・中庭廊下
有明《ありあけ》、廊下を歩いていると前から明星《あけぼし》と昴《すばる》が歩いてくる
明星 「あれ? 有明もう帰って来たのか」
有明 「えぇ。輝夜《かぐや》様も戻られましたので」
昴 「あなたも大変ですね。あちらを行ったりきたりでは」
有明 「ははは、まぁでも輝夜様もきちんとお約束を守られていることですし……」
苦笑いをする有明
有明M「輝夜様が皇帝になられ、月とあちらの世界を行き来されるようになり、私の仕事は前にもまして増えたような気がします。しかし、輝夜様が幸せなら私はそれをお手伝いするだけのこと。私のお仕事は輝夜様の御付ももちろんですが、この城で働いているすべての者を纏めることでこのお仕事をさせてもらうようになってからもう随分経ちます」
呆れる明星
明星 「輝夜も皇帝になったからって好き放題やってちゃなぁー」
有明 「明星。輝夜様を呼び捨てで呼んではいけないと何度言えば分かるのですか。あの方は皇帝陛下で……」
明星 「あーはいはい。分かってんだけどさー。だって俺ら生まれたときからずっと一緒だったんだぜ? 今更輝夜様なんて呼べるかよ」
うんざりする明星
昴 「はははっ、まぁ輝夜が怒らないうちはいいんじゃないですか?」
悠長に笑う昴
有明 「昴まで……。いつまでも幼馴染ではいけませんよ!」
有明M「この二人は輝夜様の幼馴染であり、明星はこの城を守る将軍。昴はこの城の給仕長なのですが、この様にサボっていることが多々あり私の悩みのたねでもあります……」
怒っているが全然怖くない有明を見て笑う明星と昴
***
・二階廊下
二階の吹き抜け廊下に十六夜《いざよい》がいる
中庭廊下にいる有明、明星、昴
笑っている三人を冷たい視線で見ている十六夜
十六夜「……」
***
・中庭廊下
有明 「二人ともお仕事はどうしたのです! こんな所で……」
明星 「だーって警備っつったってこんな平和な場所で何にもすることねーんだもん」
有明 「はぁ……。将軍であるあなたがそんなことでどうしますか」
明星 「俺がここにいるってことは平和なことなんだからいいだろ別にー」
有明 「あなたという人は」
昴 「まぁまぁ……」
***
・二階廊下
十六夜、楽しそうにしている三人を見てふと手を差し出すと指先を擦りそこへ息を吹きかける
有明 「とにかくお仕事をきちんとなさってください」
膨れている有明を見るとさっと着物を翻して歩き出す十六夜
前から御付Aが歩いてくる
十六夜「おい」
御付A「はい、十六夜様」
十六夜「有明を私の部屋へ呼べ」
御付A「かしこまりました」
十六夜、去っていく
***
・中庭廊下
昴 「そういえば三日月《みかづき》様のお着物の仕立ての件なのですが」
有明 「あ、それなら──っ!」
有明、急に顔色を変える
明星 「? どうした急に」
有明 「っ……な、なんでも……ありません」
有明、徐々に顔が赤くなってくる
辺りを見回す有明
昴 「有明さん? どうしたんですか……?」
有明 「少し……眩暈が……」
明星 「おいおい、大丈夫かよ」
明星、有明に触れようとする
そこへ御付Aが来る
御付A「有明様」
有明 「っ……はい」
御付A「十六夜様がお呼びでございます。部屋へ来るようにと」
有明 「分かりました。すぐに行きます」
昴 「体調が優れないのでしょう? 十六夜様には私が」
有明 「大丈夫です! ……大丈夫ですから……」
有明、必死に笑う
明星 「有明……」
有明 「あなたたちはお仕事に戻りなさい。昴、三日月様の件は後ほど伺います」
昴 「分かりました……。本当に大丈夫なのですか……?」
有明 「心配しないでください。ほら、仕事へ戻って」
有明、言うと同時に踵を返して去っていく
その姿を見て心配そうにする明星と昴
明星 「有明の奴、輝夜のことでよっぽど疲れてんじゃねぇか?」
昴 「そうですね…」
***
・十六夜の部屋前廊下
十六夜の部屋の襖の前に跪く有明
息が上がっているのをなんとか押さえようと深呼吸をする
有明 「十六夜様。有明でございます」
十六夜「入れ」
襖を開ける有明
***
・十六夜の部屋
十六夜、部屋の奥に座っている
その前に座っている有明
十六夜「遅かったな。何をしていた」
有明 「申し訳ございません……っ……」
必死に平静を装っている有明
有明M「この方が輝夜様のお父上であり、前皇帝の十六夜様です」
その姿を見てふっと笑う十六夜
十六夜「楽しそうに話していたではないか。私の呼び出しよりもあっちの方が大事だったのか」
有明 「そ、そうではございません」
十六夜「あぁ、そうだな。その様なことでは早く歩けなかったのだろう」
笑う十六夜
俯いている有明
有明 「っ……」
十六夜「このくらいのまじない、お前なら容易く解けるのではないのか?」
十六夜、体を乗り出して有明の耳元で囁くと
有明の股間に足で触れる
有明 「あっ……」
有明、不意に出てしまった声をかみ締め涙目で十六夜を見上げる
十六夜「欲しいのならいつものようにしてみろ」
有明 「……っ」
有明、切ない顔をするも自分の帯に手をかけ着物を肌蹴させる
十六夜「……」
十六夜の着物を肌蹴させると物を取り出し咥える有明
有明 「んっ……ん……は……んぅ……」
十六夜「……」
十六夜、有明を見下ろしている
有明、切なそうに十六夜を見上げる
有明M「私が十六夜様にこの様なことをするようになってからも随分経ちます……」
十六夜「輝夜は戻ったのか?」
有明 「っ……は……い……ん……ぅ……」
十六夜「輝夜とはこの様なことしなかったのか。せっかくあの子供がいないことだ」
十六夜、喉で笑う
有明 「してま……せんっ……ん……ふ……」
十六夜「何故だ。昔はしていたじゃないか」
有明、涙目で十六夜を見る
有明 「あ、れ……は……」
十六夜「何だ。好きだったんだろう。あいつのことが」
有明 「っ……い、ざよい……様……んぅ……」
十六夜「あぁ、違うな。〝だった〟ではない。〝今も〟だな」
十六夜、笑う
有明M「そう。私は輝夜様のことをお慕いしていました。それはあの方のお傍に使え、守ってあげたいという想いから」
有明 「……っ……ん……ふぅ……んん」
十六夜「お前がまじないを解かなければあいつはここに留まっていたというのに。本当に馬鹿だなお前は」
有明、自然と右手が自身に触れる
有明 「んっ……あっ……ぅ……ん……あぁっ……」
十六夜「誰が触れてよいと言った」
十六夜、有明の顎を掴む
自然と口から離れる
有明 「はぁっ……はぁ……すみ……ません……」
有明、涙目で十六夜を見上げる
十六夜「どうすればいいか分かっているはずだが? それともお前はいつも夢中で忘れてしまうのか?」
有明 「っ……いいえ……」
有明、小さく呟くと十六夜のものを両手で持ち愛しそうに舐めながら言う
有明 「十六夜様……はぁっ……ん……我慢……出来ないので……触らせてください……お願い……します……」
十六夜「ふ……」
十六夜、意地悪く笑う
十六夜「この淫乱」
有明 「んっ……あっ……ふ……んん……」
有明、涙目で十六夜のものを咥えたまま自身を扱く
有明 「あぁっ……んぅ……は、……ん……っ……ぁっ……」
有明M「しかしそれは十六夜様のことを愛しているからだと、いつの日からか気づいてしまったのです」
有明 「んっ……あっ……んん……いざ、よいさまぁっ……んぁっ……」
十六夜「っ……」
有明M「しかしこの想いは決して叶わぬもの。私が十六夜様に想いを抱くことすら大罪で──」
有明 「あぁっ! ……ぅ……んん……も、う……っ……」
十六夜「有明……」
十六夜の呼ぶ声に有明、口を離してしまう
有明 「あっ……あ、あっ……十六夜様っ……はぁっ──!」
十六夜「んっ……!」
同時に果てる
有明、十六夜のものが顔にかかるが息を荒くし、十六夜を愛しそうに見上げる
十六夜「ふっ……」
その表情を見てふっと笑う十六夜
有明M「それでも消えない想いはこんな行為でさえ幸せに感じさせるのです……」
有明 「十六夜……様……」
有明が呼ぶ声に十六夜、さっと立ち上がる
有明 「……」
十六夜「仕事へ戻れ」
有明 「っ……はい……」
十六夜「その前に湯殿へ行け」
有明 「……」
十六夜「他のものに気が付かれたくなければな」
十六夜、いい捨てると部屋を出て行く
有明 「……」
その場に座り込んだまま俯く有明
有明M「十六夜様は私が憎いのでしょう。輝夜様に触れてしまったことが、私の消えない罪であの方への裏切りだったのだと、気がついた時にはもう遅かったのです。私は償いだと思いつつも、十六夜様に触れられることが何よりも嬉しいと感じる最低な者になっていました」
畳に涙を零す有明
有明 「ぅ……っ……ぅぅ……」
有明M「すべてを消せるのならば、どんなにいいでしょう。どれほどの力を持ってしても尚、この記憶と、自らが犯した過ちだけは消せはしないのです……」
***
・給仕室
有明 「昴」
有明、襖を開けると共に声をかける
明星 「あ……」
昴が反物を広げている隣で胡坐をかいている明星、不味いという顔をする
有明 「あなたはまだこんなところで……」
明星 「あーはいはい! 今戻ります! んじゃな昴!」
昴 「ははは、警備頑張って」
微笑む昴に手を振って去っていく明星
有明 「もう……」
呆れて昴の傍に腰を下ろす有明
昴 「大丈夫なんですか?」
昴、心配そうに有明を見る
有明 「え?」
昴 「先ほど、眩暈がすると言っていたじゃないですか」
有明 「あ! あぁ! だ、大丈夫です……もう……」
焦る有明
昴 「そうですか? 無理なさらないでくださいね。明星も心配していたんですよ」
有明 「明星が?」
昴 「はい。輝夜が無理をさせているのではないかって」
昴、笑う
有明 「そんなことはありませんよっ! さ、ほら三日月様のご希望は?」
昴 「はははっ、そうですか? 先ほど三日月様にもお尋ねしたんですが……」
***
・城門前(夜)
一人で歩いてくる有明
こちらへ走ってくる子供がいる
有明 「あっ!」
子供、転びそうになる
しかし突然ふわっと体が浮き、ゆっくりと地に足をつける
有明 「大丈夫ですか?」
有明、微笑んで子供の傍に行く
子供 「有明さまっ!」
有明 「もう暗いですから、足元をしっかり確認して歩かないと危ないですよ」
子供の頭を撫でる有明
子供 「ありがとうございますっ」
お辞儀をする子供
有明 「気をつけて」
微笑むと去っていく子供
それを見て笑う有明
明星 「おーい! 有明っ!」
有明 「?」
声のする方を見ると城門の櫓から明星が手を振っている
***
・櫓(夜)
櫓横の入り口から顔を出す有明
明星 「入れ入れ」
笑っている明星
有明 「ここに入るのは久しぶりですね」
微笑んで明星の隣へ座る有明
明星 「昔はよくここに隠れてたな」
声に出して笑う有明
有明 「ここにいるのはもう分かっていたのに輝夜様も昴もここへ来るんですよね」
明星 「それですぐ有明にバレんだよな。ハハハッ」
有明 「あの頃が懐かしいです」
有明、微笑む
明星 「ふふふっ、見ろこれ。三日月様にさっき頂いたんだ~♡」
明星、カステラを出す
有明 「三日月様が?」
明星 「おう。なんか城下町で買ってきたんだってさ」
有明 「また出て行かれたのですか……」
明星 「不知火《しらぬい》がついてるから大丈夫だろ?」
有明 「そうですが……」
明星 「それより、ほら。食えよ」
有明 「え? 私がですか?」
明星 「おう。俺一人でこんなに食えねぇし。疲れた時には甘いもんって言うだろ?」
有明 「……」
有明、明星の言葉にきょとんとする
明星 「なんだよ?」
有明 「いえ。ふふっ。ありがとうございます」
有明、微笑む
有明 「でも昴には?」
明星 「あぁ、あいつも三日月様に頂いてたよ」
有明 「そうですか。ではお茶を出しましょうか」
有明、微笑むと手を合わせて目を閉じる
ゆっくりとその手を広げると手の間から布が出てくる
その布を床に広げスッと指先で撫でると急須と茶碗が出てくる
その急須を傾けるとお茶が出る
明星 「いつ見てもやっぱり有明って凄いよな……」
感心している明星
笑いながらお茶を差し出す有明
有明 「そんなことないですよ」
お茶を飲む明星
明星 「そんなことあるさ。俺具現は苦手なんだよな~」
有明 「え? でもあなた幾つでも出せるじゃないですか」
明星 「武器だろー?」
有明 「訓練や試合の時はとても格好良いですよ。それでいいじゃないですか」
明星 「そりゃそれが俺の仕事だし、ガキの頃からこれだけは得意だったよ。でもそうじゃなくてさー」
明星、面白くない顔をしている
有明 「うーん。そうですね。具現は心像が大切なんです」
明星 「心像ねぇ……」
有明 「では武器を出してみなさい」
明星 「ん~?」
明星、手を空中に翳すとパッと剣を握っている
明星 「はい」
有明 「次」
明星 「ん」
明星の握っていた剣が槍に変わる
有明 「次」
明星 「ほい」
槍が銃に変わる
有明 「ふふ、やっぱり凄いじゃないですか」
微笑んでいる有明
明星 「俺これでも将軍なんだぜー? これくらい出来なきゃとっくの昔に殺されてら」
呆れる明星
有明 「ははは、そうですね。でも、これが大切なんです。あなたが武器をこれだけ素早く具現化できるのはあなたの頭の中の武器の心像がはっきりとあるから」
明星 「うーん……」
有明 「想像力ですよ。集中して、具現化したいものを思い浮かべる」
明星 「想像力か……」
有明 「そうですね、じゃあ試しに何か出してみましょう。何がいいですか?」
明星 「花!」
明星、即答する
有明 「花……ですか」
明星 「おう!」
有明 「まぁいいでしょう。想像しやすいですからね。目を閉じて」
明星 「うん」
明星、目を閉じる
有明 「集中して、意識を心に集めるんです。心の眼で思い描く。どんな花なのか、それはどんな色で、どんな形をしているのか。はっきりと、それを思い描いて」
明星 「……」
明星、眉間に皺が寄っていく
有明 「それがはっきりと浮かんだら次は手に意識を移します。指先から粒子が出てくる心像を作って。段々とさっきの花を手に移していく……」
明星 「ぐっ……んん……」
明星、額から汗が出てくる
有明 「すべてが移った瞬間に押し出す」
明星 「オラァッ!!」
明星の手の中に刺々しい薔薇がある
明星 「いてっ!」
それを投げ出す明星
カランと音がする花は花びらが刃になっている
有明 「……どんな花ですか……これは……」
呆れる有明
明星 「クッソー……。違うんだよ。俺はこんなのじゃなくてー……」
落ち込む明星
有明 「まぁ仕方ないですよ。落ち込まないで。あなたはそういう風に訓練されてきたんですから」
明星 「そうだけどさぁ」
有明 「その調子で頑張りなさい。あなたなら出来ますよ。こんな風に」
有明、パッと指先を擦ると向日葵の花が一輪出てくる
明星 「おぉっ!」
有明 「ね?」
明星 「おっし! 俺頑張る!」
有明 「ふふふっ」
微笑んでいる有明
明星 「有明の授業って懐かしいな。昔を思い出すよ」
有明 「そうですね」
有明、微笑むと櫓の外を見る
空には地球が輝いている
有明 「ここの景色は本当に美しい」
明星 「いいだろここ。俺の特等席」
有明 「えぇ、羨ましいです」
ぼーっと地球を見る有明
明星 「輝夜はあそこにいるんだよな。なんか信じらんねぇけど」
有明 「綺麗なところですよ。月がとても綺麗に見えるんです」
明星 「へぇ~」
輝夜 『私はもう耐えられない……』
有明 『輝夜様……』
輝夜 『どうして私はこんな場所に生まれてきたのだ』
有明 「……」
地球をただ見つめている有明
***
・中庭廊下
昴が歩いているとドタドタと走ってくる音が近づいてくる
昴 「明星?」
前から走ってくる明星
明星 「昴!」
笑っている明星
昴 「なんです? 騒がしくしているとまた有明に叱られますよ」
明星 「お前にいいもんやるよ!」
昴 「? いいもの……ですか」
明星 「見てろよ」
明星、目を瞑ると手を合わせ眉間に皺を寄せる
昴 「明星……?」
明星 「くっ……ぬぬぬ……」
明星、額から汗が滲む
明星 「んっ……! ホラっ!」
ポンっと音が鳴ると同時に明星の手には一輪の薔薇の花が現れる
昴 「まぁ」
昴、驚く
汗だくで笑っている明星
薔薇を差し出す
明星 「凄いだろ! やるよ!」
昴 「あなたそんなことが出来るようになったのですか……」
驚きながらも薔薇を受け取る
明星 「へへへ~」
昴 「では私もお返しをしなければなりませんね」
明星 「え?」
昴、指先をすっと持ち上げ見えない場所をすっと引っ張ると一枚のハンカチが出てくる
そのハンカチで明星の汗をふき取るとキスをする
明星 「っ……!」
昴 「ありがとう」
昴、微笑む
明星、驚いて固まっている
昴 「ふふふっ♡」
***
・二階廊下
廊下から明星と昴の様子を見ていた有明
有明M「良かったですね明星」
微笑んでいる有明
そこへ十六夜が来る
十六夜「何をしている」
有明 「あ……十六夜様」
十六夜、明星と昴を見つける
十六夜「なんだ。盗み見か」
有明 「ち、違いますっ!」
十六夜「まぁ良い。来い」
十六夜、すたすた歩いていく
有明 「? はい」
それについていく有明
***
・十六夜の部屋
十六夜、部屋に入ると同時に有明の腕を掴むと奥へ連れて行く
有明 「い、十六夜様っ……あの……!」
十六夜、有明の声を無視して奥の襖を開けると敷いてあった布団の上に有明を突き飛ばす
有明 「っ!」
十六夜、有明に覆いかぶさるとキスをする
有明 「んっ……ぅん……」
十六夜「っ……ん……」
有明 「十六夜様……すみません、輝夜様のところへ行かなければ……」
十六夜「……」
十六夜、有明を冷たい目で見る
有明 「あの……」
十六夜「行けばよい。この後にな」
十六夜、言い捨てると有明の着物の帯を解く
有明 「十六夜様っ! ……あっ……あぁっ……」
***
・十六夜の部屋(夕方)
夕日が部屋に差し込んでいる
目を覚ます有明
隣に十六夜の姿は無い
体中にキスマークがついている
有明 「……っ……」
体を起こすと節々が軋む、それに眉をしかめる有明
有明 「……」
部屋を見るとそのまま視線を外に向ける
有明M「私が十六夜様と初めてお会いしたのは、私も十六夜様もまだ子供の頃でした──」
***
・客間(回想)
見た目十歳くらいの有明が正座をして座って部屋をきょろきょろ見回している
そこへ夕月《ゆうづき》が来る
有明、頭を下げる
夕月 「お前が有明か」
有明 「はい」
夕月 「畏まらんでいい。顔を上げなさい」
有明 「はい」
夕月、微笑んでいる
夕月 「話は聞いた。とりあえず力を見せてみなさい。何が一番得意だ?」
有明M「その年の初め、両親が天災で亡くなり私は天涯孤独の身となりました。生きる手立ても分からぬ私を見かねた隣人達が私の力ならとこの城へ連れてきてくれたのです」
有明 「はい。失礼します」
有明、少し後ろに下がると両手のひらを上に向ける
右の手のひらから水が飛び出し、左の手のひらへ消えていく
夕月 「ほう」
夕月、それを見て関心する
次に指先を擦ると炎が飛び出し、手を叩くと鈴の音が鳴る
夕月 「ほほほ、見事だ」
有明 「最後によろしいですか?」
夕月 「あぁ、やってみなさい」
有明、頭を下げると立ち上がり庭を見る
夕月 「?」
有明 「失礼します」
有明、もう一度頭を下げ右手を差し出しふっと息を吹きかけると
その指先からきらきら光る粒子が飛び、庭に咲いている小さな花を一輪浮かべる
するとその花がこちらに飛んできて手の中に止まる
夕月 「ほう、浮力が使えるのか……」
夕月、驚く
有明 「どうぞ」
有明、微笑んで花を差し出す
有明M「まじないを使うのは幼い頃から得意でした。両親には特別な力だと教えられ、私はその力を誰かを楽しませるためや、両親の手伝いとして使っていました」
夕月 「うん。素晴らしい。お前ほどの歳で浮力を使えるなど見たことが無い」
有明 「ありがとうございます」
有明、嬉しそうに笑う
十六夜「爺」
突然庭から十六夜が現れる
見た目十四歳ほどに見える
夕月 「これは十六夜様。どうなされましたかな?」
有明、頭を下げるのを忘れて十六夜に見入っている
有明 「……」
有明M「庭の隅から現れた十六夜様は見たことも無いほど美しく、この世の者と思えなかった程で──」
十六夜「そいつが言っていた孤児か」
十六夜、有明を見る
その視線にハッとして急いで頭を下げる有明
夕月 「そうでございます」
十六夜「面白いまじないが出来るんだな」
有明 「ありがとうございます」
十六夜「そいつを俺の御付にしろ」
夕月 「しかし陛下は三日月様にと仰っていましたが……」
十六夜「よい」
十六夜、言うと部屋に上がってくる
十六夜「気にいった」
十六夜、言いながら有明の顔を上げさせ目を見る
十六夜「いい目の色をしているな。父上と三日月には私から話を通す。お前も私の元におりたいだろう」
十六夜、笑って有明を見る
有明 「はい……」
呆然と十六夜に見惚れている有明
有明M「この時の返事は従った言葉ではなく、本当に心から願った言葉でした。思えば私は一目見た時から十六夜様に心奪われていたのです」
***
・十六夜の部屋(夜)(回想)
部屋の窓から地球を見ている十五歳ほどの十六夜
その隣に座っている十一歳ほどの有明
有明M「私はこの城の統括である夕月様にまじないの稽古を受けながら十六夜様のお傍にいました。しかし身の回りのお世話は専用の御付がいましたので、私は殆ど遊び相手としてお使えさせていただいていたのです」
有明 「十六夜様。お寒くありませんか?」
十六夜「いや」
空を見上げたままの十六夜
有明M「十六夜様は殆ど表情を表すことは無く、お話もあまりなさらない方でした」
有明 「夕月様にこんなことを教わったんです」
十六夜「ん?」
有明、地球を見る
有明 「あの星にはこの世を去った者が新たな命を持って生まれてくるのだと」
十六夜「……」
有明 「あの星に人が住んでいるとはおとぎ話でしか知りませんでしたが、もしそれが本当ならば私の両親もあの星でまた命を授かっているのでしょうか……」
十六夜「……有明」
十六夜、地球を見ている有明の顎を持つとこちらを向かせる
十六夜「お前は寂しいのか。親が死んで」
有明 「……はい。両親が死んでしまったことは悲しくも、寂しくも思います」
十六夜「お前には私がいるではないか」
有明 「十六夜様……」
十六夜「それでも寂しいのか?」
有明M「その時も十六夜様はやはり表情をあまり崩されていませんでしたが、私には少しだけ優しく微笑んでいるように見え、それが本当に嬉しかったのです。十六夜様のお傍にいられるだけで私は十分だと思っていました。その時までは──」
***
・給仕室(回想)
慌しい雰囲気の給仕室
そこへ夕月が来て有明に気が付く
有明、見た目十四歳ほど
夕月 「あぁ、こんなところにいたのか」
有明 「何かあったのですか?」
夕月 「十六夜様と三日月様のご成婚が決まったのだ」
有明 「え……?」
有明、目を見張る
有明M「十六夜様と三日月様のご結婚はもう生まれたときから決まっていたことでした。二人ともそう決められて育ってきたのです。今更驚くことでもありませんでした」
夕月 「今日から当分の間まじないの稽古は出来ない。お前も十六夜様のお手伝いに専念しなさい」
有明 「分かりました……」
有明M「この時初めて私は十六夜様に対する想いに気が付き、それと同時に叶わないものだと気づかされたのです」
***
・十六夜の部屋(夜)(回想)
十六夜、窓辺に座り、地球を見ている
その光に照らされとても美しく見える
十六夜、見た目十八歳ほど
有明 「……」
有明M「泣きそうになったことを覚えています。十六夜様は本当に美しく、それはもう初めてお会いした時からそうでしたが、届かないものだと分かったからこそ一層美しく見えたのかもしれないと。伝えることも出来ない想いは、ただ空に浮かんでふわふわ漂うだけ」
十六夜「有明」
十六夜、有明に向かって手を差し出す
傍に行く有明
有明M「その手に触れる手前、泣き出しそうな私の心を今まで覚えたまじないすべてをかけて笑って言いました」
有明 「十六夜様。ご成婚、おめでとうございます」
十六夜「っ……」
十六夜、目を見張る
有明、それに驚く
十六夜、俯くと酷く冷たい声を出す
十六夜「出て行け」
有明 「え……?」
十六夜「出て行け!」
有明M「初めて聞いた感情の声は、笑う声でもなく、優しい声でもなく、拒絶するような悲しい声でした」
***
・勉強部屋(回想)
有明 「真面目にやってください!」
見た目八歳ほどの輝夜、明星、昴、指先から水を出したり炎を出したりして遊んでいる
有明、怒っているが動じない三人
有明M「その後程なくして輝夜様がお生まれになり、私は十六夜様の命令により輝夜様のお傍にいました」
***
・十六夜の部屋(回想)
十六夜、奥に座っている
段下に輝夜と有明が座っている
十六夜「まだ浮力も使えんのか」
十六夜、冷たい目で輝夜を見ている
輝夜 「すみません……」
十六夜「私がお前の歳にはもうできていたぞ」
輝夜 「……」
見かねて有明が口を出す
有明 「しかし動力は使えるようになりましたよ。ね、輝夜様」
輝夜 「うん」
輝夜、笑って傍にあった座布団を少しずらす
しかしそれを見て十六夜ため息をつく
十六夜「そんなことではいつまで経っても皇帝にはなれんぞ。もうよい行け」
輝夜、俯いて立ち上がる
有明M「十六夜様は輝夜様にとても厳しくなさっていましたが、それだけではありませんでした」
***
・庭(回想)
庭の置物が真っ二つに割れている
明星 「おい、どうすんだよこれ……」
輝夜 「そなたがやったのであろう。さっさとくっつけろ」
明星 「俺っ?! 後ろからまじないで突いたのは昴だぞ!」
昴 「やれと命令したのは輝夜ですよ」
コソコソ話をしている輝夜、明星、昴
十六夜「何をしている」
そこへ十六夜が来る
咄嗟に置物を囲って三人で隠す
輝夜 「い、いえ……」
明星 「なんでもありませんっ!」
昴 「ははは……」
足元から丸見えの置物を見てため息を吐く十六夜
十六夜「どきなさい」
輝夜 「あ、あの……これは……」
明星 「隕石が……」
昴 「空から降ってきて……」
すごすごと置物から離れる三人
十六夜「このくらい直せないでどうする。お前達はこの城を守る者になるのだぞ」
十六夜、言いながら手を置物に翳すとさっと空を切る
すると置物が元通りになる
輝夜 「あ……直った……」
明星 「すごい……」
昴 「跡もない……」
十六夜「有明の授業で遊んでばかりしているからだ。しっかり話を聞いて学びなさい」
十六夜、呆れて去っていく
それを庭の廊下で見ている有明
有明M「厳しい教育にも親としての愛はあったのです。しかしそれを壊してしまったのは私でした。忘れもしない、消えない罪があの方を裏切り、そして輝夜様までも苦しめることになってしまったあの日……」
***
・輝夜の部屋(回想)
輝夜、見た目には十五歳ほど
有明を押し倒している
有明 「か、輝夜様……」
驚いている有明
輝夜 「有明……」
輝夜、有明にキスをする
有明 「んっ……駄目です……輝夜……様っ」
輝夜 「そなたは私が嫌いなのか……?」
輝夜、切ない表情で有明を見る
有明 「そんなことは……」
有明M「いつものように叱っていればよかったのです。そうすれば何もかもが上手くいくはずでした。こんな冗談はいけませんと。私は輝夜様を十六夜様から任されている身だったのに。どうしてこの時はっきりと拒否することができなかったのか」
輝夜 「ではいい……」
輝夜、有明にキスをしながら有明の帯を解く
有明M「輝夜様は驚くほどあの頃の十六夜様に似ていて……」
有明 「輝夜……様っ……」
***
・十六夜の部屋(夜)(回想)
有明 「十六夜様……あの」
突然有明の胸倉を掴む十六夜
有明 「っ! ……十六夜様……」
十六夜「貴様は何度私を裏切れば気が済む」
十六夜、酷く冷たい声で言う
有明 「どういう……」
十六夜、そのまま畳に押し倒す
有明 「十六夜様っ……」
十六夜「輝夜が……」
有明 「え……」
十六夜「あいつが好きなのか!!」
有明 「……」
十六夜の言葉に目を見張る有明
有明M「十六夜様が私と輝夜様の関係にどうしてお気づきになられたのかは分かりません。しかしこの時聞いた声は、あの時の声と同じでした。拒絶するような、悲しい声。それは私の償いの始まりだったのです」
有明 「十六夜……様……?」
十六夜「私がどんな思いで……」
有明 「いざ──っ!」
十六夜、有明に無理やりキスをする
有明 「んっ……んん……は……んぅ……」
十六夜「お前が悪いんだ……」
有明M「この頃から十六夜様は輝夜様に以前よりも増して厳しくなさるようになりました──」
***
・輝夜の部屋(回想)
輝夜、窓辺から地球を見ている
有明 「輝夜様……」
輝夜 「有明……あの星に人が住むというのは本当か……?」
有明 「……分かりません」
輝夜 「昔言っていたではないか、この世を去った者はあちらの世界で新たな生を受けるのだと」
有明 「その世界が実在していたとしても、私たちがあの星へ行く手立てはありません」
輝夜 「有明。手を出してみろ」
有明 「え……?」
輝夜、有明の手を取る
すると青い火花が散る
有明 「な……」
驚く有明
輝夜 「ここまで急いで来たのだ……。私は父上の力を持っている……。もう壊れた物を直せない子供ではない。もしもあの星に行けたのならば……」
輝夜、虚ろな目で地球を見ている
有明 「何を仰いますか……」
輝夜 「……」
有明M「この頃私は以前のような元気を失った輝夜様をどうにかして守りたいと思い、そしてその想いが輝夜様を愛すようになっていました。しかし輝夜様を救ってあげられずにあの運命の日を迎えるのです」
***
・給仕室(回想)
輝夜 「何をしている」
給仕室の戸口に立って声をかける
給仕室では見事な深緑の打ち掛けが広げられている
婆 「これはこれはいいところにお出でなさった」
輝夜 「どうしたのだ婆。何か祝い事でもあるのか?」
婆 「先ほどお父上がお出でなさってそなたの襲名式の日取りを」
輝夜 「なんだと?!」
婆 「輝夜様……?」
輝夜 「何を勝手なことを言っておる……私は皇帝になどならん……」
輝夜、取り乱している
婆 「何を言いますか。そなたは生まれる前からそうなる定めなのですよ」
輝夜 「定めなど誰が決めたのだ! 私は……私は皇帝など……」
婆 「お父上の跡を継ぐのがそなたの決められた道。抗うことなど出来ないのですよ」
輝夜 「うるさい! 私は絶対に跡は継がん! 跡を継いでどうなるというのだ……私は……」
婆、困った表情を浮かべる
婆 「そなたの為を思って言っているのです。このままではすべてが駄目になってしまう」
輝夜 「なにを……」
婆 「すべてを投げ出して今更何になるといいましょう。そなたにはきちんと決められた道があるというのに」
婆、立ち上がって近づいてくる
婆 「許されないことですよ」
婆、輝夜の腕を掴む
輝夜 「離せッ!!」
***
・十六夜の部屋(夜)(回想)
有明 「どういうことですか?!」
有明、大声を上げる
十六夜「決まったことだ。今更どうにも出来ん。あいつも力をつけたからな」
有明 「どうして閉じ込めたりなど……」
十六夜「今の状況を見れば分かるだろう。お前はあいつが舌でも切らぬよう見張っていろ」
有明 「そんな……」
***
・輝夜の部屋(夜)(回想)
輝夜、開かない窓の傍に座っている
有明、開かない襖をすり抜けて入ってくる
輝夜 「有明っ!」
有明、輝夜を抱きしめる
有明 「申し訳ありません。すべて私のせいです……」
輝夜 「有明……私はこのままどうなるのだ……」
有明 「……私がお傍にいますから」
輝夜 「なんだその言葉は……そんなもので……」
有明 「……」
輝夜 「私はもう耐えられない……」
有明 「輝夜様……」
輝夜 「どうして私はこんな場所に生まれてきたのだ」
有明 「……」
有明、悔しそうにする
輝夜 「有明……手を貸してくれ……」
有明 「輝夜様?」
離れると輝夜を見る有明
輝夜、真剣な眼差しで有明を見る
輝夜 「少しあの星が見てみたいのだ。いつもの様に、この窓から」
有明 「……」
輝夜 「そなたの力でこの窓を開けるだけでいい。それくらいそなたなら容易いことだろう」
有明 「ですが……」
輝夜 「頼む……」
輝夜、有明の手をそっと取り手の甲にキスをする
離れると同時にそこへ息をそっと吹きかける
輝夜 「な? 私に手を貸してくれ」
有明 「分かり……ました……」
有明、ふっと窓に寄るとその場所に触れる
すると窓がはっと開き、空に浮かぶ地球が見える
輝夜 「すまない有明。許してくれ。そなたには世話になった……」
輝夜、有明の頬にキスをすると姿を消す
有明 「……輝夜……様……」
有明、その場に倒れる
***
・大広間(回想)
十六夜「どういうことだ!」
十六夜の怒鳴り声が辺りに響く
城中の者が大広間にいる
十六夜の隣奥に座っている三日月その隣に不知火がいる
有明 「申し訳ございません」
有明、頭を下げている
十六夜「消えただと?」
有明 「城中探しましたがどこにもおらず、気配も見当たりません」
十六夜「何のためにお前に見張らせていたと思う」
有明 「申し訳ございません」
有明M「私が気を取り戻した時には輝夜様の姿はどこにもあらず、見えたのはただ輝くあの星。気配を探るもどこにもないあの人の姿」
三日月「自業自得だ」
三日月、扇子で口元を押さえあざ笑っている
十六夜「何?」
三日月「あのようなやり方では私でも逃げ出していたぞ」
十六夜「……」
十六夜、三日月を睨みつける
三日月「おぉ怖い。しかし有明」
有明 「はい」
三日月「あれは私の可愛い子だ。何としてでも探し出せ」
有明 「かしこまりました」
三日月「不知火」
不知火「はっ」
三日月「有明に力を貸してやりなさい。しばらくは奥に来なくてよい」
不知火「かしこまりました」
三日月「私は奥へ戻る」
三日月、立ち上がる
三日月「十六夜」
十六夜「何だ」
三日月「お前の気持ちも分からんでもないがあれもまだ若い。親としての配慮というものがあるだろう。お前がそんなことではいつまで経っても望みは叶わんぞ」
三日月、いい捨てると踵を返す
十六夜「貴様に何が分かる」
三日月「輝夜の方が幾分か大人だな」
三日月、高らかに笑いながら去っていく
***
・統括室(回想)
有明、座って目を閉じている
不知火「有明様、少し休まれてはいかがですか?」
顔色の悪い有明
有明 「私は大丈夫です」
不知火「しかし……」
有明 「こうなったのは私の責任です。気配が追えないのは私のまじないのせい。解けるのも私しかおりません。これさえ解ければ輝夜様の居場所が分かります」
不知火「だからこそです。あなたが倒れられては元も子もありません」
有明 「……」
不知火「ですから。ここは私に任せてください」
有明 「そうですね……では少し任せます」
有明、額を押さえて姿勢を崩す
有明 「……不知火」
不知火「はい」
有明、窓から見える地球を見る
有明 「輝夜様は本当にあの星へ行かれたのだろうか……」
不知火「……どうでしょうか……」
有明 「……」
***
・大広間(回想)
十六夜、玉座に座っている
城中の者がいる中、有明と不知火が一番前にいる
有明 「輝夜様のお姿を確認いたしました」
十六夜「どこだ」
有明 「あの星でございます」
十六夜「……」
城中の者が騒ぎ出すが十六夜、動じない
有明 「あの星の人間と一緒にいるようで、こちらからの呼びかけに反応されないことから記憶を無くされている様子です」
十六夜「記憶が無い?」
有明 「あの星へ行く際に記憶の欠片をばら撒かれた様です。しかしそれも時間の問題かと」
十六夜「そうか。ではよい。即刻連れ戻せ。何なら一緒にいる人間に手を出しても構わぬ」
有明 「……かしこまりました」
十六夜「なんだ」
有明 「いえ……」
有明M「あの星で見つけた輝夜様はとても幸せそうに見えました。幼い頃のあの笑顔で笑っていらしたのです。そして隣にいる少年を愛おしそうに見る目を私は見たことがありませんでした。しかし住む世界が違う者。輝夜様はこの国の皇帝になられる身。行き着く先は悲しい結末しかないのです」
***
・那智の部屋(夜)(回想)
輝夜、那智《なち》を見る
幸せそうに眠っている那智
輝夜 「さて、参るとするか」
有明 「はい」
輝夜 「短い間だが、楽しかった」
輝夜、笑うと外へ出る
外から眠る那智の姿を見る有明
有明、指先をふっと吹くときらきら光る粒子が空に舞う
***
・大広間(回想)
輝夜、十六夜の前に出る
その後ろにいる有明
輝夜 「父上。戻って参りました。あなたの言う通りにいたします」
十六夜「……」
十六夜、輝夜を冷たい目で見ている
輝夜 「……」
輝夜、それに動じまいと目を逸らさないでいる
十六夜「よく帰って来たな」
輝夜 「はい。申し訳ございませんでした」
十六夜「有明」
有明 「はい」
十六夜「襲名式の準備をしろ。城中の者を動かせ」
有明 「かしこまりました」
輝夜 「……」
輝夜、俯く
十六夜「輝夜」
輝夜 「はい」
十六夜「その後のことに私はもう干渉しない。お前が皇帝となれば私も口を出さない。お前の好きにしろ」
輝夜 「え……?」
十六夜「さがれ」
十六夜、相変わらず冷たい目をしている
輝夜、呆然としている
***
・中庭(夜)(回想)
空に浮かぶ地球を眺めている有明
有明M「その後、皇帝となられた輝夜様はあの少年に会うためにあの星へ戻られました。まじないを解いた少年はすべてを思い出し、輝夜様もまたあの時の笑顔を取り戻されたのです」
十六夜「何をにやにやしているのだ。気持ち悪い」
十六夜が後ろにいる
有明 「えっ? あ、十六夜様」
有明、十六夜を見て微笑む
有明 「輝夜様は上手くいっているようですよ」
嬉しそうにしている有明を見て、呆れる十六夜
十六夜「お前があいつのまじないを解いていたのだろう。馬鹿らしい」
有明 「えっ! いや! あの……」
焦る有明
十六夜「お前はいつまで経ってもあいつに囚われているんだな」
十六夜、言い捨てると去っていく
有明 「十六夜様っ」
十六夜「……」
有明の声に振り返りもしない十六夜
有明 「……」
有明M「この時、はっきりと分かりました。私は未だ十六夜様への思いを忘れられずにいたのだと。輝夜様の幸せを願えたのは、十六夜様がいるからなのだと」
***
・十六夜の部屋(夕方)
乱れた姿で部屋の外を見ている有明
有明M「しかし叶わぬ想い。たとえ慰み者だとしても、あの方のお傍に居られるだけで幸せだと、そう思うことでどうにか生きていこうとする私はこの城にいるすべての者を裏切っている大罪人なのです」
有明、立ち上がり服を調える
有明M「十六夜様が私をお許しになられた時、それが本当の幸せなのか。それともそこからが地獄なのか……」
有明、部屋を出る
有明M「何が一番で何が正しいのか分からずに、私はただあの人を思うことしかできないのです。それはもう十六夜様を一目見たときからずっとそうだったのかもしれません」
***
・廊下(夜)
一人、廊下を歩いている有明
有明M「こんな時間に伺っても大丈夫だろうか……。那智様にご迷惑かな……」
悩みながら歩いていると急に後ろから手を掴まれる
有明 「っ!」
振り返ると十六夜がいる
有明 「十六夜様っ……どうなされたのですか?」
驚く有明
十六夜「今から輝夜のところへ行くのか」
有明 「はい。……あの……」
掴まれている手を見る有明
十六夜「いつ戻る」
有明 「ご報告だけなので、すぐに戻るつもりですが……。何かご用ですか?」
有明、微笑む
十六夜「……」
十六夜、有明の表情を見て手を離す
有明 「十六夜様?」
十六夜「別に用は無い」
十六夜、言いながら有明の首筋に触れる
有明 「っ……」
有明、少し焦って十六夜を見る
十六夜、そのまま指先で首筋をなぞる
十六夜「暗いから分からんかもしれんが」
有明 「え?」
十六夜が触れた場所にキスマークがついており、それをなぞると跡が消える
十六夜「もうよい」
有明 「?」
十六夜、不思議そうに見ている有明に突然軽くキスをする
有明 「十六夜……様……」
十六夜「行け」
有明 「……」
十六夜、踵を返して歩いていく
その後姿を見ている有明
***
・那智の部屋(夜)
輝夜 「はぁ……せっかくいいところだったというのに」
輝夜、ベッドの上で拗ねている
那智、呆れて額を押さえている
有明、床に座っている
有明 「申し訳ございません……」
那智 「有明さんは何も悪くないだろ! お前が謝れ!」
輝夜 「何故だ。報告ぐらいなら別に会いに来なくても済む話だ」
那智 「お前なぁ……」
口喧嘩をする那智と輝夜を見て微笑む有明
輝夜 「で? 何だ。さっさと報告をして帰れ」
那智 「輝夜」
有明 「ふふふ。では、三日月様から御伝達ですが……」
***
・中庭廊下(朝)
有明M「お二人を見ているととても羨ましく思います。私もあの星に生まれていればあんな風に……」
昴 「有明さん!」
昴が走ってくる
有明 「昴……どうしたのですか? そんなに慌てて……」
昴 「探していたんですよ! 十六夜様が大広間でお待ちです!」
有明 「十六夜様が?」
***
・大広間(朝)
十六夜、三日月、不知火、明星、座っている
そこへ有明と昴が来る
有明 「遅れて申し訳ございません」
有明、頭を下げるが不思議そうに十六夜を見る
十六夜「よい。すぐ済む話だ」
不知火「……」
不知火、心配そうに有明を見る
有明 「何でございましょう……?」
十六夜「有明」
有明 「はい」
十六夜「お前奥の離れに移れ」
有明 「え……?」
明星 「奥の離れって……」
明星、思わず出た言葉に不味いという表情をする
昴 「……」
有明 「ど、どういうことですか……」
有明、唖然としながらも尋ねる
十六夜「言ったとおりだ。今日からあっちへ移れ。仕事ももうせんでよい」
有明 「そんな……!」
十六夜「後任の統括には不知火。お前を任命する」
不知火「十六夜様」
不知火、意を決して発言する
十六夜「何だ」
不知火「奥の離れとは側室部屋のことでございましょうか?」
十六夜「あぁそうだ」
不知火「それでは有明様をご側室にと……?」
十六夜「それ以外に何がある」
十六夜、表情を変えない
有明 「……」
有明、悲しげに十六夜を見る
三日月「……」
三日月、有明の表情を見る
不知火「畏れながら申し上げます、統括に任命されたことは大変喜ばしいことですが、私はまだ有明様に教わっていないことが沢山ございます。この城の者を纏めるにはまだ力不足かと」
十六夜「……」
冷たい目で不知火を見ている十六夜
不知火「それに有明様がご側室となると」
三日月「不知火」
三日月、口を挟む
三日月「もうよい」
不知火「しかし!」
三日月「十六夜」
三日月、十六夜を見る
十六夜「何だ」
三日月「不知火は有明の弟子であるがそれ以前に私の御付だ。統括となると奥へは中々来れぬ。それはどうするのだ」
十六夜「昴を連れて行け」
昴 「え……?」
三日月、ため息を吐く
十六夜「昴、次の給仕長はお前が任命しろ」
昴 「かしこまり……」
三日月「いい加減にしろ」
三日月、昴の言葉を遮る
三日月「そもそもこの様な話、輝夜を連れてこないでどうするのだ。あれは今やこの城の主、お前はただの隠居だ」
十六夜「……」
十六夜、三日月を睨みつける
三日月「有明は統括以前にあれの御付。輝夜の許可なくしてそんなもの通ると思うな」
十六夜「こいつは元は私の御付だ。どうしようと私の勝手だ。いいか!」
十六夜、怒鳴る
十六夜「有明、即刻奥へ参れ」
有明 「……」
十六夜「私の命令が聞けぬというのか?」
十六夜、有明を上を向かせる
有明 「……かしこまりました……」
十六夜「このことには誰にも文句は言わせぬ。分かったな」
全員押し黙る
***
・給仕室
有明 「いいですか? この一月は何かと入用だとは思いますが、あなた達なら大丈夫。同年代同士、助け合いなさい」
有明、明星と昴と不知火に話している
しかし三人とも気の進まない顔をしている
有明 「不知火」
不知火「はい」
有明 「私から教えることはもうありません」
有明、微笑んでいる
不知火「そんなことはありません……」
有明 「あなたはもう一人前です。それに私よりも三日月様から色々と教わっているでしょう?」
不知火「……」
有明 「統括としては中々上手くいかないこともあると思いますが、それは皆同じです。私も夕月様の跡を継いだ当初は色々とありました。何かあれば夕月様を尋ねなさい」
不知火「え……」
不知火、有明を見るが有明、昴を見る
有明 「昴」
昴 「はい」
有明 「突然のことで戸惑っていると思いますが、あなたは奥にも慣れ親しんでいるでしょう? 三日月様もあなたをとても信頼しております。あなたなら大丈夫ですよ」
昴 「ありがとうございます……」
有明 「後任はもう決まっているのですか?」
昴 「はい……待宵《まつよい》がよろしいかと……」
有明 「そうですね。ではよく話し合いなさい」
昴 「……」
昴、戸惑いの表情を隠せない
その表情を見て悲しげに微笑む有明
有明 「明星」
明星 「……はい」
明星、ふて腐れている
有明 「私が居ないからといって今までと同じ様ではいけませんよ?」
有明、笑う
明星 「そんなこと……」
有明 「昴が奥へ行くとなると寂しくなると思いますが、離れ離れになるわけではないのですから」
明星 「え?」
明星、驚く
有明 「ね。大丈夫」
明星 「別にそういうことじゃ……」
有明、微笑む
有明 「それぞれ思い悩むこともあると思いますがあなた達ももう大人なのですからね。輝夜様を支える身と心得それぞれ頑張りなさい」
不知火「はい……」
昴 「はい……」
明星 「はい……」
沈んでいる三人を見て悲しげに微笑む有明
有明 「では私は他の場所へ行かねばなりません。あなた達もやらなければいけないことが沢山あるでしょう。それでは」
有明、部屋を出て行こうとする
明星 「有明!」
明星、思わず叫ぶ
有明 「なんですか?」
明星 「あの……その……」
有明 「?」
明星 「嫌なんだったら─」
昴 「明星」
明星の言葉を遮る昴
明星 「昴……」
昴 「……」
有明、その姿を見て微笑む
有明 「そうだ。不知火」
不知火「はい」
有明 「輝夜様のこと、頼みますよ」
不知火「……はい」
有明 「では」
有明、去っていく
その姿を見てしばらく黙っている三人
***
・有明の部屋(夕方)
部屋の真ん中に座り、ただぼーっとしている有明
有明M「十六夜様のお傍に居られるだけで幸せだと感じていたのに、どうしてこうなった今、こんなにも悲しく思うのでしょう。側室となり、今までの行為が正当化され、仕事を無くし、私はただ十六夜様のことを思うだけの日々を送る」
有明 「……」
窓から差し込む夕日を眺める
有明M「それがどうしてこんなにも悲しいのでしょう」
***
・奥へ続く渡り廊下(夜)
十六夜が歩く後ろを歩いている有明
有明、左側に見える地球を見る
有明 「十六夜様」
十六夜「なんだ」
十六夜、振り向かずに歩いている
有明 「輝夜様に一言ご報告させていただけませんか」
十六夜「駄目だ。話は私から通す」
有明 「しかし……」
十六夜「お前は自分の立場が分かっていないのか」
十六夜、振り返る
有明 「え……?」
二人、歩みを止める
十六夜「お前は奥に入った時点で私の側室となる。それがどういう意味かまだわからないのか」
有明 「いえ……」
十六夜「ならばもう輝夜のことは忘れろ」
有明 「……」
有明、俯く
十六夜「っ!」
十六夜、その反応に有明の顎を持ち上を向かせる
有明 「っ……」
十六夜「そんなにもあいつのことが好きか」
有明 「それは」
十六夜「ではどうしてあの時あいつのまじないを解いたりしたのだ。どうしてあいつをあの星へやった」
有明 「……輝夜様の幸せを望んでいるからです」
有明、十六夜をしっかりと見つめる
十六夜「幸せ?」
有明 「輝夜様の笑顔がこれ以上見られなくなるのが悲しいからです」
十六夜「……」
有明 「私は」
十六夜「っ……」
十六夜、有明の腕を掴んで進んでいく
有明 「十六夜様っ!」
十六夜「残念だったな。すべてお前が悪い」
有明 「え?」
十六夜「いいか」
十六夜、側室部屋の扉を開けると有明を中に突き飛ばす
中に倒れる有明
有明 「っ……十六夜様」
十六夜「二度と輝夜に会うことは無いと思え」
有明 「……」
有明、目を見張る
十六夜「お前が輝夜を愛さなければこうなることは無かった」
十六夜、いい捨てると同時に扉を閉める
有明 「十六夜様っ!」
***
・側室部屋(夜)
有明 「十六夜様っ!」
有明、扉に縋りつく
しかし足音は去って行ってしまう
有明 「私は……私は」
有明、その場で泣き崩れる
有明M「あなたを愛しているから。だから──」
***
・奥へ続く渡り廊下(夜)
十六夜「おい! 誰か!」
十六夜の声に御付Aが現れる
御付A「はい」
十六夜「爺を呼べ」
御付A「夕月様でございますか……?」
十六夜「そうだ。有明の部屋に結界を張らせろ」
御付A「かしこまりました」
***
・櫓(夜)
不知火「こんな所にいたのですか。探したんですよ」
櫓の入り口から顔を出す不知火
中には明星と昴がいる
明星 「来たか。入れ入れ、待ってたんだ」
不知火「いつもの場所だなんて言われて誰がわかりますか……」
呆れながら中に入り座る不知火
昴 「明星、そんな言い方したんですか……」
明星 「だって分かるだろ?」
不知火「分かりませんよ。いつの話をしているんです……」
明星 「まぁいい。とりあえず作戦会議だ」
不知火「作戦会議?」
昴 「……」
明星 「お前だって今回のことには不満があるだろ?」
不知火「……そうですが」
明星 「有明だって好きであんなところに行くわけ無いんだよ……」
明星、悲しげに俯く
不知火「……」
昴 「それにしても今まで一人も入れなかった側室を何故今更……。しかも有明さんを」
不知火「それは……」
明星 「何にしてももう一度有明と話がしたいんだよ」
不知火「え?」
明星 「お前だったらどうにかできんだろ?」
不知火「……」
不知火、ため息を吐き額に触れる
不知火「それで私を呼んだんですか。しかし私でもそれは難しいと思います」
明星 「どうして」
不知火「あなたなら分かるでしょう? そう簡単にあの場所へは入れませんよ。それに今は十六夜様も気を張っていらっしゃる」
明星 「有明が言ってたじゃねぇか!」
不知火「え?」
明星 「助け合えって!!」
不知火、目が点になる
明星 「今がその時だろ!」
不知火「……」
昴 「不知火。私からもお願いしますよ」
不知火「昴まで……」
昴 「何か思っていることがあると思うんです。いつもの有明さんではなかった……」
不知火「……そうですね」
明星 「じゃあ!」
不知火「どうにかなった時、私たちは追放ですよ。それでもいいんですか」
不知火、真剣な目をする
明星 「あぁ!」
昴 「分かっています」
不知火「では作戦会議をしましょうか」
不知火、ふっと笑う
***
・側室部屋(夜)
扉の前にいる有明
足音が近づいてくる
有明 「十六夜様っ!」
扉に縋る有明
夕月 『有明……』
有明 「夕月様ですか……?」
夕月 『そうだ』
有明 「夕月様がどうしてここへ……」
夕月 『有明……許してくれ……』
有明 「え? どういうことです?」
夕月 『私もこの城にお使えする身。逆らえないことなのだ……』
有明 「夕月様っ! 何を!」
***
・側室部屋前(夜)
夕月、部屋に手を翳す
夕月 「どうしようもできないのだ……」
夕月、そっと息を吹きかけると緑色の粒子が部屋全体を包み込む
***
・側室部屋(夜)
有明 「夕月様っ!!」
有明、扉に触れようとすると結界に触れそこが波打つ
有明 「そんな……! 夕月様! この様なこと!」
***
・側室部屋前(夜)
夕月 「許せ……有明……」
夕月、去っていく
***
・側室部屋(夜)
有明 「そんな……どうしてこんな……」
有明、その場に座り込み涙を流す
有明 「私は……」
輝夜 『私はもう耐えられない……』
有明 『輝夜様……』
輝夜 『どうして私はこんな場所に生まれてきたのだ』
有明 「っ……」
有明、窓を見る
輝夜 『もしもあの星に行けたのならば……』
有明、手を見る
輝夜の手から青い火花が散ったことを思い出す
有明 「……」
有明、そっと立ち上がると窓の方へ行く
窓に触れるが結界で触れることは出来ない
有明 『あの星へ行く際に記憶の欠片をばら撒かれた様です』
有明 「これ程強力な結界ならば……どうなってしまうのか……」
有明、呟くが目を閉じ手を窓に翳す
有明M「このままここにいて私は幸せを感じていられるのか。すべてを捨て、十六夜様だけを思う日々。しかしそれは永久に叶わぬ想い。この部屋に入った時点でもうそれは決まってしまったこと。あの方が私を愛してくれるはずも無く、そして私は人形のような日々を過ごすのでしょう」
壁の結界が波打つ
有明M「私の裏切りは、今や十六夜様や三日月様のみにならず、この城全体の者へのものとなっている。不知火。明星。昴。愚かな私を慕ってくれたこと、感謝します。しかし私はもう耐えられません……」
有明の体が青い炎に包まれる
有明M「十六夜様。どうかお許しください。輝夜様を愛してしまったこと。そしてあなたを思う気持ちを。どうか……」
有明、炎に包まれたまま壁をすり抜け消える
有明M「心から、愛しておりました」
***
・側室部屋前(夜中)
不知火、明星、昴がこそこそと廊下を渡ってくる
不知火、部屋を見て結界があることに気がつく
不知火「これは……夕月様の……」
明星 「結界……か?」
昴 「ここまでするとは……」
不知火、扉に手を翳す
すると扉の一部分だけ結界が破れる
不知火「私に出来るのはこのくらいです……」
明星 「十分だ。おい! 有明!」
昴 「有明さん!」
しかし中から返事は無い
不知火「おかしいですね……。有明様! 返事をなさってください! 私たちはあなたとお話をしに来ました!」
返事は無い
明星 「どういうことだよ……。まさか!」
昴 「変なことは考えないでください」
不知火「っ!」
不知火、突然後ろを振り返る
明星 「?」
昴 「っ! ……三日月様……」
三日月が一人で廊下に立っている
三日月「何をしておる」
三日月、笑っている
不知火「申し訳ございません」
不知火、跪こうとする
三日月「よいよい。どこに行ったかと思えば。お前達は相変わらず仲がよいな。輝夜も入れてやれ」
三日月、笑いながら近づいてくると扉を見て笑う
明星 「申し訳ございません。俺達……」
三日月「よいと言っておる。これは夕月だな」
結界に触れる三日月
不知火「その……有明様の返事が無いんです……」
三日月「そうか。まぁそうだろうと思ったのでな。来てみたのだが。十六夜も成長しない奴だ」
三日月、さっと空を切ると結界が消える
昴 「結界が……!」
三日月「ふふふ。これくらい容易いことよ。私を誰だと思っている?」
得意げに笑う三日月
昴 「失礼を……」
三日月「しかしこれは中からでは解けんぞ。いくら有明と言っても」
三日月、言いながら扉を開ける
不知火「いない……!」
三日月「ふっ。あいつも無理しよって」
三日月、誰もいない部屋に入っていく
***
・側室部屋(夜中)
窓の辺りが黒く焦げている
それに触れる三日月
不知火「三日月様!」
三日月「大丈夫だ」
明星 「これは……」
昴 「どういうことです……?」
三日月「逃げたな」
不知火「そんなっ!」
三日月、着物を翻し歩き出す
三日月「不知火、あの馬鹿を叩き起こせ」
不知火「え?」
三日月「昴、お前は城中の者を大広間に集めろ」
昴 「はい……」
三日月「明星、お前は大広間に兵を集めろ」
明星 「兵をですか……?」
三日月「十六夜が何をしでかすか分からんからな。その時は全力で阻止しろ。城が無くなるぞ」
不知火「三日月様! どういうことで……」
三日月「有明の命は無いかもしれん」
不知火「そんな……!」
不知火、明星、昴、呆然とする
三日月「何をしている。早くしろ」
不知火「はい!」
明星 「はい!」
昴 「はい!」
***
・大広間(夜中)
城のすべての者が集まっている
十六夜「どういうことだ……」
十六夜、いつもと声色が変わらないが動揺している
三日月「何度も言わせるな。有明は消えた。お前が余計なことをしなければよかったものを。あのような結界を張らせた故にあいつは命を落としたかもしれん」
十六夜「……」
十六夜、ふっと三日月の後ろにいるすべての者を見る
十六夜「いいか……」
全員、構える
すると十六夜の体が赤い炎に包まれる
十六夜「なんとしてでもあいつを探し出せ! それまで一人たりとも眠ることは許さん!」
叫び声とともに炎が天井高く舞い上がる
それを見ると同時に全員大広間を出て行く
三日月「どうしてあのようなことしか出来んのだお前は」
誰もいなくなったのを確認して話だす三日月
十六夜「貴様には分からん!! 私のこの気持ちなど……」
十六夜、語気を荒げて頭を抱える
三日月「昔からそうだ。少しは素直になればよかろう」
三日月、呆れる
十六夜「私は悪くない! 悪いのは……あいつだ……どうして輝夜を……」
三日月「馬鹿としかいい様が無いな。お前のせいで輝夜も有明も辛い想いをしていたのだ。いい機会だ。存分に悩めばいい。そして苦しめ」
十六夜「……」
三日月「有明が死んでいたら私はお前を一生恨んでやる。それでも罪は償えんぞ」
三日月、言い捨て去っていく
十六夜「……」
十六夜、その場に座り込む
十六夜「あいつが……死んだら……」
***
・那智の部屋(夜中)
眠っている那智と輝夜
輝夜、目を覚ます
輝夜 「……那智」
輝夜、那智の肩を揺さぶり起こす
那智 「ん……ぅ……んー? ……何……」
目を覚ます那智
輝夜 「何か来た……」
輝夜、窓の外を見る
起き上がる那智
那智 「はぁ~? 何かって何……?」
輝夜 「分からんが何か気配を感じる……」
那智 「や、やめろよ怖いこと言うの……」
びびる那智
輝夜 「違う。ここではない……」
輝夜、ベッドから下りると部屋を出て行く
那智 「あ! おい! どこ行くんだよ!!」
追いかける那智
***
・竹やぶ(夜中)
那智 「もうお前なんなの……こんなところまで……」
ジャージ姿で怒っている那智
輝夜、あの開けた場所に出る
輝夜 「……」
竹の横を見て立ち止まる輝夜
那智 「なんだよ? 何が……」
竹の横に膝丈ほども子供がいる
那智 「ああああああ! あの時の! ってぇ! お前いるのに……」
輝夜 「有明っ!!」
輝夜、走って傍に行く
那智 「えぇ?! 有明さん?!」
***
・竹やぶ(夜中)
有明を抱き上げる輝夜
輝夜 「そなたどうしてこんな姿に……」
那智 「ホントに有明さんなのか……?」
輝夜 「あぁ。間違いない」
有明 「ふふふっ」
有明、楽しそうに笑っている
那智 「あの時と同じだ……」
***
・那智の部屋(夜中)
ベッドにちょこんと座っている有明
那智 「やっぱり有明さんだな!」
笑っている那智
輝夜 「何故だ」
那智 「だって礼儀正しいし。お前がこの姿の時はベッドで跳ねまくってたもん」
輝夜 「むっ」
拗ねる輝夜
那智 「んでもどうしてこんな姿に? いつもは普通に来るのに」
輝夜 「何かあったのか?」
輝夜、那智、有明を見るが笑うしかしない有明
那智 「喋れないんだよな……どうする?」
輝夜 「とりあえず元に戻るのを待つしかない」
那智 「そっか。まぁ朝んなったらなってんだろ」
輝夜 「そうだといいが」
***
・那智の部屋(夜中)
那智、ベッドとその下に敷いてある布団を見る
那智 「やっぱりお前下で寝ろよ」
輝夜 「何故だ?!」
那智 「だってこんな小さいのに一人で寝かせるのは可哀想だろ?」
輝夜 「しかしこいつは朝になれば元に戻るのかもしれないのだぞ!」
那智 「じゃあお前が一緒に寝てあげるの?」
輝夜 「え……? いや、それは嫌だ」
那智 「じゃあやっぱり輝夜が一人で寝ろよ!」
輝夜 「だからどうしてそうなるのだ!」
***
・那智の部屋(夜中)
輝夜 「どうしてこうなる」
ブツブツ言いながら寝ている輝夜
有明、那智、輝夜の順で狭そうにベッドに寝ている
那智 「うるさいぞ」
輝夜 「那智、そなたはこっちを向いて寝ろ」
輝夜、那智を抱きしめる
那智 「あーもう! なんでだよ!」
輝夜 「そなたいつも私を抱いて寝るではないか!」
那智 「だ、だからなんだよ!!」
照れる那智
輝夜 「朝起きて有明を抱きしめているかもしれないだろう!」
那智 「そんなわけあるか! いいから寝ろ! おやすみ!」
輝夜 「いいか! 絶対にそいつを抱くな!」
那智 「うるさい! 寝ろ!」
***
・那智の部屋(朝)
輝夜 「……」
輝夜、わなわなしている
那智 「ん……」
有明 「……スー……スー……」
那智、元の姿に戻った有明を抱きしめている
有明も那智を抱きしめている
輝夜 「貴様ら早く起きろ!!」
輝夜が怒鳴ると目を覚ます二人
那智 「はっ! まさか!」
有明 「え……? あれ……?」
輝夜 「まさかでもあれでもない! 早く離れろ!」
輝夜、那智を引っぺがして抱きしめる
那智 「うわっ!」
有明 「か、輝夜様……?」
有明、状況が分からずに目を丸くしている
輝夜 「有明……そなたどうしてあの様な姿になっておった」
輝夜、怒っている
有明 「私……どうして……」
有明、自分の手を見る
輝夜 「?」
有明 「どうしてここに……?」
不思議そうに輝夜を見る
輝夜 「まさか貴様記憶が無いのか……?」
那智 「輝夜と同じ……」
有明 「記憶……? 記憶なら……! 私今日朝の鐘の当番なのに!」
有明、頭を抱える
輝夜 「はぁ?」
那智 「鐘……?」
有明 「申し訳ございません輝夜様! 私月へ戻らねば!」
有明、窓に手をかける
輝夜、有明の腕を掴む
輝夜 「待て。記憶はあるのだな?」
輝夜、真剣な顔で有明を見る
有明 「ですから……私はご報告をしにこちらへやってきたのでは……?」
輝夜 「……」
***
・那智の部屋(朝)
ベッドに座って話している輝夜と那智
床に正座をしている有明
有明 「私が……そのようなことに……」
那智 「じゃあ昨日のことは覚えてないんだ……」
輝夜 「私は覚えていたがな」
有明 「……しかし私はどうしてそのような姿になったのでしょうか?」
輝夜 「私が知るか。あっちで何かあったのだろう」
有明 「……」
那智 「でも何かあったんなら誰かがこっちに来るんじゃねぇの?」
輝夜 「いや、こちらへ来れるのは限られている。余程の力がないと来れはせん。もしかすると本当に何かあったのかもしれんな」
有明 「しかし私はいつものように仕事をこなしていたようにしか……」
那智 「なぁ、輝夜がこっちに来たときさ、無理な旅をしたんだって言ってたよな? いつもの行き来とは違う方法だったってこと?」
輝夜 「あぁ。私は父上に閉じ込め……! まさか!」
有明 「?」
輝夜、有明の肩を掴む
輝夜 「そなた父上に何かされたのか」
有明 「父上……?」
輝夜 「逃げ出してきたのではないのか」
有明 「輝夜様。私の父は随分昔に天災で亡くなっておりますが……?」
輝夜 「そうではない! 私の父だ! 十六夜だ!」
有明 「十六夜……?」
有明、小首を傾げる
輝夜 「お前……父上を忘れているのか……?」
有明 「お父上……?」
***
・中庭廊下
輝夜、一人で歩いてくる
昴 「輝夜?!」
前から来た昴がそれを見つける
輝夜 「いいところにおった」
昴 「こっちも連絡取ろうと必死になっていたんですよ! 有明さんが!」
輝夜 「私もそのことで帰って来たのだ」
昴 「聞いたんですか?!」
輝夜 「あぁ。父上はどこだ」
***
・大広間
輝夜 「父上」
輝夜、大広間に入ってくる
十六夜「……」
十六夜、輝夜に視線を向ける酷く冷たい目をしている
輝夜、それに拳を握り締める
輝夜 「有明は私のところにいます」
十六夜「何」
輝夜 「しかし何故私に一言話をしてくれなかったのですか。こんな勝手なことを」
十六夜「勝手なのはお前だ。何故有明を連れて来ない」
輝夜 「……あなたはどうしていつもこんな風にしか出来ないのですか……」
十六夜「どういう意味だ」
輝夜 「私のことならまだしも、有明はあなたのものではありません!」
十六夜「っ! 何を言うか! あれは元はといえば私のものだ! 貴様のものではないのだぞ!」
輝夜 「そうです。私のものでもありません。有明は一人の人間です。しかしあなたはあいつを閉じ込めてしまおうとしていた。私の時と同じではないですか! 有明はそれを了承していたのですか?!」
十六夜「了承だと……?」
輝夜 「していないのでしょう? だから有明は逃げたのではないですか! 私の時と同じように!」
十六夜「どうして私が了承を得ないといけないのだ」
輝夜 「あなたは……」
十六夜「ものではないだと? そんなこと分かっている! しかしあいつは私のものなのだ! ここに来たときからずっとな! 早くここへ連れて来い! 今すぐにだ!」
輝夜 「あなたがそんな風だからこんなことになってしまうんです!」
十六夜「何?」
輝夜 「有明はあなたの記憶をなくしています」
十六夜、目を見張る
輝夜 「あなただけを忘れてしまっているのですよ……」
十六夜「何だと……」
輝夜 「不知火」
不知火「はい」
輝夜 「連れて来い」
不知火「かしこまりました」
***
・大広間
十六夜「本当に私が分からないのか」
十六夜の前に立っている有明、悲しげな表情をする
有明 「申し訳ございません……」
十六夜「……」
輝夜 「これがあなたの報いです」
十六夜「っ……」
三日月「言うようになったな輝夜」
三日月、笑いながら部屋に入ってくる
輝夜 「母上……」
三日月「輝夜の言うとおりだ。有明」
有明 「はい」
三日月「よく無事でいてくれた。心配しておったのだぞ」
有明 「申し訳ございませんでした」
有明、頭を下げる
三日月「そなたが謝ることではない。さて、十六夜。どうするつもりだ。何も覚えていないとなるとかえって好都合だな。このまままたあの部屋へ閉じ込めるか」
三日月、笑いながら言う
十六夜「……」
有明 「あの……」
十六夜「もうよい」
十六夜、有明を見る
十六夜「三日月の言うとおりだな。もう何も覚えておらんのなら意味も無い」
有明 「……」
十六夜、有明の頬に触れる
十六夜「よく無事でいてくれた」
十六夜、言うとそのまま去っていく
輝夜 「父上……」
三日月「よい、声をかけてやるな」
輝夜 「母上……しかし」
三日月「……、不知火」
不知火「はい」
三日月「皆を休ませろ。騒動は終わった」
***
・櫓(夜)
昴 「戻らなくていいのですか?」
櫓から地球を眺めている輝夜に声をかける昴
昴の他に明星、不知火もいる
輝夜 「戻りたいがこの様な状況では戻るのにも気が引ける」
輝夜、言いながら座る
明星 「へぇ。お前もちったぁ皇帝らしいこと言うじゃねぇか」
笑う明星
輝夜 「皇帝だからではない」
不知火「ではどうして?」
輝夜 「父上があのような顔をしたのは初めて見た」
輝夜、壁に寄りかかる
昴 「……」
不知火「それは私もです」
明星 「そんなの皆同じだ」
輝夜、ふっと笑う
輝夜 「私が居てもどうこうなる問題ではないだろう。私に優しくされたところで父上もよい気分にはならん。しかしあの様になるとはな。私もどうすればいいのか分からんのだ……」
輝夜の声に黙る三人
明星 「お。有明だ」
明星、城内を見下ろしている
三人も見る
有明、一人で歩いている
昴 「こうなったのも仕方が無い気もしますが……」
明星 「あんなことされちゃーなぁ。でも生きてて良かったじゃねぇか。それに記憶が無くなったって言っても一時的なもんだろ? 少しはいい薬になるだろ」
不知火「明星、輝夜を前にしてよくそんなことが言えますね……」
呆れる不知火
明星 「あ。そうだな……すまん」
輝夜 「よい。私もそうは思っておる。しかし爺の結界を破って父上の記憶だけで済むとは……。やはりあいつは化け物だな……」
輝夜、言いながら座る
それを見て三人も座りなおす
不知火「三日月様も仰っていました」
昴 「あの……」
輝夜 「ん? なんだ」
昴 「この度の異動はどうなるのです? やはりそのまま続行されるのですか?」
不知火「……」
不安そうな顔をする三人
輝夜 「心配せんでもよい。取り止めだ。こうも早く動かされてはかなわんわ。私でさえこの歳で皇帝になどなるつもりは無かったというのに」
昴 「そうですか。それは安心しました」
不知火「やはり輝夜と先に連絡を取るべきでしたね……」
明星 「よかった……」
不知火「では前任のままでよろしいのですね?」
輝夜 「あぁ。そなたは母上の傍にいろ。母上もまだそなたを手放す気はあるまい」
不知火、嬉しそうに笑う
昴 「では私もまだ奥に行かなくていいのですね?」
輝夜 「あぁ」
昴 「良かった。ねぇ明星?」
明星 「え?! あ、あぁ……そうだな……」
戸惑う明星
輝夜 「しかし有明のことをどうにかした方が良いかもしれんな……」
昴 「え? 統括のままではないのですか?」
輝夜 「いや、それはそれでよいのだが。父上の御付をもう一人……」
有明 「こんなところにいらっしゃったのですか!!」
突然有明が顔を出す
明星 「うわっ!」
昴 「有明さん!」
不知火「あ! あのこれは!」
輝夜 「……」
有明 「あなた達はまったく……幼い頃と何も変わっていませんね……」
呆れる有明
輝夜 「そなたも変わっておらんではないか」
笑う輝夜
有明 「あ……そうですね」
笑う有明を見て全員笑う
輝夜 「どうした。勤務はもう終わっているはずだが? それともそれでもここでは遊ぶなと?」
有明 「いえ、そうではありません。少し輝夜様とお話がしたいと思いまして。でも楽しんでいらっしゃるようですからまた明日にします」
有明、引っ込もうとする
輝夜 「待て。私も話をしようと思っていた。行こう」
輝夜、立ち上がる
***
・縁側(夜)
輝夜、有明、座っている
空には地球が輝いている
輝夜 「なんだ。話とは」
有明 「……輝夜様から仰ってください」
輝夜 「そうか? ……記憶の無い今言っても仕方が無いかもしれんが、今回のことはすまなかった」
有明 「え? いや、あの、やめてください! 私は……」
輝夜 「いや、私が城にいればこのようなことにはならなかっただろう。それにそなたには要らぬ苦労をかけていた」
有明 「輝夜様!」
有明、謝る輝夜に困る
輝夜 「今までの体制もおかしかったのだ。そなたは統括だけではなく私にも付いている。それに元は父上の御付だ。いくらそなたの能力が高いといっても三役もこなす必要は無かったはずだ」
有明 「……」
輝夜 「こうなってしまった以上、そのことについてもきちんと立て直す必要がある。なぁ有明」
有明 「はい」
輝夜 「そなた私の正式な御付となれ」
有明 「え……?」
輝夜 「統括を辞めろとは言わん。こちらとしても今辞められるとかなわんからな。しかし父上に付くのは他の者に任せるべきだ」
有明 「……」
有明、俯く
輝夜 「私が皇帝となった今、そなたの力が必要だ。しかし父上にはもう必要ではないだろう」
有明 「しかし……」
輝夜 「まぁあの父上に耐えられるのはそなたくらいしかおらんのかもしれんが」
輝夜、少し笑う
輝夜 「無理にとは言わん。そなたの望む通りにしよう。これは命令では無いからな」
輝夜、微笑んで有明を見る
有明 「……少し……考えさせてください……」
輝夜 「あぁ、急がなくても良い。父上には私が話を通す。そなたは何も気にしなくても良い。今はゆっくり休むといい。城のことも気にするな。不知火や昴や明星が何とかしてくれるそうだ。私もしばらくはこちらにいる」
有明 「しかし那智様がお寂しく思われるのでは……?」
輝夜 「心配するな。あいつなら分かってくれる」
笑う輝夜
有明 「そうですか……」
輝夜 「それで? そなたの話とはなんだ」
有明 「はい……。その、十六夜様のことなのですが……」
輝夜 「あぁ。記憶はまだ少しも戻らんのか?」
有明 「はい……」
輝夜 「そうか。まぁそのことも気にせんでよい。私もそうだったではないか」
有明 「……私はどうしてあの方だけの記憶を無くしてしまったのでしょうか……」
輝夜 「……」
輝夜、有明を見る
有明 「話は不知火から伺いました。しかし私はどうして逃げ出すようなことをしたのか……」
輝夜 「……」
有明 「確かに仕事を奪われ、側室となることは……その……」
輝夜 「よい、気にせず言え」
有明 「……悲しいことです」
輝夜 「あぁ」
有明 「しかし身寄りの無い私をここまで生かしていただいたご恩がこの場所にはあるはずなのに、それなのに私はその恩を仇で返すようなことを……。望まれるのなら従うのが」
輝夜 「やめろ」
有明 「え……?」
輝夜 「そなたは囚われているわけではないのだぞ。命令されればなんでもするように思うな」
有明 「しかし私は」
輝夜 「私はそなたを兄の様に思っていた」
有明 「輝夜様……」
有明、驚き目を見張る
輝夜 「父上の命令であろうと生まれた時から私の傍にいた。まじないを教わったのもそなたからだ」
有明 「それは……」
輝夜 「父上に厳しくされたときに慰めてくれたのもそなただ」
有明 「……」
輝夜 「それは私がこの星の皇子だからしたことか? すべて命令されていたから」
有明 「違います! そんなことはございません! 私は心からあなたを思っていました!」
輝夜 「ふっ。それを聞いて安心した」
輝夜、微笑む
それを見て申し訳なさそうにする有明
有明 「……逃げ出した時のことは覚えていません」
輝夜 「あぁ」
輝夜、地球を見る
有明 「しかし何故か凄く悲しいことだったと感じます」
輝夜 「そうか」
有明 「一番……忘れてはいけないことという気がするんです……」
輝夜 「……」
有明、地球をただ見つめている
***
・十六夜の部屋
輝夜 「父上」
輝夜、有明、部屋に入る
窓辺に座って外を見ている十六夜
十六夜「なんだ」
こちらを見ない
輝夜 「今よろしいですか」
十六夜「あぁ」
十六夜、ただ外を見ている
有明 「……」
輝夜 「有明を私の正式な御付にしたいと思っております」
十六夜「……そうか」
十六夜、有明を見る
有明 「……」
有明、その視線を受けて申し訳なさそうに目線を下げる
十六夜「……」
輝夜 「父上の新たな御付にはご希望がございますか」
十六夜「誰でもよい」
十六夜、また外を見ている
輝夜 「……」
輝夜、十六夜の反応に少し困惑する
輝夜 「では後任が決まり次第ご報告に上がります。それまでに何かございましたら」
十六夜「もういい。下がれ」
輝夜 「父上」
十六夜「適当に誰か呼ぶ。今までもそうであった」
輝夜 「……」
有明 「……輝夜様」
輝夜 「何だ」
有明 「後任が決まるまでは私にお仕事をさせていただけませんか」
輝夜 「しかし……」
有明 「後任が決まるまでは前任の者が責任を持って使えさせていただく。それが本来の形というものです」
有明、真剣に輝夜を見つめる
輝夜 「……」
輝夜、十六夜を見る
十六夜、相変わらず外を見ている
輝夜 「好きにしろ」
呆れる輝夜
***
・奥へ続く渡り廊下沿いの庭
有明、渡り廊下から庭へ降りると庭を一望する
すると右手を差し出し、その先にふっと息を吹きかけると水色の粒子が庭一面に飛ぶ
指を一度鳴らすと庭一面に細い水が飛び交い美しい景色を作る
三日月「見事だ」
奥の方から一人で歩いてくる三日月
三日月の声に水が消える
有明 「三日月様」
三日月「もう終わりか?」
有明 「いえ……見つかれば庭師に叱られます」
有明、笑う
三日月「よいよい。何か見せてみろ」
三日月、笑いながら渡り廊下に座る
有明 「そうですか? では」
有明、微笑むとまた指先をそっと吹き、今度は黄色の粒子を飛ばす
そして指を鳴らすとさっきの水がまた飛び出し、空に虹を架ける
三日月「素晴らしい」
三日月、手を叩く
有明 「光栄です」
三日月「輝夜に暇を貰ったそうだな」
有明 「はい。しかし暇を持て余しているんです」
有明、困った顔をする
三日月「お前は働きすぎなところがある。たまには好きなことをすればいい。どこで何をしてようと文句を言う奴はいないであろう」
笑う三日月
有明 「この城に使えることが私の生きがいですから。働いているという感覚ではないのですよ」
微笑む有明
三日月「遊んでばかりの子供らに爪の垢を煎じて飲ませてやれ」
声に出して笑う三日月
有明 「ふふふっ」
三日月「なぁ有明」
三日月、急に静かな声になる
有明 「はい」
三日月「あの馬鹿を許してやってくれ」
有明 「え……?」
三日月「あいつは無器用なのだ」
三日月、懐かしげに笑う
三日月「私はあいつを生まれた時から知っているが、昔からそうだった。力を持っているくせに自分の気持ちをどう表せばいいのか分からないのだ。そして誰にも助けを求めようともしない。自尊心が邪魔をしているのかもしれんがな。あいつも生まれる前から皇帝になることが決まっていた身だ。そう育てられてきたこともあの無器用さを作った原因かもしれない。しかしやっていいことと悪いことがある」
有明 「……」
三日月「お前は覚えていないから訳も分からぬかもしれんが、今回のことはあいつが確かに悪い。しかしその原因にお前も関わっている」
有明 「……」
三日月「すべてを思い出したとき、それも頭に入れて置いてやってはくれないか」
有明 「はい……」
三日月「あの氷の様な眼を溶かしてやってくれ」
有明 「え……?」
三日月「私にはそれが出来なかった」
三日月、微笑んで立ち上がる
有明 「……」
三日月「先ほどからあいつを捜し歩いていたのだろう?」
有明 「どうして……」
三日月「ふふふ、あいつはどうも逃げ回っているようだ。客間の庭にいるのを見たぞ。行ってやれ」
三日月、着物を翻して奥へ戻っていく
有明 「三日月様!」
三日月「ん?」
有明 「ありがとうございます」
三日月「よいよい」
三日月、笑いながら歩いていく
***
・客間(夕方)
夕日が沈む空を縁側に座って見ている十六夜
客間に有明が入ってくる
有明 「お寒くありませんか?」
その声に驚く十六夜
十六夜「お前……」
有明、十六夜の傍に座る
十六夜「呼んではいないが」
有明 「えぇ。しかし私はまだ十六夜様の御付ですから」
十六夜「……何も覚えていないのだろう」
有明 「……はい」
十六夜「……」
十六夜、庭を見る
十六夜「これでよかったのかもしれんな」
有明 「え……?」
十六夜「私とお前の間にいい思い出などなかった」
有明 「……」
有明、悲しげに十六夜を見る
十六夜「お前には辛い思いばかりをさせていたからな。私の記憶は消えて当然だ」
有明 「私は……」
十六夜「もう思い出さなくていい。その方がお前は幸せだろう」
有明 「私はあなたの記憶が辛いことだとは思いません」
十六夜「……」
十六夜、有明を見る
有明 「いい思い出が無かったとも思いません」
有明、涙を流す
有明 「あなたにとっては、いい思い出ではありませんでしたか……? 忘れてしまってもいいことでしたか?」
十六夜「どうしてお前が涙を流すのだ……何も覚えていないのだろう?」
十六夜、戸惑いを隠せない
有明 「覚えていません。あなたの名前も、私があなたに出会った時のことも。しかしそれを忘れていいことだとは少しも思いません」
十六夜「何故だ……ではどうして私を忘れたりするんだ!!」
十六夜、声を荒げる
十六夜「私はお前のことを忘れたりなど出来ないのに……一度も……出来なかったのに……」
十六夜、額を押さえて俯く
有明 「十六夜……様……」
十六夜「お前が私に祝福の言葉を告げた時も、輝夜に抱かれているのを知ったときも」
有明 「っ……」
十六夜「忘れたくても忘れられなかった。お前は私の視界に入った時から、この心に巣食って離れない……」
有明 「え……」
有明、目を見張る
十六夜「すべてはお前を手に入れるためだ。輝夜を早く成長させ、皇帝にすれば私は自由になれる。そうなれば三日月にも城の者にも気遣うことなくお前は私のところに来てくれるんだと……」
有明 「……」
十六夜『貴様は何度私を裏切れば気が済む』
十六夜『あいつが好きなのか!!』
十六夜『私がどんな思いで……』
十六夜『お前が悪いんだ……』
有明M「あの時の言葉は」
十六夜「しかしお前は私ではなく輝夜の元に……」
有明M「私を恨む言葉ではなく」
十六夜「それでも私はお前を忘れられなかった。心は輝夜の元にあろうと、体だけでも私の物にしたかった。そうするしか出来なかった」
十六夜『お前が輝夜を愛さなければこうなることは無かった』
有明M「あなたは私を──」
有明 「私は輝夜様を愛しておりました」
十六夜「……」
十六夜、有明を見る
有明 「しかしそれはあなたの影をあの人に重ねていたから……」
有明、十六夜を見る
十六夜「どういうことだ……」
有明 「私は叶わない思いをずっとあなたに抱いていたんです。あなたに初めてお会いしたときから」
有明、涙を零す
十六夜「なにを……」
有明 「この庭で初めてあなたを見たときから、心は奪われておりました」
十六夜「……」
目を見張る十六夜
有明 「私はあなたをずっと愛していました」
十六夜「嘘だ」
有明 「十六夜様」
十六夜「お前は何も覚えていないのだろう。何故そのようなこと」
有明 「あなたが思い出させてくれたのです」
十六夜「思い出した?」
有明 「はい」
十六夜「それなら尚更今の言葉は嘘ではないか! 私はお前に酷いことを」
有明 「十六夜様!」
有明、十六夜を抱きしめる
有明 「私はあなたに抱かれている間、自分は幸せだと感じていたのです」
十六夜「……」
十六夜、驚き言葉を無くしている
有明 「あなたを裏切ったことへの償いだと感じながらも、あなたの指に触れられているだけで幸せでした」
十六夜「そんな……」
有明 「叶わぬ想いを消すことができなかったから」
十六夜「これはお前の復讐か……?」
有明 「何を言いますか」
十六夜「そうでなければ信じられな──」
有明、言葉を遮りキスをする
有明 「お願いです。信じてください。そして過去の過ちをどうかお許しください」
十六夜「……」
有明 「お許しになられないのでしたら、どうかその手で私を殺してください」
十六夜「何……」
有明、微笑む
有明 「あなたが私を想っていてくれたこと、それだけで十分です。想い残すこともございません。あなたに命を奪われるなら本望です。それほど幸せなことはありません」
十六夜「っ!」
十六夜、有明にキスをする
有明 「っ……ん……ぅ……」
十六夜「ん……ふ……んっ……」
有明 「んっ……」
離れると有明を力いっぱい抱きしめる十六夜
十六夜「馬鹿なことを言わないでくれ。お前が死ぬなら私も死ぬ」
有明 「十六夜様……」
十六夜「本当に信じていいのか。このような私をまだ愛してくれるのか」
有明 「えぇ。心から愛しております」
十六夜、有明をその場に押し倒すとキスをする
有明 「んぅ……は……ぅ……んん……」
十六夜「……っ……ん……んぅ……」
有明 「んっ……はぁっ……十六夜……様……」
有明、十六夜を潤んだ瞳で見つめる
有明 「お言葉を……ください…」
十六夜「……」
有明 「……十六夜様……」
不安げに見つめる有明
十六夜「……愛している。何よりも、誰よりも。お前を愛している」
どちらからとも無くキスをする
***
・客間(夜)
有明 「十六夜様っ……お止めくださいっ……」
十六夜、有明のものを咥えている
十六夜「何故だ……ん……んぅ……」
有明 「あっ……いけませんっ……あなたにそのような……ことっ……」
十六夜「良くないのか? ……ふ……ん……んぅ……」
有明 「んっ……あぁっ……ちが……っ……だめ……ですっ……ぁ……」
十六夜「ならよい……っ……ん……は……やらせろ……」
有明 「あぁっ……そんな……んっ……」
十六夜「お前はどこがいいんだ……んぅ……言ってみろ……」
有明 「はっ……あ……そんな……っ……んぁっ……」
十六夜「ここか……?」
有明 「んぁっ! ……やっ……いざよ、い……さまっ……」
十六夜「どうなんだ……んっ……いいのか……? ……ふ……ん……どこがいい……んっ……」
有明 「あっ、あぅ……っ……んっ……ぜんぶ……っぜんぶきもちいい……です……っ……あっ……」
十六夜「ふっ……ん……では全部だな……っ……」
十六夜、笑うと奥まで咥え込む
有明 「あっ、やっ……っ……んぁっ……それ……だめっ……あぁっ……」
十六夜「ん……んん……んぅ……ん……」
有明 「んっ……やっ……いざ、よいさまぁっ……もう……だめです……っ……あっ……がまんっ……できな……あっ……」
十六夜「は……ん……んん……ん……んぅ……っ……」
有明 「くちっ……はなして……あぁっ! ……ほんとに……ぅっ……だめ……ぁ……でちゃうっ……いざよい……さまっ……おねが、いっ……だめっ……あ、あ、あっ……やぁっ……───っ!」
十六夜「んっ……ん……ん……」
十六夜、飲み干すと舐める
有明 「そん……な……私……」
有明、両手で顔を隠す
十六夜、舐め終え有明を見る
十六夜「何故泣くのだ」
十六夜、有明の手を剥がす
有明 「殺され……殺されますっ……」
泣いている有明
十六夜「馬鹿か。私がしたことだ。誰に咎められる」
有明 「しかし……こんなこと……っ……」
十六夜、キスをすると涙を拭う
十六夜「よくなかったのか?」
不安げに見る十六夜
有明 「そんなことありませんっ」
十六夜「ふふっ、ではよい」
十六夜、もう一度キスをする
有明 「んっ……んぅ……は……」
十六夜「っ……ん……ん……ぅ……」
有明 「ふ……ん……ぁっ……」
十六夜、体中にキスをしていく
有明 「んっ……あっ……」
十六夜「お前は愛があればこんなにも可愛くなるんだな……」
有明 「そ、そんなっ……あっ……ん……」
十六夜「過去の過ちを消せればどんなにいいか……」
有明 「っ……んっ……それでは……わたしも……あっ……」
十六夜「お前は私に出会わなければ思い悩むこともなかった……」
有明 「あなたに出会わなければ私はきっと父や母の元におります……」
有明、十六夜に手を伸ばす
有明 「あなたがいたから私はここにいられるんです……私はあなたに生かされているんですよ。だからあなたの思う通りにしてください。私はあなたになら何をされてもいい」
有明、十六夜にキスをする
十六夜「お前は……」
戸惑う十六夜
有明 「愛しています」
十六夜「あぁ、私も愛している」
十六夜、キスをすると入れる
有明 「あっ……んっ……あ、あっ……」
十六夜「有明……っ……」
有明 「あぁっ……あっ……ん……あっ……いざよいさまっ……」
***
・客間(朝)
朝もやに小雨が降っている
青い景色の中、十六夜、目を覚ます
十六夜「っ……あり……あ、け……」
有明、十六夜に馬乗りになり十六夜の首を絞めている
有明 「……」
十六夜「有明……っ……」
十六夜、震える手で有明の頬に手を伸ばす
有明、ただ悲しげに泣いている
その涙が十六夜の頬に落ちる
十六夜「これで……っ……許されるのなら……」
十六夜、微笑む
有明 「あなたを愛しております……」
悲しげに言うと有明の体が消え、十六夜の上には有明の着物だけが残る
十六夜「っ!」
***
・客間(朝)
十六夜「有明っ!!」
十六夜、飛び起きる
十六夜「……」
十六夜、首に触れるが何も感じない
外を見ると朝もやに小雨が降っている
隣を見るが誰もいない
十六夜「有明……どこへ行った……」
十六夜、布団から出ると客間の襖を開ける
***
・廊下(朝)
廊下に出る十六夜
すると向こうから有明が歩いてくる
有明 「十六夜様」
十六夜「有明!」
十六夜、有明を抱きしめる
有明 「ど、どうなさったのですか……?」
十六夜「お前がどこかへ消えたのかと思った……」
有明 「ふふ、私は消えたりなどしませんよ」
十六夜「どこへ行っておった」
有明、十六夜を離す
有明 「まだ寒いですから、中で」
十六夜「……」
***
・客間(朝)
縁側に座っている二人
雨はまだ降っている
朝もやで少し先も白んで見えない
有明 「三日月様にお会いしてきました」
十六夜「三日月に……?」
有明 「はい」
***
・三日月の部屋(朝)(回想)
向かい合って座っている三日月と有明
有明、頭を下げている
有明 「どうか私を死罪になさってください」
三日月「……」
不知火「……」
三日月の傍に居る不知火、驚きを隠せない
三日月、有明を見ながら扇子で口元を隠している
有明 「私は皆様にご迷惑をかけただけではなく、この城に使える身とありながら前皇帝である十六夜様を愛してしまいました。それは許されることの無い大罪。正室である三日月様を裏切る行為。私の死を持って罪を償わせていただきたく参上いたしました」
三日月「面を上げろ」
三日月を見る有明
三日月「死ぬ覚悟は出来ていると?」
有明 「はい」
三日月「……」
不知火「三日月様!」
不知火、黙って有明を見定めている三日月に耐えかねて口を出す
不知火「有明様は」
有明 「不知火。口を挟むな」
不知火「有明様……」
それを見てふっと笑う三日月
三日月「記憶を取り戻したのだな?」
有明 「はい。すべて」
三日月「それで。十六夜はそなたに想いを告げたか」
有明 「……」
三日月「よい。申せ。その言葉次第だ」
有明 「畏れながら愛していると仰って頂きました」
三日月「はっはっはっはっ!」
三日月、声に出して笑う
その表情はとても嬉しそう
不知火「み、三日月様……?」
驚く不知火
三日月「そうか! 言わせたか!」
有明 「三日月様……」
有明も驚いている
三日月「お前達の心の内はとうの昔に知っておった」
有明 「え……?」
三日月「それに有明。私は十六夜を確かに愛している」
有明 「……」
三日月「しかしそれは姉のような気持ちとしてだ」
微笑む三日月
三日月「私たちの結婚は生まれる前から決まっておった。そうなるのが当たり前だとして育てられてきたのだ。愛が無かったとはいわん。しかしそれはもう兄弟のようなものでな。私たちを見ていれば分かるようなことだが?」
有明 「しかし……」
三日月「やはりお前はとんでもない化け物だな」
有明 「え……?」
三日月「どんな力であってもあいつの氷は溶かせなかっただろう。しかしお前にはそれが出来た。私には出来なかったことだ。これであいつも少しは落ち着くであろう。私はお前に礼を言わなくてはならん」
有明 「三日月様……」
三日月「有明。感謝する。そしてこれからもこの城のため、十六夜の為に生きておれ」
三日月、微笑む
有明 「しかし私は!」
三日月「お前を死罪にするならば、私は城下にいる者たちを殺さねばならん」
三日月、ふふんと笑う
有明 「え?」
不知火「……」
不知火、目を伏せる
三日月「そういうことだ」
笑う三日月
***
・客間(朝)
相変わらず雨は降っている
十六夜「貴様どうして死など望むのだ」
十六夜、怒っている
有明 「私は生まれの貧しいただの平民です。そのような私があなたに触れられることだけでも罪なのです」
十六夜「生まれなど関係ない。何故お前はそんなにも自分を謙り、城のことばかりを思う? 私がいいと言っているのだ。何も考えるな。私のことだけを考えていればいい」
十六夜、有明の頬に触れる
有明 「この城にはご恩がございます」
微笑む有明
有明 「ここに来なければ私は生きてはおりませんでした」
十六夜「……」
有明 「しかしこの庭で、あなたが私を見初めてくださったから」
有明、十六夜の手に触れる
十六夜「有明……」
有明 「この命、どうかずっとお傍に置いてください。私は何があろうとあなたの傍を離れません」
十六夜「離しはしない。お前はずっと私のものだ」
どちらからとも無くキスをする
***
・中庭廊下
明星 「見てろよ?」
明星、手を合わせる
それを見ている昴
明星 「んん……」
有明 「明星」
急に声をかける有明
明星 「え? あ! 有明! って! うわっ!」
焦って気を抜くと明星の手には花びらが刃の花が出る
明星 「いってぇ!」
それを投げ出す明星
床に転がってカランと鳴る
昴 「また花ですか……?」
明星 「今日は違うつもりだったんだ!」
有明 「あなた達は本当にもう……」
呆れる有明
明星 「今は休憩中だ!」
有明 「ではどうして驚くんですか? やましい気持ちがあるからでしょう?」
明星 「あ、いや……その……」
焦る明星を見て微笑む有明
有明 「具現もまだまだ練習しないといけませんね」
昴 「ふふふ」
明星 「くそぅ……」
輝夜 「何をしておる」
輝夜が来る
有明 「輝夜様」
明星 「具現の練習……」
昴 「明星が私に花ばかりくれるんですよ」
輝夜 「花? そんなもの簡単ではないか」
輝夜、ふっと指先を吹くと赤い粒子が散らばり花びらが舞う
明星 「おぉ……すげぇ……」
有明 「さすがですね」
微笑む有明、しかし昴が怒る
昴 「誰がこれを片付けると?」
輝夜 「? そなただろう」
昴 「そう易々と言いますね……」
呆れる昴
するとそこへ突然風が吹き込み花びらが庭の空へ舞う
有明 「まぁ」
十六夜「お前達は相変わらず仲が良いな」
十六夜が来る
輝夜 「父上」
有明 「十六夜様。何かご用ですか?」
十六夜「用がなければいけないか?」
有明 「いえそんなことは……」
輝夜 「ふふ、さて。私は那智の元へ戻ります」
輝夜、踵を返す
明星 「お、じゃあ俺も警備に戻らないとな」
昴 「私も」
輝夜、明星、昴、笑っている
有明 「?」
十六夜「小癪な奴らめ」
有明 「どういうことです?」
十六夜「まぁいい。ほら、お前は私の元へおれ」
有明 「ふふふ。はい」
有明、空に浮かぶ地球を見る
有明M「この命が朽ち果てるとき、あの星でまた生まれ変わるのなら。あなたの傍にいて、そしてもう一度あなたを愛したい。その無器用な心を動かせるのが私だけならば、きっとあなたも私を愛してくれると思うから──」
微笑みあう二人
有明M「だから永久に永遠に……」
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