盲目の目撃者 ミステリー

とあるカントリーハウスの夕食の席。5人の宿泊客の目の前で管理人が死亡する事件が起こり、探偵の森悠仁が推理を繰り広げる。容疑者は、盲目の19歳マリアとその姉カップル、向井という男とその愛人の5人である。中でも目の手術を受けたばかりのマリアは事件の重要な鍵を握っていた。
志賀内のぞ美(脚本家志望/シナリオセンター出身) 10 0 0 04/24
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第一稿

○オフィスビル・外観

○同・13階・森探偵事務所
   森悠仁(42)がデスクに足を乗せ、
   煙草をふかしてくつろいでいる。
森「何か面白い事件起きないかな~」
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○オフィスビル・外観

○同・13階・森探偵事務所
   森悠仁(42)がデスクに足を乗せ、
   煙草をふかしてくつろいでいる。
森「何か面白い事件起きないかな~」
   窓越しの廊下で清掃員のおばちゃんが
   唖然として見ている。
   2人、目が合う。

○カントリーハウス・外観
   森の中の開けた場所に建つ宿舎。
   大きなカントリー風の建物である。

○同・食堂(夕)
   5人の男女がテーブルを囲み食事中。
   サングラスをかけた水沢マリア(19)、
   その隣に水沢麻耶(24)、荒川守(26)。
   向かいの席に向井(35)、ゆかり(29)。
   両側を見渡せる一人席に野村二郎(64)。
   マリアの食事に時たま手を貸す麻耶。
   野村がポタージュスープを一口飲む。
   食堂の扉が勢いよく開き、沙織(44)が
   興奮気味の形相で怒鳴り込んでくる。
沙織「ここで何やってんのよ、あんた!」
   全員が沙織の大声に驚き、沙織を見る。
向井「さ、沙織!」
ゆかり「沙織?え!ヤダ、この人奥さん?」
   向井が気まずそうに立ち尽くす。
   麻耶と荒川の口はあんぐりとしている。
ゆかり「(小声で)思ってたよりおばさん」
沙織「ちょっと!今聞こえたわよ、ブス」
ゆかり「は?怒ると今以上にしわ増えるよ」
   ゆかりと沙織が口喧嘩を始める。
   その最中、突然、野村が苦しみだす。
   荒川が異変に即気づき、席を立つ。
荒川「ちょっと、大丈夫ですか?」
   荒川が後ろから支えるが、倒れる野村。
   ゆかりと沙織も静かになる。
   野村は泡を吹き始めて動かなくなる。
   荒川が野村の脈を診る。
荒川「ウソだろ?死んじゃった」
   放心状態で野村の亡骸を見ている一同。
   マリアだけは、席を動かず冷静である。
   ×       ×       ×
   野村の遺体を囲むように、荒川、向井、
   ゆかり、沙織がいる。
   食堂席にマリアと麻耶が座っている。
   森が警察と一緒に入ってくる。
森「皆さん落ち着いて。これから鑑識もきます
 からね。建物外には出ないでください」
   森が手袋をしながら言う。
   ×       ×       ×
   全員が食堂席に座っている。
   野村の遺体は既に運び出されている。
   森が野村のいた位置に立ち話始める。
森「該者はここ、カントリーハウスの管理人、
 野村二郎さん64歳。あなた方はここの宿泊客
 で合ってますね?」
   ゆかりが沙織を指さし、
ゆかり「このおばさんは違うわ」
   沙織がゆかりを見てムッとする。
沙織「夫の浮気現場に乗り込んでやろうと思っ
 てつけてきたの。そしたらこんな事に」
森「ほ~、何やら事件の匂いが……」
ゆかり「確かに登場のタイミング偶然にしちゃ
 良すぎね。おばさんが犯人じゃないの?」
森「まあまあ、落ち着いて」
   睨み合うゆかりと沙織に、冷静な森。
森「そちらの御三方の関係性は?」
   3人の真ん中に座る麻耶が荒川を指し、
麻耶「こっちは私の彼です」
   麻耶が逆隣りにいるマリアを指し、
麻耶「そしてこっちが私の妹です」
森「なるほど。失礼ですが妹さんは……」
   麻耶が淡々と答える。
麻耶「目が見えません。この間手術を試みたん
 ですけど、元々30%の成功率で……」
   ずっと正面を向くマリアが口を開く。
マリア「姉が励まそうと連れてきてくれたんで
 す。本当は姉のデート旅行だったのに」
麻耶「最初からマリアを連れていくつもりだっ
 たからよ。守に逢って貰いたかったし」
マリア「こうやっていつも優しいんです」
   ほのぼのと2人の会話を聞いている森。

○同(朝)
   T『翌日』
   森が腕を組み、推理結果を披露する。
森「皆様、昨夜はお疲れ様でした。皆様のお話
 で真相が見えてきました。調べたとところ、
 野村さんはそば粉アレルギーです」
   自信ありげな森の言葉に驚く一同。
森「おそらくポタージュスープにそば粉が」
荒川「管理人のアレルギー食品出さないだろ」
森「普通出しません。第三者が加えたんです」
   人差し指を立て、どや顔をする森。
森「問題は誰がどんな動機で殺ったのか」
   不安気に森の話を聞く一同。
森「まず、荒川さん、あなたは昨日の夕食前、
 1人で厨房に現れましたね?」
荒川「あれはトイレを探して迷っただけです」
   動揺する荒川。

○(回想)同・厨房(夕)
   大きな厨房に料理人が1人いる。
   ワゴンにスープの大鍋と重なった皿。
森の声「あなたはトイレに行くと席を立ち、厨
 房でスープの鍋にそば粉を投入した」

○元のカントリーハウス・食堂(朝)
   動揺を隠せない荒川。
荒川「何で俺が?証拠はあんのか?」
森「目撃者がいたんですよ」
   荒川が冷や汗をかく。
森「マリアさん、あなた、本当に目は見えてな
 いんですか?演技……ではないですか?」
   全員がマリアに注目し、静まり返る。
森「手術、実は成功の兆しが表れているので
 は?一瞬でも見えた瞬間があったのでは?」
   ずっと正面を向いていたマリアが
   無言で少し下を向く。

○(回想)同・食堂
   食堂の席を立つマリア。
森の声「あなたは1人でトイレに行った」
   隣の麻耶がマリアを気遣う。
森の声「おそらく、その時既にぼんやり眼が見
 えていたのでしょう。あなた、夕べの取調で
 口を滑らせましたね」

○(回想)同・ゲストルーム104号室
   シングルベッドが2台置かれた客室。
   森とマリアが2人きりで話している。
森「あなたは夕食前、席を離れましたか?」
マリア「はい。お手洗いに1人で」
森「ここのトイレは探しづらいようですね。眼
 が不自由ならなおさら迷うでしょ?」
マリア「匂いで厨房に出たとわかりました」
森「その時厨房には誰かいました?」
マリア「いいえ。誰も見ませんでした」
   その直後、マリアに焦りの色が出る。
   森がマリアを怪しむような目で見る。
             (回想終わり)

○元のカントリーハウス・食堂
   全員がマリアを疑いの目で見る。
   サングラスの下でマリアが渋い表情。
マリア「私耳が良いの。人けは無かったわ」
森「ただ言葉を間違えただけでしょうか?」
   沈黙が流れる。
   麻耶がマリアの顔を横から見つめる。
   マリアはサングラスの下で涙目である。
マリア「今は見えません。食堂で微かに見え
 て、厨房に迷い込んだのもわかりました。初
 めてはっきりと見えた瞬間、目の前で守さん
 が鍋の前で何かしてました。でも瞬きをした
 らまた真っ暗に戻りました」
荒川「そんな……俺は何も」
麻耶「マリア、なんで黙ってたの?」
   マリアが涙を流す。麻耶が森を見る。
森「マリアさんはお姉さんが大好きなんです。
 大切な人の恋人はかばいたいものです」
   麻耶がマリアを再び見て、涙する。
森「言い忘れましたが、今お話した推理は、私
 ではなく、マリアさんの推理です」
   下を向いていたマリアが顔を上げる。
森「マリアさんは勘違いで荒井さんをかばって
 いたようです。荒川さんには動機がない」
   森は沙織を指さす。目が泳ぐ沙織。
沙織「私?管理人さんのそば粉アレルギーなん
 て知らないし、そもそも面識もないわよ」
森「まだ何も言ってないのに良く喋りますね。
 管理人さんのそば粉アレルギーを知ってい 
 るのは料理人だけです。しかし、そんな分か
 りやすい犯行が出来るとは思えません」
   焦りの表情がやまない沙織。
森「ゆかりさんもそば粉アレルギーですね」
   ゆかりがハッとし、不安気に頷く。
森「沙織さん、あなたは夫の浮気相手であるゆ
 かりさんの殺害を計画してしくじった。この
 スープはポタージュスープ。ゆかりさんはカ
 ロリーを気にして、スープを飲まなかったそ
 うです。そこまで考えが及ばなかったようで
 すね。まさしく素人の犯行です」
   ゆかりと向井が唖然として沙織を見る。
   しばらく沈黙が流れ、沙織が泣き出す。
沙織「(震える声で)私がやりました」
   ×       ×       ×
   沙織が警察に手錠をかけられている。
麻耶「あれ?じゃあ守は厨房で何してたの?」
荒川「(当り悪そうに)実はスープの味見を」
ゆかり「やだ~、鍋から直接スプーンで?」
荒川「こんな事恥ずかしくて言い出せない」
森「マリアさんは目が見えただけでもショック
 を受けていますから、スープ鍋の前で荒川さ
 んが何かしている、それが何かを入れている
 という勘違いに繋がったんです」
マリア「事件をややこしくさせてご免なさい」
   麻耶がマリアを優しく抱き寄せる。
   荒川もマリアの席に回り込み肩を抱く。

       〈終〉

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