【朗読劇】夏が終わらない ファンタジー

三木プロ主催『ライターmeetsアクター2021』朗読劇上演作品 「宿題が終わらない!」小学生の美波は困り果てて、夏休み最終日を迎えていた。 すると妙な女の子と出会ってしまう。美波は「この子は幽霊じゃないのか?」と疑い始めるが、もっと凄い真実が明らかとなっていく。大どんでん返しな心温まるファンタジー。
荻 安理紗 44 0 0 02/18
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第一稿

『ライターmeetsアクター2021』朗読劇上演作品
  『夏が終わらない』 荻 安理紗

【あらすじ】
 「宿題が終わらない!」。小学生の美波は、最悪の気分で夏休み最後 ...続きを読む
「【朗読劇】夏が終わらない」(PDFファイル:216.55 KB)
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『ライターmeetsアクター2021』朗読劇上演作品
  『夏が終わらない』 荻 安理紗

【あらすじ】
 「宿題が終わらない!」。小学生の美波は、最悪の気分で夏休み最後の日を過ごしていた。公園で現実逃避をしていると、年下の変な少女、雪音に声をかけられる。日も暮れてきて、二人は一緒に帰ることに。帰り道、雪音は突然「バイバイ」と言って、赤い屋根の一軒家に入っていった。美波は愕然とする。なぜなら、その家は美波の自宅だからだ。
 不審に思い、庭から自宅を覗く美波。そこには、中年になった妹と、老人になった母の姿があった。そして現在の季節は夏どころか真冬なのに気付く。美波は25年前の夏に、事故で死んでいたのだ! 魂が凍え、悲しみを感じる美波。美波の姪である雪音は、仏壇の写真を見て美波の正体に気付く。
 自分の言葉のせいで、妹が笑わない大人になった事実を知る美波。雪音の協力を得て、
妹に笑顔を与えるために夏休みの宿題を仕上げる。美波の夏が、やっと終わる—。(終)

【登場人物表】
 近藤 美波(12) 小学生、故人
 〃  雪音(9) 穂花の娘
 〃  穂花(8、33) 美波の妹
 〃  凉子(35、60) 美波の母

【本文】
   蝉の声、始まる。

美波「……ちゃんと宿題はやったんです」

   近づく足音。

美波「本当です。夏休みの宿題、やったのに」

   さらに近づく足音。

美波「ホントです! 先生、信じて!」
雪音「ねえ、お姉ちゃん。なにしてるの?」
美波「(驚いて)ひゃっ! なに、どこの子?」
雪音「お昼もこの公園、いたよね。一人で何
 ブツブツ言ってるのー? もう夕方だよー」
美波「(夕方と聞いて驚いて)え、ウソ!」

   カメラのシャッター音。

雪音「変なカメラ! 今、お空を撮った?」
美波「変じゃないよ。チェキ。知らない?」
雪音「うーん。……見たことあるかもー?」
美波「撮ったら写真が出るカメラ。夕焼け綺
 麗だなと思って。あれ、出ない。故障?」

   流れている蝉の声、数秒大きくなる。

美波「ねえ、どこ小の子? 何年?」
雪音「緑ヶ丘小。3年!」
美波「あっ、一緒だ! 私は6年」
雪音「……そっか。学校かぁー」
美波「え?」
雪音「どっかで見たことあるなーって」
美波「ああ。廊下ですれ違ったのかも」
雪音「ねえ、さっきからなにしてたの?」
美波「(言い淀み)えっと……言い訳の練習」
雪音「なんの?」
美波「……宿題を忘れたときの」
雪音「えー! ダメ! 宿題やらなきゃ!」
美波「ほとんど出来てるし! あと1枚だけ」
雪音「なら、お家帰ってやりなよー」
美波「家で撮っても仕方ないし」
雪音「撮るって?」
美波「写真。このカメラで撮ってんの」
雪音「写真が宿題?」
美波「写真付きの日記。あと1枚撮らなきゃ」
雪音「はやく撮っちゃえばいいのにー」
美波「うるさい。生意気! うちの妹みたい」
雪音「宿題終わらせないとダメー」
美波「宿題宿題うっさい! 変な子」
雪音「変なのはそっちだよー。なにその服」
美波「格好がおかしいのはそっち!」

   蝉の声、消える。

   次のセリフ、二人同じタイミングで。
美波「こんな暑いのにセーターなんか着て」
雪音「こんな寒いのに半袖なんか着て」

美波「(驚いて)……すごい寒がりなんだ」
雪音「いいなぁ。そんな薄着で。風邪ひかな
 さそう。雪音、よく風邪引いちゃうんだー」
美波「……ウチの妹も一緒。すぐ風邪引く」
雪音「(くしゃみ)」
美波「ホントに風邪引くよ。帰ったら?」
雪音「お姉ちゃんは帰らないの?」

   カラスの声。

雪音「もう夜なっちゃうよー?」
美波「……私はいい。なんか帰り辛いし」
雪音「一緒に帰ろ? ついてってあげる」
美波「……年下なのに生意気」
雪音「お姉ちゃんは年上なのに弱気ー」
美波「……じゃあ、途中まで一緒に行こっか」
雪音「手、つないであげるー」
美波「……年下なのに生意気」

   二人が歩く音。

美波「雪音ちゃんの手、あったかいね」
雪音「お姉ちゃんの手がひんやりしてるん
 だよー。……雪音もカメラ欲しいなぁ」
美波「写真、撮ってみたい?」
雪音「雪音のお母さんねー。あんま笑わな
 いの。子供の頃からのクセなんだって」
美波「変わってるね」
雪音「笑顔になるのが苦手なんだって。お
 母さんが笑ってる写真、撮ってみたいな」
美波「……カメラ、教えてあげるよ!」
雪音「やったー! あっ、次を右だよ」
美波「うそー。こんな近所なんだ」
雪音「ほら、あそこの赤い屋根!」
美波「(かなり驚いて)……え?」
雪音「じゃあね、お姉ちゃん! バイバイ」
美波「(困惑して)ば、バイバイ……」

   走っていく音。
   ドアの開閉音。

美波「ここ、私の家だよね? なんで?」

   天ぷらを揚げる音。
   家庭の音。

雪音「天ぷらー? シシトウ、いらなーい」
穂花(33)「いいから、食べなさい」
雪音「お母さん、またコワイ顔してる!」

   窓ガラスにおでこが当たる音。

美波「いたた……。頭が窓に」
雪音「あれ? お姉ちゃん?」
美波「やばっ」
穂花「お姉ちゃん?」
雪音「公園にいたお姉ちゃんが、庭の窓に」
穂花「え?」
雪音「あれ? いない……」
穂花「野良猫じゃないの?」
雪音「いたよー」
美波「(小さく)なんで私が隠れるんだろ」
穂花「誰もいないじゃない。それより、今
 日はシシトウ残したらダメよ」
雪音「やだ! シシトウは嫌! 邪魔!」
美波「(小さく)そうだよ。シシトウなんか
 ドロップのハッカ味ぐらい邪魔! ……
 ってか、台所にいる暗いオバサン、誰?」
凉子(60)「おや、天ぷらかい」
穂花「冷えるしね」
凉子「懐かしい……。今日みたいな冬の寒
 い日は、揚げ物がいいってあの子にせが
 まれてね」
美波「なに言ってんの? 今日は8月31
 日—。あのおばあちゃん、どっかで見
 たような……」
穂花「お姉ちゃんもシシトウ嫌いだったな」
凉子「穂花もよく覚えてるでしょ。美波が
 好きだったのは、南瓜の天ぷら」
美波「……なに、あのおばあちゃん。えっ、
 穂花? 穂花って……」
   時計の針が進む音、始まる。

   以下、人物へ交互にスポットライト。
穂花(8)「お姉ちゃん」
凉子(35)「美波」
穂花「お姉ちゃん」
凉子「美波」
穂花「お姉ちゃん、ごめん……」
   スポットライト、終わり。
美波「もしかして……。お母さんと妹の穂
 花⁈」

   柱時計の鐘がボーンと鳴る音。
   数秒の無音。
   木枯。

美波「(くしゃみ)なに、急に。すごく寒い」
穂花(33)「もう25年ね。あっという
 間」
美波「そっか……。私……」
美波M「あれは夏休み最後の日」

   蝉の声。
   陶器が割れる音。

美波「お母さんはいつも穂花の心配ばっか!」
凉子(35)「美波! いい加減にしなさ 
 い!」
美波「夏休みの最後くらい、みんなで出かけ
 て写真撮りたかったのに!」
穂花(8)「お姉ちゃんごめん。昨日から熱、
 下がらなくて……。(咳込んで)そうだ。
 お庭で写真撮って欲しいな……」
美波「庭で撮ってどうすんの! 全部、穂花
 のせいなんだよ! また熱出して! ……
 無理に笑うのやめて。ホント気持ち悪い」
凉子「(怒って)美波!」
美波「(大声で)こんな家、大嫌い!」
凉子「割れた花瓶、片付けなさい!」

   美波が道を走る音。
   車が走ってくる音。
   車のブレーキ音。
   遠のいて、消えていく蝉の声。

美波M「私死んじゃったんだ。ずっと前に」

   食器を出す音。

穂花(33)「ご飯よ。雪音、手伝って」
凉子(60)「お仏壇に南瓜の天ぷら供え
 ようかね」
雪音「その仏壇の写真……」
穂花「どうしたの?」
雪音「ううん。あっ! 海老2本欲しいー」
凉子「(笑って)欲張りだねぇ」

   冬の北風。

美波「(涙ぐんで)……寒いよ。すごく寒い」
   カメラのシャッター音。

美波「もう死んじゃってるから、写真、出
 ないんだ」

   カメラのシャッター音。

美波「(涙声で笑って)あはは。私、いまど
 んな顔なんだろ?」

   シャッターを連続で切る音、始まる。

美波「生きてなくてもフィルムに写る?
 自撮り、できてる?」

   シャッター音、終わり。

美波「(鼻をすすり)どうしたらいいの? 
 どこに行けばいいの? ずっと私、この
 ままなの?」
   さらに強く吹く、北風。

   台所の水がポタポタと漏れている音。

美波「……みんな、もう寝てるよね」
   照明のスイッチ。

雪音「いる? 南瓜とエビの天ぷら」
美波「(驚いて)ひゃっ! 寝てなかったの」
雪音「ラップして、そこの机に置いてるよ」

   ラップを剥がす音。
   天ぷらを食べる音。

美波「美味しい……。冷めてるのに」
雪音「でしょー? お母さん料理上手なの」
美波「穂花……。雪音ちゃんのお母さんっ
 て、ずっとあんな暗い顔してんの?」
雪音「うんー。ディズニーランド行ったと
 きも笑わないんだよ。変でしょー?」
美波「……私のせいだ」
雪音「……お母さんはお姉ちゃんが死んじ
 ゃったの、自分のせいって言ってたよ。
 ……そうだ! 2階きて」

   二人が階段を登る音。

雪音「おばあちゃんね、毎日掃除してるん
 だー」

   扉が開く音。
   照明のスイッチ。

美波「私の部屋……。全部そのまま」
雪音「あの棚の上のカメラ、お姉ちゃんが
 首から下げてるのと一緒だよね。帰って
 から思い出した」
美波「私のチェキ……ひび割れてる。そっ
 か事故で……。私の部屋、なにもかも変
 わってない。あるかな、アレ……」
   引き出しを開ける音。

美波「あった」
雪音「なーに? そのノート」

   ノートをパラパラめくる音。

美波「写真付きの日記帳。夏休みの宿題」
雪音「絵日記じゃないんだー」
美波「先生がね、写真が好きなら毎日撮っ
 てみろって。……7月20日だ。見て。
 近所のネコ撮ったの。可愛いでしょ」
雪音「三毛猫だー」
美波「いろんな写真、たくさん撮ったなぁ」

   ノートをパラパラめくる音。

美波「……8月29、30、31日」
雪音「31日だけ真っ白ー」
美波「……私が死んじゃった日」
雪音「……終わってない宿題ってここ?」
美波「うん。夏休み最後の日くらい、楽し
 い日記にしたかったのに。何も撮れなく
 て、何書いたらいいか分からなくて」
雪音「ねえ、埋めちゃお! 最後のページ」
美波「書くってなにを……。写真だって」
雪音「書きたいこと、撮りたいモノ、もう
 ないのー?」

   しばしの間。

美波「……ある。うん! ある!」

   鉛筆で書く音。

美波「私の夏休み、終わらせないとね」

   雀の声。
   遠くから目覚ましが鳴る音。
   目覚ましを止める音。
   冬の北風。

穂花「雪音ったら。こんなとこで寝て。な
 んでお姉ちゃんの部屋に……。ああ、寒」
雪音「(寝ぼけて)……ん? お母さん?」
穂花「あら、その持ってるの、お姉ちゃん
 の日記……?」

穂花「『8月31日。今日は長い長い夏休みが
 やっと終わる日です。久々に家に帰ると新
 しい家族が増えていました。』……コレ、お
 姉ちゃんの字⁉︎『体の弱い穂花が立派なお
 母さんになっていて嬉しかったです。ひど
 いこと言ってゴメンね。ホントは穂花の笑
 顔が大好きだったよ。だからまた、笑って
 ほしいな。お母さんも元気そうでよかった
 です。ずっと、ずっと、元気でいてね。毎
 日、私の部屋を掃除してくれてありがとう。
 でも、たまにはサボっていいからね。私は
 自分の家が大好きです。……夏が終わって
 も、どこか暖かい場所に、私、行ける気が
 してます。なので心配しないでください。
 とっても楽しい夏休みでした。』……何これ。
 ウソ……」
雪音「読んで! 最後の行も」
穂花「『……追伸。じゃあ最後に。ニッコリ笑
 って! 穂花!』」

   チェキが出てくる音。

雪音「写真出てる! 棚のカメラから!」

   チェキが連続で出てくる音。

穂花「嘘、嘘、ウソ! コレも、コレも、
 コレも! お姉ちゃんの顔ばっかり!」
雪音「泣いてるけど……」
穂花・雪音「笑ってる!」
雪音「(大声で)お母さん、笑わなきゃ!」
穂花「え?」
雪音「『笑って』って、書いてたでしょ!」
穂花「……笑うって、そんな」
雪音「はやく! ほら、雪音と一緒に!」
穂花「(間を置いて)……どう? お姉ち
 ゃん。私、うまく笑えてる?」

   大きく響くカメラのシャッター音。
   ゆっくりと、チェキが一枚出てく
   る音。
   しばしの無音。

穂花「(写真を手に)ちゃんと写ってる。
 25年ぶり。私の笑顔……」
雪音「宿題、やっと終わったね」
(終)

「【朗読劇】夏が終わらない」(PDFファイル:216.55 KB)
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