魔導書店グリモ ファンタジー

魔導書を書くことを生業とする職業、魔道作家。魔道作家のグリモは街の一角で魔道書店を開く。そこへやってきた最初のお客さんは、魔導書など全く知らない箱入り娘だった。
箱多箱丸 8 0 0 07/26
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第一稿

登場キャラクター
○グリモ(18)…『魔導書店グリモ』を営む魔導作家の青年。自身を魔導書を書く天才と信じて疑わない。反面、魔法の行使は大の苦手。見た目は小学生男子にしか見えない。 ...続きを読む
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登場キャラクター
○グリモ(18)…『魔導書店グリモ』を営む魔導作家の青年。自身を魔導書を書く天才と信じて疑わない。反面、魔法の行使は大の苦手。見た目は小学生男子にしか見えない。古臭い喋り方をし、面倒見が良い。


○ルル(16)…密かに魔導士に憧れる女の子。しかし母親から魔法に関わることを禁止されている。真面目で優しい性格。


○ルルの母親(40)…娘が魔法に関わることが気に食わない。非常に厳しい性格。


○グリモの父親(50)…グリモと同じく魔導作家を生業としている。不仲により息子が家を出て行ってしまった。






□魔導都市・俯瞰
  中世ヨーロッパのようなレンガ造りの家屋が立ち並ぶ街。

□同・大通り
  レンガが敷き詰められた道。服屋やレストラン、民家などが立ち並ぶ。魔法使いのローブの
  ような服を着た人や、鎧を着た人が行き交う。
  その中で、白い清楚な服を着て、肩まである金髪を持った女の子、ルルが歩いている。周囲
  を興味深そうに見回している。
  女性が魔導書を持ちながら水の魔法を行使、家の屋根がひとりでに動く水の塊に洗浄されて
  いく。
ルル「(笑顔で)すごい……」
  キョロキョロしながら歩いていると、暗い路地裏を見つける。そこに置かれた看板には、
  『魔導書店グリモ』と書かれている。
ルル「魔導書店……?」
  路地裏の奥へ歩いていく。

□魔導書店グリモ
  店の中は中央に机と椅子がありるが、ほとんどが本と本棚で埋め尽くされている。
  ルルが店の扉を開き、
ルル「ごめんくださーい」
  店へ入る。
  店の奥から、
グリモの声「はーい」
  ルルが扉を閉めると、奥で本が崩れて大きな物音が鳴る。
ルル「(驚いて)えっ」
  奥へ急いで向かうと、小学生くらいに見える男の子、グリモが本の上で倒れている。
グリモ「いたた…(ルルに気づいて笑顔で)おお、いらっしゃい! 今日はどんな魔導書をお望みじゃ?」
  ルル、困惑して目をぱちくりさせる。

□魔導都市・大通り
  人を乗せたドラゴンが上空を飛んでいる。

□魔導書店グリモ
  ルルが椅子に座っている。
  紅茶を入れたカップが宙を浮き、目の前の机に着地する。
ルル「(目を輝かせ)すごい……」
グリモ「ワシの名はグリモ。この魔導書店の主じゃ」
ルル「(お辞儀して)初めまして、ルルと申します」
グリモ「それで、用件は?」
ルル「すいません、実は魔導書って何なのか知らなくて……興味本位で入ってきてしまったので
 すが」
グリモ「魔導書を知らないじゃと!? ……都市部以外にはまだ浸透しておらぬのか」
  床に積まれている魔導書を一冊手に取り、
グリモ「魔導書とは、魔法を行使するためのマジックアイテムじゃ。主に魔法を起動する魔法陣
 と、その使い方が書かれておる」
ルル「マジックアイテム……」
グリモ「街で魔導書を使っておる連中がおったじゃろ。あれは仕事や趣味に魔法を利用する魔導
 書使い、即ち魔導士じゃ」
  椅子の上に立って胸を張り、
グリモ「そして、その魔法を構築し、魔導書を生み出すものこそ、ワシら魔導作家なのじゃ!」
ルル「おぉ~」
  パチパチと拍手する。
  グリモ、ルルをちらりと見て、
グリモ「まぁ、ワシは中でも『天才』魔導作家じゃがな?」
  椅子から降りて、
グリモ「さあ、良い魔導書を売ってやるぞ。火の魔法、水の魔法、風、土、光……色々あるが、何がお好みじゃ?」
ルル「うーん、まだよく分からないですけど」
  グリモが腰にホルダーを付けて下げている、鎖が巻かれた魔導書を見て、
ルル「これなんかは、何の魔導書さんでしょうか?」
グリモ「ああ、これか。すまんがこれは私物でな……ワシの作ったものではない」
  手を広げて、
グリモ「じゃが、ここにあるものはほとんどがワシの著書じゃ!」
ルル「まだ子供なのに、すごい方なのですね」
グリモ「ワシは子供ではない! もう十八じゃ! ……じゃが、すごいのは本当じゃ。どれ、お
 主には色々サービスしてやろう」
  本棚やそこらに積み重ねられた魔導書をどんどん手に取り、
グリモ「これは面白いぞ! こっちは初心者におすすめじゃ! ……これもやはり外せぬな」
  机の上に大量の魔導書を置き、
グリモ「ほれ、今ならおまけで全部つけてやるぞ」
ルル「そ、それは流石に…(一冊手に取り)では、これをください」
グリモ「む? そうか。じゃがそれも良い魔導書じゃ。目の付け所が良いではないか!」
  ルルから魔導書を受け取る。

□魔導書店グリモ前
  ルルが本を入れた袋を持って帰っていく。
  グリモが笑顔で手を振る。
  ルルも振り返り、微笑んで手を振る。
  グリモ、店に入って椅子に座る。
グリモ「ふぅ、接客とは意外と難しいものじゃ。初めてで緊張したのう」
  足をぶらぶらさせてご機嫌。

□ルルの家・外観(夕)
  周囲にはほとんど家屋がなく、人里離れた場所。レンガ造りの大きな屋敷。
  袋を持ったルルが門を開けて中へ入っていく。

□同・リビング(夕)
  部屋一つだけで小さな家一つ分くらいの大きさ。装飾のついた蝋燭立てや大きな絨毯など、
  見るからにお金がかかっている。
  ルルの母親が大きな机で一人編み物を編んでいる。ルルと同じく長い金髪を持ち、一つに束
  ねている。
  ルルが扉を開けて部屋に入り、
ルル「ただいま…」
  母親はルルを一瞥すると、
母親「何を買ったの?」
ルル「本を買ってきました。そのために街へ行ったので……」
  別のドアから出て行こうとする。
  母親は立ち上がり、強引に袋を取り上げる。
ルル「あっ……」
  母親は魔導書の包装を破り、
母親「なんですかこれは?」
ルル「あの、えっと、店員さんにすすめられて……」
  母親がルルの右頬を平手打ちをする。頬を抑え倒れるルル。
母親「魔法なんて汚らわしいもの、触れるなといつも言ってるでしょう!?」
ルル「……ごめんなさい」
  母親、魔導書を開き、ページを破ってしまう。
  ルル、それを見て驚く。
  母親はどんどん破っていき、紙片が床に散らばる。
母親「あなたは立派な学者になるの。こんなことをしている暇は無い筈よ」
  ルル、散らばった紙片を見て悲しみの表情。
  母、立ち去る。

□同・ルルの部屋(夜)
 勉強机と本棚がある以外、物があまり無い部屋。
  ルルが勉強机に向かい、分厚い参考書とノートを使って勉強している。
  母親がそっとドアを開けて隙間からルルを見る。
  ルルの勉強する姿を見て、ドアを閉める。
  ルル、母親が立ち去ったのを確認して本棚から一冊の本を取り出す。
  本の栞が挟まれたところから読み出す。
  ルル、目を輝かせてページをめくっていく。
  本の表紙には、『魔法使いドロシーの旅路』と書かれている。

□魔導書店グリモ
  グリモが机で鎖が巻かれた魔導書を手に取り観察している。
グリモ「ううん、さっぱり分からん」
  魔導書を置く。
  頬杖をつき、アンニュイな表情。

□(回想)グリモの実家・リビング(夜)
  中央に机とその周りに椅子。部屋には本棚と本がたくさん置いてある。
  机を間に、グリモと腕を組んだ父親が向かい合って座っている。
  グリモが机を叩き、
グリモ「だからワシはもう魔導作家としてやっていけると言ってるじゃろ!」
父親「いいや。お前の魔導書には決定的に心が足りない」
グリモ「なんじゃこころって! 意味分からんのじゃ!」
父親「それはお前自身で見つけなければ意味がない」
グリモ「もういい! こんな家出て行ってやる」
  立ち上がる。
父親「ふん……」
  鎖に巻かれた魔導書を取り出す。
父親「ならばこれをやろう」
グリモ「は? なんじゃこれは」
父親「邪を祓う聖なる書……お守りのようなものだ。だが、見ての通り魔法で鍵がかかってい
 る。これを開くことができなければ、お前に才能はないと思え」
  グリモ、本を奪い取り、
グリモ「いいじゃろう! そんなものワシにかかればすぐじゃ!」
  部屋から出て行ってしまう。

□(回想戻って)魔導書店グリモ
  グリモが頬杖をついて鎖の魔導書を見つめている。
グリモ「そもそも、魔法の解除なんて魔導士の仕事じゃろう……」
  ため息をつく。
  その時、ドアが開く。
グリモ「(笑顔になり)いらっしゃい!」
  ドアを開けたのはルルだった。本を持って帰った時と同じ袋を持っている。
  グリモ、ルルの顔を見て驚く。
  ルルの右頬に大きなガーゼが貼ってある。
  グリモ、あわてて駆け寄り、
グリモ「ど、どうしたのじゃ!?」
  ルル、袋の中身をグリモに見せる。
  中にはビリビリに破られた魔導書。
  グリモ、それを手に取り驚愕。
ルル「流石にこれは、修復できませんよね……」
グリモ「誰の仕業じゃ?」
ルル「すいません。本当は私、母から魔法と関わることを禁じられているんです。危険だからっ
 て」
グリモ「……許せぬ」
  ルル、俯いて申し訳なさそうに、
ルル「そう、ですよね。あなたの作品をこんな風にしてしまってごめんなさい」
  グリモ、首を横に振り、
グリモ「そんなのどうでもよい」
  グリモ、ルルの肩に手を置き、
グリモ「これは初めて売れたワシの魔導書じゃ。 この本を選んでくれたその好奇心を踏みに
 じったことが、許せぬ」
ルル「……グリモさん」
  グリモ、腕を組み、
グリモ「魔法は禁呪にさえ手を染めなければ安全じゃというのに。……よし、そういうことなら
 考えがある」
  ルルを指差して、
グリモ「ワシがお主に魔法を教えてやる」
 ニカッと笑う。

□同・書斎
  こじんまりとした薄暗い部屋。
  グリモが入口の横の壁に貼ってある魔法陣の書かれた紙を指でなぞると、光の玉が天上に現
  れて部屋を明るく照らす。
  相変わらず本棚が沢山あるが、床は片付いている。
  中央の机を挟み、グリモとルルが立つ。
ルル「あの、私は魔法をお母様から禁じられていて……」
グリモ「じゃが、それはお主の気持ちではなかろう?」
ルル「それは……」
グリモ「自分の目で判断してみよ。せっかく新しい世界の入り口に立ったのだ、何も考えず可能
 性を放棄してはもったいなかろう」
ルル「……触りだけ、なら」
グリモ「うむ! 任せるが良い!」
  本棚から一冊の魔導書を取り出し、
グリモ「これは初歩的な火の魔法の魔導書じゃ。お主にはまずこれをやってもらう」
  魔導書を開き、深呼吸する。
  目をつぶり、しばしの沈黙の末、目を見開き、
グリモ「火花よ、光を描け」
  すると、魔導書から小さな爆発がおこり、黒い煙がグリモの顔を包む。
グリモ「けほっ、けほっ」
ルル「わわわ」
  グリモ、顔の煙が晴れると、
グリモ「すまぬ、失敗じゃ」
ルル「ええ!? グリモさんが失敗する魔法なんて、私にできるんでしょうか」
グリモ「心配するでない。ワシが酷すぎるだけじゃ」
ルル「でも、グリモさんは魔法にお詳しいですし」
グリモ「一流の鍛冶屋が、優秀な剣士とは限らんじゃろう。ワシは作るのは得意じゃが、使うの
 はてんで駄目なんじゃ」
  魔導書をルルに渡す。
ルル「意外……」
グリモ「ともかく、読めばやり方は分かる」
  ルル、魔導書を受け取り、読み始める。
グリモ「魔導書を使うにあたって最も大事なのはイメージじゃ。心の中のイメージが体の中の魔
 力を活性化させ、魔導書に描かれた魔法陣を動かす」
  ルル、黙々と読んでいる。
  グリモ、それを見てそわそわしている。
  ルル、眉間にしわを寄せながらもページをめくっていく。
グリモ「どうじゃ? ワシの魔導書は。初心者向けに分かりやすく書いたものじゃ。気にいるとい
 いのぅ、なんて」
ルル「ええっと……正直に言ってもいいですか?」
グリモ「おうとも。是非感想を聞かせてくれ」
ルル「全く分からないです」
グリモ「何ィ!?」
  思わず机から乗り出す。
  グリモ、ルルの隣に行って魔導書をめくり、
グリモ「どこじゃ! どこが分からんのじゃ! このワシの魔導書のどこが!」
ルル「なんというか、専門用語が多くて……それから、抽象的な表現も分かりづらくて……あ
 と、字が汚くて分からないところもいくつか」
  グリモ、わなわなと震え、
グリモ「な……な……」
ルル「ごめんなさい、私、本当に全くの初心者なんです」
グリモ「違うのじゃ。これは、初心者にも分かるように書いたつもりで…そんな、馬鹿な」

 落ち込みうなだれる。
ルル「あ、あの」
グリモ「あのジジイの言う通りだとでも……」
ルル「え?」
  グリモ、立ち上がり、
グリモ「いいや、そんな筈は無い! 絶対に!ルルよ、最初のページから分からないところを全
 部指摘するのじゃ!」
ルル「えええ!?」
グリモ「素直に思った風に言ってくれれば良い! さぁ!」
  ルル、魔導書の最初のページに戻り、
ルル「ええっと、じゃあ……(指をさし)まずここです」
グリモ「ふむ」
ルル「火の魔法、とは書いてありますが結局何をするのかが曖昧で分かりにくいです」
グリモ「なるほど……確かに」
  横から魔導書を手に取り、羽のペンで修正していく。
グリモ「次はどこじゃ」
ルル「ええっと……(指をさし)ここが、体に力を入れる、とありますが具体的にどこに、どのよ
 うに力を入れるのかが分かると良いと思います」
  またグリモが修正し、
グリモ「次!」
ルル「それからですね……ここは……全く分からないです」
グリモ「なんじゃと!? ちゃんと見るのじゃ!」
ルル「ええっと……ううん……」

  作業を進める二人の後ろ姿。

□大通り(夜)

  通りは人がおらず、家屋から灯りが漏れている。

□魔導書店グリモ(夜)

  グリモが魔導書を持って震えている。
  ルルは横でぐったりしている。
グリモ「やったぞ……ついに完成した!」
ルル「つ、疲れた……」
グリモ「魔法陣の基本骨子は我ながら美しいほどの完成度じゃが……お主の言う通り、『指南
 書』としては未完成だったようじゃ」
  窓の外を見て、
グリモ「おっと、もうこんな時間か」
ルル「わ、本当ですね。いつの間に」
グリモ「丁度いい。ルルよ、少し外に行かんか」
  ルル、首を傾げる。
グリモ「もうお主はこの魔導書の使い方が分かる筈じゃ。ならば、あとはより良い環境で魔法を
 行使するだけじゃ」
  ドアを開け、外へ出る。
  ルルも魔導書を持ってついて行く。
  それを蝙蝠の使い魔が物陰から見ている。

□魔導都市・大通り(夜)
  グリモとルルが人のいない通りを歩いて行く。街灯の明かりがある道を通っている。
グリモ「まさかワシもまだまだ未熟だったとは、一人では分からぬものだ」
ルル「でも、あれだけの本を書いたことは本当に凄いと思います。誰から教わったのですか?」
  グリモ、空を見上げて、
グリモ「ああ、父親からじゃよ。あのジジイも魔導作家じゃった」
ルル「そうなんですか?」
グリモ「まあ、ワシが魔導作家になることが気に食わなかったみたいでな。だから、家を出て行
 ってやった」
ルル「だから一人でお店を……」
  グリモ、腰に下げている鎖の魔導書を指し、
グリモ「この魔導書は、親父が嫌がらせで渡してきた。これを開くことが出来なければ、お前に
 才能はない、とか何とか。むかつくから挑戦はしておるのだが……」
ルル「グリモさんなら、出来ると思います」
グリモ「本当か?」
ルル「はい。親元を離れて、自分のやりたいことに向かって突き進むなんて中々出来ないことで
 す。きっとあなたは、なんだって成し遂げられます」
グリモ「……お主は、良い魔導士になれるな」
ルル「え、どうしてですか?」
グリモ「この世には禁呪と呼ばれる、人を傷つけるための魔法がある。その邪道へ落ちない正し
 き心の持ち主が、良い魔導士となるのじゃ」
ルル「……」
グリモ「お主には魔法を正しく使える優しさがある。ワシのお墨付きじゃ」
  胸を張る。
ルル「魔導士、かぁ」
  手に持った魔導書を見つめる。

□同・川沿いの道(夜)
  街の中に川が流れていて、橋が架かっている。
  グリモとルルが橋の上に立っている。
グリモ「よし、本を構えよ」
  ルル、魔導書を開く。
グリモ「あとは書いてある通りにやれば良い」
  ルルは目を閉じて深呼吸する。
  グリモ、ルルをじっと見ている。
  ルル、目を開き、
ルル「火花よ、光を描け」
  すると、魔導書の上に魔法陣が展開され、そこから小さな花火がパチパチといくつも上がり
  出す。
  その光に二人の顔が照らされる。
  ルルは花火に見惚れ、
ルル「綺麗……」
  瞳に花火が映る。
グリモ「(笑顔で)出来たではないか! 素晴らしいぞ、ルル!」
  やがて花火は消え、再び暗くなる。
グリモ「言ったであろう、お主は魔導士の才能 があると」
  ルル、呆けたまま目から涙が落ちる。
  グリモ、手をぶんぶん振って慌てて、
グリモ「ぬおお! どうしたのじゃ! 目に火花が入ったか!?」
  ルル、涙を拭い、
ルル「あれ、私、泣いてる?」
グリモ「だ、大丈夫なのか?」
ルル「(照れ笑いで)すいません。多分、自分がこんなに綺麗な魔法を使えたんだってことが……
 なんだか、信じられなくて」
  グリモ、手を降ろし、
グリモ「こんなものはまだまだ序の口じゃぞ! これからはもっと凄いのを教えてやろう!」
ルル「(満面の笑みで)はい!」
母親の声「遅くまで何をしているかと思ったら、どういうこと?」
  グリモとルルが声の方を向くと、ルルの母親が立っている。
  ルル、怯えて一歩下がり、
ルル「お母様……」
グリモ「何?」
  母親がルルに歩み寄り、
母親「魔法なんかに手を出すなといつも言ってたわよね」
  グリモがルルの前に立ち、
グリモ「なるほど、お主が、か」
母親「なんですかあなたは?」
  ルルの方を見て、
母親「ルル!!」
ルル「ひっ」
  俯き、縮こまって母親の方に歩いて行く。
グリモ「お、おい」
  ルル、母親の前で立ち止まる。
  母親は、ルルの左頬にビンタをする。
グリモ「(目を見開き)なっ!?」
  ルルが左頬を押さえて倒れる。
  グリモが走ってルルの元に駆けつけて肩を抱き、
グリモ「貴様! 自分の娘に何をやっている!」
  ルル、グリモを見て、
ルル「いいんです……」
  グリモ、呆然とする。
ルル「ごめんなさい……私が言いつけを守らなかったから」
グリモ「そんな訳の分からん決まりなど……」
  ルル、首を横に振る。
  グリモ、言葉も出ない。
母親「帰るわよ」
  踵を返し、立ち去る。
  ルルも立ち上がり、ついて行く。
グリモ「ルル……」
ルル「……迷惑をおかけして、申し訳ありません」
  グリモは立ち去って行く二人の後ろ姿を見つめている。

□魔導書店グリモ
  客はおらず、グリモだけが椅子に座って頬杖をついている。
グリモ「ルルのやつ、やっぱり来ないのう」
  椅子から降りて本棚に掛かった脚立を登り、
グリモ「魔導書を読めなかったのはワシの落ち度じゃ。初心に帰ってやり直すか」
  一冊の本を取り出す。
  脚立から降りて再び机に戻る。
  本を机に置く。本の表紙には『優しい魔導書の書き方・初級編』と書かれている。
  椅子に座り、ページをめくっていく。
  すると、あるページに封筒が挟まっている。
グリモ「なんじゃこれ」
  豪快に封筒を破り、中に入っていた二つ折りの紙を開き、
グリモ「これは……!」
  それを見て目を見開き驚く。

□ルルの家・牢屋(夕)
  まるで囚人を閉じ込める檻のような場所。鉄格子の扉と、同じく鉄格子の窓がある。
  その中でルルが壁に背を預けて三角座りをしている。
  窓から夕焼けのオレンジが差し込んでいる。
  ルルが窓を仰ぎ見る。
    ×    ×    ×
  (フラッシュバック)
  ルルが魔法で花火を作り出している。
    ×    ×    ×
  ルル、窓から漏れる夕日を見ながら、
ルル「(呟くように)昨日の花火、綺麗だったな……」
  窓からグリモの顔が覗き、
グリモ「そうじゃろう」
  ルル、思わず仰け反り、
ルル「うわっ! びっくりした!」
グリモ「こんな所で何してるんじゃ?」
  ルル、再び三角座りをして、
ルル「グリモさんこそ、何してるんですか!」
グリモ「店の周りに怪しい魔力の残滓があってな、恐らく使い魔か何かであろう。その魔力を辿
 って行ったらここに着いた」
ルル「使い魔?」
グリモ「というかルルよ、何故店に来ないのじゃ!」
ルル「……私は見ての通り、罰を受けているので」
グリモ「ふん、阿呆らしい」
  窓から顔を引っ込める。
  ルルが顔を下ろす。
  すると、壁の一部が吹き飛び、人一人余裕で通れる程の穴が開く。
  穴の向こうにはグリモが居て、
グリモ「(苦笑いして頭を掻き)もっと小さい穴を開けるつもりだったんじゃが……」
  ルル、目を丸くし、固まる。
  グリモ、中に入ってきて、
グリモ「さあ、出るぞ」
  手を差し出す。
ルル「でも……」
グリモ「別に無理強いはせぬ。しかし、お主は初めから魔法に興味があったように見えたがな。
 せっかく一歩踏み出せたのに、勿体ないのう」
  ルル、押し黙る。
グリモ「まあ、今はただお主の正直な気持ちを言えば良い。それ以上はワシも追求せぬ」
ルル「私は……」
  自分の手を見つめる。
  グリモの真面目な表情。
  ルル、立ち上がって真っ直ぐグリモを見つめ、
ルル「私は、」
  言いかけたところで、
母親の声「娘をたぶらかすのはやめていただけます?」
  家の奥から、コツコツと足音が近づいてくる。
  その主はルルの母親だった。
ルル「お母様……」
グリモ「嫌じゃ。ウチの店はアフターケアも欠かさないのでな」
母親「ふぅ……全く、街に行かせるべきではなかったわ」
  魔導書を取り出し、開く。
  母親が小声で何かを呟くと、魔導書の上の空間に魔法陣が展開される。
グリモ「魔導書じゃと!?」
ルル「えっ!?」
  そして黒い雷が落ちたような音と光が魔法陣から放たれる。
  光と音が収まると、そこには人間の体にヤギのような頭、コウモリの翼を持った巨漢の悪魔
  が現れる。
  ルル、怯えて後ずさる。
グリモ「貴様……悪魔召喚は禁呪だと知っての蛮行か! というか、自分は魔法を使っておるで
 はないか!」
母親「やかましい」
  グリモを指差すと、悪魔が動き出す。檻の鉄格子を掴み、強引にこじ開ける。そしてグリモ
  にゆっくり近づいてくる。
  ルル、グリモを庇って前に出て、
ルル「お母様! やめてください!」
母親「あなたが言いつけを守らないからでしょう? 今反省したら痛いのは勘弁してあげる」
  悪魔が歩みを止める。
母親「あなたが本当に目指すべきものは何? ちゃんと覚えてるわよね?」
  ルル、母親を見つめているが手が震えている。
  グリモ、それを見て手を握り、
グリモ「大丈夫」
  ルル、グリモを見てうなずく。
  そして母親に向き直し、
ルル「今まで嘘をついてきてごめんなさい」
  頭を下げる。
  頭を上げて、
ルル「私、本当はずっと魔法を学びたかった。子供だって笑われるかもしれないけれど、物語に
 出てくるような魔法使いに憧れてた。立派な学者さんになるなんて、全部嘘でした」
  母親を真っ直ぐに見つめ、
ルル「お母様に怒られるのが怖くて、そう言ってきただけなんです。だから、私の本当の夢を。
 本当の夢を言います」
  母親、鬼の形相でルルを指差し、
母親「それ以上聞きたくない」
  悪魔が指示に従い、魔の手をルル達に伸ばす。
ルル「私は、魔導士になりたい!」
  そう言った瞬間、グリモの鎖の魔導書からまばゆい光が放たれる。
  悪魔、思わず怯む。
母親「何!?」
  グリモ、光る鎖の魔導書を手に取り、
グリモ「その言葉を待っておったぞ、ルル」
ルル「ど、どうなってるの!?」
グリモ「この魔導書を開くヒントは、お主が教えてくれたのじゃぞ」
  ルルを見てにやりと笑う。

□(回想)魔導書店グリモ
  グリモが机で『優しい魔導書の書き方・初級編』を開いている。そのページに、封筒が挟ん
  である。
グリモ「なんじゃこれ」
  封筒を豪快に破り、中に入っていた三つ折りの紙を開く。
  それを見て目を見開く。
  紙にはこのように書いてある。
父の声「この本を手に取ったということは、自分の欠点に気づき直そうとしているのだろう。だ
 が、心配することはない。未熟さを受け入れ、努力をし続けたことこそがお前の才能だ。これ
 でようやく、あの本の開き方を教えられる」

□(回想戻って)ルルの家・牢屋(夕)
  グリモ、光る鎖の魔導書を手に、
グリモ「この魔導書の開く条件、それは」
    ×    ×    ×
  (フラッシュバック)
  手紙の最後に『誰かを良き魔導士に導くことだ』と書いてある。
    ×    ×    ×
グリモ「お主を、良き魔導士に導くことだ!」
  光が辺りを包み、鎖が砕かれる。
  光が落ち着くと、魔導書が開いている。
ルル「開いた……!」
  悪魔が再び動き出し、グリモとルルに近づいていく。
グリモ「魔導士ルルよ! これなるは邪を祓う聖なる書。扱って見せよ!」
  ルル、グリモから魔導書を受け取り、急いで目を通すが、
ルル「難しくて全然分かりません!」
  グリモ、魔導書を引っ張り、
グリモ「何ィ!? だったらワシが今すぐ分かりやすく翻訳してやる! お主はそれに従え!」
ルル「ええ!? ……でも、やってみます!」
  二人で魔導書を持つ。
グリモ「その一、憎しみを捨てよ。邪を祓うは深き慈悲なり」
  ルル、目を瞑る。
母親「させるか!」
  悪魔が動き出し、グリモとルルに手を伸ばす。
グリモ「その二、心の中に聖なる杯を作り、聖水を中に満たせ」
  目を瞑り集中しているルル。
  悪魔の手が二人に伸びるが、二人の周りに光の壁が出現し悪魔を弾く。
母親「なんだと!?」
  グリモが魔導書を読んで翻訳し、ルルが従っている。
母親「まさか、禁呪封じの魔導書か!?」
グリモ「その五、聖なる杯を持つは、偉大なる天使。お主の考える最上級の天使を思い描け」
  集中しているルル。
  魔導書の上には白い魔法陣が展開される。
母親「私の娘に、魔法なんて必要ない!」
  悪魔が光の壁に何度も拳を打ち付ける。
  その間もグリモとルルは魔法の準備をし続ける。
  悪魔は咆哮し、より一層攻撃が苛烈になる。
グリモ「その七、足の力を抜け。次はお腹、次は腕、そして肩、最後に首と頭」
  目を閉じたままリラックスした表情のルル。
  ルルの魔法陣に電撃が走る。
  悪魔が光の壁を叩き続ける。
  やがて光の壁にはヒビが入り、砕け散る。
母親「やった!」
  母親は一瞬笑顔になるが、すぐにハッとする。
グリモ「これで最後じゃ。心に浮かんだ、その呪文を唱えよ」
  ルル、ゆっくりと目を開き、
グリモ&ルル「汝の旅路に、平穏のあらんことを」
  魔法陣から聖杯を持った天使が現れる。
  呆気にとられる母親。
  天使が聖杯を掲げると、中から無数の光線が放たれ、悪魔を貫く。
  悪魔は断末魔と共に消滅する。
  やがて天使も魔法陣も消滅する。
ルル「……やった、の?」
グリモ「……お主」
  背中をポンポン叩き、
グリモ「中々やるではないか! やはりお主は良い魔導士になる!」
ルル「(頬を赤らめ)え、えへへ」
  母親が崩れ落ちる。
  グリモとルルは喜ぶのをやめ、母親の方を見る。
ルル「お母様……」
  二人は母親に歩み寄る。
母親「どうして言うことを聞いてくれないのよ……」
グリモ「……何故娘を魔法から遠ざける」
母親「……私みたいに、道を踏み外したらどうするのよ」
  ルル、母親に手を伸ばす。
  母親、その手を見て顔を上げる。
グリモ「天使の召喚は清い心がなければできない、禁呪から最も遠い魔法じゃ。少しは娘を信用
 せい」
  ルル、しゃがんで母親の手を取り、
ルル「お母様、私を信じてくれませんか」
  母親、ルルの手を借り立ち上がる。

□魔導書店グリモ
  グリモが机で魔導書を羽ペンで書いている。
  ルルが扉を開き入ってくる。
グリモ「おお、ルルか。いらっしゃい」
ルル「(笑顔で)おはようございます! 師匠!」
グリモ「ワシは魔導士ではないと……まあよい。こないだの魔導書は理解できたか?」
ルル「はい、なんとか。あとは材料があれば出来ると思うんですけど……」
グリモ「うむ。では、準備しにいくか」
  ペンを置き、立ち上がる。

□ルルの家
  牢屋の外側。グリモが破壊した壁がそのままになっている。
  ルルが壁の前に茶色の魔導書を手に持ち、横でグリモとルルの母親が見ている。
  ルルの足元にはレンガがいくつも積んである。
ルル「いきます」
  しゃがんでレンガの一つに触れる。
  すると、触れたレンガが一人でに浮き、壊れた壁の一部になる。続けて他のレンガも次々と
  壁にはまっていき、ついに壁の穴が完全に塞がれる。
ルル「わあ……!」
  グリモ、修復された壁に触れ、
グリモ「大成功じゃ! 中々の出来じゃのう」
母親「中々って、壊したのはあなたでしょう」
グリモ「(苦笑いして)あ、あはは……それより、お主も魔導士じゃろう、何か言うことはないの
 か」
  ルル、母親を見つめる。
母親「……まぁ、よく出来た方じゃない?」
  ルル、満面の笑みで喜ぶ。
  グリモは腕組みしてうんうんとうなずく。

□魔導書店グリモ・玄関
  グリモが店に戻ってくる。
  ドアノブに手をかけ、扉を開くと、
グリモ「あっ、鍵を閉め忘れておった。まあ客なんて誰も……」
  中に入ると、帽子を被った男の後ろ姿。机の上の書きかけの魔導書をペラペラとめくってい
  る。
  グリモ、恐る恐る近寄り、
グリモ「あ、あのー……それはまだ書きかけで」
  男、振り返らずに、
男「あぁ、すまない。よく出来た魔導書だと思ってね」
  グリモ、それを聞いて胸を張り、
グリモ「そうじゃろう! 何を隠そう、ワシがその本の作者である天才魔導作家、グリ……」
男「(食い気味に)グリモ先生、ね」
グリモ「お?」
  男が帽子を取って振り返る。
  その男は、グリモの父親だった。
父親「中々、いい魔導書を書くようになったな」
グリモ「(驚いて)お、親父!?」
  驚いて固まってしまう。
  ルルが扉を開き店に駆け込んできて、
ルル「師匠! 悪魔が歪めた檻の修復も私が……」
  グリモの父親を見て黙る。
父親「課題はこなしたようだな」
  近場にあった魔導書を一冊手に取り、ポケットから貨幣を取り出してグリモに握らせる。
  そのまま店を出て行こうとする。
  去り際に、
父親「頑張れよ」
  店を出て行く。
ルル「あの……お客さんでしたか?」
グリモ「まあ、そんなところじゃ」
  フッと笑う。
グリモ「よし、ルルよ。金属を操る魔法はちと難しいが、挑戦するか?」
ルル「はい! やらせてください!」
  グリモ、本棚から魔導書を手に取り開く。


       
              (END) 

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