これは、どのくらい前の出来事だっただろうか。
光が、宇宙空間で紅く輝いていた。
ある時、その光は一際強く光り、四方八方に拡散していく。いくつにも分かれたそれは、宇宙の闇へと消えていく。
西暦1981年、中南米のとある王政国家。
この王国は前国王が死亡して以来、飢饉や伝染病、戦争に悩まされ続けていた。
それを見かねたとある人物が、わずか数ヶ月で王国に活気を取り戻した………が、国民はそれをよく思ってはいなかった。その理由は、他国への戦争や無理な産業開発を国民に強いたから。
この頃の国王は自己中心的で、王国は独裁国家へと成り果ててしまうのであった。国王による独裁が進んでいき、国民の不満は溜まるばかり。
そんなある時、この国に転機が訪れた。
不意に空が明るく輝き、視界全部が覆われるほどの光が王国を包み込んだ。否、その光は王国を『滅ぼした』と言うべきだろう。
光は王国を破壊しつくしていった。生き残ったのはごく少数の人物だけであった。
そして、17年の間に新たな王国が北米に建国された。そこでまた新たな文明ができあがっていった。
西暦1998年、北米の某所。前の王国と比べて、国民から不平不満は出ることなく暮らしていた。一時期、伝染病が流行りはしたが、ある人物の活躍により無事に伝染病は終息した。
そんなある時、一部の国民の間でこんな噂が飛び交うようになった。
『特定の儀式をすると、神を呼び出して願いを叶えてくれる』と。しかし、具体的な方法を知っている人物はごく少数であった。その噂はどこから出てきたのか?その答えを知るものはいない。
「こっちだ。ここなら空間が広いから、ここで儀式をやろう。」
薄暗い洞窟の中で数人の男が地面に魔法陣を描く。
「ああ………何故………滅んで………?」
なにかの言葉を呟いた。
「言葉はこれでいいはずだが………」
「まだか………?」
いくらか時間が経った。その時。
『何か』が現れた。
「おお………やった!やったぞ!」
「ははははは………私たちの願いが叶うのだ!!!」
人々はその神を名付け、いつしかその名前も忘れ去られていった。
「今、空港に着いたところ。」
女子大生が、何かに思いを馳せたような表情でスマホ通話をしている。
「せっかく明日から、学校で任意参加の旅行イベントあるのに来なくていいの?」
電話の相手は、女子大生に問う。
「ごめん、みゆ。わたしは実家に帰ることにしたんだ。ほのかは参加するって言ってた?」
「うん、言ってたよ。」
「行かない人には旅行先が知らされないって、何があるんだろう?確か、口外されないためみたいなこと言ってたよね………」
女子大生は、首を傾げる。
「一応、修学要素もあるらしい。現地の人に話を聞く会とかあるんだってさ。わたしはずっと遊びたいのにな〜。」
電話相手は、電話の向こうで愚痴をこぼした。
「へぇ、そんなのあるんだ………それじゃ、ほのかにもよろしく伝えといて。わたしは8月いっぱいまでは実家に帰るって。」
通話を切った。
「さてと。」
女子大生は、深呼吸をした。
「久しぶりに姉さんがわたしを見たら、なんて言うかな。」
空港でガヤが聞こえる中、荷物を持って歩き出す。
「今のわたしの姿を、姉さんに見てもらおう。帰ったら、姉さんや故郷の人たちにたくさんごちそうを食べさせてもらいたいな………!」
「美和蘭(みなぎし)様。どうなされましたか?」
空港の案内人が話しかけてきた。
「あ、なんでもありません大丈夫です!」
「それでは、ご案内致しますね。」
「よろしくお願いします!」
女子大生は案内されて、飛行機に乗り込んだ。
飛行機の中は、既に何人もの人がいた。
「楽しみだなぁ………」
しばらくして飛行機が出発した。
女子大生の名前を、美和蘭陽菜(みなぎし ひな)といった。美和蘭陽菜は一人暮らしをしていたが、夏休みということで実家に帰省することにしたのだ。
飛行機に揺られながら眠りについた。
目の前になにかの光景が広がってきた。
「待って!どうして置いていくの?」
そこは、夜の森だった。
「ねぇ。痛い………痛いよぉ。」
重症を負った女の子は掠れた声を出しながら、目の前の友人を見ている。
「痛い?苦しい?……………そっか。せいぜいがんばってね。」
「ぎゃっ!あぐっ!!!」
女の子は、友人にナイフを突き立てられ、そのまま血を流して息絶えた。
死んだ女の子の綺麗な黒髪から艶が無くなっていく。
「あらあら、大事なお友達にそんなことしていいのかしら?」
どこからともなく、謎の声が聞こえた。
「………あ。」
ナイフを持ったまま呆然と立ち尽くす。
「あぁぁぁぁぁ!!!ああああああああぁぁぁ!!!」
「うふふっ!あなたは追い詰められたことで変わってしまった。精々足掻くがいいわ………**ちゃん。」
美和蘭陽菜(みなぎし ひな)は、目を覚ました。
「っ!!!」
飛行機に揺られていたため、頭痛がした。
「飛行機の空気………わたしには合わなかったのかな?」
それでも美和蘭陽菜は、これから向かう場所のことを思うと楽しみで仕方なかった。
「姉さん、それに故郷の人たち。みんな、わたしが帰ってきたってことを知るとどんな反応をするかな………」
とある理由があって、高校の時から大阪で一人暮らしをしていた美和蘭陽菜。今年に大学生になり、沖縄の実家に帰省することにした。
「あ………お腹すいた………早く帰って村のごちそうが食べたいよ………」
しばらく飛行機に揺られ、目的地の那覇空港に着いた。
美和蘭陽菜の生まれ故郷、蒼梧村(あおぎりむら)。人口は100人程。
美和蘭陽菜は2019年の4月から大阪に越して、今年やっと蒼梧村に帰省したのだった。
正確には丁度1年前に蒼梧村に帰ってきていたが、大した用事ではなかったためか、美和蘭陽菜はその時のことを覚えていない。
「姉さんに電話してみよう。今は何をやってるのかな?」
12時9分。時刻は正午を回っていた。
スマホから通話をかける。
「もしもし、姉さん?」
美和蘭陽菜には、姉がいた。名前を美和蘭陽葵(みなぎし ひまり)といい、ずっと蒼梧村で暮らしていた。
「陽菜?陽菜じゃないの!」
「今、家のすぐ近くまで来てる!」
「いつぶりかしら?ずっと、ずーっと会いたかったんだからね!!!?」
「ふふっ、姉さんは相変わらずだなぁ。わたしのことが大好きな姉さん。」
「えへへ………そう言われると、照れちゃう。」
周りを見渡す。
畑に育っている稲や、蝉の鳴き声がする。夏だなあ、と美和蘭陽菜はそんなことを考えていた。
しばらく歩いて、美和蘭陽菜は実家に帰ってきた。
インターホンを押し、玄関を開ける。
「ただいま、姉さん!」
「おー!やっと来てくれた!」
「わたしが姉さんに会うのは1年ぶりだね!」
「さ、あがってあがって!」
陽葵に促され、陽菜は実家の居間にあがった。
「おなかすいたぁ………」
陽菜は、空腹のあまりその場にへたりこんでしまう。
「安心しなさい!陽菜の大大大好きなご馳走を用意してるわ!」
「わぁ………やったぁ!」
「陽菜って、昔から食べ物の事になると目の色変えるよね!」
久しぶりに会った姉の陽葵との会話で、陽菜は笑みがこぼれた。
「ねえ陽菜。それで、陽菜が目指してたお医者さんはどうなったのよ?」
「やっぱりお医者さんは………わたしの実力じゃあ、どうしても無理だって思い知らされて。」
陽菜は、暗い表情になってしまう。
「そういえば、陽菜がまだ………いつの事だったかな。医者を目指すって言ってママに厳しくされてたもんね。やなこと思い出させちゃってごめんね。」
「大丈夫、姉さん。母さんに怒られたことは、あまり覚えていないから。」
「それならいいけど………」
陽葵は、陽菜の頭を撫でた。
「ごちそうを用意するから待ってて!あと少しでできるから!」
陽葵は、昼ごはんの用意をしに台所に向かった。
「姉さん………相変わらず優しいなぁ。」
陽菜は、姉の陽葵のことが大好きだった。大切な家族だった。
「はい、今日の昼ごはんは牛丼メガ盛り!」
「姉さん、ありがとう!」
陽菜の目の前に牛丼が用意された。
「はむっ。ん〜〜美味しい!昔と変わらないな、姉さんの優しさは。」
陽葵の用意した牛丼に、陽菜はご満悦の表情を浮かべる。
「あ、でも姉さんと1度だけ喧嘩したことがあったなぁ。あれっていつのことだったかな。」
「そんな事もあったねぇ。」
「なんで、わたしたち喧嘩したんだっけ?」
「あたしも覚えてないわ。でも………………なんだか、勇気があった気がする。陽菜に。」
陽葵は、陽菜に笑いかけた。陽菜は、不思議そうな表情をしている。
「ねえ、この村はどうなってるの?わたしが出ていった後からは変わってる?」
「村は、特に変わらずよ。一年に一回儀式をやってるだけ。」その他の細かいことは、今の村長さんの方が詳しく知ってるわ。
「あぁ………相変わらず、メサイアなんて信じてるんだ。横文字なのずっと気になってたっけ。黄泉様っていう神様がいて、黄泉様の使いが現れるいうのだよね?」
「えっ。陽菜は信じてなかったの?」
陽葵は驚いた顔をした。それもそのはずで、蒼梧村(あおぎりむら)では昔から信じられてきたことだったからだ。
「わたしは全然、信じてないかな。だって、自分の目で見たわけじゃないし………」
「なるほど。自分が見たわけじゃないから、か。」
陽葵は、少し納得した表情になった。
「ところで。高校と大学では、この村の出身だってこと言ってないよね?」
「うん。姉さんのいいつけ守ったよ。この村は昔、不良とか犯罪者が送り込まれてきた村なんだよね。その名残で、今も差別が無くならないって。わたし、やだなぁ。そういうの。差別とかいじめとか、なんでそんなことが起こるんだろうって。」
陽菜は、悲しそうな表情になる。
「………今は差別する人もいなくなってきたけど。それでも不安だったからね。」
「大好きな村がそんなこと言われるのがつらいよ………差別とかいじめとか、なくなればいいのに。」
『何か』を思い出したようなきがして、涙が溢れそうになった。
「大丈夫、大丈夫。」
「………うん。」
少しの時間が過ぎて昼ごはんを食べ終わり、陽菜は恐竜マスコットのぬいぐるみを抱いて寝転がった。
「もふもふ………ぅ。」
陽菜はしばらく床でゴロゴロして、ぬいぐるみのもふもふを楽しんでいた。
ふと、テレビの近くにたてかけてある写真が目に入った。
「あ………家族の写真。」
「あー………懐かしいわ。」
写真は全部で四枚あった。
陽菜の両親の写真、両親と姉の陽葵の写真、陽葵と誰かが肩を組んでいる写真、家族四人の写真。
「姉さん。少し気になったんだけど………この、姉さんと並んでるのは誰?」
陽葵と並んでいる誰かは、陽菜と同年齢といった感じの女の子で、綺麗な長い黒髪が特徴的だった。
「あら………この子。この村のすぐ近くにいる富豪、恵漣(えなみ)家の杏恋(あれん)ちゃんよ。」
「あー………蒼梧村とよく対立してたって父さんと母さんに聞かされてたなぁ。」
「そ。いつだったか、この村で倒れてるのを見つけた恵漣家が引き取ったってわけ。本当の名前も忘れて、この村に倒れてた。恵漣家の人はそう言ってる。つまり、養子ってことよ。」
「………」
陽菜は、陽葵の話に疑問を感じ、首を傾げた。
(あれ、そうだったっけ?そういえば、聞いたことがあるような無いような………)
陽菜の疑問を気にもとめず、陽葵は話を続ける。
「ここからが驚くところなんだけどなんとこの杏恋ちゃん、1年前のこの時期くらいに行方不明になってるんだって。」
「行方不明!?」
「だから、一時期は蒼梧村の誰かの仕業だって疑われたこともあったのよ。でも、両親には愛されてるみたいでよかったと思うわ。その時は陽菜が大阪に戻った直後だから知らないだろうけど。」
陽葵の話を聞いていると、何故か陽菜の疑問が膨らんでいく。
(行方不明、ねぇ………)
「姉さん。その、恵漣家のご両親が蒼梧村に対して疑いをかけたって話………誰かが連れ去ったとしたら、その犯人は見つかってないんだよね。」
「そうね。」
「本当に、証拠とか何も残ってないの?」
「そう。神隠しに遭ったかのようにね。」
「なるほど………」
次の瞬間、陽菜は頭痛に襲われた。飛行機に乗っていた時と同じ感じだった。そして、また何かの光景が浮かび上がってくる。
「都会で流行ってる感染症と………同じ症状なんだって。パパとママが言ってた………」
綺麗な洋館の中で、女の子は陽菜に向き合って何か会話をしていた。
「都会の病気………その時期はずっと沖縄に住んでたのに都会の病気にかかったの?」
「うん………げほっ!かはっ!」
女の子は咳き込んで苦しそうな表情を浮かべた。
唐突な頭痛に頭を抑えて、陽菜はうずくまる。
(頭が………痛い。それにしても、今のは?わたし?わたしと、誰?分からない………)
「陽菜………大丈夫?」
「あ………飛行機酔いだよ。だから大したことない、大丈夫。」
陽葵は陽菜に駆け寄った。するとは不意に電話の音が鳴った。
「あたしが出るわ。」
陽葵は受話器を取って耳をすませた………
「はい、もしもし………」
陽葵が受話器を耳に当てると、
「もしかして、そっちに陽菜来てるか?」
若い女性の声がした。
「あ、はい!今変わります!」
「姉さん、どうかしたの?」
「陽菜、呼ばれてるよ………希万里さんから。」
陽菜の知り合いの竜崎希万里(りゅうざき きまり)から、電話がかかってきた。
「希万里………さん。」
「陽菜か!さっき陽菜を見かけたんだが、一体どうしたんだ?」
「見てたんですか?」
希万里は、陽菜が幼い頃よく遊んでくれた人。おしとやかな見た目とは似合わない口調が特徴的だと、陽菜は幼い頃からそんな印象を受けていた。陽菜の父と同じくらい陽菜を可愛がっていて、陽菜が泣いた時はいつも慰め喜んだ時は一緒に喜んでくれる人だった。
陽菜は、そんな希万里が大好きだった。
「見てたんですか、とはどういうことだ?さっき陽菜は………いや、やはりなんでもない。」
「はぁ………」
希万里の言葉に違和感を感じつつも、陽菜は会話を続ける。
「まぁ、とにかく陽菜が帰ってきてくれて嬉しいな。」
「………はい!希万里さん!」
「陽菜、帰ってきたんだな!」
希万里は改めて陽菜と挨拶をかわした。
「はい………でも長旅で疲れちゃいました………………うっ!あっ!!!」
「ど、どうしたんだ?」
「い、いえ。ちょっと頭痛がするだけなので………それより、わたしは村のごちそうが食べたいです!」
「あはは!陽菜はごちそうのことで頭がいっぱいなんだな!」
電話越しに希万里の笑い声が聞こえてくる。
「村長にも伝えておくよ、陽菜が帰ってきたって。それで、村のみんなで宴会を開くように村長に掛け合ってみる。久しぶりに、陽菜が帰ってきた記念にな!」
「わぁ………久しぶりに村のみんなでごちそうパーティーですね!」
「それじゃ。それまでにくつろいでいるといい。」
電話を切った。
「ごちそうパーティー?」
陽葵が、不思議そうな顔で陽菜に問いかけると
「希万里さんがね、ごちそうパーティーを開いてくれるように村長さんに言ってくれるんだって!」
陽菜はそれに笑顔で返した。
「宴会か………いつぶりだったかな。」
「ごちそうパーティーだ……大阪ではそういうのに行かなかったから、すごく楽しみ………!」
陽菜は、久しぶりに開かれることになった宴会に心が踊っていた。
宴会の時間になり、村人が沢山集まってきた。
村の人口が100人程度と言っても、全員が参加しているわけでは無いとはいえ、それだけ集まれば活気というものは自然と生まれてくる。
「ごちそう!ごちそう!!ごちそう!!!」
陽菜は、久しぶりの宴会ということではしゃいでいた。
「はいはい、わかったわかった。」
「幸せなごちそうの匂いがする〜!」
「ねえ陽菜、音輪(おとわ)さんちの日陽(はるひ)ちゃんは来てるかしら?」
「日陽ちゃんは四人姉妹の中で1番わたしに懐いてたなぁ、可愛かった………今は7歳か、また背を測ってあげたいな。」
会話に花が咲く。
「………確かに、可愛いからね。」
「うんうん!はやくこの夏休みを日陽ちゃんといっぱい遊びたいなぁ……あれ、姉さん箸が止まってるよ?食べれないならわたしが食べてあげるけど、どうする?」
「あ、ごめんごめん!大丈夫!あたし食べれるから!」
「あらら〜。」
陽菜は残念そうな表情をした。
「ふふっ。そんなに欲しいなら分けてあげる!可愛い可愛い妹だもんね!」
「わぁ………姉さん大好き!」
陽菜の表情がすぐ笑顔になった。
「うんうん!ずうっと大好きでいてね!」
「うん!」
陽菜は、姉妹両方が笑顔なこの空気が大好きだった。
「姉さん、この料理の名前は………?」
「さあ?」
「ま、わたしは料理が美味しければそれでいいかな!」
「こらこら。」
料理を食べていると、突然
「陽菜姉!陽菜姉!!!」
幼い女の子の声がした。
「この声は………日陽ちゃん!」
「会いたかったよ陽菜姉〜!!!」
音輪日陽(おとわ はるひ)、2014年生まれの7歳。笑顔が可愛い元気はつらつな女の子。
「陽菜姉!もうすぐわたしの誕生日だから祝ってぇ!」
「8月10日、でしょ?」
「3年ちょっと経っても、さすが覚えててくれたね!陽菜姉はわたしのことわすれないもん!」
「わっ。」
いきなり陽菜は抱きつかれた。
「おーよしよし、いい子いい子。」
陽菜は日陽の頭を撫でた。日陽は嬉しそうだ。
「んー可愛い!」
「ねえねえ陽菜姉!この後ひま?」
「特に予定は無いかな。」
「陽菜姉のおうちにお泊まりしたい!」
「いいね!姉さんはどう?」
「あたしもいいと思うわ、陽菜!それよりも今晩は川の字にして寝てみる?」
陽葵の提案に、
「いいね姉さん!」
「陽菜姉と陽葵姉にぎゅーされるもんね!」
日陽は満面な笑顔だ。
日陽はすぐに満腹になり、陽菜は料理を食べた食べた食べた。
「ふう、美味しかったあ。」
「夜の帳が降りたね………姉さん。」
「そろそろ寝よっか?」
陽菜と陽葵は、布団の準備を始めた。
両親は今日は帰ってきていない。
「ふう………」
「陽菜姉?」
「ん?」
「どうして…泣いてるの?」
日陽の指摘に、陽菜は思わず目を抑えた。
「あ………わたし………あっ。あ…」
「陽菜姉?」
「ああ………悲しいこと思い出しちゃってたの。母さんのこと…」
陽菜の目から、涙が溢れてくる。
「陽菜姉悲しいのダメ!」
日陽が、やさしく陽菜を抱きしめた。
「陽菜姉が悲しいならわたしが陽菜姉とずっと一緒にいるもん!」
「ん、ありがと。」
陽菜と日陽は布団に潜ってすやすやと寝始めた。
「そろそろあたしも寝」
ふと、写真が落ちているのを見つけた。それを陽葵は拾って戻そうとする。
「あたしと写ってる杏恋ちゃんの写真…杏恋ちゃんと写真なんて撮っ………え?」
家族写真の陽菜の部分が、まるで霧にかかったようにぼやけていた。
そのぼやけが収まると………
「な、なんで、陽菜がいたはずのところに………」
陽葵は、その写真を見て戦慄した。
コメント
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。