大人になれない僕達へ その他

ある夜、ふと真夜中に目が覚めて外にタバコを吸いに出かけたスイは橋の上で不思議な少女、レンと出会う。大人になりたくない、なれない大人と、もう大人になってしまった少女のお話。
あ。 28 0 0 01/28
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第一稿

大人になれない僕たちへ


【登場人物】
スイ(23)…男
レン(?)…女
ハルヤ(75)…男
スイの友1…男
スイの友2…男 

〇通学路
  蝉が鳴いて ...続きを読む
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大人になれない僕たちへ


【登場人物】
スイ(23)…男
レン(?)…女
ハルヤ(75)…男
スイの友1…男
スイの友2…男 

〇通学路
  蝉が鳴いている
  たくさんの小学生がランドセルを背負って下校している
  小学生のスイが二人の友達と共に談笑しながら歩道を横並びに歩いている
  スイ、落ちている蝉の死骸を踏みつける
  バリバリと音をたてて粉々になる蝉
  それを気にもせず談笑を続けるスイ
スイの友1「暑いなあ」
スイ「そうだね」
スイの友2「もっと涼しげな話しようぜ」
スイ「例えば?」
  スイの友1、にやけながらスイの方を向く
スイの友1「幽霊とか?」
スイ「あー。僕そういうの信じてないんだよね」
スイの友2「ちぇっ。つまんねえの」
スイ「それならなんか狼男とかの方がありえそうじゃない?」
スイの友1「吸血鬼とか?」
スイ「そうそう」
スイの友2「そこの違いはなんなんだよ」
   少しの間
スイ「幽霊ってさっき言った化け物達と違ってちゃんと死んでるじゃん?」
スイ「僕は死んだあとの続きなんてないと思ってるから」
スイの友1「ふーん。変なの」
スイ「てかするんじゃなかったの。怖い話」
スイの友2「俺は怖い話なんて一つも知らないぜ」
スイ「なんで?」
スイの友2「だって話すためには怖い話聞かなきゃいけないじゃん」
スイ「要するに怖がってるんじゃん」
スイの友2「そ、そんなことねえし」
   スイの友2、顔を真っ赤にして地団駄を踏みながら歩く
スイの友1「あ、こわいんだ」
スイの友2「まあ、俺怖い話は知らねえけど、とっておきの言い伝えは知ってるもんね」
   スイ、不思議そうにスイの友2の顔を見る
スイ「言い伝え?」
スイの友2「おうよ。じーちゃんから教わったんだ」
スイの友1「なんだよそれ。聞かせろよ」
スイの友2「いいか。実はな

〇スイの部屋 夜
  本や紙が床や机に散乱している
  スイ、ベッドに寝転がっている
  スイ、もぞもぞと動き出し、むくり
  と体を起こす
スイ「夢か」
  自分の横に置いてあったスマホを確   認する
   スマホのホーム画面は睡蓮の写真
   スマホの時計は午前二時半を示している
   スイ、ベッド横のカーテンをあけて窓の外を見る
   外は真っ暗
スイ「そりゃそうか」
   ベッドからゆっくりと出てクローゼットまで歩こうとする
   そこまでの道で落ちてある紙に足をとられて滑って頭を机にぶつける
   頭を抱えるスイ
スイ「いっっったぁ」
   頭をさすりながらクローゼットをあけて着替え始める
   白のカッターシャツに茶色のダボっとした柄パンを着て部屋を出る

〇スイの家の前
   玄関から出てくるスイ
   鍵を閉めたあと、そのまま家を見上げる
   二階建ての一軒家
スイ「改めて俺一人にしては豪華すぎるな」
   外の方に向き直り、歩き出しながら煙草を取り出してライターに火をつける
スイ「叔父さんには感謝しなきゃな」
   そのまま歩いて道に出る

〇川沿いの道
   人っ子一人いない川沿いの道を煙草を吸いながら無言で歩くスイ
   虫が寄っている街灯、自販機
   スイ、それを横目に煙草の煙を吐く
   ふと橋を見つけるスイ
   スイ、そちらの方に曲がる
   橋の中央あたりまで歩いてくる
   スイ、立ち止まる
   橋の下の川をのぞき込むスイ
   少しして上をむいてため息をつく
   自分で吐いた煙をぼうっと見つめる
   橋の柵の上にのぼり、その上に立つ
スイ「よっと」
   煙草をくわえたまま、ポケットに手をいれて川の流れをぼうっと見るスイ
レン「死ぬの?」
   目を見開いて驚くスイ
   スイ、ゆっくり体ごと振り返る
   柵の下に立っているレン
   レン、白のワンピースを着ている
   レン、微笑む
レン「もったいないと思うけどなあ」
   スイ、微笑む
スイ「欠陥品は生きてちゃいけないんだよ」
レン「それは君自身の考え?」
  少しの間
スイ「そうだよ」
  スイ、次の台詞を柵からレンの方に飛び降りながらいう
スイ「そんなのどうだっていいだろ?」
   スイ、レンの方を向く
スイ「てか、こんな時間にあんたは何をしてんだよ」
レン「散歩かな」
スイ「夜中の三時に?」
レン「夜中の三時に」
スイ「…そっすか」
レン「まぁそんなのどうだっていいじゃないか」
  スイ、だまって煙草の煙を吐く
スイ「こんな夜中に女性一人は危ないっすよ」
  レン、微笑む
レン「おや、心配してくれるのかい?」
スイ「まあ、そりゃ」
レン「ほっといたら死にそうな君には言われたくないな」
   レン、スイと反対方向に向き直る
レン「またね。いい夢見るんだぞ」
   レン、後ろ向きのまま手だけ振る
   黙ってそれを見送るスイ
   橋の柵に煙草を押し付けて川に捨てるスイ
スイ「帰るか」
   レンと逆方向から帰るスイ

〇橋の上 真夜中
  レンと出会った橋の中央で柵に肘をついて一人お酒を飲んでいるスイ
  スイ、柄シャツにジーパンをはき、ジーパンにはチェーンをジャラジャラにつけている
  夜風でスイの前髪が揺れている
レン「あれ、また会ったね」
  スイ、レンの方を向く
  お酒を飲みながらレンに軽く会釈
スイ「どうも」
  レン、初めて会った日と同じワンピースを着ている
   レン、軽く手を振る
  レン、スイの横に来て柵に肘をついて腕を組む
  スイとレン、互いの顔は見ずに二人で川の方を向いて話す
レン「君はさ」
スイ「はい」
レン「名前、なんていうの?」
スイ「…スイ。あなたは?」
  スイ、お酒を一口飲む
レン「レンだよ」
  スイ、飲んでいる途中で手を止め、口を離す
  スイ、レンの方を見る
スイ「男みてぇな名前っすね」
  レン、スイの方を向いて微笑む
レン「うん。よく言われる」
レン「ねぇ少年」
スイ「はい」
レン「公園行かない?」
スイ「公園?いいですけど?」
   二人、歩き出す
レン「夜の公園の雰囲気、好きなんだよね」
スイ「昼と全然違いますもんね」
レン「お、わかってるねぇ」
  スイ、お酒を飲み干す
スイ「まぁ、俺もよく行くんで」
レン「君、ベンチじゃなくわざわざブランコとかに座るタイプでしょ」
  少しの間
スイ「…なんでわかったんですか」
レン「なんとなく」
スイ「一人で煙草吸ったりはしてますけど」
レン「わざわざブランコで?」
スイ「はい」
レン「おもしろいね、君」
スイ「そりゃどうも」
  二人、公園に到着する
  スイ、ベンチまで歩いてきて空になったお酒の缶をおく
  レン、その後ろからにやけながら聞く
レン「ブランコ、今日は乗らなくていいの?」
   スイ、微笑む
スイ「今日はいいです」
レン「じゃあ、代わりに私が」
  レン、ブランコの方まで走っていく
  スイ、その光景を眺めている
  レン、ブランコにのって立ちこぎを始める
スイ、ゆっくりとレンの方へ歩いて いき、ブランコの柵を乗り越える
  レンの乗っているブランコの正面の
  柵にもたれかかる
  ブランコを激しくこぐレン
レン「危ないよ」
  レンを真顔のまま目で追うスイ
スイ「もうちょっとで見えそうなんすよ」
   表情を変えずに棒読みに言うレン
レン「スイ君さいあくー」
  レン、ブランコに座る
  スイ、煙草を取り出し火をつける
レン「煙草だなんて、大人だねぇ」
   スイ、煙草の煙を吐いて微笑む
スイ「外側だけですよ」
レン「と、いうと?」
   スイ、うつむく
スイ「俺はね、不器用な子供のままでいたいんです」
  スイ、煙草を横におろす
スイ「俺は、いろいろなことを諦めて器用に折り合いをつけるのが上手い、大人という生き物が大嫌いなんですよ」
スイ「…でも、いつかはならなきゃいけないんですよね」
   吸い終わった煙草を捨て、新しく火をつける
スイ「でないと社会不適合者の烙印を押されてしまうから」
黙ってブランコをこいでいるレン
   スイ、レンの方を見て苦笑い
スイ「すいません、こんな話して」
  レン、黙ってブランコをこぐのをやめてスイの方へくる
  レン、手をスイの方にさしだす
レン「ちょうだい」
   スイ、驚いた顔
スイ「あ、煙草を、ですか?」
レン「うん」
   スイ、煙草を口にくわえる
   スイ、ポケットから煙草を取り出す
   煙草のふたをあけ、一本とりだす
スイ「はい」
   スイ、レンに煙草を一本わたす
レン「ありがとう」
   スイ、両手をポケットに突っ込んでライターを探す
スイ「えーと、火は」
レン「あぁ、いいよ」
  スイ、レンをきょとんとした顔で見る
  レン、スイにシガーキス
  レンの煙草に火が付く
  レン、スイを見て笑う
レン「君からもらうから」
スイ「…そうすか」
   レン、煙草の煙を吐く
レン「さっきの話だけどさ」
  スイ、黙ってレンを見つめる
レン「君が、羨ましいよ」
スイ「羨ましい?」
レン「うん。私はもう」
  煙草の煙を吐くレン
レン「とっくに諦めてしまったから」
スイ「じゃあ、俺より大人ですね」
  レン、微笑む
レン「まぁね」
  暗転

スイナレ「俺たちは週に二、三回の頻度でそのあとも会い続けた」
  橋の上で会うスイとレン
  そのあと歩き出す二人
レン「そういえば、君趣味ってあるの?」
スイ「ちょっと小説かいたりしてます」
レン「えっすごい」
スイナレ「連絡先を交換したわけでもない」
  一緒にタバコを吸うスイとレン
レン「私は雨嫌いだなぁ」
スイ「なんでですか?」
レン「…だってジメジメしてるじゃん」
スイナレ「何日かに一回ふらっと出て、いたらしゃべるしこなけりゃ帰る」
  雨の中傘をさして一人で橋の上にたつスイ
  スマホを確認し、帰り始めるスイ
スイナレ「なんとなくの軽い関係だが」
  雨の中傘をさし一人歩くスイの後ろ
  姿
スイナレ「俺は彼女との真夜中のおしゃべりの時間を気に入っていた」
〇橋の上 夜

   橋の上で柵に肘を置いてタバコを吸うスイ
スイナレ「そうこうしているうちに彼女と出会ってから一か月がたった」
後ろからブラックコーヒーの缶を
スイの頬に当てるレン
レン「やほ」
ビクッとして振り返るスイ
レンのもう片方の手にはトマト
ュースの缶が握られている
スイ「っくりしたぁ〜」
スイに向かってブラックコーヒー
の缶を差し出すレン
レン「あげるよ」
受け取って無言で缶を見つめるスイ
レン、ニヤける
レン「もしかしてブラック苦手?」
スイ「…いや、でもおいしくいただくわ。
あざす。」
レン「よろしい」
スイ、缶を開けて飲む
顔をしかめるスイ
スイ「にっっが」
レン「…まだまだ子供だね」
スイ「その通りっすよ」
二人、歩き出す
レン「今日はさ、」
スイ「うん」
橋の下の川を写す
レン「花火しない?」
スイ「いつもの公園で?」
レン「うん」
スイ、橋の下を指さす
スイ「河川敷じゃダメなの?」
レン「私泳げないし水怖いからヤダ」
スイ「そっか」
スイ「てか、こんな時間にポンポン打ち上げたら通報されない?」
レン「こんな時間に打ち上げ花火するつもりでいたの?」
レン、線香花火を取り出す
レン「やるのはこれだよ」
スイ「あぁ…線香花火」
レン、思わず笑う
レン「露骨にテンション下がったね」
スイ「だって地味じゃん」
レン「君線香花火すぐ終わりそう」
スイ「うるさいですよ」

〇公園 夜
二人、公園につく
レン「じゃあ勝負する?」
適当な所で二人、しゃがむ
スイ「望むところっすよ」
レン、線香花火の袋を上手く開けられずスイに手渡す
レン「何か賭けようよ」
線香花火を開け、一本レンに手渡すスイ「負けた方が何でも言う事聞くと
か?」
レン、受け取りながらもう一方の手でライターを探す
レン「ベッタベタだね。いいよそれで」
スイ、ライターを取り出す
レン、ライターを取り出す
スイ「よし、俄然やる気出てきた」
二人、ライターの火をつけ線香花火に近づける
レン「よーい、どん」
線香花火に火がつく
しばらく見つめる二人
レン「ところでさ」
スイ、レンの方を見る
スイ「うん?」
レン「線香花火の一生に名前あるの知ってる?」
スイ、線香花火に目を落とす
スイ「…いや」
レン「最初は蕾」
次第に光の玉が大きくなっていく線
香花火
線香花火をじっと見つめるスイ
レン「次は牡丹」
花火が力強くはじけ始める
レン「その次が松葉」
勢いを増し、沢山の火花が飛び散る線香花火
スイの線香花火がポトリと落ちる
スイ「あっ」
レン、にやけながらスイを指さす
レン「あーあ」
レン「私の勝ちだね」
不服そうな顔をするスイ
スイ「…最後は?」
レン、口に手を当てて微笑む
レン「最後は散り菊」
少しずつ勢いが弱まる線香花火
レン「…もう終わるね」
スイ「綺麗っすね」
レン「そうだね」
綺麗に終わるレンの線香花火
スイ「俺」
レン、スイを見る
スイ「散り菊が一番好きだな」
レン、微笑む
レン「そっか」
レン、立ち上がる
レン「お願いは次回までに考えとくね」
スイ「あっ忘れてた。今とかじゃないんすね」
レン「うん。今は特に考えつかないや」
レン「今日はこんな具合にしとこうか」
スイ、立ち上がる
スイ「そうっすね。もう夜明け三十分前だ」
二人、公園の出口へ歩き出す
出口に着く二人
スイ「それじゃ」
レン「うん」
真反対方向へ歩き出す二人
スイ、レン「良い夢を」

〇スイの家の前 明朝

あくびをするスイ
ポケットに残りの線香花火が入って
たことに気づき、取り出して眺める
めんどくさそうに腕を降ろす
隣の家からハルヤが出てくる
スイ、会釈する
スイ「どうも」
スイナレ「確か、隣のじいさんだよな」
ハルヤ、笑顔で会釈
ハルヤ「どうも」
スイ「今から散歩ですか?」
ハルヤ「いかにも」
ハルヤ「お主は今帰りかの?」
スイ「そうっす」
ハルヤ「これと遊んできたのかの」
ハルヤ、小指を立ててニヤける
スイ、顔をひきつらせながら笑う
スイ「違いますよ」
ハルヤ「じゃあ、」
ハルヤの口元だけが映る
ハルヤ「幽霊にでも」
スイ、目を見開いて驚いた顔でハルヤを見る
ハルヤ微笑む
ハルヤ「会いに行っていたのかの?」
スイ「なんで、そう思うんですか?」
ハルヤ「草木も眠る丑三つ時じゃ。何が出てもおかしくないじゃろう?」
少しの間
スイ「俺、そういうの信じてないんで。では」
自分の家に入ろうとハルヤから背を向ける
ハルヤ「その子と昼に会ったことは?」
スイ、ピクリと止まる
ハルヤ「夜明けまで一緒にいたことは?」
スイ「ない、、ですけどそれはたまたまで」
ハルヤ「水を嫌っていたことは?」
スイ、ハルヤの方を向く
スイ「水?」
ハルヤ「案外幽霊には水を嫌うものが多いんじゃよ。」
ハルヤ「恐らくただでさえ薄い存在が水によって希釈されるのを幽霊が嫌うからじゃ」
スイ、黙ってうつむいて考え込む
記憶がフラッシュバックする
夜明け前に帰ろうとするレン
 雨が嫌いだといったレン
雨の日に来なかったレン
川の近くで花火をやりたらがらなかったレン
スイナレ「いや、そんなわけ、、」
ハルヤ「もしな、そやつがそうであれば」
スイ、ハルヤを見る
ハルヤ「絶対にそやつと口付けをしてはいかんぞ」
スイ、眉をひそめる
スイ「なんでですか?」
ハルヤ「ヨモツヘグイって聞いた事あるかの?」
スイ「黄泉のものを食べると現世に戻って来られなくなるっていうやつですよね」
ハルヤ「そうじゃ」
スイ「さっきの話が出たのも幽霊も黄泉のものだからですか?」
ハルヤ「うむ。だからこのような言い伝えがあるのじゃ」
ハルヤ「黄泉のものと口付けをすれば生気を吸い取られてこっちへ戻ってこられなくなる」
昔、言い伝えの話をされたことを思い出すスイ
スイナレ「そういえばそんな言い伝えの話されたっけ…」
ハルヤ「あちら側に人を引き込みたい幽霊はいくらでもいるからの。気をつけるんじゃぞ」
スイ、家の扉に手をかける
スイ「分かりました」
ハルヤ、スイを通り越して歩いていく
ハルヤ「じゃあの」
スイ「はい。さよならー」
スイ、ハルヤを見えなくなるまで目で追う
ハルヤは少し行った所で道を曲がる
スイ「幽霊ねぇ」
スイ、扉を開ける
少し上を向いて考える
スイ「うん、ないな」
スイ、家の中に入る
閉まる扉

○スイの家の中

散らばっている紙や本
スイ、落ちている紙を一枚拾い上げる
黒く塗りつぶされて何がかいてあるかは見えない
スイ、ため息を吐いた後に紙をビリビリに破く
スイ、部屋のカーテンを開ける
昇る朝日
スイ「…綺麗だ」
ベッドに入るスイ
ゆっくりフェードアウト
スイナレ「優れた表現者は欠陥品でなくてはならない、というのはうちの親父の持論だった」
暗転

○スイの家 スイ小学生時代の回想

スイ、家に帰ってくる
スイ「ただいま」
スイ、父の部屋まで歩く
スイナレ「あいつは世に認めてもらえずき捨てられ」
スイ「お父さんただい」
スイ、父の書斎の扉を開ける
首を吊っている父親
部屋には散乱している原稿用紙
スイ、体の力が抜けてゆっくりとその場に座り込む
スイナレ「その上俺たちを置いてこの世から逃げた、最低な父親だ。大嫌いだ」
スイ、呆けた表情
スイナレ「でも、何故か俺は、醜いことに」
スイナレ「あの馬鹿野郎がしていた創作という行為は大好きだった、父が死ぬ前も死んでからも浴びるように綴り続けた」
スイ、その表情のまま涙をポロポロとこぼす
スイナレ「そして、何故かあいつが繰り返し教えてくれた持論は」
スイの後ろ姿からフェードアウト
スイナレ「今も頭にこびりついて離れない」
暗転
スイナレ「あいつの血が俺に混じっていると思うと吐き気がする」
スイナレ「俺は、いつまでたっても大人になれない欠陥品の俺を、もうこの世界で生かしておきたくはない」

○スイの家 明朝

玄関のチャイムが鳴る
びくっとしてベッドから飛び起きるス     イ
急いでスマホを確認する
スマホは朝四時を示している
レン「…丸一日寝たのか」
インターホンを見に行く
レンが映っている
スイ「レンだ」
インターホンの通話ボタンを押す
スイ「どうしたんすか」
レン、スイの免許証をピラピラと見せる
スイ「え」
急いで財布を確認するスイ
スイ「…ない」
スイ、家の扉を開ける
スイ「あの、どこで見つけたんすか」
レン「昨日花火した公園」
スイ「すいません本当に」
レン「免許証見たら家も近かったし、届けに来たの」
スイ「ありがとうございます」
レン、微笑む
レン「じゃあ花火のやつとは別に一つ要求しようかな」
スイ「…なんですか?」
レン「君、前に小説書いてるとか言ってたじゃん」
スイ、顔を引きつらせる
スイ「まさか」
レン「見せてよ君が書いたやつ」
スイ「絶対嫌っす」
レン、免許証をスっと後ろに隠す
レン「じゃあこれは渡せないな」
スイ、数秒見つめため息をつく
スイ「分かりました」
スイ、家の扉に手をかける
スイナレ「この時、俺は」
スイ、扉を開ける
スイナレ「この人になら作品を理解してもらえるのかもしれないという」
スイ、レン家の中に入る
スイナレ「淡い期待もあったのかもしれない」
閉まる扉

○スイの部屋の中

散乱している原稿用紙
スイの部屋の前で中を見渡すレン
レン「すごいね、これ、全部?」
スイ、落ちている原稿用紙を踏みしめて中に入る
レン、落ちている原稿用紙をどけながらついていく
ベッドの上に座るスイ
スイ「これ全部なんでどれでも読んで下さい」
レン「分かった」
スイナレ「俺は他の人に自分の作品を理解して貰えるとは思ってない」
スイナレ「だからせめて」
落ちている紙を一枚拾い上げるレン
画面が真っ暗になり、白い手書き文字で「笑わないで」「傷つけないで」
スイ、ベッドから立ち上がってレンに近づく
スイ「どうですか?」
心臓の鼓動音
レン、考え込む
早くなる鼓動音
レン「うーん」
もっと早くなる鼓動音
顔を引き攣らせてスイの方を見るレン
レンの口が動くが鼓動音でセリフは聞こえない
スイ「そう、、ですか」
スイ、突っ立ったまま涙が溢れ出る
レン、それを見て少し驚く
レン、スイの涙を袖で拭う
レン「今、花火のお願い言ってもいい?」
スイナレ「この時、俺はショックで頭がひどく混濁していたのを覚えている」
こくりと頷くスイ
レン「キスして。私と」
スイ、突然ハルヤの言葉が頭を駆け巡る
返事を待たずにキスしようとするレン
レンをドンッと押して拒絶する
驚いた表情のレン
レン「…ごめん」
スイ「帰ってくれ」
レン「ごめ」
スイ「帰ってくれ!!!!」
ビクッとして急いで家を出ていくレン
それを突っ立ったまま見送り、静かに座り込んで頭を抱えるスイ
そのままフェードアウト
暗転
スイナレ「ここから1ヶ月、俺は彼女に会うことはなかった。昼はもちろん、夜も」

○スイの部屋

スイ、ベッドで眠っている
玄関のチャイムがなる
飛び起きて画面を確認せずに一直線にドアに駆け寄り期待に満ちた表情で開けるスイ
立っているハルヤ
ハルヤ「よぉ」
露骨にがっかりした表情のスイ
ハルヤ「お前さん露骨にがっかりしたの」
スイ「…いや、そんなことは」
にっこりと笑うハルヤ
ハルヤ「お主、案外分かりやすいのー」
黙り込むスイ
ハルヤ「レンちゃんとでも」
驚いた表情でハルヤを見るスイ
ハルヤ「間違えたのかの?」
スイ「なんでその名前を…」
ハルヤ「うちに来なさい」
歩き出すハルヤ
黙ってついていくスイ

○ハルヤの家

ドアがあく
ハルヤ入ってくる
ハルヤ「どうぞ」
スイ、入ってくる
スイ「…お邪魔します」
玄関の端にはシューズケース兼戸棚がある
戸棚の上には古い写真、砂時計、小さな人形などが飾ってある
写真をまじまじと見るスイ
徐々にスイの目が見開く
スイ「これって」
若い頃のおじいさんとレンが写っている写真
レンはスイと会う時にいつも身につけていた白いワンピースを着ている
スイナレ「すぐに分かった。彼女が誰なのか」
スイ「…これ、レンですよね」
ハルヤ「…そうじゃ」
ハルヤ、写真を見る
ハルヤ「あの子はワシの娘じゃ」
スイ「え」
ハルヤ「じゃが、あの子が十六の時に行方不明になっておる」
スイ「え!?」
スイ「じゃあ、あの子は…?」
ハルヤ「わからん」
ハルヤ「でも儂はあの子を見間違えるはずがない」

○ハルヤ回想 明朝四時頃
歩いているハルヤ
白いワンピースを着て歩いているレン
曲がり角ですれ違う
目を見開き驚くハルヤ
ハルヤナレ「じゃから明朝に出会って驚いた」
ハルヤ、振り返る
歩いていくレン
ハルヤ「でも結局声をかけるタイミングもなくての」
ハルヤ、向き直って歩き出す

○ハルヤの家

ハルヤ「でもそれ以来、探してみたが会うことはなかったんじゃ」
スイ「そうだったんですか」
少し沈黙
ハルヤ「もう、あの子とは会わないのかの?」
スイ、苦笑い
スイ「もう、多分会えないですよ」
スイ「多分、俺は彼女に嫌われてしまったから」
ハルヤ「じゃあ謝ればいいんじゃないかの?」
スイ「…行動を起こした結果、傷つきたくない」
ハルヤ「結果、どうなるかは分からないのに?」
黙るスイ
ハルヤ「恐らくお主はいろんなものを諦めて生きてきた」
ハルヤ「そうするのは楽かもしれんが、何も変わらないぞ」
スイ「…分かりました」
昇る朝日
ハルヤの家の窓から朝日が差し込む
ハルヤ、窓の方を見る
ハルヤ「夜明けじゃの」
スイ、窓の方を見る
スイ「そうですね」
ハルヤ「…行くか?」
スイ「はい、行ってきます」
勢いよくハルヤの家を飛び出すスイ
それを見送り、写真を再度眺めるハルヤ
ハルヤ、写真を抱きしめる

○道 夜明け

朝露で濡れる木々
たくさんある水溜まり
スイ、走っている
スイナレ「昨日、雨が降っていたのか」
スイ、水溜まりを踏みつけても気にせず走る
スイナレ「でも、そんなことはどうでもいい」
びしょびしょのスイの靴
息が上がるスイ
スイナレ「神様、許してくれるなら」
朝日を眩しがって手で隠しながら走るスイ
滴る汗
スイ「俺に、もう一度だけ」

○橋の上 夜明け

橋についたスイ
立ち止まって両膝に手を置いて俯き、息が上がっているスイ
スイ「はぁ、はぁ」
スイ、顔をあげる
誰もいない橋
スイ、苦笑い
スイ「そりゃあそうか」
橋の中央までゆっくりと歩いていくスイ
川の流れを少し眺める
スイ「よっと」
橋の柵の上にのる
川に映った自分の顔をぼうっと眺めるスイ
レン「死ぬの?」
スイ、目を見開いて驚いた顔→微笑み
レン「もったいないと思うけどなぁ」
スイ「欠陥品は生きてちゃいけないんだよ」
レン「そんなことないと思うけど?」
スイ、振り返ってレンを見る
柵の下にいるレン
スイ「そうすか?」
頷くレン
レン「うん」
レン、微笑む
レン「欠けてるからこその美しさだって存在するでしょう?」
スイ、微笑む
スイ「…最後にもう一ついいですか?」
レン「なに?」
後ろ向きに倒れて川に落ちようとするスイ
それを阻止しようとして阻止しきれず抱き合ったまま一緒に川に落ちるスイとレン
  水中で二人抱き合う
二人、キスをする
  二人、川から顔を出す
スイ「はぁっ」
レン「プハッ」
  前髪をかき上げるスイ
スイとレン、岸に泳ぎ着く
 二人、ゆっくりと岸にあがる
二人、河原に腰を下ろす
ハァハァと息を切らす二人
スイ「泳げるんじゃないですか」
レン「あはは、嵌められちゃったね」
朝日が二人の顔を照らす
レン「ねぇ、スイ君」
スイ「はい?」
レン「こんな言い伝えを知ってる?」
レン「朝日と共に想い人と口付けをすると、幽霊はこちら側に戻ってくることが出来る」
驚いた表情のスイ
それを見て微笑むレン
スイナレ「そうだった」

○通学路 スイ小学生時代

一番最初のシーンの続き
スイの友2の口だけが動く
目を見開いて驚くスイ
スイナレ「俺が聞いた言い伝えはこれだ」

○河原 夜明け

スイ「今、たった今思い出しました。その言い伝え」
レン「それはよかった」
レン、立ち上がる
朝日をバックにスイの正面に立つ
レン「ねぇスイ君」
スイ「はい」
レン、微笑む
レン「もう一生、一緒に私達は欠陥品でいようよ」
スイ、立ち上がる
スイ「それも存外」
スイ、レンの手をとって微笑む
スイ「悪くないかもしれないですね」
二人、手を繋いで朝日を眺める
白い手書き文字でタイトル
「大人になれない僕達へ」

大人になれない僕たちへ


【登場人物】
スイ(23)…男
レン(?)…女
ハルヤ(75)…男
スイの友1…男
スイの友2…男 
〇通学路
  蝉が鳴いている
  たくさんの小学生がランドセルを背負って下校している
  小学生のスイが二人の友達と共に談笑しながら歩道を横並びに歩いている
  スイ、落ちている蝉の死骸を踏みつける
  バリバリと音をたてて粉々になる蝉
  それを気にもせず談笑を続けるスイ
スイの友1「暑いなあ」
スイ「そうだね」
スイの友2「もっと涼しげな話しようぜ」
スイ「例えば?」
  スイの友1、にやけながらスイの方を向く
スイの友1「幽霊とか?」
スイ「あー。僕そういうの信じてないんだよね」
スイの友2「ちぇっ。つまんねえの」
スイ「それならなんか狼男とかの方がありえそうじゃない?」
スイの友1「吸血鬼とか?」
スイ「そうそう」
スイの友2「そこの違いはなんなんだよ」
   少しの間
スイ「幽霊ってさっき言った化け物達と違ってちゃんと死んでるじゃん?」
スイ「僕は死んだあとの続きなんてないと思ってるから」
スイの友1「ふーん。変なの」
スイ「てかするんじゃなかったの。怖い話」
スイの友2「俺は怖い話なんて一つも知らないぜ」
スイ「なんで?」
スイの友2「だって話すためには怖い話聞かなきゃいけないじゃん」
スイ「要するに怖がってるんじゃん」
スイの友2「そ、そんなことねえし」
   スイの友2、顔を真っ赤にして地団駄を踏みながら歩く
スイの友1「あ、こわいんだ」
スイの友2「まあ、俺怖い話は知らねえけど、とっておきの言い伝えは知ってるもんね」
   スイ、不思議そうにスイの友2の顔を見る
スイ「言い伝え?」
スイの友2「おうよ。じーちゃんから教わったんだ」
スイの友1「なんだよそれ。聞かせろよ」
スイの友2「いいか。実はな

〇スイの部屋 夜
  本や紙が床や机に散乱している
  スイ、ベッドに寝転がっている
  スイ、もぞもぞと動き出し、むくり
  と体を起こす
スイ「夢か」
  自分の横に置いてあったスマホを確   認する
   スマホのホーム画面は睡蓮の写真
   スマホの時計は午前二時半を示している
   スイ、ベッド横のカーテンをあけて窓の外を見る
   外は真っ暗
スイ「そりゃそうか」
   ベッドからゆっくりと出てクローゼットまで歩こうとする
   そこまでの道で落ちてある紙に足をとられて滑って頭を机にぶつける
   頭を抱えるスイ
スイ「いっっったぁ」
   頭をさすりながらクローゼットをあけて着替え始める
   白のカッターシャツに茶色のダボっとした柄パンを着て部屋を出る

〇スイの家の前
   玄関から出てくるスイ
   鍵を閉めたあと、そのまま家を見上げる
   二階建ての一軒家
スイ「改めて俺一人にしては豪華すぎるな」
   外の方に向き直り、歩き出しながら煙草を取り出してライターに火をつける
スイ「叔父さんには感謝しなきゃな」
   そのまま歩いて道に出る

〇川沿いの道
   人っ子一人いない川沿いの道を煙草を吸いながら無言で歩くスイ
   虫が寄っている街灯、自販機
   スイ、それを横目に煙草の煙を吐く
   ふと橋を見つけるスイ
   スイ、そちらの方に曲がる
   橋の中央あたりまで歩いてくる
   スイ、立ち止まる
   橋の下の川をのぞき込むスイ
   少しして上をむいてため息をつく
   自分で吐いた煙をぼうっと見つめる
   橋の柵の上にのぼり、その上に立つ
スイ「よっと」
   煙草をくわえたまま、ポケットに手をいれて川の流れをぼうっと見るスイ
レン「死ぬの?」
   目を見開いて驚くスイ
   スイ、ゆっくり体ごと振り返る
   柵の下に立っているレン
   レン、白のワンピースを着ている
   レン、微笑む
レン「もったいないと思うけどなあ」
   スイ、微笑む
スイ「欠陥品は生きてちゃいけないんだよ」
レン「それは君自身の考え?」
  少しの間
スイ「そうだよ」
  スイ、次の台詞を柵からレンの方に飛び降りながらいう
スイ「そんなのどうだっていいだろ?」
   スイ、レンの方を向く
スイ「てか、こんな時間にあんたは何をしてんだよ」
レン「散歩かな」
スイ「夜中の三時に?」
レン「夜中の三時に」
スイ「…そっすか」
レン「まぁそんなのどうだっていいじゃないか」
  スイ、だまって煙草の煙を吐く
スイ「こんな夜中に女性一人は危ないっすよ」
  レン、微笑む
レン「おや、心配してくれるのかい?」
スイ「まあ、そりゃ」
レン「ほっといたら死にそうな君には言われたくないな」
   レン、スイと反対方向に向き直る
レン「またね。いい夢見るんだぞ」
   レン、後ろ向きのまま手だけ振る
   黙ってそれを見送るスイ
   橋の柵に煙草を押し付けて川に捨てるスイ
スイ「帰るか」
   レンと逆方向から帰るスイ

〇橋の上 真夜中
  レンと出会った橋の中央で柵に肘をついて一人お酒を飲んでいるスイ
  スイ、柄シャツにジーパンをはき、ジーパンにはチェーンをジャラジャラにつけている
  夜風でスイの前髪が揺れている
レン「あれ、また会ったね」
  スイ、レンの方を向く
  お酒を飲みながらレンに軽く会釈
スイ「どうも」
  レン、初めて会った日と同じワンピースを着ている
   レン、軽く手を振る
  レン、スイの横に来て柵に肘をついて腕を組む
  スイとレン、互いの顔は見ずに二人で川の方を向いて話す
レン「君はさ」
スイ「はい」
レン「名前、なんていうの?」
スイ「…スイ。あなたは?」
  スイ、お酒を一口飲む
レン「レンだよ」
  スイ、飲んでいる途中で手を止め、口を離す
  スイ、レンの方を見る
スイ「男みてぇな名前っすね」
  レン、スイの方を向いて微笑む
レン「うん。よく言われる」
レン「ねぇ少年」
スイ「はい」
レン「公園行かない?」
スイ「公園?いいですけど?」
   二人、歩き出す
レン「夜の公園の雰囲気、好きなんだよね」
スイ「昼と全然違いますもんね」
レン「お、わかってるねぇ」
  スイ、お酒を飲み干す
スイ「まぁ、俺もよく行くんで」
レン「君、ベンチじゃなくわざわざブランコとかに座るタイプでしょ」
  少しの間
スイ「…なんでわかったんですか」
レン「なんとなく」
スイ「一人で煙草吸ったりはしてますけど」
レン「わざわざブランコで?」
スイ「はい」
レン「おもしろいね、君」
スイ「そりゃどうも」
  二人、公園に到着する
  スイ、ベンチまで歩いてきて空になったお酒の缶をおく
  レン、その後ろからにやけながら聞く
レン「ブランコ、今日は乗らなくていいの?」
   スイ、微笑む
スイ「今日はいいです」
レン「じゃあ、代わりに私が」
  レン、ブランコの方まで走っていく
  スイ、その光景を眺めている
  レン、ブランコにのって立ちこぎを始める
スイ、ゆっくりとレンの方へ歩いて いき、ブランコの柵を乗り越える
  レンの乗っているブランコの正面の
  柵にもたれかかる
  ブランコを激しくこぐレン
レン「危ないよ」
  レンを真顔のまま目で追うスイ
スイ「もうちょっとで見えそうなんすよ」
   表情を変えずに棒読みに言うレン
レン「スイ君さいあくー」
  レン、ブランコに座る
  スイ、煙草を取り出し火をつける
レン「煙草だなんて、大人だねぇ」
   スイ、煙草の煙を吐いて微笑む
スイ「外側だけですよ」
レン「と、いうと?」
   スイ、うつむく
スイ「俺はね、不器用な子供のままでいたいんです」
  スイ、煙草を横におろす
スイ「俺は、いろいろなことを諦めて器用に折り合いをつけるのが上手い、大人という生き物が大嫌いなんですよ」
スイ「…でも、いつかはならなきゃいけないんですよね」
   吸い終わった煙草を捨て、新しく火をつける
スイ「でないと社会不適合者の烙印を押されてしまうから」
黙ってブランコをこいでいるレン
   スイ、レンの方を見て苦笑い
スイ「すいません、こんな話して」
  レン、黙ってブランコをこぐのをやめてスイの方へくる
  レン、手をスイの方にさしだす
レン「ちょうだい」
   スイ、驚いた顔
スイ「あ、煙草を、ですか?」
レン「うん」
   スイ、煙草を口にくわえる
   スイ、ポケットから煙草を取り出す
   煙草のふたをあけ、一本とりだす
スイ「はい」
   スイ、レンに煙草を一本わたす
レン「ありがとう」
   スイ、両手をポケットに突っ込んでライターを探す
スイ「えーと、火は」
レン「あぁ、いいよ」
  スイ、レンをきょとんとした顔で見る
  レン、スイにシガーキス
  レンの煙草に火が付く
  レン、スイを見て笑う
レン「君からもらうから」
スイ「…そうすか」
   レン、煙草の煙を吐く
レン「さっきの話だけどさ」
  スイ、黙ってレンを見つめる
レン「君が、羨ましいよ」
スイ「羨ましい?」
レン「うん。私はもう」
  煙草の煙を吐くレン
レン「とっくに諦めてしまったから」
スイ「じゃあ、俺より大人ですね」
  レン、微笑む
レン「まぁね」
  暗転

スイナレ「俺たちは週に二、三回の頻度でそのあとも会い続けた」
  橋の上で会うスイとレン
  そのあと歩き出す二人
レン「そういえば、君趣味ってあるの?」
スイ「ちょっと小説かいたりしてます」
レン「えっすごい」
スイナレ「連絡先を交換したわけでもない」
  一緒にタバコを吸うスイとレン
レン「私は雨嫌いだなぁ」
スイ「なんでですか?」
レン「…だってジメジメしてるじゃん」
スイナレ「何日かに一回ふらっと出て、いたらしゃべるしこなけりゃ帰る」
  雨の中傘をさして一人で橋の上にたつスイ
  スマホを確認し、帰り始めるスイ
スイナレ「なんとなくの軽い関係だが」
  雨の中傘をさし一人歩くスイの後ろ
  姿
スイナレ「俺は彼女との真夜中のおしゃべりの時間を気に入っていた」
〇橋の上 夜

   橋の上で柵に肘を置いてタバコを吸うスイ
スイナレ「そうこうしているうちに彼女と出会ってから一か月がたった」
後ろからブラックコーヒーの缶を
スイの頬に当てるレン
レン「やほ」
ビクッとして振り返るスイ
レンのもう片方の手にはトマト
ュースの缶が握られている
スイ「っくりしたぁ〜」
スイに向かってブラックコーヒー
の缶を差し出すレン
レン「あげるよ」
受け取って無言で缶を見つめるスイ
レン、ニヤける
レン「もしかしてブラック苦手?」
スイ「…いや、でもおいしくいただくわ。
あざす。」
レン「よろしい」
スイ、缶を開けて飲む
顔をしかめるスイ
スイ「にっっが」
レン「…まだまだ子供だね」
スイ「その通りっすよ」
二人、歩き出す
レン「今日はさ、」
スイ「うん」
橋の下の川を写す
レン「花火しない?」
スイ「いつもの公園で?」
レン「うん」
スイ、橋の下を指さす
スイ「河川敷じゃダメなの?」
レン「私泳げないし水怖いからヤダ」
スイ「そっか」
スイ「てか、こんな時間にポンポン打ち上げたら通報されない?」
レン「こんな時間に打ち上げ花火するつもりでいたの?」
レン、線香花火を取り出す
レン「やるのはこれだよ」
スイ「あぁ…線香花火」
レン、思わず笑う
レン「露骨にテンション下がったね」
スイ「だって地味じゃん」
レン「君線香花火すぐ終わりそう」
スイ「うるさいですよ」

〇公園 夜
二人、公園につく
レン「じゃあ勝負する?」
適当な所で二人、しゃがむ
スイ「望むところっすよ」
レン、線香花火の袋を上手く開けられずスイに手渡す
レン「何か賭けようよ」
線香花火を開け、一本レンに手渡すスイ「負けた方が何でも言う事聞くと
か?」
レン、受け取りながらもう一方の手でライターを探す
レン「ベッタベタだね。いいよそれで」
スイ、ライターを取り出す
レン、ライターを取り出す
スイ「よし、俄然やる気出てきた」
二人、ライターの火をつけ線香花火に近づける
レン「よーい、どん」
線香花火に火がつく
しばらく見つめる二人
レン「ところでさ」
スイ、レンの方を見る
スイ「うん?」
レン「線香花火の一生に名前あるの知ってる?」
スイ、線香花火に目を落とす
スイ「…いや」
レン「最初は蕾」
次第に光の玉が大きくなっていく線
香花火
線香花火をじっと見つめるスイ
レン「次は牡丹」
花火が力強くはじけ始める
レン「その次が松葉」
勢いを増し、沢山の火花が飛び散る線香花火
スイの線香花火がポトリと落ちる
スイ「あっ」
レン、にやけながらスイを指さす
レン「あーあ」
レン「私の勝ちだね」
不服そうな顔をするスイ
スイ「…最後は?」
レン、口に手を当てて微笑む
レン「最後は散り菊」
少しずつ勢いが弱まる線香花火
レン「…もう終わるね」
スイ「綺麗っすね」
レン「そうだね」
綺麗に終わるレンの線香花火
スイ「俺」
レン、スイを見る
スイ「散り菊が一番好きだな」
レン、微笑む
レン「そっか」
レン、立ち上がる
レン「お願いは次回までに考えとくね」
スイ「あっ忘れてた。今とかじゃないんすね」
レン「うん。今は特に考えつかないや」
レン「今日はこんな具合にしとこうか」
スイ、立ち上がる
スイ「そうっすね。もう夜明け三十分前だ」
二人、公園の出口へ歩き出す
出口に着く二人
スイ「それじゃ」
レン「うん」
真反対方向へ歩き出す二人
スイ、レン「良い夢を」

〇スイの家の前 明朝

あくびをするスイ
ポケットに残りの線香花火が入って
たことに気づき、取り出して眺める
めんどくさそうに腕を降ろす
隣の家からハルヤが出てくる
スイ、会釈する
スイ「どうも」
スイナレ「確か、隣のじいさんだよな」
ハルヤ、笑顔で会釈
ハルヤ「どうも」
スイ「今から散歩ですか?」
ハルヤ「いかにも」
ハルヤ「お主は今帰りかの?」
スイ「そうっす」
ハルヤ「これと遊んできたのかの」
ハルヤ、小指を立ててニヤける
スイ、顔をひきつらせながら笑う
スイ「違いますよ」
ハルヤ「じゃあ、」
ハルヤの口元だけが映る
ハルヤ「幽霊にでも」
スイ、目を見開いて驚いた顔でハルヤを見る
ハルヤ微笑む
ハルヤ「会いに行っていたのかの?」
スイ「なんで、そう思うんですか?」
ハルヤ「草木も眠る丑三つ時じゃ。何が出てもおかしくないじゃろう?」
少しの間
スイ「俺、そういうの信じてないんで。では」
自分の家に入ろうとハルヤから背を向ける
ハルヤ「その子と昼に会ったことは?」
スイ、ピクリと止まる
ハルヤ「夜明けまで一緒にいたことは?」
スイ「ない、、ですけどそれはたまたまで」
ハルヤ「水を嫌っていたことは?」
スイ、ハルヤの方を向く
スイ「水?」
ハルヤ「案外幽霊には水を嫌うものが多いんじゃよ。」
ハルヤ「恐らくただでさえ薄い存在が水によって希釈されるのを幽霊が嫌うからじゃ」
スイ、黙ってうつむいて考え込む
記憶がフラッシュバックする
夜明け前に帰ろうとするレン
 雨が嫌いだといったレン
雨の日に来なかったレン
川の近くで花火をやりたらがらなかったレン
スイナレ「いや、そんなわけ、、」
ハルヤ「もしな、そやつがそうであれば」
スイ、ハルヤを見る
ハルヤ「絶対にそやつと口付けをしてはいかんぞ」
スイ、眉をひそめる
スイ「なんでですか?」
ハルヤ「ヨモツヘグイって聞いた事あるかの?」
スイ「黄泉のものを食べると現世に戻って来られなくなるっていうやつですよね」
ハルヤ「そうじゃ」
スイ「さっきの話が出たのも幽霊も黄泉のものだからですか?」
ハルヤ「うむ。だからこのような言い伝えがあるのじゃ」
ハルヤ「黄泉のものと口付けをすれば生気を吸い取られてこっちへ戻ってこられなくなる」
昔、言い伝えの話をされたことを思い出すスイ
スイナレ「そういえばそんな言い伝えの話されたっけ…」
ハルヤ「あちら側に人を引き込みたい幽霊はいくらでもいるからの。気をつけるんじゃぞ」
スイ、家の扉に手をかける
スイ「分かりました」
ハルヤ、スイを通り越して歩いていく
ハルヤ「じゃあの」
スイ「はい。さよならー」
スイ、ハルヤを見えなくなるまで目で追う
ハルヤは少し行った所で道を曲がる
スイ「幽霊ねぇ」
スイ、扉を開ける
少し上を向いて考える
スイ「うん、ないな」
スイ、家の中に入る
閉まる扉

○スイの家の中

散らばっている紙や本
スイ、落ちている紙を一枚拾い上げる
黒く塗りつぶされて何がかいてあるかは見えない
スイ、ため息を吐いた後に紙をビリビリに破く
スイ、部屋のカーテンを開ける
昇る朝日
スイ「…綺麗だ」
ベッドに入るスイ
ゆっくりフェードアウト
スイナレ「優れた表現者は欠陥品でなくてはならない、というのはうちの親父の持論だった」
暗転

○スイの家 スイ小学生時代の回想

スイ、家に帰ってくる
スイ「ただいま」
スイ、父の部屋まで歩く
スイナレ「あいつは世に認めてもらえずき捨てられ」
スイ「お父さんただい」
スイ、父の書斎の扉を開ける
首を吊っている父親
部屋には散乱している原稿用紙
スイ、体の力が抜けてゆっくりとその場に座り込む
スイナレ「その上俺たちを置いてこの世から逃げた、最低な父親だ。大嫌いだ」
スイ、呆けた表情
スイナレ「でも、何故か俺は、醜いことに」
スイナレ「あの馬鹿野郎がしていた創作という行為は大好きだった、父が死ぬ前も死んでからも浴びるように綴り続けた」
スイ、その表情のまま涙をポロポロとこぼす
スイナレ「そして、何故かあいつが繰り返し教えてくれた持論は」
スイの後ろ姿からフェードアウト
スイナレ「今も頭にこびりついて離れない」
暗転
スイナレ「あいつの血が俺に混じっていると思うと吐き気がする」
スイナレ「俺は、いつまでたっても大人になれない欠陥品の俺を、もうこの世界で生かしておきたくはない」

○スイの家 明朝

玄関のチャイムが鳴る
びくっとしてベッドから飛び起きるス     イ
急いでスマホを確認する
スマホは朝四時を示している
レン「…丸一日寝たのか」
インターホンを見に行く
レンが映っている
スイ「レンだ」
インターホンの通話ボタンを押す
スイ「どうしたんすか」
レン、スイの免許証をピラピラと見せる
スイ「え」
急いで財布を確認するスイ
スイ「…ない」
スイ、家の扉を開ける
スイ「あの、どこで見つけたんすか」
レン「昨日花火した公園」
スイ「すいません本当に」
レン「免許証見たら家も近かったし、届けに来たの」
スイ「ありがとうございます」
レン、微笑む
レン「じゃあ花火のやつとは別に一つ要求しようかな」
スイ「…なんですか?」
レン「君、前に小説書いてるとか言ってたじゃん」
スイ、顔を引きつらせる
スイ「まさか」
レン「見せてよ君が書いたやつ」
スイ「絶対嫌っす」
レン、免許証をスっと後ろに隠す
レン「じゃあこれは渡せないな」
スイ、数秒見つめため息をつく
スイ「分かりました」
スイ、家の扉に手をかける
スイナレ「この時、俺は」
スイ、扉を開ける
スイナレ「この人になら作品を理解してもらえるのかもしれないという」
スイ、レン家の中に入る
スイナレ「淡い期待もあったのかもしれない」
閉まる扉

○スイの部屋の中

散乱している原稿用紙
スイの部屋の前で中を見渡すレン
レン「すごいね、これ、全部?」
スイ、落ちている原稿用紙を踏みしめて中に入る
レン、落ちている原稿用紙をどけながらついていく
ベッドの上に座るスイ
スイ「これ全部なんでどれでも読んで下さい」
レン「分かった」
スイナレ「俺は他の人に自分の作品を理解して貰えるとは思ってない」
スイナレ「だからせめて」
落ちている紙を一枚拾い上げるレン
画面が真っ暗になり、白い手書き文字で「笑わないで」「傷つけないで」
スイ、ベッドから立ち上がってレンに近づく
スイ「どうですか?」
心臓の鼓動音
レン、考え込む
早くなる鼓動音
レン「うーん」
もっと早くなる鼓動音
顔を引き攣らせてスイの方を見るレン
レンの口が動くが鼓動音でセリフは聞こえない
スイ「そう、、ですか」
スイ、突っ立ったまま涙が溢れ出る
レン、それを見て少し驚く
レン、スイの涙を袖で拭う
レン「今、花火のお願い言ってもいい?」
スイナレ「この時、俺はショックで頭がひどく混濁していたのを覚えている」
こくりと頷くスイ
レン「キスして。私と」
スイ、突然ハルヤの言葉が頭を駆け巡る
返事を待たずにキスしようとするレン
レンをドンッと押して拒絶する
驚いた表情のレン
レン「…ごめん」
スイ「帰ってくれ」
レン「ごめ」
スイ「帰ってくれ!!!!」
ビクッとして急いで家を出ていくレン
それを突っ立ったまま見送り、静かに座り込んで頭を抱えるスイ
そのままフェードアウト
暗転
スイナレ「ここから1ヶ月、俺は彼女に会うことはなかった。昼はもちろん、夜も」

○スイの部屋

スイ、ベッドで眠っている
玄関のチャイムがなる
飛び起きて画面を確認せずに一直線にドアに駆け寄り期待に満ちた表情で開けるスイ
立っているハルヤ
ハルヤ「よぉ」
露骨にがっかりした表情のスイ
ハルヤ「お前さん露骨にがっかりしたの」
スイ「…いや、そんなことは」
にっこりと笑うハルヤ
ハルヤ「お主、案外分かりやすいのー」
黙り込むスイ
ハルヤ「レンちゃんとでも」
驚いた表情でハルヤを見るスイ
ハルヤ「間違えたのかの?」
スイ「なんでその名前を…」
ハルヤ「うちに来なさい」
歩き出すハルヤ
黙ってついていくスイ

○ハルヤの家

ドアがあく
ハルヤ入ってくる
ハルヤ「どうぞ」
スイ、入ってくる
スイ「…お邪魔します」
玄関の端にはシューズケース兼戸棚がある
戸棚の上には古い写真、砂時計、小さな人形などが飾ってある
写真をまじまじと見るスイ
徐々にスイの目が見開く
スイ「これって」
若い頃のおじいさんとレンが写っている写真
レンはスイと会う時にいつも身につけていた白いワンピースを着ている
スイナレ「すぐに分かった。彼女が誰なのか」
スイ「…これ、レンですよね」
ハルヤ「…そうじゃ」
ハルヤ、写真を見る
ハルヤ「あの子はワシの娘じゃ」
スイ「え」
ハルヤ「じゃが、あの子が十六の時に行方不明になっておる」
スイ「え!?」
スイ「じゃあ、あの子は…?」
ハルヤ「わからん」
ハルヤ「でも儂はあの子を見間違えるはずがない」

○ハルヤ回想 明朝四時頃
歩いているハルヤ
白いワンピースを着て歩いているレン
曲がり角ですれ違う
目を見開き驚くハルヤ
ハルヤナレ「じゃから明朝に出会って驚いた」
ハルヤ、振り返る
歩いていくレン
ハルヤ「でも結局声をかけるタイミングもなくての」
ハルヤ、向き直って歩き出す

○ハルヤの家

ハルヤ「でもそれ以来、探してみたが会うことはなかったんじゃ」
スイ「そうだったんですか」
少し沈黙
ハルヤ「もう、あの子とは会わないのかの?」
スイ、苦笑い
スイ「もう、多分会えないですよ」
スイ「多分、俺は彼女に嫌われてしまったから」
ハルヤ「じゃあ謝ればいいんじゃないかの?」
スイ「…行動を起こした結果、傷つきたくない」
ハルヤ「結果、どうなるかは分からないのに?」
黙るスイ
ハルヤ「恐らくお主はいろんなものを諦めて生きてきた」
ハルヤ「そうするのは楽かもしれんが、何も変わらないぞ」
スイ「…分かりました」
昇る朝日
ハルヤの家の窓から朝日が差し込む
ハルヤ、窓の方を見る
ハルヤ「夜明けじゃの」
スイ、窓の方を見る
スイ「そうですね」
ハルヤ「…行くか?」
スイ「はい、行ってきます」
勢いよくハルヤの家を飛び出すスイ
それを見送り、写真を再度眺めるハルヤ
ハルヤ、写真を抱きしめる

○道 夜明け

朝露で濡れる木々
たくさんある水溜まり
スイ、走っている
スイナレ「昨日、雨が降っていたのか」
スイ、水溜まりを踏みつけても気にせず走る
スイナレ「でも、そんなことはどうでもいい」
びしょびしょのスイの靴
息が上がるスイ
スイナレ「神様、許してくれるなら」
朝日を眩しがって手で隠しながら走るスイ
滴る汗
スイ「俺に、もう一度だけ」

○橋の上 夜明け

橋についたスイ
立ち止まって両膝に手を置いて俯き、息が上がっているスイ
スイ「はぁ、はぁ」
スイ、顔をあげる
誰もいない橋
スイ、苦笑い
スイ「そりゃあそうか」
橋の中央までゆっくりと歩いていくスイ
川の流れを少し眺める
スイ「よっと」
橋の柵の上にのる
川に映った自分の顔をぼうっと眺めるスイ
レン「死ぬの?」
スイ、目を見開いて驚いた顔→微笑み
レン「もったいないと思うけどなぁ」
スイ「欠陥品は生きてちゃいけないんだよ」
レン「そんなことないと思うけど?」
スイ、振り返ってレンを見る
柵の下にいるレン
スイ「そうすか?」
頷くレン
レン「うん」
レン、微笑む
レン「欠けてるからこその美しさだって存在するでしょう?」
スイ、微笑む
スイ「…最後にもう一ついいですか?」
レン「なに?」
後ろ向きに倒れて川に落ちようとするスイ
それを阻止しようとして阻止しきれず抱き合ったまま一緒に川に落ちるスイとレン
  水中で二人抱き合う
二人、キスをする
  二人、川から顔を出す
スイ「はぁっ」
レン「プハッ」
  前髪をかき上げるスイ
スイとレン、岸に泳ぎ着く
 二人、ゆっくりと岸にあがる
二人、河原に腰を下ろす
ハァハァと息を切らす二人
スイ「泳げるんじゃないですか」
レン「あはは、嵌められちゃったね」
朝日が二人の顔を照らす
レン「ねぇ、スイ君」
スイ「はい?」
レン「こんな言い伝えを知ってる?」
レン「朝日と共に想い人と口付けをすると、幽霊はこちら側に戻ってくることが出来る」
驚いた表情のスイ
それを見て微笑むレン
スイナレ「そうだった」

○通学路 スイ小学生時代

一番最初のシーンの続き
スイの友2の口だけが動く
目を見開いて驚くスイ
スイナレ「俺が聞いた言い伝えはこれだ」

○河原 夜明け

スイ「今、たった今思い出しました。その言い伝え」
レン「それはよかった」
レン、立ち上がる
朝日をバックにスイの正面に立つ
レン「ねぇスイ君」
スイ「はい」
レン、微笑む
レン「もう一生、一緒に私達は欠陥品でいようよ」
スイ、立ち上がる
スイ「それも存外」
スイ、レンの手をとって微笑む
スイ「悪くないかもしれないですね」
二人、手を繋いで朝日を眺める
白い手書き文字でタイトル
「大人になれない僕達へ」

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