・榮大インフォメーション
建物の外ではサークル勧誘の声が響いている
インフォメーションのエスカレーター横に展示されている在校生の作品
その中心に展示されている白いマネキンのような人形
赤のタータンチェックのワンピースを着ている
その人形を見ている俊祐《しゅんすけ》
俊祐M 「ただ素直に凄いと思った」
***
・教室
広い教室の中、女子が固まって話をしている
生徒A「ねぇ、知ってる? 会生《えふ》高の哉家《かないえ》俊祐」
生徒B「知らない人いないんじゃないの? 有名も有名でしょ」
生徒C「あー、あたしまだ見たことない」
生徒B「あたしあるよ。この間英Ⅱの授業一緒だった」
生徒C「どんなだった?」
生徒B「噂通り」
生徒A「会生高のー、なんだっけ……?」
生徒C「違うよ。今じゃあ」
生徒B「服飾科の」
生徒全「帝王!」
俊祐、教室に入ってくる
後ろに三人女が付いてきている
ドカッと席に座る俊祐
生徒C「うわー、凄いね。女連れまわってんの?」
生徒A「さすが帝王」
生徒B「でもなんかすっごい不機嫌そうじゃない?」
生徒C「女絡みでなんかあったんじゃないの~?」
俊祐を見ている生徒A、B、C
チャイムが鳴り、教師が入ってくる
授業が始まる
ため息をつく俊祐
俊祐M「初めて凄いと思った。こんな服が作れるのかと、素直に羨ましいと思ったんだ」
***
・教室
布を切っている俊祐
俊祐M「それがどうして工芸科なんだ!」
布をブチンと切る
***
・教室
窓際で女に絡まれているが無視している俊祐
女A 「ねぇ、俊祐」
俊祐 「あぁ?」
女A 「あれってさぁ」
俊祐 「なに」
女A 「お姉さんじゃない?」
入り口を見ると
涼子《りょうこ》が立っている
***
・廊下
窓際で話ている二人
俊祐 「なに」
涼子 「あんたまだ機嫌悪いの? いい加減やめなさいよ。仕方ないもんは仕方ないんだから」
俊祐 「別にどうとも思ってねぇよ」
涼子 「うわー、やな奴。まぁいいわ。俊祐鍵持ってる?」
俊祐 「なに、また無くしたの?」
涼子 「無くしたんじゃないの。忘れたの」
俊祐 「だったら取りに行けよ」
涼子 「だってめんどくさいんだもん。どうせあんた帰り遅いんでしょ? ホラ」
涼子、手を出す
俊祐 「いっそのこと十本くらい持ってれば?」
呆れながらキーケースから自宅の鍵を外して涼子に渡す
俊祐 「これ無くしたらもう入れねぇからな」
涼子 「だから無くしたんじゃないの。忘れたの!」
俊祐 「はいはい」
涼子 「やな奴。って──あれ、永久《ながひさ》くんじゃん」
窓の外を見る涼子
俊祐 「えー?」
涼子 「ほら、下歩いてるの。相変わらず美しいわねー」
俊祐 「……」
春《はる》、一人で歩いている
涼子 「彼、美しいわ、才能あるわ、何でもできるわ……最早超人よね……舞台立たれたらあたし太刀打ちできないんじゃないかと思うもん」
俊祐 「へぇ……」
涼子 「まぁ立つことなさそうだから安心してるけどっ。あんたはせいぜい一人で頑張れば? 『服飾科の帝王』様」
俊祐、涼子を睨む
涼子 「いいじゃん。あたしもこんなカッコイイの付けて欲しかったわ」
俊祐 「馬鹿らしい。勝手に言ってろ」
教室へ戻っていく俊祐
涼子 「ふふっ」
***
・食堂
友人と食事をしている春
それを遠くから見ている俊祐
周りには相変わらず女数名
女B 「俊祐ってさぁ、男にも手出すわけ?」
俊祐 「はぁ? なんだそれ」
女B 「最近ずーっと見てんじゃん。二年の男」
俊祐 「この視線がそう見えるんだったらお前病院行った方がいいぞ」
立ち上がる俊祐
女B 「なにそれサイテー」
俊祐 「言ってろ」
立ち去っていく
***
・アトリエ裏
蝉が鳴いている
校舎裏で染めた布をしゃがんで洗っている俊祐
アトリエの中には春がいる
俊祐 「あちぃ……」
腕で額の汗を拭うと、中で絵を描いている春を見る
俊祐M「あいつ、ほんとになんでもやってんだな……何が目的だ……」
描きかけの絵を見る
俊祐M「すげぇ……綺麗な色……」
ボケッと見ていると春が俊祐の視線に気がつく
春と目が合う
春、微笑む
一瞬驚き、咄嗟に立ち上がろうとして出っ張っていた棒に頭をぶつける俊祐
俊祐 「いってぇ……」
頭を抱える俊祐
春、驚いて窓に駆け寄る
春 「大丈夫?」
俊祐 「あ、あぁ。だいじょう……ぶ……」
額から血が流れてくる
春 「うわっ、切れてるよ。おいで、手当てしてあげるから」
俊祐 「大丈夫だってこれくらい。拭いてれば治る」
春 「駄目だよ、早く早く」
***
・アトリエ
椅子に座らされている俊祐
救急箱を持ってくる春
俊祐 「……」
機嫌が悪い俊祐
春 「痛いと思うけど、我慢してね?」
消毒する
俊祐 「っ!」
春 「大丈夫?」
俊祐 「平気……」
春 「強いね。ふふっ」
俊祐の前に立って額の血を拭いていく
俊祐 「なんでこんなもん持ってんの?」
春 「ここでは良くあるからさ。火傷とかしょっちゅう。手当ても上手くなったよ」
笑う春
その顔を見て描きかけの絵を見る俊祐
俊祐 「あんたほんとになんでも出来んだな……」
春 「これくらい、誰だって出来るよ」
俊祐 「いや、そういうことじゃなくて……」
春 「?」
俊祐 「なんでもねぇ……」
春 「はい。出来た。痛くない?」
俊祐 「サンキュ。大丈夫だよ。大したことない」
春 「はははっ。ちゃんと治るまで消毒するんだよ」
俊祐 「はいはーい。じゃあな。邪魔して悪かった」
春 「いーえ」
俊祐、立ち去る
俊祐M「誰だって出来る。違うと分かってても違う意味に聞こえる。馬鹿じゃねぇの……ほんとに」
***
・アトリエ
救急箱を片付けている春
友人が入ってくる
友人 「今の髪長いのって哉家じゃねぇの?」
春 「うん、そうだよ」
友人 「なんでこんな所に! あいつの触手はこっちまで来てんのか?」
春 「なにそれ? 外で染色してたんだよ。それで怪我しちゃって」
友人 「え? それで手当てしてやったのか?!」
春 「うん。そうだけど」
友人 「お前怖くないの……?」
春 「怖い? どうして?」
友人 「だっていっつも狙われてるじゃん! 永久のことすっごい睨みつけてんの! なんかされてない? 大丈夫?」
春 「はははっ! 僕には可愛くて仕方なく見えるけどな」
笑って救急箱を片付けに行く春
友人 「お前ホント無敵だな……」
***
・自宅
ソファに座ってテレビを見ている俊祐
涼子が帰ってくる
涼子 「なんか食べたー?」
俊祐 「あー、カレー」
涼子 「まだある?」
俊祐 「あぁ」
涼子、鍋を開ける
涼子 「わー、具がでかい……」
俊祐 「文句言うなら食うな」
涼子 「うそうそ。そうだ聞いたー? 永久くん。絵で最優秀賞」
俊祐 「知ってる」
涼子 「あぁ。そうだろうね、忘れてたわ。あんたがストーカーなの」
俊祐 「あぁ?」
涼子、カレーを持ってきてテーブルに着くと食べる
涼子 「あー怖い」
俊祐 「俺あの『青空』のがいい」
涼子 「あ、あたしもあの絵好きー。啓大《けいだい》の先生だって」
俊祐 「へぇ」
涼子 「それになんか今回、他の賞出なかったらしいよ。よっぽど他が駄目だったのかね」
俊祐 「それは他の奴が可哀想だな」
涼子 「あんたは永久くんにしか興味ないのね。頑張れ」
俊祐 「どういう意味だ」
涼子 「そういう意味よ」
俊祐、ため息をつく
俊祐 「そうだ。姉貴|榮大祭《えいだいさい》でなんかやんの?」
涼子 「午前中に舞台出るけど。何」
俊祐 「午後からのショー出てよ」
涼子 「あんたが頼みごととは珍しいわね。なに、ファッションショー?」
俊祐 「そ」
涼子 「賞金は?」
俊祐、頭だけ逸らして涼子を見る
俊祐 「二割」
涼子 「四」
俊祐 「はぁ?! ふざけんな」
涼子 「そ。交渉決裂。帝王ガールズに頼みなさい」
俊祐 「……」
***
・教室
屯している生徒A、B、C
生徒C「聞いた? 帝王のモデル『演劇科のプリマドンナ』だって!」
生徒A「ほんとに?! 絶対勝てない……」
生徒B「いや、モデル云々じゃなくてまず帝王には勝てないでしょ。この間のグランプリの見た? あの染色全部自前だって。あんなの勝てるわけない」
生徒C「しかし兄弟でくるかなぁ……。最強すぎでしょ……」
生徒全「はぁ……」
***
・廊下
生地を担いで歩いている俊祐
ふと窓の外を見る
俊祐M「あ……永久……と……」
渡り廊下の誰もいない場所で春と男子生徒が話をしている
俊祐 「!」
男子生徒が春とキスをしている
俊祐 「な……」
俊祐M「あいつ……どこまでもなんでもありなんだな……」
呆れた顔をして去っていく俊祐
***
・ミシン室
誰もいない中、俊祐、仮仕立ての服を涼子に着せている
涼子 「ねぇ、あの『青空』の先生覚えてる?」
俊祐 「あぁ、名前しらねぇけど」
針を咥えながら話す
涼子 「あの先生にこの間会ったのよ!」
俊祐 「なに、いい男だったのかよ」
咥えていた針を生地に刺す
涼子 「いい男というか、可愛い感じ」
俊祐 「へぇ」
涼子 「それでね、あの先生の絵見せてもらったんだけどすっごい綺麗でさ。あたし今度モデルすることになったの!」
俊祐 「人物画専門なの?」
涼子 「そう! ヌードモデル!」
俊祐 「ヌード?!」
涼子 「そうよ。いいでしょー? 楽しみ」
俊祐 「お前そんなこともするのか……」
涼子 「これだから若い男は……。やらしいことじゃないんだから! あたしあんな綺麗に描かれたらもっと飛躍できる気がするっ」
うっとりしている涼子
俊祐 「好きにしろよ……」
呆れる俊祐
***
・控え教室
ショーに出るモデルが沢山居る
1920年代ファッションの涼子
俊祐 「別に緊張もクソもねぇだろうけど、とりあえず躓くなよ」
涼子 「あたしを誰だと思ってるの? プリマドンナの名を轟かせてやるわよ」
笑う涼子
俊祐 「あぁ、そう」
呆れる俊祐
涼子 「こんなときだからこそあんたにいいこと教えてあげる」
俊祐 「はぁ?」
涼子 「アトリエ行ってみな。すごいもん見れるから」
俊祐 「アトリエ?」
進行 「次、哉家さんでーす!」
涼子 「はーい! んじゃね。姉からの愛の鞭よ」
舞台へ出て行く涼子
俊祐 「あぁ……。?」
***
・大ホール
ランウェイを颯爽と歩く涼子
***
・大ホール
グランプリのトロフィーを持ってインタビューを受けている俊祐
涼子、ティアラを乗せている
***
・アトリエ
夕方、人のいない校舎
遠くから人の騒ぐ声が聞こえてくる
教室の後ろのドアからアトリエを覗く俊祐
俊祐 「……」
春の隣に銅で出来た女性像が立っている
その像は白い何の装飾もされていないシンプルなドレスを着ている
足元には草木や花が散りばめられていて
無表情だが、とても幸せそうに見える
春、俊祐に気がつく
春 「あぁ、おでこ、もう大丈夫?」
自分の額を指差して笑う春
俊祐 「そんなのとっくの昔に……」
じっと像を見ている俊祐
春 「さっきの見てたよ。おめでとう。すっごく綺麗だったね。お姉さんもさすがプリマドンナだ」
俊祐 「それ……」
像を指差す
春 「? あぁ、今完成したんだ」
俊祐 「あんたが全部作ったのか?」
春 「うん」
俊祐 「そうか……」
じっと像を見ている俊祐を不思議に思う春
春 「よかったらお茶でもどう?」
俊祐 「いや、いい。帰る」
背を向ける俊祐
春 「そう」
俊祐、去っていく
手を振る春
春 「……」
後姿を見送ると微笑む
***
・自宅
息を切らして帰ってくる俊祐
部屋に入るなり机の上にデザイン画を広げる
俊祐M「凄いってのはもう分かってたのに。どうしてあいつはどんどん先に進んでいくんだ」
布を広げて鋏を入れる
春 『これくらい、誰だって出来るよ』
俊祐M「へらへら笑って何考えてんのかもわかんねぇ。どっからあんなの浮かんでくんだ。あいつにあって俺にないものってなんだ」
俊祐M「どうすれば俺はあいつに追いつける?」
俊祐 「くそっ……」
頭を抱える俊祐
俊祐 「ははっ……どうしてもあんなのに追いつけるわけねぇよ……どうなってんだあいつ……」
笑っている俊祐
***
・自宅
俊祐M「あいつの目には世界がどう見えてるんだ……」
涼子が帰ってくる
机に突っ伏して眠っている俊祐
涼子 「こんなとこで寝て……」
机の上に並べられたデザイン画を見て微笑む涼子
涼子 「あんたも十分凄いんだって……」
呆れる
俊祐 「ながひさ……」
寝言を言う俊祐に驚く涼子
涼子 「あんたほんとに永久くんのこと好きなんじゃないの……?」
***
・廊下
女Aが俊祐に怒鳴っている
女A 「なんなのそれ! あたしって俊祐のなんなわけ?!」
俊祐 「何って……別に。なんでもねぇんじゃねぇの?」
女A 「なっ……」
俊祐 「勝手に寄って来たのはお前だろ? 俺今それどころじゃねぇって言ってんじゃん」
女A 「あ、あたしは」
俊祐 「っつーか、お前も服作りたくて来てんなら俺なんかに股開いてないでやることあるだろ」
頬を叩く音が響き渡る
女A 「サイテー!」
俊祐 「って……」
頬に触れて女を睨みつける俊祐
廊下にいる他の生徒がどよめく
俊祐 「それでお前の気が済むんならいくらでも殴れよ。俺にはやることがあんだよ。こんなことしてる暇ねぇんだ」
女A 「……っ!」
女A、泣きながら去っていく
***
・ミシン室
広い教室の中、一人でミシンを踏んでいる俊祐
ミシンの音が響いている
俊祐M「誰に何と言われたって構わない。俺だって自分が馬鹿だと思う。でもあんな物見てしまってどうにかならない方が可笑しいんだ。今の俺の頭の中には永久しかいない。あいつの作るものすべてが凄い。どうにかして手が届く距離まで追いつきたい」
出来上がった黒いドレスを広げる
俊祐 「……」
しかし納得のいかない顔をして頭を抱える俊祐
春 「冷やした方がいいよ」
俊祐 「っ!」
突然の声にバッと顔を上げると
春が濡れたハンカチを微笑みながら差し出している
俊祐 「な、なんで! いつのまに!!」
春 「うーんと、結構前からいたんだけど……気がつかなかった?」
笑っている春
俊祐 「き、気づかなかった……」
力が抜けて背もたれにもたれる俊祐
春 「熱くなってる……」
春、俊祐の頬に触れる
俊祐 「なっ……」
春 「さっきの、いい音してたね」
笑う春
俊祐 「見てたのか……」
目をそらす俊祐
春 「サイテー! って……ね?」
俊祐 「はぁ……」
春 「これ、冷やして。じゃないとなんか黄緑っぽくなるんだよ?」
ハンカチを渡す春
しぶしぶ受け取って頬に当てる俊祐
俊祐 「なに、経験者なわけ?」
鼻で笑ってからかう
俊祐 「ってなわけねー……」
春 「うん。痛いよね」
苦笑いで言う春
俊祐 「えぇ?!」
春 「僕グーでやられちゃったんだけど、あの時は冷やしても黄緑になっちゃって。凄く痛かったんだよね……」
俊祐 「な、何しでかしたんだよ……」
驚きを隠せない俊祐
春 「うーん? まぁいろいろ」
笑って誤魔化す春
俊祐 「へ、へぇ……」
春 「口とか切れてない? 何ともなかったらいいね。綺麗な顔が台無しだもん」
微笑む春
俊祐 「いや……なんかいろんな意味で痛みとか無くなった……」
春 「そう?」
俊祐 「っつか、何しにきたわけ? こんなとこに」
春 「用具借りてたから返しに来たんだ。でも先生いなくって」
俊祐 「あぁ、今日は誰もいねぇよ」
春 「貸切だねー。このドレスも凄く素敵」
黒のドレスを見て微笑む春
俊祐 「はぁ……」
春 「?」
俊祐 「なんでもねぇよ……。そうだ、『渚』。最優秀賞取ったんだってな。おめでとう」
春 「……うん。ありがとう」
春、俯いて微笑む
俊祐 「?」
春 「ねぇ、今度お茶しない?」
俊祐 「はぁ?」
春 「ほら、この間は無理だったから」
俊祐 「この間……?」
春 「工芸室に来てくれたでしょ?」
春 『よかったらお茶でもどう?』
俊祐 「あ、あぁ……」
春 「僕君とは話が合うと思うんだ」
微笑んでいる春
俊祐 「あ、そう……」
春 「ね? 約束」
俊祐 「あぁ」
俊祐、呆れて鼻でため息を吐くが微笑む
春 「わーい。じゃあ今度ね。楽しみにしてるよ」
俊祐 「じゃあな」
出て行こうとする春にひらひら手を振る俊祐
戸口で振り返る春
俊祐 「?」
春 「君の作ってる時の表情。凄く素敵だよ」
俊祐 「え?」
春 「それがちゃんと作った服に出てる。頑張って」
春、笑うと手を振って去っていく
俊祐 「……」
きょとんとして見ていたがしばらくして大きなため息を吐く俊祐
俊祐 「お茶か……」
呆れて笑う俊祐
ドレスを手にとって見る
俊祐M「まったく、何やってんだか。俺は別に仲良くしたいわけじゃないんだ」
俊祐 「……」
俊祐M「まぁでも、あいつに褒められたことは一歩前進って所かな。お茶の一杯くらい飲んでやるか」
笑う俊祐
***
・教室
涼子 「俊祐ぇ!!」
教室で一人でいた俊祐、そこへ涼子が息を切らして入ってくる
俊祐 「あぁ?」
だれている俊祐
雑誌を見せる涼子
あの黒いドレスを着たモデルが写っている
涼子 「あんたコレ!」
俊祐 「なに」
涼子 「何じゃないわよ!この『|Crow《クロウ》』着てるのってあのスーパーモデルのユリカじゃないの?!」
俊祐 「あー、そうだよ」
涼子 「そうだよって! どうしてもっと早く言わないのよ?!」
俊祐 「言ってどうなる」
涼子 「サインがもらえる!」
俊祐 「……」
俊祐、涼子をじと目で見る
涼子 「あーもう! もったいない!」
俊祐 「あんなのどうでもいい……」
俊祐、窓から外を見る
涼子 「え……?」
夕日で空が真っ赤に染まっている
俊祐 「グランプリ取れたって、あいつには到底敵わない……」
涼子 「俊祐……」
俊祐 「あのドレス見ただろ。『渚』の」
涼子 「え、えぇ……」
俊祐 「何の装飾もない、言えばただの布だ。それなのにこの世のものじゃないみたいだった。あんなの誰にも作れない。あいつにしか出来ないんだよ」
涼子 「……」
涼子、少しため息を吐く
俊祐 「あれ見てから必死になって作った。あいつに追いつきたくて。でもやっぱり届かない。でもあいつ笑って『素敵だ』とか言いやがった」
涼子 「永久くんが?」
俊祐 「あぁ」
俊祐、ポケットから煙草を出して火をつける
俊祐 「どんなに必死になっても、勝つことなんか出来ない。あいつは同じ土俵に立ってくれもしない。ただ何食わぬ顔して自分の作りたいもの作ってる。俺が馬鹿みたいに必死になってる間もあいつはただ普通に前に向かって歩いてるだけだ」
涼子 「……それさぁ、違うわよ」
呆れた目で俊祐を見る涼子
俊祐 「え?」
俊祐の隣の席に座る涼子
涼子 「あんたそれだけ永久くんのこと見てんだったら知ってるはずよ? あの子の作ってる時の顔。見たことないわけないよね?」
俊祐 「顔?」
涼子 「何食わぬ顔して作ってなんかないじゃない。すっごい一生懸命になって、すっごく楽しそうにしてるじゃない」
俊祐 「……」
涼子 「永久くんは作ることを義務だとか、そういうもので作ってるんじゃない。ただ作ることが楽しくて、全部に愛を注いでる。だからあれだけのもの作れるのよ。天才だって機械じゃないのよ? 人間だから注げるものがある」
俊祐 「愛って……」
鼻で笑う俊祐
涼子 「あたしさ、あんたのこと凄いと思ってたのよ」
俊祐 「え?」
驚いている俊祐
涼子 「自分の弟を褒めるのも癪だけど、あんた昔から服とか、小物とか、鞄だったりそういうの作るのすっごい上手くて、お洒落だし、凄いと思ってた」
俊祐 「……」
俊祐、窓の方を見る
涼子 「大学入ってからなんか、ビックリするほど成長していっちゃうし、姉として面白くなかったけどさ、こいつどこまでも上っていっちゃうんじゃないかなって」
俊祐 「……」
涼子 「これまで取ってきた賞だってあんただからこそ取れたんだと思ってる。あんたにあって永久くんには無い物は沢山あるとも思うわ。でもね」
俊祐、涼子を見る
涼子 「今の俊祐は永久くんには絶対勝てないよ」
俊祐 「なんだよ」
涼子 「だって今のあんた全っ然楽しそうじゃないもん。どんなに偉い人に褒められようと、あんたの服が認められようと、永久くんの背中ばっかり追いかけて、それで必死になっててもいいものなんか作れるはずもない」
俊祐 「……」
涼子 「俊祐には俊祐の進んでいく道があるじゃない。そこに永久くんはいないんだよ? それが本来のあんたの道なのよ」
俊祐 「俺の進んでいく道ねぇ……」
馬鹿にする俊祐
涼子 「それが分からないうちは絶対に勝てるわけなんかない。あんただってちゃんと分かってるはずよ」
俊祐 「お前に何が分かるって言うんだ」
涼子 「分かるわよ。あんたのこと何年見てきてると思ってるの?」
俊祐 「……」
ため息を吐く俊祐
涼子 「いい加減、永久くんから離れなさいよ。そうじゃないといつか痛い目見るよ」
俊祐 「何年俺のこと見てようが、お前には俺の気持ちなんかわかんねぇよ」
俊祐、立ち上がると教室を出て行く
涼子 「俊祐!」
振り返らず去っていく俊祐
後姿を見送るとため息を吐く涼子
涼子 「永久くんはもうすぐあんたの前からいなくなっちゃうのよ……」
***
・寝室
煙草を吸っている俊祐
テーブルの上にはデザイン画が並べられている
俊祐 「……」
俊祐M「忘れられればすぐにそうしてる。あいつに囚われてることなんか俺が一番良く分かってんだ。でも、それでも」
煙草をふかす俊祐
俊祐M「あの一目見て虜にさせられたあの服がどうしても脳裏に焼きついて離れてくれない」
俊祐 「……」
俊祐M「見てるだけで泣きそうになったのは、あれが初めてだったから──」
***
・事務室
事務室に入ってくる俊祐
俊祐 「失礼します」
教師 「あぁ、哉家。入って」
椅子に座っている教師
俊祐 「なんですか」
教師 「そんなに構えなくても大丈夫」
教師、笑う
教師 「いい知らせだよ」
俊祐 「?」
教師 「この間のグランプリおめでとう」
俊祐 「……ありがとうございます」
あまり嬉しくなさそうな俊祐
教師 「君の年であの賞が取れるなんてね。とても素晴らしいことだよ」
俊祐 「……あの、知らせってなんですか」
教師 「あぁ、そうだね。それで呼んだんだった」
教師、笑う
教師 「インフォメーションに飾ってある、各学科からの展示物は君も知ってるよね?」
俊祐 「……えぇ」
教師 「あれはね、この大学ではとても名誉あることなんだよ。なかなか展示させてもらえるものじゃない」
俊祐 「知ってます」
教師 「そうか。だったら話は早い。あそこに君の『Crow』を飾ることになったんだ。おめでとう」
教師、微笑んでいる
俊祐 「え?」
教師 「ははっ、驚くのも無理はない。一年生であそこに飾れるようになったのは君と工芸科の永久くらいだよ」
俊祐 「……」
教師 「それで明日、搬入作業に取り掛かるんだ。そこで君にも立会いして欲しいんだけど、時間。大丈夫かな?」
俊祐 「は、はい……」
***
・榮大インフォメーション(回想)
サークル勧誘の声が響いている中、
春の人形の前でずっとそれを見ている俊祐
俊祐M「永久……春……」
名札を見て思う
俊祐M「あの時見たあの人形は、ただの真っ白な石膏で出来たものだった。その白に映える赤のタータンチェックは今でも鮮明に思い出せる」
人形を見上げる俊祐
俊祐M「一目見て虜になった」
涼子 「あー、いたいた」
俊祐 「姉貴……」
涼子 「なにー? どうしたの? こんなとこ突っ立って」
俊祐 「これ、この永久って人」
涼子 「あぁ、永久くん。すごいよねこれ。あたしもこんな服着たい……」
人形を見上げる涼子
俊祐 「これ作った奴ってどんな奴?!」
涼子 「え? えーっとね、すーっごい美人」
俊祐 「女?」
涼子 「ううん。男。あんたの一つ上だよ。工芸科の」
俊祐 「え?」
涼子 「ん?」
俊祐 「工芸科……?」
涼子 「うん。そう。あの子いっつも工芸室にいるから会いに行ってみればー? あ、あたし用あるから。あんた帰るんなら鍵開けといてねー」
涼子、手をヒラヒラ振って去っていく
俊祐 「工芸……」
人形を見上げる俊祐
俊祐M「俺はただあいつに追いつきたかった。あんな服を作ってみたかった。馬鹿だと言われてもいい。囚われすぎているのは分かっている。でも、凄いと思えたのはあいつだけしかいなかったんだ」
***
・ミシン室
俊祐M「初めて越えたいと思った男だから」
俊祐、机に突っ伏して眠っている
俊祐 「……スー……」
春 「綺麗な寝顔だね……」
春、微笑んで俊祐の顔にかかった髪を撫でる
俊祐 「ん……」
春 「お茶しようと思ったんだけどな」
春、紅茶葉の入った瓶を机に置く
春 「起こすのは可哀想だ」
微笑むと、作りかけの服を見る
春 「焦ることなんてないんだ。君は十分素敵だから」
俊祐 「……ん……なが、ひさ……」
春 「?」
眠っている俊祐
春 「僕のどんな夢を見ているの?」
笑う春
春 「君にさよならを言えないのは悲しいけど、きっとまたどこかで会えることを楽しみにしてるよ」
春、傷の手当てをした額にキスをする
俊祐 「……ん……」
春 「さようなら」
春、微笑んで去っていく
***
・ミシン室
目を覚ます俊祐
俊祐 「ん……なんだこれ?」
机に置かれた紅茶葉の瓶を見る
俊祐 「?」
***
・榮大インフォメーション
俊祐 「え……? ここ?」
教師 「あぁ、気に入らないか?」
教師、笑っている
春の人形が飾ってあった位置に設置される『Crow』
俊祐 「いえ、あのここにあった人形は……」
教師 「あぁ、永久くんの作品だね」
俊祐 「えぇ」
教師 「彼、留学することになってね。退学するみたいだから」
俊祐 「え?」
俊祐、目を見張る
教師 「ここは正面だし、一番いい位置だと思うんだ。君と永久くんは何か縁があるのかもしれないね」
俊祐 「……」
俊祐、走り出す
教師 「ちょ、ちょっと! 哉家くん?!」
***
・廊下
俊祐、走っている
俊祐M「どういうことだ」
***
・工芸室前
俊祐M「退学ってなんだよ」
工芸室を開ける
***
・工芸室
突然開けられた扉に驚く春の友人
友人 「うわっ!」
俊祐 「永久は……」
息を切らしている俊祐
友人 「え?」
俊祐 「永久いるか?!」
友人 「永久なら……今日イタリアに出発したはずだけど……」
俊祐 「今日……」
友人 「あぁ、もう着いてるころじゃないかなぁ」
俊祐 「そんな……」
俊祐、へたり込む
友人 「き、昨日永久がお前に会いに行くって言ってたけど……会ってないのか……?」
恐る恐る聞く友人
俊祐 「え……?」
友人 「なんか、お茶する約束したんだって言ってたけど……」
俊祐 「お茶?」
友人 「あぁ……」
俊祐 『なんだこれ?』
俊祐 「……あれ、永久だったのか……」
友人 「?」
***
・自室
煙草を吸っている俊祐
机の上にはあの紅茶葉の瓶がある
俊祐M「あの人形の隣に並べるんだと思った。どうせ並んだら劣って感じるだろうとか思ったけど、ほんの少しだけ、距離が縮まったんだと思ってたんだ」
俊祐 「……」
俊祐M「それを自慢してやろうと、そのついでにお茶でもなんでも飲んでやるって。きっとあいつは素直におめでとうなんか言って、笑ってくれるんだと思ってたんだ」
俊祐、涙を流す
俊祐M「お前がいなくなって、俺この先どうすればいい」
泣きながら頭を抱える俊祐
俊祐M「隣に並んでくれもしないのか」
***
・教室
女子が屯している
生徒A「この間の授業の帝王凄かったんだって?」
生徒B「この間どころの騒ぎじゃないでしょ。一年の終わりからずっと」
生徒C「あれでしょー? チーム製作の」
生徒A「そうそう。帝王いたら優勝間違いなしだけどさー、あたし立候補なんか出来なかったよ」
生徒C「下手糞だとか、こんなことも出来ないのかとか、容赦なく切り捨てられるって」
生徒B「でも皆文句言えないんだよねー」
生徒A「そりゃそうでしょ。言ってること全部ほんとのことなんだもん」
生徒B「でもさ、今度のショーで最後でしょ? モデル立候補がすっごいって」
生徒C「そりゃ帝王のモデルになれたら有名人間違いなしだもん。あいつのお陰で榮大のショー有名になったんじゃん」
***
・食堂
食事をしている俊祐
大勢の生徒が群がっている
生徒D「哉家くん! あたしなんでもするよ! だから、ね?」
生徒E「何いってんのよ! あたしだって!」
生徒F「俺この日のために体絞ったんだよ!」
俊祐 「……」
イラついている俊祐
俊祐 「……」
俊祐、人の隙間から見えた遠くに座ってこちらを見ている男を見つける
俊祐 「どけ」
俊祐、立ち上がって人を掻き分けると男に向かって歩いていく
生徒D「哉家くーん……」
生徒E「お願いだってー」
生徒F「俺はー?」
遠くで嘆く生徒達
俊祐 「お前」
男子生徒の前で立ち止まる俊祐
男 「な、なんですか……?」
びびっている男
俊祐 「モデルやる気ない?」
男 「へ?」
驚いている男
生徒全「なんでー?!」
遠くで叫んでいる群がっていた生徒達
俊祐 「モデル。やって」
男 「い、い、い、嫌ですッ!!」
男、逃げていく
俊祐 「あ、おい! 待てよ!!」
***
・廊下
誰もいない廊下
俊祐 「待てって」
男を捕まえる俊祐
男 「な、なんで僕?!」
俊祐 「お前、二年前、あそこで永久とキスしてただろ」
下の渡り廊下に顎をしゃくって男を壁に追いやる俊祐
男 「えっ?!なんで知って?!」
俊祐 「見てたんだよ」
男 「そ、それとモデルと関係ないでしょう?」
俊祐 「ピンと来たんだ」
男 「い、嫌です! さよなら!!」
男、俊祐からすり抜けて逃げていく
俊祐 「おい!」
***
・自宅
涼子 「まーた、可愛いのに目つけたわね……」
涼子、ソファに座っている
テーブルにデザイン画を広げている俊祐
俊祐 「なに、知ってんの?」
涼子 「知ってるわよ。というかあんたが知らないのがおかしい!」
俊祐 「へぇ。どこの誰だよ。その有名人は」
涼子 「高木真央《たかぎまお》よ。日舞で有名な御家の跡取り」
俊祐 「日舞……。へぇ。どうりで綺麗な体してんの」
涼子 「えぇ?!」
俊祐 「なんだよ」
涼子 「あんたもしかして……」
俊祐 「はぁ? 何考えてんだ。あんなの見れば分かる」
涼子 「なーんだ。面白くない」
俊祐 「馬鹿じゃねぇの」
涼子 「でもさー、あそこ固いよー? 無理なんじゃない?」
俊祐 「いや、もう決めた。あいつしか無理」
涼子 「はぁ……。あんまり無理なことして泣かすんじゃないわよ?」
呆れる涼子
***
・音楽室前
真央が教室から出てくる
廊下で待っていた俊祐
俊祐 「日舞科なんかあったんだな」
真央 「ひっ……」
俊祐に気が付く真央
真央 「ま、また出た……」
俊祐 「出たとは失礼な」
真央 「何度来てもお断りしますっ」
真央、去っていこうとする
がその手を捕まえる俊祐
俊祐 「別にタダで出ろっつってんじゃねぇよ」
真央 「な、なんで僕なんですか? 君の周りには華やかな人が沢山いるじゃないですか……僕みたいな地味な人間より、そっちの方が絶対成功します……」
真央、俊祐を怯える目で見上げる
俊祐 「ふふっ」
真央 「な、なんですか……」
俊祐 「いや、お前さ。年上なのになんでそんなびびってんの?」
笑いながら言う俊祐
真央 「び、びびってなんか……! ……います、けど……」
俊祐 「俺怖い?」
まだ笑っている俊祐
真央 「だ、だって! あなた帝王なんでしょう?! 怖いですッ!」
俊祐 「ハハハハッ!」
大笑いする俊祐
真央 「なんですか! 失礼な人ですね!」
拗ねる真央
俊祐 「いや、ふっ。久しぶりにこんな笑った」
真央 「え……?」
俊祐 「やっぱお前がいいわ。やってよ、モデル。悪いようにはしないからさ」
微笑む俊祐
真央 「……」
その笑顔に驚いている真央
俊祐 「な?」
真央の頭を撫でる俊祐
それにハッとする真央
真央 「や、やりませんッ! さよなら!」
真央、逃げていく
俊祐 「おい!」
真央の姿を見ている俊祐
俊祐 「確かに可愛いな」
笑う俊祐
***
・繁華街
俊祐、一人で歩いている
俊祐M「永久がいなくなってから二年経つ。留学だかなんだか知らねぇけど、あいつは俺の前から姿を消した。それでも俺はあいつの影を馬鹿みたいに追いかけるしかなくて、未だに追いつけてもいない」
真央 「や、やめてください!」
俊祐 「ん?」
声がする方を見ると男に路地裏に引っ張り込まれようとしている真央を見つける
俊祐 「あいつ……こんなとこで何してんだ」
***
・繁華街
真央 「だから! 僕は男です!」
男 「うっわ! 僕っこだ! 益々いいね!」
真央 「ひぃぃ……だから男なんですってばー!」
男、真央の手を掴んで離さない
俊祐 「おい、何してんだよ」
俊祐、真央の手を掴む
男が俊祐を見る
男 「なんだよお前! 俺が先に見つけたんだぞー!」
酔って赤い顔をしている男
俊祐 「んだよ。酔っ払いか」
真央 「て、帝王……!」
俊祐 「そんな名前で呼ぶな馬鹿。ほら、こいつ俺の連れなんだ。手放してやって」
男 「てめぇ! 横取りする気かぁ?」
俊祐 「はぁ……」
呆れる俊祐
俊祐 「手放せって言ってんだよ。聞こえないのか?」
凄む俊祐
男 「うっ……。わ、分かったよ……。でも俺が先に見つけたんだからなぁ!」
男、ふらふらしながら去っていく
その姿を見てため息を吐く俊祐
俊祐 「何が言いたいんだあいつ……。おい、大丈夫か?」
真央を見る
真央 「だ、大丈夫ですっ……」
真央、俊祐にびびっている
俊祐 「?」
真央 「大丈夫だから……あの、手を……」
俊祐 「あぁ、すまん」
手を放す俊祐
真央 「あ、あの。助けていただいてどうもありがとうございました。僕はこれで……」
逃げようとする真央
しかし手を取る俊祐
俊祐 「待てよ」
真央 「なっ、なんですか?!」
俊祐 「はぁ…別に取って食いやしねぇよ。帰るんだろ? 送ってってやるよ」
俊祐、真央の手を引いて歩いていく
真央 「えぇ?! ちょ、ちょっと!」
***
・街
住宅街を歩いている二人
真央 「て、帝王……」
俊祐 「お前次その呼び方したら取って食うぞ」
真央 「ひぃ……ご、ごめんなさい……」
俊祐 「俊祐でいいよ」
真央 「……あ、あの……名字は?」
俊祐 「名字? 哉家だけど」
真央 「じゃあ、哉家くん」
俊祐 「お前……」
呆れた目で見る俊祐
俊祐 「でー? 何してたんだよ。あんなとこで」
真央 「お稽古です……。あそこにお花の教室があるんです……」
俊祐 「あんなとこにー? 送り迎えとかねぇの?」
真央 「あ、あの、それはお断りしてるんです……」
俊祐 「あんのかよ」
真央 「えぇ?」
びびる真央
俊祐 「いちいちビビんな馬鹿」
真央 「は、はい……すみません……」
俊祐 「送り迎えあった方がいいんじゃねぇの?」
真央 「うぅ……でも、もう僕も立派な大人ですし……」
俊祐、真央を見下ろす
俊祐 「立派ねぇ……」
真央 「し、失礼な人ですね! 僕より年下のくせにッ!」
俊祐 「はははっ、ごめんごめん」
真央 「~~~っ」
膨れる真央
真央 「何が目的なんですか……」
俊祐 「目的? モデルやって欲しいんだけど」
真央 「そ、それは分かってます! その目的です! 前にも言いましたけど、僕よりもっと……」
俊祐 「インスピレーションっていうの?」
真央 「え?」
俊祐 「お前見て、一気に次のショーの全体像が浮かんできた」
真央 「……」
真央、俊祐を見上げる
俊祐 「日舞にはそういうのってないの? なんかこう、パッと浮かぶもの。俺にはあのランウェイをお前が歩く姿しか浮かんでこないよ」
真央 「そ、そんなの……」
俊祐 「勝手だよな。分かってんだよ」
真央 「そうです。勝手です……」
俊祐 「でも俺の最後を飾るに相応しいって思ったんだ」
真央 「最後……?」
俊祐 「ショーに出れんのは三年まで。これで最後なんだよ」
真央 「そうですか……」
俊祐 「無理にとは言わねぇよ。でも頭ごなしに断らないでさ、ちょっと考えてみてよ」
真央 「……」
俯く真央
俊祐 「まぁ今日助けたのは誰かも考えろよ?」
笑う俊祐
真央 「ひ、酷いです!」
真央、怒る
俊祐 「はははっ」
真央 「……」
真央、急に立ち止まる
俊祐 「? どうした」
真央 「あ、あの……ここまでで結構です……」
俊祐 「……」
俊祐、角を曲がったところに見える大きな家を見る
俊祐 「分かった。じゃあな」
真央 「え……?」
俊祐 「なんだよ、ここまででいいんだろ?」
真央 「そうじゃなくて……」
俊祐 「なんとなく分かるから。じゃ」
俊祐、去っていく
真央 「……」
きょとんとして俊祐を見ている真央
***
・呉服屋
俊祐、着物を見に来ている
俊祐M「くそ……高ぇ……」
悩む俊祐
ふと視線を感じ、そちらを向くと着物を着た真央がいる
俊祐M「あ……」
目が合うと、さっと逸らす真央
傍には固そうな家族らしい人がいる
俊祐M「なるほどね……」
去っていく俊祐
真央、それを見ると不思議な顔をする
***
・音楽室前
窓際に立っている俊祐を見つける真央
真央 「ま、また……」
俊祐 「よう」
真央 「お断りします……」
ビビっている真央
俊祐 「まだ何にも言ってねぇ」
真央 「うぅ……」
俊祐 「お前この後なんか用事あんの?」
真央 「え? あ、ありませんけど……」
俊祐 「じゃ、帰ろうぜ」
俊祐、真央の手を取る
真央 「えぇ?! ちょ、ちょっと! なんですか……!」
***
・街
二人で夜の住宅街を歩いている
真央 「君は少し強引だと思います……」
呆れる真央
俊祐 「だってこのくらいしないとお前は話聞いてくれもしないだろ?」
笑う俊祐
真央 「うぅ……」
俊祐 「別に何にもしねぇよ。お前がホントに嫌だってんならもう強引にもしない」
真央 「だから嫌だって……」
俊祐 「それは却下。まだ早い」
真央 「えぇ……?」
俊祐 「脅したりなんかしてねぇだろ?」
真央、俯く
真央 「永久くんのことで脅されるのかと思ってました……」
俊祐 「……そんなに悪者か? 俺は」
呆れる俊祐
真央 「なら、どうしてあの時あの話を出したんですか?」
俊祐 「お前を見てピンと来たのはあの時あの場面を見たからだ」
真央を見ないで歩いている俊祐
真央 「え?」
俊祐 「お前が永久とどういう関係だったかなんて知らないけど、お前は永久と繋がりがあったんだろ? そうじゃなければきっと俺はお前に気づきさえしなかった」
真央 「……」
俊祐 「いなくなった奴が、未だに忘れられないんだよ」
真央 「君も永久くんが好きだったんですか?!」
俊祐 「馬鹿言え。っつか、お前は好きだったのか」
真央 「あ……えっと……」
俊祐 「まぁ、キスする間柄だからな。別に驚きゃしねぇよ」
真央 「……」
俊祐 「ただあいつに追いつきたかっただけだ。あいつの作るものに驚いて、あいつに近づきたくて仕方なかった。でももういない」
真央 「憧れてたんですね」
俊祐、真央を見る
俊祐 「憧れ?」
鼻で笑う俊祐
真央 「君は永久くんのこと、物凄く嫌ってたんだと思ってました」
俊祐 「そうだな」
真央 「違いますよ」
真央、首を振る
真央 「時々見る、永久くんへの視線は嫌いだからじゃなくて、好きだからだったんですよね」
俊祐 「……」
言い返す気にもならないほど呆れる俊祐
真央 「永久くんはきっと全部お見通しでしたよ」
俊祐 「はぁ?」
真央 「あの人はそういう人でした。なんでも分かってた。それでいてずっと笑っていてくれるんです」
真央、少し悲しげな顔をする
真央 「凄く優しい人だから」
俊祐 「……付き合ってたんじゃねぇの?」
真央 「えっ?! 違います! ……僕の……片思いです……」
俊祐 「チューしてたのに?」
真央 「あ! あの! あれは……その……」
真っ赤になる真央
真央 「時々……遊んでもらってただけで……」
俊祐 「遊んでもらってた……?」
不可解な顔をする俊祐
真央 「い、いいんです! そんな話は!」
俊祐 「へぇ……」
真央 「君は──」
母親 「真央さん?」
前からきた女性が声をかけてくる
真央 「母さん……」
母親 「……」
母親、俊祐を見る
真央 「あ、あの……」
焦る真央
俊祐 「どうもありがとうございました。もうここまで来れば分かりますので」
俊祐、笑って頭を下げる
真央 「え……?」
俊祐 「今度からはもう少し調べてから出歩くようにしますよ。では」
俊祐、去っていく
母親 「真央さん? お友達じゃないの?」
真央 「いえ……道を案内して……」
真央、言いながらも俊祐の後姿を見ている
***
・廊下
真央M「服飾科の教室……うぅ……やっぱり派手な人が多い……」
ビビリながら歩いてくる真央
真央M「でも……帝王だなんて呼び名でも……ほんとは優しいのかも……」
そっと教室を覗く真央
俊祐 「お前ほんとにこれでいいと思って持って来てんのか?!」
怒鳴る俊祐
真央M「ひぃ……!やっぱり怖い……!」
俊祐 「裏が見えないからって手抜いてんじゃねぇよ。大事なのは裏地なんだ。これくらいちゃんとやれ」
呆れる俊祐
真央M「あ……でも……怒ってるわけじゃないんだ……」
***
・ミシン室
一人でミシンを踏んでいる俊祐
もう外は暗くなっている
真央 「あの……」
戸口に立っている真央
それに気がつく俊祐
俊祐 「あぁ……どうした?」
ミシンを止める
真央 「あ、続けてください」
真央、傍に来る
俊祐 「いや、ちょっと休憩」
真央 「……」
俊祐 「なに?」
俊祐、煙草を咥えて火をつけながら言う
真央 「その……、煙草は駄目ですよ……」
俊祐 「お前が言わなきゃばれない」
真央 「……」
困った顔をする真央
俊祐 「それが言いたいわけじゃねぇんだろ?」
笑っている俊祐
真央 「君、答えが分かってて言ってるんじゃないですか?」
俊祐 「だったら?」
真央 「意地の悪い人です……」
俊祐 「言ってよ」
真央 「……」
俊祐、煙草をふかす
真央 「その、モデルの件、僕でよろしければお引き受けします……」
俊祐 「ふっ」
真央 「でも、条件があります」
俊祐 「なに」
真央 「人前に立つのに慣れてはいますが、上手く出来るという保証はありません。もしグランプリが取れなくても、ガッカリなさらないでくれますか?」
真央、申し訳なさそうに俊祐を見る
俊祐 「俺を信じろよ」
鼻でため息を吐いて微笑む俊祐
俊祐 「世界一綺麗にしてやる」
真央の頭を撫でる
真央 「~~~っ」
***
・ミシン室
俊祐 「脱げ」
真央 「えぇ?!」
真っ赤になる真央
俊祐 「何赤くなってんだよ。目視で大体分かるんだけど一応な」
メジャーを出す俊祐
真央 「こ、ここで脱ぐんですか……?」
俊祐 「もう誰も来ないって。っつか別に真っ裸になれってんじゃねんだから」
真央 「で、ですが……」
俊祐 「よしよし、分かった。じゃあ鍵閉めよう。これでいいだろ?」
俊祐、教室の鍵を閉める
真央 「ぅぅ……」
俊祐 「ほれ、脱げ」
真央 「はい……」
***
・ミシン室
下着姿で立っている真央
メジャーで計っていく俊祐
俊祐 「白いなー。お前」
真央 「体質で焼けないんですっ。ほっといてください」
俊祐 「へぇ」
真面目に計っている俊祐を見て少したじろぐ真央
真央 「……僕、君のこと誤解していたみたいです」
俊祐 「ほんとに帝王だとでも思ってたのか?」
真央 「はい」
俊祐 「馬鹿か」
真央 「でも噂ではもっと横暴で、怖くて、女性を手のひらで転がしているような……」
俊祐 「……」
呆れる俊祐
真央 「でもそうではありませんでした。昨日は本当にごめんなさい」
俊祐 「気にすんな。強引に誘ったのは俺だしな。それにお前の家のことも聞いてたから」
真央 「でも僕は失礼なことをしてしまいました……」
俊祐 「仕方ないことだろ? ま、お前が思ってたみたいに見た目だけでは悪いお友達だって思われるだろうし」
真央 「すみません……」
俊祐 「ははっ」
俊祐、計り終える
真央 「もういいですか?」
俊祐 「いや、待って」
俊祐、傍にあった布を広げて真央の肩にかける
真っ赤な布
俊祐 「……」
真央 「綺麗な真紅ですね」
俊祐 「白いとは思ってたけど、ここまで白いとは思わなかったな……」
悩む俊祐
真央 「?」
俊祐 「いや、いい」
布を取る
真央 「どんなお洋服を作るんですか?」
俊祐 「それはお楽しみだ。ほら、もういいぞ」
***
・街
俊祐 「じゃあな」
曲がり角の前で立ち止まる俊祐
真央 「……」
少し笑う真央
俊祐 「なんだよ?」
真央 「ううん。君と永久くんは似てるんだと思います」
俊祐 「はぁ?」
真央 「永久くんもそこで手を振ってた」
微笑む真央
足元を見る俊祐
真央 「彼も何も言わずに分かってくれていました。君も同じです」
俊祐 「……」
真央 「おやすみなさい。ありがとう」
手を振る真央
俊祐 「……」
***
・自宅
ソファに座ってテレビを見ている俊祐
涼子 「俊祐ー」
俊祐 「あぁ?」
涼子 「この紅茶飲んでいい?」
涼子、あの瓶を持っている
俊祐 「てめぇ部屋入ったのか」
涼子 「洗濯物持って入っただけよ。ね、いい?」
俊祐 「駄目。戻して来い」
涼子 「えぇ?! なんでー?! これすっごい高い奴なんだよ!」
俊祐 「だったら尚更だ。飲むなよ?」
涼子 「どうせ女からの貢物でしょー。いいじゃんケチ」
俊祐 「てめぇはティーパックで十分だろ」
涼子 「なっ!」
***
・自室
ベッドにもたれて座りながら煙草を吸っている俊祐
瓶を持っている
春 『僕君とは話が合うと思うんだ』
俊祐M「あいつはあの時俺と何が話したかったんだろう。未だに消えないあいつの記憶」
真央 『君と永久くんは似てるんだと思います』
俊祐M「似てるんだったら、どうして追いつけない」
***
・音楽室
三味線を弾いている真央
廊下からそれを見ている俊祐
***
・ミシン室
俊祐、煙草を吸いながらミシンを踏んでいる
真央 「ここはあなた専用の部屋なんですか?」
笑いながら入ってくる真央
俊祐 「放課後はな」
笑って灰皿に灰を落とす俊祐
真央 「また煙草ですか。駄目ですよ。ここは禁煙でしょう?」
俊祐 「だから」
真央 「お前が黙ってればばれない」
俊祐 「分かってんじゃん」
真央 「体にも良くないですし、控えた方がいいですよ」
真央、前の席に座る
俊祐 「はいはい」
真央 「今日見てたでしょう。音楽室で……」
真央、少し目線を逸らす
俊祐 「あぁ、いい音が聞こえてくるなぁと思ってさ。つられた」
真央 「……あんなところで見ていないでくださいよ……」
顔が赤くなってる真央
俊祐 「師範が恥ずかしがるのか?」
笑う俊祐
真央 「そ、そうではないですけどっ……」
俊祐 「いいじゃん。減るもんじゃなし」
真央 「……」
照れている真央
俊祐 「丁度いいところに来た。ちょっとこれ羽織って」
バサっと真っ白の布を広げる俊祐
真央 「? はい」
俊祐 「あんまり動くなよ。針だらけだから」
羽織る真央
真央 「こ、これ! もしかして白無垢じゃないんですか?!」
驚く真央
俊祐 「あぁ、さすが。まだ型だけなのに」
笑いながら裾を直している俊祐
真央 「僕は男ですよ?!」
俊祐 「分かってるよ」
真央 「駄目ですよこんな……。やっぱり女性に頼んだ方が……」
俊祐 「いや、これはもうお前にしか着れない。他の奴が着たって完成とは言えない」
俊祐の言葉に驚く真央
真央 「……」
俊祐 「ほんとは赤引き振袖にしようかと思ってたんだけど」
俊祐、針を咥えながら話す
袖に針を刺す
俊祐 「お前の白さ見たらやっぱ白無垢の方が合うと思ってさ。お陰で予算オーバー。いろいろきつい」
笑う俊祐
真央 「……」
真っ赤になる真央
俊祐、真央を見上げる
俊祐 「なんで赤くなってんだよ」
笑う俊祐
真央 「な、なってません……っ」
俊祐 「ほら、もういいよ。針刺さらなかったか?」
言いながら脱がせる俊祐
真央 「大丈夫です」
俊祐 「ん」
俊祐、布を持ってまたミシンの前に座る
真央 「……」
俊祐 「なんだ。送ってって欲しいのか?」
真央 「えっ?」
俊祐 「わりーけど、今日はもうちょっといるから」
真央 「ち、違いますっ!」
俊祐 「あ、そう」
真央 「あの……」
俊祐 「ん?」
真央 「ここで見ててもいいですか? 邪魔はしません」
俊祐 「あぁ、いいけど退屈だと思うぞ?」
真央 「いえ、いいんです。ただ見ていたいだけなので」
俊祐 「そ」
微笑んで座る真央
俊祐、ミシンを踏み出す
俊祐M「黙って傍に座っているだけで、何も声をかけない。それなのに居心地が悪いとも思わない。ただ時々目が合うと、照れたように少し笑う」
煙草を咥えながらミシンを踏んでいる俊祐
その手元を見ている真央
俊祐M「悪いもんじゃないなと思う」
***
・榮大インフォメーション
俊祐の『Crow』の前に人が群がっている
インフォメーションに入ってくる俊祐
生徒A「あー、来た来た」
生徒B「ほんとだ」
一斉に見られる
俊祐 「なんだよ」
生徒C「こんなのさぁ、ここに飾られるほどの物じゃなくない?」
俊祐 「はぁ?」
生徒D「ほんとほんと。永久くんの方がよっぽど相応しかったよね」
俊祐 「っ……」
不可解な顔をする俊祐
生徒E「凄いとか言われてるけどさー、それほどっていうか……」
生徒F「所詮永久には勝てないんだよ」
***
・自室
俊祐 「っ!!」
目を覚ます俊祐
起き上がる
俊祐 「なんだ……」
額を押さえる俊祐
俊祐 「……」
ベッド脇の机に置いてある白無垢を見る
生徒F『所詮永久には勝てないんだよ』
俊祐 「くそっ……」
ベッドを殴る俊祐
***
・ミシン室
夕日に染められる教室内
一人で煙草を咥えてぼーっとしている俊祐
真央 「哉家くん……?」
すぐ傍で声をかけられて驚く俊祐
俊祐 「あ、お前か……」
真央 「どうしたんですか?」
真央、心配そうに俊祐を見る
俊祐 「いや、なんでもない」
煙草を消す
俊祐 「これ、着て」
白無垢の上に赤い長襦袢が置いてある
真央 「わぁっ! 出来たんですね!」
俊祐 「いや、まだ完成じゃない」
ばさっと長襦袢を広げる俊祐
真央 「これで完成じゃないんですか……。十分綺麗なのに」
俊祐 「刺繍しなきゃいけないからな。こんな布っきれだけじゃ勝負できねぇよ」
真央 「?」
俊祐 「ほら。脱いで」
真央 「は、はい……」
真っ赤になる真央
それを見て呆れたように少し笑う俊祐
***
・ミシン室
長襦袢を着せている俊祐
真央 「手馴れていますね。習ったりしたんですか?」
俊祐 「なに、着付け?」
真央 「はい」
俊祐 「いや、見よう見まね」
真央 「えぇ?! 本当ですか?!」
俊祐 「あぁ。なんだよ」
笑う俊祐
真央 「いえ……僕は未だに慣れないんですよ。帯を直されたりしてしまって……」
俊祐 「師範がそれで大丈夫なのか?」
真央 「うぅ……よく怒られます……」
俊祐 「好きでやってるからな。こういうのは覚えられんだけど、興味ないことはさっぱり」
真央 「……」
俊祐 「? なに。どうした」
俊祐、長襦袢を着付け終え、白無垢を広げる
真央 「……やっぱり、君と永久くんは似ていると思います」
俊祐 「……」
俊祐、黙って白無垢を羽織らせる
真央 「彼も同じことを言ってました」
俊祐 「そう」
真央 「僕、本当は日舞なんか大嫌いなんです。昔から、お稽古ばかりやらされて、自分がしたいことなんか一つもさせてもらえなかった」
俊祐 「……」
真央 「出来て当たり前。高木流の跡取りとして、僕はそうやって教えられてきたんです。怒られるのが怖くて、ガッカリされたくなくて、必死になって師範になれるまできましたけど、やっぱりどこか抜けてるんです。着付けが完璧に出来ないのもそう。お弟子さんの間違いにはっきりと叱ってあげられないのもそう。だけど僕には出来なくて、逃げたくて逃げたくて仕方なかった」
真央 「そんな時に永久くんが言ってたんです。『嫌いなことは上手くいかない』って。永久くんとは高校の時に知り合いました。彼の家とは昔から交流があったらしいんですが、彼と会ったのはそれが初めてでした」
***
・高木家(回想)
真央M「うちが開いたお茶会で、僕がへまをしてしまって、母に怒られた時でした」
春 「高木くん」
真央 「っ……」
真央、庭の隅で泣いている所を春に声をかけられる
驚くが、急いで涙を拭く真央
真央 「ご、ごめんなさい……。どうされたんですか?」
無理に笑う真央
真央の頭を微笑んで撫でる春
春 「可愛い子が泣いてるなーと思って。どうしたの?」
真央 「な、泣いてなんかいませんよ。目にごみが入ったんです」
笑う真央
真央 「先ほどはすみませんでし──」
春、真央を抱きしめる
真央 「え……」
春 「無理に笑わなくたっていいんだよ。泣きたいときは泣けばいい。僕は見ていない振りをしてあげるから。こうしていれば、声だって向こうには聞こえないでしょ?」
真央の頭を撫でる春
真央 「……」
春 「君は十分頑張ってる。さっきのお茶、とても美味しかったよ。今までで一番美味しかった」
笑う春
真央 「っ……ぅっ……」
泣き始める真央
声を上げて泣く
***
・離れの縁側(回想)
誰もいない離れ
本家の方からにぎやかな声が聞こえてくる
真央、春、縁側に座っている
真央の目がはれている
真央 「ごめんなさい……」
春 「どうして謝るの? 僕は何も見ていないんだけどな」
微笑む春
真央 「……はい……」
春 「僕、君とはもっと前から話してみたかったんだ」
真央 「え……?」
春 「小学生の時に、一度ここへお邪魔させてもらったことがあるんだよ。その時、小さいのに凄く頑張ってる子がいてね。可愛いなーって」
真央 「へっ? あ、あの……」
真っ赤になる真央
春 「あとで父に聞いたら同い年だって教えられて、じゃあ今度会ったら絶対声をかけようって思ってた。それから何度も見かけてたんだけど、中々機会がなくてね。今日まで延びちゃった」
笑う春
真央 「そ、そうなんですか……」
照れる真央
春 「日舞は嫌い?」
真央 「え?!」
春 「ははっ、失礼だったかな。でも君の舞を見てると凄く悲しくなっちゃうんだよね。一生懸命で、一歩踏み出しただけで崩れてしまうような。儚い悲しさがある。楽しそうに踊っているようには見えない」
真央 「あ……」
春 「嫌いなことって、どうも上手くできないよね」
笑う春
真央 「?」
春 「僕、物を作るのは大好きだから、それなら寝ないででも出来ちゃうけど、勉強なんかはぜーんぜん出来ない。すぐに飽きちゃってほっぽりだしちゃうの」
真央 「……」
春 「好きなことにはいっぱい愛情注いで、なんでも出来ちゃうのに嫌いだと思うと全然。頑張ったっていい結果にはなれない。だから逃げるんだ。ちょっとだけ」
真央 「逃げる…?」
春 「そう。ちょっとだけね。一歩横にずれるの。それを全部忘れちゃうわけじゃない。少しだけ。そしたらさ、少しだけど気持ちが楽になって、違う角度からその嫌いだったことが見えてくる。そこで何が悪かったのかとか、どうすればいいのかとか、或いは好きになれたりするんだよ」
笑っている春
真央 「ほんとですか……?」
春 「ふふっ。うん。僕はいつもそうしてる」
真央 「……そんなこと考えたことなかったです……」
春 「一つのことに縛られると、身動き取れなくなっちゃうもんなんだよ。難しく考えることなんかない。いろんな道があるんだから」
***
・ミシン室
真央 「そこで僕は大学に入ることに決めたんです。本当は高校を卒業したらすぐに修行に入らなければいけなかったんですけど、無理を行って、ここに入らせてもらったんです」
帯紐を持っている俊祐
真央 「永久くんの言ってた通り、すこし道を外れてみたら、なんだか世界が開けたようで日舞のことも、家のことも、柔らかく考えられるようになったんです。まだ大好きだとは言えないけど、もっと頑張ろうという気にはなれました」
俊祐 「……」
真央 「僕、君の作ってる時の表情が凄く好きです。憧れます、とても楽しそうだから。永久くんも──」
俊祐 「俺は永久じゃない」
真央 「え……?」
真央、俊祐を見上げる
俊祐 「お前は永久のこと好きだったか知らねぇけど、俺の永久への気持ちは敵対心なんだよ。嫌いで嫌いで仕方ないんだ。憧れとかそんなんじゃない」
真央 「……」
俊祐 「永久永久ってうるせぇよ。なんだよ。何が言いたい」
真央 「ぼ、僕はただ……」
俊祐 「いつまでも執着してるのが馬鹿だって言いたいのか?!」
怒鳴る俊祐に驚いて涙目になる真央
俊祐 「それくらい分かってんだよ! 十分な!! 俺だって忘れたいんだ! ……あいつがあんな物作るから悪い……」
真央 「え……」
俊祐 「急にいなくなって……逃げやがって……」
頭を抱える俊祐
真央 「君は……、君は結局どうすれば楽になれるんですか……?」
俊祐 「……」
真央 「永久くんに勝てると思えば楽になれるんですか?! それは誰が決めることなんです?!」
俊祐 「わかんねぇよ……」
真央 「こんなに素晴らしいものが作れているのに、いろんな人に評価されているのに、どうしてそんなにも永久くんにこだわるんですか?!」
真央、涙目で訴える
俊祐 「……」
真央 「永久くんに、負けたとでも言わせたいんですか……?」
俊祐 「……」
真央 「彼は絶対にそんなこと言いませんよ……」
俊祐 「……」
真央 「僕は君に楽になって欲しい。こんなに優しくて、綺麗なものが沢山作れて、才能に溢れてる。それなのに君は心から笑ってくれない。どうすれば君は永久くんから開放されるんですか……」
涙を流す真央
真央 「あなたの進む道に、彼はいないんですよ……」
俊祐 「なんで泣いてんだよ」
真央 「悲しいからです……、君をどうにかしてあげたいのに……僕にはどうすればいいのかわからない」
俊祐、真央の顎を掴んで上を向かせる
真央 「っ! ……な」
俊祐 「お前寂しいんだろ」
俊祐、目が違う
真央 「え……?」
怯えている真央
俊祐 「あいつに置いて行かれて、次の男でも探してたのか?」
真央 「何言って」
俊祐 「俺が永久に似てるって? そう思ってあいつの代わりにしたかっただけじゃねぇの? 最初は嫌がってたくせに、脱ぐたびに真っ赤んなって喜んでたもんな」
真央 「っ──」
真央、傷つく
俊祐 「こういうことされたくて仕方なかったんじゃねぇの?」
俊祐、無理やりキスをする
真央 「っ! ……んっ! ……やめっ!」
真央、俊祐を拳で殴る
俊祐 「っ! って……」
離れる二人
真央 「最低です……」
泣いている真央
真央 「いい人だと思ってたのに……。僕はそんなこと思ってない!」
俊祐 「……やめてもいいぞ」
真央 「え…?」
俊祐 「やめるなら脱いで行け」
俊祐、部屋を出て行く
***
・離れたところの廊下
煙草を吸っている俊祐
窓から工芸室が見える
俊祐M「どうして俺なんかのために泣いたりできるんだ」
煙草を吸いながら歩いていく俊祐
俊祐M「俺なんかを好きになるな」
***
・ミシン室
誰もいない
机の上に綺麗に畳まれている白無垢と赤い長襦袢
額に手を当てる俊祐
俊祐M「もう終わりだ。俺の道はここまでだ」
***
・教室
屯している女子生徒
生徒A「今日どーするー? 行くー?」
生徒B「ミシン室? あそこ今人すごいじゃん」
生徒C「帝王いなくなった途端これだもん」
生徒A「ずるいって言ってたのはどこの誰よ」
生徒B「えー? だってさぁ」
生徒C「でもさ、ほんとなのあの噂」
生徒B「辞退?」
生徒A「現にいないじゃん。これであたしにも光が!!」
生徒B「それはどうかわかんないけどさー。なんか妙に寂しいのはあたしだけ?」
生徒C「あーそれ分かる。というか、あたし毎年楽しみだったんだけどなー。帝王の服」
生徒A「えー? そうなの?」
生徒B「あたしも楽しみだったよー。戻ってこないかなー」
***
・食堂
俊祐が食堂に入ってくる
三人女を連れている
辺りがざわめく
生徒D「ちょ、久しぶりに見た」
生徒E「っていうか女新しくなってない?」
生徒F「っつーか、あの噂マジかよ? スランプで何にも作れなくなったっていうの」
生徒D「だって本人が言ってたんだもん。ほんとでしょ?」
生徒E「天才も落ちるんだねー……」
隅で食事をしながら話が聞こえている真央
真央 「……」
悲しげに俊祐を見る
女C 「ねぇー俊祐ぇ。この後どーすんの~?」
俊祐にひっついている女C
真央、それを見ると去っていく
***
・ミシン室前
俊祐がミシン室に入ろうとすると後ろから生徒A、B、Cがくる
生徒A「あっ」
俊祐 「?」
振り返る俊祐
生徒B「か、哉家くんも使うの……?」
びびっている生徒A、B、C
俊祐 「いや、別に。見に来ただけ」
俊祐、中に入っていく
生徒C「ちょっと! どうすんの?!」
コソコソする生徒A、B、C
生徒B「どうするって、早く行けば誰もいないって言ってたのだれよ!」
生徒A「ホントに誰もいないでしょうよ!」
生徒C「いるじゃん! 一番駄目な人が!」
生徒B「うぅぅ……」
生徒A「やめとこっか……」
生徒C「そのほうが安全……」
とぼとぼ去っていく生徒A、B、C
生徒Gが前から来る
生徒A「今日は帝王いるわよー……」
生徒G「えぇ?!」
生徒B「今日はだめだー……」
***
・ミシン室
夕方、夕日が差し込んでくる中、窓際に座って煙草に火をつける
真央 『悲しいからです……、君をどうにかしてあげたいのに……僕にはどうすればいいのかわからない』
真央 『いい人だと思ってたのに……。僕はそんなこと思ってない!』
俊祐M「あの時の泣き顔が、不謹慎にも綺麗だと思った。やっぱりこいつじゃなきゃこの服は完成しないと分かった。代わりならいくらでもいるのに、それでもあいつじゃなきゃ駄目だった」
煙草をふかす
俊祐 「……」
ミシン室の中を見る
真央 「……」
戸口に立って俊祐を見ている真央
少し怒っている
俊祐 「……」
俊祐、立ち上がって出て行こうと真央の方へ行く
真央 「どうしてあんな嘘ついてるんですか」
俊祐 「……」
すれ違い様に立ち止まる俊祐
真央 「スランプなんて嘘でしょう? どうして僕のせいにしないんですか……」
俊祐 「俺が悪いのに、どうしてお前のせいにするんだよ」
真央 「……」
俊祐 「心配すんな。お前に迷惑かけようなんか思ってないから」
行こうとする俊祐の手を掴む真央
真央 「あの時あなたが言ったことは全部が嘘じゃなかったんです……」
真央、俯いている
俊祐 「……」
真央 「僕は……いつの間にか君が好きだったから……」
俊祐 「……っ……」
真央 「だから……服を脱ぐたびに恥ずかしかったのもそうだし」
俊祐 「っ……言うな……」
真央 「君とキスだってしたかったっ!」
俊祐 「どうして……」
真央 「でも信じてください。僕は永久くんの代わりだなんて思ってない。純粋にあなたが好きなんです……」
涙を流す真央
真央 「君の道を閉ざしたかったわけでもありません。ただ僕だったらもう思い通りのものになんかならないと思ったから。こんな気持ちのまま君の綺麗な服を着ちゃ失礼だと思ったから……。だから僕は辞退したんですよ……」
俊祐 「……」
真央 「君にそんな顔させたかったんじゃないんです……」
泣いている俊祐
真央 「お願いだから、辞めたりなんかしないでください……」
俊祐 「俺は」
真央、俊祐を見る
俊祐 「俺は……。馬鹿でどうしようもない人間なんだよ……」
真央 「そんなことない」
俊祐 「初めて凄いと思ったんだ……あの人形見て、どうしようもなく、追いつきたいって……」
真央 「……」
俊祐 「嫌いで、嫌いで……あいつには俺にないものが沢山あって……それなのに憎ませてもくれない……」
真央 「……」
俊祐 「お前の言うとおりだよ……あいつは俺の憧れだった……あいつみたいになりたかった……」
真央 「哉家くん」
真央、俊祐の背中に抱きつく
真央 「君は君でしょう? 他の誰でもない。君しか出来ないものを沢山持ってる。誰も知らない、君にしか表現できないものを、沢山持ってる」
俊祐 「……」
真央 「それを皆望んでるんですよ。こんなところで終わってなんかいないんです。君の前にはずーっとずーっと長い道がある。その先に永久くんはいないかもしれないけど、でもきっと彼は君の隣にいてくれますよ。だからこんなところで立ち止まらないでください」
真央、離れる
真央 「ごめんなさい。偉そうなこと言ってしまって……」
俊祐、振り返って真央を抱きしめる
真央 「……」
驚いている真央
俊祐 「だったらもう一度引き受けてくれ」
真央 「え……?」
俊祐 「お前じゃないとだめなんだ。言っただろ、お前じゃないとあれは完成しないって」
真央 「だ、だって……」
真央、真っ赤になっている
俊祐 「引き止めたいんだったら分かったって言え。そうじゃないと俺はもう終わりだ」
真央、笑う
真央 「君はやっぱり強引だと思います」
俊祐 「あぁ」
真央 「分かりました。僕でいいんでしたらお引き受けします」
俊祐、真央にキスをする
真央 「っ!」
驚く真央
真央の手を引いてミシン室に入るとドアを閉める
真央をドアに押し付ける俊祐
キスをする
真央 「っ……んぅ……かな、いえくん……?」
俊祐 「……んっ……」
俊祐、真央を見る
俊祐 「嫌だったらこの間みたいに殴れ。じゃないと止めないぞ」
またキスをする
真央 「……んっ……嫌じゃ……ふっ……ないん……んん……ですか……?」
俊祐 「この状況でそれを聞くのか」
鼻で笑う俊祐
赤くなって下を向く真央
真央 「あの……」
俊祐 「なに」
真央、俊祐を見上げる
真央 「もっと……してください……」
俊祐 「っ……煽るな……くそ……っ……」
キスをする
真央 「んっ……っ……」
俊祐、首筋にそってキスをしていく
服の中に手を入れる
真央 「あっ……」
俊祐 「誰かに見られたくなかったら鍵閉めろ」
俊祐、胸にキスをしながら言う
真央 「んっ……あっ……あぁっ」
真央、拙い手で鍵を閉めるとそのまま床に座り込む
***
・自室
俊祐、ベッドに座って煙草に火をつける
真央、机の前に座っている
真央 「あ、あの……お姉さんは……?」
俊祐 「あぁ、帰って来ない。今舞台で地方行ってるから」
真央 「そうですか……」
落ち着かない真央
俊祐 「なんでこっち座んないの」
真央を抱き上げる俊祐
足の間に座らせて後ろから抱きしめる
真央 「た、煙草っ、危ないですっ!」
俊祐 「大丈夫だよ」
耳元で笑う俊祐
真央 「うぅ……」
俊祐 「あんなにさっきは大胆だったのに、なんで急に照れるんだよ」
真央 「~~~~っ! 言わないでくださいっ!」
真央、耳を塞いで真っ赤になる
俊祐 「あぁ、あれか。そういうときには豹変しちゃうタイプか」
真央 「ち、違いますッ!」
俊祐 「へぇ~、さっきはもっともっとってうるさかったのに」
真央 「いやぁぁぁぁ!」
真央、俊祐を押しのけようとする
俊祐 「分かった分かった。ごめん」
真央 「もう……」
真央、ふと俊祐を見る
真央 「あの、ごめんなさい……これ、この間のですよね……」
俊祐 「え?」
真央 「頬……」
真央、俊祐の頬に触れる
黄緑になっている頬
俊祐 「あぁ……別に。大したことない」
真央 「変色しちゃってるじゃないですか……」
しょんぼりする真央
春 『僕グーでやられちゃったんだけど、あの時は冷やしても黄緑になっちゃってね? 凄く痛かったんだよね……』
俊祐 「あ……」
真央 「へ?」
俊祐 「お前、永久殴ったことあるだろ」
真央 「なっ! なんで知ってるんですか?!」
俊祐 「あれお前のことだったのか……」
真央 「な、永久くんが言ったんですか……?」
うろたえる真央
俊祐 「グーは痛い」
真央 「ご、ごめんなさい……」
俊祐 「っつか、永久はお前に殴られるようなことしたのか……」
真央 「っ!」
真央、真っ赤になる
俊祐 「……」
真央 「な、何もしてません……」
目を逸らす真央
俊祐 「はぁ……まぁいいや」
真央 「……あの、そんなことより」
俊祐 「どんなことより?」
真央 「もう!」
俊祐 「はははっ。白無垢だろ? 今から寝ないで当日までやって間に合うか間に合わないか……」
真央 「あの、僕あのままでいいと思うんです」
俊祐 「え?」
真央 「あのままでも十分綺麗ですよ」
俊祐 「……」
真央 「?」
俊祐 「勝負に出るか……」
***
・大ホール
真っ暗になる会場
司会 「続いて、エントリーナンバー十八。哉家俊祐。タイトルは『nobody』」
真央が現れる
黒の打ち掛けを羽織っている
黒の内掛けには金の刺繍で見事な桜が縫われている
綿帽子は被っていない
俊祐M「これは賭けだ。あの永久の『渚』のように、何もない状態で受け入れられるのか」
静かに歩く真央
ランウェイの先で立ち止まると内掛けを脱ぐ
すると真っ白な何の刺繍も施されていない白無垢姿になる
その姿に会場が沸く
俊祐M「これで一先ずは終わりに出来るのか──」
***
・大ホール
司会 「見事グランプリに選ばれた、哉家俊祐さんと、モデルの高木真央さんです!」
呼び込みに出てくる二人
司会 「おめでとうございます!」
俊祐 「ありがとうございます」
隣で笑っている真央
司会 「今回の受賞で見事三連覇ということですが」
俊祐 「はい。正直今回は無理だと思ってました」
司会 「辞退も考えられたという噂をお聞きしましたが」
俊祐 「そうですね」
司会 「しかし見事でしたね。あの内掛けの刺繍はすべて手縫いだそうで」
俊祐 「はい。ありがとうございます」
司会 「その中から出てきた無地の真っ白な白無垢。私、感動させられました」
俊祐 「そう言ってもらえると嬉しいです」
司会 「最後を飾るに相応しかったんじゃあないでしょうか?」
俊祐 「そうですね」
フェード
***
・控え室
俊祐 「あー、疲れた……」
俊祐、椅子に座ると同時に扉が開く
真央 「俊祐くん!!」
真央、少し怒っている
俊祐 「なに? 俺の花嫁さん」
真央 「~~~っ! 僕は聞いてませんでしたよ!」
俊祐 「なにを」
真央 「あんな内掛け! いつ作ってたんですか?!」
俊祐 「徹夜で作ってました」
真央 「刺繍なしで勝負するって言ってたじゃないですか!」
俊祐 「いいじゃん別に安全パイだ」
真央 「負ける気無かったんじゃないですか……」
俊祐、真央を抱き寄せる
俊祐 「俺だって負けるのやだもん」
真央 「もー、だったら言ってくれれば……」
俊祐 「……」
俊祐、真央の肩に顔を埋める
真央 「俊祐くん……?」
俊祐 「……スー……」
真央 「え? もしかして寝ちゃったんですか……?」
俊祐 「スー……スー……」
真央 「ちょ、ちょっと……こんなところで寝ないでくださいよ……俊祐くん!」
俊祐 「う……ん……」
真央 「起きました……?」
俊祐、真央を抱きしめる
俊祐 「ながひさ……」
真央 「! なんでそこで僕の名前じゃないんですか?! 俊祐くん! 起きてください!」
俊祐 「うーん……」
真央 「コラ! 起きなさい!!」
俊祐M「いつか会いに行ってやるさ」
***
・自室
棚に飾ってある紅茶葉の瓶
俊祐M「笑って話せるくらいに俺が成長したら。お茶する約束守りにな」
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