〇神田家・浴室(夜)
激しく流れるシャワーの音。
排水溝に流れていく血。
浴槽の中をシャワーで洗う青木誠一(30)の後ろ姿。
青木の背中をドアの隙間から見つめる神田の目。
〇病院・全景
〇同・廊下
美咲、紙袋を片手に部屋の前で立ち止まる。
“松井翔”と書かれたプレート。
〇同・松井の病室
松井、ベッドでマスクをした状態で眠っている。
片腕、片足はギプスで固定され、頭は包帯に巻かれ、顔には青あざ。
松井のベッドの横で、松井の手を握り泣いている松井花蓮(35)。
花蓮、美咲に気づく。
美咲、頭を下げる。
花蓮「何しに来たんですか」
美咲「松井くんのお見舞いに…」
花蓮、勢いよく美咲の元へ。
花蓮「あなた担任でしょ!?生徒こんな目に遭わせて!家に帰すまでがあなたの責任でしょ!?
広川くんのお母さんに聞きました。神田くんに言われたからやったって。あなた一体どういう
教育してるんですか!?もう帰ってください!この事はきちんと校長にお話しして、学校全体
で対応してもらいますから!」
美咲、俯き頭を下げる。
美咲「本当に申し訳ありませんでした…」
深く頭を下げる美咲、涙を流す。
〇同・廊下
美咲、俯きながら徐に歩く。
広川の声「あ、先生」
広川、美咲に駆け寄る。
美咲、涙を慌てて拭き、
美咲「広川君、大丈夫だった?大変な目に遭わせてしまってごめんなさい」
広川雅樹(39)が美咲に近寄り、会釈する。
雅樹「宮内先生、いらしていたんですね」
美咲「この度は智也さんを危険な目に遭わせてしまい大変申し訳ございませんでした」
頭を下げる美咲。
雅樹「先生、頭を挙げてください。全責任が先生にある訳じゃありません。智也はうちの男3兄
弟の末っ子で本当に兄貴達に習って悪さばっかりで、そんな智也も先生のこと学校で一番好き
だって家じゃ言ってるんですよ」
美咲「そうなんですか」
広川「あ!秘密だって言ったのに!」
広川、雅樹を叩く。
雅樹「痛い痛い、とにかく先生、辞めたりしないでくださいね」
美咲「ありがとうございます」
広川「先生」
美咲「ん?」
広川「あいつのせいだよ」
美咲「あいつ?」
広川「神田」
美咲、一点を見つめる。
〇(回想)住宅街(夕)
美咲、視線が止まる。
美咲をじっと見つめる神田。
神田「これはゲームなんだよ先生」
笑みを浮かべる神田。
〇病院・廊下
美咲、目を見開く。
雅樹「人を犯人みたいな言い方するな。お前も共犯なんだ。ちゃんと反省しろ」
広川「はい」
雅樹「先生、もう二度とこういう事が起きないようにうちでもよく聞かせておきます」
雅樹、会釈する。
広川「また明日ね先生」
広川、雅樹、その場を去って行く。
美咲、再びボーっと一点を見つめる。
〇同・廊下(夜)
真っ暗の廊下。心拍音が響く。
〇同・松井の部屋(夜)
ベッドで眠る松井。
松井「ん…」
ゆっくり目を開く松井。
松井、辺りを見渡す。
松井、固まる。震えだす。
松井「ああ…ああ…」
部屋の片隅に人影。
松井「あ…誰…」
人影が動く。
松井、目を見開く。
〇学校・4年3組の教室(朝)
美咲、教壇に立ち生徒達に連絡事項を伝える。
美咲「はい今日の4時間目は今度の学芸会に向けての学年で合奏の練習があります。自分の担当
のリコーダーを用意して体育館に集まってくださいね」
避難帽子に“松井翔”と書かれた椅子は空。
避難帽子に“神田翼”と書かれた椅子も空。
教室の外に、前田洋一(53)の姿。
美咲、前田の元へ。
美咲「教頭先生、どうされました?」
美咲に耳打ちする前田。
美咲「本当ですか!?それは良かったです!」
美咲、満面の笑顔。
〇同・職員室(夕)
美咲、デスクに着くなり急いで鞄を持ち支度をする。
美咲の斜め向かいの席には酒井の姿。
酒井「良かったね松井君、目が覚めて」
美咲「はい、今から松井君のお見舞いに行って来てまた戻ってきます」
酒井「あんまり無理しないようにね。そういえばおたくの神田君、今日は休みだったみたいで」
美咲「はい、でも前の学校でも週2、3日は休んでたらしいので、そういうご家庭みたいです」
酒井、美咲の元へ。
酒井「それが実は変な噂を聞いちゃいましてね」
美咲「噂?」
酒井「実は神田君の前の学校で、神田君を担任していた先生は持って3か月と聞きましてね」
美咲「どういうことですか?」
酒井「神田君を持った先生は精神的に病んで次々に辞めて行ってしまったらしいんです」
美咲「え?」
見合う美咲と酒井。
〇病院・正面入り口(夕)
美咲、入り口の前で立ち止まり、病院を見上げる。
〇病院・松井の部屋(夕)
美咲、片手に紙袋を持ち、部屋に恐る恐る入っていく。
美咲、松井のベッドの元へ。
美咲「松井君…お母さんお手洗いかな?」
松井、ベッドに仰向けになり、瞬き一つせず天井を見つめている。
美咲「これ…松井君が大好きだった漫画の新作よ。凄く好評らしいから、良かったらお母さんに
見させてもらってね」
美咲、紙袋をベッドの横の机に置く。
松井の口元が動く。
美咲「ん?何か言った?」
再び松井の口元が動く。
美咲、松井の口元に顔を近づける。
松井「…ゲームオーバー」
美咲、真剣な目で松井を見つめる。
美咲「松井君。それどういう意味?」
松井「…ゲームオーバー」
松井、目から涙がこぼれる。
美咲「松井君」
松井「…こわい…こわい…」
松井、泣きながら何度もこわいと呟く。
美咲、真剣な目で松井を見つめる。
〇神田家・全景(夜)
2階建ての古びたアパート。
美咲、真剣な目でアパートを見つめる。
〇同・玄関(夜)
薄暗い明かりが玄関のドアを照らす。
表札には何も書かれていない。
美咲、徐にチャイムのボタンを押す。
ピンポーン。
応答なし。
美咲、もう一度ボタンを押す。
応答なし。
美咲、その場を去ろうと振り返る。
立ち止まる美咲。
神田とスーツ姿の青木が立って、美咲を見ている。
美咲「あ…」
美咲、会釈する。
美咲「翼さんの担任の宮内美咲です」
ゆっくり美咲に近づいてくる青木。
青木、目をくしゃくしゃにして微笑む。
青木「やっとお会いできましたね、宮内先生」
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