イチゴミルクのように愛して 恋愛

初恋をやり直したい。そう思ったのは結婚13年目の出来事だった。 時間と共に薄れていく妻に対する愛情、そして大好きだったイチゴミルクの味。 七夕の夜、突如現れた少女によって高校時代にタイムリープした保は、全てをなかったことにし、初恋をやり直そうと缶コーヒーのボタンを押した――。
金田 萌♤ 15 0 0 09/10
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第一稿

🍓イチゴミルクのように愛して🍓

【登場人物】
・雨宮保(17・31・35)…高校二年生
・笹村雪乃(17・31・35)…保の同級生
・津山隼人(17・31・35)…保の ...続きを読む
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🍓イチゴミルクのように愛して🍓

【登場人物】
・雨宮保(17・31・35)…高校二年生
・笹村雪乃(17・31・35)…保の同級生
・津山隼人(17・31・35)…保の親友
・雨宮琉星(4・8)…保と雪乃の息子
・雨宮佳子(47)…保の母
・響生(25)…保がナンパした美女
・神宮真白…ナンパした少女
・教員
・警官




〇 函館第一高校・自動販売機前(朝)
  休み時間、賑わう学生たち。
  制服姿の雨宮保(17)、自販機に金を入れ、イチゴミルクのボタンを押す。
  保、落ちてきた飲み物を取り出す。
保 「……え?」
  中から出てきたのは缶コーヒー。
  保、イチゴミルクのボタンを何度も押すが、何も起こらない。
  保、戸惑っていると、後ろに並んでいた笹村雪乃(17)と目が合う。
保「すみません、どうぞ」
  その場を去ろうとする保。
雪乃「待って!」
  イチゴミルクを買う雪乃。
雪乃「(保に差し出し)交換しない? 私、そっち飲みたいから」
保 「……いいの?」
雪乃「うん」
保 「ありがとう。コーヒー飲めなくて困ってたんだ」
  飲み物を交換する二人。
雪乃「同じクラスの雨宮くんだよね? 意外に可愛いの飲むんだね。イチゴミルクなんて」
  保、ムッとして。
保 「笑わないでよ。一度飲んだら止められないくらい美味しいのに……」
雪乃「(ボソッと)知ってる」
保 「(聞き取れず)ん?」
雪乃「雨宮君がそこまで言うなら、きっとすごく美味しいんだろうな、って」

〇 同・教室(夕)
  誰もいない教室。窓側の自席に着き、校庭の部活の様子を眺める保。
隼人の声「保、お待たせ」
  津山隼人(17)が入ってくる。
保 「ずいぶん遅かったね、隼人」
隼人「ああ、もうすぐ試合なんだよ。悪いな。あのさ、今日、雪乃も一緒にいい?」
保 「雪乃?」
  保、扉を見ると雪乃が入ってくる。
保 「委員長……」

〇 通学路(夕)
  空は少し曇っている。
  左手には閉じた傘を持っている雪乃。
  保、隼人、雪乃、横一列に並んで歩き、楽しそうに笑っている。
  ×  ×  ×
隼人「俺、用あるからこっち行くわ」
  分かれ道。手を振って去っていく隼人。
保 「うん。また明日」
雪乃「じゃあね」
  保と雪乃の間に沈黙が流れる。
保 「……行こっか」
雪乃「うん」
  ×  ×  ×
  保と雪乃、横の距離を保って歩く。
  俯き気味の保、固唾をのむ。
保 「笹村さんてさ、男バスのマネージャーだったんだね」
雪乃「うん……」
  再び沈黙し、気まずそうな保。
  と、保の視界に自動販売機が入る。
保 「ごめん。ちょっと、寄ってもいい?」

〇 路上・自動販売機前(夕)
  保、イチゴミルクを拾い上げる。
保 「お待たせ」
雪乃「私も飲みたい」
  雪乃、財布を開くが空っぽ。
保 「あ、奢るよ。缶コーヒーだっけ?」
  保、自販機にお金を入れる。
雪乃「……ううん、雨宮くんと同じの」
  振り返る保に微笑む雪乃。
  雨がぽつぽつと降り始める。 
保 「(空を見上げる)……」
 
〇 通学路(夕)
  本格的に雨が降っている。
  相合傘する二人、手にはイチゴミルク。
保 「笹村さんが初めてだよ、この美味しさに共感してくれたの」
雪乃「だって、雨宮くんの目が本気だったんだもん。気になるよ、どんな味なのか」
保 「隼人にも言ってやってよ。子供っぽいって、いつもからかわれるし」
雪乃「私はそんなこと思わないけどな。第一、好きなものを好きって言って何が悪いの? 自分が自分であり続けられる雨宮くんは正直で真っすぐな人だよ」
  ブオーブオーというカエルの鳴き声。
  道の端には数匹のウシガエルが。
保 「あっ、見て。ウシガエル」
雪乃「嫌だっ。私、カエル苦手」
保 「僕も昔はダメだった。でもよく見ると案外可愛いよ」
雪乃「うーん、抵抗あるな。オタマジャクシなら可愛いって思えるんだけど」
保 「確かに。あんな小さかったのがここまで大きくなるなんて、なんだか不思議だよね」
  分かれ道で立ち止まる保と雪乃。
保 「傘ありがとう。助かったよ」
雪乃「(保の手を押し返し)あっ、いいの。もってって」
保 「だってこれないと笹村さんが――」
雪乃「私は大丈夫。折り畳み傘持ってきたの。だから遠慮なく使って」
保 「……本当にいいの?」
雪乃「うん。じゃあ私、あそこのコンビニ寄っていくから」
  雪乃、近くのコンビニに走る。
雪乃「(振り返り)また一緒に帰ろうね」
保 「うん」
  歩きだす保、傘の柄を握りしめる。

〇 タイトル
  『イチゴミルクのように愛して』

〇 居酒屋・カウンター席(夕)
T『18年後』
  スーツ姿の雨宮保(35)、タバコを離し、口から煙を吐く。
  保の隣に座っている津山隼人(35)、灰皿にたまった煙草を見ている。
隼人「おい保。これじゃ家族に害だろ? 止めた方がいいんじゃねーか?」
保 「簡単に言ってくれるけど、一度吸ったら止められないくらいうまいの、これ」
  隼人、ジョッキの中のビールを飲み干す。
隼人「はぁ~。八年見ないうちにずいぶん変わったな」
保「八年経つのに変わらない方がおかしいだろ」
隼人「まぁでも、お前とまた飲めるのは嬉しいことだ」
保 「まさか転勤なんてね。またこっちに戻ってくるなんて思わなかったよ」
隼人「おいおい、地元愛は欠片もねーんだ?」
保「都会の便利さ体験したら、誰だってそうなる」
  保が吐いた煙が隼人の顔にかかる。
  隼人、煙を手で仰ぎ。
隼人「なぁ、それだけ吸ってて、健康診断引っかからないわけ?」
保 「今のところ何ともないけど。隼人こそ、人のこと心配する前に自分のアル中治したら?」
隼人「俺はいいんだよ、迷惑かける家族いないし。そういえばさ、保の息子、琉星くんだっけ? 写真見せてよ」
保 「いいけど、面白くもなんともないぞ」
隼人「どっちに似てるの? やっぱり雪乃?」
保 「いや、九割俺だけど」
隼人「なんだ。つまんねー」
 近くの店員を呼び止め。
隼人「(空のジョッキを渡し)生、おかわり」

〇 雨宮家・外観(夕)
  住宅街にたたずむ一軒家。

〇 同・リビング(夕)
  机の上には豪華な食事。
  雨宮琉星(8)、着席し、不満そうな顔。
琉星「パパ、いつ帰ってくるの?」
  雨宮雪乃(35)、机の上にホールケーキを運ぶ。チョコプレートには『お誕生日おめでとう』の文字。
雪乃「きっともうすぐ帰ってくるよ」
琉星「……お腹すいた」
  琉星、机にぐったりと伏せる。
雪乃の声「琉星」
  顔を上げる琉星にプレゼントを渡す。
雪乃「開けていいよ」
  琉星、包みを剥がすとバスケットボール。
  表情がパッと明るくなる琉星。
琉星「ありがとう! 明日パパと遊ぶ!」
雪乃「うん。じぁあ、パパが来るまでもう少し待てる?」
琉星「うん!」
  雪乃、琉星を優しくなでる。
  外から子供たちの歌声が聞こえる。
琉星「なんか聞こえるよ」
雪乃「そっか。琉星はこっちの七夕初めてだもんね」

〇 住宅街(夕)
  浴衣を着た子供たちが歌を歌いながら民家を尋ね、お菓子をもらっている。
雪乃の声「函館ではローソク貰いって言ってね、子供が近所のお家に行って歌を歌うの。そうするとお菓子が貰えるんだよ」

〇 雨宮家・リビング(夕)
雪乃「ハロウィンみたいでしょ?」
琉星「だからお菓子いっぱいあるの?」
  琉星、端に置かれたビニール袋を指さす。
雪乃「覗き見した悪い子にはお仕置きだっ」
  琉星をくすぐる雪乃。
  キャーっと声を上げて笑う琉星。

〇 保のスマホ画面
  保、雪乃、琉星が写る家族写真。 

〇 居酒屋・カウンター席(夕)
隼人「可愛い! 何が九割俺だよ。十分雪乃の面影あるじゃんか」
保 「これ、三年前の写真だから」
隼人「じゃぁ今はもっと大きいんだ。何歳?」
保 「今? 今月が誕生日だから――」
隼人「……どうしたんだよ」
保 「……今日で八歳」
隼人「おいおい、こんなところにいたらまずいじゃねーか」
  保、雪乃のラインを開くと『琉星が待ってる。何時に帰る?』と連絡が。
保 「……いいんだよ」
隼人「いや、普通にダメだろ」
  保、ため息をつくとスマホをしまう。
保 「雪乃と結婚してから十三年経つんだけどさ、正直冷めたというか。琉星が生まれてから、女として見れなくなったんだよね」

〇 (回想)会社・内
  スーツ姿の保と話している社員の女性。保、デレデレしている。
保の声「社会人になって、お金入るとさ、それなりにいい女が寄ってくるわけ」

〇 東京・街中
  保、スーツの店に入っていく。
   ×  ×  ×
  ショーウィンドウの腕時計を見ている保。
保の声「最近は特にそれを痛感してさ、思うんだよ」

〇 会社・内
  上物のスーツ、高級腕時計をつけている保。  
  女性社員たちに囲まれている。
  デレデレしている保。
                                     (回想終わり)

〇 居酒屋・カウンター席(夕)
保 「あぁ、なんであの時の俺、早まった? もう少し遊んでから結婚してもよかっただろ、ってな。要するに後悔してんだよ、雪乃と結婚したこと」
  顔が真っ赤な隼人、保の胸倉をつかむ。
隼人「お前、それ本気で言ってんの?」
保 「……何でお前がキレんだよ」

〇 雨宮家・リビング(夜)
  時計は二十一時を指している。
  琉星、ソファーで熟睡している。
  床には大量のお菓子のゴミ。
  着席し、スーツのままお菓子を貪る保。
雪乃の声「たっちゃん、帰ってたんだ」
  保、振り返るとお風呂上がりの雪乃の姿。
  床に落ちているゴミを拾い集める雪乃。
保 「隼人のこと覚えてるだろ? 東京にいる間会えなかったから、飲みに誘われたんだよ。久しぶりだったからすっごい盛り上がっちゃって」
雪乃「……言いたいことはそれだけ?」
保 「……」
雪乃「琉星、たっちゃんが帰ってくるの、ずっと待ってたんだよ? 本当はロウソク貰い行きたかったのに、パパが帰ってきたら困るからって」
保 「ロウソク貰い……そんなのあったな」
雪乃「……たっちゃん変わったよ。私はただ、昔みたいに楽しく過ごしたいだけなのに。私、何かした? たっちゃんが嫌がるようなことしたかな?」
保 「……雪乃は何も悪くない」
雪乃「だったら――」
保 「どうしようもないだろ。いつまで浮かれてんだよ。ずっと結婚した時のままでいれると本気で思ってんの?」
雪乃「私は……今も変わってないよ。変わったのは――」
  保、腕を横に振り付け、卓上にあった紙パックを倒す。
  こぼれたイチゴミルクが床に広がる。
保 「もういいだろ。うざい」
琉星の声「パパ?」
  ソファーの上からこちらを見ている琉星。
  雪乃、琉星に近寄り抱きしめる。
雪乃「ごめんね、大丈夫だから」
  インターホンの音が鳴る。
  舌打ちをする保。
  保、インターホンの画面を見るが、誰も映っていない。

〇 同・玄関(夜)
  保、玄関の扉を開けると、そこには白い甚平を着た小学校低学年くらいの少女が立ってい る。
保 「えーっと、ローソク貰い?」
  少女、突然歌いだす。
少女「竹に短冊七夕祭り 大いに祝おう ローソク一本ちょうだいな」
保 「……お菓子だよね?」
少女「……」
保 「悪いんだけど、さっき全部食っちゃって。別のお宅行ってもらえる?」
  少女、雨宮家の玄関内を指さす。
少女「ロウソク欲しい」
  保、指さす方を見る。すると玄関の下駄箱上にアロマキャンドルを見つける。
保 「(手に取って)これでいいの?」
  少女、コクリと頷く。
保 「はい」
  保、キャンドルを少女に手渡す。
少女「火、つけて」
保 「火?」
  保、ポケットからライターを取り出し、火をつける。
                                   (F・O)

〇 保の実家・保の部屋(朝)
  保、目を覚ますとベッドの上。
  起き上がり、辺りを見渡す保。
  ベッドにはスマホとライター、そして煙草が転がっている。
保 「実家……だよな?」

〇 同・リビング(朝)
  リビングに入る保。
保 「おはよう。母さん、あのさ――」
  食器を片付けている雨宮佳子(47)。
佳子「保! あんた遅刻でしょうが! 父さんもう出たわよ。あんたも早く学校行きなさい!」
保 「……学校? ってか母さん、なんか……若返った?」
佳子「口じゃなくて手を動かす!」

〇 同・保の部屋(朝)
  鏡に映る保、明らかに青年の姿。
保 「どうなってんだよ」
  壁に貼ってあるカレンダーを確認する。
  日付けは二〇〇五年六月。
  保、スマホで雪乃に電話しようとするも、使用できず。
  机の上にガラケーがあるのを発見。
保 「俺の?」
  写真フォルダを開くと、友達と写る保の写真が。
ガラケーで雪乃に電話をかけるも、つながらず。
  部屋の外から保を呼ぶ声がする。
佳子の声「保! 早くしなさい! 保!」
保 「あーもう、わかったから!」
   大きく深呼吸する保。
 と、部屋にかけてある制服に目がいく。
  ×  ×  ×
  制服姿の保、鏡の前に立つ。整えられ、校則に従った模範の恰好。
保 「クソださ」
  シャツのボタンをはずし、ネクタイを緩める。ワックスで髪を整えると、今時の高校生風に変わる。
保 「……とりあえず行くか」
  保、部屋を出ていく。
  部屋の隅に置かれているアロマキャンドルには火が灯っている。

〇 函館第一高校・自動販売機前(朝)
  お金を入れる保。
保 「なんか懐かしいな」
  イチゴミルクを押そうとした保。だがとどまり缶コーヒーを押す。
  コーヒーを片手に教室へ向かおうとする保。
保M「さて、これからどうする。どうやったら元の時代に戻れるか……」
  その時、高校生の雪乃(17) とすれ違う。
雪乃の声「えっ」
  保、振り返る。
保M「雪乃……」
保 「何?」
雪乃「いえ、なんでもないです」
  雪乃、去っていく。
保M「戻る……?」

〇 フラッシュ
雪乃「私は……今も変わってないよ」

〇 函館第一高校・自動販売機前(朝)
保M「……いや。いっそ、このまま戻らない方がいいのかもしれない」
  保、再び歩き始める。

〇 同・教室(朝)
  保、教室に入ると一同静まり返る。
  すぐさま保の元に駆けつける隼人(17) 。
保 「隼人じゃん」
隼人「(保を引っ張り)ちょっと来い」
  ×  ×  ×
  自席に着く二人。
隼人「お前、本当に保か?」
保 「そうだけど」
隼人「その恰好。お前、そんなことする奴じゃねーだろ?」
保 「だってクソダサかったから」
隼人「確かに、お前は今までイケてなかった。でもそれ以外もおかしいだろ」
  机上のコーヒーを手に取る隼人。
隼人「なんなんだよこれは」
保 「コーヒー飲んじゃ悪い?」
隼人「そうじゃない。いつものはどうしたかって聞いてんだよ?」
保 「……もしかしてイチゴミルクのこと? あんな子供の飲み物、誰が飲むかよ」

〇 同・体育館(夕)
  男子バスケ部が練習している。
  笛が鳴り、床に座る汗だくの隼人。
雪乃の声「お疲れ様」
  雪乃、保にドリンクを渡す。
隼人「ありがとう」
  雪乃、隼人の隣に腰を下ろす。
雪乃「今日びっくりしたね、雨宮君。なんかいつもと全然雰囲気違うというか」
隼人「あぁ。でもさ、今まであれだけ真面目だったんだし、疲れたんじゃねーの? きっとしばらくすれば元に戻るよ」
雪乃「三限で早退してたよね? 大丈夫かな……」

〇 大門横丁・道端(夕)
 私服姿の保、道端のチャラい女に話しかける。
保 「お姉さん、俺の理想の人にドンピシャなんです。今度一緒にご飯行きたいなって。連絡先、交換しません?」
  連絡先を交換する保。
保M「今ならやり直せる。無知で臆病だった俺はもういない」
  その後もたくさんの女と連絡先を交換する保。
  保、歩いていた美女の響生(25)に話しかけ、連絡先を交換する。
響生「ねぇ、今度なんて言わないでさ、今から遊びに行かない?」
保 「マジで⁉ じゃぁ、この辺でワインの美味しいお店があるんだけど、そこいかない?」
響生「行く!」
  保と響生、歩き始める。
保M「俺もこの三十五年、ただ生きてきたわけじゃない」

〇 (回想)函館第一高校・教室
  数時間前。授業中、ノートにデートプランをメモしている保。
  『ワインバー』『五稜郭タワーの夜景』『HOTEL』に丸印をつける。
                              (回想終わり)

〇 大門横丁・道端(夕)
保M「アバンチュールしてやる。そして何もかも上書きしてやるんだ。未来の家族も、今はもう思い出せないあの味も」
 自信に満ち溢れた顔の保。

〇 レストラン・店内(夕)
  不機嫌そうに食事している保。
保 「なんでファミレスなんだよ!」
  保の向かいで食事をとる響生。
響生「だって、高校生をワインバーに連れてくなんてできないじゃん」
保 「高校生じゃない。俺は大人だって」
響生「いいんだよ、背伸びしなくても」
保M「ダメだ、このままじゃ相手にされない。安い飯食わせて帰らせる気だ」
保 「はっ。なめんなよ。俺だって知ってるぜ? 大人の遊び方」
響生「ただの高校生だと思ったけど、意外と遊んでるんだ?」
保 「ま、まあな」
響生「ふーん、そこまで言うのなら最後まで付き合ってもらおうかな」

〇 響生のマンション・寝室(夜)
  ベッドの上で格闘する保と響生。
響生「なに? 怖気づいた?」
保 「そうじゃなくて」
響生「じゃあどうしたの?」
保 「いや、だって……」
  鎖やロウソクがたくさん置かれた部屋。
保 「結構ハードですよね?」
響生「私に任せてくれれば大丈夫」
保 「あの、一旦落ち着きましょう?」
響生「それは保くんだよ」
保 「ま、まずはシャワー浴びたいな」
響生「もう、焦らさないでよ」
保 「ははっ」

〇 函館・街中(夜)
  服が乱れた状態で猛ダッシュする保。
保M「冗談じゃない。俺がやり直したいのは、こんな恋じゃないんだよ」
  丁字路を曲がろうとした保、歩いてきた神宮真白とぶつかる。
  倒れる両者。起き上がった保、真白のもとに近づき手を差し伸べる。
保 「すみません。大丈夫ですか?」
  真白、童顔で一五〇センチくらいの女の子。
真白「……(保の手を取り)はい」
  真白が起き上がろうとしたとき、シャツの隙間から谷間が見える。
  保、それを見てゴクリと唾をのむ。

〇 ホテル・室内(夜)
  シャワーの音が聞こえる。
  保、ベッドに座り、頭を抱える。
保M「勢いで誘ったけど、まだ子供だよな? でも素直についてきたし……あの子、この状況わかってんのか?」
  バスローブを巻いて出てくる真白。
真白「浴びてきました」
保 「(優しく微笑み)こっちおいで」
  隣に腰を下ろした真白を押し倒す保。
  見つめあう二人。保の心拍数が上昇。
保M「思いのほか緊張するな。そりゃそうか、ここから俺の新しい人生が始まるんだから」
 保、ゆっくりと顔を近づけ、真白の唇に触れようとする。
真白「かわいそう。私も……あなたも」
  保、ギリギリのところで静止する。
保 「……は?」
真白「こうやって、互いに寂しさを癒すことしかできないの。誰にも愛されないって、そういうことでしょ?」
保 「……」
  保、起き上がりタバコを吸い始める。
保 「お前、何で付いてきた?」
真白「あなたみたいな人見るの、面白いから」
保 「ずいぶん悪趣味だな」
真白「……嘘。数時間前まで彼氏だった男に捨てられなければ、こんなところにいなかった。あの人、自分の会社の同僚と婚約したの。私、ちっとも愛されてなかった」
保 「ガキが大人の恋愛に首突っ込むからだろ」
真白「……そうかもしれない」
  保、真白の方を振り返る。
保 「案外素直なんだな」
  真白、保から煙草を取り上げる。
真白「ねぇあなた、本気で人に愛されたことある?」

〇 フラッシュ
  優しく微笑む高校生の雪乃。
雪乃「たっちゃん」

〇 ホテル・室内(夜)
保 「ある」
真白「本当に? 証拠見せてよ。愛されてたっていう証拠」
保 「そんなのあるわけないだろ」
真白「それじゃ、あなたが見え張ってるかもじゃん」
保 「だまれ。つまらない恋だったんだよ」
真白「恋がつまらなくなるのはこれからだよ。子供じゃできないことは沢山ある。だから皆、早く大人になりたがるの」

〇 通学路(夜)
  雨が降っている。
  それぞれ傘を差し、並んで歩く雪乃と隼人。途中自動販売機に寄ると、イチゴミルクを買う雪乃。
真白の声「だけど、教養と知識を得た私たちは、大人という別種の生物に変容する」
  道の端には数匹のウシガエルの姿。
  水たまりに入るも、すぐに飛び出る。
真白の声「無知ってある意味素晴らしいことだよ。でもそのうち、自由奔放に泳ぎ回っているわけにはいかなくなる」

〇 ホテル・室内(夜)
真白「そうしてさ、陸に足をつけて、教養とか常識とか言われるうちに色んなことを忘れてしまうの。自分たちが昔、水の中で楽しく泳いでいたことすらね」
  真白から煙草を奪い、口に銜える保。
  そして口から煙を吐く。
保 「あぁ、そうだ。恋なんてできるのは今のうちだ。結婚するとな、恋が愛に、愛が欲に、やがてそれすらも感じなくなる時が来る」
真白「そう、だから大人なんて大嫌い」
保 「そういうお前も、いつか大人になるんだよ」
真白「私はならない。だってピーターパンだもん」
保 「とんだ夢見少女だな」
  真白、お腹がグーッと鳴る。
真白「あはは。なんかお腹すいてきちゃった。ねぇ、お菓子持ってないの?」
保 「誰がこんなところにお菓子持ってくるかよ。女子会しに来たわけじゃねーんだ」
真白「えーっ」
  渋い顔の真白、ため息を一つつく。
真白「わかったよ。じゃぁ夜遅いし、私寝るから」
保 「(振り返り)はぁ⁉」
真白「子供は寝る時間なの。私ココで寝るから、あなたはそっちのソファーね」
保 「泊ってくのかよ?」
真白「私のお家、布団なの。ベッドで寝てみたかったんだ」
保 「勝手にしろ。俺は帰る。やっぱりガキ相手は無理だ」
真白「あ、逃げたら『助けて』って叫ぶから。一人じゃ寂しいんだもん。朝まで一緒にいてよ」
保 「このクソガキ……」

〇 同・外観(朝)
  夜が明けていく。

〇 同・室内(朝)
  保、目覚めると真白の姿がない。
  机には名前と連絡先が書かれたメモが。
保「……」

〇 フラッシュ
真白「証拠見せてよ。愛されてたっていう証拠」

〇 ホテル・室内(朝)
  スマホを取り出し、三人で撮った家族写真を開く保。
保M「俺は……愛されてた」

〇 函館第一高校・校門 (朝)
  次々と門の中へ入る生徒たち。
  保、校門を通り抜ける。
保M「絶対に、愛されてた」

〇 同・自動販売機前(朝)
  お金を入れ、コーヒーを買う保。

〇 同・教室(朝)
  自席に着き、缶コーヒーを飲む保。
隼人の声「おはよう」
  保の目の前に現れたのは隼人と雪乃。
保 「っ! 雪乃」
隼人「雪乃、保と友達だったの?」
雪乃「えっと……」
保 「え、あっ、ほら、隼人がよく雪乃って呼ぶからつられちゃって」
雪乃「これ、昨日の授業のノート。雨宮君、早退しちゃったでしょ?」
 保、プリントを受け取る。
保 「これ、笹村さんのノート?」
雪乃「うん。一応クラスの委員長だから」
保 「(ボソッと)変わんねーな、そういうとこ」
雪乃「ん?」
隼人「保、こんなに心が広いの雪乃だけだぞ? 感謝しろ」
保 「あーうん。ありがと」
雪乃「お節介だったらごめんね」
  雪乃、去っていく。
保「あ、待って笹村さん」
  振り返る雪乃。
保「お礼に何かさせて。これだけしてもらったのに悪いよ」
雪乃「気にしないでいいから」
  保、手元のコーヒーを見つめる。
保「飲み物、何か奢る」
隼人「遠慮すんなよ雪乃、こういう時は素直に奢られといた方がいいぞ」
保「買ってくる。缶コーヒーでいい?」
雪乃「……イチゴミルク」
保「えっ?」
隼人「えっ、じゃねーよ。早速買いに行け」
  隼人に背中を叩かれる保、立ち上がり教室を出ていく。

〇 同・体育館・外(夕)
  部活終わり。
  雪乃、体育館から出ると部活着の隼人が。
隼人「お疲れ」
雪乃「隼人くん」

〇 通学路(夕)
  並んで歩く雪乃と隼人。
雪乃「今日はありがとう」
隼人「お礼されるようなことしたっけ?」
雪乃「実はさ、前から雨宮君と話してみたい
って思ってたの」
隼人「保と?」
雪乃「うん」
雪乃と隼人、自動販売機に差しかかる。
雪乃「あ、寄ってもいい?」
隼人「おう」
  雪乃、イチゴミルクを買う。
  その姿を見て不満そうな表情を浮かべる隼人。
隼人「雪乃ってさ……それ、好きだよな」
雪乃「うん。二年位前からずっとだよ。美味しいって勧めてくれた人がいて――」
隼人「それってさ……保?」
  雪乃、顔を真っ赤にする。
雪乃「うん」
  隼人、思わずこぶしに力が入る。

〇 保の実家・保の部屋(夜)
  勉強机に着き、雪乃からもらったプリントを眺める保。
保「初対面の俺にこんなこと。誰にでもいい顔するお人好しじゃねーか」
  卓上にあるスマホの通知音が鳴る。

〇 保のガラケー画面
  隼人からのメール。
  『明日から、雪乃も一緒に登校したいって!』

〇 保の実家・保の部屋(夜)
  ガラケーを放り投げ、ため息をつく保。
保M「惚れさせてやるよ。それから遊びまくってやる。んで、最後には……」
  保、雪乃からもらったプリントを丸めてゴミ箱に放り込む。
保M「捨ててやる」

〇 保・雪乃・隼人の点描(六月三日)
  黒板の日付、六月三日。
  保、雪乃と隼人が待つ合流地点に到着し、挨拶を交わす。
  ×  ×  ×
  昼食時。お弁当を持つ保と隼人、自席に座る雪乃の元へ。
  ×  ×  ×
  学校帰りに繁華街で女と遊ぶ保。

〇 保・雪乃・隼人の点描(六月十日)
  黒板の日付、六月十日。
  保と隼人、体育でバスケをしている雪乃を応援している。
  ゴールを決め、二人に手を振る雪乃。
  ×  ×  ×
  学校帰りに繁華街で女と遊ぶ保。

〇 保・雪乃・隼人の点描(六月十五日)
  黒板の日付、六月十五日。
  保と雪乃、共に写真を撮っている。
  楽しそうな二人を遠くから眺める隼人。
  昼食を一緒に食べる保、雪乃、隼人。
  隼人、笑顔がぎこちない。
  ×  ×  ×
  学校帰りに繁華街で女と遊ぶ保。
  その姿を偶然目撃してしまう雪乃、暗い表情。

〇 函館第一高校・教室(夕)
  黒板の日付、六月二十日。
  授業中。保、自席でガラケーをいじる。
  雪乃と撮ったツーショット写真を見ている保、含み笑いをする。
  真白からもらったメモを取り出す。
保「あいつに送り付けてやるか」
  ×  ×  ×
  教室には数人の生徒が残っている。
  自席で日直日誌を書いている保。
すると保のガラケーに着信が入る。
保「はい?」
女の声「もしもし保? 今日の夜合コンやるんだけどさ、男子二人足りないの。友達誘って来てくれない?」
  ×  ×  ×
  電話を切る保。
保「(体育館を一瞥し)待ってるか」
  そこに教員が入ってくる。
教員「雨宮。トイレ掃除は日直の仕事だぞ」

〇 同・体育館前(夕)
  電気が消えた体育館の前に立つ保。
保「マジか……」
  保、諦めて帰宅し始める。
  と、遠くに隼人らしき人を発見。
  走り出す保。

〇 通学路(夕)
  隼人との距離を保ってついていく保。
  隼人の隣には雪乃の姿。
保M「雪乃の前で合コンの話もな……」
  前を歩いていた雪乃と隼人、自動販売機の前で止まる。
  隼人、イチゴミルクを二つ買い、一つを雪乃に手渡す。
保「自分だって飲んでんじゃんか」
  その時、保の顔を水滴がかすめる。

〇 コンビニ・外観(夕)
  本格的に雨が降っている。
  ビニール傘をもって出てくる保、傘を差して雪乃と隼人を追いかける。

〇 通学路(夕)
  相合傘する二人を遠くに見つける保。
  走っていると、ブオーブオーという鳴き声が。端を見ると、数匹のウシガエル。
保M「あの日……なのか?」

〇 フラッシュ
 二人で相合傘し、カエルを見る当時の保と雪乃。

〇 通学路(夕)
  保、さらに二人を追いかける。
  分かれ道で立っている二人を発見し、距
  離を取ったまま、保も立ち止まる。
  コンビニの入り口まで走る雪乃。
  雪乃の傘を差した隼人、雪乃に手を振り去っていく。
  保、ため息をつき、隼人の後を追おうとする。
  その瞬間、大雨の中、鞄を傘代わりにして歩き始める雪乃。
保M「は? あいつ傘は――」
  反対の道を歩く隼人に目をやる保。
保M「バカか!」
  雪乃の元へ駆け出そうとする保。
  しかし、思いとどまる。
保M「あいつのとこ行けば、送り届けることになんじゃねーか」
  隼人の方へ向きを変え、歩き始める保。俯き加減に、徐々に走り出す。
保M「自分がいけないんだ。困るなら貸さなきゃいいのに――」
  保、立ち止まる。

〇 フラッシュ
  高校生の保、雪乃から傘を押し返される。
雪乃「私は大丈夫」
  ニコリと微笑む雪乃。

〇 通学路(夕)
  保、振り返る。
保M「……雪乃」
  その時、後ろから走ってきた隼人とすれ違う。
  雪乃の元へ駆け寄り傘をかぶせる隼人。
  二人の後姿を見つめ、佇んでいる保。
                            (F・O)

〇 保の実家・保の部屋(朝)
  扉を乱暴に開けて入ってくる佳子。
佳子「保! 早く起きないと遅刻――あら、起きてたの?」
  保、制服に着替えたまま、ベッドに横たわっている。
  保、起き上がり鞄を手に部屋を出る。
保「行ってくる」
  佳子、物珍しそうに保を見る。
  部屋のアロマキャンドル、ロウが半分に減っている。

〇 函館第一高校・教室(朝)
  教室に入る保。そこには大勢に囲まれた雪乃と隼人の姿。
隼人「(保に気が付き)おはよう、保」
保「何かあったの?」
隼人「ああ。実は俺たち、付き合うことになって」
保「……」
隼人「(雪乃を見て)な?」
雪乃「(恥じらいながら)うん」
保「ふーん」
 二人を冷やかすクラスメイト達。
  保、雪乃を見ると視線が合う。
  そのまま教室を出ていく保。

〇 同・廊下(朝)
  歩きながら、鼻で笑う保。
保「これでいいんだ」

〇 同・自動販売機前(朝)
  お金を入れる保。
  保、コーヒーを押そうとするが売れきれている。
  そのままゆっくりとイチゴミルクのボタンの前に手を持っていく。
  しかし、乱暴に返却レバーを引く保。
  ジャラジャラと音を立て落ちるお金。
保「(舌打ちをして)なんだよ……」

〇 同・教室(朝)
  チャイムが響き渡る。出席を取る教員。
教員「雨宮。……雨宮はどうした?」
隼人「さっきまでいたんですけど……」
  隼人、校庭を見ると、門に向かって歩いていく保の姿を発見。
隼人「なんか調子悪いみたいで帰りました」

〇 五稜郭・道端
保「お姉さん、俺の理想の人にドンピシャなんです。連絡先、交換しません?」
  派手な格好をした女、制服姿の保を無視して去っていく。
保「……」
響生の声「相変わらず懲りないね」
  保、振り返ると響生の姿。後ずさる保。
響生「大丈夫。もう襲ったりしないから」
  響生、隣にいる男性の腕に手をまわす。
響生「私の彼氏。ぞっこんなの」
  去っていく響生と男性。しかし立ち止まって振り返ると、笑みを見せる響生。
響生「周りが見えなくなるくらい想い続けるのも、悪くなかったよ」
  去っていく二人。
  その後ろ姿を黙って見つめている保。
警官の声「君!」
  保、振り返ると警官の姿。
警官「高校生だよね? 学校は?」
  保、全力で走り出す。
警官「待ちなさい!」
  保を追いかける警官。

〇 保の実家・保の部屋
  鞄を放り投げ、ベッドに座る保。
  すると、ガラケーの通知音が鳴る。

〇 保のガラケー画面
  雪乃とのツーショット写真の下に、真白からのメッセージが。
真白の声「こんな写真、タッチ一つでいつでも消せるじゃん」

〇 保の実家・保の部屋
保 生意気なこと言いやがって。そこまで言うなら決定的な証拠写真見せてやるよ」
  保、スマホの写真アルバムを開く。
  保、雪乃、琉星が写る写真を開くと、次の瞬間、写真が消えて『no image』と出てくる。
保「……は?」
  スマホを放り、ベッドに倒れる保。
  自嘲した後、少し悲しげに。
保「……当然のことか」

〇 カフェ・カウンター席(夕)
  並んで座る雪乃と隼人。
隼人「届ける? プリントを?」
雪乃「うん。体調悪くて早退したでしょ? 雨宮くん家寄っていくから、先帰って」
隼人「体調不良か……。ね、プリント見せて?」
雪乃「いいけど……」
  雪乃、鞄から用紙を取り出し手渡す。
隼人「これ、俺が届ける」
  隼人、プリントを鞄にしまう。
雪乃「え? なんで?」
隼人「なんでも」
雪乃「じゃぁ私もいっしょに行くよ。押し付けちゃうの悪いし」
隼人「ダメ。雪乃は帰れ。俺一人で行く」
雪乃「でも――」
隼人「心配すんな。ちゃんと届けるから」

〇 通学路(夜)
  住宅街を一人で歩く隼人。

〇 (回想)カフェ・カウンター(夕)
隼人「それよりさっき撮った写真送ってよ」
雪乃「あっ。そうだね」
  ガラケーを操作する雪乃。
雪乃「……送ったよ」
隼人「サンキュー」
  携帯を凝視し動かない雪乃に気付く隼人。
  雪乃の携帯をそっと覗く。

〇 雪乃のガラケー画面
  と雪乃のツーショット写真。

〇 カフェ・カウンター(夕)
  一瞬表情が曇る隼人。
隼人「いつの間に撮った? 二人してすいぶん楽しそうじゃんか」
雪乃「この時の雨宮君、すっごく面白かったんだよ」
  隼人、頬杖を突き、口をとがらせる。
隼人「妬けるなー。雪乃は俺の彼女なのに」
  雪乃の方をちらりと見る隼人。
雪乃「あっ、そうだよね……。怒らないで、写真消すから……」

〇 雪乃のガラケー画面
  雪乃、ごみ箱のマークを押すと、写真を消去する選択画面に。
                               (回想終わり)

〇 保の実家・玄関前(夜)
  歯を食いしばる隼人、立ち止まり、目の前の一軒家を見上げる。
  表札には『雨宮』。

◯ 同・保の部屋(夜)
  ベッドに倒れ、天井を見つめている保。
  すると佳子がノックし部屋に入ってくる。
佳子「保、お友達来てるけど」
  保、バッと起き上がる。

〇 同・玄関(夜)
  扉を開ける保。そこには隼人の姿。
隼人「よお!」
保「……どうしたんだよ」
隼人「それはこっちのセリフ」
  隼人、制服姿の保を上から下まで確認。
隼人「体調不良、ってわけじゃなさそうだな」
保「わざわざそんなこと言うために来たのか?」
  隼人、鞄からプリントを取り出す。
隼人「雪乃に頼まれたんだよ。保に渡してほしいって」
保「(プリントを受け取り)あいつは?」
隼人「先に帰ったけど」
保「……そう」
隼人「あのさ、俺らのせいか? 帰ったの」
保「は? なんでそうなんだよ」
隼人「今まで一緒につるんでた俺を、雪乃に取られたから」
保「んなわけあるかバカ」
隼人「あ、違うな、悪い悪い。逆か。一緒につるんでた雪乃を、俺に取られたから」
保「……」
隼人「冗談だよ、本気にするなって。じゃぁ渡したからな。明日は学校来いよ。じゃないと――」
保「……なんだよ?」
隼人「(背を向け去り際に)いや、何でもない」
 ガチャンという扉が閉まる音。
  隼人、振り返って呟く。
隼人「雪乃に心配かけてんじゃねーよ」

〇 函館第一高校・校門(朝)
  次々に門の中へ入る生徒たち。
  門の前に立っている保。

〇 同・教室(朝)
  黒板の日付、六月二十二日。
  出席を取っている教員。
教員「雨宮」
  雪乃、後ろを振り返る。
  保の席は空席。

〇 保・雪乃・隼人の点描
  繁華街。私服姿の保、道の端に立っていると女1がやってくる。
  ×  ×  ×  
  黒板の日付、六月二十三日。
  授業中。後ろを振り返る雪乃。
  保の席は空席。
  ×  ×  ×
  私服姿の保、ゲームセンターで女2とクレーンゲームではしゃいでいる。  
  ×  ×  ×
  夕方。共に下校する雪乃と隼人。
  雪乃の手にはプリントが。雪乃の前に手を出す隼人。
  雪乃、隼人にプリントを渡す。
  ×  ×  ×
  保、帰宅し部屋に入ると机の上にプリントが置かれている。プリントには『早く学校これるといいね』とメッセージが。
  ×  ×  ×
  黒板の日付、六月二十四日。
  私服姿の保、女3と飲食店で食事している。
  ×  ×  ×
  保、帰宅し部屋に入ると机の上にプリントが置かれている。
  ×  ×  ×
  黒板の日付、六月二十五日。
  夕方の繁華街。女4と手を繋いで歩いている保。
  その様子を目撃する隼人。
  ×  ×  ×
  保、帰宅し部屋に入ると机の上にプリントが置かれている。
  ×  ×  ×
  黒板の日付、六月二十六日。
  夕方、繁華街。私服姿の保、女1と手を繋いで歩いている。
  その姿を見ている雪乃と隼人。
  隼人、持っていたプリントを雪乃に返す。
  プリントを受け取る雪乃、暗い表情。
  ×  ×  ×
  保、帰宅し部屋に入ると机の上にプリントがない。落ちてないか探す保。
  ×  ×  ×
  黒板の日付、六月二十七日。
  体育館。バスケ部が練習している。
  得点版の横で俯き、ぼーっと立っている雪乃。
  と、得点がめくられる。
  雪乃、ハッとし見上げると隼人の姿。
  隼人、雪乃の頭をポンポンし、コートに戻る。 
  ×  ×  ×
  繁華街。道の端に立っている保。
  ガラケーを開くと女1から『彼氏のとこ戻るね』とメッセージが。
  ×  ×  ×
  繁華街。保と手を繋いでいる女2。
  そこに女3が現れ、もめ始める。
  ×  ×  ×
  保、帰宅し部屋に入る。机の上を見るが何も置かれていない。
  ×  ×  ×
  黒板の日付、六月二十八日。
  体育館。共に昼食をとる雪乃と隼人。
  隼人、雪乃が飲んでいるイチゴミルクを見つめている。
  隼人、雪乃に自分が飲んでいるバナナミルクを勧める。
  バナナミルクを飲む雪乃。
  それを見て満足そうな隼人。

〇 保の実家・保の部屋(夕)
  ベッドで寝転んでいる保。
  するとガラケーの通知音が鳴る。
  携帯を開くと『終わりにしよう』というメッセージ。
保「どいつもこいつも」
  そこに佳子が扉をノックし入ってくる。
佳子「保、お友達来たわよ」
  一瞬、表情が明るくなる保。しかし直ぐに表情が曇る。
保「プリントだろ? いないって言って、貰って来てよ」
佳子「今日は女の子だけど」
保「……えっ?」
  保、バッと飛び起きる。

〇 同・玄関・内(夕)
  扉を開けるのを躊躇する保。

〇 同・同・外(夕)
  玄関の扉が開かれ、保が顔を出す。
保「お前……」
  そこには白い服を着た真白の姿。
  真白、ニコリと微笑む。

〇 バー・店内・カウンター席(夕)
  店内は薄暗く、オシャレで落ち着いた雰囲気の店。
  並んで座る保と雪乃。
  保、グラスの中身を飲み干す。
保「(バーテンダーに)もう一杯ください」
真白「あーあ。すごい飲みっぷり」
保「で、お前は何の用があってきた?」
真白「そんなの決まってるじゃん。あなたみたいな――」
保「あなたみたいな人を見るのが面白いから、ってか? 相変わらずの悪趣味っぷりだな」
真白「私はただ、あなたが寂しい思いしてると思って。ほら、ボッチ仲間でしょ?」
保「……一緒にするな」
真白「もう、頑固すぎ。でも確かに、あなたと私は全然違う」
  バーテンダー、カウンターにグラスを置く。それを受け取り、口をつける保。
真白「それだよ」
保「(グラスを置き)ん?」
真白「ねぇ、なんで私をこんな店に連れてきたの?」
保「どこに連れてこようが関係ないだろ」
真白「ううん、関係ある。私が思うに、あなたという人は……」
  真白、保のグラスを手に取り、オレンジ色の飲み物を全て飲み干す。
保「お、おいっ」
  面食らう保。
真白「オレンジジュースをさもスクリュードライバーを飲むかのように振る舞う、ただのかっこつけ野郎」
  ニコリと微笑む真白。
保「ひどい言いようだな。お前、何か俺に恨みでもあんのか?」
真白「恨み? んー……強いて言えば、あの時お菓子くれなかったことかな」
保「ガキか」
真白「そう、ガキなの。素直で無邪気。自分に偽りなく、失敗を恐れないガキ」
保「……こんなんじゃ、酔いつぶれることもできない」
真白「全くその通り。だからさ、場所を変えない? 私たちに見合った場所へ行くの」
保「見合った場所? どこだよそこ」
真白「ネバーランド」

〇 函館・道端(夜)
  真白、道路の白線の上を歩いている。
  歩道を歩きながら真白の後ろをついていく保。
保「おい、やめろ。一緒にいるこっちが恥ずかしい」
真白「なんでよ。やったことないの?」
保「いや、あるけど……っていうか、どこ向かってんだよ」
  保、先にある『HOTEL』と書かれた建物を発見する。
保「お前、まさか……」
真白、立ち止まって振り返ると、ニッコリ笑う。

〇 同・公園(夜)
  誰もいない、静かな夜の公園。
  滑り台を滑る真白。保、降り口のところで立っている。
保「こんなところに連れてきて、なんのつもりだよ?」
真白「いいじゃん。あんな息苦しい場所より、遊べた方が」
  滑り台から降りる真白。
真白「ねぇ、一緒にブランコ乗ろうよ!」
  真白、駆け出してブランコに乗る。
  保、大きくため息をつき、ブランコの近くのベンチに座る。
  楽しそうに大きくブランコを漕ぐ真白を見つめている保。

〇 (回想) 同・同
  ブランコを楽しそうに漕いでいる琉星(4)。
  その姿をベンチで座って見ている保(31)。隣には雪乃(31)の姿。
  ブランコから降り、こっちに走ってこようとする琉星。しかし躓き転んでしまう。
保・雪乃「あっ」
  同時に立ち上がる保と雪乃。
  琉星、すぐさま立ち上がり、二人の元へ駆けていく。
  雪乃、琉星の体に付着した砂を払う。
雪乃「大丈夫?」
  涙目の琉星、首を縦に振る。
雪乃「(しゃがんで目線を合わせ)本当に?」
  琉星、涙があふれてくる。
琉星「……痛い」
  雪乃、琉星を抱きしめる。
  ×  ×  ×
  琉星、サッカーボールをもって駆け出していく。
  雪乃、保の隣に座る。
雪乃「この歳で強がるなんて、きっと大物になるかも」
保「男はみんな強がるよ。女にかっこ悪いとこ見せたくないから」
雪乃「でもそれってさ、苦しくない?」
保「苦しい?」
雪乃「ずっと本当の自分を隠して見え張ってるってことでしょ?」
保「まぁ、そうかも」
雪乃「さっき涙溜めてた琉星みたいに、かっこつけなんてすぐバレるんだから。それだ
ったら、苦しいって言っちゃえばいいのに」
保「……」
琉星の声「パパ!」
  琉星が離れたところから手を振っている。
雪乃「行ってらっしゃい」
×  ×  ×
  楽しそうに琉星とサッカーをする保。
  琉星が蹴ったボールが、保を超えて飛んで行ってしまう。
  ボールを追いかけて拾う保。ふと雪乃の方を見る。
  すると雪乃の隣には隼人(31)の姿。
  保、一瞬のうちに笑顔が消える。
琉星の声「パパ!」
  保、振り返ると琉星が走ってくる。しかし保を越して、隼人の元へ行く琉星。
  三人で手を繋ぎ公園を出ていく様子を、戸惑いながら見ている保。
保「待てよ! 雪乃⁉ 琉星⁉」
  保の声は三人には届いていない。
  手に持っていたサッカーボールが消える。
保「雪乃!」
  遠くなってく三人の背中。
                                   (回想終わり)


〇 函館・公園 (夜)
  保、ツーっと涙が流れる。
真白の声「大丈夫?」
  真白、保の隣に座っている。
保「……じゃない」
  真白、保にそっと白いハンカチを渡す。
  保、ハンカチを受け取り涙を拭う。
  しかし拭っても涙があふれてくる。
保「全部消えた」
  保、ハンカチを握りしめる。
保「ずっと……温かいものはいつか冷める、そう思ってた」
真白「うん」
保「あいつ、ずっと温かいんだよ」
真白「うん」
保「いつまでたっても冷めない。健気で真っすぐなんだよ」
真白「うん」
保「……なんでだよ」
真白「……」
保「なんで俺は……」
真白「冷めるんだよ。人間なら誰だって」
  やっと真白の方を向く保。
真白「諸行無常って言葉知ってる? 世の中に永久不滅なものは存在しない。人の気持ちも同じだと思うの。いつ変わってもおかしくない」
保「じゃぁ、どうして……」
真白「忘れても、思い出すんだよ。思い出っ て色あせてくし、それに伴って心も離れて
く。例え辛いことがあったとしても、それを上書きできてしまうくらいの記憶を抱えてるとしたら……きっとそれほどまでにあなたが特別なんだと思う」
保「でも、もうあいつは――」
真白「諦めるの?」
保「だって……」
真白「大事な人なんでしょ?」
保「……本当は」

〇 フラッシュ
  保、雪乃、琉星が写る家族写真。

〇 函館・公園(夜)
保「取り戻したいに決まってる。でも、手遅れなんだよ」
真白「案外そんなことないかもよ」
保「いいや、手遅れだ。何もかも」
真白「泳ぎ方を忘れたら、また泳いで思い出せばいいじゃん」

〇 住宅街(夜)
  人気のない道を一人歩く保。
保の声「……どういう意味だよ」
真白の声「それは自分で考えてよ。大人なんでしょ?」

〇 保の実家・保の部屋(夜)
  デスクで頭を抱えている保。
保の声「大人なんて言葉、むやみに言うもんじゃないな。けどその毒を含んだ言い方、やっぱりお前、俺に恨みあるだろ?」
  保、ガラケーを開く。
真白の声「そりゃあるでしょ」
  ガラケー画面には雪乃と写る写真。
真白の声「羨ましいの。誰かに想われてることがね」
  アロマキャンドルのロウ、残り少ない。

〇 函館第一高校・校門
  ぽつんと校門の脇に佇む真白。
保の声「悪い。待った?」
  真白、振り向くと同時に保を見て驚く。
  しかし、すぐに微笑みかける真白。
真白「これから行くんだ?」
保「ああ。その前にこれ、返しとこうと思って」
  保の手には白いハンカチ。
  真白、それを受け取る。
保「もう一つ」
  保、小さな包みを真白に手渡す。
真白「何これ?」
保「(照れ気味に)まぁ、世話になったお礼というか……」
  真白、包みを開けると、白いリボンのバレッタが。
保「それ、お前に似合うと思って。まぁ、俺も暇人だし、困ったときには相談くらいのってやるよ」
  真白、保を見上げる。
  保、髪が整えられ、制服をかっちり着こなしている、模範生の恰好。
保「じゃあな。……真白」
  保、門の中へ入っていく。
  保の後姿を見つめる真白。
  微笑むと、小さな声で呟く。
真白「大切にするよ。さようなら、雨宮保」

〇 同・廊下
  保、教室に向かって進んでいく。
  保が通り過ぎるたび振り返る生徒たち。

〇 同・教室
  保、扉を開けて中へと入る。
  昼食をとっていた生徒たち、一斉に静まり返る。
  構わず雪乃と隼人の元へ進む保。
雪乃「雨宮くん」
  保、雪乃の手を取る。
保「行こう」
雪乃「えっ? ちょっ……」
  保につられて立ち上がる雪乃。
隼人「保」
  保、隼人と視線を交える。
隼人「本気なのかよ」
保「ああ」
  保、雪乃の手を引き教室を出る。
  騒然としている教室。
生徒「おい、隼人! いいのかよ⁉」
隼人「……」

〇 (回想)カフェ・カウンター席(夕)
  雪乃の携帯画面。
  保と雪乃のツーショット写真を消去しようとする雪乃。
  雪乃の切なそうな表情を見る隼人。
隼人「写真消さなくていいよ。俺、余裕なくて……意地悪言ってごめん」
  安堵したような雪乃の表情。
                              (回想終わり)

〇 函館第一高校・教室
  切ない笑顔を見せる隼人。
隼人「もう、俺が口出すことじゃねーんだよ」
  校庭に目をやる隼人。
  保と雪乃、校門に向かって走っていく。

〇 同・校門
  雪乃の手を取り、走って校門を出る保。
保M「いつから、言い訳を考えるようになったんだろう。いつから、ごめんと素直に言えなくなったんだろう」

〇 通学路
  雪乃の手を取り走っている保。
保M「どうして、大切なものを失ってから気付くのだろう」

〇 公園・外観
  小さい子供たちが遊んでいる、賑やかな広場。
保M「もう、遅いかもしれない。許されないかもしれない。それでも……伝えなければいけないことがある」

〇 同・内
  保、ベンチを見つけ、雪乃と二人で腰掛ける。
保「(顔色を窺うように)笹村さん……」
  保、雪乃と視線を合わせる。
  すると突然、声を上げて雪乃が笑いだす。
雪乃「私、授業サボったの初めてだよ」
保「怒ってないの?」
雪乃「正直びっくりしてる。でもそれ以上にね、わくわくした自分もいたの。だって私、後のことなんて全く考えずにここまできたんだよ?」
保「俺も。こんなことしといて、先生への言い訳なんて考えてないし、笹村さんをここに連れてきた言い訳だって考えてない。……いや、考える必要もないんだ」
  頭を下げる保。
保「勝手なことしてごめん」
雪乃「顔、上げてよ」
  保、ゆっくりと頭を上げる。
  穏やかな表情をしている雪乃。
雪乃「最近の雨宮くん、人が変わったみたいって思ってた。ねぇ、最初に話した時のこと覚えてる?」
保「俺が休んだ翌日、プリントくれた時の
こと?」
雪乃「実はさ、私たち、入学前に一度会ってるんだ」
保「えっ?」
雪乃「私、中学は女子バスケ部で、高校はバスケ強豪校に入ろうと思ってたの。でも、大事な時にケガしちゃって……選手としてプレーできなくなっちゃった」

〇 (回想)路面電車・内(夕)
  座席に座る中学生の雪乃、模試の結果用紙を見ている。進学校A判定。
雪乃の声「そんなわけで、両親は進学校に切り替えるよう言ってきた。でも、心のどこかでバスケを諦めきれない自分がいたの」
  用紙を持つ手に力が入る雪乃。
雪乃の声「両親は私がバスケを辞めて、正直喜んでたんだ。元々優秀な学校に入れたかったらしいし。期待の目で見る両親に、私、どうしても本心を打ち明けられなかった」
  涙目の雪乃。
保の声「好きなものを好きって言って何が悪いの?」
  びっくりして目を見開く雪乃。
  雪乃の隣には中学生の保と隼人が。
隼人「悪いとは言ってないだろ? ただせっかく可愛い子達とランチできたのに、ドリンクバーで永遠イチゴミルクってどうなんだよ。かっこ悪いだろ。女子引いてたぞ?」
保「好きなのに、それを隠して嘘つく方がよっぽどかっこ悪いと思うけど」
  雪乃、俯きながら話を聞いている。
隼人「そんなんだから十五年間彼女できないんだよ」
  保、まだ開けていないイチゴミルクを握っている。
保「いいよ別に。僕はこいつのこと愛してるから」
  電車、停留所に到着のため、速度を落とし始める。
  保と隼人、立ち上がる。
  しかし保、同じく立ち上がった雪乃に、電車の揺れの反動でぶつかってしまう。
保「あっ、すみませ――」
  顔を上げた雪乃、泣いている。
保「(動揺し)えっ、本当にごめんなさい!」
  雪乃、首を横に振る。
雪乃「違います。関係ないです。大丈夫ですので……」
  涙を手の甲で拭う雪乃、電車を降りる。

〇 停留所(夕)
  足早にその場を去る雪乃。
保の声「あの!」
  雪乃、振り返ると保と隼人の姿。
  保、雪乃の元に駆け寄り、持っていたイチゴミルクを雪乃に差し出す。
保「これ、甘くておいしいんですよ。何があったかわからないけど、元気出してください」
 イチゴミルクを受け取る雪乃。
保「じゃぁ」
  保と隼人、去っていく。
  二人の後姿を眺めている雪乃、隼人が背負っているバスケ部の鞄に気付く。
雪乃の声「その後、本当のことを話してみたの。自分はプレーできないけど、全国大会に行きたい。今度はマネージャーとしてバスケと関わっていきたいってね」
                                    (回想終わり)

〇 公園・内
保「そうだったんだ。ごめん、俺全然覚えてなくて……」
雪乃「そうだと思った。いいの、気にしないで。それより私、今安心してるんだよ。あの頃の雨宮君に戻ってくれて。また今まで通り、三人で仲良くしようね」
保「……うん」
保M「三人か。そりゃそうだよな。……でも雪乃、もう仲良くなんてできないんだよ俺は今度こそ、本気で行く」
  立ち上がり、雪乃の手を取る保。
保「ねぇ、遊ぼ」
雪乃「えっ?」
  保、雪乃を滑り台に引っ張っていく。
  滑り台を滑る保、下から雪乃に呼びかける。
保「来いよ」
  雪乃、滑り台を滑る。
雪乃「ん、お尻痛い」
  保と雪乃、顔を見合わせ笑いあう。
  ×  ×  ×
  ブランコやではしゃいで遊ぶ保と雪乃。
  ×  ×  ×
  追いかけっこをして遊ぶ保と雪乃。
  ×  ×  ×
  子供たちの仲間に入り、サッカーをして遊ぶ保と雪乃。
  ×  ×  ×
  夕方。徐々に子供たちがいなくなり、遂に二人きりになる。
  疲れて息が荒い保と雪乃、ベンチに腰を掛けている。
雪乃「こんなにはしゃいだの久しぶり」
保 「そうだね」

〇 同・自動販売機前(夕)
  雪乃、自販機から落ちてきたイチゴミルクを拾い上げる。
  そこにやってくる保。
保「俺も……」
  保、財布を開くが、十円玉と一円玉しか入ってない。
雪乃「私出すよ」
保「いや、それは悪いから」
雪乃「走って喉渇いてるでしょ? こういう時は素直に奢られとくの」
保「……ありがとう」
  雪乃、小銭を入れる。
雪乃「缶コーヒー……でいいんだよね?」
  雪乃、コーヒーのボタンを押そうとする。
保「あっ」
  雪乃、手を止める。
雪乃「ん?」
保 「……もう、コーヒーはいいんだ」
雪乃「……」
保 「ずっと、意地張ってただけだから。笹村さんが隼人と付き合い始めて、俺、すごい動揺したんだよ。それからいろいろ考えた。どうしたら俺のこと、もう一度見てくれるか」
雪乃「雨宮君?」
保「なぁ、雪乃」
  イチゴミルクのボタンに手を伸ばす保。
保「俺、本当はずっと――」
                                     (F・O)

〇 保の実家・保の部屋(夕)
  部屋の片隅に置かれているアロマキャンドルのロウが全て溶け、火が消えている。
  佳子、使い切ったキャンドルを持ち上げて観察する。
佳子「あらやだ。危ないじゃない」
  佳子、キャンドルと掃除機を手に部屋を出ていく。

〇 函館の一軒家・保の部屋(朝)
  ベッドで眠っている保、目を覚ます。
  小鳥のさえずりが聞こえ、カーテンの隙間から日差しが差し込む。
  上半身を起こす保、見慣れない部屋を全体的に見渡す。
  部屋に置かれたスタンドミラーに目をやる保。保の姿、大人に戻っている。
  枕元にはスマホ、ライター、煙草。
  保、スマホを握るも、画面は割れている。写真フォルダを開く保、目にしたのはやはり『no image』の文字。
 保「終わった……間に合わなかった……」
  すると、部屋の外から『カタッ』と音が。
  保、音に気付き、扉の方を見つめる。

〇 同・廊下(朝)
  明かりがつく部屋へ歩いていく保。

〇 同・リビング(朝)
  保、中に入るとキッチンに立っている雪乃(35)の姿。
  保に気付き振り返る雪乃。
雪乃「おはよう、たっちゃん」
  言葉にならず、そのまま立ち尽くす保。
  雪乃、コーヒーをカップに注いでいる。
雪乃「座って待ってて。今飲み物入れるから」
保の声「本当は……」
  雪乃、手を止め保を見る。
  保、涙を流している。
保「本当はずっと……イチゴミルクが好きだった」
 雪乃、カップを置いて、保の元へ。
 保を強く抱きしめる雪乃。
雪乃「知ってるよ」
保「……えっ?」
雪乃「あのコーヒー、お友達のお家から琉星が貰ってきたの。そしたら琉星、『味見してみたい』って」
  雪乃、冷蔵庫からイチゴミルクを取り出しカップに注ぐ。そのまま保の元へ。
雪乃「はい。これがたっちゃんの」
  保、雪乃からカップを受け取り、口をつける。
保「おいしい」
雪乃「……また、怖い夢でも見たの?」
保「夢?」
雪乃「うん。たっちゃんが昔から言ってる、白い女の子が来る夢」
  一瞬目を丸くする保。
  しかしすぐに涙を拭い、雪乃に微笑む。
保「いいや。それよりもっと悪い夢だよ」
  パジャマ姿の琉星、部屋に入ってくる。
雪乃「おはよう、琉星」
琉星「おはよう」
雪乃「コーヒー淹れたよ」
琉星「本当⁉」
  保、かがんで琉星を抱きしめる。
琉星「痛いよパパ」
保「コーヒーなんて、脅かしやがって。大人ぶるんじゃないぞ、琉星。子供は子供らしくイチゴミルクだ」
琉星「やだ! コーヒー飲んでみるもん!」
  保、苦笑する。
保 「……そうか」
  部屋にかけられたカレンダー、七月七日に大きな目印。『琉星の誕生日』と記載されている。
  ×  ×  ×
  夕方。食卓には豪華な食事。
  食卓に着く琉星の頭にはバースデー帽子。
  机の上にケーキを出す雪乃。
  保、ロウソクをケーキに差している。
  すると、インターホンが鳴る。
雪乃「ごめんたっちゃん、迎えに行ってもらっていい?」
保 「誰か呼んでんの?」

〇 同・玄関・内(夕)
  息をのみ、ドアを開ける。
  そこに立っていたのは隼人(35)。
隼人「よお!」
保「隼人……」
隼人「なんだよ、元気ねーな」
保「そんなこと……あ、あがって」
  隼人、靴を脱いで端に寄せる。
保「あのさ」
隼人「ん?」
保「なんでお前、俺に雪乃譲ったんだよ」
隼人「(笑いを含み)はぁ? なにそれ。嫌味か?」
保「そうじゃない」
  隼人、保の顔を見て沈黙する。
保「高校の時、何で雪乃と別れたんだよ」
隼人「……お前、鬼だな。俺の口から言わせんのかよ」
保「知らなきゃいけないんだよ。どうしても」
隼人「……あぁ、もう。わかったよ。振られたんだよ、雪乃に」
保「えっ?」
隼人「ずっと黙ってるつもりだったのによ。あいつは最初から、俺のことなんて眼中になかった。お前が女と遊んでても『それでもいい』って言ってたやつだぜ? 慰めでいいから付き合ってほしいって頼んだのは俺だ」
保「……お前の気持ち、全然わかってなかったんだよ。今まですまなかった」
隼人「おいおい、いつまで引きずってんだよ」
  左手を掲げる隼人。薬指には指輪が。
隼人「俺は今、幸せだから」
保「隼人……」
隼人「それに今、雪乃は幸せなんだろ? 俺の選択は間違ってなかったって、そう思ってる。ほら、行くぞ」
  廊下を進んでいく隼人。
保「……うん」

〇 同・リビング(夜)
  ロウソクをフーッと消す琉星。
保・雪乃・隼人「お誕生日おめでとう!」
  料理を食べる四人。
  外から子供たちの歌が聞こえる。
琉星「ねぇ、なんか聞こえるよ?」
雪乃「函館の七夕はね、子供たちが近所のお家に行って歌を歌うの。ロウソク貰いって言って、お菓子がもらえるんだよ」
琉星「僕もやりたい!」
保「じゃぁ、後で一緒に行くか?」
琉星「うん!」
雪乃「昔はロウソクあげてたんだって。私たちの時はもうお菓子に変わってたけど」
隼人「俺、一回だけロウソク貰ったことある。まぁ、全然嬉しくなかったけどな。食べられないもの貰っても」
  保、飲んでいたイチゴミルクでむせる。
雪乃「大丈夫? たっちゃん」
保「雪乃、家にお菓子は⁉」
雪乃「ちゃんと買ってあるよ。あそこ」
ビニール袋へ近づく隼人、中をあさる。
隼人「なんだ、もらいに行かなくていいじゃんか。どうせ子供なんて大勢来ないだろ? これ食べようぜ!」
   琉星、すぐさま隼人のもとへ駆け寄る。
琉星「僕も食べる!」
   保、隼人からビニール袋を奪い取る。
保「これはだめだ! 絶対だめだ! 子供たちのお菓子なんだよ!」
隼人「んなこと言わずにさ。ちょっとだけだから」
琉星「ちょっとだけ!」
   保からビニール袋を奪おうと追いかける隼人と琉星。
   必死に死守する保。
保「いいや、お前らそんなこと言って全部食べる気だろ!」
隼人「まぁ、なくなったらその時考えればいいじゃんか」
保「それじゃ手遅れだ!」
隼人「手遅れ?」
保「またあいつが来たら、お菓子全部渡してでも帰ってもらうんだよ!」
   保の手から袋を奪って逃げる琉星。
保「あっ、琉星!」
   ビニール袋を取り合う三人。
   その様子を見ている雪乃。
   みんな笑っている。

〇 雨宮家隣の一軒家・リビング(夜)
 夫婦が怒鳴りあいの喧嘩をしている。
  その時、インターホンの音がなる。
   男、インターホンの画面を確認するも、誰も映っていない。

〇 同・廊下(夜)
   男、廊下を進んでいく。
  外から少女の歌声が聞こえる。
少女の声「竹に短冊七夕祭り 大いに祝おう」

〇 同・玄関(夜)
少女の声「ローソク一本ちょうだいな」
男、玄関の扉を開けると、白い甚平を着た、小学校低学年くらいの少女が立っている。髪には白いリボンのバレッタ。
少女、男に向かってニコリと微笑む。

〈了〉

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