ハローウィンズ~無職の絆~ ドラマ

社会に不満を持つ3人の無職が、あろうことかハロウィンの夜に強盗を企てる。
富ヶ谷 菅太郎 5 0 0 10/26
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第一稿

【登場人物】
松田学(36) 主人公。無職。
小林茂(47) 無職のオッサン。
飯田友則(66) 無職の爺さん。

〇中華料理屋「一番」・外観(夜)
   いかにも老舗 ...続きを読む
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【登場人物】
松田学(36) 主人公。無職。
小林茂(47) 無職のオッサン。
飯田友則(66) 無職の爺さん。

〇中華料理屋「一番」・外観(夜)
   いかにも老舗といった佇まいの中華料理屋。

〇同・店内(夜)
   円卓を囲み、焼きそばを食べる松田学(36)、拉麺を食べる小林茂(47)、餃子を食べる飯田友則(66)が神妙な面持ちで会議をしている。
松田「……という作戦で行こうかと思うのですよ」
小林「でもヤキソバ隊長、ちょっと事務所から遠すぎやしませんか?」
飯田「ラーメン一等兵の言う通り。私、歳だし遠出はキツいであります」
松田「そこいらで駐禁切符が貼ってあるチャリをパクって行くから大丈夫ですよ、ギョーザ二等兵」
飯田「そっか……あ、ちょっとラーメン一等兵、酢取って!」
   小林、酢を飯田に渡す。
小林「ほらよ」
   と、ゲップをする飯田。
小林「う! ニンニクくせえ!」
飯田「しょうがないでしょ。餃子食べてるんだから」
小林「食ってる時に盛大にゲップすんじゃねーよきたねーな!」
   小林をギロっと睨む飯田。
飯田「なにい!」
小林「くっせーからちょっとトイレに避難して来るわ」
松田「……」
   小林、トイレに向かう。
   飯田、こっそりと小林の食べかけの拉麺に備え付けのテイクフリーすりおろしニンニクをたっぷりと投入する。
   ×   ×   ×
   トイレから戻って来る小林。
   飯田、そそくさと何事もなかったかのように餃子を食べ始める。
   拉麺の続きを食べる小林。
小林「(吹き出す)ブッ!」
   小林をニヤついて見てる飯田。
   小林、飯田の胸ぐらを掴み
小林「ジジイやりやがったな!」
飯田「ひいい!」
   止めに入る松田。
松田「ちょっとラーメン一等兵、ギョーザ二等兵! 仲間割れはやめましょう! 大事な時ですから!」
小林「だってこいつが!」
飯田「年寄りにくせえって酷過ぎやしませんか?」
松田「作戦成功には固い結束による円滑なチームワークが何よりも大事なんですから、皆さんくれぐれも仲良くお願いしますよ!」
小林「……ら、ラジャー」
飯田「(両手で胸を作り)ブラジャー」
小林「キモ!」
飯田「何を! ちょっとヤキソバ隊長、年寄りにキモいって酷過ぎやしませんか?」
   先行きの不安がたっぷり籠った大きな溜息を吐く松田。

タイトル「ハローウィンズ~無職の絆~」

〇ハローワーク・外観
T『一ヶ月前』

〇同・若者支援コーナー
   机を前に相談員の女性と対面して座っている松田。
   相談員、求人票を見ながら
相談員「松田さん、せっかく決まったのにどうして一日で辞めちゃったんですか?」
松田「精神的に限界を感じまして……」
相談員「勿体ないなあ。ここ人気あるのに」
松田「あと、休日の日数が求人票の記載と全然違っていましたし」
相談員「まあ、そういう事もあるでしょうね」
松田「……」
相談員「失業保険の残日数、残り少ないんですから、もうちょっと焦って再就職に取り組んで下さいよね」
松田「(大きな溜息)はあ……」

〇同・近くの喫煙所
   雇用保険資格者証を苦い表情で眺めながら煙草を吸っている松田。
   と、クリアケースを抱えてやって来る小林。
   松田、雇用保険資格者証を隠し、少し脇に逸れる。
   と、B4サイズの茶封筒を小脇に挟んでやって来る飯田。
   小林と松田、少し脇に逸れる。
   一同、苦い表情で一服している。
一同「(大きな溜息がハモる)はあ~……」
   一同、気恥ずかしさを誤魔化すかのように会釈し合う。
   小林、松田が隠しきれていない雇用保険資格者証を見やり
小林「ハローワークの帰りですか?」
   松田、あたふたして
松田「あ……ええ、まあ(愛想笑い)」
   小林、クリアケースを松田に見せ付け
小林「俺もですよ! いやあ良い仕事ないですよねえ」
松田「はは……そうですね」
   と、茶封筒を松田と小林に見せ付ける飯田。
飯田「私も! 年寄りには厳しい世の中で参ってしまいますよ」
松田「そーですね」
小林「初めまして。俺、小林っていいます」
   松田に握手を求める小林。
松田「あ、どうも。僕は松田です」
   松田、手を差し出す直前で
飯田「私は飯田と申します。初めまして!」
   松田に握手を求める飯田。
   二つの握手祈願に右往左往する松田、つい各自に両手を差し出してしまう。
   と、松田の雇用保険資格者証がヒラリと足元に落ちる。
   小林、雇用保険資格者証を拾う。
松田「あ、どうも」
   雇用保険資格者証にじっくりと目を通す小林。
小林「むむ! 松田さんでしたっけ? これ、失業保険! もう少しで終わっちゃいますよ!」
松田「ちょ! 勝手に見ないで下さいよ!」
   松田、雇用保険資格者証を奪い返す。
小林「あ、すいません。つい……俺ももうすぐ終わっちゃうもんで」
   小林、自分の雇用保険資格者証を取り出して松田に見せ付ける。
松田「……」
飯田「奇遇ですね。私もです」
   飯田、茶封筒から雇用保険資格者証を取り出して松田と小林に見せ付ける。
小林「まったく……貯えもないってのに、もうどうしたらいいのやら」
飯田「私も……なんせこの歳ですから。死を宣告された気分ですよ」
松田「(困惑の表情)……」
   沈黙。
小林「そうだ。どうです、このあと昼飯でも?」
松田「え?」
飯田「いいですね! 独居老人は一人飯が堪えるもので」
松田「ちょっと持ち合わせが……」
小林「安心して下さい、持ってますよ!」
   小林、懐から中華料理団体90分食べ放題無料券を取り出して見せ付ける。
小林「拾ったんです、道端で!」
松田「(引きつった表情で)そ、そーですか……」
飯田「ありがたや!」
   喫煙所を後にする一同。

〇中華料理屋「一番」・外観

〇同・店内
   円卓を囲んで座っている松田、小林、飯田。
   メニューを回し合って吟味する一同。
小林「俺は拉麺に決めた」
飯田「私は餃子!」
小林「え? それだけ?」
飯田「そうです」
小林「はー、変わってんすね……松田さんは?」
松田「僕は焼きそばで……」
   店員を呼ぶ小林。
   やって来る店員。
   それぞれ注文をする一同。
小林「あと瓶ビール! グラス三つで、(松田と飯田に目配せして)いいっすよね?」
飯田「いいですね~」
松田「ええ、まあ……」
   ×   ×   ×
   円卓上に食べ終えた食器と空の瓶ビールがいくつも並んでいる。
   一同、大分酔った様子でビールを飲み交わしている。
小林「……いやーしかし、いざ面接に行ってみると口の利き方を知らない若造の面接官が相手で参っちゃうよ」
飯田「そんなのまだマシですよ。私なんかこの歳ですから面接にさえ呼ばれた事ないですよ」
小林「飯田の爺さんはさ、どういう職種狙ってんの? 俺は製造で攻めてんだけど」
飯田「私は主に警備関係ですかねえ」
小林「へー、松田君はどうなの? 面接何社か受けたんでしょ?」
松田「まあ……一応簡単な事務職に採用までこぎ着けたんですが、合わなくて一日で辞めました」
飯田「勿体ないなあ」
小林「向き不向きとか社内の雰囲気とか色々あるからね~。やってみないと分かんないよね~」
   一同、大きな溜息を吐く。
   と、テレビからニュース速報が流れて来る。
ニュースキャスター「今日未明、港区のコンビニエンスストアで男が店員をバールのようなもので脅し、現金10万円を奪い逃走しました」
小林「いいなあ強盗は。日当10万円か~」
飯田「しかも捕まっても刑務所という屋根の下で朝昼晩温かい飯にありつけるんですよ。私ら職のない一般庶民とは雲泥の差ですよ。
社会は何でこんなにも不公平になってしまったのか……」
   恨めしい表情でテレビ画面を見詰めている松田。
松田「捕まらなきゃ犯罪じゃないんですよ!!!」
小林・飯田「?」
松田「捕まって初めて社会から淘汰されるんです……」
   松田をポカンとした表情で見詰めている小林と飯田。
小林「どったの、急に?」
松田「あ、すいません。先日、離婚したばかりで。まだイライラが……」
小林「離婚って、やっぱ無職が原因?」
松田「順番逆でして。妻の不倫が原因で仕事に身が入らず……」
小林「不倫が原因ってこたー、慰謝料ガッポリふんだくれんじゃねーの?」
松田「それが不倫相手が敏腕弁護士で……良いように丸め込まれて泣き寝入りですよ」
小林「かぁ~、世の中理不尽過ぎんべよ~」
松田「妻に言われました。不倫は見つからなきゃ不倫じゃないって……それで犯罪も捕まらなきゃ犯罪じゃないって思えてきて……」
小林「女はどいつもこいつも自分の都合の良いように解釈するからな」
飯田「ひ~、くわばらくわばら……」
   小林、ビールを松田のグラスになみなみ注ぎ
小林「ま、嫌な事は飲んで忘れましょ!」
   飲み明かす一同。

〇同・店前
   顔を赤くして出て来る松田、小林、飯田。
   小林に頭を下げる松田と飯田。
松田「ごちそうさまです」
飯田「おかげさまで大分気分が良くなりましたよ」
小林「へへ、いいって事よ。でも何か飲み足りないなあ」
飯田「実は私も」
松田「……」
小林「どうすか、コンビニで発泡酒ってのは?」
飯田「良いですね」
松田「……ええ、まあ」
小林「よし決まり。ちなみに自分の分は自分で!」
飯田「勿論ですとも!」
松田「……」
   店を後にする一同。

〇コンビニ・外観

〇同・店内
   お酒コーナーでそれぞれ発泡酒を吟味する松田、小林、飯田。
   レジカウンターに並ぶ一同。
   先に清算を済ませる小林、飯田。
   キョロキョロと店内を見渡している松田。
店員「お客さん、145円になります」
   松田、取り乱しながら財布を出す。
松田「(小銭を渡しながら)……はい」

同・店前のゴミ箱付近
   地面に座り、摘みと発泡酒缶数本を広げている松田、小林、飯田。
小林「じゃ、カンパーイ!」
松田・飯田「カンパーイ!(缶をカチンと当てる)」
   一杯やりながら摘みを摘む一同。
   ×   ×   ×
   包装上に残る摘みのカス。地面に転がる飲み終えた発泡酒缶。
   一同、大分顔を赤らめている。
   小林、飲み終えた発泡酒缶をゴミ箱に投げ入れ
小林「いやーしかし、クソみてーな仕事しかねーよなあ」
飯田「わたしゃこの歳ですからクソみたいな仕事にさえありつけやしませんよ、トホホ……」
   松田、キッっとした表情で
松田「強盗……やりません?」
小林・飯田「え?」
松田「一人じゃ厳しいですけど、三人ならいけると思うんです」
小林「強盗って松田君、結構酔ったね」
飯田「飲み過ぎは万病の元ですぞ」
   松田、すっくと立ち上がり
松田「酔っ払いのたわ言なんかじゃなくて、僕は真剣に提案してるんですよ!」
小林・飯田「ええ?」
松田「うまく逃げ切れば日当10万、いや30万は行きますよ、三人いれば!」
小林「いやいや、そんな旨い話が……」
飯田「日本の警察は優秀なんですぞ」
松田「逃走ルートは僕が作成します。これでも地理には詳しいんです。各自のポジションや必要な物、必要な知識、全て僕が指示しますんで」
小林・飯田「……」
松田「妻が僕に言い放った見つからなきゃ不倫は不倫じゃない理論に対抗して捕まらなきゃ犯罪は犯罪じゃない理論を推奨したいと思うのです! 人生どん詰まりの僕らがこうして出会ったのも何かの縁ですし、世捨て人の底力を社会に見せ付けてやりましょう!」
   小林、腕を組んで
小林「日当30万円かぁ……う~ん」
飯田「そんな事言っても……」
松田「捕まったとしても屋根の付いた家と温かい飯が朝昼晩3食付いて来るんですよ。ブラック企業が蔓延ってる今の社会でこんなホワイトな場所、そうそうないですって!」
飯田「……(ジュルリと舌舐めずる)」
小林「よし、乗った!」
飯田「え?」
小林「カッコ良いじゃねーか。一気にチョイ悪オヤジ……いいやメチャ悪オヤジに大出世だぜ!」
松田「あとは飯田さんだけですよ。どうします? というか、この計画を知った以上、日本の優秀な警察は我々を同罪の共謀者として認識する事でしょう」
飯田「ええ?」
   小林、ポンと飯田の肩に手を置き
小林「もうやるしかねえよ、飯田の爺さん。俺たちゃ後がねえんだ。逃げようが捕まろうがどっちに転んでも暖かい飯が食える!」
飯田「(オロオロとした表情)そ、そうですね。もう歳ですからどうかお手柔らかにお願いしますよ」
松田「よし、チーム結成に乾杯!」
   松田、発泡酒缶を掲げる。
   松田に倣って発泡酒缶を掲げる小林、飯田。
   一同の頭上でカチンと鳴る発泡酒缶。

〇松田が住むアパート・外観
T『数日後』

〇同・松田の部屋
   机を囲んで座っている松田、小林、飯田。
松田「じゃあ皆さん、出して下さい」
   机上に一斉に所持金を出す一同。
   金を計上する松田。
松田「合計223421円ですね」
小林「わ~お」
飯田「大金だ~」
松田「これらを活動経費にしてこれから必要なものを集めて行きます」
   松田に敬礼する小林、飯田。
   と、机上に地図を広げる松田。
   地図上には周辺のコンビニに印が付けられている。
松田「まず手始めにここのコンビニを狙おうかと思っています」
   地図上の外れの方を指差す松田。
小林「え、コンビニなの? 銀行とかじゃなくて?」
飯田「私もてっきり郵便局とかかと思ってましたよ」
松田「甘い! 甘過ぎますよ皆さん。僕達は結成したての弱小強盗団ですよ? 初めからそんな警備が行き届いてる危険地帯には進出できませんて! それに深夜のコンビニはワンオペ体制なので恰好の狙い場なんです!」
小林「おお、なるほど」
飯田「さすが松田さん」
松田「ちょっと本名で呼び合うの、止めましょう」
小林・飯田「え?」
松田「相手に身分が知られてしまうじゃないですか?」
小林「そうだな……」
飯田「うむ」
松田「コードネームを決めましょう」
飯田「行動ネイム?」
小林「コードネームだよ! スパイ映画とかでよくあるだろ」
飯田「ふむ……例えば?」
松田「……小林さんはラーメン、飯田さんはギョーザでいきましょう」
小林・飯田「え?」
松田「僕はヤキソバで」
小林「それってこないだの中華料理屋で自分が注文した料理じゃ?」
松田「その通りです」
飯田「何でまた?」
松田「僕達はあの中華料理屋で流れていたニュースをきっかけにチームを結成しました。そこで、その場にゆかりのある何かで呼び合う事で何かグっと来るものを感じませんか? また、料理名で呼び合う僕達を目の当たりにした相手を困惑させる作戦にも繋がります」
小林「なるほど。そいつは何かグっと来るもんがあるな」
飯田「さすが松田さん……いや、ヤキソバさん」
   松田、小林と飯田にそれぞれメモの切れ端を渡す。
松田「ラーメンさんはホームセンター、ギョーザさんはスーパーへ。メモに書いてあるものを買って来て下さい」
小林・飯田「プっ」
松田「何笑ってんですか? 僕は真剣に指示してるんですよ?」
小林「……だって、ラーメンさんて」
飯田「ギョーザさんだなんて、松田……いや、ヤキソバさん、プっ!」
松田「……そうだ! 語尾に何か役職的なものを付けましょうか?」
小林「?」
飯田「例えば?」
松田「そうですね……ラーメン一等兵、ギョーザ二等兵なんてのはどうですか?」
小林「おお、それだと何だかしっくり来るな」
飯田「同じく。で、ヤキソバさんは?」
小林「リーダーなんだからヤキソバ隊長で決まりでしょ!」
松田「よし! じゃあそういう事でラーメン一等兵にギョーザ二等兵、早速買い出し宜しくお願いします! 僕は現場を下見して来ますので」
   小林、飯田、松田に敬礼し
小林・飯田「了解、ヤキソバ隊長!!」

〇同・外観(夕)

〇同・松田の部屋(夕)
   机上に並べられたライフル型エアガン、モンキーレンチ、ずた袋、卵10個入りパック、マジックセット。
   軍服姿の松田、赤いつなぎにオーバーオール姿の小林、サンタクロース姿の飯田が机を囲んでいる。
   飯田、挙手して
飯田「ヤキソバ隊長、質問! 我々のこの格好はどういった意味合いがあるのでしょうか?」
松田「よくぞ聞いてくれました。今月はハロウィン月間という事で逃走中に巷の仮装行列に紛れ込んで警察の目を欺く作戦なんです」
飯田「なるほど! なんちゅー天才的発想でありますか!」
   小林、挙手して
小林「俺、前の職場で似た格好で仕事してたんで、何だかもう一工夫欲しいっす」
   松田、小林に赤いハンチング帽と付け髭を渡す。
松田「そんな事もあろうかとちゃんと用意しときましたよ」
   小林、ハンチング帽を被り、付け髭を着けて松田に敬礼する。
小林「助かります!」
   飯田、挙手して
飯田「またまた質問! ヤキソバ隊長、この卵って何に使うのですか?」
松田「ふっふっふ……そいつはですね」
   松田、パックから卵を取り出し、マジックで次々と色を塗って行く。
小林・飯田「?」
   ×   ×   ×
   カラフルに塗られてパックに戻された卵の数々。
小林「なんすかコレ?」
飯田「食べ物を粗末にしちゃあいけませんぞ」
松田「これはコンビニのレジ付近に置いてある色付きの液体が入ったボールのレプリカだと思って下さい」
小林「おお!」
飯田「すごい、そっくりだ!」
松田「もし店員があのボールを投げ付けて来た時、当たって身体中に色が付いてしまっては逃走に支障が出ます。これからこのレプリカを使って避ける練習をしたいと思います」
小林「マジっすか!?」
飯田「すごい、本格的だ!」
   松田、色付き卵を手に取り
松田「じゃあ最初にラーメン一等兵、行きますよ!」
   立ち上がり、小林に向かって色付き卵を振りかぶる松田。
小林「ひぃ!」
   立ち上がり、身構える小林。
   松田、卵を投げ付ける。
小林「うわあ!」
   パキャっと小林の額に当たって割れる卵。
松田「次はギョーザ二等兵、行きますよ!」
飯田「ええ!?」
   立ち上がり、身構える飯田。
   松田、飯田に卵を投げ付ける。
飯田「うひゃあ!」
   パキャっと飯田の額に当たって割れる卵。
松田「次から次へと行きますよ! さあ、ラーメン一等兵とギョーザ二等兵も僕に思い切り投げて下さい!」
小林「よっしゃ、やってやる!」
飯田「負けませんよ!」
   濃厚卵白の滑り気でズッコケながらも夢中で卵を投げ付け合う一同。

○同・ベランダ(夜)
   物干し竿に干してある軍服、赤いつなぎ、サンタの衣装。

〇同・松田の部屋(夜)
   ランニングにブリーフ姿でシャドーボクシングをしている小林。
   ダボシャツに股引姿でラジオ体操をしている飯田。
   Tシャツにトランクス姿の松田、
   真剣な眼差しで机上に広げた地図に逃走ルートをマジックで書き入れている。
   小林、シャドーボクシングを止めて
小林「ヤキソバ隊長、腹減った!」
飯田「ヤキソバ隊長、私もです」
   松田、マジックを置き
松田「よし! 腹が減っては戦は出来ませんから飯食いに行きましょう!」
   挙手する小林と飯田。
松田「?」
小林・飯田「卵料理だけは勘弁して下さい!」
   指で丸を作りニッとする松田。

〇中華料理屋「一番」・店前(夜)
   顔を赤くして出て来る松田、小林、飯田。

〇商店街(夜)
   肩を寄せ合い千鳥足で歩く松田、小林、飯田。
小林「いやーヤキソバ隊長の抜かりない完璧な作戦、惚れ惚れしちゃう!」
飯田「頼もしい限りですなあ。よっ、大将……じゃなくて隊長!」
松田「ラーメン一等兵とギョーザ二等兵も中々飲み込みが早くてさすが年の功って感じですよ!」
小林「あらやだ、お上手ねえ!」
飯田「よっ!(手拍子)」
松田「稼ぎまくるぞー!」
小林・飯田「おー!」
   ネオンに消える和気藹々とした一同の後姿。

〇松田の住むアパート・外観(夕)
T『決行当日』

〇同・松田の部屋(夕)
   机上に並べられたライフル型エアガン、モンキーレンチ、ずた袋。
   それぞれの衣装をリュックに詰めている松田、小林、飯田。
松田「それじゃ皆さん、ご自分の武器を取って下さい」
小林・飯田「ラジャー」
   小林、ライフル型エアガンに手を伸ばす。
松田「ちょっとラーメン一等兵! それは僕の武器ですよ!」
小林「え?」
   松田、モンキーレンチを小林に渡す。
松田「配管工の武器といったらモンキーレンチに決まってるでしょう!」
小林「ら、ラジャー!」
   飯田、挙手して
飯田「質問! 私の武器が見当たらないのですが……」
   松田、ずた袋を飯田に渡す。
松田「サンタクロースの武器はこいつで決まりでしょう!」
飯田「……って、こんなヒラヒラの袋一枚でどうやって戦えというのですか?」
松田「この袋にレジを丸ごと突っ込んでぶん回すんですよ!」
飯田「なるほど! そりゃあ当たったらとっても痛そうですなあ」
   一同、せっせと武器をリュックに詰め込む。
松田「皆さん、準備オーケーですか?」
   小林と飯田、松田に敬礼し
小林・飯田「オーケーであります!」
   松田、拳を掲げ
松田「ゴーゴー、強盗!」
   小林と飯田、拳を掲げ
小林・飯田「ゴーゴー、強盗!!」
   部屋を出る一同。

〇コインランドリー・外観(夜)
   無人のコインランドリーにパクったチャリで駆け付ける松田、小林、飯田。

同・入口~内(夜)
   松田、地面に落ちている小石を拾う。
松田「ちょっとラーメン一等兵、自動ドアの前を素通りして下さい」
小林「ラジャー」
   自動ドアの前を素通りする小林。
   自動ドアが開く。
   と、小石を中に目掛けて勢い良く投げる松田。
   中の防犯カメラに豪速の小石が当たって割れる。
飯田「お、ナイスピッチング!」
松田「昔、野球やってたんです」
   中に入る一同。

〇同・内(夜)
   テーブルの上で荷物を広げ、それぞれ着替える松田、小林、飯田。
   ×   ×   ×
   軍服姿でライフル型エアガンを掲げる松田。
   赤いハンチング帽と付け髭、赤いつなぎにオーバーオール姿でモンキーレンチを掲げる小林。
   サンタクロース姿でずた袋を掲げる飯田。
松田「準備オーケーですね? ラーメン一等兵にギョーザ二等兵?」
小林・飯田「オーケー!」
松田「あ、そうそう」
   ポケットを弄る松田。
松田「これ、持ってて下さい」
   松田、小林と飯田に名刺を渡す。
小林・飯田「?」
小林「!」
   小林の名刺に『株式会社ナンバーワン・製造部門主任・小林茂』と記載がある。
飯田「!」
   飯田の名刺に『株式会社ナンバーワン・警備部門主任・飯田友則』と記載がある。
小林「ヤキソバ隊長、これって?」
飯田「主任だなんて、うひひ……」
松田「万が一捕まってニュースになった時、無職じゃカッコ悪いじゃないですか」
   松田、小林と飯田に『株式会社ナンバーワン・代表取締役社長・松田学』と記載のある名刺を見せる。
小林「さすがヤキソバ隊長!」
飯田「ありがたや~!」

〇コンビニ「ハッピーマート」・外観~店内(夜)
   物陰でコンビニの様子を窺っている松田、小林、飯田。
   松田、小石をコロコロと手の平で転がしながら
松田「あと一人客が出て来たら決行しますよ!」
小林・飯田「ラジャー!!」
   と、客が出て来る。
松田「よし。ラーメン一等兵、ゴー!」
   小林、駆け足で自動ドアを素通りする。
   松田、小石を中の監視カメラ目掛けて放り投げる。
   店内の監視カメラに豪速の小石が当たって割れる。   
   店内に駆け込む松田と飯田。
小林、『只今、自主制作映画の撮影を行っています。恐れ入りますが他のコンビニをご利用下さい。』の看板で自動ドアを塞いで追従する。

〇同・店内(夜)
   松田、ライフル型エアガンをレジカウンターの女性店員に突き付け
松田「変なマネはやめて下さいよ!」
女性店員「(怯えて)てててててっ」
松田「ギョーザ二等兵、レジを早く!」
飯田「ラジャー!」
   飯田、レジをずた袋に詰めようとする。
飯田「や、ヤキソバ隊長! 緊急事態発生!」
松田「どーしました!?」
飯田「これ、台にガッツリ固定されてますよ!」
松田「ええ?」
小林「俺にまかせろ!」
   小林、モンキーレンチで固定部を外そうとする。
   プラスネジで四方固定されているレジ。
小林「ヤバい! これじゃどーにもできねー!」
松田・飯田「えええ!?」
女性店員「(絶叫)てててててっ、テンチョー!」
   バックヤードから店長の鬼頭隆盛(36)がやって来る。
鬼頭「あ~ん、どーしたあ?」
女性店員「ててててテンチョ―助けてええええー!」
鬼頭「!?」
   松田、鬼頭に銃口を突き付け
松田「恵まれない大人達に真心の寄付を!」
鬼頭「……」
   レジの取り外しにもたついている小林と飯田。
松田「そうだ、あなた店長ですよね? レジ開けて中身全部袋に詰めて下さいよ!」
鬼頭「……」
松田「店長、早く!」
鬼頭「お前……松田か?」
松田「え?」
鬼頭「松田だよな……野球部で一緒だった?」
松田「え? お、鬼頭キャプテン?」
鬼頭「そうだよ! 久しぶりだな!」
松田「鬼頭キャプテンが店長?」
鬼頭「お前、何やってんだよ?」
松田「……」
小林・飯田「ヤキソバ隊長?」
   銃口を弱弱しく下げる松田。

〇同・事務室(夜)
   テーブルに置かれた武器を前に弱弱しくパイプ椅子に座っている松田、小林、飯田。
   彼らの前で、神妙な面持ちで腕組して上等のチェアーに座っている鬼頭。
松田「……ってな訳で、もうどうしようもなくって」
鬼頭「……」
   小林と飯田、ヒソヒソと
小林「ヤキソバ隊長、どうしちゃったんだよ?」
飯田「何やら過去に師弟関係があったらしいですな」
鬼頭「……ったくお前ってヤツは、いつからそんなへなちょこ野郎になっちまったんだよ?」
松田「……」
鬼頭「昔は骨のあるプレー見せてくれたのによお……」
松田「……」
鬼頭「思い出せよ、千本ノックの苦しみを! 思い出せよ、試合に負けた時の悔しさを! 厳しさの中に何か熱いものを感じた筈だよな、俺達?」
   鬼頭、すっくと立ち上がり、松田の胸ぐらを掴むと胸元の『店長』と記載のあるネームプレートに引き寄せる。
鬼頭「社会に出ても同じだ! 厳しい部活動だと思ってがむしゃらに頑張れよ! その先にささやかな幸せが待ってんだよ!」
   松田、ハッとした表情で顔を上げる。
松田「鬼頭キャプテン……」

〇同・店員出入口(夜)
   出て来る松田、小林、飯田。
   見送りに出て来る鬼頭。
鬼頭「俺達の青春はまだ続いてる! 諦めんなよ!」
松田「鬼頭キャプテ……ん長!」
鬼頭「あ、そうだ。ちょっと待ってて」
   店内に戻る鬼頭。
松田・小林・飯田「?」
   立ち尽くす一同。
小林「ヤキソバ隊長、鬼頭店長って凄く熱い男っすね」
松田「ええ。なんたって当時のあだ名がマグマでしたからね」
飯田「そして菩薩様のように心の広いお方でもありますねえ。見逃してくれるのだから……」
   戻って来る鬼頭、手には弁当と缶ビール500mlが敷き詰められたコンビニ袋三人分が握られている。
鬼頭「ほらよ! 早めに食ってくれ!」
   袋を一同に渡す鬼頭。
松田「鬼頭店長! ありがとうございます!!」
小林「お! 三日分はあるぞ!」
飯田「うひひ。ありがたやありがたや~」
   鬼頭に会釈して歩み出す一同。 
   と、鬼頭の手にはカラーボールが握られている。
鬼頭「松田!」
松田「(振り向く)?」
   ゆっくりとしたフォームで振りかぶる鬼頭。
   ハッとした表情の松田、反射的にライフル型エアガンをバットに見立てて構える。 
   カラーボールを松田に向かって投げる鬼頭店長。
   ライフル型エアガンを思い切り振る松田。
   渾身のサヨナラホームラン。
鬼頭「ナイスホームラン!」
松田「ナイスピッチング!」
   歓声を上げる小林と飯田。
   晴れ晴れとした表情で店を後にする一同。

〇街路(夜)
   チャリのカゴにコンビニ袋を入れて滑走する松田、小林、飯田。
   挙手する飯田。
飯田「ヤキソバ隊長! 腹減ったであります!」
   挙手する小林。
小林「ヤキソバ隊長、俺も!」
松田「もうその呼び名やめましょうよ」
小林・飯田「え?」
松田「このチームは今夜限りで解散したんですよ」
小林・飯田「(悲し気な表情)……」

〇公園(夜)
   ベンチに座り、弁当を食べながら缶ビールを飲む松田、小林、飯田。
小林「しかし明日からどーするよ?」
飯田「私、成功報酬を当てにして歯医者に入れ歯をおニューにする予約してたんですが、明日一番でキャンセルせにゃいかんです」
松田「はあ……」
   松田、缶ビールを一気に飲み干し、コンビニ袋からもう一本缶ビールを取り出す。
松田「ん?」
   コンビニ袋の奥を覗き込む松田。
   松田、コンビニ袋の底から無料求人誌を取り出す。
松田「(瞳を輝かせ)鬼頭キャプテン……」
小林・飯田「お?」
   それぞれコンビニ袋の底から無料求人誌を取り出す小林、飯田。
   小林、パラパラと求人誌を眺めて
小林「はぁ~、背に腹は代えられねえか~」
  飯田、パラパラと求人誌を眺めて
飯田「お! この求人誌、履歴書が付いてますぞ。中々気が利いてますね~」
   すっくと立ち上がる松田。求人誌を筒状にしてバットに見立ててバッティングフォームを作る。
松田「バッチコイですよ!」
   松田に倣い、すっくと立ち上がって筒状求人誌でバッティングフォームを作る小林、飯田。
小林「バッチこぉ~い!」
飯田「バッチリ来てくだされ~!」
   童心に帰ったかのような歓声を上げる一同。

〇街路(夜)
   松田を先頭にチャリで滑走する小林、飯田。
   と、急ブレーキをかける松田。
小林・飯田「!」
   松田に倣い、急ブレーキをかける小林と飯田。
小林「どったのヤキソバ……いや松田君?」
松田「(前方を指差し)あれ……」
小林・飯田「?」
   と、前方から老若男女問わず多種多様なコスプレをしたハロウィン仮装集団の行列の波が迫って来る。
飯田「ややや! 何奴?」
松田「そういやハロウィンでしたね」
   あっという間に活気溢れる和気藹々としたムードのハロウィン仮装行列に巻き込まれてしまう松田達。
小林「うわ~! なんだか皆、楽しそうだな~」
   お祭り騒ぎの中で、ギャルの乳やケツが身体中に当たる松田達。
飯田「むむむ! 私、若返って来ましたぞ!」
小林「こいつぁ~いいや~」
松田「正に青春ってカンジですね!」
   童心に帰ったかのようにはしゃぎ、チャリを乗り捨てて行進を共にする松田達。
飯田「そう言えばハロウィンのウィンって単語、英語で勝つだから、ハローとウィンでハローワークで勝つってなりません?」
小林「え? そうだったの?」
飯田「私、こう見えても英検準2級持っているのです!」
小林「やるじゃん、飯田の爺さん。見直したぜ!」
松田「さすが飯田さん、伊達に歳食ってないですね~!」
飯田「わはは! (力こぶを作り)まだまだこれからですぞ!」
   と、求人誌を空高く掲げる松田。
松田「はっぴーハローウィン! はっぴーハローウィン!」
   松田に倣って求人誌を空高く掲げる小林と飯田。
小林・飯田「はっぴーハローウィン! はっぴーハローウィン!」
   ハロウィン行列の躍動の中で、生きる希望を見出したかのような瞳の輝きを見せる松田達。
   夜通し行進は続く。

(完)

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