5歳の男の子が道路を飛び出した。黒い日傘が宙を舞う。
アガサ婦人こと、AGATHA霧江は彼をかばい、人工呼吸器をつけられていた。
アガサ博士は祈りをささげている。
アリス「お父さん?今日卒業式なんだけど、どうしたの?」
電話の向こう側には袴衣装のアリスが心配げに校門前でひそひそと話す。
アガサ「アリス、お母さん、のために花束を…訳は後で言う」
電話口の向こうで大声でなく男の子の声とかき消すように謝罪する保護者の声。
アリスは飛び出した。
胸の中で何かを強く念じたとたん、テレポーションし、父の前に現れた。
アガサ「あ、アリス…」
アリス「お母さんに花を。これ、全部サクラソウなんだけど」
安堵の表情を浮かべ涙を浮かべる父と娘。
看護師はこちらを気にしてネクターを手渡す。
ナース「輸血が必要になるかと思います。なのでご協力のほどを」
アリス「なんでもしますから」
そこに突如と現れる黒レンジャーこと黒木いとし。
黒「あれ?アガサ博士、ここにいらしたんですか」
博士は目を潤ませて縋りついた。
アガサ「頼む。輸血を」
黒木「ああ、かまいませんよ?」
一命をとりとめた霧江。ふと目を覚ます。
霧江「あら、あなた、寝ちゃったのね、ふふふ」
アリス「お母さん。起きたの?」
ネクターを持つ娘の晴れ姿に涙する霧江。
5歳の少年はネクターを差し入れに来た
5歳「助けてくれてありがとうございました」
霧江「助かったならいいの。私は老い先短いし」
アガサはうとうとしながら起きた。目の前にはいとしい妻の姿。
大声をあげてむせび泣く。
退院し、しばらくすると、持病の腰痛が悪化し、霧江は車いす姿で屋敷で過ごすことになる。
アリスは黒木にお礼を言った。
黒木「当然のことでしょ。何より僕はあなたが」
アリス「ふふふ」
遠くの空に虹が上がっていた。黒木はこの子をいつか嫁にしたいと思い、アリスは黒木にひそかに思いを寄せていた。
初回 終わり
第二話 お化け屋敷は恋の味?
アリスは手紙を書いていた。一通目は男の子へ。2通目は黒木あてに。
アガサ博士が何かを企んでいるらしい。それは夏の肝試しである。
お笑い芸人白川喜重郎が現れる。
白川「やー、暑いねー」
汗をぬぐうそばに5歳の男の子が不思議そうに見つめている。
5歳「ぎゃ。お化けー」
白川「失礼しちゃうー。こんな色男いる?」
鏡を見ると自分の姿に見惚れている。
黒木は迷いながら来た。
黒木「アリスさん?」
通りすがりの女子大生アイドル、みかんはその姿に一目ぼれした。
アリス「黒木さん。こっちよ」
水色の浴衣にかぐわしいあんずの匂い。黒木はぐっとこらえた。
5歳「お姉ちゃん。」
アリス「僕もきたの?ありがとね」
黒木はますます思いを巡らせた。
ーラブレターか、直接告白か…。ここはひとつ。ー
アリスはにこりと微笑み、黒木の手を引いた。
黒木「お父様の開発されたお化け屋敷ってここですか」
無言でうなづいたアリス。中では悲鳴が上がる。
アリス「さ、ぼくも行こうか」
男の子は手を引いていく。
黒木はそんな二人がいとおしく思えていた。
白川はスポーツドリンクを飲みながらうらめしやーっと出てくる。
黒木はアリスの匂いを頼りにやみくもに探す。
黒木「あ…アリスさん?」
響く声。こだまするアリスの笑い声が不気味に響く。
足元にはケンタッキーの食べかすが。
舌打ちしそうになったが、アリスを探す黒木。
手を握ってきたのはみかんだった。
黒木「小さな手だな」
みかん「やっと見つけた」
黒木「誰だ」
一方アリスは泣きべそをかく男の子と歩く。こちらも黒木を探しているようだ。
ー一緒にいようって言ったじゃない?-
そんな声が頭の中でする。アリスは泣きべそをかいていた。
黒木「やっと見つけた」
アリスを暗闇で抱きしめた黒木。
そんな中、ぐうの音が鳴る。
アリス「カレー食べたくなったわ」
出口を出れば屋台だらけ。みかんはなぜか男の子の子守をすることになった。
みかん「あー。もー」
黒木はアリスにカレーをご馳走していた。アリスは嬉しそうにほほ笑む。
そこに白川が現れる。
みかんは手に持っていたみかんを顔面に投げつけて逃げて行った。
白川「ちえ、幽霊役はつらいぜ」
台風が上陸しかかっていた。 第2話終わり
第3話 助けて。黒木さん
アリスはみかんと弁当屋さんへ向かう。なにやらみかんの先輩が働いているお店らしい。
500円で美味しい弁当食べられると看板には銘打っている。
黒木は休憩中だった。
ーあ、みかんちゃんに、アリスさん…ー
白い影が見えた、キット疲れだろうと思っていたら白川だった。
黒木「びくったー」
白川「ははは、ちょいと」
促されトラックのドアを開ける黒木。白川は耳打ちし去っていく。
黒木「えええ」
不敵な笑みを浮かべ走り去る白川。アリスはその先に見慣れたトラックを発見する。
みかん「せんぱい?差し入れしませんか」
うわの空で聞いていたアリスはうなづいた。
二人ともから揚げ弁当とチキン南蛮弁当を2個ずつ買う。
ドアをノックすると黒木は目を開けて飛び起きた。
二人「差し入れでーす」
黒木は満面の笑みを浮かべると二人は手をひらひらさせながら公園に向かう。
ーいい子だなーー
から揚げ弁当とチキン南蛮弁当をほおばりながら目に涙を浮かべた。
その時、心臓が脈を打った。
ーインシデント発生中ー
脳裏をかすめる泣き叫ぶ二人の姿。
危ないと思った次の瞬間、黒木は二人の後を追っていた。
黒木「おーい」
笑顔で振り返る二人はまるで天女のよう。黒木は鼻血を出しそうになった。
アリス「黒木さんw」
みかんは慌ててティッシュを差し出す。
後ろから白川がやってきた。
白川「両手に花ですなあ」
薄オレンジの浴衣を着たみかんはけたけた笑う。
水色の浴衣を羽織ったアリスは何やら異変を感じた。
次の瞬間4人を雷が襲う。
1時間たっただろうか。AGATHA博士がこちらを見ている。
アガサ「選ばれし者よ」
霧江は車いす姿でほほ笑む。
春雷がとどろく。蘇れ記憶よと言わんばかりに。
第3話終わり
第4話 轟け落雷よ
アリスは手を引いた。その先には黒木の笑顔。アリスは夢を見ていた。
ーアリス、黒木アリスになりますー
目を覚ますと朝5時だった。
メールを開くと、黒木から
「今日、美術でもみませんか」
アリスは嬉しくて飛び起きた。
朝10時。弁当を持参すると、黒木が白いシャツ姿で現れた。
黒木「やあ、お待たせ。早速行きますか」
中には風神雷神図屛風がある。アリスは黒木の腕をぎゅっとした。
アリス「ちょっとお手洗い」
黒木はプロポーズを考えていた。
きゃーと叫び声。黒木はその先に見たものは貧血で倒れたアリス。
お姫様抱っこをして黒木は休憩室へ向かう。
そこに現れた黒いショッカー。
パニックに陥る黒木は突如
黒木「黒レンジャー忍者はったり」
と叫んだ。するとショッカーは消えていった。
黒木は呆然とする。
アリス「黒…」
息をのむ黒木。顔をそっと近づけた。やっと二人の時間が流れていた。
ーお母さん、僕はこの人が好きなんだー
脳裏に浮かぶのは黒木の亡くなった母、真理子の笑顔。真理子は若干アリスによく似た顔だった。
閉館時間が迫り、二人は手をつないだまま出てきた。
二人「あ、あの」
赤面し見つめあう二人。赤田ミツロウはみかんと話しながら見ていた。
赤田「お二人さん。居酒屋でもいかが」
黒木は二人になりたがっていた。アリスはぎゅっと黒木の手を握って首を横に振る。
アリスは手紙を黒木に渡す。
「大好きです ありす」
黒木は雄たけびを上げ、駅のプラットホームに向かう。アリスはほほ笑むと黒木の右ほっぺに
近づき、何かをつぶやいた。
頭の中ではオルゴールの音色。黒木はアリスにどう触れていいかわからず汗ばんだ手をぎゅっと
握り、目に涙を浮かべた。
電車の音にかき消される。
二人はその刹那抱きしめあった。
みかんは赤田を見つめ、大きく目を見開いた
みかん「わたし、ちょっとあなたが好きかもね」
ガッツポーズを決める二人の男。青春真っ盛り。
アリスは涙を浮かべ母にメールを打っていた。
「お母さん、やっと恋人ができました」
第4話 終わり
第5話 李白って誰?白川さんじゃないの?
月見デートに誘う黒木はアリスに団子を買う。
その先には酔っぱらった白川が現れる。目を背ける二人。
白川「団子よこしな」
アリスは笑いながら応じた。
黒木「白川さーん」
3人は合流し、満月のしたでベンチに座った。
月明かりの下、アリスが黒木の手を握った。
白川は空気を読むつもりでお濠に向かっていく。
白川「うまそーな魚だなあ」
その瞬間白川はお濠に沈んでいった。
黒木は手をつないだまま、アリスとお濠に飛び込んだ。
一時間後、そこは桃源郷。
アリスは妖艶な衣装を身にまとい、黒木は黒装束を着て、白川はなぜか李白様と呼ばれている。
月の世界にテレポートしたのだった。
そのころ、みかんは赤田とデート中。
満月を見上げてキスをしようとするも、二人とも月の引力に吸い寄せられた。
重大インシデント発生中
5人の脳内に響き渡る声。
その正体は楊貴妃。
楊貴妃「やっとお目覚めか。そちらを呼ぶ声、わらわじゃ」
5人は陶酔しきった。
楊貴妃は扇子を勢いよく閉じて起こす。
白川「...あなたは女神ですか」
楊貴妃「うぬは李白じゃあるまいのか」
黒木は咳払いをする。
黒木「こほん、楊貴妃様でいらっしゃいますか」
楊貴妃の輝く笑顔。
アリスはきっと黒木をにらむ。
楊貴妃「大丈夫じゃ、取って食うつもりはないわ」
アリスは嬉しそうに笑う。
黒木「私たちを呼んでどうしたかったんですか」
みかんはうなづいた。
楊貴妃の身の上に危機が及んでいた。
発達する積乱雲、その先に大きな男が立つ。
赤田は目を大きく見開き、みかんを抱きしめる
楊貴妃「うぬら、どうかわらわを、この世を助けてはくれまいか」
楊貴妃のことを考えると居ても立っても居られない。
しかし落雷が5人の体を包んだ。こだまする咆哮。
気づいたら公園で寝そべっている5人。
アリス「いてて」
ふと月を見上げたら大きな雲に覆われていた。隣には手をつかんだまま
黒木が寝ている。アリスは額にキスをした。
アリス「月が隠れたわ…今宵の月は綺麗だったのに」
目には大粒の涙が浮かんでいた。楊貴妃ってなんだろう。
何の目的で私たちを?
第5話終わり
第6話 黒木アリスになります
霧江はアリスに紅茶を頼んだ。
霧江「アリス、花嫁衣裳作ってたんだけどね」
アリスはびっくりした。
アリス「お母さん今なんて?」
霧江「お父さんがいたら言えないじゃない。ね」
身に着けたオートクチュールのウェディングドレス
インターフォンが鳴った。
アリス「はーい」
玄関先には配達員姿で現れた黒木。
黒木「は。アリスさん…なんで?」
霧江は車いすを使って玄関先まで来る。
霧江「あの時はどうも」
アリスは照れて居間へ逃げた。
黒木は頭が混乱していた。
引っ越し作業に一人だけ呼ぶのは見積もりのため、
そう聞いていたから。
メイク道具を探すアリス。
黒木は霧江と何やら話し込んでいた。
アリス「お母さん、元気じゃない。嬉しいけどさー」
黒木は思わず鼻血を出した。片側だけメイクをしたアリスの顔が
とてもかわいく映った。
霧江「居間に連れて行ってちょうだい。黒木さん」
婚姻届けを置いたテーブル。黒木はアリスを見つめた。
アリス「黒木アリスになれるの?」
霧江はにこやかにほほ笑んだ。黒木は水を飲みながら赤面する。
霧江「お父さんには私から言っておきますから。ささ」
黒木「恐れ入りますが、僕は事故で亡くした両親しか身内がいません」
固く握った手には大粒の涙。アリスは目に涙を浮かべた。
黒木は胸ポケットから固い小箱をとりだした。
アリス「これは」
黒木「昨日の取引先が宝石商であなたの誕生石を購入しました」
赤く光る自分の誕生石。
黒木は意を決して言った。
黒木「アリスさん、この石に合う指輪を探しませんか」
アリス「黒木さん、よろしくお願いします」
霧江は拍手すると庭先にいた博士が気付いた。
博士は窓からこちらを見てオッケーサインをした。
白い小鳩が飛び立った。まるで二人を祝福するように。
博士の目には涙が流れ、その先には虹が出ていた。
博士「やっと春がきたな」
霧江はカメラに配達員姿の黒木とほほ笑むアリスを収めた。
博士は霧江の肩を抱き、何も言わなかったが、霧江はそんな博士の手をぎゅっと握り返した。
霧江「結婚式までには生きていたいわ」
博士「馬鹿なことを言うな。なんとかするから」
その時見上げた月は不敵な笑みを浮かべているように霧江には思えた
霧江「月が見事までにきれいだわ」
博士は目に大粒の涙を浮かべて黙ったまま窓の外を仰いだ。
博士「頼むから困らせないでくれ。わしは一人にはなりたくない」
第6話 終
第七話 ブーケトスの行き先はどこへ
霧江は黒木に頼み、自宅をバリアフリーにしてもらった。
なぜかそこには白川の姿もあった。
白川「ま、お給金弾んでくれるからいいんですけどね」
冬が近づいていた。アリスはホットココアを淹れていた。
霧江「白川さん、あなたは何を飲みますか」
白川「僕ですか?おなかを満たせればなんでも」
昼の1時を過ぎたころ、博士は大学からあわただしく戻ってきた。
博士「おお、お疲れ諸君。バリアフリー化も進んでいるな」
霧江はあの言葉を思い出していた。
ーわしは一人になりたくないー
表札はアガサ、黒木の二つ並んでいる。
黒木「博士…。ありがとうございます」
目に涙を浮かべていると博士は照れくさそうに目を背けた。
博士「わしじゃない、霧江からじゃ、黒木君は命の恩人だから」
霧江は何も言わずつかまり立ちをした。
アリス「お母さん、立てるようになったの?」
白川は大きく目を見開いて驚いた顔をした。
白川「無茶しないでくださいよ、奥さん」
しきりに博士の手荷物を凝視する白川
テーブルの上に無造作に置かれたのは特上の寿司だった。
博士「し、白川くん、いいかね?手を洗ってから…」
黒木は緑茶を用意しているとアリスは隣に行きたいと思った。
目を閉じたらなぜかアリスは黒木の目の前のスツールに腰かけていた。
黒木「わ、アリスさん?」
博士は卒業式の時といい、今回のことといい、娘にある能力を悟った。
しかし言わないようにした。言ったら消える特殊能力であるからだ。
霧江「じゃ、皆さん、お揃いですか」
白川「手洗いしましたよー」
博士「もういいよな」
全員「いただきまーす」
無言で箸が進む。アリスのほっぺたが真っ赤になった。
わさびを噛んでしまったようだ。黒木は背中をさすった。
白川は慌てて洗面器を持ってきた。
博士「さび抜きって頼めばよかったか」
ポケットには封筒が入っていた。
アリス「お父さん、それって」
霧江「黙っていちゃわかりませんよ、あなた」
白川「ごめんなさーい、次のバイトがあるので帰りますね」
それは無料のウェディング見学会のチケットだった。
バリアフリー完備☆彡通常10万円の挙式を今なら0円で☆彡
黒木「無料…」
博士「ここはな、寿司屋の大将の親戚の経営する式場なんだ」
場所を見ればすぐに行ける距離だった。
ただ立地が悪く、経営難に陥っていた。
工事現場が近くにあり、車通りも多い。
4人は目を見合わせた。
黒木は財布から1万円札を取り出した。
博士「黒木君?」
黒木「幸いなことに僕はアリスさんという素敵な方に…」
息を詰まらせる黒木はゆっくり話した。
黒木「巡り、会えました。それは奇跡なんです」
チケットの裏側にはオプションの事が小さく書いてあった。
『一万円支払ったら無料送迎バス可、アフターケア充実』
霧江「今日はあいにくの曇り空だし…どうかしら」
博士「わかったよ…善は急げ、じゃな」
プルル…
支配人「お電話ありがとうございます、こちらは…あ、はい」
博士「本日は受け付けているかな?」
支配人「失礼ですがお名前は?」
博士「アガサ。あがさです。」
支配人「あ、が、…かしこまりました。あと1時間後には…」
博士「うんうん、よかった…一万円のオプションとやら…」
黒木は電話している博士を横目に食べ終わった皿の後片づけを始めた
アリスは6という数字を書く父のメモを覗き込んだ。
博士「よろしくお願いします」
アリス「…ありがと、お父さん」
博士「後二人、後二人呼べるか」
アリスはみかんに連絡を入れた。
みかん「せんぱーい、なんですか」
アリス「みかんちゃん?おねがい…今から1時間以内にうちに来れる」
みかんは赤木と手をつないでいた。
みかん「かまわないですけど、赤木くんもいるんですよ」
ちょうど赤木はみかんにアイコンタクトをするように
頭を上下に振っていた。
アリス「よかったー。人手不足だったの」
赤田「腹減ってるんでなるはやで…」
ピーンポーン
博士は玄関先に飛び出した。
みかん「わ、はや」
チケット4枚と招待客2名、全員揃った。
ジャージ姿のみかんと赤木はウォークインクローゼットへと通された。
黒木「赤木君はこれかな」
アリス「みかんちゃんはこれね」
赤田「ちょ、なんですか、くれるならいいけど」
みかん「先輩、いいんですか」
霧江と博士はテーブルの上で時計を眺めている。
霧江「お友達っていいわね」
博士「ああ…、そうだな」
送迎のバスがあと30分後に来る。
二階から4人が下りてきた。
霧江は嬉しそうに目を細め、博士はカメラを探した。
みかん「こんな…いいんですか」
アリス「散らかるよりはましよ」
黒木「その服はな、面接で使ったんだ」
赤田「マジすか」
バスが玄関前に到着した。
霧江は博士と黒木に車いすに乗せてもらい待機する。
ピーンポーン
全員「あ」
白い運転手姿の男性は白川だった。
車内は爆笑の渦に包まれ、到着予定時刻10分前に式場についた。
白川「支配人…あの…」
支配人は大急ぎで厨房へと電話をかけ出迎えた。
支配人「チケット拝見いたします」
点呼をすると人数ちょうどいる。
通される6人はクラシックの音色に心を奪われる。
アリスは黒木のそばを離れない。
霧江と博士は手前に、みかんと赤田は両脇に座った。
みかん「せんぱい、緊張してきました」
アリス「わ、私もよ」
赤田「黒木さん、おれ…」
黒木「カジュアルに行こうよ」
博士は支配人に封筒を手渡す。支配人は頭を下げて奥へと向かった。
『サビぬきで』
と一枚メモ書きが添えられていた。2時間の宴席。失敗はできない。
白川はタバコをふかせていると、大将が現れた。
慌てて頭を下げる白川。
大将は穏やかな笑みを浮かべ関係者入り口へ消えていく。
赤田はみかんと撮影に興じた。
みかん「ブーケトスは誰に行くのでしょうね?」
赤田「ケガしないでよ、頼むから」
アリスはさび抜きの寿司を美味しそうに食べながらほほ笑む。
桃源郷のようなイルミネーションが綺麗でこのまま時間が止まったら黒木はきっとアリスをずっと眺めていたい、そんなことを思っていた。
支配人「宴もたけなわで…新婦様、ブーケトスの時間が…」
霧江は博士と拍手する。博士は赤田にカメラを手渡されあたふたする。
アリス「みかんちゃーん、受け取って」
高校時代バレー部だったみかんはなぜかアタックしそうになった。
顔面に直撃した赤田は倒れた。みかんは赤田とブーケへと走る。
第7話 終わり
第8話 嵐の後に
アリスは霧江とビデオ鑑賞をし笑っていた。
そのころの霧江はほぼ寝たきりだった。
博士と黒木は二人でドラッグストアに向かっていた。
博士「二倍ポイントデーとはな…やるなあ、君は」
黒木「…まあまあ荷物は持ちますから買いましょう」
博士「うむ、そうだな。今の内に…手分けして」
経口補水液、のど飴、湿布、乾電池、お菓子、天然水など計10品
黒木「ポイントカードです」
店員「今ならサンプルおつけいたしますが?」
博士は落ち着かない様子でサンプルを凝視した。
黒木「あ、じゃあこれで」
店員「ありがとうございましたー」
店を出るや否や博士はサンプルが気になって仕方ない。
黒木「博士。今から先に家に到着するまで小走りしましょう」
博士「…望むところだ」
水しぶきが二人の顔面を直撃するが、負けず嫌いの博士は小走りをし、黒木の10メートル手前を歩く。
黒木「ふふ…博士はわかりやすいお人だ」
それは幼い日の自分と遊ぶ父を重ねていたようにも思える。
気づけば博士は玄関前で待っている。
黒木「え…待っていてくれたんですか」
博士「無論、娘婿だもんな」
黒木「…」
玄関は博士が開いた。
アリス「おかえりなさい」
霧江「意外に早かったわね」
黒木は洗面所に向かった。泣いているところを見られでもしたら恥ずかしくてたまらないからだ。
博士「ほら、買ってきたぞ」
サンプルは白い小袋に入っていた。
黒木「ただいま…」
『気象病用薬サンプル』
『マスク一枚』
その二つがサンプルに入っていた。
博士は虫眼鏡で気象病用薬サンプルの説明書を読み、霧江に手渡す。
霧江「こめかみか腰に、ね」
博士「らしいな」
アリス「マスクはどうする?」
無地のマスクは男性用マスクであった。
霧江「まあ、置いときなさい。」
外は嵐が吹き荒れる。黒木は嵐の日に行方不明になった父を思い出したが、それも薄れていく。
黒木「…お父さん…」
博士「ん?わしのことか」
黒木は博士に亡き父の話をした。博士の眼鏡の奥は曇った。
5歳の誕生日に嵐の中消えた父というのは、博士の思い当たる節があったのだ。
博士「記憶をなくしているだけだ。大丈夫、息子さんはここだ」
黒木春雄は博士の勤務先でトレーニングを重ねていた。
手紙を見てフラッシュバックを起こしかけたが同時に生きる気力を取り戻す。嵐の中、一人嗚咽を漏らす春雄は涙とともに苦しみが胸から消える。そして拙い文章を書いていた。
むすこへ おとうさんはげんきです。なんねんもあえなくてすまん
博士は過去の研究論文を読み漁り書斎に引きこもっていた。
…レンジャー?ライダー?
アリスはそのころ、霧江の看病をしながらみかんに連絡を入れていた
アリス「あれからどう?」
みかんは履歴書の作成に追われ、赤田は隣で焼きそばを作っていた。
桃源郷來春宴は新規リニューアルを果たし、応募者が殺到していた。
みかん「エントリーシート書いてます」
嵐が過ぎた後、黒木は愛おしそうにアリスを見つめ願った。
ーすべてうまくいくといいな、もう誰も失いたくないー
テレビをつけると三国志の映画。
霧江「お父さんは書斎だから後で呼びましょ」
桃園の誓いのシーンで涙する黒木。
あの時代だったら生き伸びる確率は半分くらい。
自分は運がいいほうだ。兄弟とさかづきを交わし運命を誓う。
テレビは異様に鮮明さを極め、画面の向こう側に映る自分に気づく黒木はアリスの笑い声が愛おしくてたまらない。
霧江は美味しそうにチョコクッキーをほおばり、心配そうに黒木を眺める。そのころ天界から誰かが勢いよく落ちてきた。腰を痛めて丸くかがむと白川は白いコートを差し出す。
白川「あ…あなた様は」
楊貴妃はようやく許され1週間のバカンスに来たのだ。
楊貴妃「おぬし、私を京都へ連れて行ってくれまいか」
白川「ま、いいですよ、ってどこまで?」
耳打ちする楊貴妃。行先は楊貴妃観音。途中、虹が出てきた。
楊貴妃「なぜ変わり身道具みたいなのがこんなにあるのじゃ」
白川「なぜって…僕は旅芸人だもん」
楊貴妃「ほお…面白いな、そちは」
白川「料金は5万円かかるけどいいの?」
楊貴妃「安いな、かまわぬ。100万円札渡すから案内せよ」
東寺を過ぎるとそわそわする楊貴妃。空腹状態である。
ドライブスルーに入る白川は手慣れた様子で現金5千円を指し出し、商品を受け取る。
白川「ん。」
楊貴妃「なんじゃこの照り焼きとやらは、わらわを…」
白川「僕はシェイク飲めばいいんで、というかいっぱい食べなきゃ」
楊貴妃は目に大粒の涙を浮かべほおばる。
楊貴妃「大和…日本はずるいな…こんな美味があふれておるとは」
楊貴妃観音の前、サングラスをした男女は暖かい光に包まれた。
楊貴妃は念願かない白川に抱き着いた。
戸惑う白川。白い雲が棚引いた。楊貴妃はあと少しだけと天を仰いだ。
完
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