星に願いを SF

翼は宇宙から様々な写真を送るアンドロイドだ。 地球からコンタクトを続ける貴弘が話す、朗読が好きでしかたない。 離れていても、彼らは笑いあっている。 しかし、帰ることの無い旅に、終わりの時は近づいていた……。 (原案ボイジャー) 【研究者×アンドロイド】 (2009.5.21作)
悠二 15 0 0 03/29
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第一稿

・資料室

電子音が鳴っている
机に突っ伏して眠っている貴弘《たかひろ》
目を覚まし、資料室を飛び出す

***
・コンタクトルーム

勢い良く扉を開けて入ってく ...続きを読む
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・資料室

電子音が鳴っている
机に突っ伏して眠っている貴弘《たかひろ》
目を覚まし、資料室を飛び出す

***
・コンタクトルーム

勢い良く扉を開けて入ってくる貴弘
手に握っていた眼鏡をかけてモニターの前に座る
モニターに映る翼《つばさ》の顔を見てため息を漏らす貴弘

翼 「あっ」
貴弘「定例」
翼 「あー、はいはい」

翼、大げさに咳払いをする

翼 「こちら、|T-002《ティーゼロゼロツー》。現在地はー、六十億キロ地点。現在、|○二四○《まるふたよんまる》。異常ありません」

翼、笑っている

貴弘「それで、なんだ、異常が無いならベルなんか鳴らさないでくれ。驚くから」

額に手を当てて目を伏せる貴弘

翼 「貴弘、寝てただろ?」
貴弘「いいや」
翼 「うそ、また机の上だ!」
貴弘「どうして?」
翼 「左の頬っぺたに跡がついてる」

貴弘、左の頬を触りため息をつく

貴弘「それで? 寝ている俺を起こして何も無しとは言わせないぞ」
翼 「うん。寝れなくってさ」
貴弘「それは立派な〝異常〟だな」
翼 「あー」
貴弘「計器類は? ちゃんと確認したのか」
翼 「うーん」
貴弘「なんだ」
翼 「やっぱり騙せないか」

翼、頭を掻いて少し剥れる

貴弘「騙す?」
翼 「眠れないんじゃないです。ごめんなさい」
貴弘「はぁ……で?」
翼 「いつものやってください。お願いします」

両手を合わせて小首をかしげる翼

貴弘「初めからそう言え。俺を騙そうなんか考えるな馬鹿」
翼 「へへへぇ。だって寝てると思ってたしさ。でも机で寝るなよな。体悪くするよ?」
貴弘「大きなお世話。だからベル鳴らしたの俺だけだったのか。で? 今日は何?」
翼 「幸福の王子!」
貴弘「また? 好きだな……これで何度目だ?」
翼 「いいんだよ! 幸福の王子が一番好きなんだ!」
貴弘「分かったよ。これ終わったら寝ろよ?」
翼 「はーい」

貴弘、モニター横に置いてある本を取り、開く

貴弘「幸福の王子」
翼 「……」
貴弘「町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました。 王子の像は全体を薄い純金で覆われ、目は二つの輝くサファイアで、王子の剣のつかには大きな赤いルビーが光っていました。王子は皆の自慢でした」

フェード

***
・コンタクトルーム

貴弘「神さまは『よく選んできた』とおっしゃいました。『天国の庭園でこの小さな鳥は永遠に歌い、黄金の都でこの幸福の王子は私を賛美するだろう』」

翼、鼻水をすする

貴弘「おわり」

後ろで拍手が聞こえる

貴弘「うわ、びっくりした。いつから居たんですか局長……」
局長「途中から。いやぁ、お前の朗読はいつ聞いても上手いな。俺も泣いた」
翼 「はははっ」
貴弘「そりゃ何度も同じ話読まされりゃ、多少上手くはなりますよ」
局長「いや、お前のは心がこもってる。いいよ。凄く」
翼 「ホントだよ。〝幸福の王子〟が一番好きだけど、他のも凄くいいんだよ?」
貴弘「さ、もう終わったんだから寝ろ」
翼 「はーい。あ、データ送るから見て。お礼」
貴弘「ん」
翼 「おやすみなさい。机で寝るなよ!」
貴弘「ふふ」

モニター切れる
送られてきたデータを確認する貴弘
小さな光が無数に映されている写真

局長「こりゃいいもの貰ったな」
貴弘「はい」

ふぅっと息を吐く貴弘

局長「お前もあんまり根詰めすぎるなよ。まだ時間はあるんだから」
貴弘「大丈夫ですよ。でもあまりにいい写真が多くて、今度皆にも手伝ってもらおうと思ってるんですけど」
局長「おーそうか。あー御陵《みささぎ》が一番見たがってたぞ。あいつに手伝わせろ」
貴弘「御陵ですか、あいつ夢中になって作業進まないんじゃないかなぁ」
局長「あっはっは! そりゃありえるな!」

***
・資料室

貴弘M「翼は一人、孤独な旅に出ている。宇宙を漂い、地球へ向けて写真を送り続ける。宇宙探索計画。彼の正式名称はT-002」

机に向かって沢山の写真を眺める

貴弘M「この計画のために作られたアンドロイド。その育成を任された俺は、彼を宇宙へ送り出した後も彼とのコンタクトを続けている」

机の端に置いてある写真立てを手に取る
貴弘と翼が写っている

貴弘M「戻ることの無い旅だ」

***
・資料室

貴弘「御陵、こっちとこっちだったら?」
御陵「両方」
貴弘「はぁ……」
御陵「なんですか」
貴弘「やっぱお前に頼むんじゃなかった」
御陵「どうして?! 俺こんなに名誉ある仕事に就けて感動してるんですよ! 一生懸命にやってるのに!」
貴弘「お前が翼のこと凄く想ってるのはいいと思うんだけどさ、さっきから両方両方ってこのままだったらここにある分全部並べることになるんだぞ?! そんなこと出来ないんだよ! 枚数制限があるの! 分かる?!」
御陵「だって……」
貴弘「だって?」
御陵「ここにある写真全部いいんですもん!」
貴弘「はぁ~……。もう分かった。お前外す」
御陵「貴弘さ~ん! それだけはやめてください! 俺この仕事他の奴に譲るなんか考えられません!」
貴弘「だったらちゃんと仕事しろよ!」

電子音が鳴る

貴弘「おい、行くぞ!」
御陵「はい!」

***
・メインルーム

扉を勢い良く開けて入ってくる貴弘と御陵

局長「おぉ、来たな」
貴弘「何があったんですか?!」
研究員「先ほど流星がT-002に接近しているというデータが送られてきました」
全員 「……」
研究員「流星の大きさはゴルフボール程度、予測軌道はT-002の右方向、横一メートルを通過予定です」
局長「祈るしかないな」
貴弘「翼は?」
研究員「彼らしいですよ。笑っていました。モニター繋ぎますか?」
局長「あぁ、そうしてくれ」

メインモニターに翼が映る

貴弘「翼、大丈夫か?」
翼 「あ、貴弘? メインだとそっち見えないんだもん、面白くないなぁ」
貴弘「そんなことを言ってるんじゃない。どうなんだ」

翼、敬礼をする

翼 「こちらT-002。流星を肉眼で確認。結果は神のみぞ知る、です!」
局長「はっはっは!」
翼 「まぁちょっと怖いですけどね! えーっと、通過予定まであと三分。もし当たっちゃってモニター、ザザーとかなんの嫌だから切っててくださいね!」

笑っている翼

貴弘「何を馬鹿なことを……」
局長「あいつらしいじゃないか」
翼 「あー、貴弘。昨日の見た? 凄かったでしょ? 感想は?」

呆れて笑う貴弘

貴弘「三分後に教えてやるよ」
翼 「了解しました! それでは皆様、後ほど!」

モニター切れる

局長「よし! じゃあ賭けようか! 俺は当たらないだ!」
貴弘「局長……」
御陵「賭けになりませんよ」
局長「あ? そうか? なんだ面白くない」

***
・メインルーム

研究員「流星通過まで後十秒。九、八、七、六、五、四、三、二、一」
全員 「……」
研究員「通過! 接触箇所……」
全員 「……」
研究員「ありません! 流星、T-002と接触することなく通過!」

全員、歓声を上げる
メインモニターに翼が映る

翼 「あっぶねー! 見た? 今の! ギリギリ!」

全員笑う

局長「無事で何よりだ!」
翼 「局長ー、写真送るから見てよ! すっげぇスリル!」

メインモニターに映る
右方向を尾を引いて流れていく星が写っている
全員ため息を漏らす

御陵「すごい……」
局長「あぁ、綺麗だ」
貴弘「……」

貴弘、黙ってメインルームを出て行く

局長「モニター切っていいぞ。あとはあいつに任せるから。おい、翼。今日は長編だな」
翼 「ラッキー! それでは!」

モニター切れる

***
・コンタクトルーム

扉を開けるとモニターに翼が映っている

翼 「遅いですよー」

貴弘、微笑みながら椅子に座る

貴弘「定例」
翼 「はっ! こちらT-002。現在地、六十一億キロ地点。現在、|二二○六《ふたふたまるろく》。未だ地球外生命体との接触なし! 異常ありません!」
貴弘「ふふっ」
翼 「なぁにさ、なんか言ってよ」
貴弘「無事でよかったよ」
翼 「へへへ」
貴弘「これ、見たよ。ありがとう。凄く綺麗だ」
翼 「でしょー? これは貴弘にプレゼントだなーと思ってたんだ」
貴弘「俺に?」
翼 「そー。特別サービスだぜ?」
貴弘「大事にするよ」
翼 「流星の写真見ただろ?」
貴弘「あぁ」
翼 「俺もあんな近くで見たの初めて。さすがにやばいと思ったよ」
貴弘「うん」
翼 「でもさ、そっちにいる人たちより、俺のが神様に近い場所にいると思わない?」
貴弘「神様は宇宙にいるのか?」
翼 「じゃあどこにいるの? お空の上はここでしょ?」
貴弘「はははっ。まぁ考えようによってはそうだな」
翼 「だから神様は俺を見つけて、守ってくれたんだと思うね」
貴弘「じゃあ神様に感謝しなくちゃな」
翼 「そうだよ! あ! なぁ、局長がさ、今日は長編だって」
貴弘「え?」
翼 「流星回避記念」
貴弘「俺はそんなこと了承してはいないけどな」
翼 「お願い!」
貴弘「仕方ないな。今日は何?」
翼 「〝星の王子さま〟」
貴弘「〝星の王子さま〟か……あったかな」
翼 「あるよ。C列、二十八段目の右から六番目」
貴弘「よく知ってるな。読んだのか?」
翼 「うん。一度だけ」
貴弘「そう、じゃあ取ってくるから、待ってろ」
翼 「早くねー」

***
・資料室

貴弘M「C列二十八段目……の右から六番目……。これか。〝星の王子さま〟」

***
・コンタクトルーム

扉を開ける貴弘

翼 「あ、おかえりー。あったでしょ?」
貴弘「あぁ」

貴弘、本をモニターに向けて上げると椅子に座る

貴弘「俺一度も読んだこと無いんだ。だからいつもの様にとはいかないぞ?」
翼 「大丈夫。貴弘の声だったらなんでもいいんだ……」
貴弘「……」

翼を見て少し笑う

貴弘「星の王子さま」

深呼吸をする貴弘

貴弘「レオン・ウェルトに。わたしは、この本を、あるおとなの人にささげたが、子どもたちには、すまないと思う。でも、それには、ちゃんとした言いわけがある」

フェード

***
・コンタクトルーム

貴弘M「どうして翼が〝星の王子さま〟を選んだのか、俺は終盤になって分かった」

貴弘 「ぼくは、あの星のなかの一つに住むんだ。その一つの星のなかで笑うんだ。だから、きみが夜、空をながめたら、星がみんな笑ってるように見えるだろう。すると、きみだけが、笑い上戸の星を見るわけさ。そして、王子さまは、また笑いました」

貴弘M「翼は、読んでほしかったんじゃない。俺に読ませたかったんだ」

貴弘 「ぼくと知りあいになってよかったと思うよ。きみは、どんなときにも、ぼくの友だちなんだから、ぼくといっしょになって笑いたくなるよ。そして、たまには、そう、こんなふうに、へやの窓をあけて、ああ、うれしい、と思うこともあるよ……。そしたら、きみの友だちたちは、きみが空を見あげながら笑ってるのを見て、びっくりするだろうね。そのときは、そうだよ、ぼくは星を見ると、いつも笑いたくなるっていうのさ。そしたら、友だちたちは、きみの頭がおかしくなったんじゃないかって思うだろう。するとぼくは、きみにとんだいたずらしたことになるんだね……」

貴弘M「翼は機械でも、人間よりも人間以上に、心を持っていた」

貴弘 「今夜はね、やってきちゃいけないよ」

貴弘M「俺の心は見透かされている」

貴弘 「……」

翼、言葉に詰まった貴弘を見て微笑む
モニターを見ず、ただ本に目線を落としたまま動かない貴弘
しばらくすると、涙が一粒、本のページに落ちる

貴弘 「ぼく、きみのそば、はなれないよ……」

震える声で呟く貴弘
次々に零れ落ちる涙

貴弘M「どうして探索機に翼が搭乗することになったのか。Tシリーズはもう一台あったのだ。|T-001《ティーゼロゼロワン》。何百年も昔、無人探索機であった一号機は開発も空しく、地球を出ることも出来ずに計画破棄となった。そしてアンドロイド開発が進み、偶然発見されたT計画の計画書を見つけた局長が、T-002を開発。先人達の夢であったT計画は幾百年もの時を経て、実現された。あと数日でこの計画は成功とみなされる。翼との通信が、できなくなるからだ」

貴弘 「ぼく……病気になっ……てるような顔……しそうだ、よ……なんだか」

貴弘、詰まりながら言葉を進めるがうまくいかない
鼻水をすする

翼 「ねぇ、貴弘」

貴弘、静かにモニターの翼を見る

翼 「遠くにいても、触れることが出来るシステム、できないかな……」

翼、静かにモニターに触れる

翼 「大切な人が、悲しい顔をしているとき、どんな言葉をかけてあげればいいのか俺のココは答えを出してくれないんだ」

翼、頭を指差して悲しげに微笑む

翼 「ただ、貴弘に触れたい。そう思うだけなんだ」

貴弘、モニターに映る翼の手に触れる

翼 「ねぇ、貴弘。後悔なんかしないでね」
貴弘「え……?」
翼 「俺と出会わなければよかっただなんて思わないで」
貴弘「……」
翼 「それだけで、俺は十分なんだ。俺はこのために生まれてきたんだから。夢を実現できて、幸せなんだ。皆が笑ってるの見れて嬉しいんだ」
貴弘「翼……」
翼 「でも今日だけはごめんなさい」
貴弘「……」
翼 「涙を堪えられそうにないや……」

機械の音だけが響く部屋
モニター越しに手を重ね合わせる二人

***
・資料室

御陵「どういうことです?」
貴弘「だから、お前の望みどおりになるんだって」
御陵「でも、どうしてまた」
貴弘「翼が送ってくれた写真、一枚も無駄なものなんかないもんな」
御陵「……はい!」

***
・ホール

ホールに所狭しと飾られる、翼から受け取った宇宙の写真
正面の真ん中に貼られている、地球の写真の前に貴弘がいる

局長「いよいよ明日だな」
貴弘「はい」
局長「お疲れさん」
貴弘「局長も」

局長、貴弘の肩を叩く
二人、貼られた写真を見上げる

***
・ホール

翼の写真を見ようと沢山の人が集まっている

局長「えー、本日はT宇宙探索計画完遂式典にお越しくださり、ありがとうございます。この時代に大昔の計画を引っ張り出し、無事成功に至るとは、私自身、正直に申し上げますと、思っておりませんでした。しかし、この日を迎えられたことを大変嬉しく思うと共に、この計画に無くては成功し得なかった存在である、T-002、翼に心よりの感謝とお礼を申し上げたい」

局長「彼はこの過酷かつ、孤独の旅を一人で成し、本日、任務を終了いたします。戻ることの無い旅でした。彼は初めて地球の外に出たとき、一言こう言いました。『すごく綺麗だ。こんなにも綺麗な星に生まれたことを嬉しく思う』と。皆さん、空を見上げることがあれば、思い出してください。翼がいることを。彼は永遠にこの空を漂い続けます。そして、永遠に地球のことを忘れないでしょう」

フェード

***
・コンタクトルーム

モニターで式典の様子を見ている二人

翼 「俺こんな丁寧に言ってた?」
貴弘「いいや。『すっげぇ綺麗! やっべぇ! こんなところで生まれただなんてすげぇ!』って言ってた」
翼 「あははははっ! そういえばそうだった!」
貴弘「ほら、続き、読むんだろ?」
翼 「うん」

貴弘、〝星の王子さま〟の本を開く

貴弘M「もうすぐ、翼との通信が途切れる。今でも少しノイズが入る。でも、モニターの向こうの翼は、相変わらず笑っている」

貴弘 「そうしたら、どうぞ、こんなかなしみにしずんでいるぼくをなぐさめてください。王子さまがもどってきた、と、一刻も早く手紙をかいてください……」
翼  「……」
貴弘 「終わり」

静かに本を閉じる貴弘

翼 「ねぇ貴弘」
貴弘「ん?」
翼 「宇宙人ってやっぱりいると思う?」
貴弘「どうだろうなぁ」
翼 「もしいたらさ……」
貴弘「いたら?」
翼 「ううん。やっぱりいいや!」
貴弘「?」

***
・メインルーム

メインモニターに映る翼
計画に関わったすべての人がモニター前にいる
局長、咳払いをする

局長「えー、翼くん。我々は君に対して、心から感謝している」
翼 「もー、局長。式じゃないんだからいつも通りに簡単に言ってよ」
局長「あー、そうか。翼! ありがとう!」

全員笑う

翼 「いいえ! どういたしまして!」
局長「今までよく頑張ったな。初めてお前が喋ったときは、正直上手くいきっこないと思っていたよ」
翼 「なんで?!」
局長「だって一言目が『腹減ったー』だもんな」
翼 「そだっけ?」
局長「そーだよ! ……でも今ではお前じゃないと出来なかったと思ってるよ。本当に良く頑張ったな」
翼 「局長の泣き顔見れただけで十分だよ」

局長、号泣している
鼻水をすする

局長「あぁ……レア物だからしっかり目に焼き付けとけ!」
翼 「そうするよ」
局長「おい貴弘! お前のためにメインモニターでも繋げるようにしたんだから、そんな隅っこに座ってないでこっちこい!」

翼笑う
静かに歩いてくる貴弘

貴弘「俺のためじゃないくせに」
局長「ははっ! あとどのくらいだ?」
研究員「多少の誤差はありますが、あと五分程度だと」
局長「お前に最後の五分やるよ」

局長、貴弘の肩を叩く

貴弘「……」

貴弘、静かに微笑む

貴弘「定例」
翼 「ふふっ」

翼、咳払いをする

翼 「こちらT-002、現在地、六十四億キロ地点。現在、|一七二○《ひとななふたまる》。異常ありません! 本日ここに任務を完了したことを報告します!」

貴弘、静かに頷く
拍手が起こる
照れ笑いをする翼

翼 「貴弘」
貴弘「ん?」
翼 「ありがとう」
貴弘「なんだよ、改まって」
翼 「いや、お礼言ってなかったなって思って」
貴弘「そうだな。お前には苦労かけられたよ」
翼 「えー」
貴弘「お前のおかげで朗読技術も上がったしな」
翼 「はははっ」
貴弘「俺からも言ってなかったな。ありがとう」
翼 「うん」
貴弘「……」
翼 「……」

静まり返る
ノイズが入る

翼 「俺、やっぱ〝幸福の王子〟が一番好きだな」
貴弘「何度読まされたことか」
翼 「天使は俺を見つけてくれるかな?」
貴弘「あぁ、見つけてくれるよ。そこは一番神様に近い場所なんだろ?」
翼 「そうだよ」
貴弘「だったら─」

ノイズが入る

翼 「貴弘!」

ノイズが入る

翼 「俺」

ノイズが入る

貴弘「翼?!」

ノイズが入る

翼 「たか……ひろ……皆の前……恥ずかし……かも……しれ……ごめ……な……で……これ……だけ……」
貴弘「翼……」
翼 「……好き………だ……よ……」
貴弘「翼!」

モニター、砂嵐が映る

貴弘M「ノイズ交じりに翼の言葉はしっかりと受け取れた。研究所員全員が見守る中、あいつは恥ずかしいかもしれないけどごめんと謝った。最後の言葉に、モニター前にいた全員が泣いていた。そうしてあいつとの通信は、終了した。翼は最後まで、笑っていた」

***
・メインルーム

貴弘M「所詮は機械だと、どこかの偉い人が言った。そうだ、彼は機械で出来ていた。言葉を操り、人の形をしていたが、彼は機械だった。そんなものに感情移入しているなんて、と、鼻で笑う奴なんか、まだまだこの世の中には沢山居る。それでも、俺にとって翼は、唯一無二の存在だった。彼は通信終了後、睡眠すると同時に、電源が自動的に落とされる設定になっている。彼は眠ったまま、この空の旅を続ける。彼はこの空に、これからもずっと居続ける」

誰もいないメインルームの通信機の前で
本を開く貴弘
砂嵐の映るモニター

貴弘 「幸福の王子。町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました」

貴弘M「届くことのない言葉を」

貴弘 「ツバメさん、ツバメさん、小さなツバメさん。私の剣のつかからルビーを取り出して、あの婦人にあげてくれないか。両足がこの台座に固定されているから、私は行けないのだ」

貴弘の声を聞いて、一人、また一人と
メインルームに人が集まってくる

貴弘M「君に向けて送り続ける」

貴弘 「それからツバメは王子のところに戻りました。『あなたはもう何も見えなくなりました』」とツバメは言いました。 『だから、ずっとあなたと一緒にいることにします』」

いつしかメインルームには大勢の人で溢れかえる
貴弘は気にもせずに、朗読し続ける

貴弘M「君は今、どんな夢を見ているの」

貴弘 「かわいそうな小さなツバメにはどんどん寒くなってきました。でも、ツバメは王子の元を離れようとはしませんでした。心から王子のことを愛していたからです」

貴弘M「もし、この声が届いているのなら」

貴弘 「神さまが天使たちの一人に『町の中で最も貴いものを二つ持ってきなさい』とおっしゃいました。その天使は、神さまのところに鉛の心臓と死んだ鳥を持ってきました。神さまは『よく選んできた』とおっしゃいました。『天国の庭園でこの小さな鳥は永遠に歌い、黄金の都でこの幸福の王子は私を賛美するだろう』」

貴弘M「もう一度……」 

***
・資料室

電子音が鳴っている
机に突っ伏して眠っている貴弘
目を覚まし、資料室を飛び出す

***
・メインルーム

小さな画面に小さな地球の姿が映し出されている

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