凌霄花の咲む道を ドラマ

喧嘩中の孫と祖父の仲直りまでの凌霄花が咲む或る夏の話。
Joe 10 0 0 04/07
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第一稿

登場人物

四方木 霄(24)…ヨモギ ショウ。社会人。
菱田 百合華(21)…ヒシダ ユリカ。音大生。霄の従姉妹。
津田 眞奈(24)…ツダ マナ。社会人。霄の彼女。
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登場人物

四方木 霄(24)…ヨモギ ショウ。社会人。
菱田 百合華(21)…ヒシダ ユリカ。音大生。霄の従姉妹。
津田 眞奈(24)…ツダ マナ。社会人。霄の彼女。
櫻井 芙美(69)…サクライ フミ。霄と百合華の祖母。
櫻井 桐彦(77)…サクライ キリヒコ。霄と百合華の祖父。

1.○霄の家・昼
  ワンルームの部屋に、高く咲く立葵の隙間からの日差しがカーテン越しで入る。
  テレビは朝のニュース番組がやっている。
  眞奈(24)、ベッドで眠る霄(24)を起こす。
眞奈「霄くん、そろそろ起きて」
  霄、深く毛布を被る。
眞奈「休みだからってずっと寝てないの!」
  眞奈、毛布を奪い取る。
霄「わぁったよ…。ったく」
  霄、起き上がり、スマホを見る。
母親の牡丹(50)から連絡が入っている。
スマホ画面【霄、今年の盆は帰ってくるの? 15日は爺ちゃんの誕生日だから今年も皆でお祝いするよ】
  霄、溜め息を吐き、画面をフリックする。
スマホ画面【爺ちゃんが謝るまで帰らん】
  霄、頭を掻き、送信せずに消す。
スマホをベッドに放る。
テレビでは木更津花火の特集をしている。
眞奈「霄くん。今年さ、これ絶対行こうね」
霄「(微笑んで)また言ってる」
眞奈「そんくらい行きたいの」
霄「これ日程いつだっけ」
眞奈「15日。何回も言ってるでしょ」
霄「あー…。そうだったっけ」
眞奈「何か予定あんの? 予定入れないでって言ったでしょ」
  眞奈、少し拗ねるように洗濯物を干す。
霄「あれ。眞奈、俺のスマホ知らん?」
眞奈「さっきベッドに投げてたよ」
霄「あー、そうだったっけ」
  霄、ベッドを漁る。スマホを取り出す。
スマホ画面【仕事があるから行けん】
  霄、母親に連絡を送る。
霄「眞奈」
眞奈「何?」
眞奈、少し拗ねた感じで振り返る。
  霄、スマホを投げ渡す。眞奈、捕る。
眞奈「投げないでよ。落としたらどうすんの」
霄「悪い悪い。それ見てみ」
眞奈、スマホを見る。花火の席の予約画面。S席2席。
眞奈「これ…! 買ってるなら言ってよ」
  眞奈、霄に抱き付く。
霄「悪いな」
眞奈「今日さ、浴衣買いに行こうよ」
霄「(微笑んで)了解」
  テレビでは回鍋肉特集が流れている。

2.○大型量販店・食品コーナー・夜・同日
  眞奈と共に買い物をしている霄。
  購入した浴衣を手に持つ霄。
眞奈「今日何食べたい?」
霄「あー、何でもいいな」
眞奈「それが一番困るんだけど」
霄「んー、…そうだなぁ」
百合華「私、回鍋肉がいいな!」
霄「え?」
  霄、振り返ると従姉妹の百合華(21)が回
鍋肉の素を買い物籠に入れる。
眞奈「百合華ちゃん! 久し振りだね〜」
霄「何でお前ここにいんだよ」
百合華「へへ。霄兄がいたから声掛けただけ」
霄「…またアパート追い出されたとか?」
百合華「(頭を掻いて笑って)へへ〜…」
  霄、百合華の頭を軽く叩く。
霄「お前に食わせる飯は無いからな」
百合華「えー、何でー?」
霄「何でもだ」
眞奈「いいよ。百合ちゃん来たら楽しいし」
霄「は? 眞奈、何言ってん…」
百合華「眞奈ちゃん流石! ありがとう!」
眞奈「その代わり皿洗いは頼んだぞ〜」
百合華「お安い御用です!」
眞奈「じゃあ、今日の夕飯は回鍋肉で良い?」
  霄、頭を軽く手で抑える。
霄「…あぁ」
百合華「やったー!」
眞奈「じゃあ、私買ってくるから、霄くんは
ベンチで百合ちゃんと待ってて」
霄「俺も付き合うよ」
  眞奈、霄の袖を軽く引っ張り耳打ちする。
眞奈「また百合ちゃんに3ヶ月も居座られるんじゃ迷惑だからアパート問題解決するように説得して」
霄「あ、あぁ。そう言うことね」
眞奈「よろしくね」
  眞奈、買い物籠を持ち、買い物を続ける。
  霄、百合華の腕を引っ張る。
霄「ほら、行くぞ」
百合華「霄兄引っ張んないでよー」
  霄、軽く溜め息を吐く。

3.○スーパー・出入口のベンチ・夜・同日
  ベンチに座る霄と百合華。
霄「百合華、お前に言いたい事がある」
百合華「何?」
霄「お前アパートの大家さんに言われてたよな。夜は楽器鳴らすなって。また破った
んか。近所と俺に迷惑が来るんだから」
百合華「嘘だよそんなの」
霄「は? 嘘ってどう言うこと」
百合華「(食い気味に)私も言いたい事ある」
  百合華、顔を霄の方に向け、目を合わす。
百合華「何で来ないの? 爺ちゃんの誕生日」
  霄、驚き、目線を逸らす。
霄「…爺ちゃんが謝んねぇからだよ」
百合華「…だと思った。ガキの喧嘩みたい」
霄「何だと? アレは爺ちゃんが」
百合華「(食い気味に)謝りたいって」
霄「…え?」
百合華「婆ちゃんも言ってた。爺ちゃん、霄兄にちゃんと謝りたいって」
霄「…また嘘って言うんだろ?」
  百合華、微笑んで席を立つ。
百合華「私は嘘付くけど、婆ちゃんは嘘付かないの霄兄知ってるでしょ?」
霄「…あぁ」
百合華「(微笑んで)今度の日曜、婆ちゃん
こっち来るから空けといてね。じゃ」
  百合華、立ち去ろうとする。
霄「あっ、百合華ちょっ」
眞奈「あれ? 百合華ちゃん帰るの?」
買い物を終わらせた眞奈が食い気味に声を掛ける。
百合華「大家さん許してくれたみたいだから帰ることにした! ごめんね!」
眞奈「ご飯だけでも食べてけばいいのに」
百合華「眞奈ちゃんのさ、今夜は邪魔すんなオーラが凄いから大丈夫! またご馳走して!」
  百合華、手を降って笑顔で去る。
眞奈「(笑って)…そんな凄かった?」
霄「(微笑んで)…少しだけ」
眞奈、含羞む。
眞奈「今日回鍋肉になっちゃったけど良い?」
霄、立ち上がり、眞奈の荷物を半分持つ。
霄「(微笑んで)今日は俺が作るよ」
  二人、笑み合う。
  凌霄花の咲む道を、手を繋いで歩く霄と眞奈の後ろ姿。

4.○霄の家・夜・同日
  夕食の支度をする霄。
ソファでテレビを観ながら寛ぐ眞奈。
眞奈「最近よく出てるこの芸人って絶対この女優と付き合ってるよねー。私の目は誤魔化せないぞー。霄くんはどう思う」
霄「どっちも知らん」
眞奈「えー。霄くん世間知らずだね」
霄「それを言うなら『流行遅れ』だ」
  霄、カレンダーの8月15日の欄を見る。
  カレンダーには『木更津花火』の文字。
霄「…そういえばさ。花火、何で木更津のにこだわるんだ」
バラエティー番組の笑い声と肉の炒める音。
眞奈「…どうしたの? 急にそんな事聞いて」
霄「…いや、単に気になったからさ。他にも花火大会はあるのに」
眞奈「…木更津じゃなきゃダメなんだ」
霄「…何で?」
眞奈「(笑って)今日はやけに質問攻めだね。何か良いことあったの?」
霄「いや、別に」
  眞奈、テレビの方を向きながら口を開く。
眞奈「お父さんとね。約束してたんだ」
霄「…どんな?」
眞奈「子供の時にね、お父さんに連れられて観に行ったんだ。海に映える花火は凄く綺麗でね、今でも覚えてる。また観ようねって約束したんだけど、お父さん、重い病気患ってさ。治るって言われてたんだけど、去年死んじゃった。死ぬ前にさ、お父さんより大切な人が出来たら、花火観に行ってくれってお願いされちゃってさ」
  眞奈、涙が頬を伝う。
眞奈「ごめんね、急に重い話」
霄、皿や食器を食卓に並べる。
  眞奈、涙を拭う。
  霄、眞奈の頭にポンと手を乗せる。
霄「飯、出来たよ。食べよっか」
眞奈、頷く。
霄「絶対行こうな。約束だ」
  眞奈、顔を上げ、霄に笑み掛ける。
眞奈「(微笑んで)破んないでよ」
霄「(微笑んで)あぁ」
二人、笑み合い、指切りをする。
  テレビ、湧き上がる。
眞奈「あっ! やっぱり!」
霄「ん、どうしたんだ」
眞奈「この芸人と女優付き合ってた!」
 眞奈、霄の方に振り返り、含羞む。
眞奈「やっぱ私の目は誤魔化せないね」
  霄、口角を上げ、眞奈の頭を撫でる。
  霄、遠くを観るように呆ける。

5.○繁華街・喫茶店・昼・数日後
  席に座っている芙美(69)、窓の外を眺
め、紅茶を一口飲む。
  窓の外には凌霄花が咲き誇る。
百合華「あー、婆ちゃんここにいたのね」
  百合華、珈琲を持って芙美の元に行く。
芙美「この店は良いところだねぇ」
百合華「でしょー。お気にの場所なんだ。婆ちゃんが好きな紅茶も豊富だし」
芙美「そりゃあ良いねぇ。(窓の外を見て)…霄ちゃんの花だ。綺麗だね」
百合華「ノウゼンカズラ…。綺麗だよね」
芙美「爺ちゃんが一番好きな花だよ」
百合華「私もこの花好きだよ」
  百合華、凌霄花を一瞥する。
芙美「そう言えば霄ちゃん遅いねぇ」
百合華「霄兄、最近時間にルーズだからなー。腕時計してないバカだし」
  霄、百合華の頭を軽く叩く。
霄「バカは余計だ。ちょっと理由があんだよ」
  霄、席に座る。
百合華「…叩くなよ」
  霄、控えめに溜め息を吐く。
霄「婆ちゃん。遅くなってごめん」
芙美「良いんだよ。それよりも霄ちゃん、元気にやってるかい」
霄「あぁ。超が付くくらいね」
芙美「そりゃあ良かった。…で、爺ちゃんの誕生日には来れないんだって?」
  霄、一瞬焦る表情をし、俯く。
霄「…爺ちゃん、謝る気になったんだって」
芙美「…珍しくね」
霄「…そっか」
百合華「何で爺ちゃんと喧嘩してたの」
霄「それは…」
芙美「霄ちゃんがね、彼女から貰った腕時計を爺ちゃんが壊しちゃって、一切謝るどころか、霄ちゃんが悪いとまで言っちゃってね」
百合華「あー。そういうことだったのね」
霄「…あぁ」
  百合華、席を立つ。
百合華「ちょっとトイレ行ってくるね」
霄「あぁ」
  霄、珈琲を一口含む。
  芙美、紅茶を一口含む。
芙美「で、来ないのかい」
霄、珈琲をテーブルに置く。
霄「…行けない用事が出来た」
芙美「…まぁ仕方の無いことだね。でもこれだけ聞いておくよ」
  芙美、紅茶をテーブルに置く。
芙美「大切な用事なんだろうね」
  霄、芙美の目を見る。
霄「あぁ。どんなことよりも大切だ」
芙美「なら良かった」
  二人、再びカップを手に取り、飲む。
芙美「でも、多分爺ちゃん。これで最後だと思うよ」
霄「…え? 前まで全然元気だったじゃん」
芙美「…最近、夢を見るの。爺ちゃんと昔行った庭園のね。凌霄花の咲む道を、二人で歩くの。手を繋いでね。でも夢の最後で爺ちゃん一人だけ奥まで行っちゃうの。何だかもう居なくなっちゃうのかな、って。だから霄ちゃんのことも謝るって言ったのかな、って」
霄「(食い気味に)夢だよ、そんなの。婆ちゃんも何弱気になってんだよ。大丈夫だって。あの爺が死ぬ訳ないじゃん」
芙美「…だと良いけどねぇ」
  芙美、紅茶を飲む。
芙美「…誕生日プレゼントは買ってあげなよ」
霄「…あぁ」
  芙美、再び窓の外の凌霄花を見る。
  霄も釣られて見る。
  百合華、帰ってくる。
百合華「あれ婆ちゃんどしたの。泣いてる?」
  芙美、微かに目から零れた涙を指で拭う。
芙美「この花、本当に綺麗だねぇ」
  芙美、二人に笑み掛ける。

6.○帰り道・夕・同日
  霄と百合華、歩いている。
百合華「婆ちゃん東京観光楽しそうだったね」
霄「友達と東京に3泊4日って普通に元気すぎるよな」
百合華「私たちとも隙間時間に会ってるだけだからね。さすが我らが婆ちゃん」
霄「だな」
  二人、歩く。
百合華「結局、来ないんだね」
霄「…悪いな。眞奈と約束しちまったからよ」
百合華「…ってか別に良いのに。送ってもらわなくて」
霄「お前は本当に可愛くないな」
百合華「霄兄には可愛い彼女がいますもんね」
  霄、溜め息を吐く。
霄「こう言う兄妹間の触れ合いなんて久し振りなんだから別に良いだろ」
百合華「あっ! 霄兄、何かあっちで祭りやってる! 行こうよ」
  百合華、霄の袖を引っ張る。
霄「話聞けよ。ったく。…しゃーないな」

7.○神社・広場・夕・同日
  地元の祭りで賑わう神社。
  百合華、霄を引っ張り回す。
百合華「何か霄兄とこういう風にいるのめっちゃ久し振りな気がする」
霄「さっき言ったろ。小学生以来じゃないか」
百合華「えー、そんな前だっけ」
霄「そんくらいだろ」
百合華「そういや昔、爺ちゃんに祭り連れて行ってもらったよね」
霄「…そうだな」
百合華「私がこんな風に霄兄連れ回してさ、迷子になったよね」
霄「で、林に迷い込んだな」
百合華「そうだったねぇ。こんな風に凌霄花と百合が咲いててさ。夕陽に橙に染め上げられてたね」
霄「で、爺ちゃんが探し出してくれたのか」
百合華「…うん。…てか」
霄「…この祭りだったんじゃないか?」
百合華「多分そうっしょ。景色似すぎだもん」
  笑い合う二人。
百合華「偶然すぎっしょ」
霄「さすがにこれは笑うな」
百合華「ねぇ、霄兄。ちょっと奥まで行こ?」
霄「何でだよ」
百合華「あん時爺ちゃん、この林に大事なもの落としたって言ってたじゃん。探してみようよ」
霄「何年前だと思ってんだよ。もう無いだろ」
百合華「30分だけー。良いでしょ?」
霄「…ったく。しゃーないな」
百合華「さすが霄兄」

8.○神社・林・夕・同日
  霄と百合華、林の奥まで行く。
百合華「さすがに無いねー。しかも虫ばっか。
帰ろうよ」
霄「お前なぁ。…まぁ良いけどさ」
  霄、視線を外し歩くと枝に胸をぶつける。
百合華「あっ」
霄「…いってぇ。…何だよ」
百合華「霄兄。私たちがいた場所ここだ」
霄「…は? お前分かんのか?」
百合華「ほら、ここ。この地蔵のとこにいた」
霄「本当だ。確かにこいつだった気がする」
百合華「あっ! 何か地蔵の裏にある」
  霄、手帳のようなものを拾う。
霄「これ爺ちゃんのじゃ」
百合華「見よう」
  霄と百合華、手帳の中を見る。
  手帳の中には、褪せているが親戚の写真が何枚か入っている。祖父と霄と百合華が写っているものもある。
  霄と百合華の写真の裏には『私の最後の宝物になるかもしれない二人。この子達には幸せになってほしい。沢山の愛を私が死ぬまで与える』と書かれている。
霄「…馬鹿かよあの爺。こんな臭いこと書く人だったのな」
百合華「爺ちゃん、ツンデレだったんだね」
霄「愛与えんの下手すぎだな」
  霄、笑んで百合華を見る。
  微かに目が潤む霄。
百合華「…霄兄、本当に来れないの? 爺ちゃん最後かもしれないんでしょ?」
霄「…聞いてたんか。まぁあれは婆ちゃんの夢の話だから」
百合華「これで最後だったらどうするの?」
霄「(俯いて)…それでも、俺はやっぱり眞奈との約束の方が大事なんだ」
百合華「花火なんて別のやつ行けば良いじゃん。何だったら来年もあるし」
霄「(食い気味に)百合華」
  百合華、顔を上げる。
霄「あんま俺を困らせないでくれ」
  霄、涙を堪える顔。
霄「後日、個人的に行くから。そん時まで元気でいろって言っといてくれ」
  霄、手帳を百合華に渡す。
  百合華、涙を指で拭う。
百合華「お安い御用だよ」
  二人、元来た道を戻る。
百合華「そう言えばさ、私たちも爺ちゃんと歩いてるね」
霄「何が?」
  百合華、一歩前に出て、夕陽に照らされ、含羞みながら言う。
百合華「凌霄花の笑む道を」
  霄、微笑む。
霄「お前、トイレすぐ終わってただろ」
百合華「あの雰囲気の中戻れないっしょ」
霄「まぁ確かにな」
百合華「あっ、霄兄。手繋ごうよ」
霄「やだよ恥ずい」
百合華「久し振りなんだから別に良いだろ?」
霄「聞いてたのかよ。ったく。しゃーないな」
  霄、微笑んで手を出す。
霄「…少しだけな」
  橙に染め上げられた凌霄花の笑む道を、二人手を繋いで歩く。

9.○霄の家・昼・数週間後
  立葵が少し萎びれている。
  眞奈、ベッドで寝ている霄を起こす。
眞奈「霄くん、そろそろ起きてー」
霄「んー。まだ早いっしょ」
  霄、無理に体を起こされる。
眞奈「今日は1秒でも長く霄くんといたいの。あと、駐車場満杯になるから」
霄「(微笑んで)…確かに。了解」
  霄、眞奈の頭を撫でる。
  霄、スマホの電源を入れる。充電が無い。
霄「あー。昨日充電しないで寝ちったか」
眞奈「家出るまで充電しとけば?」
霄「そうだな」
  霄、スマホを充電する。
 × × ×(時間経過)
  充電されているスマホ。
眞奈「霄くん、忘れもん無い?」
霄「多分大丈夫」
眞奈「じゃあ、行こっか」
  扉を開け、家を出る二人。
  霄のスマホ、電話が鳴る。

10.○櫻井家・昼・同日
  蒼い空の下、凌霄花が咲き誇る庭に佇む百合華、霄に電話を掛けている。
百合華「…出ろよ。…バカ」

11.○花火大会会場・昼
  人が溢れる会場。
眞奈「うわー。この時間に来てもこんなに人いるんだねー」
霄「…だな。おっ、じゃがバタあるぞ」
眞奈「あっ、食べたい!」
霄「じゃあちょっと屋台巡りしよっか」
眞奈「最高」
  眞奈、霄の腕を掴む。

12.○霄の家・昼・同日
  電話が鳴り続ける霄のスマホ。

13.○花火大会会場・夕・同日
  焼きそばや綿飴など、屋台の食べ物を大量に購入した霄たち、予約席に座る。
眞奈「(微笑んで)最高だね」
霄「(微笑んで)あぁ」
眞奈「霄くん、写真撮ろ」
霄「あぁ。俺ので撮る?」
眞奈「霄くんのが画質いいからね」
霄「了解」
  霄、スマホを取り出そうとするが、見当たらない。
霄「あれ。やっべ。落としたかも」
眞奈「え? 無い?」
霄「無い。え、どこが最後だ」
眞奈「あー。家で充電しっぱとか?」
霄「…あっそうだ! 取るの忘れてたわ」
眞奈「ってか今まで良く気がつかなかったね」
霄「確かに」
眞奈「まぁ、私ので撮ろっか」
霄「あぁ」
  眞奈、霄とツーショット撮影をする。
眞奈「めっちゃ良い! 二人とも盛れてる! ほら見て」
  眞奈、霄に写真を見せる。
霄「本当だ」
眞奈「…霄くん、本当にありがとね。本当に嬉しい。…もう泣いて良い?」
眞奈、目が潤み始める。
霄「まだ花火始まってないよ」
  霄、眞奈の背中にポンポンと触れる。
  放送が流れる。
霄「そろそろだ」
眞奈「…うん」
霄「あっ始まる前にさ、スマホ借りて良い?」
眞奈「良いけど、どうしたの?」
霄「今日、爺ちゃんの誕生日なんだ。爺ちゃんとこ、行けないから電話だけな」
眞奈「お爺ちゃんと仲直りしたの?」
霄「あー、まぁ今からするって感じかな」
眞奈「(鼻先で笑い)何それ」
  眞奈、スマホを霄に渡す。
霄「あんがと。ちょっと待ってて」
  霄、立ち上がり、少し離れる。
  霄、祖父母の家電に掛ける。
霄「あっ。もしもし。霄だけど」

14.○櫻井家・夕・同日
  百合華、電話に出ている。
百合華「遅い。ずっと電話掛けてたのに」

15.○花火大会会場・夕・同日
霄「百合華か。悪い悪い。スマホ家に忘れちってさ。…爺ちゃんいる? ちょっと話したくてさ」
百合華(声)「(食い気味に)いないよ」
霄「…は? 何言ってんだ」
百合華(声)「もう、いないよ。爺ちゃん」
霄「…え?」
百合華(声)「(涙声で)今朝死んじゃった」
  子供と老人が楽しそうに霄の横を通る。
  少し強い風が吹く。霄、佇む。
  花火が始まる旨の放送が流れる。
霄「…また嘘って言うんだろ。言ってくれよ」
百合華(声)「…嘘、付ける訳ないじゃん。3日後、葬式になったから」
  電話が切れる。眞奈、霄の元に行く。
眞奈「霄くん、もう花火始まっちゃうよ」
霄「眞奈、ごめん。…俺も泣いていいか?」
  霄、振り返る。その目には涙。
霄「少しだけさ」
  花火が打ち上がる。

16.○櫻井家・夕・同日
祖父の手帳を握り、泣き崩れる百合華。

17.○花火大会会場・夜・同日
  花火が上がっている。
  眞奈、心配そうに霄を見る。
霄「(俯いて)…ごめんな。もう大丈夫」
眞奈「…何があったの?」
霄「…今言うことじゃない」
眞奈「(苦笑い)…花火が全然入ってこないよ。…だから話して」
霄、俯いている。打ち上がって行く花火。
霄「…爺ちゃんが死んだ」
眞奈、一瞬驚き目線を逸らすが、霄の頭を撫でる。
眞奈「…花火、綺麗だよ。顔上げて見てみ?」
  霄、俯いている。
眞奈「霄くんの好きな花みたいだよ」
  霄、顔を上げる。
霄「あー。本当だ」
  橙色の花火が打ち上がる。
霄「凌霄花みたいだ。…よく見つけたな」
眞奈「…だから言ったでしょ?」
  霄、少し不思議そうに眞奈を見る。
眞奈「私の目は誤魔化せないんだって」
  二人、花火を眺め、手を繋ぎ、寄り添う。

18.○櫻井家・昼・数日後
  『櫻井家葬儀式場』の看板。
  祖父の桐彦、眠るように棺に入っている。
  喪服の霄、膝を付く。
霄「爺ちゃん、遅くなってごめんな」
  霄、凌霄花の花束を祖父の前に出す。
霄「爺ちゃんの好きな凌霄花。いっぱい買ってきたよ」
  芙美、霄の元に寄る。
芙美「霄ちゃん、ありがとね。爺ちゃんきっと喜んでるよ」
霄「婆ちゃん。…ごめん。遅くなったね」
芙美「良いんだよ。…爺ちゃんね。死ぬ前に霄ちゃんに言ってた言葉があるんだよ」
霄「…あぁ。花火楽しんで、だっけ」
芙美「それ、百合ちゃんの嘘だよ」
霄「…あいつ。あの状況で嘘ついたのか」
芙美「でも霄ちゃんは救われたでしょ」
霄「…まぁ。…で、爺ちゃんの言葉って」
芙美、泣きそうに微笑んで手紙を渡す。
  霄、手紙を見る。
手紙【霄には悪いことをしたね。爺ちゃん、お前をしっかり愛せてやれんかった。もっと爺ちゃん、素直になれば良かったな。時計壊して申し訳ない。彼女さんにもそう言っておくれ。きっと、これから一緒には入れなくなるけど、昔よく皆で一緒に、凌霄花の咲む道を歩いたね。凌霄花を見る時には、爺ちゃんを思い出してくれたら嬉しいよ。これからも、あの日のように笑って過ごしてください。少し早いと思うけど、誕生日おめでとう】
手紙の最後には凌霄花の押し花がある。
霄「(鼻先で笑い)1ヶ月くらい早いよ」
  手紙に、霄の涙が溢れ落ちる。
霄「…爺ちゃん」
  霄、立ち上がり、鼻を啜る。
霄「(笑って)あんた、愛すの下手だな」
  霄、部屋から出る。
芙美「…爺ちゃん、幸せだねぇ」

19.○同・庭・昼・同日
  庭の凌霄花が咲む道を歩く霄。
霄「爺ちゃん、いつか。また歩こうね。俺、あの日みたいにさ、上手く微笑むから」
  後ろから百合華が霄の肩を叩く。
百合華「霄兄も臭いこと言うようになったね」
霄「(微笑んで)…うっせぇ」
  睦まじく隣を歩く霄と百合華。
霄NA「凌霄花の咲む道を、貴方と歩いたものでした。そうです、貴方と往きました。凌霄花の咲む道を」
  凌霄花の花弁が風に舞う。
〈了〉

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