リボルビング/撃鉄の誘惑 コメディ

自殺志願者の富ヶ谷菅太郎は疎遠だった友人の岩淵と久々にコンタクトをとる。 富ヶ谷には散財による借金癖があり、岩淵にも過去に借金をしていた。その場で岩淵に金を返す富ヶ谷だったが、岩淵は富ヶ谷を散々コケにして金を受け取ろうとはしない。 人間性を否定された富ヶ谷は突如自殺衝動が沸き起こり、白昼堂々38口径リボリバー式の拳銃を引っ張り出し、岩淵の目前で自身のこめかみに銃口を向ける……
菅野 芳貴 134 0 0 06/29
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第一稿

登場人物
富ヶ谷 菅太郎(30) 過去に多大な借金を背負っていたブルーワーカー。自殺衝動が功を期し、驚異的な実力を発揮して現在は完済済み。愛称「トミー」。キャップを一時も離さず目 ...続きを読む
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登場人物
富ヶ谷 菅太郎(30) 過去に多大な借金を背負っていたブルーワーカー。自殺衝動が功を期し、驚異的な実力を発揮して現在は完済済み。愛称「トミー」。キャップを一時も離さず目深に被っている。

岩淵 勇人(30) トミーの友人。過去に日雇派遣アルバイトで苦楽を共にした仲。現在は一流企業勤務でエリート街道まっしぐら。愛称「ブッチ」。

警察官(35)
コンビニ女性店員(20)
黒尽くめの男(年齢不詳)

〇喫茶店「カフェ・べろんちょ」・外観

〇同・店内
   老若男女で賑わう店内。
   3万円が机上に置いてある。
   それを拾い上げ、まじまじと見つめる岩淵勇人(30)。
岩淵「俺、3万円も貸してたっけ?」
   向かいには、上品にコーヒーを飲んでい るキャップを目深に被った富ヶ谷菅太郎(30)がいる。
   富ヶ谷、不敵な笑みを浮かべて
富ヶ谷「ああ、借りてたのは1万円だったけど、色々あって間が開いちゃったからさ……色付けて返すぜえ!」
岩淵「おいおい、いいのかよ? 借金はまだまだあんだろ?」
   富ヶ谷、余裕の籠った大人な表情で煙草を吹かして
富ヶ谷「へっへっへ……んなもん、とうの昔に返し終わりました~ん!」
岩淵「え、マジで!?」
富ヶ谷「マジっす~」
岩淵「200万近くあったよな?」
富ヶ谷「ありやした~」
岩淵「ギャンブラーのお前がよく返せたな」
富ヶ谷「自動車工場で期間工やったんす~」
岩渕「期間工とかって総じて酒、女、ギャンブル好きな野郎共の巣窟だろうよ。あんなとこで金なんか貯められんのかい?」
富ヶ谷「酒は嗜む程度、女とは無縁……ギャンブルからは……一般のギャンブルからは足を洗いやした~」
岩淵「ギャンブルに一般もクソもあるかよ。あ、分かった! 闇カジノとかに手ぇ出して一発当てたんだろ?」
富ヶ谷「興味はありやしたけど、元手がデカくて工面できずにノータッチす~」
岩淵「まあ、トミーはパチンコ、パチスロ専門だったもんな」
富ヶ谷「今はもうやってねーっす~」
岩淵「マジで? 日雇派遣アルバイトの休憩中にちょろっとスロットかましちゃうようなオメーがか?」
富ヶ谷「あん時はどうかしてたんす~」
岩淵「親が肩代わりしてくれたとか遺産が入ったとか?」
富ヶ谷「親とは絶賛絶縁継続中っす~。んなもん鼻からあてにしてねーっす~」
岩淵「どうせ弁護士に頼んで自己破産したんだろ?」
富ヶ谷「ちがーっす~。自力で借金返済したっす~」
岩淵「強がんなって、ギャンブル依存症は治りっこねーんだからよ。犯罪にだけは手ぇ出さずにちびちび返して行けよ」
   岩淵、3万円を富ヶ谷に押し返す。
富ヶ谷「ちょ、ねえ、コレ……?」
岩淵「借金たんまりある期間工だかフリーターだか知らねー低所得者から金巻き上げるほど俺は鬼じゃねーよ。貸してた一万円もこの際チャラでいいからよ。ギャンブルはほどほどにしとけよ!」
   格下の人間に善意を施してご満悦といった表情の岩淵、優雅にコーヒーを飲んでいる。
富ヶ谷「……」
   机上に置かれた3万円が空調の影響を僅かに受け、ヒラヒラと居心地悪そうにしている。
   白けたムードが漂う中、虚ろな眼差しで三万円を見つめている富ヶ谷。
富ヶ谷「(小声)……じゃねーよ」
岩淵「あ?」
   メラメラと憤怒の表情で顔を上げる富ヶ谷。
富ヶ谷「バカにすんじゃねーよ!」
岩淵「おいおい、どーした?」
   富ヶ谷、シャツを捲って股間から38口径リボルバーを引っ張り出す。
岩淵「なんだよ? ミリタリーオタクのうんちくには付き合いきれねーぞ」
   財布の小銭入れから一発の弾丸を取り出す富ヶ谷。これ見よがしにその弾丸を岩淵に見せつける。
岩淵「だからなんだよ?」
   狂った笑みを浮かべながら空の弾倉に一発の弾丸を込める富ヶ谷。
   気色悪そうな表情でその光景を眺めている岩淵。
   銃身を弄ぶようにペロリと舐める富ヶ谷。
   戦慄する岩淵。
   リボルバーの弾倉を耳脇でチキチキ回転させる富ヶ谷、どこか恍惚な表情でその回転音に聞き耳を立てている。
岩淵「き、気持ちわり~」
   銃口を脳天に押し付けて、肝の据わった鋭い眼光で岩淵を睨みつける富ヶ谷。
岩淵「!」
   圧倒されて固まる岩淵。
   この二人の滑稽なやりとりに気を留める客は誰一人としていない。
   ゼイゼイと動悸息切れしだす富ヶ谷、脂汗で額がベットリ。
岩淵「な、なんなんだよ……トミー、気は確か……」
   と、『ガチッ!』と撃鉄が落ちる。
岩淵「!!!」
   空砲の弾倉で、弾は発射されていない。
   ヘナヘナと腰を抜かし、座席から滑り落ちる岩淵。
   ほっと一息つく富ヶ谷。リボルバーから弾丸を抜き、机上の空調の影響を受けて今にも舞ってしまいそうな3万円の上に文鎮代わりとしてそっと立てて置く。まじまじと銃口を舐めるように見つめてから、シャツを捲ってリボルバーを股間に仕舞う。 
岩淵「……」
   机上の紙ナプキンで額の汗を拭う富ヶ谷。
岩淵「……」
   放心状態の岩淵。
   富ヶ谷、爽やかな笑顔で
富ヶ谷「でも僕はある意味、究極のギャンブラーっす~!」

タイトル「リボルビング/撃鉄の誘惑」

〇喫茶店「カフェ・べろんちょ」・店内
   賑わう店内。
岩淵「……」
   富ヶ谷、涼しい顔で煙草を吸い始める。
   岩淵、机上の弾丸や富ヶ谷の股間を震える指先で指さし
岩淵「そ、それ……モデルガンだよな……?」
   富ヶ谷、煙草を深く一服し
富ヶ谷「本物だよ。闇のルートで20万円」
岩淵「な……訳あるか! このご時世、んな簡単にモノホンの拳銃が入手できる訳ねーだろ?」
   富ヶ谷、遠くを見つめて
富ヶ谷「人間、絶望と混沌を味わうと、何でもできるもんだよ。特に……死に際ではね」
   ゾッとする岩淵。
   傍観の佇まいの富ヶ谷。
   重たい沈黙。
   富ヶ谷、机上の弾丸を指先で弄ぶ。
富ヶ谷「弾は一発5万円だったね……一発しか買ってないけど」
岩淵「……」
富ヶ谷「この一発5万円の弾丸が、僕に富と栄誉をもたらしてくれるんだよ」
岩淵「は?」
富ヶ谷「ブッチ、ギャンブル中毒は治らないって言ったよね?」
岩淵「ああ……」
富ヶ谷「それは真実だね。現に僕はさっきみたいに絶望と混沌、憤怒の渦で絞め殺されそうになった時、発作的にやってしまうんだよ。命懸けのロシアンルーレットを……」
   困惑した表情の岩淵。
富ヶ谷「生と死は紙一重って言うじゃん?」
岩淵「あ、ああ……」
富ヶ谷「命懸けのゲームで生還を果たすと、得も言われぬ活気が心の底から湧き上がってくるんだよ」
岩淵「へ、へえ~……」
富ヶ谷「他のギャンブルとは比べ物にならない程アドレナリンが大放出されてるってのが痺れるくらい体中に伝わってくるんだよね」
岩淵「う~む……」
富ヶ谷「それが延々持続して、クソみてーな上司にクソみてーな言いがかりつけられてクソみてーにあしらわれる毎日がガラリと変貌する訳ですよ」
岩淵「……」
富ヶ谷「ブッチ、人生の主役は自分っしょ?」
岩淵「ん? ……ああ」
富ヶ谷「今までの僕は違ったんだよね……何ていうか、主役を取られて脇役で踊らされてたんだよね」
岩淵「まあ、そうだろうな」
富ヶ谷「そんな僕が唯一スターに躍り出ることが可能な方法は、これしかないんすよ」
   ニッコリと笑う富ヶ谷。
   引きつった表情の岩淵。
   富ヶ谷、3万円の上に置いてある弾丸を拾い上げ、おもむろに鼻に突っ込む。
岩淵「は?」
   富ヶ谷、3万円を岩淵に押し付ける。
富ヶ谷「受け取れ!」
岩淵「う!」
富ヶ谷「実はこいつで最後なんだよ。受け取って貰わないと本当の意味での借金完済が果たせない」
   鼻に弾丸を詰めたまま、真剣な眼差しの富ヶ谷。
   困惑した表情の岩淵、渋渋3万円を受け取る。
岩淵「じ、じゃあ、貰うわ……」
   ほっとした表情の富ヶ谷、鼻に詰めた弾丸をよそに平然と煙草を吸い始める。
岩淵「……」
   富ヶ谷、思案に耽った様子でしみじみと一服を楽しんでいる。
岩淵「お、おい」
富ヶ谷「ん、なんだね?」
岩淵「その拳銃がモノホンっだってのは、急にロシアンおっぱじめたトミーの目つきや仕草で十分わかったけどさ……」
富ヶ谷「うん」
岩淵「仮に弾が発射されてたらって思うと、ゾッとしねーか?」
富ヶ谷「死んだ後のことなんて、どーでもいいよ」
岩淵「もし、運悪く弾が発射されてたら、トミーの脳ミソとか血しぶきで俺、とんでもねー迷惑っつーか、トラウマ級の大打撃を被ってた訳だよな……?」
富ヶ谷「まあね、それもある種の目的だからね。僕をコケにした復讐って名目の」
   ゾッとする岩淵。
富ヶ谷「……」
岩淵「……」
   白けたムードが漂う。
   と、指で片方の鼻の穴を押してフンと踏ん張る富ヶ谷。
   ピュっと押し出された弾丸は岩淵が飲み終えたアイスコーヒーのグラスの中にホールインワン。
岩淵「うわ、きったね!」

〇遊歩道
   散歩している富ヶ谷と岩淵。
岩淵「トミーよお、お前いつも外じゃ拳銃持ち歩いてんのか?」
富ヶ谷「うん。心の拠り所っていうか、お守りだからね」
岩淵「マジかよ。ここはアメリカじゃねーんだぞ。職質されたら終わりじゃねーか」
富ヶ谷「された事ないし、拒否できるっしょ」
岩淵「いやいや、あいつら権威を振りかざしてしつこく追及してくんぜ」
富ヶ谷「大丈夫っしょ。股間に仕舞ってるし……あ、でも弾は財布に入れてるからヤバイかも」
岩淵「俺まで巻き添え食うの勘弁してくれよな~」
富ヶ谷「安心せい! デスゲームから生還を果たした今の僕はね、挙動不審とは無縁の元気ハツラツ無敵の全能感に満ちてるんだから」
岩淵「頼むぜ~」
富ヶ谷「(鼻歌)フンフンフフフ~ん」
岩淵「躁鬱かよ……」

〇ラーメン屋「ムヒマヒ・ゲキカラーメン」・外観(夕)
   見るからに激辛ラーメンを提供してきそ うな毒々しい配色を施した外装のラーメン店。

〇同・店内(夕)
   活気が溢れ、賑わう店内。
   フードファイター的なオーラを放つ客が点在している。
   カウンター席で激辛ラーメンを汗だくで食べている富ヶ谷と岩淵。
   先に食べ終える富ヶ谷。
富ヶ谷「ふぅ~、かれえ~」
   まだ半分程しか食べきれていない岩淵。
岩淵「食うの早くね?」
   富ヶ谷、メニューを団扇代わりにして顔面に風を送りながら
富ヶ谷「工場の昼休憩は40分とかで短いからさ、自然と早食いになっちまったんだよ」
岩淵「へえ~」
   完食後も汗が噴き出してくる富ヶ谷、備え付けの箱ティッシュで額や鼻の頭、首筋などを拭いまくる。
   岩淵も負けじと箱ティッシュで汗を拭いまくる。
   二人のラーメンの受け皿にティッシュの残骸が溢れんばかりに敷き詰められている。
   富ヶ谷、襟を摘まんで胸元へメニューで風を送っている。
富ヶ谷「あっちー」
岩淵「あちーならキャップ脱げばいいじゃん」
   富ヶ谷、一瞬固まり
富ヶ谷「いや、大丈夫……」
岩淵「?」
   富ヶ谷、おもむろに煙草を吸い始める。
岩淵「うわ、くっせ!」
   富ヶ谷、構わず一服する。
岩淵「おま……俺、まだ食い終わってねーんだからよ、吸うんじゃねえよ」
富ヶ谷「だって灰皿置いてあるし」
岩淵「ボックス席ならまだしも、カウンター席で距離近いんだからよ……ちょっとは気ぃ使えよ」
富ヶ谷「だって灰皿置いてあるし」
岩淵「くっせえなあ……これじゃ本来のラーメンの味が味わえねえじゃねえか」
富ヶ谷「そんな事言っても、この激辛度合いじゃ舌がムッヒィ~って感じでマヒしちゃってて、味もクソもないっしょ」
岩淵「うっせえ!」
富ヶ谷「ムッキィ~って、感じだね」
   岩淵、滴る汗をよそに無言でラーメンを食べ続ける。

〇公園(夜)
   ひとけのない公園。
   ベンチに座り、缶コーヒーを飲んでいる富ヶ谷と岩淵。
富ヶ谷「なんか、また煙草吸いたくなってきたなあ」
岩淵「ニコ中は辛いねえ」
   キョロキョロと辺りを見渡す富ヶ谷。
岩淵「最近じゃどこもかしこも禁煙区域だぜ」
   と、富ヶ谷、缶コーヒーを一気に飲み干す。
富ヶ谷「ゲボっ!」
   富ヶ谷、咽って股間にコーヒーをこぼす。
岩淵「きったね!」
   富ヶ谷、口元をシュっと拭い
富ヶ谷「あすこの自販機でもう一本買ってくるよ」
   すたすたと自販機に向かう富ヶ谷。
   ×   ×   ×
   空き缶を灰皿代わりに、ベンチで煙草を吸っている富ヶ谷。
   隣で物思いに耽っている岩淵。
   上空では星の輝きがちらほらと確認できる。
岩淵「トミーよお……」
富ヶ谷「ん、なんだい?」
岩淵「ロシアンてよ、一種の自傷癖だよなあ。メンヘラ女子特有のリスカみたいなさ」
富ヶ谷「……う~ん、そうかも知れないねえ……自分を痛めつけて生を再認識してる点は共通してるかもね。まあ、僕は加えて命懸けの確率のゲームを嗜んでいる訳だけれども」
  岩淵、上空を見上げ、どこまでも広がる星空を見渡して
岩淵「俺らってさ、親父から発射された何億匹って精子達の中から抜きん出ておふくろの受精卵ってゴールを勝ち取った訳だろ?」
富ヶ谷「うん」
岩淵「もしゴールを他の精子に取られてたとしたら、俺が俺じゃなくなってるかも知れないんだよなあ」
富ヶ谷「……そだね」
岩淵「実は俺らって……何億分の一の確率でこの世に生を勝ち取った、奇跡の存在かも知れねえよな?」
富ヶ谷「……かもね」
岩淵「てことは言うなれば俺たちゃ奇跡のスーパーアスリートって訳だ」
富ヶ谷「スーパーアスリートって……」
岩淵「とどのつまりさ……命を粗末に扱うって、悲しいことなんじゃないか……?」
富ヶ谷「……」
岩淵「……」
富ヶ谷「僕の子種の水泳大会にゃ、愛はなかったからさ……」
岩淵「……ま、家庭の事情は色々あるよな……だけど、生きてるだけで丸儲けって言うだろ?」
富ヶ谷「え、言うの? 何それ?」
岩淵「ま、ロシアンはほどほどにしとけって話だよ」
富ヶ谷「……考えとくよ」
   暫くバツが悪い雰囲気が漂う。
   と、二人の背後から人影が近づいてくる。
背後の声「ちょっと君たち、いいかな?」
富ヶ谷・岩淵「?」
   後ろを振り向く富ヶ谷と岩淵。
   背後には警察官(35)が立っている。
富ヶ谷・岩淵「!」
警察官「持ち物検査のご協力、お願いしま~す」
岩淵「げ! 職質!」
   酷く取り乱した様子の岩淵。
   状況が呑み込めずボーっとしている富ヶ谷。
   警察官、富ヶ谷を指差して
警察官「じゃ、帽子の君から」
   すかさず挙手する岩淵。
岩淵「ちょ、待てよ……いや、待って下さい!」
警察官「?」
岩淵「まずは俺から、俺からお願いします!」
   岩淵、警察官の前に立ちはだかり、顔だけ富ヶ谷の方を向けて、『早く隠せ!』の目配せやバレない程度のジェスチャーをする。
   富ヶ谷、あたふたとしながら財布の小銭入れから弾丸を取り出して隠す場所を探している。
警察官「なんだ君たち、なにしてんの?」
   警察官、岩淵の肩から富ヶ谷を覗き込もうと首を伸ばす。
岩淵「!」
   富ヶ谷、咄嗟に弾丸を鼻の穴に詰め込む。
   怪訝な眼光で二人を睨みつける警察官。
警察官「どっちが先でもいいからさ、とりあえず鞄と財布の中身見せて」
   言われた通りにする岩淵。
   鋭い眼光で手際良く持ち物検査をする警察官。
   狼狽の色を隠せない岩淵。
   順番待ちの富ヶ谷、どこか上の空。
   持ち物検査を終えた警察官、どこかつまらなそうな表情で
警察官「……じゃ、次はボディチェックね」
岩淵「え!?」
警察官「さ、腕と足広げてジッとしてて~」
岩淵「……」
   岩淵を手際良くボディチェックする警察官。
警察官「(舌打ち)……はい、終了」
   岩淵、富ヶ谷に不安ではちきれそうな眼差しを送る。
   警察官、富ヶ谷を指差して
警察官「じゃ、次は帽子の君ね」
   言われるがまま、フーフーと動悸息切れを押さえ付けながら警官の前に歩み出る富ヶ谷。
   自分の事のように気が気じゃない岩淵。
警察官「じゃ、まず財布見せて」
   財布を差し出す富ヶ谷。
   手際良く中身をチェックする警察官。
   岩淵と富ヶ谷、互いに見つめ合って不安を共有している。
   警察官、財布を富ヶ谷に返して
警察官「君は手ぶらなんだね。悪いけどボディチェックはちょっと入念にするよ。じゃ、腕と足広げて~」
富ヶ谷「……」
   固まったまま微動だにしない富ヶ谷。
警察官「ん、なんだい君? 早くしなさいよ」
   富ヶ谷、息を飲みながら重たそうに腕と足を広げる。
   岩淵、一巻の終わりといった絶望の表情で富ヶ谷を見つめて
   いる。
   得意気な表情で富ヶ谷をボディチェックする警察官。
   富ヶ谷、無念の表情を隠しきれないでいる。
   と、ギョッとした表情で後退りする警察官。
警察官「ひええ!」
富ヶ谷・岩渕「?」
   富ヶ谷の股間を凝視している警察官。
   富ヶ谷の股間は硬質的な膨らみを放ち、先程こぼした缶コーヒーの染みが乾ききっていない。
警察官「君、そういう趣味か!」
富ヶ谷・岩渕「??」
警察官「勘弁してくれ! 私を巻き込むんじゃない!」
富ヶ谷・岩渕「???」
   すたこらさっさと退散してしまう警察官。
富ヶ谷・岩渕「……」
   状況が呑み込めずキョトンとしたままの富ヶ谷と岩渕。
   富ヶ谷の股間を見つめる岩淵。
岩渕「……そういうことか」
   ほっと胸を撫で下ろす岩淵。
   同じくほっとした表情の富ヶ谷、股間からリボルバーを引っ張り出して
富ヶ谷「お守りって言ったろ」

〇街路(夜)
   歩いている富ヶ谷と岩淵。   
岩渕「一時はどうなることかと思ったぜ」
富ヶ谷「僕もハラハラドキドキしたけど、ロシアンにはてんで及ばなかったね。あのスリルと言ったら……言葉じゃ到底表せないね」
岩渕「トミーよお、そう毎回空砲で済む訳ねーだろ、確率的に? 5分の一か六分の一だろ? 日が悪けりゃ死ぬぜ」
富ヶ谷「生と死は紙一重だから……僕はこのやり方でしか人生に希望を見い出せなくなってしまったんだよ」
岩渕「マジで究極のギャンブラーだな。そんな命削んねーと生を実感できねーなんて重症的にイカれてるぜ」
富ヶ谷「イカれてる……なんかクールな響きだね」
岩渕「お前ってやつぁーねえ、もっとこう……なんかあんだろ? いい年なんだから彼女作るとかして旅行でもしろよ」
富ヶ谷「……ぶっちゃけ、僕ずっと童貞だから、彼女の作り方なんか知らないよ」
岩渕「童貞っつっても、風俗とかは行った事あるよな?」
富ヶ谷「まあね……でももう何年も行ってないよ。だってクリーチャーとか妖怪みたいなのばっかなんだもん。帰路につくにつれて虚しさが増してさ……家に着いた頃には絶望って感じでロシアンの引き金を引きそうになるんだよ」
岩渕「おま、そりゃ指名しねーからだぞ」
富ヶ谷「タイプのコ、指名したとしてもなぜかクリーチャーか妖怪みたいなのが現れるんだよ」
岩渕「ちゃんとネットの書き込みとか見て下調べしろよな」
富ヶ谷「そうしてる自分がゲスで惨めだよ」
岩渕「そう深刻に考えんなって。男は元からゲスな生き物なんだって。楽しんだもん勝ちだぜ」
富ヶ谷「……」
岩渕「なんか話してる内に行きたくなってきたな」
富ヶ谷「え?」
岩渕「最近彼女と別れてさ。人肌恋しーんだよな……」
富ヶ谷「……」
岩渕「トミーよ。これから一緒に、今から一緒に、風俗行こうぜ!」
富ヶ谷「ええ!?」
岩渕「今日は3万の臨時収入があったからよ、奢るぜ!」
富ヶ谷「えええ!?」
岩渕「取り急ぎ、無料案内所に寄ってよ、仕事で培った持ち前の営業トークで優良店を聞き出してやっからよ」
富ヶ谷「ええええ!?」
岩渕「生を実感するって、突き詰めたらそういうことだぜ」
富ヶ谷「……」

〇風俗街(夜)
   妖しいネオンで彩られた風俗街。酔っ払いのオッサン、水商売の女性らが点々としている。
   意を決した表情で歩いている富ヶ谷と岩淵。
   無料案内所が点在している。
岩渕「ちょっと腹減ったな」
富ヶ谷「うん」
岩淵「ちょっくらコンビニ寄って、ホットスナックと栄養ドリンクでも買おうぜ」
富ヶ谷「うん」
岩淵「そいつも俺の奢りでかまわねえぜ。なんたって今日は3万円の臨時収入が入ったんだから!」
   富ヶ谷、複雑な表情で
富ヶ谷「……あ~い、わがりやんした~」

〇コンビニ・外観(夜)

〇同・店内(夜)
   閑散とした店内。
   店内後方の栄養ドリンクコーナーで、数あるドリンクの中から最強の一本を吟味している富ヶ谷と岩淵。
岩淵「こうも種類があると目移りしちゃうなあ」
富ヶ谷「僕は安いやつでいいや」
岩淵「そう言うなって。一番高いこいつにしようぜ」
   岩淵、価格1500円のウルトラスーパーデラックスドリンクを2本手に取る。
富ヶ谷「え!? いいのかい?」
岩淵「あたぼうよ! ついでにこの勃起薬も買おうぜ」
   岩淵、栄養ドリンクコーナー内に併設してあるサプリメントコーナーからウルトラスーパーデラックスな勃起系のサプリメントを2パック手に取る。
富ヶ谷「マ、マジかい? そんなの飲んだら暴発しちゃうよ!?」
岩淵「へっへっへ、これで最強無敵のリボルバーがいっちょ上がりだぜ~」
富ヶ谷「どっひゃ~」
   と、前方のレジカウンターから騒然とした物音と悲鳴が上がる。
女性店員「きゃ~!!!」
富ヶ谷・岩渕「!」
   後方の富ヶ谷と岩淵、身を屈めて前方レジの様子をうかがっている。
   前方レジにて、目出し帽で黒尽くめの男(年齢不詳)が出刃包丁を女性店員(20)に向けて何やら喚いている。
富ヶ谷・岩渕「!」
黒尽くめの男「さっさと金を詰めろ、メス豚!」
   女性店員、恐怖に怯えながらコンビニ袋にレジの金を詰めている。
   驚愕の表情の岩淵、富ヶ谷の肩に手を乗せて
岩淵「ちょ、待てよ……おいおい、こんなドラマみたいな展開ありか~?」
   驚愕の表情の富ヶ谷、岩淵の肩に手を乗せて
富ヶ谷「人生はドラマよりも奇なりって言うもんね」
岩淵「言わねーよ!」
   レジ袋に金を詰め終わる女性店員、泣きそうな表情で黒尽くめの男に差し出す。
女性店員「た、大変お待たせ致しました。お箸のご利用はいかがなさいますか?」
黒尽くめの男「あ? お箸だ?」
女性店員「(しまったの表情)あ……」
黒尽くめの男「なんだオメー、俺が箸で金を数えるとでも思ってんのか?」
女性店員「あの、その……大変失礼しました! またのご利用をお待ちしてます!」
黒尽くめの男「またのご利用だ? 二度も同じコンビニに強盗入る奴がいるか!?」
女性店員「(しまったの表情)あの、その……あわわ……」
   と、富ヶ谷を肘で突っつく岩淵。
富ヶ谷「ん?」
岩淵「トミーよ、今こそリボルバーの威力を発揮する時なんじゃないのか?」
富ヶ谷「え? まだウルトラスーパーデラックスドリンクとウルトラスーパーデラックスサプリメント飲んでないよ?」
岩淵「そっちのじゃなくて、リアルリボルバーの方だよ!」
富ヶ谷「ええ? そんな事言ったって、ここコンビニだよ? 監視カメラとかに映っちゃうじゃないか」
岩淵「まあ、そうだけどよ……でも、こんなチャンス滅多にねえぜ。アメリカじゃヒーローとしてメディアに引っ張りダコになんぜ!」
富ヶ谷「そんな事言ったって、ここ日本だよ……」
岩淵「一発逆転の人生が花開くかもしんねーんだ、行け! 男だろ?」
富ヶ谷「今はユニセックスな時代だから男も女も関係ないよ……」
岩淵「つべこべ言ってねーで行け!」
   岩淵、前方のレジに向かって思いっ切り富ヶ谷の背中を押す。
富ヶ谷「うわあ!?」
   レジ付近につんのめる富ヶ谷。
岩淵「しんがりはまかせろ!」
富ヶ谷「しんがりって……後ろに敵は居ないじゃないか」
   と、出刃包丁の刃先が富ヶ谷の目の前に突き立てられる。
富ヶ谷「!」
黒尽くめの男「おめーら、なにブツクサ言ってんだあ?」
   富ヶ谷の前に仁王立ちし、虚勢を張る黒尽くめの男。
富ヶ谷「あわわ……」
岩淵「さっさと引っ張り出せよ、股間のリボルバーを!」
   富ヶ谷、無我夢中で股間からリボルバーを引っ張り出す。
黒尽くめの男「あ?」
   富ヶ谷、一心不乱にリボルバーを黒尽くめの男に向ける。
   銃口が震えて標的が定まらないでいる。
黒尽くめの男「なんだ、そのモデルガン?」
富ヶ谷「え?」
黒尽くめの男「そんなんでこの俺が怖気付くとでも思ってんのか?」
富ヶ谷「うう……」
   富ヶ谷のリボルバーに見切りを付けた岩淵、店内商品で何か武器になりそうな物をそそくさと探している。
   黒尽くめの男、じりじりと富ヶ谷の元へ歩み寄る。
   恐怖におののいてリボルバーを構えたまま硬直する富ヶ谷。
黒尽くめの男「おい」
富ヶ谷「……」
   出刃包丁の刃先で富ヶ谷が被っているキャップのツバを跳ね除ける黒尽くめの男。
富ヶ谷「!!!」
   岩淵、ビール瓶を商品棚の角で割って、刃先を振りかざして勢いよく富ヶ谷と黒尽くめの男の前に現れる。
   そこには頭皮がつるっぱげた無残な富ヶ谷の姿が。構えていたリボルバーは垂れ下がっている。
岩淵「げ! ト、トミー!」
   富ヶ谷、混沌と絶望の表情で立ち尽くしている。
岩淵「ト、トミー……おま、それ……」
   岩淵、目のやり場に困っている。
黒尽くめの男「おい、オメーら。なにブツクサやってんだ? (岩淵を出刃包丁で指差して)オメーの方はなんだ? そんな安っぽい瓶ビールで俺とやり合おうってのか?」
   岩淵、狼狽えながらも割れた瓶ビールの刃先を黒尽くめの男に向けて構える。
黒尽くめの男「いきがりやがって、なめんじゃねーぞ」
   富ヶ谷を肩で押し除け、岩淵の方へ歩み寄る黒尽くめの男。
黒尽くめの男「どけ、ハゲ!」
富ヶ谷「!!!!!」
   富ヶ谷、激しい動悸息切れで全身が地震のように震えている。
黒尽くめの男「どけって、クソハゲ!」
富ヶ谷「うおおおおおおおお!!!」
黒尽くめの男・岩渕「!?」
富ヶ谷「うおおおおおおおおおおおお!!! 誰がハゲじゃいいいいいいいいい!!!!!」
黒尽くめの男・岩渕「???」
   号泣と絶叫の富ヶ谷、絶望と混沌を噛みしめ、震える指先で財布から弾丸を取り出す。
岩淵「ちょ……ト、トミー」
   富ヶ谷、リボルバーの弾倉を開き、一発の弾丸を込める。
岩淵「よし! トミーも参戦してくれい!」
   富ヶ谷、弾丸をセットしたリボルバーの弾倉をチキチキと回転させる。
岩淵「ん?」
   富ヶ谷、銃口を自身のつるっぱげのこめかみに押し当てる。
岩淵「そ、そっちかよ!? よりによって、この場に及んで!」
黒尽くめの男「なにやってんだオメーら? お笑いライブの稽古でもしてんのか?」
   悟りの境地の富ヶ谷、泣き腫らした目をよそに満面の笑みを岩淵に見せる。
富ヶ谷「ブッチ……あばよ……」
岩淵「ト、トミー?」
   引き金に指をかける富ヶ谷。
岩淵「ちょ、待てよ!」
   引き金を引く富ヶ谷。
   岩淵、咄嗟に富ヶ谷のこめかみに押し当てられた銃口を押し除ける。
   『パァーン!』と発砲音が響き渡り、銃弾が天井の照明器具に当たる。
富ヶ谷・岩渕・黒尽くめの男・女性店員「!!!!!」
   パラパラと天井から割れた蛍光灯の破片が黒尽くめの男の頭上に舞い落ちる。
黒尽くめの男「オ、オメー……そ、それ、モノホンのハジキじゃねーか!」
   恐れおののく黒尽くめ男、すたこらさっさと退散してしまう。
   呆然と立ち尽くす富ヶ谷と岩淵。
   何とも言えない複雑な空気感が漂う。
   キョトンとした表情で富ヶ谷と岩淵を見つめている女性店員。
   と、店外からパトカーのサイレン音が響き渡ってくる。
岩淵「げ!」
富ヶ谷「う!」
   互いに顔を見合わせて目配せする富ヶ谷と岩淵。
岩淵「ドラマお決まりのワンシーンの再現と行きますかい?」
富ヶ谷「右に同じく……」
岩淵「回れ~右!」
   女性店員に背を向ける富ヶ谷と岩淵。
女性店員「?」
   店外へ向かって全力疾走する富ヶ谷と岩淵。
女性店員「……」


〇河川敷(未明~早朝)
   ひとけのない薄暗い河川敷。
   原っぱの上で大の字で寝そべっている富ヶ谷と岩淵。二人とも胸を押さえ付けている。
   岩淵、ゼイゼイと
岩淵「ここまでくりゃ、安心だろ」
   富ヶ谷、ゼイゼイと
富ヶ谷「そ、そうだね……」
岩淵「ま、後日どこからともなく事情聴取の恐怖が待ち受けてんだけどな」
富ヶ谷「(不安気な表情)……」
岩淵「ま、そう気を落とすなって。情状酌量の余地ありまくりだと思うからよ」
富ヶ谷「うん……」
   辺りが徐々に明るくなってゆく。
岩淵「トミーよ」
富ヶ谷「なんだい、ブッチ?」
岩淵「リボルバー、川に投げ捨てろよ」
富ヶ谷「え?」
岩淵「もう必要ないだろ? 弾、なくなっちまったし」
富ヶ谷「いや、これはお守りだから」
岩淵「持ってても厄介な代物だしよ、捨てちまえよ」
富ヶ谷「そんな事言ったって……」
岩淵「あんとき俺がどつかなかったらお前、死んでたんだぜ」
富ヶ谷「う、うん……」
岩淵「てことは、今はある意味ボーナスステージだ」
富ヶ谷「……」
岩淵「リボルバーなんかなくても生まれ変わった気持ちで、この先やってけんじゃねーか?」
富ヶ谷「……そ、そうかな……?」
   ×   ×   ×
   日の出の光が川に射し込み、水面が綺麗に輝いている。
   意を決した表情でリボルバーを見つめている富ヶ谷。
   隣で見守る岩淵。
   富ヶ谷、大きく振りかぶってリボルバーを川に投げる。
   リボルバーは水面遠くまで飛んでいき、ポチャンと水中に落ちる。
   しんみりと水中に落ちていくリボルバーを見守る富ヶ谷と岩淵。
岩淵「トミーよ、長い一日だったな……」
富ヶ谷「そうだね、ブッチ……」
   朝日が顔を出し、日差しが富ヶ谷のつるっぱげの脳天に反射する。
   反射した光が岩淵の目を眩ます。
岩淵「う!」
富ヶ谷「あ……」
   咄嗟に頭を両手で覆う富ヶ谷、引け目の表情を隠しきれないでいる。
   岩淵、目を細めながら
岩淵「気にすんなって。『男ってのは髪の量で決まるんじゃない、ハートで決まるんだ』って言うだろ?」
富ヶ谷「そ、そうなのかい?」
岩淵「堂々とありのままの己を貫いて行けよ!」
富ヶ谷「……」
   頭から手を放す富ヶ谷。
   朝焼けの日差しが富ヶ谷の脳天を容赦なく照らす。
   反射がきつ過ぎて目を開けていられない岩淵。
富ヶ谷「僕の人生、今が一番輝いてる時かも知れない……良い意味でも、悪い意味でも」
岩淵「(微笑んで頷く)……」
   岩淵、懐からサングラスを取り出してターミネーターのようにクールにかける。
富ヶ谷「ちょ、待てよぅ!!!」
   富ヶ谷、茶目っ気たっぷりに岩淵をどつく。

(完)      

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