登場人物
石川修太郎(40) サラリーマン
相沢琴美(32) 石川の恋人
石川凛子(42) 石川の姉
サンタ(?)
○お洒落なレストラン・店内(夜)
クリスマスソングが流れている。
窓際の席、膨れっ面の相沢琴美(32)がスマホを片手に座っている。石川修太郎(40)、
琴美を見つけて駆け寄って。
琴美「遅い!!」
石川「悪い。仕事が長引いちゃってさ」
琴美「仕事、仕事って。いっつもそればっか」
石川「仕方ないだろ?」
琴美「クリスマスくらい、一緒にいてくれたって良いじゃない!!」
石川「(大声で)知ってるだろ? 俺がクリスマス嫌いなこと」
琴美「宗教が違うとか、そんな理由じゃわからない!! ねぇ、お願いだから本当の理由教えて
よ?」
石川「別に一緒に過ごすのは、クリスマスじゃなくてもいいだろ? くだらない……」
琴美「もういい! もうこれ以上修ちゃんにはついていけないよ……」
石川「つまり別れよう、ってこと?」
琴美「ゴメン……」
立ち上がり荷物を持って立ち去る琴美。石川、ポケットからラッピングされた小さな箱を
取り出して見つめる。
石川「クソッ!!」
テーブルを叩く石川。
石川のN「クリスマスなんて大嫌いだ。ましてやサンタクロースなんて。この世に存在する訳が
ない」
○三ツ星企画・古びた倉庫
資料整理をしている石川。
石川のN「クリスマスは、街中の人々が大切な誰かと過ごしたがる。だから憂鬱だ」
作業中、誤って転倒する石川。その拍子にポケットから小さな箱が床に転がる。石川、小
さな箱を拾って。
石川「もう必要ないか……」
扉の横、「処分」と書かれた段ボール。その前に立ち、小さな箱を捨てようとする石川。
そこへ琴美、缶コーヒーを2本持ってきて。
琴美「修ちゃん。一息入れない?」
石川「おぅ。サンキュ」
慌てて小さい箱をポケットに戻す石川。缶コーヒー1本を差し出す琴美。それを受け取っ
て。
琴美「ねぇ、気にならないの? 元カノがずっと同じ職場で一緒に働いてること」
石川「別に。仕事と恋愛は分けてるから」
琴美「(呟き)何よ、それ……」
すると突然、琴美のスマホの着信音が鳴り出し、電話に出る琴美。
琴美「もしもし……? お、お姉さん?」
石川「あ、姉貴!?」
驚き顔を見合わせる石川と琴美。
○喫茶店・店内
紅茶を啜る石川凛子(42)。琴美、見渡して凛子を見つけ駆け寄る。
琴美「ご無沙汰してます」
凛子「久しぶり。ごめんね、突然呼び出して」
琴美「あの、渡したい物って……?」
凛子「ほら、だいぶ前に話した沖縄旅行のお土産。ずっと渡すの忘れてて」
と箱を琴美に手渡す凛子。
琴美、それを受け取り中身を見て。
琴美「わぁ~、可愛いグラス」
凛子「でしょ? それね、ペアグラス。修太郎と一緒に使って」
琴美「あの、お姉さん……」
凛子「ん? なに?」
琴美「別れたんです、私たち……」
凛子「えっ‼ いつ? どうして?」
琴美「去年のクリスマスに。修太郎さん、私との将来、どう考えてるのか不安になってしまっ
て……」
凛子「そう……。あちゃ~。アイツまた一個、傷作っちゃったか……」
琴美「それ、どういう意味ですか?」
凛子「実はね……」
首を傾げる琴美に神妙な顔で話す凛子。
○三ツ星企画・オフィス(夕)
腕時計を見つつ、誰もいないオフィスを行ったり来たりする石川。
石川「ったく! いつまで喋ってるんだよ」
ポケットに手を入れ、小さな箱を取り出し蓋を開ける石川。中にはキラリと光るダイヤの
指輪。
石川のN「5歳のクリスマス。両親が自殺した。借金苦だった」
石川、窓外の夕日を眺める。指輪を箱から取り出し、夕日にかざす。
石川のN「あの日、サンタが来るのを楽しみにしていた俺に、親父は言った」
石川、かざした指輪を見てフッと笑い。
石川「サンタクロースなんてこの世にいない。そうだよな、親父?」
石川、指輪を箱にしまって。
石川「今度こそ。本当にいらない……」
箱をゴミ箱に入れようとする石川。その瞬間、何者かに腕を掴まれ。
石川「何するんだよ!!」
振り向く石川。そこにはサンタクロースの格好をした細身で若い男性の姿。
石川「サンタクロース?」
石川、驚き指輪の箱を床に落とす。それを拾い、石川に優しく手渡すサンタ。
サンタ「(微笑み)メリークリスマス!! 頑張れ、修太郎!!」
微笑むサンタ、人差し指で鼻下を触る。
石川「その動作……? もしかして……?」
指輪の箱を一瞬見る石川。顔を上げるとそこにはもうサンタの姿はない。指輪の箱をギュ
ッと握りしめる石川。
石川「ありがとう、親父……」
○同・エントランス(夕)
入口の横には大きなクリスマスツリー。石川、入ってくる琴美を見つけて。
石川「琴美!!」
琴美「修ちゃん?」
石川、息を切らして琴美に駆け寄り。
石川「あのさ……」
琴美「お姉さんから全部聞いたよ。修ちゃんがクリスマスを嫌いになった理由」
石川「あぁ……」
琴美「ごめんね。私、修ちゃんに酷いこと言ってたんだね」
石川「いいって。それより琴美……」
琴美「私ね、やっぱり修ちゃんのこと……」
石川、話を遮り琴美を胸に抱き寄せて。
石川「もう離さない!」
琴美「えっ? 修ちゃん……?」
石川、ポケットから箱を取り出して蓋を開け、指輪を見せる。驚く琴美。
琴美「これ……」
石川「中々言い出せなくてごめん。ずっと両親のことが引っ掛かってた」
琴美「うん……」
石川「俺、一生家族はいらないって思ってきた。けど今は違う。だって琴美がいる。俺には琴美
の存在が必要なんだ」
琴美「修ちゃん……」
石川、箱から指輪を取り出し琴美の左手の薬指にはめる。目を潤ませる琴美。
石川「これからもずっと、一緒にいて欲しい」
琴美「大嫌いなクリスマスは?」
石川「琴美が望むなら、サンタにもなれる」
琴美「(微笑み)バカ……」
石川「相沢琴美さん。俺と結婚してください」
琴美「(笑顔で)はい。よろしくお願いします」
石川「よっしゃ!!」
ガッツポーズの石川。大粒の涙を流す琴美。石川、琴美を強く抱きしめて。
石川のN「今年のクリスマス。生まれて初めてサンタクロースからプレゼントをもらった。あり
がとう、愛しのサンタ」(END)
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