君の瞳に月がのぼる 日常

中学二年生の天音には、視覚障害を持つ弟・光弥がいる。天音は盲学校に通う光弥を気遣いながらも、彼のせいで家庭内や学校で自らの意志が蔑ろにされてしまうことに窮屈さを感じていた。 ある日天音は光弥に頼まれて出掛けた「すすき祭」で、同じく祭に参加していたクラスメイトと出会う。友人と祭を見て回りたい誘惑に駆られた天音は、光弥を置いてクラスメイトについて行ってしまうのだった。
播磨つな 14 0 0 11/12
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第一稿

〇人物
 野宮天音(14)中学二年生
 野宮光弥(8)小学三年生
 野宮響子(44)天音と光弥の母
 田中友貴(14)天音のクラスメイト
 須藤彩花(14)天音のクラスメ ...続きを読む
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〇人物
 野宮天音(14)中学二年生
 野宮光弥(8)小学三年生
 野宮響子(44)天音と光弥の母
 田中友貴(14)天音のクラスメイト
 須藤彩花(14)天音のクラスメイト
 迫田弘樹(14)天音のクラスメイト
 菅井かよ(48)盲学校の教師
 女性(55)


〇中学校・教室(夕)
   生徒が帰り支度をする教室。
   田中友貴(14)と須藤彩花(14)が野宮天音(14)の元へ近寄る。
友貴「天音、一緒に帰ろ!」
彩花「友貴とマックに寄ろうって話してたんだ。ほら、ネットで話題になってた期間限定のマロンシェーキ」
天音「あー・・・・・・ごめん。今日光弥のお迎え行かなきゃいけないんだ。お母さんパートだから」
   顔を見合わせる友貴と彩花。
友貴「そっか、忙しいのに誘ってごめんね」
天音「そんなことないよ! こっちこそ一緒に行けなくてごめん」
彩花「明日飲んだ感想教えるから! また一緒に行こうね、天音」
   去って行く二人を見ながら、ため息をつく天音。

〇盲学校・正面玄関(夕)
   校舎の中に入る天音。
   菅井かよ(48)が事務室から出て来る。
かよ「あら天音ちゃん、こんにちは。光弥君、図書室にいたから呼んで来るわね」
天音「ありがとうございます」
   立ち去るかよ。
   スマホの通知音。
   ポケットからスマートフォンを取り出すと、メッセージが表示されている。
   『今週末のすすき祭、クラスで予定空いてる人いたら皆で行こう!』
天音「わ、楽しそう」
   かよと白杖を持った野宮光弥(8)がやって来る。
   慌ててスマホをポケットにしまう天音。
かよ「光弥君、お姉ちゃんよ」
天音「帰るよ。光弥」
光弥「うん」
   光弥の手を自分の腕に掴ませる天音。
   光弥、ぺこりと頭を下げて、
光弥「さようなら、菅井先生」
かよ「光也君、また明日ね」
   校舎を後にする天音と光弥。

〇帰り道(夕)
   並んで歩く天音と光弥。
光弥「それでね、聡君がボール蹴ったら、びゅーんって飛んで、ゴールに入ったんだよ」
天音「うんうん。あ、十歩先に電柱あるから」
   適当に相槌を打つ天音、向かいから迫田弘樹(14)が歩いて来て身構える。
天音M「うわ、迫田だ。あいつ口軽いし、見られたら色々厄介だな」
天音「光弥、右曲がるよ!」
   慌てて光弥を引っ張り、交差点を曲がる天音。
光弥「え? いつもここで曲がらないよね?」
天音「良いから! 色々面倒くさいの」
光弥「回り道した方が面倒くさいと思うけど・・・・・・」
天音「良いから光弥は黙ってて」
   自分達に気付かず歩いて行く迫田を確認し、ほっと胸に手を当てる天音。

〇野宮家、リビング(夜)
   夕飯を食べる天音と光弥、野宮響子(44)。
   光弥、スプーンによそったシチューをこぼす。
天音「ほら、ちゃんと持たないとこぼしてるよ」
   ティッシュでテーブルを拭く天音。
響子「そうだ天音、今週末のすすき祭、光弥のこと連れて行ってあげて」
天音「ええっ!?」
   慌てて口を押さえる天音。
天音「ごめん、なんでもない」
響子「去年まではお父さんと行ってたけど、ほら、今年は月末まで出張でしょ? 私もその日はパートがあるし、天音も折角だから一緒に楽しんで来なさいな」
天音「・・・・・・」
   ちらりと光弥を見る天音。
   笑顔ではしゃぐ光弥。
光弥「やった! 今年も行けるんだね。楽しみだなあ」

〇同・天音の部屋(夜)
   ベッドにうつ伏せになり、スマホを眺める天音。
   画面にメッセージが追加されて行く。
   『部活終わったら私も行く!』
   『俺と迫田も参加で』
天音「はあ・・・・・・」
   階下から光弥の歌い声。
光弥「はじけろタマシイ! バンバンサバイバーバトル!」
   枕の下に頭を潜り込ませる天音。
天音「もーっ! 何でも光弥光弥って! ちょっとは私の気持ちも考えてよ!」

〇『すすき祭』会場・休憩所(夕)
   ベンチに座り、わたあめを食べる光弥。
   きょろきょろと辺りを見回す天音。
光弥「お姉ちゃん食べないの? わたあめ」
天音「あー、私はいいや・・・・・・」
   二人のそばを通りかかる天音のクラスメイト達。
   友貴と迫田が天音に気付く。
友貴「あれ? 天音じゃん」
   ぎょっとして振り返る天音。
友貴「お祭り、来てたんだね」
迫田「おー、野宮。あれ? そっちは・・・・・・」
   光弥を見下ろす迫田。
友貴「しっ!」
   友貴、迫田を小突いて耳打ちする。
迫田「あ・・・・・・なんかごめん」
   気まずそうに目を伏せる天音。
友貴「向こうに彩花もいるし、折角だから顔出しなよ! 天音が来てるって知ったら喜ぶよ」
天音「でも・・・・・・」
   ちらりと光弥を見る天音。
光弥「行っておいでよ! お姉ちゃんが帰って来るまで、僕ここに座ってるから大丈夫」
天音「・・・・・・分かった。すぐ戻って来るから」
   何度か振り返りつつ、クラスメイトと共に光弥の元を離れる天音。

〇同・縁日(夕)
   射的の銃を構える迫田。
   コルクがチョコレートの箱を倒し、周囲の女子が歓声を上げる。
友貴「すごいじゃん迫田!」
迫田「ま、ちょろいもんよ」
   そわそわと落ち着かない素振りの天音。
   天音の視界の先を、手を繋いだ兄弟が歩いて行く。
天音「ごめん。やっぱ気になるから、光弥のとこ戻るわ」
迫田「あれ、野宮!?」
   走り去る天音。

〇同・休憩所(夕)
   息を切らして休憩所に戻る天音。
   ベンチに光弥の姿はない。
天音「光弥!?」
   慌てて近くにいた女性(55)に尋ねる。
天音「すみません、八歳位の男の子を見ませんでしたか? 白杖を持ってるんです」
女性「『ハクジョウ』? なあにそれ?」
天音「あ、白い杖のことです。視覚障害者が持ってる・・・・・・」
女性「ごめんね、見てないわ」
天音「そうですか・・・・・・」
   女性に礼をし、走って行く天音。

〇すすき畑(夜)
   誰もいない原っぱを彷徨う天音。
天音「あれ・・・・・・どこだろう、ここ。会場からすっかり離れちゃった」
天音M「光弥、誰かに連れて行かれてたりしたらどうしよう。こんなことになるなら、ちゃんと一緒にいてあげれば良かった!」
天音「光弥! どこにいるの? 光弥ー!」
   光弥を呼ぶ天音の声が段々小さくなる。
   座り込み、泣き出す天音。
   白杖ですすきをかき分け、天音の前にやって来る光弥。
光弥「お姉ちゃん?」
   驚いて顔を上げる天音。
天音「光弥!?」
光弥「良かった! 見つけられて」
   笑う光弥。
光弥「一人で座ってたら聡君とお母さんに会ってね。一緒にお祭り回ってたんだ。お土産にすすきを摘んで帰りたいって言ったらここまで連れて来てくれて、それでお姉ちゃんの声が聞こえたから・・・・・・」
   光弥、天音の前に腰を下ろす。
光弥「僕のこと探してたんだよね? ちゃんと座ってるって言ったのに、約束破ってごめんなさい」
   光弥をぎゅっと抱きしめる天音。
天音「謝るのは私の方だよ。光弥のこと、置いて行ったりしてごめん」
   立ち上がると、数メートル先で聡と母親が手を振っている。
   天音、光弥の持っているすすきを見て、
天音「すすき、沢山摘んだんだね」
光弥「うん。触った感じとか匂いとかで、見えなくてもちゃんと見えるんだ。満月に向かって真っすぐ伸びるすすきの原っぱが」
天音「光弥は詩人だなあ」
   手を繋いで歩き出す二人。
光弥「ねえ、僕も帰りに射的やっても良い? さっきお姉ちゃんのお友達にもらったよ、これ。射的で取れたから二人で食べなって」
   ポケットからチョコレートの箱を出して見せる光弥。
   天音、箱をじっと見つめ、
天音「・・・・・・私もやろうかな」
光弥「本当? じゃあ僕とどっちが沢山景品取れるか勝負しよう!」
天音「そうだね。手加減しないよ」 

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