物語である。
ぐるさん 9 0 0 07/27
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第一稿

登場人物紹介                       
① 澁谷美優(みゆ)(17)
ニ年E組の生徒。ダンス部の部長。明るくみんなの人気者で、誰よりもステージで踊ることが ...続きを読む
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登場人物紹介                       
① 澁谷美優(みゆ)(17)
ニ年E組の生徒。ダンス部の部長。明るくみんなの人気者で、誰よりもステージで踊ることが好きである。今回、憧れのゆうとが部長を務める吹奏楽部とのコラボに戸惑いながらも、あんや真野辺からの指導を受け、日々成長していく。
② 川口智子(ともこ)(17)
みゆと同じニ年E組の生徒。ダンス部副部長で、みゆの大親友である。しかし性格はみゆとは真逆で、みんなの前では少し大人しい。でもステージで踊ることが大好きなのはみゆと同じである。好きな人がいると言うが、なかなか明かさない。
③ 武藤杏(あん)(19)
ダンス部のOB。みゆのニ学年先輩。高校在学中からダンスの才能があったため、プロの道を目指すが、その壁はとても厚く、高かった。挫折しかけていたところ、真野辺から夏の期間だけ高校のダンス部を指導して欲しいと誘いを受け、変わっていく。
④ 西野佑音(ゆうと)(17)
ニ年F組の生徒。吹奏楽部の部長。全てにおいて完璧な男子で、同学年の女子生徒からはモテるを通り越して、近付き難い存在である。今回廃部の危機に陥った吹奏楽部を救うため、ダンス部に合同ステージを提案する。
⑤ 坂下香織(かおり)(17)
ニ年生の生徒で、吹奏楽部の副部長。こちらもゆうとのように、全て完璧な女子生徒。ゆうとが唯一本音でなんでも相談できる生徒である。表向きでは友達を装っているが、ゆうとに対して密かに想いを寄せている。
⑥ 真野辺紀子(真野辺)(38)
みゆ、ともこの在籍する、ニ年E組担任。さらにダンス部の顧問であり、いつも部長のみゆ、そしてみんなのことを考えている熱血教師。そのため部員からは大変慕われている。
⑦ 低野瀬一(低野瀬)(42)
元吹奏楽部顧問。ゆうとのことを誰よりも可愛がり、吹奏楽部の部員からも大変尊敬されていた伝説の顧問。昨年他の学校に転任した。(特別出演)
⑧ 現吹奏楽部顧問(名前なし)
未経験のお飾り顧問。練習にも来ないで、生徒に関心を持たないため、生徒からの信頼はない。今回、そんな姿勢を知った真野辺から戒告を受け、彼らのステージを見ることとなる。
⑨ その他(他の部員、校長など)

※先生に関しては敬称略
※それ以外の登場人物は、名前はすべて平仮名で表記致します。

ナレーター「七月の終わり、ある高校では終業式を迎え、明日から夏休みが始まる。通知表やその他配布物が渡された後、皆が浮かれた雰囲気の中、教室では夏休みのことについて担任の真野辺が話している。」

●ニ年E組教室
真野辺「じゃあみんな、明日から夏休みだけど、課題はちゃんとやってね、わかった?」
  みんなは前を向いているが、みゆ、あくびをしている。
真野辺「大学のオープンキャンパスもちゃんと行って、レポートに書いてくるのよ。去年あれすごく提出率悪かったんだから…」
  みゆ、窓の外を見ている。
真野辺「夏休みだからって夜更かししないで…(みゆの方をみる)」
クラスメイトが一斉に真野辺の視線の先(みゆの方)をみる。
真野辺「みゆ!」
みゆ「え?あ、何かありました?(ポカンとした表情で)」
  みんなが笑う。
真野辺「全くもう。ちゃんと話聞きなさい!筋トレメニュー増やすよ!」
みゆ「えーー!やだやだやだ!」
真野辺「やだったら、課題ちゃんとやってよね。」
みゆ「はい…(小さな声で)」
真野辺「全く、あなたはダンス部も頑張るのよ。部長なんだから、しっかりやってくださいね!お願いしますよ!」
みゆ「はい。」
真野辺「(少し笑って)でも、まあ、みんなとにかく健康でね。夏休みが開けたら、みんな元気な顔見せてね。これが一番のお願いよ。」
みゆ「はーい!(大きな声で)」
真野辺「みゆはずっと元気でしょうが!」
  さらに大きな笑いに包まれる。

●学校からの帰り道
  帰り道で、みゆは親友でありダンス部副部長のともこと話している。
ともこ「マジクソ暑いんだけど、みゆ、成績どうだった?」
みゆ「いや本当爆死。まあ、過ぎたことだから忘れよ。ともこは?」
ともこ「ウチも、そんなによくないや。てかそれより今年の課題の量やばくね?」
みゆ「それな、去年よりもっと増えたよね…まあでも、夏休みはたっぷりあるしね!今年も遊びまくります!」
ともこ「(呆れた顔をしながら)そんなこといって、去年最後の三日で泣いてたじゃん。結局最後全部ウチに答え送らせてさ。」
みゆ「それも、過ぎたことだから忘れましょうねー!今年は頑張るって。」
ともこ「でも実際、ウチらあんま夏休みないじゃん!夏休み終わったら文化祭すぐだよ。それまでに振り完成させないとやばくね?」
みゆ「そうじゃん、そもそもまだ曲も決まってないんだった、やばいどうしよ。」
ともこ「あ、でも明日部活あんじゃん、そこで決めようよ。」
みゆ「あれ?明日部活あったっけ?」
ともこ「ちょっと部長さーん、しっかりしてくださいよー」
みゆ「気をつけまーす。てか考えたらやばいんだけど!明日部活じゃん?その明後日バイトじゃん?高ニの夏休みなのに、全然青春できないじゃん!」
ともこ「(意地悪そうに笑って)そんなこといってるけど、時間あってもそんな相手いるの?」
みゆ「うるせえな!お前ほんと!(ともこの首を掴む)」
ともこ「ごめんごめん。じゃあ明日曲決めるってことでいいのね?」
みゆ「(寂しそうな顔で)え?帰るの?ちょ待てよ。」
ともこ「え、だって、今日はこれで終わりでしょ。」
みゆ「えーせっかく今日この後なんもないんだからさー寄り道しようよー」
ともこ「寄り道?どこ行くの?」
みゆ「ゴンチャ」
ともこ「本当好きだな!」
みゆ「ねえ、いいでしょー(ともこの制服を引っ張りながら)」
ともこ「しょうがないなぁ、今日は付き合ってやるか。」



●音楽室
  静まり返り、ガランとした音楽室に大きなグランドピアノだけがある。その教室の真ん中にゆうととかおりがいる。
  音楽準備室では数人の生徒が楽器の準備をしている。
ゆうと「はぁ…(ため息をつく)」
かおり「どうしたの?」
ゆうと「いや、やっぱり少ないなって思って。」
かおり「私も今思った。部員でしょ。この先ちゃんと部活回るのかな。」
ゆうと「残念なお知らせなんだけど、実はもう一人減るんだ。」
かおり「え⁉︎嘘でしょ。」
ゆうと「本当。ニ年の○○が辞めちゃうって言ってたから、これでニ年生は俺とかおりだけになっちゃうな。」
かおり「えー?あの子辞めちゃうの?」
ゆうと「親が受験に力入れろってさ。もう半ば強制らしいよ。」
かおり「ひどいねそんなの。」
ゆうと「三年生は引退しちゃったし、ニ年が俺らニ人で、一年は四人。きついな。」
かおり「文化祭どうするの?」
ゆうと「そこなんだよな、問題は。この文化祭のステージでしょぼいってばれたら、ますます来年入ってくれないだろうし。」
かおり「部員少ない部活にわざわざ入りたくないよね。」
ゆうと「そうだよ、俺だってこの高校、文化祭の吹部の演奏が凄かったから、入りたいと思ったんだ。ここなら、思う存分やれるなって。」
かおり「でも、実際入ったら、どんどん部員は辞めちゃって、新しく入ってくる人もいなかったよね。」
ゆうと「そうなんだよな…」
かおり「今年から顧問の先生変わっちゃったのは痛いよね…」
ゆうと「あーあ。今頃低野瀬先生がいたらな。今は何にも経験のないお飾り顧問だもん…俺らの代はとことんついてないよ。」
かおり「本当にそう。あの先生が凄かったんだよね。でも、このままじゃ本当まずいよ。廃部になっちゃう。なんか手を打たないと。」
ゆうと「近くでアピールするとなると、やっぱ文化祭しかないよな。定期演奏会はずっと先だし。」
かおり「でも、私たちだけじゃ、やっぱしょぼくならない?」
ゆうと「そうだよ。俺らだけじゃ…俺らだけじゃダメなんだよな…」
  ゆうと、じっくり考え込んだ後、手を叩く。
ゆうと「あっ!いいこと思いついた。これなら何とかいけるかも!」



●ゴンチャ
二人はタピオカを注文し、席に着く。
みゆ「んー!やっぱゴンチャ最高だな。」
ともこ「みゆってさ…」
みゆ「ん?なに?」
ともこ「好きな人とかって、いたりする?」
みゆ「は?何いきなり⁉︎」
ともこ「いや、なんか気になったから。」
みゆ「好きな人…好きな人ではないけど、まあ、推しはゆうとくんだね(笑)」
ともこ「ゆうとくんって、あの吹奏楽部で部長の人?」
みゆ「うん。あの人めっちゃかっこいいじゃん。見た目だけじゃなくて、性格とかもさ。」
ともこ「うん…そうだね。」
みゆ「でもま、本気で好きな人なんていないよ。今はダンス部のみんなが彼氏だとおもってるから!」
ともこ「(イマイチ納得しきれていない様子で)ふーん。そうなんだ。」
みゆ「なにふーんって。ともここそ、どうなの?ともこかわいいからモテるし、相手なんていくらでもいるじゃん。うらやまだわー」
ともこ「そんなことないわ!」
みゆ「なに言ってんの?こないだだってサッカー部のイケメン後輩から告られたんでしょ。知ってんだよこっちは!」
ともこ「(驚いた顔で)なんで…そんなこと知ってんの?」
みゆ「いや有名だから!多分ダンス部は全員知ってるよ。○○くん、だったっけ?」
ともこ「うそでしょ。そこまで漏れてんの⁉︎」
みゆ「で、どうしたの?返事は。」
ともこ「断った。」
みゆ「えーなんでーもったいない!」
ともこ「そりゃそうでしょ。こっちは相手のことなんも知らなかったし、向こうから一方的に好かれてただけなんだから。」
みゆ「いいなーうちもいろんなイケメンから言い寄られてみたいなー」
ともこ「バカじゃないの⁉︎そもそもうち、今好きな人いるし。」
みゆ「え!いるの⁉︎」
ともこ、顔が赤くなる。
みゆ「えーだれだれ?」
ともこ「言うわけないじゃん。君みたいに口の軽い人に。」
みゆ「なんでよーどんな人かだけでも。お願い!」
ともこ「まあ、面白くて、優しくて、明るい人…かな?これ以上は言わない!」
みゆ「何なのー!そんな人いっぱいいるじゃん。気になる!自分から話しといて言わないなんて。」
ともこ「文化祭が終わったら言うって。」
みゆ「あ、言ったな!約束だからね!覚えてるからね!」
ともこ「はいはい、約束します。」
みゆ「約束ね。いやでも、実際今のウチら恋愛してる暇なんてないかんな?夏休みもリハーサル漬けになると思うから、覚悟しといてよ!」
ともこ「はあ…わかったよ。がんばりまーす。部長!」

ナレーター「みゆやともこの所属するダンス部では、毎年九月に行われる文化祭に向けて、夏休みから練習を始める。曲も一から選んで、フリも自分たちで考えるのだ。その練習中は本当に地獄のような日々である。しかし、本番のステージでパフォーマンスをやり終え、観客の盛大な拍手をもらった時には何にも変えがたい喜びに包まれる。その喜びを誰よりも知っているみゆは、今年も断然気合いが入っていた。そんな中、ある部活から、まさかの知らせが飛び込むことになる。」


●学校のスタジオ
  ダンス部の部員たちが学校のスタジオで話している。
部員1「いやーついに今日から始まるね。」
みゆ「なに踊る?」
部員2「去年は洋楽多めだったし、今年はJPOPかKPOPがいいなあ。」
ともこ「ジャニーズ踊る?」
みゆ「賛成!絶対JUMPは入れてね!」
部員2「ニジューもいっちゃう⁉︎」
ともこ「いいじゃーん!中学生の子たちにもいいアピールになるよ!」
みゆ「よし!決まり!」

  その時、スタジオの扉が開き、顧問の真野辺先生が入ってくる。
  部員、全員大きな声で挨拶する。

部員「おはようございまーす!」
真野辺「おはよう。えー今日から文化祭のダンス部の出し物を決めてくことになるんだけど、ちょっとみんなにお知らせがあります。いきなりだけど、今年からちょっと新しい試みをすることになったわ!」
部員「イェーイ!(部員全員拍手をする)」
みゆ「なんですか?新しい試みって。」
真野辺「これまではみんなだけのパフォーマンスだったと思うけど、今年から、他の部活とコラボすることになりました!」
みゆ「え⁉︎コラボするんですか?」
ともこ「どこの部活と?」
真野辺「吹奏楽部のみんなとよ!」
部員が静まり返り、顔を見合わせる。
みゆ「吹部と?合同でやるってことですか?」
  すると状況を飲み込めない部員たちが、文句を言いだす。
部員1「え⁉︎どういうことですか、それ。」
真野辺「吹奏楽部のメンバーに演奏してもらって、それに合わせて踊るの。」
部員2「え⁉︎そ、そんなの何にも聞いてないですよ!」
部員3「ウチらだってやりたい曲いっぱいあんのに!」
ともこ「てかなんでそもそも吹奏楽部と一緒なの?」
みゆ「そんなの、おかしいと思います。毎年先輩たちは自分たちの曲で、やりたいようにやってきたわけだし、それを急に今年から変えるなんて…そんなことできません!」
  真野辺、部員が勘違いしていることに気づき、笑う。
真野辺「あ、ごめんごめん。そういうことじゃないの。私の言い方が悪かったわ。もちろん、みんなが踊りたい曲もやるわよ、ただその中の一曲を、吹奏楽部のみんなとやってほしいっていう話よ。」
  部員、もう一度顔を見合わせる。
みゆ「あ、そうなんですか!なーんだ。」
  部員、安心した顔になる。
みゆ「ていうか、そもそも誰がそんな面倒くさいこと言ったんですか?」
  (少し間が空いて)
真野辺「部長の西野くんと、副部長の坂下さんが直接私にお願いしてきたの。」
みゆ「え?(言葉を失う)」
ダンス部員「…(言葉を失っている)」
真野辺「このあと、みんなにもお願いに来るみたいだから、聴いてあげてね。」
みゆ「え!く、来るんですか⁉︎」
真野辺「無理にお願いをするから、理由を自分たちの口から言いたいみたいよ。」
  部員、よくわからずに顔を見合わせる。


ナレーター「吹奏楽部部長の西野ゆうと、副部長の坂下かおり。どちらも容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、このニ人の演奏を聞いた者は誰もが涙すると言われている。次期生徒会長と副会長と噂されているが、本人たちは断っているようだ。ダンス部員は、そんな人たちとコラボする理由がわからずに、困惑していた。その約一時間後、部員みんなで話している中、入り口から人の声がした。」

かおり「すみませーん、ちょっとお時間いいですか?」
みゆ「は、はーい、大丈夫です!(小声で部員に)きたきた、きたよ。」
  ダンス部員が一斉に静かになる。扉から数人の生徒が入ってくる。そして真ん中には、西野ゆうと、その横には坂下かおりが立っている。最後に真野辺が入って来た。ゆうとは前に立ち、真剣な顔で喋り始める。

ゆうと「すみません。ダンス部の皆さん。少し僕の話を聞いて下さい。」
  部員、全員黙っている。
ゆうと「皆さんもご存知の通り、この高校の文化祭は、この高校に入りたい中学生がたくさん来ます。だから、そこは部活をアピール出来る最大のチャンスなんです。例年だと、ダンス部の時間は最後で、去年も大いに盛り上がっていて、正直羨ましかったです。」
かおり「(寂しそうな顔で)でも、吹奏楽部は一番始めの時間で、あんまり人が来てくれません。最近はアピール不足で、吹奏楽部はどんどん部員が減っていってしまっています。部員一人ひとりはクオリティが高いのに、人数が足りないせいでコンクールに出れないのはとても悔しいんです。だから我々吹奏楽部の為に、どうか力を貸してください。お願いします。」
  ダンス部員、唖然としている。
真野辺「ね、まあこういうことだから、みゆ。いいでしょ。」
みゆ「は、はい。わかりました。」
ゆうと「ありがとうございます。」
真野辺「じゃあ、まあそういうことだから、よろしくお願いします。じゃあみんな、今日は踊る曲を決めたら、それで終わりにしていいから。」
部員「はい!」

●放課後の帰り道
みゆ「うそでしょ⁉︎ゆうとくんと一緒にステージに立てるなんて!」
ともこ「みゆ、やっぱ本気で好きなんじゃないの?西野くんのこと?」
みゆ「は?何言ってんの⁉︎ゆうとくんはただの推しです!そもそもあの人は私のことなんて…」
  みゆの顔が赤くなる。
ともこ「なんでー!そんなことないって!だって部長同士だし、話し合っていろいろ決めてくんでしょ。そしたらお互いのプライベートなことも話すじゃん!」
みゆ「だから、何を言ってるのかな?話さないって。打ち合わせはするかもしれないけど、そんな、自分の話までは…」
  その時、急に後ろに人影が現れる。
ゆうと「あの…」
みゆ・ともこ「わっ!」
ゆうと「すみません。びっくりさせちゃって。あの、ちょっと話したいんですけど、少し時間いいですか?」
みゆ「いや、全然、大丈夫です。」
ともこ「うん。大丈夫。」
みゆ「あ、あの、話ってどんなお話ですか?」
ゆうと「曲のことです。あの時お願いしただけで、曲の話が出来てなかったので…」
ともこ「あー確かに!曲がわかんないんじゃこっちも踊れないからね、なんの曲がいいの?」
ゆうと「一応吹部ではSMAPの『SHAKE』っていう曲を今練習してて、これが一番盛り上がるかなって思ったんですけど…」
みゆ「あ、なんか聞いたことあります!」
ともこ「えースマップゥー?(不満そうに)」
みゆ「(小声でともこに)いいでしょ、もう練習してくれてるんだから!」
ゆうと「あの、嫌だったら、変えることもできますけど…」
みゆ「いや、いいですいいです。その曲なら私もわかりますから、全然大丈夫です!」
ゆうと「すみません、色々わがまま言っちゃって…」
みゆ「いやいや、そんな…」
ゆうと「ほんと、澁谷さん。今回は本当にありがとうございます。一緒に頑張りましょう!」
  ゆうと、みゆの目を見て笑う。
みゆ「そ、そんな、私はなにも…」
  みゆ、顔が真っ赤になる。 

  ともこ、不服そうな顔でそんな二人を見ている。


●都内のダンススタジオ
  数十人のメンバーがレッスンを受けながら、音楽に合わせて踊っている。そして前でダンス講師が腕組みをしながら、その様子を見ている。そのメンバーの中には、あんがいる。

講師「やめやめやめ!」
  音楽が止まる。
講師「ちょっとあんたたち、酷すぎ。何回やれば気が済むの!」
メンバー「すみません。」
講師「特に、あん!なんなのその動き、メンバーの中で一番下手くそだよ。そんなんでプロ目指すなんて、百年早いんじゃない?」
あん「すみません、次回までには、必ず成長しますので…」
  あん、泣き出す。
講師「なに泣いてんの?そんなすぐ泣くような弱い奴は、ウチにはいらないんだよ!」
  あん、下を向き、涙を必死に堪えている。
●町の中
  練習後、あんは街を一人でトボトボと歩いている。

○あんの回想(歩きながら考えている)
  ニ年前、高校の文化祭の発表日、体育館で思い切りあんが踊っている。大歓声が響き渡る。自分の名前のコールが聞こえる。顧問の真野辺が自分たちの踊りを見て泣いている。自分が、最優秀団体賞のトロフィーを受け取っている。

あんの心の声(ああ、私、才能ないのかな、やっぱり大したことなかったんだ。あんな小さな高校で少し上手だって言われたぐらいで舞い上がって、バカだなあ。もうプロの道は…諦めようかな。)
  その時、あんの携帯が鳴る。着信相手には、「真野辺」の文字が出ている。
  恐る恐る電話を取る。
あん「はい、もしもし。」
真野辺「もしもし?あんだよね、久しぶり!真野辺です。ごめんね。いきなりで申し訳ないんだけど、ちょっとお願いしたいことがあるの。」
あん「は、はい何ですか?」


●ゴンチャ
ともこ「またゴンチャかよ」
みゆ「仕方ないじゃん。今日も急に話したくなったんだから。」
ともこ「いやでも、さっきはちょっとびっくりした。いきなり現れるんだもん。」
みゆ「ちょっとどころじゃないわ!心臓止まるかと思った。」
ともこ「そんなに〜?」
みゆ「そりゃそうでしょ!」
ともこ「でもさーなんでスマップ?おばさんじゃん。ウチJUMPがいいんだけどー」
みゆ「しょうがないでしょ。JUMPはその前に踊るし、もう吹部じゃ練習始めちゃってるっていうのに今更変えてくださいなんて言えないでしょ。」
ともこ「ほんと、好きな人には甘いんだから。」
みゆ「だから、好きな人ではないって!」
ともこ「さっきもずっと敬語だったよ。終始顔も真っ赤だったし。」
みゆ「そりゃ、さすがに急にありがとうなんて言われたらビビるじゃん。」
ともこ「脈ありじゃないの?」
みゆ「あるわけないでしょ!あの方は優しいからそう言ってくれるだけだって。」
ともこ「そうかなー」
  少し間が開いて、みゆ、意地悪そうな顔になる。
みゆ「ははーん、わかった。そんなにしつこく聞くってことは、ともここそ好きなんじゃないの?こないだ言ってた好きな人って、西野くんでしょ!」
ともこ「えっ?ち、ち、違うよ。」
みゆ「やっぱりね。ま、ともこなら可愛いから、お似合いだと思うけどねー!」
ともこ「違うってば!(少し強めに)あたしは面白くて、優しくて、明るい人って言ったんだよ。西野くんはどちらかといえばクールじゃん!」
みゆ「そんなのカモフラージュのためにウソついたんでしょ。」
ともこ「だから、ち・が・うって!」
みゆ「図星だからって、そんな怒んないの。ウチは応援してるよ!」
ともこ「もう、いいよ…」
みゆ「とにかく、曲も全部決まったことだし、明日からはもっとピッチ上げてくよ!」
ともこ「…」

●数日後、学校のスタジオ
  真野辺、ゆうと、かおりが前に立っている。ダンス部員、全員座って聞いている。

真野辺「えーと、もう聞いてる人もいるかもしれないけど、私たちダンス部と吹部のみんなでやる曲を、改めて二人に発表してもらいます。」
ゆうと「はい、えーと、一応僕らが演奏したいのは、SMAPの「SHAKE」っていう曲なんですけど、それに合わせてダンスをお願いしたいんですが…」
ダンス部員、顔を見合わせる。
部員1「え、それどんな曲なんですか?」
かおり「みんなあんまり聞いたことないかもしれないけど、SMAPのまあまあ有名な曲です。アップテンポで元気な曲なので、お互い楽しいかなって、この曲にしました。」
真野辺「もう吹部では練習始めてるみたいだから、私たちはまずフリを覚えて、それから合同練習って感じかな。」
ともこ「その合同練習って、何回ぐらいできるんですか?」
真野辺「それが、残念だけど、あんまりできないのよ。吹部とのスケジュールが合わなくて、吹部は行かないけど、私たちは合宿に行っちゃうでしょ。だから頑張っても、計五回ぐらいかな。」
みゆ「えーそれだけ?」
真野辺「そうなの。だからそれまでに、他の踊りは短期間で一気に完成させたいの。」
みゆ「そんなこと、できるかな。」
  真野辺、ニヤッと笑う。
真野辺「ふっふ。そう言うだろうと思って、今年の夏休みはスペシャルゲストを呼んでるわ!」
みゆ「えー誰ですか?」
真野辺「誰だと思う?実はもうそこに呼んでるの。」
みゆ「え⁉︎本当ですか!」
  部員がざわつく
ともこ「えーはやく!」
  部員、全員入り口を見る。
真野辺「じゃあ、入ってきて―」
  みんながさらに入り口の方に注目する。
  すると、飛び込むように、派手な容姿の人が入ってくる。
あん「あんでぇーす!皆さんお久しぶりでーす。」
2年の部員「きゃー!(歓声が上がる)」
みゆ「嘘でしょ、あん先輩⁉︎」
一年の部員「みゆ先輩、あの人誰ですか?」
みゆ「知らないの⁉︎このダンス部にいて?めっちゃすごい人だよ。」
  大歓声が響く中、あんが挨拶をする。
あん「みんな会いたかったよ!!」
二年部員「イェーイ!」
二年部員、大きく拍手する。
真野辺「ごめんね。一年生のみんなは知らないと思うけど、武藤あん先輩よ。みゆたちの二つ上の代で部長やってくれてたの。他のダンスクラブでもいろんな大会に出てて、優勝経験もある実力者よ。去年うちの高校のダンス部は卒業したけど、今ではプロのダンサーを目指して頑張ってるわ。今回急にこんなステージを作ることになったからお願いして、この夏休みの期間だけ手伝いにきてくれることになったの!」
ニ年部員「やったー!」
あん「(一年部員に向かって)ごめんごめん。そうだよね。私のことわかんないよね。今の先生の紹介はちょっと盛りすぎだけど、久しぶりにみんなと踊りたくなって来ちゃいました。短い間ですが、みんなよろしく!(ゆうと、かおりの方を向いて)あ!あと、吹部の西野くんと坂下さん…だっけ?聞いたよ、今年からダンス部と合同でやるみたいじゃん。」
ゆうと・かおり「はい、一緒にやらせてもらいます。」
あん「そんなの見たことないからすごい楽しみ。きっとすごいステージになるんだろうな、こっちも負けないように全力で踊るから!ね、みゆ。」
みゆ「はい!先輩、来てくれて本当にありがとうございます!私たちも頑張ります!」
真野辺「じゃあ、ゲストも来てくれたし、ダンス部も吹部も最高のステージを作り上げるために頑張りましょう!」
  拍手が鳴り響く。


ナレーター「こうして、また練習の日々が始まった。合同練習に向け、ダンス部は合宿に行き、吹奏楽部は学校に残り、それぞれ自分たちの課題を見つけて練習することになる。しかし、そこでは様々な困難が彼らを待ち受けていた。」


●長野県某所の旅館(ダンス部の合宿先)
  到着して間もなく、ダンス部員は旅館の大部屋でお昼ご飯を食べている。
  みゆ、ともこ、あん、真野辺が同じテーブルに座っている。
みゆ「いや、今日からついに合宿かー」
ともこ「ここなら時間もあるし、一気に仕上げないとね。帰ってから大変だし。」
あん「いやー久しぶりの合宿だ!この雰囲気いいなあ。楽しみー!」
真野辺「あんはわざわざ合宿まで来なくても良かったのに。」
あん「そんなこと言わないでくださいよー私本当にここにいると楽しいんですから。」
みゆ「そうですよ先生、私もあん先輩がいると本当に心強いんですから。」
真野辺「みゆはいつまでも先輩頼ってないで一人でやりなさい!それからあんも協力してくれるのはありがたいけど、何でもかんでも手を貸すのはやめてね。それじゃこの子たちが成長できないから。」
  真野辺、そう言ってそそくさと席を立つ。
みゆ「なんで、あんなに怒ってるんですかね。」
ともこ「ほんと、自分で先輩呼び出したくせに。」
あん「いや、先生の言ってることも正しいよ。正しい…」
  あん、神妙な表情を浮かべ、窓の外を見る。
あんの心の声(私こんなところにいていいのかな?)

●音楽室
  演奏が鳴り響いている。ゆうと、時計を見る。
ゆうと「はい。じゃあこれで今日の練習は終わり。」 
  曲が終わり、音が鳴り止む。
部員「はい。」
ゆうと「全体的にまとまってはきてる。ダンス部との合同の曲も、合同練習に入っても問題ないレベルまでにはなってると思う。」
部員「はい!」
部員「ただし、油断するなよ、毎日練習しなかったら簡単に下手になるからな。明日と明後日は休みだけど、その間もきちんと練習しておくこと。」
部員「はい、わかりました。」

  後輩部員が帰った練習後、音楽室でかおりとゆうとが話している。
ゆうと「今ダンス部は合宿だってさ…」
かおり「合宿かー、いいな。私たちも去年までは行ってたよね。」
ゆうと「そうだよな。でも今、この人数じゃ合宿行っても意味ないしな。」
かおり「本当だよね。実際合宿行って練習するほど、たくさん演奏しないし、ね…」
  ゆうと、ムッとした表情になる。
ゆうと「だいたい顧問は今どこなんだよ。」
  かおり、曇った表情になる。
かおり「旅行だって。まあ、夏休み真っ只中だしね。」
ゆうと「夏休みって…(呆れた顔で)まだお盆時期でもないだろ。」
かおり「まあ、今の顧問の先生にもプライベートがあるし、しょうがないんじゃない?」
ゆうと「低野瀬先生は絶対そんなことしなかったよ。ったく!」
かおり「あの先生はもういないの!」
  かおり、目に涙を浮かべながら、叫ぶ。
ゆうと「どうしたんだよ?急に。」
かおり「ゆうと、最近変だよ。前は演奏する時、誰よりも心がこもった演奏してて、そこが憧れだったのに。なんか冷たいよ。演奏も、私たちに対しても。」
ゆうと「どういうことだよ、それ。」
かおり「あなたは、楽器がもともと上手いから、間違えてるわけじゃないし、演奏自体にミスはない。でも、どこか心がこもってないの。やらされて、嫌々演奏してるって感じがするよ。」
ゆうと「仕方ないだろ。去年みたいにはもう演奏できないんだから。」
かおり「それはそうかもしれないけど、やっぱりそれじゃダメなんじゃない?確かに私だって今の顧問の先生はあんま好きじゃないし、演奏の機会も減っちゃったけど、その限られた中でも、一生懸命全力で演奏するのが、私たちのやるべきことなんじゃないの?そもそも今回の合同練習だって自分から提案したんじゃない!」
ゆうと「それは、吹部のためを思って…」
かおり「じゃあ、決めたんだったら全力でやり切ろうよ!」
ゆうと「はぁ…(ため息をつく)かおりはさぁ。純粋すぎるんだよ。何でもかんでもそうやって考えられたらこっちだって何も苦労しないよ。」
  ゆうと、かおりから目を逸らす。
  かおり、後ろからゆうとを睨む。
かおり「今のゆうと、低野瀬先生が見たらなんて言うだろうね。」
  ゆうと、ともこに背を向け、窓枠に腕を乗せる。
かおり「ゆうとは誰よりもあの先生のお気に入りだったし、期待されてたと思うよ。だからその期待に応えるべきじゃ…」
  ゆうと、窓を叩く。
ゆうと「わかってるよ!そんなこと!わかってるから…余計、余計にこんなふうに腹が立って…最近情けなくなるんだ…(俯く)」
かおり「ゆうと…」
  かおり、俯くゆうとを見つめる。
ゆうと「あの先生が期待してくれたような部長には…俺はなれてないんだ。」
  少し間が開き、かおりが口を開く。
かおり「じゃあ、これからなればいいんじゃない?」
ゆうと「え?」
かおり「これからなればいいんだよ。今回の練習頑張って、ダンス部とのステージを誰よりも楽しめば、低野瀬先生も認めてくれるんじゃない?」
ゆうと「(笑いながら)本当、かおりってポジティブでいいよな。子供みたいで。」
  かおり、ムッとした表情になる。
かおり「はっ?バカにしてんの?こっちは真剣に話してんのに!」
ゆうと「いやいやごめんごめん、かおりのそういうとこ、好きだよ。」
かおり「バ、バカじゃないの!(一瞬で顔が赤くなる。)」
ゆうと「え⁉︎そういう意味じゃないよ?何本気にしてんの?」
かおり「もう!」
  その後、お互いの顔を見合わせて、二人は笑う。


●長野県某所のスタジオ
  ダンス部は吹奏楽部との合同ステージ以外の曲を必死に練習している。音楽が鳴り響く。
部員1「あ、ここ間違えた!」
ともこ「なんか違う!もう一回できない?」
部員2「分かりました!もう一回やりましょう。」
部員3「あたしも、頑張ります!」
みゆ「よし、後もう一回いくよ!最初っからね!」
部員「はーい!」

ナレーター「合宿中、厳しい練習の中でも、素直なダンス部のみんなは一生懸命練習に励み、少しずつ形を作り上げていった。みゆもそんな部員から刺激を受けて、部屋に戻ってからも練習し、自分の踊りに納得できるようになってきた。そして、帰る前の日夕方には大体の曲が揃うようになった。」

  みゆ、上機嫌で言う。
みゆ「かなり出来てきたじゃん!最初はどうなることかと思ったけど、この調子だとなんとか間に合いそうだね。」
部員5「でも、吹部とのやつがまだですよね、いつから合同練習できるんですか?」
みゆ「うん、あともうちょいでできると思うんだけど…」
  真野辺が入ってくる。
真野辺「どう?なんか様子見てたら、みんな結構できてきたみたいね。」
みゆ「は、はい。なんとか形にはなりました。」
  それを聞いた真野辺は満足そうに言う。
真野辺「じゃあみんな!帰ったら吹部と一緒に合同練習やるよ!」
みゆ「は、はい!」
  ダンス部のみんな、嬉しそうに笑う。
みゆの心の声(やったー!ついに西野くんと一緒に練習出来るんだー!頑張るぞ!)
真野辺「本当に大変だったけど、合宿お疲れ様。帰ったら吹奏楽部との日程を合わせて、合同での練習を開始します!本番を想定してやるのよ。場所は体育館になるだろうから冷房もなくて暑いと思うけど、残りの期間も少ないので、文化祭に向けて全力で頑張ろう!」
部員「はい!」
  部員の元気な返事が響く。


●合宿最終日の夜、みゆとともこの部屋。
  皆が寝静まったが、みゆとともこだけが起きていて、二人で話している。
ともこ「なんとか乗り切ったね。」
みゆ「うん。いや良かった。本当にみんなのおかげだよ。部員のみんなもそうだし、真野辺先生、あん先輩、誰より、ともこが頑張ってくれたから…」
ともこ「ちょっとやめてよ!泣いちゃうじゃん。」
みゆ「ダメだよ。ここで泣いちゃ。その涙は本番に取っておいて。」
ともこ「うん、わかった。」
  沈黙が続く
みゆ「ねえ、ともこ?」
ともこ「なに?」
  二人の顔が近づく。
みゆ「トイレ行ってきます!」
ともこ「おい!このタイミング⁉︎」
みゆ「だって寝る前行けなかったんだもん。」
  ともこ、ため息をつく。

  みゆ、トイレに行くため、廊下に出る。すると、どこかから泣き声が聞こえる。みゆは泣き声の方に歩いていく。すると一つの部屋にあかりがついていて、その部屋から泣き声が聞こえていることに気づく。
みゆは恐る恐るそのドアの前に近づき、こっそりとその部屋を覗き見る。

  中では、あんが号泣していて、真野辺が慰めている。

あん「先生、私もうダメなんです。もう踊れないんです!」
真野辺「そんなことない、あなたはまだやれるわ!」
あん「無理なんです!もう、死にたい。」

  みゆ、それを見て衝撃を受け、一目散にその場から逃げる。



ナレーター
「合宿であんの涙を見てしまったみゆは、そのことを誰にも打ち明けられず、一人で悩んでいた。それに加えて、合同練習が全く上手くいかない。CDの音源と、実際の演奏ではテンポもリズム感も全く違う。そして本番が近くなるにつれ、プレッシャーも大きくなる。ゆうとの言っていたように、ダンス部の公演は一番最後で、毎年のように最優秀団体賞を受賞している。これまで道を繋いで来てくれた先輩たちのためにも、これから頑張ってもらう後輩たちのためにも、この文化祭はなんとしても成功させたい。しかし今の状態ではとても本番は成功しない。焦れば焦るほど、不安に押し潰されそうになり、日に日にみゆは追い詰められていった。」


●体育館
  SMAPの「SHAKE」を吹奏楽部が演奏し、部員全員が踊っている。
  あん、真野辺がみんなの踊りを見ている。
  部員はみな疲れている様子で、表情が暗い。
みゆ「もう!また間違えてる!ここ何回やってると思ってんの!こんなんじゃ本番間に合わないよ!」
一年部員「すみません。」
あん「みゆ、そんなに怒んないの。みんなだってサボってる訳じゃないんだし。」
みゆ「だって、この合同ステージ、まだ半分もできてないんですよ!今の状態だと、全体通すなんて程遠いですよ!」
あん「焦らない!(ピシャリと言う)」
みゆ「…(何も言い返せない)」
あん「みんなも、これだけは言っとくけど、焦ってもろくなことないからね。確かに今の状態はあんまり良くない。でもみんな、よく考えて。今日が本番って訳じゃないでしょ?だからもっと楽観的に考えようよ。それから、みゆ。賞を取ることにこだわり過ぎ。君は賞を取るためにダンスしてるの?(厳しい目で)」
みゆ「違います。」
あん「確かに私たちは賞をいただいたこともあったけど、自分たちから賞を意識したことは一回もない。私たちは単純に表現したいんでしょ、ダンスという手段で。みんなその表現を楽しもうよ。全力で私たちが楽しめば、見てくれる方々にも伝わるし、自然と賞だってついてくるもんだよ。」
みゆ「(少し間があって)分かりました。」
あん「よし、じゃあくだらないお説教はこれでおしまい!あー暑い!喉渇いたからみんな休憩しよ!」
一年部員「はーい!」
あん「吹奏楽部のみんなも、ちゃんと水分補給してね。さっきはごめんね。ウチらのせいで。」
ゆうと「いえいえ、大丈夫です。」
かおり「私たちは何回でも付き合いますから!」
あん「ありがと…」
みゆ、体育館を出て行こうとするあんに駆け寄る。
みゆ「あん先輩。」
あん「ん?なに?」
みゆ「この練習が終わったら、ちょっと残っててくれませんか?」
あん「え?別にいいけど。」


●学校からの帰り道

かおり「今日も顧問の先生来てくれなかったね。あとちょっとなのに。」
ゆうと「あんな奴、教師失格だよ。いてもいなくても一緒だ。」
かおり「私、真野辺先生に相談しちゃった。先生が全然来てくれなくて困ります。部長も困ってますって。」
ゆうと「え⁉︎そんなこと言ったのか!」
かおり「だってゆうとがかなり悩んでるみたいだったから。」
ゆうと「ありがとう。それで、なんて言ってた?真野辺先生。」
かおり「カンカンに怒ってた。」
ゆうと「まあ…だろうな。」
かおり「次回は絶対来させる!だってさ。」
ゆうと「真野辺先生は本当に熱いからな。生徒のためならなんでもします!って感じの。中二病の時はああいう先生大嫌いだったけど、今では本当にありがたい先生だよ。でもまあ、熱弁したところで今の吹部の顧問に響くかはちょっとわかんないな。」
かおり「確かにね。私も、真野辺先生大好き。怒ったら怖いけど、ついて行きたくなるもんね!」
ゆうと「うん。」
真野辺「でも今日はなんか、ダンス部ちょっと大変そうだったよね。」
ゆうと「そりゃそうだろ。俺らよりずっと曲目も多いし、人数も多いからまとめるのはもの凄く大変だと思うよ。」
かおり「あん先輩は、踊らないのかな?」
ゆうと「いや、さすがに踊らないでしょ。手伝いで来てるんだから。」
かおり「なんか、あの先輩って表向きではすごく明るいんだけど、どこかちょっとだけ影がある感じがしない?」
ゆうと「確かに。なんかあんな踊り上手いって言ってた割には、あんま踊らないし、面白いこと言ったと思ったら、急に暗い表情になるしなぁ。」
かおり「いや、でも踊りが上手いのは確かだよ。私がニ年前の文化祭の時に、あの先輩踊ってたもん。私ダンスのこととか全然わかんないけど、明らかに周りの人とは違ってた。」
ゆうと「確か、プロ目指してるとか言ってたな…だとしたらなんでそれで暗くなるんだろ。」
かおり「やっぱり、色々大変なんじゃない?部活でやるのと、職業にするのじゃ全然違うだろうし…」
ゆうと「かおりって、将来の夢とかある?」
かおり「音楽の先生。」
ゆうと「もう決まってるのか…先生って、真野辺先生みたいな?」
かおり「いやいや、私はそういうタイプじゃないでしょ。小学校の時の先生が、すごくいい先生でさ。私、昔からすごい歌が下手で…音楽なんてずっと嫌いだったんだけど、その先生が楽器のこと色々教えてくれたの。そのおかげで、今では音楽なしの人生なんて考えられなくなっちゃった。その先生みたいに、生徒の得意なことを見つけてあげる先生になりたいな。」
ゆうと「すごい、いい話だな。」
かおり「ゆうとは将来の夢、まだ決まってないの?」
ゆうと「俺はまだだな。昔から親には勉強しろしか言われてこなかったし、何かやりたいこと、か…(考える)俺そういう情熱みたいなのないんだよね。」
かおり「じゃあなんで、ずっと吹奏楽部続けてきたの?」
ゆうと「なんで…なんでかな?三歳の時にピアノ習って、それからずっとだもんな。自分でもなんで続けてきたのかわかんないや。」
かおり「好きなんだよ。」
ゆうと「えっ⁉︎(驚いた表情で)」
かおり「ゆうとって、言葉に出して「好き」とかあんまり言わないじゃん。でも気付いてないだけで、結構身近にあるんじゃない?好きなものも、好きな人も…」
  ゆうと、考え込む。
かおり「じゃあね。私これから塾だから。」
  かおり、走り去る。
ゆうと「あ、ああ。じゃあね…って。あれ?」
  かおりは目の前から消えている。
  ゆうと、そのまま立ち止まって少し考え、また歩き出す。


●体育館舞台上(練習後)
  練習後、ダンス部、吹奏楽部の部員は全員帰宅し、体育館には、みゆとあんだけが残っている。
  みゆ、窓に写る自分の姿を見つめている。あん、そんなみゆを後ろからみている。
みゆ「あん先輩」
あん「ん?」
みゆ「さっきは、すみませんでした。」
あん「みゆらしくないよ。ずいぶん追い詰められてんだね。」
みゆ「私、もうどうしたらいいかわかんなくて…」
あん「そんなに心配しなくても、フリはちょっとあれだけど、本番までにはなんとかなると思うよ。」
みゆ「ダメなんです!そんなんじゃ!」
  みゆが叫び、あん、驚いた表情になる。
みゆ「私、あん先輩に憧れてこの高校に入ったんです。私が中三の時、この学校の文化祭に来て、そこには、もうその時ニ年生で、部長さんとして活躍してるあん先輩がいました。そう、ここです。体育館のこのステージの一番前で、一番目立って踊ってましたよね。」
あん「(笑いながら)はっは、そんな若い時もあったな。」
みゆ「それを見たときは本当に、びっくりしました。今まで自分たちがやってきたような、音楽に合わせて踊ってるって感じじゃなかったんです。あん先輩の踊りに合わせて、音楽がなってるって感じがしました。踊りを中心に全てが回ってるって感じで。」
あん「そんな、大げさだって。」
みゆ「いや、大げさじゃないです。それで私もこんな風に踊れたらどんなに気持ちいいだろう、こんな風になりたいと思って…でも、今の私は、最低です。後輩にはついつい大声出しちゃうし。」
  みゆ、涙目になり、下を向く。あんは後ろで腕を組んで黙って聞いている。
みゆ「それも、後輩が悪いわけじゃないんです。私なんです。私が思ったように出来なくて、イライラしちゃって…自分が一番わかってるんです。だから、必ず怒った後に後悔するんです、(ああ、また言っちゃった)って。私はあの時のあん先輩とは正反対の、そんな…ダメな部長なんです。私のことなんて、みんな嫌いなんじゃないかな…」
あん「それは違うよ。(はっきりと言う)」
みゆ「え?(あんの方を振り返りながら)」
あん「違う。そんなことない。みゆはみんなから好かれてるし、先生からも信頼されてる。今日ともこちゃん心配してたよ。"みゆは一人で背負い込んじゃう性格だから、励まして下さい"って。」
みゆ「え、あの子、そんなこと言ってたんですか?」
あん「言ってたよ。私も、ともこちゃんと同じ。みゆって、みんなのためにいつも明るく振る舞ってるけど、人間だし、いつも明るいなんてありえないじゃん。落ち込んだところも見せていいんじゃないかな。そうすれば後輩たちも、もっと本当のみゆがわかるし、安心すると思うよ。」
みゆ「はい。」
あん「みゆはもっと自分を愛さないとダメだよ。私と違って、あなたは…誰よりもかがやいてるんだから…」
みゆ「ありがとうございます。憧れの先輩にそう言ってもらえると、嬉しいです。」
あん「いやいや、こっちも頼ってくれると嬉しいよ。」
みゆ「ところであん先輩。(急に強い目であんを見つめる)」
あん「ん?な、なに?どうしたの、そんな怖い顔して。」
みゆ「先輩は悩みとかってないんですか?」
  あん、みゆから目をそらし、窓の方を見る。
あん「え!私?な、悩み、なんて…ないよ。(動揺した表情で)」
みゆ「嘘つき。(小さな声で)」
あん「え?」
みゆ「嘘つき!(叫ぶ)」
  あん、視線を下に落とし、涙ぐむ。
みゆ「なんで!なんでそうやって嘘つくんですか?なんで私たちの前だけ、平気なフリするんですか?私合宿の時に見ました!私たちが寝たあと、先生の前で先輩が泣いてるの。今までで一番弱そうな先輩でした。私それ見た時、すごくショックでした。先輩が弱そうだったからじゃありません。先輩が本当は辛いのに、私たちに隠して、正直に相談してくれなかったことが、すごくショックでした。なんで弱い先輩を見せてくれなかったんですか?いっつも私の心配してくれるけど、一番一人で抱え込んで、一番自分を愛せてないのは…先輩じゃないですか!」
  あん、壁に手をつき、号泣する。
あん「ごめん。ごめん…ごめんね…」
  みゆ、泣きながら続ける。
みゆ「先輩さっきの練習の時、言ってましたよね、ダンスを楽しもうって。」
あん「うん…」
みゆ「先輩はダンス楽しめてますか?今。」
  あん、俯いたまま口を開く。
あん「今は…正直、あんまり楽しめてない…かな。私、プロになるって胸張ってこの学校卒業したくせに、現実は厳しくてさ。いくらこの学校で上手いって言ってもらっても、プロの世界じゃ全然通用しないレベルなんだよね。そりゃそうだよ、向こうはダンスに全てをかけてきた、とんでもない人たちがゴロゴロいるんだもん。どんなに頑張っても怒られてばっかりだしさ。正直最近、自分がなんのために踊ってるのかわかんなくなって…あの時みたいな楽しさは消えちゃったな…」
みゆ「先輩。文化祭の本番、私たちと一緒に、ステージに立ちませんか?」
あん「えっ?」
  みゆ、あんの手を握る。
みゆ「だから!文化祭の私たちのステージで、一緒に踊りませんかって言ってるんです。先輩だって今回のフリ、覚えてくれてますよね?二年前の、あの私が見た時の一番楽しそうに踊ってた先輩のダンス、またここで見せてください!」
あん「そんな…私はもう卒業しちゃってるし…」
  みゆ、あんの手をさらに強く握る。目に涙をため、首を何度も横に振って頭を下げる。
みゆ「お願いします!私たちのためにも、先輩のためにも!(涙声で)」
  あん、頭を下げているみゆを見つめる。
あん「(考えて込んだ末に)わかった。私、また踊ります!」
  みゆ、頭を上げて、笑う。
みゆ「やったー!これで決まりですね!もう言っちゃいましたからね。後戻りはできませんよ。男とあん先輩に二言はないですからね!」
あん「ちょっと、なんで私が男と一緒になってんのよ!」

  二人は、お互いの顔を見合わせ、まだ涙の残った顔で笑う。


●真野辺の自宅

  真野辺、現吹奏楽部顧問に電話をかけている。

真野辺「あーもしもし。真野辺ですけど。」
現吹部顧問「ああ!ご無沙汰しております。」
真野辺「今度の合同ステージの件ですが、こちら側で勝手に進めさせてもらっております。なにも相談も無しに、申し訳ございません。」
現吹部顧問「いえいえ。すみません、こちらこそご迷惑ばかりかけてしまって。」
真野辺「先生、一つお願いがあります。」
現吹部顧問「へっ?な、なんでしょうか?」
真野辺「あの子たちの練習風景、見てあげてくれませんか。みんな頑張ってますから。」
現吹部顧問「あーすみません。お気持ちは分かりますが、こちらも何かと忙しくてですね…」 
真野辺「忙しいのは私も同じです!」
  真野辺、電話越しに大声で叫ぶ。
現吹部顧問「ちょっと、いきなり何ですか⁉︎びっくりするじゃないですか…先生、そんなにお熱くならないでくださいよ。」
真野辺「あの子たちがどんな思いでステージを作ってるか、わかってるんですか⁉︎先生はもちろん。保護者の方、これからこの学校入ってくれるかもしてない後輩たちに向けて、みんな忙しい中、必死になって頑張ってます!失礼なのは承知で、この際はっきりと言わせていたただきますが、はっきり言って今の先生は…顧問失格…いや教師失格です!」
現吹部顧問「本当に失礼ですね。私があなたにそんなこと言われる筋合いはありません。典型的な熱血教師…一つの学校に二、三人はいらっしゃいますよね、先生みたいな方。生徒から嫌われてませんか?」
真野辺「嫌われてません!」
現吹部顧問「(嘲笑して)熱血な先生ほど、そうおっしゃるんですよね。いいですか。では私にも言わせてください。私たち教師というのは、色々してあげられるようで、結局無力なんですよ。いろいろ介入したって、煙たがられるだけでね。保護者の方にもなんて言われるかわからないし。結局彼らの好きにやらせてあげるのが一番ですよ、ね?それが一番でしょ?先生。」
  真野辺、携帯電話を握りしめ、唇を震わせる。そして、大声で叫ぶ。
真野辺「生徒の自由を尊重することと、ただの無関心は全く違います!」
  現吹部顧問、あまりの迫力に言葉を失う。
  真野辺、深く息を吸う。
真野辺「先生、今一度お願い致します。一度あの子たちの練習を見て下さい。そして、感じたことを素直に生徒に伝えてあげて下さい。あの練習を見て、なにも感じないのであれば、もう一度申し上げますが、あなたは教師失格です。これ以上先生とお話することはございません。失礼します!」
現吹部顧問「あっあの…」
  真野辺、電話を無理矢理切る。

真野辺の心の声(あーあ。また言っちゃった。これでまた次の職員会議、出づらくなるなあ。まあいっか。あっ、あの人にもかけておかないと。)

  真野辺、元吹奏楽部顧問、低野瀬に電話をかける。
低野瀬「はい、低野瀬です。」
真野辺「お久しぶり、真野辺です。先生、いきなりで申し訳ないんだけど、ちょっとお願いがあるの、いい?」
低野瀬「ああ、僕にできることだったら。」
真野辺「九月十三日の土曜日って、空いてるかな?」
低野瀬「ちょっと、どうしたんだよ。僕は既婚者だよ。」
真野辺「(大笑いして)なに言ってんのー!お誘いじゃないわよ。その日に私たちの学校の文化祭があってさ。」
低野瀬「文化祭?ああそうか(笑いながら)そっちの学校は早いもんな。こっちはまだニか月先だから。あいつら、真面目に練習してるかな?僕がいなくなってから、多分どんどん部員減っちゃってるだろ。」
真野辺「それが、あまりにも減っちゃったもんだから、西野くんが、今年からダンス部との合同ステージをやらせてくれって頼んで来て。」
低野瀬「へぇー!すごい!まあ、クリエイティブな奴だからな、ゆうとは。」
真野辺「本当よ。だから吹奏楽部は今年も大活躍だと思ったんだけど、顧問の先生が本当に酷くて…練習には来ないし、生徒とは関わろうとしないし、最低教師なのよ!」
低野瀬「(笑いながら)今どきあんたみたいな教師の方が稀だよ。まあ、そういうのも嫌いじゃないけどね。でも、変な波風立てない方がいいんじゃない?」
真野辺「ごめん。その先生にさっき電話で、大声で怒鳴っちゃった…」
低野瀬「あ、もう止めても遅かったか…」
真野辺「気づいた時にはもう抑えられなくて。とにかくそんな状態の中、本当に頑張って練習してくれてるから、本番のステージ、見に来てくれない?」
  少し間が空いて、低野瀬が答える。
低野瀬「断る。」
真野辺「えっ、何で?」
低野瀬「そんな状態で行ったら、僕のこと思い出して、あいつらが辛くなるだけだろ。いくらその時だけ喜んでも、またそっちに戻れるわけじゃない。帰らなきゃいけないんだ。だからあいつらのためにも、行かない方がいい。」
真野辺「それ、先生が辛いからじゃないの?」
低野瀬「(笑いながら)まあ、正直それもある。」
真野辺「わかった。じゃあ判断は任せるわ。でも、私は先生が来てくれるって信じてるから、お願いします。夜分にすみませんね。おやすみなさい。」
低野瀬「おやすみなさい。」
  電話を切る。

真野辺の心の声(あーあ、なんか私、最近お願いしてばっかりだな…でもあの子たちのためだ、頑張らないと!)


ナレーター「こうして、あんも本番のステージに立つことになり、メンバーはとても喜んだ。それからも何度もつまづきながらも練習に励み、とうとう全曲を完成させた。そして気がつけば、ダンス部・吹奏楽部で共に駆け抜けてた練習期間も、もう終わり。日付は本番前日になっていた。」


●体育館(本番前日) 
  最後の練習前に、ダンス部と吹奏楽部が話している。
みゆ「ついに明日か。」
ともこ「頑張ってきたよね、ウチら。」
ゆうと「今日は全体通すぞ!」
かおり「よし、最後の練習だから、みんな頑張りましょ!」
  そこに、真野辺が入ってきた。
真野辺「みんな、お疲れ!」
ダンス部・吹奏楽部「こんにちは!」
真野辺「ついに最後の練習になったわね。本当に大変なことだらけだったけど、今日はもう一人、ゲストを呼んでるわ、けどこの人のことは構わないで、いつも通り練習してもらって構わないから。」
  部員全員、何のことがわからず、困惑している。
真野辺「じゃ、すみませーん。入ってきて下さい。」
  するとそこには、全く練習に来なかった現吹奏楽部顧問が立っている。
  ゆうと、すぐに目をそらす。
真野辺「じゃ!今日は予行練習だから、全曲通しで行くよ!楽しんでこ!」
部員全員「はい!」

ナレーター「こうして、体育館の端に現れた現吹部顧問を完全に無視して、ダンス部の一曲目から最後の合同ステージまでの全ての曲目を完璧にこなした。そして最後には、今まで一度も練習を見たことがなかったお飾り顧問を泣かせ、その凄さを見せつけた。それと同時に、その顧問は、自分がこれまで生徒にしてきたことに対し、後悔の念に駆られた。」

  現吹部顧問を無視して、部員が出て行こうとする中、現顧問は声を振り絞る。

現吹部顧問「み、みんな、ちょっと待ってくれ!いや、待って下さい!」
  部員、冷たい目で振り返る。
現吹部顧問「皆さんに、謝らせて下さい。こんなに一生懸命やってるなんて知らなくて、本当に、本当に申し訳なく思っています。すみませんでした!」
  現吹部顧問、深々と頭を下げる。
  部員、唖然としている。
現吹部顧問「こんなとこで謝ったって、許してもらえるとは思ってません。だけど、このステージを見てしまったら、もう申し訳なくて、自分が情けなくて…(涙目になる。)私は、教師失格です。許して下さい!」
  皆が黙っている中、ゆうとが顧問の所まで駆け寄る。
  真野辺もその様子を見守っている。
ゆうと「先生、頭を上げて頂けませんか。」
  顧問、恐る恐る頭を上げる。
ゆうと「許すには、一つだけ条件があります。これを飲んでくれたら、許します。」
現吹部顧問「な、何でしょうか?」
ゆうと「明日の僕らのステージ、誰よりも大きな声で応援して下さい。そうすればこれまでのことは全て許します。よろしくお願いします。」

  ゆうと、そう言い放って体育館から出て行く。

●職員室
  最後の練習後、職員室では真野辺と現吹部顧問が話している。

現吹部顧問「いや、もう言葉には言い表せないくらいすごいステージでした。」
真野辺「顧問の先生いない間もこの子たち、必死にここまで作り上げたんですよ。」
現吹部顧問「私が全て間違えていました。これまでは生徒に干渉したり、我々教師が本気になるのは間違いだと思ってました。」
真野辺「まあ、私は私で少しやり過ぎかもしれないですけど、こっちが本気になれば、生徒は必ず応えてくれます。逆に我々教師が一度諦めてしまうと、生徒の士気も一気に下がってしまうと思うんです。」
現吹部顧問「そうなんですよね、だから私どこの学校でも生徒に嫌われて…余計に生徒関わるのが怖くなって。その悪循環でした。」
真野辺「ゆうとくんが言っていたように、明日の本番、誰よりも声出して下さいね。」
現吹部顧問「はい!必ず、誰よりも全力で応援します!本当に、こんな私を変えていただき、ありがとうございました。」
真野辺「先生を変えたのは、私ではありません。」
現吹部顧問「え?」
真野辺「あの子たちです。お礼も、私にではなく、生徒たちにお願いします。では、失礼。」

  真野辺、そう言い放って職員室から出て行く。


●文化祭当日

  文化祭当日、吹奏楽部ダンス部はエンジンを組んでいる。
  ゆうととみゆが掛け声をかける。
みゆ「みんな、これまでやってきたこと、全部出し切ろうね!」
ゆうと「全力で楽しもう!」
ダンス部・吹奏楽部「オー!」
  真野辺、現吹部顧問が遠くからその様子を見守っている。
  開演直前、現吹部顧問は客席の1番前の真ん中に座り、カメラを回す。
真野辺、部員一人ひとりに声をかけていく。
真野辺「ともこ、緊張してるの?あんまり顔色よくないよ。」
ともこ「少しだけ緊張してますけど…大丈夫です!」
真野辺「これまで散々練習してきたんだから、自信持ちなさい。ゆうとくんは、大丈夫?」
ゆうと「問題ないです。」
真野辺「はは、そうだよね。部長だもんね。坂下さんは?緊張してない?」
かおり「私も、今までたくさん練習してきたので、今日それを全部出し切りたいと思います!」
真野辺「頑張ってね。それから、あん。急に出ることになったけど、いつも通りの踊りを見せてくれればいいから。」
あん「分かりました。今回は初心に戻って全力で踊り切ります!」
真野辺「大丈夫!あなたならできる!あれ?みゆは?」
  真野辺が呼んだその時、みゆが急いで体育館に入ってくる。
みゆ「すみませーん。先輩と写真撮ってて!」
真野辺「みゆ!本当に心配させないで!あんたがいないと何も成り立たないんだから。全くもう、この様子じゃ、全然緊張してないな?」
  みんなが笑う。
みゆ「はい!私、このステージを最後まで楽しみます!先生、見ててください!」
真野辺「期待してるわよ!」
  前の公演が終わる。
スタッフ「では、ダンス部と、吹奏楽部の皆さん、スタンバイお願いします!」
みゆ「はーい!」
真野辺「頑張ってねー!それじゃ私は、客席に降りてるから。」
みゆ「分かりました。行ってきます。」

  真野辺、舞台から降り、客席へと向かう。たくさんの観客が入っている。すると、出口付近に見覚えのある人影が見えた。色白、細身、メガネの男性。
真野辺の心の声(低野瀬先生だ!やっぱり来てくれたんだ!)
  真野辺、たくさんの人をかき分け、後ろに行く。
真野辺「低野瀬先生!」
低野瀬「シー!」
  低野瀬、人の影に隠れようとする。
真野辺「どうしたんですか?前で見ようよ!」
低野瀬「いや、僕はここでいい。僕が来たこと、みんなには言わないでもらない?あいつらのために。」
真野辺「先生のためでしょ。わかりました。でも、しっかりと見てて下さいね!瞬き禁止ですよ!」

  開始のブザーがなる。

司会者「では、最後の発表になります。項目は、ダンス部の皆さんのステージ続き、吹奏楽部のステージ。そして最後はスペシャルコラボステージです!この日のために、たくさんの練習を積んできました。全員、盛り上がっていきましょう!」

  幕が上がる。

●公演中の体育館 

  ダンス部、音楽に合わせて楽しそうに踊っている。吹部、リズムに乗って楽しそうに演奏している。
  体育館全体に、大きな手拍子や大歓声が響きわたる。
  真野辺、泣いている。
  現吹部顧問、ほかの観客に負けないよう、メガホンを取り出し、一番大声で叫んでいる。
  音楽が鳴り響く。
♪シェイクシェイクブギーな胸騒ぎ、チョベリベリ最高ピッピハッピシェイク♪
  低野瀬、最後列でつぶやく。
低野瀬「みんな、成長したな。」
  低野瀬、泣きながらゆっくりと体育館を出て行く。

●閉会式
  閉会式、三年生の劇の各賞、学年の最優秀賞、個人賞などが発表される。そして…
司会者「今年の文化祭の、最優秀団体賞は…」
  太鼓の音が鳴り、シンバルが鳴る。

司会者「ダンス部・吹奏楽部です。」
みゆ「うっしゃー!」
  部員、全員舞い上がり、高く拳を突き上げる。

  壇上に、ゆうととみゆが上がる。
校長「貴殿は第三五五回文化祭に於いて、頭書の成績を修められましたので、その栄誉を讃えここに表彰します。令和三〇〇年九月一三日。校長、海發真一。おめでとう。」
  みゆ、ゆうと、賞状を受け取る。
  拍手が鳴り響く。


●音楽室(文化祭祭終了後)
  楽器を元に戻し、誰もいない音楽室に、ゆうととかおりがいる。
かおり「いや本当、文化祭大成功だったね。最優秀団体賞おめでとう!」
ゆうと「いやいや、俺の力じゃないよ。みんなが支えてくれたからだよ。」
かおり「いやいや、ゆうとが頑張っだからだって。もう私の耳に入ってきたんだけど、あのステージを見てあまりに感動したから、この学校受験して吹部に入りたいって言ってる中学生がたくさんいるみたいよ。」
ゆうと「それはありがたいな。やっぱダンス部とやると宣伝効果抜群だったか。もちろん賞も嬉しいけど、俺はそっちの方が断然嬉しいな。」
かおり「今の顧問の先生、めちゃくちゃ応援頑張ってくれてたね。」
ゆうと「さっきお願いされたよ。"改心して一生懸命やるから、顧問やらせて下さい!僕にも楽器教えて下さい!"って。」
かおり「オッケーしたの?」
ゆうと「そりゃもちろん。今度は本気になってくれたから。それに、仮にこれからいくら部員が増えても、顧問の先生がいない部活はまずいだろ。」
かおり「確かにね。」
ゆうと「ところで今日、気のせいかもしれないけど、なんか低野瀬先生が見に来てるような感じしなかった?」
かおり「ああ、確かに。私もあの人にどっかで見られてるような気がした…」
ゆうと「本当に来てたりして。」
かおり「まあ、仮に来てても、今日のステージを見られる分には全然恥ずかしくないからいいけどね。」
ゆうと「今なら自信持って言えるよね、”俺たち、成長しました!”って。」
ゆうと、窓の外を見る。
ゆうと「今日、俺気づいちゃったんだ。」
かおり「何を?」
ゆうと「やっぱり俺、ステージが好きだ。前かおりが言ってたように、俺って言葉に出さないから、自分でも本当に好きなものがわかんなくなってたけど、今日改めて、ステージに立つってこんなにも楽しいのかって、感動したんだ。だから俺、プロの奏者になる。」
かおり「え⁉︎いきなりどうしたの⁉︎」
ゆうと「もう決めたんだ。だから大学は音大目指して、将来はウィーンに行こうと思ってる。」
かおり「そ、それは、応援してるよ…頑張ってね…」
  沈黙がしばらく続く。
ゆうと「あともう一つ、今日気づいたことがあるんだ。」
かおり「な、なに?」
ゆうと「俺、かおりのことが好きだ。」
かおり「は⁉︎」
  ゆうと、かおりを抱きしめる。
かおり「な、なに⁉︎ちょっ!」
ゆうと「(抱きしめながら)こんなに俺が本音でなんでも言えるのはかおりだけなんだ。かおりがいなかったら、今回のステージも成功させられなかった。いなくちゃダメなんだ。だから…俺と、付き合ってほしい。」
  かおり、泣き出す。
かおり「私もウィーンに行かなきゃだめ?」
ゆうと「できれば来て欲しい…いや、絶対来てくれ。」
かおり「わかった。ついてくよ。私も…ゆうとが世界で一番好き。いなかったらだめ。ゆうとと一緒なら、どこまでも行くよ!」
ゆうと「ありがとう。」
  二人、抱き合う。

●ゴンチャ(文化祭終了後)

ともこ「打ち上げまでゴンチャってどういうこと?」
みゆ「しょうがないでしょ。今金欠なんだから。」
ともこ「でも今日は本当最高だった。練習は本当辛かったけど、今日のステージは今までで一番楽しかった!」
みゆ「私もだよ。あん先輩も今日のステージで昔のあの感覚取り戻したんだって。」
ともこ「あん先輩、一番張り切って踊ってたもんね。」
みゆ「まだまだ諦めずに、プロ目指して頑張るみたいよ。」
ともこ「いやーすごい。頑張ってほしいね!」
みゆ「プロになったら、絶対先輩のステージ見に行こうね!」
ともこ「うん!」
みゆ「ねえ、それはそうと…ともこ。あの時の話の続きだけど…」
ともこ「なに?」
みゆ「結局ともこの好きな人ってだれなの?」
ともこ「えっあっ、そ、それは…」
みゆ「もういい加減言ってくれてもいいよね。忘れてないからね、文化祭が終わったら言うって約束。なんだっけ?"面白くて、優しくて、明るい人"だったっけ?」
  沈黙が続いた後、ともこは俯きながら、口を開く。
ともこ「みゆだよ。」
  みゆ、状況が飲み込めず、唖然とする。
みゆ「はっ⁉︎ど、どういうこと?」
  ともこ、顔を上げ、みゆの方を見る。
ともこ「だから、もう、なんでわかんないの?もう言います。私は女子だけど、恋愛対象として、あなたが好きです!」
みゆ「えっ?えーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
  店内中の人々が二人を振り向く。

●真野辺自宅

  真野辺が低野瀬と電話で話している。
真野辺「生徒たちに一言でも声かけてあげればよかったのに。」
低野瀬「いやいや。あれでいいんだ。一目見れただけでも。」
真野辺「本当素直じゃないんだから。」
低野瀬「でも本当凄かったな。僕がいた時と比べのものにならないくらいあいつら成長してた。真野辺先生、お疲れ様。」
真野辺「いやいや、やめてよ。私は何もやってないから。あの子たちが頑張ったのよ。」
低野瀬「いやいや、先生も含めたみんなが頑張ったから、あのステージになったんだ。ありがとう。あんなに凄いもの見せてくれて。」
真野辺「だからそれはあの子たちに言ってよ。」
  低野瀬、苦笑する。
低野瀬「僕、教員辞めるよ。」
  真野辺、驚いた顔になる。
真野辺「え⁉︎そ、そんないきなり。大丈夫なの?お子さんもいるのに。」
低野瀬「いや、フリーでやる訳じゃなくて、前から知り合いの会社で、作曲やってみないかって誘われてたんだ。これまで迷ってたけど、今日のあいつらのステージ見て、決心した。自分にもまだできることがあるんじゃないか、ってさ。」
真野辺「今日のみんなのステージが、先生の人生を変えたって訳ね。」
低野瀬「はっは。まあ、そういうことになるかな。」
真野辺「先生が決めたことなら、応援してるわ。私は教員以外できることなんてないから、現場に残る。大変な事もたくさんあると思うけど、お互い頑張りましょうね!」
低野瀬「ああ、頑張ろう!」
ナレーター「こうして、彼らの夏は幕を閉じた。しかし、戦いは終わった訳ではない。明日からまた新しい戦いが始まる。彼らは奮闘し続けるのだ。何度失敗しても、困難に立ち向かうのだ。またいつか立つであろう、新たな「STAGE」へと向かって…」
                 終

劇中歌 「SHAKE」
          詞/森 浩美
          曲/小森田 実

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