#7 おわりのはじまり SF

近い未来。 ある公務員が外交省の地下15階で保護されている宇宙人と出会う。
竹田行人 46 0 0 11/17
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第一稿

「おわりのはじまり」


登場人物
渡辺縁(22)公務員
橋田円(26)宇宙人


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「おわりのはじまり」


登場人物
渡辺縁(22)公務員
橋田円(26)宇宙人


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○すすきの群生地
   すすきが風に揺れている。
   橋田円(3)、膝を抱えてうずくまっている。
   すすきを掻き分ける音。
   円、顔を上げる。
   防護服を着た職員、入ってくる。
職員「生存者一名確認。女の子です」
   職員、周囲を見渡す。
職員「なにがあったんだ」
   円がいるのは巨大なミステリーサークルの中心である。

○外交省・外観
   鉄筋10階建てのビル。
   T「2034年 春」
縁の声「今後、我が国がどうやって」
   「外交省」の看板。

○同・大会議室
   壇上には「2034年度 外交省入省式」の横断幕。
   会場にはスーツ姿の若者たち。
   渡辺縁(22)、壇上でスピーチをしている。
新人1「かわいいな。ワタナベユカリ」
新人2「試験。満点だったらしいぜ」
新人1「だって。あいつアレだろ」
縁「公僕として職務に邁進する所存です」
新人2「でも全然わかんねぇな」
新人1「ああ。ちゃんと人間に見える」
   縁、一礼。

○同・エレベーターホール前
   縁と室長・加藤、エレベーターを待っている。
加藤「渡辺くん。キミが我が外交特務室に配属になってくれて嬉しいよ」
縁「こちらこそ。加藤室長の元で働けて大変光栄です」
   エレベーターの到着音。

○同・エレベーター・中
   縁と加藤、乗り込んでくる。
   階数表示、5階。
加藤「業務内容を説明する。メモは取らず。記憶してほしい」
   縁、うなづく。
   エレベーター、閉まる。
   加藤、回数ボタンの下の蓋を開け、テンキーにパスワードを打ち込む。
加藤「渡辺くん。いわゆる宇宙人というものの存在についてどう考えているかね」
縁「理論的にありえないことではないですが、いたとしても、まだコンタクトを取れる段階ではないかと」
加藤「模範回答だな。しかし。不正解だ」
   階数表示、B2階。
加藤「戦後の占領下。滋賀県の蓬莱村というところである実験が始まった。テーマは地球外生命体との共存だ」
   階数表示、B5階。
加藤「ひと言で言えば実験は成功と言えた。あるモンスターが生まれるまでは」
   階数表示、B8階。
加藤「23年前。2011年の秋。当時3歳の少女が村人全員を殺害し、村に火を放った。もちろん事件は公にはなっていない」
縁「まさか。そんなことが」
加藤「外交特務室が彼女を保護している」
   加藤、スーツから拳銃を取り出す。
加藤「万一の時はこれを使って構わない」
   階数表示。B13階。
加藤「君は、何を信じる」
   縁、拳銃に手を伸ばす。
   階数表示、B15階。
   ドアが開く。

○同・B15階
   縁、エレベーターを降りてくる。
   吹き抜けのフロア全体がすすきの草原になっている。
加藤「私は所用でいったん上に戻る」
縁「え。あの。室長。私はなにを」
   エレベーターのドア、閉まる。
   縁、周囲を見渡す。
   すすきを掻きわける手。
縁「え」
   橋田円(26)すすきから顔を出す。
円「あ。縁ちゃんや。トップ入省の」
縁「どう。して」
円「ウチはハシダマドカっていうらしいで」
縁「マドカ。ちゃん。よろしく」
円「ウチの村はいい人ばっかりやった」
縁「そう」
円「知ってる? すすきって植物遷移上。草原の最終段階なんやって」
縁「すすき」
円「縁ちゃん。人工人間なんやろ? 試験管ベイビーの進化したやつ」
   縁、ポケットに手をやる。
円「でもな。ウチらとあんまり仲良うないけどめっちゃ頭いい別の星の人らが、偉い人らに条件出してん」
縁「条件」
円「すすきは、株が大きくなんのに時間かかるから、新しい草原にはいいひんねん」
縁「え。と。円ちゃん」
円「卵子も精子も胎盤も全部人工。渡辺縁は人工人間なのであーる。いじめられた?」
縁「それは」
円「自分らの星の技術を提供するし、ゆくゆくは一緒に暮らしたいから邪魔なヤツ消してくれへんか? って」
   すすきの草原が風に揺れる。
縁「邪魔なヤツって」
円「でもな。だんだんすすきの背が高なってきて、全体を覆うようになんねん」
縁「最初はいなかったものが、全体を覆うようになる」
円「ほっといたらええねん。縁ちゃんをいじめるような人らのことは。だって縁ちゃんはめっちゃかわいいし頭もいい」
縁「そんなこと」
円「偉い人らは失われた30年を取り返さなアカンって焦ってたからこの話に飛びついたんやろな。きっと」
縁「だからって」
円「で。すすきの草原をそのまんまにしとくと、次に来んのはアカマツとかやね」
縁「円ちゃん。さっきから全然話が」
円「縁ちゃんは恨んだことないん? なんで自分がこんな目に遭わんとアカンの? って、思ったことないん?」
縁「それは。ない。ってことは」
円「ある日。自衛隊か。警察かわからんけど。そういう人らがいっぱい来てみんな殺された。みんな声を出す暇もなかった」
縁「ひどい」
円「そんで。草原は森になる。同じ場所が、前とは全然違う景色になっていくねん」
縁「同じ場所が、違う景色に」
円「人工人間の技術を提供したんは、そのめっちゃ頭いい星の人らやねん。そんで生まれたんが。じゃーん。縁ちゃん」
縁「え」
円「逃げ回ってたウチを見つけてくれたんはさっきの室長さんやったんやけど。室長さんの手にはびっちょり血が付いてた」
縁「室長が」
円「せやからすすきがある場所は、終わりの始まる場所やってこと」
縁「おわりの、はじまり」
   エレベーターのドア、開く。
   加藤、降りてくる。
加藤「渡辺くん。円との挨拶が済んだらランチでもどうかね」
縁「おわりの、はじまり」
加藤「渡辺くん」
縁「おわりの」
縁、振り向きざまにポケットから拳銃を取り出し、加藤に向ける。
   円、目を手で覆う。
   銃声。
   すすきの草原が風に揺れる。
   円、手を下ろす。
   縁、倒れている。
   加藤の手の中にある拳銃から、煙が出ている。
   円、縁に歩み寄る。
円「あーあ。脳天一発即オダブツやね」
加藤「なにをした」
円「アホな。カメラで観てたやろ」
   加藤、縁に歩み寄る。
加藤「なぜ信じるものを間違える」
   加藤、縁の手から拳銃を取る。
加藤「また。代わりを寄こす」
   加藤、エレベーターに向かう。
円「もうすぐあの日やな」
   すすきの草原が風に揺れる。
円「奥さんのお墓詣り。ウチも一緒に」
加藤「黙れ」
   加藤、拳銃を円に向ける。
加藤「お前が。お前がころ」
円「死にたいん?」
   円と加藤、目を見合わせる。
   加藤、拳銃をポケットにしまう。
加藤「地球外生命体との共存なんて絵空事だ。馬鹿げてる。利用価値だけ考えればいい」
   加藤、歩き出す。
円「そんで利用価値ないってわかったら、ポイするんや。この人工人間みたいに」
   加藤、エレベーターに乗り込む。
円「確かに絵空事やね。地球人同士でも、まだまだ共存なんかできてへんみたいやし」
   エレベーターのドアが閉まり、上昇を始める。
   円、エレベーターを見送っている。
   円が立っているのは巨大なミステリーサークルの中心である。

               〈おわり〉

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