人物
坂井治(7)(14)中学生
上条誠(14)坂井の同級生
担任教師 坂井の担任
○アパート 外観 (夕)
手摺と階段が錆びついている古いアパート。
蝉が鳴いている。
西日が射しアパート全体が赤みを帯びている。
○同アパート 坂井家 中 (夕)
2Kのアパート。
乱雑な部屋。
壁の時計は4時45分を指す。
玄関から坂井治(7)が入ってくる。
治、リモコンを取りテレビをつける。
DVDデッキにDVDを入れる。
『ウルトラマン』が流れ出す。
食い入るようにテレビを見つめる治。
× × ×
『ウルトラマン』が流れるテレビ。
笑顔の治。
外から町内放送で『夕焼け小焼け』が聞こえる。
急に震えだす治。時計を見る。
5時を指す時計。玄関の開く音。
慌てて部屋の隅っこに行き、震えながら立ち尽くす治。
複数の小さな火傷の跡がある治の右手。
○河川敷 (朝)
T・「7年後」
イヤホンをして携帯を見ながら歩く治(14)。
川には大きな橋が架かっている。
○同河川敷 (朝)
橋の下。
草が生えている地面。
少しずつ風が吹き始め、草が揺れる。
一本の黒い羽根が舞い降りてくる。
2本の足が地面に着地する。
大きく羽ばたく黒い羽根。
制服の黒いズボン、夏の開襟シャツ、ニヤリとする口元。上条誠(14)が現れる。
○西南中等学校 校門 (朝)
門柱に『西南中等学校』のプレート。
歩いて登校する生徒たち。
○同中学校 廊下 (朝)
2年C組のプレート。
○同中学校 2年C組の教室 中 (朝)
生徒たちが騒いでいる中、一人でイヤホンをして携帯を見ている治。
机には「キモイ」や「死ね」等の落書き。
ドアが開き男性の担任教師と誠が入ってくる。
担任教師「えー今日はね予告なしですが転校生が入ります、じゃあ自己紹介して」
誠「上条誠です。よろしくお願いします」
× × ×
西日で赤みを帯びる教室。治だけ座っている。4時55分を指す教室の時計。
イヤホンをして携帯を見ている治。
誠の声「わっ」
突然背中を押される治。
携帯をお手玉のようにして机に落とす。
携帯の画面が上になって机の上に落ちる。
携帯には『ウルトラマン』の動画。
誠「よっ」
治「なに?突然」
ニコニコして立つ誠。
治「今日転校してきた子、だよねぇ」
誠は笑いながら、
誠「俺上条誠、よろしくね」
戸惑う治。
治「僕と話してると君までハブられるよ」
誠「そうなの?でも僕は君と話したい」
治「え?」
誠「だからぁ、僕は君と話したいの、ねっ、
シェイクハーンズ」
右手を差し出す誠。
治「う、うん、じゃあ分かった、坂井治」
渋々手を出す治。手を握る二人。
治の右手の火傷の跡。
火傷の跡を見る誠。
誠「どうしたのその傷、火傷?」
慌てて手を引く治。
治「ううん、なんでもない」
誠、机に置かれた携帯を見て、
誠「何観てたの?携帯で」
携帯を慌ててしまう治。
治「これもなんでもない」
外から町内放送で『夕焼け小焼け』が流れ出す。
誠「面白いね君、なんでもない星人か!」
震えている治。治に気づく誠。
誠「どうしたの?大丈夫?」
治「なんでもない、じゃあ先帰るね」
鞄を持って教室から出て行く治。
治の後ろ姿を微笑みで見つめる誠。
○田舎の地方都市 俯瞰 (夕)
背の低いビルばかりの町。町の背景には山が連なる。夕方から夜、朝になる。
○西南中学校 屋上 朝
チャイムが鳴る。
柵に腕をのせ携帯を見ている治。
誠の声「こらー授業始まってるぞー」
ビクッとなり携帯を落とす治。
誠、笑う。
治「やめてよ」
治、携帯を拾いまた携帯を見る。
柵に背を向けもたれかかる誠。
火傷の跡にかさぶたがいくつもできている治の右手。
誠「俺も授業さぼっちゃった」
付き合い笑いの治。
誠「好きなんだ、ウルトラマン」
治「・・・」
誠「ねぇヒーローの条件って知ってる?」
治「え?・・・強くなきゃいけない?」
誠「ブッブー、弱くなきゃいけない」
治「え?なんで?」
誠「最初やられるじゃない最初から必殺技だせばいいのに、弱くなきゃ強くなれない」
治「・・・」
誠「だ・か・ら、弱い人こそヒーローになる資格がある」
治、笑顔になり、
治「ほんと!」
誠、笑いながら、
誠「あーちょー単純、でもほんとだよ」
笑顔の二人。その後沈黙。
治の火傷の跡を見つめる誠。
誠の目線に気づく治。
治「ああこれね。いつもさパチンコで負けて5時に帰ってきて僕を殴るんだボカーンって、お父さん。何回も、だから今はできるだけ時間をつぶして帰ってる、寝てれば殴られないから」
治を見つめる誠。
誠「お母さんは?助けてくれないの?」
治「もうずっと前に死んじゃった」
沈黙。
治「最後は吸ってたタバコでジューって親ってそんなもんだ、耐えなきゃって思ってた。
・・・いつもウルトラマン観てたんだ今みたいに、だから、その間も目に入るんだんだ戦ってるウルトラマンが、絶対に負けない。だから僕も負けない、僕もヒーローみたいになるんだって」
誠「・・・知ってたよ」
治「え?」
誠「僕を呼んだのは君だから、その気持ちが僕を呼んだ」
治「なんのこと?」
誠「憎い?お父さんのこと」
治「・・・あんなヤツ、いなくなればいい」
誠「・・・これも知ってる?死ななきゃ生き返らない魂もある」
誠、立ち去ろうとする。
誠「聞きたかったよ、その一言・・・お喋りしたいな、君のお父さんと」
治「え?」
立ち去る誠の背中。
○田舎の地方都市 俯瞰 (朝)
朝から夕方、夜になる。そして朝。
○西南中学校 2年C組 中 (朝)
教壇に立ち出席を取る担任教師。
担任「上条・・・上条、いないかぁ、まったく転校そうそう、次佐藤」
空席の誠の席を見る治。
○同中学校 屋上 (夕)
柵に腕を置き携帯を見ている治。
柵と治の間から顔を出す誠。
誠「よっ」
無言の治。
誠「あれ?驚かない。俺休みだったし突然出てきたから驚かない?」
治「何したのお父さんに、お喋りするって」
誠「何もしてないよ、少しお喋りしただけ」
治「何をしたの、昨日帰ってこなかったよ」
『夕焼け小焼け』が聞こえてくる。5時を指す校庭の時計。
柵から離れ誠に背を向ける治。
誠「あんな親でも大切ってこと?」
治「あたりまえだよ」
誠「でも、体はそうは言ってない。むしろホッとしてる・・・止まってるよ、震え」
ハッとする治。
誠「お喋りしただけだけどさ、簡単に壊れるんだ人の心って」
治「何を言ってるの?」
誠の背中から黒い羽根が羽ばたく。
驚く治。
誠、羽ばたきながら宙に浮き治に手を差し出す。
誠「さぁ行こう君はヒーローになるんだろ」
火傷がある右手を差し出す治。
誠、治の手を握る。
宙に浮く二人。
山に沈む夕日。浮き出されるふたりのシルエット。
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