平成が明け、望月書店の電話が鳴った。主は急いで店じまいをする。
「ま、閉店時間じゃしかまわん」
店番を叔母の春江に任せ、一路、病院へと走る。
小春日和のことだった。
「女の子でも男の子でもいい。わしは一生懸命名前を考えるからな」
妻由紀子は汗ばんだ体で力を振り絞り、女の子を生んだ。
店主の正雄はその子の顔を見たとき、
「かわいらしい、詩織ってのはどうじゃ」
と由紀子に見せた。
「ええ名前です、が、ちょいと休まして」
「おおお、わかったわかった、ありがとな」
時は移ろい、由紀子はスーツをあつらえていた。娘の詩織が大学生になったのだ。
詩織「お母さーん、これ派手過ぎん?」
正雄はにんまり笑っている。由紀子は目を丸くして
「そんなことないよ、可愛い。あなたによく似合うちょるよ」
とカメラを向けた。詩織は恥ずかしがりながらも正雄とツーショットをとった。
入学式から一週間が過ぎようとしたころ、母に連れられ、図書館へ向かう。
母「いい?あなたは司書の資格取りなさい。お母さんはそれくらいあなたを応援してるから」
詩織「わかったよ、10冊借りてええ?」
母「ええよ、けどあんたが持ちなさい。私はコーヒー飲んでやすんじょる」
詩織はハンドメイド雑誌や大好きなテキストのバックナンバーをあさりだした。
合計5冊。母は入り口でほほ笑んでいる。
母「ぎょうさん借りたねえ、帰りにアイス食べて帰ろうか」
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