・アルバート、ラボ前
白衣姿でラボから出てくるフラン・アルバート・塩屋《しおや》(27)
そのまま廊下を歩いていくと前から浪木《なみき》(25)が来る
浪木 「フラン、今帰り?」
フラン「よーっす、おう。やっと帰れるの♡」
フランの嬉しそうな表情に笑う浪木
浪木 「お疲れ様。あとはこっちに任せて。あーっと、悠里《ゆうり》は?」
フラン「とっくの昔にご帰宅よー」
浪木 「そっか。うーんっと……どうしようかな……」
浪木、一人で悩む
フラン「なに? また不都合?」
浪木 「え? ううん違うよ。彗《すい》くんが用事あるみたいで……ってこんな立ち話してちゃ悪いね。疲れてるんだからしっかり休んで」
浪木、笑う
フラン「すまんねぇ。なんかあったらすぐ連絡してくれればいいから」
浪木 「なるべくしないようにするよ」
フラン「任せた!」
フラン、手を振って去っていこうとする
浪木 「エリィは?」
フラン「ふふふ」
浪木 「?」
フラン「先に帰ってご飯作ってくれてるの♡」
浪木 「なるほど」
浪木、笑う
浪木 「おやすみなさい」
フラン「おやすみ~」
フラン、笑いながら去っていく
***
・アルバート前
フラン、外に出てくると空を見上げ、太陽を手で遮る
フラン「うおー、久しぶりの太陽! きっついねー……」
フラン、伸びをすると歩いていく
フランM「世の中にアンドロイドが普及し始めてもうだーいぶ時が経った。俺が生まれた時にはもうこのアルバートは出来ていたし、親父が開発した型番は一般的なものとして最大手となっていた。まぁそんなこと、今の俺にとってはどうでもいいんだけど」
門までの道を歩いていると社員が挨拶をしてくる
社員A「フランさんおはようございます」
フラン「おはよー。今日も頑張って」
社員B「やっと完成したらしいですね。お疲れ様です」
フラン「いやー、まだまだこれからよー」
フランM「去年の秋。俺の親父が病気で死んだ。まーだまだ先だと思っていた〝跡継ぎ〟は開発研究修行中の俺には突然のことで。このアンドロイド開発有名ラボ、アルバートの開発研究主任兼代表取締役として、今では働いてるってわけだ」
前から泊《とまり》(20代)が手を振りながら歩いてくる
泊 「フラーン!」
フラン「よう、泊。お前は相変わらず美しいな」
泊 「わーい、ありがとっ」
フラン「誰がこんな美しいアンドロイドを?」
泊、呆れる
泊 「フランでしょ」
フラン「そうだった♡」
泊 「相変わらずだね、ハハッ」
フラン「でー? 何だ? 里帰り? もしくは出戻り?」
泊 「残念っ、僕ご主人と超仲良しなんだー♡」
フラン「それはそれは」
泊 「今日はね、浪木先生に会いに来たんだよ」
フラン「浪木ちゃんに? あー、定期点検?」
泊 「そっ」
フラン、不味いという顔をして頭を掻く
フラン「あいつ今日帰れないんじゃないか……?」
泊 「あれー? 製造とかぶっちゃった?」
フラン「あー、まぁあいつに任せるわ。忙しそうだったらお前優先しろって俺が言ってたって言っとけ」
泊 「えー、でもそれって大丈夫なの?」
フラン「その代わりに俺か悠里がちゃんと穴埋めしますよ」
泊 「あははっ、きっとその分悠里から穴埋め請求がフランに来るね」
フラン「どっちにしろ俺かよ!」
フラン、笑う
フラン「まぁいいわ。可愛い俺の泊のためだからな♡たっぷり見てもらって来い」
泊 「はーい♡じゃあね、おやすみなさい」
フラン「よく分かってんじゃん。おやすみ」
フラン、笑いながら泊と別れる
また歩いていくフラン
フランM「この生活は嫌いじゃない。元々アンドロイドと生活する方が好きだった俺からすりゃ時には激務が苦じゃなくなる。親父は死ぬ前から俺が継いだ暁には経営方針も好きにしろと言ってくれていた。そこで俺は前々から考えていた完全オーダーメイド方式に変えてしまった」
風に吹かれて白衣が棚引く
フランM「その方が生まれた奴らが幸せになれるからだ。時々批判は聞こえてくるが、量産方式なんかよりずっといいと俺は思っている。幸いにもその考えに賛同してくれた悠里と浪木ちゃんが開発に携わってくれてるし、俺は今すげー順風満帆に人生を送っている」
フラン、門の方を見る
フラン「うっ……」
フラン、ため息を吐く
フランM「こいつのことが無ければ……な……」
門の隅に立っている陸《りく》(18)、フランに気が付くと何かを言い出そうとするが、それを遮るようにフランが言う
フラン「またお前か……」
陸、フランの言葉にむっとする
陸 「またってなんだ! またって!」
フラン「まただろ……、この間はいつだった? この開発始まる前か?」
陸 「そ、そうだよ! 俺はずっと待ってたんだぞ! 一体作るのに三ヶ月もかけやがって……」
フラン「馬鹿野郎」
フラン、陸にデコピンをする
陸 「いてっ!」
陸、額を押さえる
フラン、歩いていく
それについていく陸
フラン「三ヶ月もだと? 三ヶ月でと言えバカ」
陸 「でも俺は……!」
フラン「そんなに待ち遠しくされても困るって何度言えば分かるんだ?」
陸 「……」
陸、拗ねるように俯く
フラン「俺は人間に興味無いんだよ。何度も言ってるだろ?」
陸 「そんなの……」
フラン「可笑しいって?」
フラン、鼻で笑う
フラン「このご時世に何言ってんだか。世の中の人口の半分がアンドロイドだぞ? アンドロイド相手に恋愛すんのなんか今では普通なの。俺が生まれる前からずーっと。ということはだ、お前が生まれる前からずーっとな!」
陸 「ちがっ……! 俺が言いたいのはそういうことじゃない!!」
フラン「じゃあどういうことだよ? お前は俺のことが好きなんだろ?」
フラン、当然の様に言う
それに不機嫌になる陸
陸 「~~~っ!!」
フラン「あれ? 気が変わった?」
フラン、笑う
陸 「違うッ!!」
フラン「おぉ……」
陸 「そもそもお前は可笑しい! こんなにかっこよくて可愛い俺が好きだって言ってんのに!」
フラン、呆然とする
陸 「なんで断ってばっかなんだよッ!!」
陸、いい終えて息を荒くする
フラン「……」
フラン、目をぱちくりさせるが、すぐに呆れて歩き出す
陸 「あ、おい!」
フラン「バカには付き合ってられん……」
陸 「誰がバカだって!」
フラン「あーもうお前うるさいよ……俺徹夜続きで死にそうに眠いんだよ……それくらいわかんだろ?」
陸 「分かるけど……」
フラン「じゃあな~」
フラン、手を振る
陸 「待てぇぇッ!」
フランM「このちんちくりんに付きまとわれるようになってからは……」
フラン「……」
フランM「どのくらいだったか……」
***
・寝室
フラン、眠っていたが枕元にある目覚まし時計を掴む
フラン「18時間……我ながらよく寝た……」
フラン、起き上がって伸びをする
***
・廊下
フラン、パジャマ姿で歩いてくると前からエリィ(20)が来る
エリィ「おはようございます、フラン」
フラン「あーおはよう、相変わらず美しいね」
フラン、エリィとハグをする
エリィ「ありがとうございます。そろそろ起きてくるだろうと思って朝食を準備していますが」
フラン「さっすが!」
フラン、エリィを指差すとリビングの方へ歩いていく
フラン「でももう昼食過ぎの夕飯前だな」
フラン、笑いながら歩いていく
リビングの戸口で立ち止まるフラン
フラン「……」
リビングのソファに座っている陸を見つけると踵を返して戻り、キッチンの入り口から小さな声でエリィを呼ぶ
フラン「エリィ、エリィ!」
エリィ、食事の準備をしているがフランを見る
エリィ「なんです?」
フラン「なんであのちんちくりんがここにいるんだ?!」
エリィ「今朝からずーっとですが」
フラン「どうして家に入れた?!」
エリィ「フランのお友達ですので」
エリィ、当然の様に言う
フラン、頭を抱える
フラン「友達だって……?!」
エリィ「えぇ」
エリィ、笑う
フラン「あぁ! もう!」
***
・リビング
フラン、ずかずかとリビングに入ってくる
それに気が付く陸
陸 「あ……」
フラン「帰れ!」
フラン、玄関の方を指差す
陸 「いやだ」
フラン「どうして!」
陸 「やっと起きてきたんだ。俺はずーっと待ってたんだぞ!」
フラン、大げさに身振り手振りをする
フラン「そんなの知るかよぉ……もう! 俺の気持ちのいい目覚めが台無しだ!」
陸、笑う
陸 「はははっ、さすがに18時間も寝れば元気だな」
フラン、呆れてため息を吐く
フラン「せっかくの……久しぶりの休みなのに……」
フラン、もう一つのソファに拗ねて蹲る
陸 「俺も楽しみにしてたんだー」
フラン「うるさいよ……もう……」
エリィが食事を持って来る
エリィ「ここで召し上がられますか?」
フラン、拗ねながら答える
フラン「あぁ、動く気にもなれない……」
エリィ「ではここで」
エリィ、フランの前のテーブルに食事を出して行く
フランの食事を出し終えると陸の前にフレンチトーストを出すエリィ
エリィ「陸さんにはこちらを。おやつの時間は少し過ぎてしまいましたが」
陸、嬉しそうに笑う
陸 「やった!」
フラン、陸のフレンチトーストを見る
フラン「なんで不法侵入者におやつなんか出すんだよ!」
陸 「俺は不法侵入なんかしてないぞ! ちゃんとエリィが上げてくれた!」
フラン、エリィを泣きそうな顔で見る
フラン「エリィ……」
エリィ「お友達ですよ、ね?」
フラン、ため息を吐く
***
・リビング(夜)
陸、ソファに座って虫のロボットを触っている
普段着に着替えたフラン、ソファに座ってそれをぼーっと見ている
フランM「こいつが初めて俺に声をかけてきたのは、もう随分前だったか。まだ俺がアルバートの子会社で開発研究してた頃。20歳になってすぐの、確かあれは雨の日だった」
***
・子会社のラボの前(回想)
ラボから出てくるフラン(20)、傘を開こうとすると前のビルの狭い軒下に立っている陸(11)に気が付く
それと同時にフランに気が付く陸、傘も差さずにフランに走り寄ってくる
陸 「フラン……」
フラン「え?」
陸 「フラン・アルバート・塩屋だよね?」
フラン「あ、あぁ……」
フランM「綺麗な顔したガキ……」
フランM「不覚にもあいつが言うとおりそう思った」
陸 「俺、俺陸って言うんだ」
陸、必死になってフランを見上げる
その雨に濡れる表情にフラン、傘を差す
フラン「どうした、なんで俺の名前なんか……」
陸 「俺あんたを探してた……!」
フラン「探してた……? どうして俺を……」
陸 「俺お前が好きなんだ!」
フランM「会って早々これだ」
フラン「……」
フラン、目をぱちくりさせる
フラン「え……?」
***
・子会社のラボの前(回想)
フランM「それから一年間。確かそのくらい。こいつは俺の帰りを待っては現れ、そして俺に好きだと言った」
フラン、ラボから出てくると陸を見つけてため息を吐く
陸 「やっと出てきた!」
フラン「またお前か……」
フランM「しかし断り続けた一年後、ぱたりと現れなくなった陸に、俺はあぁやっと諦めたかと思っていた」
***
・アルバート前(回想)
フランM「が!」
フラン(27)、白衣のまま門を出ようとすると陸(18)が声をかけてくる
陸 「フラン」
フラン「ん?」
フラン、陸を見て驚く
フラン「お前……」
陸、笑う
陸 「久しぶり」
フラン「陸か?!」
陸 「覚えてた!」
フランM「そう、俺がアルバートを継いだ直後にこいつは現れ、そして俺にまたこう言うのだ」
陸 「フラン、好きだ」
フラン「……」
フラン、ため息を吐く
***
・リビング(夜)
フラン、相変わらず陸をぼーっと見ている
フランM「こいつは大人になっても綺麗で生意気で、たまに可愛いと思うこともあるけれど、残念ながら俺はその思いを受け取ることは無い。それはあの頃も、今も、たぶんきっとこれからも」
フランの視線に気が付く陸
陸 「? ……なんだよ?」
フラン「いや?」
フラン、立ち上がる
フラン「綺麗な顔してるなと思ってさ」
陸 「え?」
フラン、戸棚からカップを取るとポットに入っているコーヒーを入れる
陸 「好きになった?」
フラン、ふっと呆れて笑う
フラン「残念だがそれはない」
陸 「……」
陸、拗ねる
フラン、コーヒーを一口飲む
フラン「何度も言っているが、俺は人間相手に恋愛なんかする気はないんだ。お前がいくら綺麗で生意気で可愛くてもな」
フラン、ふっと息をつく
陸 「だったら……」
フラン「?」
陸、真剣な表情で言う
陸 「だったら俺をアンドロイドにしてよ!」
フラン「え?」
陸 「人間がどうしても駄目なんだって言うんなら俺をその手でアンドロイドに変えてくれ! お前だったらそんなの容易いことだろ?!」
フラン「何を馬鹿なこと言ってんだ」
陸 「だって……」
フラン、カップをテーブルに置くと呆れた声を出す
フラン「すげーバカ」
陸 「……」
フラン「生物の80%以上の機械化は法律でも上位のタブーだってことくらい知ってんだろ?」
陸 「それくらい知ってる……」
フラン「病気でも怪我でも、あと1%の機械化で命が助かる場合でもそれは破っちゃいけないんだぞ? それを泣く泣く諦める人が多いっていうのに、恋愛感情なんかでそんなこと言いやがって」
陸 「恋愛感情なんかじゃない」
フラン「えー?」
陸 「なんかじゃない!」
フラン「陸……」
陸、呟くように言う
陸 「俺はあの時約束したんだ……フランの傍にいるって……」
フラン「約束?」
陸 「でもその約束以上に俺はお前が好きだったから……!」
フラン「……」
陸 「好きなんだ……あの時からずっと……」
陸、俯いて今にも泣きそうになっている
フラン、その様子を見てため息を吐くとリビングから出て行こうとする
フラン「俺の答えはもう何度も言ってるだろ……」
フラン、去っていく
***
・病室(回想)
ベッドにフランの母親が眠っている
母親の手を握って必死に呼びかけるフラン(7)
フラン「お母さん、お母さん」
母親はただ眠ったままで目を覚まさない
フラン「ねぇ、お母さん。お母さん……」
泣いているフラン
***
・リビング
目覚めの悪い顔で起きてくるフラン
するとリビングに黒ブチ眼鏡の悠里(27)がいるのに気が付く
フラン「……」
悠里、紅茶を飲んでいたがカップを口から放して片手を挙げ、笑う
悠里 「おはよう」
フラン「お前か……」
悠里 「?」
***
・リビング
ソファに向き合って座っている二人
エリィがフランに朝食を持って来る
フラン「食いながらですまん」
悠里 「いいよいいよ、どうせそうだと思ってた」
悠里、笑う
エリィ「悠里さん、何かお持ちしましょうか?」
悠里 「いや、この紅茶だけで十分だよ。相変わらずエリィの入れる紅茶は美味しいね」
エリィ「ありがとうございます」
エリィ、頭を下げると去っていく
悠里 「どうしたもんだかアイルが入れる紅茶はいつも温い……」
フラン「はははっ、そんなこと言ったら自分で入れろって言われるぞ」
悠里 「そうなんだよもう。どうしてあんな間違ったプログラムになったんだか……」
悠里、呆れる
フラン「でー? 大事な休暇中になんですか? また不都合の話か……?」
悠里、笑う
悠里 「残念だけどあっちは順調みたいだよ」
フラン「そりゃ良かった」
悠里 「それよりフラン、昨日ラボに顔出したら浪木くんに足止め食らわされたんだけどどういうことかな?」
悠里、微笑んでいる
フラン、不味いという顔をするが笑う
フラン「いやー、あはは」
悠里 「この穴埋めは後でもらうからね」
悠里、相変わらず笑う
フラン、呟く
フラン「泊の言うとおりになった……」
悠里 「で、だ」
悠里、カップをテーブルに置くと手を組む
フラン、スパゲッティを口に運びながら言う
フラン「んー?」
悠里、静かに話す
悠里 「雨宮《あまみや》先生が危篤状態だって今朝連絡が入ってね」
フラン「……」
フラン、フォークを持つ手を止めると口の中のものを飲み込む
フラン「そう……か」
悠里 「あの人ももう機械化80%。施す手も無い。これでも長生きした方だって奥様が仰ってたよ」
フラン「……」
悠里 「大事な休暇を潰すかもしれないけど、ごめんなさいねって」
悠里、微笑む
フラン「あぁ……そうか……」
フラン、静かにまたスパゲッティを口に運ぶ
悠里、その姿を見て優しく微笑むと紅茶を飲む
悠里 「美味しいなぁ……」
***
・車
後部座席に喪服姿で座っているフランとエリィ
フラン、窓から外を眺めている
空には雲が広がっている
フランM「その日の晩に雨宮先生は静かに息を引き取られ、次の日に通夜が行われた。俺にとって雨宮先生は親父の親友であり、アンドロイドについて学んだ先生だった。世界的にも有名だった雨宮先生。あの人はいつも機械のことばかりを話し、アンドロイドを愛して止まなかった」
***
・葬儀場
車から降りるフランとエリィ
エリィ、フランにコートを羽織らせる
フラン「……」
フラン、大勢の人がいるのを見てふぅっと息を吐く
フラン「さすが先生だな」
エリィ「そうですね。あ……」
エリィ、道の先でこちらに気が付いた浪木と彗と悠里とアイル(25)を見つける
フラン「先に来てたのか」
フラン、呟くと四人に近づく
フラン「浪木ちゃん色々大変だったろ、休み返上して俺もそっち行くよ」
浪木 「何言ってるの」
浪木、微笑む
浪木 「まぁ、今日は祝日みたいなもんさ。誰も文句なんか言わないよ」
フラン、笑う
フラン「そうだな。しかしこの人数は凄いな……」
悠里 「これでも絞ってるんだって話だよ。さすがにえらいことになるからね」
アイル「きっと世界中からアンドロイドが集まると思うよ、雨宮博士って言ったら俺達の中でもすごい人だから」
彗 「私も先生の傍にいなければここに来られることは無かったですから、光栄です」
浪木 「いや、僕もフランに目かけてもらってなかったら今頃テレビの前だよ」
フラン「ははは、先生も愛されたもんだな。で、奥様は? もう挨拶したのか?」
悠里 「あぁ、さっき。フランが来たら真っ先につれて来いって言われてたんだった」
悠里、笑う
フラン「それはさっさと行かないとな。じゃあまた後で。エリィ、行こう」
エリィ「はい」
フランとエリィ、去っていく
悠里 「……」
悠里、フランの後姿を見ている
アイル「悠里? どうした?」
悠里 「いや、あいつの喪服姿はどうもね」
アイル「え?」
***
・大広間
フラン、人だかりの中にいる雨宮夫人(58)を見つける
夫人、フランに気が付くと微笑む
フラン「遅くなって申し訳ございません」
フラン、夫人とハグをする
夫人、フランの頬を両手で包むと笑う
夫人 「ますます男前になったわね」
フラン「それはどうも」
フラン、笑う
夫人、執事を呼ぶと何か耳打ちをする
夫人 「おいで、少し休憩したいの」
夫人、フランの手を取る
***
・個室
夫人とフランとエリィ、個室に入ってくる
夫人 「ここならゆっくり話せるわね」
夫人、笑うとフランにソファを勧める
フランとエリィ、ソファに座りながら言う
フラン「ゆっくりしてる暇なんか無いんじゃないですか?」
夫人、笑う
夫人 「そうなのよ。大忙し、あの人が亡くなる前からずーっとよ。でもあなたが来たら休憩しようって決めてたの」
フラン「それは」
フラン、笑う
フラン「大急ぎで来るべきでしたね」
夫人 「えぇそうね、待ちくたびれたわ。それで」
夫人、エリィを見る
夫人 「とても綺麗な女性ね」
フラン「えぇ、そうでしょう? 僕のアンドロイドのエリィです」
エリィ「お初にお目にかかり光栄です。エリィと申します」
夫人、フランを見る
夫人 「あなたが?」
フラン、自慢げに頷く
フラン「えぇ」
夫人 「少し見せて頂戴」
夫人、眼鏡をかけて立ち上がるとエリィの腕を取り指先から目線を上げて行く
夫人 「目を見せて」
夫人、エリィの目を見ると微笑む
夫人 「とてもいいわ」
フラン、ほっとする
フラン「久しぶりだな、この感覚。いつになっても緊張する」
夫人、眼鏡を外してまたソファに座る
夫人 「ふふふ、さすがあのアルバートを継いだだけのことはあるわね。お父様も喜んでらっしゃるでしょう」
フラン「だといいんですがね」
夫人、微笑んで膝の上で手を組むと背もたれにもたれる
夫人 「……去年の丁度今頃よ、あの人ね空を見ながら言ってたのよ」
夫人、少し悲しげに微笑む
夫人 「こんなに早く逝ってしまうとは思わなかったけど、あいつはちゃんと人間らしい死に方をした……って」
フラン「……」
夫人 「あの頃もう75%にも機械化してしまっていたんだけれど、それを本心でどう思っていたのか……私今でもちゃんと分かってないの」
フラン「え…?」
夫人 「あの人ね、もう生まれた時から機械を愛していたのよ。それでここまで来た。生物の機械化にも携わってきたわ。その姿は凄く楽しそうだった。一度も辛い顔なんてしてるところ見たことないもの」
フラン、微笑む
フラン「そうですね」
夫人 「でもね、自身が初めて機械化の手術をするってなった時、少し迷うような顔をしたの」
フラン「迷う?」
夫人 「えぇ、今でもはっきり覚えているわ。不安だとかそういう表情じゃなくて、迷うよな表情よ」
フラン「……」
夫人 「それでロイが亡くなった後にあんなこと言って、本当は機械化なんてしたくなかったんじゃないかって思ったの」
フラン「でも……」
夫人 「えぇ、あの人よく言ってたわ。こんなにも愛して止まないあいつらに少し近づけたって」
夫人、笑う
夫人 「だからどっちが本心なのかって、分からなくってね」
フラン「……」
フラン、夫人を見る
フラン「父は……、いや、父も先生の様に機械馬鹿で」
夫人、笑う
フラン「小さい頃僕と遊ぶ時も機械を交えての遊びばかりでした。だけど生物の機械化だけは最後まで反対していた」
夫人、静かに頷く
フラン「僕もそれがどうしてか分からなかったんですよ。母の病気が見つかった時も、あの人は母に機械化を勧めようとはしなくて母が亡くなってからしばらく、僕は父を恨んだこともありました」
夫人 「……」
フラン「だけど今度は父に病気が見つかって、機械化をすれば助かるって分かっているのに病床で言った父の言葉に、僕は頷くしか出来なかったんです」
夫人 「ロイはなんと……?」
フラン「俺は俺のまま生きていたい……って」
夫人、微笑む
夫人 「ロイらしいわね」
フラン「えぇ」
フラン、微笑む
フラン「だけどその時父の病気はもう末期でしたから。もしそうじゃなかったらどうだったのかは分かりませんけど」
夫人 「ロイはきっとしなかったわよ」
フラン「そうですね……」
突然ドアがノックされる
夫人 「なぁに?」
ドア越しに執事が話す
執事 『マクイーン様からお電話が入りました』
夫人 「まぁ!」
夫人、立ち上がる
夫人 「国家主席はさすがに待たせられないわね」
フラン「そうですね」
フラン、笑うと立ち上がる
夫人 「落ち着いたらまた顔を見せて頂戴」
夫人、フランをハグをする
フラン「えぇ」
***
・大広間
フラン、エリィと共に歩いていく
夫人 『あいつはちゃんと人間らしい死に方をした……って』
フランM「確かに親父は人間本来の姿のまま死んだ。どこにも機械を取り入れず、薬だけを投与して。あれほど機械に触れていた本人が怖かっただなんてことはありえるんだろうか。信頼しているはずの機械を体に入れることを……」
フラン「……」
フラン、ふと人の中に喪服姿の陸を見つける
フラン「陸……」
エリィ「?」
フラン「あいつどうしてこんなところに」
陸、フランには気が付いていない
フラン、陸の方へ行こうとするが人にまぎれて見失ってしまう
フラン「……」
悠里 「いたいた、フラン」
そこへ悠里とアイルが来る
フラン「悠里」
悠里 「奥様とはもう話したの?」
フラン「あぁ、今さっきマクイーン様から連絡が入って」
悠里、驚く
悠里 「えぇ? さすがだなぁ……」
フラン、人を気にしている
悠里 「どうかした?」
フラン「え? あ、いや……なんでもない」
悠里 「?」
***
・聖堂
大勢の参列者が座っている
フランもその中に座っているがぼーっと天井にかかる十字架を見ている
フラン「……」
悠里、フランを気にする
***
・葬儀場(夕方)
沢山の人が帰っていく中、フランとエリィも車の止まっているところへ来る
フラン、夕日が沈む空を見る
フラン「……エリィ」
エリィ「はい」
フラン「俺ちょっと歩いて帰る」
エリィ「え?」
フラン「お前先に帰ってろ」
エリィ「ですが……」
フラン「大丈夫。ちょっと歩きたい気分なんだ」
エリィ「そうですか……。分かりました」
フラン「じゃあな」
フラン、手を振って歩いていく
エリィ「お気をつけて」
***
・葬儀場前(夕方)
フラン、歩いてくると葬儀場の門の柱の横に陸が立っているのを見つける
フラン「陸……」
陸、フランの声に気が付く
陸 「よう」
フラン「やっぱり見間違いじゃなかったのか」
陸 「え?」
フラン「いや、中でお前見かけたからさ」
陸 「そう……」
陸、少し気まずそうにする
フラン、そのまま歩いて行く
その後ろを付いていく陸
***
・街(夕方)
フランと陸、歩いている
フラン「どうしてお前が葬儀に?」
陸 「……」
フラン「言いたくなかったら言わなくてもいいけどな」
陸 「……ばあちゃんが雨宮博士と知り合いだったんだ」
フラン「へぇ」
陸 「だから小さい頃から何度か食事をさせてもらったりしてた」
フランM「こいつ……結構いいとこの坊ちゃんだったのか……?」
フラン「てっきり俺はまたいつもの如く追いかけてきたのかと思ったんだけどな」
フラン、笑う
陸 「え?」
陸、フランを見る
陸 「あ、えっと、そのつもりもあった。だからあそこで出てくるの待ってたんだ」
フラン「ほんとかよ」
フラン、驚いてまた笑う
フラン「しっかし、お前まで一緒に歩きで帰らなくてもいいんだぞ? 結構距離あるしな」
陸 「いいよ。一緒にいたい」
フラン「……」
フラン、呆れる
フラン「何をそこまで俺に入れあげるのか……わっかんないねー」
陸 「……好きだから」
フラン「そっか」
フラン、軽く言うと空を見上げる
フラン「この年になると色んな人が死んでいってさ」
陸 「え?」
フラン「お陰で葬儀には慣れたが未だに人の死には慣れないな……」
フラン、悲しげに笑う
陸 「そんなの、慣れるものじゃない」
フラン「お前の言う通りだな」
陸 「……」
陸、少し前を歩くフランの背中を見て迷うが意を決してフランの手を取る
フラン「?」
フラン、突然繋がれた手に驚くが、陸はこっちを見ようとしない
フラン「どうした」
陸 「こういうときに傍に居ようって思ってたんだけど……」
フラン「え?」
陸 「なんて言ってあげればいいのかわかんなくって……」
フラン「だから手を?」
陸 「うん……」
陸、照れているのかフランを見ようとしない
陸 「駄目……か……」
フラン、陸のいつもと違う様子に少し微笑むとまた前を向いて歩いていく
フラン「いいや、お前の手はあったかいな」
陸、やっとフランを見上げると微笑む
***
・路地(夜)
誰もいない路地を歩いているフランと陸
相変わらず手を繋いでいる
陸 「なぁ、一つ聞いてもいい?」
フラン「んー? 何」
陸 「どうして人間を好きにならないんだ……?」
フラン「……」
フラン、ふと陸を見るがまた前を見る
フラン「……いつか死ぬから」
陸 「……」
陸、フランを見る
フラン「どんなに医学が進んでも、どんなに科学が進んでも。人間はいつか死ぬだろ」
陸 「だから……好きにならないのか……?」
フラン「あぁ、ガキのころからずっとそうだ」
陸、フランの手をぎゅっと握る
陸 「でもそれが人間だよ……」
フラン「そうだな」
フラン、相変わらず前を見ている
フラン「どうして80%の規定があるか知ってるか」
陸、首を振る
陸 「知らない」
フラン「生物への機械導入が始まった当初はそんな法律無かったんだ。俺もお前も生まれるずーっと前」
フラン、少し笑う
フラン「義手や義足。そんなのはもう、もーっと前から当たり前になってたんだけどな。それだけじゃなく、内臓から神経、それに筋肉や骨。人のあらゆる部分にアンドロイド技術を応用した機械が導入されていった。人々は歓喜に溢れた」
陸 「うん」
フラン「だけどそこで初めて全身への機械化へ進んだ人がいた」
陸 「全身?」
フラン「あぁ。残っているのは体の表面だけ」
陸 「……」
フラン「だけどそのお陰でその人は124歳まで生きた」
陸 「124歳……」
陸、驚く
フラン「その人が死ぬ間際、いや、もう〝修理〟をしないと決めた時。こう言ったんだ」
陸、フランを見る
フラン「私のすべてが機械になった時、私は人では無くなった」
陸 「人じゃない……」
フラン「そう。その言葉が世界に広がってあの80%規定の法律が出来た」
陸 「……」
フラン「それでも80%が多すぎるだとか、もう少し上げてもいいんじゃないかとか。今でもずーっと議論し続けてるんだけどな。俺にはそれが正しいのか、間違っているのかなんて分かりもしない」
陸 「……」
フラン「それでも親父は機械化を反対していて、雨宮先生は機械に近づけたと言っていた。俺に取っちゃ二人とも人生の尊敬する人で、だけどどっちがいいのかなんか分からない。だけどどっちにしろ人は死ぬ」
陸、フランを見る
フラン「機械化しなくても、しても……。いつかは死ぬんだ」
陸 「フラン……」
フラン「どうしてだろうな。ずっと、アンドロイドしか好きになれないんだ……」
陸 「……」
フラン「あいつらと一緒にいれば安心する。死んだりしないから……」
陸、突然歩みを止める
手が引っ張られ、足を止めるフラン
フラン「陸?」
陸 「俺は死なない!」
フラン「え?」
フラン、驚く
陸 「約束する! 俺は絶対にフランより先に死なないよ!」
フラン「……」
フラン、言葉を無くす
陸 「ずっとお前の傍に居て、お前がお爺さんになって死ぬって時もずっと傍で手を握っててあげる」
フラン、握られた手を見る
フラン「……」
陸 「俺がお前よりずっと後に生まれたのは、きっとその為だったんだよ」
フラン、目を見張る
陸、無意識に泣いている
陸 「だから……だから!」
フラン「……」
陸 「傍にいさせて……」
陸、泣きながらフランを見ている
フラン「……」
フラン、目線を逸らす
陸 「フラン……」
フラン「あー! もう!」
フラン、陸の手を引き抱きしめて頭を撫でる
フラン「考えてやるから泣くなよ! 馬鹿!」
陸 「泣いてない……!」
フラン「はいはい」
フラン、笑う
フランM「こんなのただの口約束でしかないのに。目の前で泣かれたら、無理だなんて言えないじゃないか」
***
・リビング(回想)
暖炉があるリビングで一人カウチに蹲って泣いているフラン(7)
吉名悦子《よしなえつこ》(72)が来る
悦子 「フランちゃん」
フラン「っ……うっ……ばあちゃん……」
フラン、両手で涙を拭いている
悦子、カウチに座る
フラン、悦子に抱きつく
悦子 「どうしたの?」
フラン「お母さんが帰って来ない……」
悦子 「そうだねぇ。だけどばあちゃんもお父さんもいるじゃない」
フラン「でも……でも……お母さんに機械を入れたら、もっとお母さんは長生きできたんだって」
悦子 「そうだねぇ」
フラン「それなのにお父さんは……っ……お母さんにしなかったんだ……」
悦子 「うん」
フラン「だからお母さん死んじゃった……ぅっ……」
悦子 「寂しいのかい?」
フラン「うん……っ……だって……もう帰って来ない……」
悦子 「フランちゃん、大丈夫」
フラン「え……?」
悦子 「ずーっと傍にばあちゃんがいてやるから。だから寂しくなんかならないよ。ね?」
***
・寝室(朝)
フラン、目が覚める
フラン「……」
フラン、額を押さえる
フランM「懐かしい夢を……」
フラン「傍にいる……か……」
***
・アルバート、ラボ1
ツナギ姿で作業をしている浪木
ラボの入り口が開くとフランが現れる
フラン「どーもー」
浪木 「フラン! ほんとに休日返上したの?」
浪木、驚く
フラン「いや、来てみたんだけどー、あんま意味なさそうだな」
浪木 「おかげさまで」
浪木、笑う
浪木 「いいところに来てくれたよ、ちょっとチェックしていってくれない?」
フラン「何、そんな完成間近なの? さすがだね」
浪木 「はははっ、ありがとう」
***
・アルバート、ラボ2
寝かされている裸の男性アンドロイド
それをチェックしているフラン
フラン「うん、いいね。さすが」
浪木 「そっか、よかった。いやー髪の色が微妙なオーダーでどうも気になってたんだけど」
フラン「いや、こんな感じよ。まぁ日に晒した感じで気に入ってもらえるかどうかだけど。サンプル頂戴。今日明日にでも問い合わせてみるから」
浪木 「うん、じゃああっちで」
***
・廊下
フランと浪木、歩いてくる
浪木 「悪かったね、来てもらって」
フラン「いやー? 社長としてはちゃんと出社するべきなんだけどな」
フラン、笑う
フラン「俺はそれより彗に気兼ねしてんだけど」
浪木 「彗くんに?」
フラン「ずーっと待ってんでしょ? おうちで」
浪木 「大丈夫だよ、たまに顔見せに来てくれるんだ」
浪木、微笑む
フラン「そっか、それは良かった。いいねー、俺もそういうの欲しい!」
浪木 「エリィは?」
フラン「エリィは俺のママだから♡」
浪木 「そうなんだ……」
***
・アルバート前
フラン、歩いてくると門のところにいる陸を見つける
フラン「よっ」
陸 「あ……」
陸の声に被せて言うフラン
フラン「またお前か」
フラン、言うが笑っている
その表情に驚く陸
陸 「エリィがこっちに来てるって……」
フラン「俺も仕事しなきゃねー」
フラン、歩いていく
***
・街
フランの少し後ろを歩いている陸
陸 「なんか今日は元気だな……」
フラン「そーかー?」
陸 「うん……。なんかいいことでもあったのか?」
フラン「どうだろうな。いいことは無いけど」
フラン、笑う
陸 「だったらなんだよ」
フラン「いや? なんでもない」
陸 「変な奴……」
フラン、何かを思い出し、陸の方を見る
フラン「そうだ!」
陸 「ん?」
フラン「お前が言ってた約束って、何?」
陸 「……」
陸、驚く
フラン「ほら、言ってたじゃん。約束したんだって」
陸 『俺はあの時約束したんだ……フランの傍にいるって……』
陸 「覚えてたのか……」
フラン「うん、なんか気になってさぁ」
陸 「……昔、ばあちゃんと約束したんだ」
フラン「え?」
陸 「お前の、フランの傍にずっと居てやるって」
悦子 『ずーっと傍にばあちゃんがいてやるから。だから寂しくなんかならないよ。ね?』
フラン「……」
フラン、立ち止まる
陸 「でもそれ以上に俺は……」
フラン「お前……名字は」
フラン、振り返る
陸 「え?」
フラン「お前の名字……吉名か」
陸 「……あぁ」
フラン、息を吐くを額に手をやる
フラン「あー……どうして気が付かなかったんだ俺……」
陸、微笑む
陸 「無理も無いよ。俺がばあちゃんに初めて会ったのはばあちゃんが死ぬ少し前だったから」
フラン「え……?」
陸 「10歳の頃、フランと会う少し前……」
***
・リビング(回想)
暖炉の前のカウチに座ってアルバムを見ている陸(10)
その隣に座っている悦子(84)
陸 「ばあちゃん、これ誰ー?」
悦子 「ん? あー、それはね、フランちゃん」
陸 「フラン?」
悦子 「そう、陸よりもう少し大きくてね、今は機械のお仕事しているんだよ」
陸 「そうなんだ」
写真の中のフランは時々寂しそうにしている
陸 「ねぇ、どうしてフランは寂しそうなの?」
悦子 「そうだねぇ、ばあちゃん約束したんだけど、遠くまで行ってあげられなくってね……」
悦子、悲しげに微笑む
陸 「約束?」
悦子 「うん。ずっと傍に居てあげるって、約束したんだけどねぇ」
陸 「そっか……」
また写真を見る陸、ふっと悦子を見る
陸 「ねぇばあちゃん! 俺がフランの傍にいてあげるよ!」
悦子 「え?」
陸 「俺がフランと遊んであげられたら、フランは寂しくないだろ?」
悦子 「ははは、そうだね。じゃあばあちゃんの約束を陸に預けようか」
陸 「うんっ。ばあちゃんと、フランと、俺の約束!」
笑い合う二人
陸M 「あの時、写真の中で寂しそうにしてるフランを見て、どうしてか不思議でさ。気になって仕方なくて。約束なんかしたけど、お前の居場所なんか分からなかったし子供の俺では捜しようも無かった」
***
・葬儀場(回想)
沢山の人が参列している
陸M 「その翌年にばあちゃんが死んで、正直その時まで約束なんか忘れてた」
***
・大広間(回想)
陸(11)、人の中を歩いているとふとフラン(20)を見つける
陸 「……」
陸M 「人の中にお前を見つけたとき、一気に記憶が甦った。写真の中のままの表情。あの写真のまま大きくなったフラン。寂しさの中に埋もれてた」
陸 「フラン……」
陸M 「あの表情に、俺は一目で惹かれてた」
陸 「フラン……!」
陸、呼びながら追いかけようとするが人にまぎれて見失ってしまう
そこへ陸の父親が来る
父親 「陸?」
陸 「父さん」
父親 「どうした」
陸 「あの……あの人……!」
陸、フランのいたところを指差す
父親 「?」
陸 「えっと……そう! フラン!」
父親 「フラン? あぁ、アルバートのところの」
陸 「知ってるの?!」
***
・街
陸 「その後父さんに無理言ってここまで連れて来てもらったんだ。そこであの日お前に会った」
フラン「……」
陸 『俺あんたを探してた……!』
フラン『探してた……? どうして俺を……』
陸 『俺お前が好きなんだ!』
陸 「今思えば突然すぎるよな。自分でも馬鹿だと思うよ」
陸、笑う
陸 「でも早く言いたくて仕方なかった。それでばあちゃんとの約束守ろうって。お前は迷惑そうにしてたけどさ、俺なりに頑張ってたんだよ。でも家からあのラボまで通えなくなって、随分長い間約束守れなくなった」
フラン「……」
陸 「この年になってやっと会いに来ることが出来たってわけ」
陸、笑っている
フラン「どうして……」
陸 「え?」
フラン「どうしてお前は俺の傍から誰かがいなくなる度に現れるんだよ……」
フラン、俯いている
陸、ふっとため息を吐いて笑う
陸 「寂しそうにしてるから。会いに来なきゃいけないじゃん」
フラン「お前分かってて……」
フラン、陸を見る
陸 「なぁ、フラン。運命って信じるか?」
フラン「はぁ?」
陸 「俺はお前の傍から誰かがいなくなったって分かったから会いに来たわけじゃないよ」
陸、微笑んでいる
フラン「お前は……」
フラン、力が抜ける
フラン「あー! もう!!」
フラン、髪をぐしゃぐしゃ掻くと歩き出す
フランM「運命なんか言われたら信じてみようって気になるじゃないか。俺の頭は夢で溢れてるっていうのに」
後を追う陸
陸 「はははっ。なぁ、フラン。お前が言ってたあの80%規定の話、お前はどっちがいいんだ?」
フラン「え……?」
陸 「どっちが理に適ってるとか、そういうんじゃなくて。お前がもし機械化しなければ助からなくなった時、どっちが望みなの?」
フラン「……」
フラン、戸惑う
フラン「俺は……、俺は親父みたいな死に方がしたい……」
陸 「そうか」
フラン「母さんが死んだときはどうして機械化しなかったんだって親父を責めたけど、親父が死ぬ間際に分かった気がするんだ」
陸 「……」
フラン「人間はこういうもんなんだって、あの時母さんに機械化を勧めなかったことを、それでよかったんだってほんとはそう思えてた……」
陸 「そっか」
陸、笑う
フラン「でもどうしてこんなことを……?」
陸 「いや、いつかそうなったとき、俺がちゃんと言ってあげないといけないなって思って」
フラン「えぇ?」
陸 「ほら、俺がフランを看取ってあげるんだからさ」
陸、笑っている
フラン「お前なぁ……ハハハッ」
フラン、笑う
フランM「どうしようもないくらい強引で、こっちの答えを聞き入れようともしない。こいつは初めて会ったときからずーっとそうだった。いつも待ち伏せして、一度は好きだと言う。あしらう俺にしつこく付き纏って……」
フラン、陸を見る
フラン「なぁ陸」
陸 「ん?」
フランM「こいつが居れば、寂しいなんて思わなかった──」
フラン「俺お前だったら……」
陸、フランの後ろを見てはっとする
何かが崩れるような音がすると共に陸、フランを突き飛ばす
***
・路地(夜)
フラン、突き飛ばされたところでわけも分からず起き上がる
フラン「何……いきな……り……」
フラン、目の前の光景に言葉を無くす
住宅建設地の資材が崩れ、陸がその下敷きになっている
フラン「おい……陸……」
そこへ音を聞きつけて集まってきた人が来る
通行人A「おい! 大変だ!」
通行人B「誰か救急車!」
通行人C「人が下敷きになってるぞ!」
フラン、ふらふらと立ち上がりその方へ行こうとする
フラン 「陸……おい! 陸!」
通行人A、フランを止める
通行人A「おい、近づくな! あんたも危険だぞ!」
フラン 「離せ……! 助けなきゃ……陸が!」
通行人A「しっかりしろ! あんたまでどうにかなったらどうすんだ!」
フラン 「陸……! 陸!」
***
・手術室前(夜)
椅子に座って俯いているフランとエリィ
手術室から医者が出てくる
フラン、それに気が付いて医者に駆け寄る
フラン「陸は……!」
医者、難しい顔をする
医者 「このままではどうにも……」
フラン「え……?」
フラン、目を見張る
医者 「しかし幸いにも機械化表明をされているのでこのままできる限りの……」
フラン「機械化表明……? 陸がですか」
医者 「えぇ、先程調べましたところ登録されていました」
フラン「そう……ですか……」
フラン、戸惑いを隠せない
医者 「ではこのまま続けてよろしいですね?」
フラン「は……い」
エリィ「……」
エリィ、フランを心配そうに見る
医者、手術室へ入っていこうとする
フラン「待って」
フラン、意を決した表情で言う
フラン「機械化するんならアルバートへ運んでくれ」
医者 「え?」
フラン「あそこなら機械化に必要なものはすべて揃っている」
医者 「しかし……」
フラン「エリィ、社に連絡を入れて第一ラボを空けさせろ。今の作業はすべて停止。あと悠里と浪木ちゃんに連絡入れて」
エリィ「はい」
医者 「あなたは……」
フラン「俺が陸を助けます」
医者 「……」
***
・アルバート、ラボ1前廊下(夜)
フラン、悠里、浪木が歩いてくる
悠里 「まったく何を考えてるんだか……」
フラン「幸運なことに俺もお前も浪木ちゃんも執刀資格は持ってる」
浪木 「でもこんな……」
フラン「お前らの腕を世界一だと認めてんだよ俺は」
悠里 「……」
悠里、呆れる
フラン「機械化しても助かるかどうかなんかわかんねぇんだぞ。機械化しなけりゃそれで終わりだ」
浪木 「フラン……」
フラン「それにここなら80%越えでも見つからない」
浪木 「な、何を言って……!」
悠里 「冗談は程ほどにしろ。僕達を犯罪に巻き込まないでくれ」
フラン「……」
黙ったままのフランに呆れる悠里
心配そうに戸惑う浪木
ラボに入っていく
***
・アルバート、ラボ1(夜)
手術台に寝かされた陸
その周りに手術着に着替えたフランと悠里と浪木がいる
その他に助手のアンドロイドが三人居る
悠里 「今何%?」
浪木 「75」
フラン「まだ安定しないか……」
悠里 「……よし、ギリギリまで行こう。幸い両足は無傷に近い、残りの5%を両腕に充てる」
フラン「え? でもそれだと脳が……」
悠里 「あとはこの子の生命力にかける」
フラン「どうして……」
悠里 「お前も分かってるはずだぞ? 脳には極力触れない方がいい」
フラン「……」
悠里 「信じろ」
***
・病室(早朝)
陸、人工呼吸器をつけられて眠っている
その傍にフラン、悠里、浪木がいる
悠里 「後は目が覚めるのを待つしかないな……」
フラン「あぁ……」
浪木 「ここまで安定させられるなんて凄いことだよ。最初の状況ではここまで出来ると思ってなかった……」
フラン「……」
悠里、一息つくとフランの肩を叩く
悠里 「お前も休んだ方がいいよ。あと浪木くんも今日は休んで。どうせ作業再開させるにも時間がかかる」
浪木 「あぁ、それなら大丈夫なんだ。もう昨日の段階で作業は終了してたから」
悠里 「そうなの? すごい」
フラン「……」
悠里、黙ったまま陸を見ているフランを見て微笑む
悠里 「フラン、運がよかったな。クレーム付かずに済んだ」
フラン「……あぁ」
悠里 「……じゃあ僕は少し休ませてもらうよ。仮眠室にいるから、何かあったら起こして」
浪木 「じゃあ僕もそうしようかな」
フラン「……」
悠里と浪木、フランを気にするが部屋を出て行こうとする
その時、エリィが入ってくる
悠里 「エリィ、フランを頼むよ」
エリィ「はい」
***
・病室(早朝)
陸のベッドの傍に座っているフラン
陸の手に触れる
フラン「……」
エリィ「フラン、何か必要なものはありませんか?」
フラン「……いや、特には……」
エリィ「そうですか」
フラン、はっと顔を上げてエリィを見る
フラン「そうだ……陸のご両親に連絡……」
エリィ「それなら必要ありません」
フラン「え? あぁ、お前がもうしてくれてるかそんなの……」
エリィ「……いえ」
フラン「?」
エリィ「……陸のご両親はすでに亡くなっています」
フラン「……え」
エリィ「現在の陸に身内はいないということです……」
フラン「……どういうことだ……」
エリィ「調べたところによりますと、6年前に事故でご両親を亡くされたとのことで」
フラン「6年前……?」
フランM「もしかして……」
陸 『でも家からあのラボまで通えなくなって、随分長い間約束守れなくなった』
フラン「あの時姿を現さなくなったのは……」
エリィ「……」
フラン「……そういうことだったのか……」
フラン、ベッドに肘を付いて頭を抱える
フランM「どうして……どうしてお前は何も言わないんだ……寂しかったのは俺じゃない。俺なんか比にならない。お前の方がずっと寂しかったはずなのに……!」
フラン「どうして……どうして……!」
フラン、悔しげに涙を流す
***
・フランのオフィス
フラン、机に向かって資料を作っている
そこへ悠里が入ってくる
フラン「よーっす」
悠里 「そっちはどうですか?」
フラン「順調順調、そっちはー? フェイスデザイン納得いかせた?」
悠里 「お陰さまでまだです」
フラン「おい」
フラン、笑う
フラン「それがどうにかなんないと浪木ちゃんがまた街医者に戻っちゃうよ?」
悠里 「あーもう、あそこは大盛況だよ。浪木くんアンドロイドにモテモテ。羨ましいねまったく」
悠里、資料をフランに渡す
悠里 「総枚数30越え。いつまで経っても納得いかないって」
フラン「これはまた」
フラン、資料に目を通す
悠里 「どこの誰が審査したんだか」
フラン「いや、審査段階ではすげーいい人だったんだけどな。熱くてね、アンドロイドをすげー愛でるのよ」
悠里 「どうりでこだわりあるわけだ……」
悠里、呆れる
悠里 「まぁ僕の夢のような脳をフル活動させて頑張ってますけどね、社長?」
フラン「はい?」
悠里 「今度のボーナスよろしくね。僕アイルと南の島に行きたいんだ……」
フラン、大笑いをする
フラン「ハハハッ、まぁ考えますよ」
悠里 「でー、陸の様子はどうなの。なんかアイルも彗も入り浸ってるって話だけど」
フラン、微笑む
フラン「相変わらずだよ」
悠里 「そうか……、でも話しかけるっていうのはいいことだからね。あそこが賑やかなのはいいんじゃない?」
フラン「そうだな」
笑い合う二人
フランM「あの事故から一月が経った。だけど未だに陸は眠ったまま、目を覚まさない」
***
・病室(夕方)
フラン、病室に入ってくる
エリィが陸の傍にいる
フラン「うーっす、ってエリィだけか」
エリィ「えぇ、先程アイルと彗は帰りました」
フラン「そか」
フラン、陸の頬に触れる
フラン「段々傷も治ってきたな。元気な証拠だ」
エリィ「フラン、今日もこちらで休まれますか?」
フラン「あぁ、こいつが目、覚ますまではな。お前に家のことは任せた!」
エリィ「ふふ、分かりました。では、私はこれで失礼します。何かありましたらご連絡を」
フラン「お疲れ。ありがとな」
エリィ「いえ」
エリィ、一礼すると部屋を出て行く
フラン「……」
静かになった部屋でふと息をつくフラン
椅子に座ると陸の手に触れ、指を動かす
フラン「目が覚めたら……最初は少し違和感があるかもしれないけど、すぐにまた元通りのように動くようになるよ。義手だってことにも気が付かない人だっているんだ。ちょっと不安になるかもしれないけどさ、リハビリも俺が一緒についててやるから……」
部屋には呼吸器の音と医療機器の音だけが鳴っている
フラン「どうしてもっと早くに気が付かなかったんだろうな……。お前がばあちゃんの孫だったってことも、お前が俺の為に約束守ろうとしててくれたことも。それにお前の両親が亡くなってたってことも……さ。分かってたらもっと何か変わってたと思うんだよ。っつか、ちゃんと言えよなぁ。どうして言わなかったんだ? 会って早々吉名のばあちゃんの孫だって言ってれば、まじで? ってなって俺とお前の関係だってもっと変わってたかもしれないじゃん」
陸 「……」
フラン「そうしたら、こんな事故……合わなくてすんだかもしれないじゃないか……」
フラン、陸の手を握ったまま俯く
フラン「……ごめん……違うよな。俺のせいだ……。お前はいつも俺を守ってくれてたんだもんな。寂しさからも、あの事故からも……」
フラン、声が震える
フラン「どうしようもないんだよ俺……、ガキの頃からずっとそうで、周りの誰かが死ぬのが怖くて。母さんが死んだ後、どうすればいいか分からないくらい寂しくて。でもばあちゃんがずっと傍に居てくれた……。その後こっちに来てからばあちゃんが死んだって聞いて、ほんとはもうだめだとか考えてたんだ。あの頃からだよ、はっきりと人間はいつか死ぬからだから一緒になんかならない方がいいなんて考え出したのは。そんな俺の傍にアンドロイドはいつでも居てくれたから、これでいいんだって思ってた」
陸 『俺お前が好きなんだ!』
フラン「そんなこと考えてる矢先にお前が現れてあんなこと言うんだもんな。強く突っぱねてもお前は怯まないし、あきれ返って……でも」
ベッドに涙が落ちる
フラン「でも……寂しいとは感じなくなってた……」
フラン、泣きながら陸を見る
フラン「なぁ、陸。どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう。俺、お前が居るときは少しも寂しいだなんて感じなかったんだ。馬鹿みたいなやり取りしてるときが楽しかった。あの時そう言ってやろうと思ってたんだよ……」
陸 「……」
フラン「お前だったら、ずっと傍に居てくれる気がするって……。それなのに……どうしてだよ……、言ったじゃないか……俺より先に死なないって……」
陸 『約束する! 俺は絶対にフランより先に死なないよ!』
フラン「お願いだから……目を覚まして……また俺に笑いかけてくれ……」
***
・フランのオフィス
フラン、資料を見ているがぼーっとしている
そこへ悠里が来る
悠里 「やーっと許可が出た」
フラン「……」
悠里 「っておーい、お疲れですか?」
フラン「え? あ、何。どうした?」
悠里 「……」
悠里、フランの見ていた資料を見る
悠里 「何。……脳の機械化事例……ってお前」
フラン「あぁ……どうなのかなと思って……」
悠里 「お前なぁ、分かってるだろ? もう陸の機械化は80%ぴったりなんだよ。もうこれ以上は……」
フラン「分かってる……」
悠里 「だったら……」
フラン「分かってるけど。……脳を機械化したら少なくとも目は覚める」
悠里 「そうだけど……」
フラン「80%ってなんだ? どうして全身の機械化はいけないことなんだよ……人が助かることに、悪いことなんて一つもないじゃないか……」
悠里、驚く
悠里 「お前……」
フラン「何が悪いっていうんだ……」
悠里、ため息を吐く
悠里 「よくあることだな。今まで感じなかった80%の壁が、身近な人のこととなると越えてしまいたくなるってこと。殆どの人がそうなんじゃないか? 人との別れはどうしても悲しい。そうだよな、助かるすべが目の前にあるのに、それに手をつけられないんだ」
フラン「……」
悠里 「でもな、フラン。いつだって越えてはいけない壁はあるんだ。幸いにもこのまま絶対に目が覚めないってわけじゃない。陸だって今必死に頑張ってると思うよ。それを一番信じてあげるべきなのはお前だろ?」
フラン「分かってる……分かってるんだけど……でも……」
悠里 「雨宮先生の葬儀の時さ、お前の喪服姿見て、やっぱり好きじゃないなぁって思ったんだよ」
フラン「え……?」
悠里、少し微笑む
悠里 「お前いっつもそうなの。すっげー悲しい顔するから。それでしばらくはずーっとそうでさ」
フラン「……」
悠里 「それなのに今回は、雨宮先生の時はそうじゃなかった」
フラン「……」
悠里 「あの後、陸と一緒にいたんだろ? あいつのお陰だったんだろ?」
フラン「っ……」
悠里 「信じようよ。フラン。陸は必ず目を覚ます。お前を寂しくなんかさせないよ」
フランM「絶対に死なないなんてこの世の中にはどこにもなかった」
***
・病室(夕方)
フラン、病室に入ってくると陸の傍に行き隣に座る
フランM「あの時言った『人間はいつか死ぬから好きになんかならない』なんて言葉は間違っているとずっと気が付いていた。アンドロイドだって、ずっと生きているとは限らない。不慮の事故でメモリーを落とし、再起不能に陥ることだってある。だけど人ほど寂しいと思わなかったのはどうしてだろう」
フラン「……」
フラン、陸の手を握る
フランM「永遠なんてことは絶対に無いって分かってる。人はいつか終わる。でも終わるのはいつでもどこでも、どの世界でもそうなんだ。其処彼処に寂しさや悲しさはあって、それを避けて通ることなんて出来ない。それを受け入れようと出来なかった」
フラン、陸の頬に手を伸ばすと呼吸器を取り外す
フランM「だけど、なぁ、陸。俺の夢の詰まった頭に、お前の運命って言葉が焼き付いて離れないよ。馬鹿みたいな空想に想いを乗せて、目が覚めれば俺は永遠を信じて、どうかずっと二人が一緒にいられればいいと、思うんだ」
フラン、陸にそっとキスをする
フランM「|%《パーセンテージ》の奇跡を越えて、その笑顔をもう一度見せてくれないか──」
フラン「……」
フラン、陸の顔を見ていると指が一瞬フランの手を握る
フラン「っ……陸……」
***
・ラボ1前廊下
フラン、白衣姿で歩いてくる
前から浪木が来る
フラン「よーっす! 浪木ちゃん」
浪木 「今帰り?」
フラン「うん! もうね、帰って24時間は寝れるね」
浪木 「お疲れ様」
浪木、笑う
フラン「後は頼んだよー、今回悠里もてこずってたから大変だと思うけど」
浪木 「そうなの? それは怖いな……悠里はもう帰った?」
フラン「さっそく今日から南の島だって……いいよな、あいつは……」
浪木 「フランも行って来ればいいじゃない」
フラン「それが出来ればいいんだけどね……」
浪木 「……そっか」
フラン「おぉっと、エリィが家で待ってるんだった! それじゃ!」
浪木 「うん、おやすみなさい」
フラン「おやすみ~」
***
・アルバート前
外に出てきて空を見上げる
フラン「うー……毎回太陽が突き刺さる……」
フラン、伸びをすると歩いていく
フランM「奇跡とか、運命とか、そういう言葉が俺は大好きだ」
社員が話しかけてくる
社員A「おはようございます。聞きましたよ、今回のは凄いって」
フラン「そうなの、楽しみにしてて」
社員B「フランさん、おはようございます」
フラン「おはよう! 今日も元気に頑張ってー」
フランM「なぜならそれは不確かで、確定できないものだから。そういうのに夢があるって思うわけで、生きていると時々そういうことに出会うことが出来る」
フラン、白衣を棚引かせながら歩く
フランM「そういうときに幸せだなって感じるわけで、アンドロイドなんか夢の塊だなって思うわけだ」
門に近づいてくる
フランM「だから俺はあいつらが好きだった。いや、今でも大好きだ。でも──」
門のところに陸がいる
フラン、笑う
陸 「あ……」
フラン「またお前か」
フラン、被せて言うが笑っている
陸 「はぁ? 久しぶりに会ってそれかよ!」
フラン「いやいや、決まり文句って奴よ」
フラン、笑いながら歩いていく
陸 「待て!」
追いかける陸
フラン「陸」
フラン、陸の手を引く
陸 「うわっ……なに──」
フラン、キスをすると笑う
フラン「愛してるぜハニー♡」
陸 「な、なに馬鹿なこと言ってっ……!」
フランM「どうにもこうにも行き着く先は奇跡と運命にたどり着くわけで。俺は今すげー順風満帆に人生を送っている──」
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